複雑・ファジー小説

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傘をさせない僕たちは
日時: 2019/10/30 13:29
名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)

はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!

【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。

@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.12 )
日時: 2018/07/17 01:03
名前: えびてん (ID: bAREWVSY)


#11 【 もっと知りたい 】


潮風が気持ちいい。
もうすぐ夏になる頃のこの温い気候が好きだ。

今日は遅くまで掃除をしていたせいで時間が遅くなり、辺りはもう薄暗くなっていた。

よくこの海岸で黄昏たりするけど、今日は暗くて怖いからやめておこうかな。

心春はそう思いながら海岸沿いをゆっくり歩く。






だけどやっぱり少し黄昏てから行こうかな。





心春の視線の先に、見覚えのある人物がいた。


彼は、階段に腰を下ろし絵を描いていた。

薄暗くても彼だということがすぐにわかった。



すると、彼が振り返った。
心春はハッとなり、言葉を失う。


彼は立ち上がり、心春の前まで来た。



「...藤井さん、ですよね」


彼はそう言って微笑んだ。
心春は「どうして名前...」と不思議そうに彼を見上げる。

彼は微笑みながら続ける。

「名札。藤井って書いてるでしょ?ちゃんと見てますよ、俺」


わたしは、彼の視界に入っていたんだ。


心春はそう思うと瞬時に胸が熱くなってきた。


「いつも美味しいミルクティー、ありがとうございます」


彼は笑顔でそう言う。

「え、あ、あ、ありがとうございます!」

心春は言葉を詰まらせながらそう言って頭を下げた。

彼は笑いながら「固すぎ」と心春を見る。


「てーか、高校生こんな時間までバイトあるんですね」


彼はそういいながら階段の方へ。
心春が見ていると、彼は手招きをした。
心春はゆっくりと歩き出し、彼の隣に座る。

「あ、あのわたし、高校生じゃないです」

心春が言うと、彼は「えっ」と驚いた顔で心春を見た。

「ちがうの?!」

「一応、22です...」

心春は恥ずかしそうに言った。
彼は笑いながら「そりゃびっくり」と心春を見た。

「てっきり学生かと思ってた。幼い顔してるからさ」

「そんな若くないですよ」

「なんだ、じゃあ話しかければ良かった」

言われ、心春はハッとした顔で彼を見た。
彼は少し焦ったように言う。

「あっ、いや、今のは変な意味じゃなくて...!藤井さん、俺のこと見てたでしょ?」

彼はいたずらに微笑む。
心春は頬を赤らめて「そんなことっ...!」と彼から視線を逸らす。

「高校生に話しかける変なおっさんとか思われたくなくてさ、ハハ。って、年下なことには変わりないけど」

「いくつなんですか?えっと...」

心春は彼の名前を知らないことに気がついた。
彼はそれを察したのか、微笑んで続ける。

「坂口椋って言います。26です」

坂口椋はそう言って心春に軽く会釈した。
心春も「あ、わ、わたし藤井心春って言います」と軽く会釈。

「心春ちゃんか」

「...坂口さん」

「そんな改まらなくていいよ」

「いやあでも...。そういえば坂口さんは、ここでなにを?」

心春が言うと、坂口はカバンから一冊のノートを出し、心春に渡した。

「俺画家でさ。って言っても講師してるくらいだけど。ここの海、きれいだろ?」

ノートを開くと、そこには言葉には言い表せないほど魅力的な絵が幾つもあった。

心春は「うわあ...」と言いながらひたすらノートのページをめくる。

「恥ずかしいからそんなに見ないでよ」

坂口は微笑みながら言う。

「すごい...すごい!」

心春はそう言って坂口を見た。

「坂口さんすごい!こんな素敵な絵を描けるなんて!」

「そ、そんなに褒められると照れるな」

坂口はそう言って頬をかいた。

「だって本当に素敵だもん!うわあ、すごい」

心春はそう言いながらまたページをめくった。


すると、突然風景画じゃなくなった。

そのページにいたのは、髪の長い美しい女性。
絵なのに写真のような鮮明なものだった。



「...この人は」



心春が言うと、坂口は「...俺の大切な...大切だった人」といって「もういいだろ」と微笑み、言いながら心春からノートを取り上げた。


「大切だった人...?」と心春。

心春は藤井そうに坂口を見た。
坂口は「うん」とだけ答えた。

「君にもいるでしょ、大切な人」

過去形?現在形?
そんなに関係ないのかな。

「...今はいないかな」



心春は小さく呟いた。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.13 )
日時: 2018/07/27 22:52
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)


#12 【 クズ 】


「は?!まだ付き合ってないの?!」


金曜日の21時、紗綾は茉里と駅前の飲み屋にいた。

紗綾の言葉に、茉里は悲しそうに頷いた。
紗綾は呆れたように言う。


「信っじらんない!なにその男?やることやっといて付き合わないとかまじありえない」


「...でも、蓮くんにも色々事情があるんだよきっと」


茉里はそう言ってビールを一口。
紗綾は枝豆を食べてから言う。


「事情ってどんな事情よ。手出してきといて連絡はよこさない、会いに来るのは自分の都合、約束すっぽかす、ありえないって」

「うーん...。でもあんまりしつこくして嫌われたくないし」

「茉里のそういう優しさがそのクズ男につけ込まれるの。本当、絶対もっといい男いるって」


紗綾はそこまで言ったところで、俯いてから「ってあたしも人のこと言えたもんじゃないか」とガクンとなった。


「...紗綾は、どうなの?今後」

「うーん、わかんない。ってか今後なんてあるのかすら......」

「でっでも、連絡は来るんでしょ?」

「...たまに。でも仕事の話がほとんど。新しい女できたのかな」

「...お互い、ろくな恋愛してないね、わたしたち...」

茉里もそう言ってガクンとなった。

「あーもーむかつく!あたしはやく結婚したいのに〜」

紗綾はそういいながらビールを口に流し込む。

「てか、その男の顔見たことない。かっこいいの?大学生だっけ?」

紗綾がそう言うと、茉里は「ああ」と言ってから携帯の画面を見せてきた。

画面には楽しそうに笑う茉里の姿と、隣でクールに微笑む金髪の若い男。

うわ、見るからにチャラい。

「これがその...?」と紗綾。

茉里はなぜだか嬉しそうに「うん」とうなずいた。


「うん、じゃないわよ。見るからにチャラいじゃん〜」

「チャラそうなのは見た目だけよ。中身は意外としっかりしてるの」

「セックスはするけど付き合わない男なのに?」

「あ、ちょ、やめてよ恥ずかしい」

茉里は頬を赤らめて言う。

「いや、ここ恥ずかしがるところじゃないからね?」と紗綾。

「だ、だって紗綾がそういうこというから...」

「だって事実でしょ...てか!照れてる場合じゃないから!それセフレでしょ!」

紗綾はムッとした表情で言う。
茉里は「...だ、だよね」と俯いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあまた〜」

酔っ払った紗綾は満面の笑みで茉里に手を振った。
茉里は心配そうに「本当に大丈夫?」と紗綾を見る。

「大丈夫大丈夫!家すぐそこだし!じゃまた連絡する〜」

紗綾はそう言って歩き出した。



「うええ気持ち悪い…」


紗綾は壁にもたれかかり、口を抑える。

その時、どこかで見たことあるような顔が。



反対側の歩道を歩く男女。

見たことのある金髪。



あれ、茉里の......。



気づいたらもう遅かった。



「ちょっとそこの金髪!」



声が出てしまっていた。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.14 )
日時: 2018/08/01 20:10
名前: えびてん (ID: cdCu00PP)


#13 【 大きなお世話 】




「ちょっとそこの金髪!」


ああ、まずい。
これじゃあたし、完全にお節介女だ。


「あんた...その...茉里に手出しておいてそんな...女とこんな時間までなにしてんのよ!」


だめ、だめだめだめ。
口が止まらない。


「...だれ?」


金髪はぼーっとした顔で紗綾を見て呟いた。
隣にいた女もポカンとしている。


「だれって...誰って...ま、茉里の友達よ!」


紗綾はそう言って金髪の前に立ちはだかった。


「あんたいくら大学生だからってそんな...いい加減なことしてんじゃないわよ」


紗綾が言うと、金髪は一度隣の女を見たあとに「...人違いじゃないですか?まり?誰ですか?」と淡々と答えた。


な、この男...!


「あんたね...!」


紗綾はそう言って金髪を見上げた。



その時。



ああだめ、意識がどんどん......。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目が覚めたとき、白い天井が見えた。

紗綾はがばっと起き上がり、「...茉里の部屋?」とつぶやく。

そこは紛れもない茉里の部屋だった。

携帯を見ると、茉里からのメッセージがあった。


『昨日は私のせいでごめんなさい。蓮くんから突然連絡が来て、茉里の友達が倒れたって聞きました。それで迎えに行ったら紗綾が倒れてました(笑)起きたらお粥、作っておいたから食べてから帰ってね、気をつけて』


ごめん、茉里。


やっぱりあの金髪が茉里の言ってるレンってやつだった。

だとしたら隣の女は...?


て、そんなことより今は茉里に謝らなきゃ。



『ごめん、わざわざ運んでくれてありがとう。余計なことしてごめんね』



茉里に送った。



するとその時、着信がきた。


【武田夏樹】と表示されたディスプレイが光っている。


「...もしもし」

紗綾が言うと、夏樹は声を荒らげて言う。


『姉ちゃん?!何してんだよ茉里ちゃんから聞いたぞ』


「...あー、ごめん。今から帰るとこ」


紗綾は頭を抑えながら言う。
そういえば二日酔いで頭が痛い。


「俺部活終わったら帰るから大人しくしてろよ!」

「はーい...」

そこで電話は切れた。

我が弟ながらしっかりしていて惚れそうだ。
そっか、今日は土曜か。

お粥食べて帰ろっと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おい休憩終わりだぞ、夏樹」


ちぇ、クラちゃんに見つかっちった。


「姉ちゃんを心配してる健気な弟にそんなこと言うかね」


夏樹はそう言いながら携帯をカバンの上に置いた。
クラちゃんは「ん?お姉さん何かあったのか?」と不思議そうに夏樹を見た。


「二日酔いだとさ」


夏樹はそう言ってバスケットボールを投げた。
クラちゃんはガクッとなる。

ボールは見事ゴールを通り、体育館の床を響かせて落ちた。


「なあ、夏樹」


クラちゃんに言われ、夏樹は「?」とクラちゃんを見た。


「今度の合宿のことだけど...」


クラちゃんはどこか言いづらそうに言った。


ああ、別にいいのに。
気を遣われると余計にきちー。


「うん」夏樹はそれだけ返事をした。


「...その、もし来れなさそうだったら俺が出してもいいんだからな、合宿費。お前もお姉さんも大変だろ」


クラちゃんは本当にいい先生だ。
イケメンで優しくて、こういうところにも気をつかってくれる。


夏樹は微笑むと「大きなお世話だよ」と言ってボールを投げた。


ボールはゴールの縁にあたり、ガタンと音をたてて床に落ちた。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.15 )
日時: 2018/08/09 21:41
名前: えびてん (ID: NGqJzUpF)


#14 【 一言 】


目が覚めたのは12時を過ぎた頃だった。


ああ、せっかくの休み勿体無いことしたな。
もっと早く起きて充実させれば良かった。
って、別にもう何もすることないか。


航平はそんなことを思いながら重い体を起こし、携帯を見た。


『ねえー今度いつ心春さん来る?!』


結以か。


『行く時連絡するよ』


そう返すと、航平はベッドに携帯を投げた。


何もする気が起きない。
ああ、こんな女々しいことばっかり考えてるから振られるんだな、俺。

心春と別れたことはまだ誰にも言っていなかった。
言いたくなかった。
というより、まだ認めたくないだけかも。

妹にまで嘘をついて、ほんとに情けないもんだ。





心春、何してるかな。





気づけば、さっき投げた携帯をまた手にしていた。


『久しぶり。元気?』


こんなどうでもいい内容、前の男からきても気持ち悪いだけだよなあ。

航平はわかっていながらも送信ボタンを押し、携帯を再び投げた。

心春はもう俺のことなんか忘れてるのかなあ。
…だめだめ、こういうこと考えてるのが女々しいんだっての、俺!

その時、通知が鳴った。

航平は瞬時に起き上がり、携帯を手にする。




……水原先生か。



『お休みの日にすみません。合宿のことで、少し聞きたいことがあるので時間のあるときに連絡してください』


文章から真面目さが伺えるほど堅い文章。


なんか、仕事の話する気にならねえな。



『水原先生お時間ありますか?』



返信した。
向こうが聞いているのに、は?と思われるだろうな。


『私は大丈夫です』


返信がきた。
もうめんどくさい。

航平はそう思い、水原茉里に電話をかけた。


『…もしもし』

水原茉里は少し驚いたように言った。

「あ、もしもし水原先生?今暇だったら飯でもどうです?合宿の話はそのあとで」

『いいですけど、どこで?』

「あー、とりあえず駅で会いましょ。じゃー13時はどうですか?」

『わかりました』


こんな会話で電話を終えた。

心春の返信を待つよりも同僚と美味しいものを食べた方がきっと楽しい、はず。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すいません、急に誘っちゃって」

駅で水原茉里に会うと、航平は申し訳なさそうに微笑んだ。

水原茉里は笑顔で「そんなことないです。暇していたので」と答えた。

「なら良かった。なに食べたいですか?」

「んー、私は特に…」

水原茉里が考え込む仕草をすると、航平は「ならあそこ行きましょうよ、水原先生が前に行ってみたいとか言ってた…パスタでしたっけ?」と微笑んだ。

「え、ああ、いいんですか?」

「俺は全然。じゃあ行きましょ、奢ります」

航平はそう言って歩き出した。
水原茉里は小走りで航平の隣まで来る。

「だ、大丈夫です、自分で出しますから」

「俺が誘ったんだし奢らせてください」

「…でも」

水原茉里はそこまで言ってから諦めたように「はい」と呟いた。




「にしても、水原先生は休日まで先生!って感じですね」


歩きながら航平が言う。
水原茉里は「え、そうですか?」と不思議そうな顔をする。


「ええ、かなり。なんていうか、真面目さが溢れ出してる」

航平はそう言って微笑んだ。


「はあ、そういうところがだめなのかな」


水原茉里がぼそっと呟く。
航平は振り返り、「え?」と聞き返した。


「あっいえ、その、プライベートまでくそ真面目でつまんないやつだなって思って」


「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないですよ!むしろ褒めてます!」


航平は焦りながら言う。


「いや、ほら、プライベートでも真面目なんてすごいなって!」


「つまらないだけですよ。浅倉先生も、学校とお変わりないですね」


水原茉里はそう言って微笑んだ。


「えっそうかな?学校にいるときは真面目にしてるつもりなんですけど」


「生徒にいじられてるイメージしかありませんよ」


「やめてくださいよ」


水原茉里とこんな会話をしたのは初めてだった。

よく見ると笑った時にでるエクボが可愛らしい。
色白で瞳が大きく、少女のような表情をしている。

「そ、そんなにじっと見ないでくださいよ」


水原茉里は恥ずかしそうに言った。
「あ、すいません」と航平は微笑む。


そのとき、通知音が鳴った。



『元気だよ。こーちゃんは元気?』



心春からだった。


違う女性とどんなに楽しく笑っていても、心春からのこの一言だけで胸が熱くなる。


いつ返事をしようか、なんて返そうか、心春はどう思ったか、なんて瞬時に考えた。





はあ、忘れられねーな。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.16 )
日時: 2018/08/20 21:12
名前: えびてん (ID: lU2b9h8R)

#15 【 触れちゃいけないところ 】


「浅倉先生?どうかしました?」


しまった。
心春のメッセージに夢中になりすぎて完全に水原茉里の存在を忘れていた。
自分から誘っておいてなんて失礼なことを。


「ああっいえ!何も!さ、行きましょ!」


航平はそう言って携帯をポケットに仕舞い歩き出した。







店で昼食を摂りながら、まずは本題。


「武田夏樹くんのことです」


水原茉里が話を始めた。

ああ、そのことか。


「浅倉先生が建て替えるのは構いませんが、夏樹くんが望んでのことなんですか?かえって気を遣わせちゃうんじゃないかなって」


仕事の話は本当にズバズバ言う人だ。

水原茉里に言われ、航平は「…でも夏樹だってバスケがしたいと思います」と答える。


「もちろん、夏樹くんはメンバーの中でも1番といっていいほど上手ですし、合宿も行きたいと思います。けど、浅倉先生に気を遣われるのは嫌だと思うんです」


わからない。
夏樹はいつも笑顔でしかいないもんだから、何を考えてるのかなんて。
本当は誰よりも苦しいはずだ。


「前もあったじゃないですか。部活費用の件で夏樹くんが浅倉先生に気を遣うなって言ったこと」


水原茉里は淡々と言った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ったく何度寝込めば気が済むんだよバカ」


夏樹はそう言いながらスポーツ飲料とゼリーを持ってきた。

紗綾はベッドで寝込みながら「ごめ〜ん」と夏樹に叫ぶ。


「俺は姉ちゃんの家政婦かよ。茉里ちゃんに迷惑かけんなよなー」


夏樹は言いながらベッドの脇にある椅子に腰を下ろした。


「本当申し訳ない…」紗綾はガクンとなる。


「茉里、なんか言ってた?」


紗綾が言うと、夏樹はため息をついてから答えた。


「まさか。むしろ紗綾大丈夫?って心配してるよ。ただの二日酔いから風邪引くとはね。茉里ちゃんは本当天使だな。こんなクソみたいな姉ちゃんと仲良くしてくれるなんて」

「うるさいなあ…!てかあんた、茉里ちゃんじゃなくて水原先生でしょーが」

「茉里ちゃんは茉里ちゃんなんだよ。はあ、茉里ちゃんに彼氏がいなかったらなあ〜」

夏樹の言葉に、紗綾は「え」と呟いた。
夏樹も「え」と紗綾を見る。

「え、なに」と夏樹。

「いや別に」と紗綾。

「いや嘘つけ」

「あ、いや、その、なんで茉里に彼氏がいるって…?」


あの金髪、彼氏ってことになってるのかな?


「なんでって、茉里ちゃん男と歩いてるのよく見かけるらしいし。俺は見たことねえけどさ」


「そうなんだ」


「そうなんだって、姉ちゃん友達なのに知らないの?」


「いやっ知ってるよ、そりゃ……て!茉里のことより夏樹はどうなのよ」


紗綾が話題を逸らすと、夏樹は途端に「は?!」と取り乱す。

こりゃなんかあったな。


「なんで俺の話になるんだよっ!」

「だってあんた最近彼女連れてこないからとうとうモテなくなったのかなって。それとも元カノたちにストライキでも起こされた?」

紗綾は不思議そうに言う。
夏樹は「なんでだよ、ちげえよ」と呆れた顔をする。









「あ、じゃあまなちゃんにとうとう彼氏ができたとか?」






紗綾がそう言うと、夏樹は凍りついたかのように真顔になった。

紗綾は「えっうっそ!まじ?」と驚いた表情で夏樹を見上げた。

「うっせー!今デリケートなとこなんだよ!しね!」

夏樹はそういうと立ち上がり、ムッとした表情で部屋を出ていった。



あちゃー。
うかうかしてたら誰かに取られたパターンかな?
てか、健人くんかな。

夏樹はよくまなちゃんと健人くんを家に連れてきていた。
他に連れてきた子と言えば今となっては元カノたちとか。

我が弟ながら可愛いもんだ。
なんやかんやで夏樹は何年も前からまなちゃんが好きだったからなあ。

さっさとアプローチすれば良かったのに。
1番近くにいたのは夏樹だったのに。


って、あたしも人のこと言える立場じゃないか。



と、その時携帯が鳴った。



『さや先輩!風邪って聞きましたけど大丈夫ですか?!』






井岡くんからだった。






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