複雑・ファジー小説

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傘をさせない僕たちは
日時: 2019/10/30 13:29
名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)

はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!

【 登場人物 】

@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。

@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。

@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。

@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。

@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。

Re: 傘をさせない僕たちは ( No.37 )
日時: 2019/09/17 19:58
名前: えびてん (ID: jV4BqHMK)




#36 【 単純なこと 】


彼女に出会ったのは2年前。
俺は大学を卒業してこの建築会社の営業に就職した。
大学を出て、高卒でも入れる営業課を希望したのは他でもない、彼女がいたからだった。

俺がまだ在学中、就活をしている時だった。
その時は俺は既に幾つか内定をもらっていて、あまりガイダンスに乗り気ではなかった。

それに当時の俺は、何となく大学に行けと言われたから大学に行き、何となく建築科を選び、何となくで学んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「初めまして、高島建築の武田です!今日は宜しくお願いします!」

彼女はとても元気で明るく、説明も分かりやすいものだった。

「なあ、ちょっと可愛くね?武田さんって人」

彼女が模造紙を準備している間、隣にいた友人に言われた。

言われ、彼女を見てみると大きな瞳に小さな鼻、薄くて少し赤が取れかかったピンク色の唇。
透明感のある白い肌と、綺麗な黒髪は妖艶なものだった。
地味な紺色のスーツを着ている割に、とても美しく見えた。



「・・・確かにな」

瞬はぼそっと呟いた。

「俺質問してこよっかな〜まあただ話したいだけだけどさーーー」

友人の声が耳に入ってこなかった。
なんだか分からないが見とれていたんだ。




ガイダンスが終わり、廊下を歩いていた時だった。

「あの」

声をかけられた。
瞬は振り返ると、ふいに目を見開いた。

そこに立っていたのは紛れもない、先程の彼女だった。

「え・・・あ、はい?」

瞬が不思議そうに言うと彼女、武田紗綾は微笑みながら瞬の財布を差し出した。

「落としましたよ」

瞬は「ありがとうございます」と言って紗綾の手から財布を受け取った。

「さっき、私の会社の説明聞いてくれてましたよね」

紗綾に言われ、瞬は財布を仕舞いながら「ああ、よく覚えてますね」と微笑んだ。
ガイダンスを受けていた生徒はかなりいた。
俺は前の方にいたとはいえ、よく分かったものだ。

紗綾は微笑んで答える。

「頷きながらメモとって真剣に聴いてくれてたからつい覚えちゃったみたい。聴いてくれてありがとうございます」

言われ、瞬は「・・・いえ、とても分かりやすい説明でした」と彼女を見た。

遠目で見た時は気づかなかった。
彼女の寝癖や、シャツの皺。
綺麗な容姿の中に崩れた印象があったことが何故だかより一層俺の心を掻き立てた。

「そんなとんでもない。もう緊張しちゃって」

紗綾はそう言いながら眉をひそめた。

「とても緊張してるようには見えなかったです。やっぱり社会人ってすごいですね、ははは」

瞬が言うと、紗綾は「ううん」と首を横に振った。

「私、多分あなたたちと歳はそんなに変わらないの。だから全然」

「通りで、お若い方だなと思いました」

「大学生のくせに褒め上手ね。あなたみたいな人にうちの会社の説明聴いてもらえて光栄だな〜。興味あったら是非受けてね。それじゃ」

紗綾はそう言うと瞬に手を振り、その場を後にした。
瞬は紗綾に会釈をすると、彼女の背中を見ていた。

すると、先程の友人が来た。

「なあなあ、あれさっきの人だよな?何話してたんだよ?」

言われるも、瞬は彼女の背中から目を離さずに答えた。

「・・・俺、あそこの会社にする」

「は?急にどうしたんだよ?」









今思えば一目惚れだったんだ、きっと。





何故かは分からない。

美人だから?いいや違う。
確かにそれもあるかも知れないが、初めての気持ちだった。

彼女がいるからという理由で会社を決めるなんて社会をナメている。
自分でもそう思った。

だけど人生の岐路に立たされた時、決めるのは自分だ。
単純なことなんだきっと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして春、俺は本当に彼女のいる会社、彼女のいる営業課に入社した。

入社初日、彼女を見た時あの時と同じ気持ちになった。

その日はより一層俺の気持ちを募らせた。
何故なら彼女は寝坊したのか、髪の毛はボサボサで1つに結い、化粧もしていない状態だった。

俺は大学で見たあの日の彼女を思い出した。
その日はあの日よりももっと、ずっと彼女らしさのようなものを感じた。

変わってるってよく言われる。
だけどこの気持ちは本物だ、と確信した。

俺の教育係は見事彼女だった。
大学の時のことを覚えていてくれたようで、志願してくれたのだ。



「今日からよろしくね、井岡瞬くん」

紗綾に言われ、瞬は「はい!」と元気よく答えた。
紗綾も「ようし!」と微笑んだ。

「でもどうして営業課に?大卒ならもっと他にいい部署行けただろうに。それに井岡くん、成績もトップみたいだし」






そんな質問答えるまでもないよ、先輩。



Re: 傘をさせない僕たちは ( No.38 )
日時: 2019/09/25 19:56
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)



#37 【 苛立ち 】



その日はバイトだった。
カフェのクローズの時間も迫り、夏樹は片付けをしていた。

その時、見覚えのある顔を見つけた。

若い女性の3人組。
全員見かけたことくらいはある顔だったが、その中によく知る顔が。
ココアを飲む彼女は、紛れもなく西原恵だった。
他の子たちはきっと恵のクラスの子だろう。

夏樹が彼女たちに視線を落としていると、その中の1人が気づいて手を振ってきた。

「あれ、武田くんじゃない?」

言われ、夏樹は咄嗟に笑顔を作り手を振りながら彼女たちのテーブルへ。

話しかけてきた子は確か、リエと言ったか。
全然仲良くはないが学年が一緒なら話しかけるのが無難か。

「夏樹くん!」

恵は嬉しそうに夏樹に手を振った。
夏樹は微笑みながら「よっ」と手を振った。

「武田くんここでバイトしてたんだぁ」

そう言ったのは確かマナミだった気がする。
やばい、西原以外フルネームが分からない。

「うん」

夏樹が答えると、リエは恵の方を見て言った。





「恵、武田くんと仲良いのに知らなかったのー?」




リエに言われ、恵は「え、ああ、うん・・・」と苦笑した。





「ええ〜てっきり知ってるのかと思った〜そんなに仲良くないんだね」



マナミが言った。





ーーーーん?
なんだこの空気。




「あはは、そうだよね、はは・・・」

恵はそう言ってココアを飲んだ。
夏樹は微笑んで言う。

「はは、そういえばバイトの話とかしたことねえしな」

夏樹が言うと、恵は「そうだね」と微笑み、夏樹を見上げた。

「へぇ〜そうなんだぁ〜」とリエ。

「えっと、なに、女子会?的な?」

夏樹が3人を見て言うと、マナミが「うんっ!そうなの!」と微笑んだ。

「そっか、いいね。じゃあ俺は戻らなきゃだからゆっくりして行ってね」

夏樹はそう言うと手を振った。

「がんばってね!夏樹くん!」

恵は満面の笑みで夏樹に手を振った。
彼女を見て夏樹はつい笑みが零れた。

「ありがと」

夏樹はそう言うとその場を後にし、片付けを再開した。

とは言え、店内はそう広くない。
店内には彼女たちと他に2組しか客がおらず、聞こうとしなくても会話が聞こえてくる。





「恵って武田くんのこと好きなの?」

リエが言った。

「あ、うん・・・まあ、相手にされてないんだけどね」

恵は恥ずかしそうに答えた。
勝手に聞いといて何だが俺が恥ずかしい。てか照れる。

「そうなんだぁ〜。確かにさっきも素っ気ない気がしたしねぇ、あはは」

マナミはそう言ってリエに笑いかけた。
リエも「んねー」と微笑み、恵は「はは、そうだよね・・・」と苦笑した。

「あたしこの間雨降った日武田くんに傘借りてさ、恵いれば良かったよねぇ〜」

マナミが言う。

そんな時あったか?

「まあでもさ、恵はいいよね。両親医者でさ、お金持ちだから家もすっごーいでかいし、お姉ちゃんは留学してるんだっけ?お兄ちゃんは東大に行ってて、恵も頭良いし顔が可愛いからって男子にチヤホヤされるし」

リエは微笑みながら言った。

「はは、そんなことないよ・・・」

恵は苦笑している。

「大丈夫だよ恵なら。だって顔だけは良いから武田くんじゃなくても男が寄ってくるって」

リエが続けた。






なんだよ、この会話。





「恵」

夏樹は再び彼女たちの元に歩み寄り、恵を見た。
恵たちは夏樹を見上げる。

「どうしたの?」

恵は不思議そうに夏樹を見る。

「さっき言い忘れてた〜、この間言ってた水族館いつ行く?まだ決めてなかったよな」

「え?」

恵は目をパチクリする。

「俺は来週の土曜がいいかなって思うんだけど恵は大丈夫?」

「あ、えっと、うん・・・?」

恵は同動揺しながら首を縦に下ろした。

「おっけー、すげー楽しみ」

夏樹が言うと、リエが夏樹を見て言った。

「武田くん、恵と約束してたんだ」

「ああ、まあね」

夏樹はそう言って微笑むとリエとマナミを見て言った。





「てかごめん、名前なんだっけ?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんかごめんな、余計なことしちゃって」

夏樹が言った。

バイト帰り、夏樹は恵と待ち合わせし2人で帰ることになった。

恵は笑顔で答える。

「ううん!余計なことなんかじゃないよ!ありがとう・・・ごめんねなんか」

「いや、何か俺が勝手にイライラしちゃって。こんなことしたらまたアイツらお前にああいうこと言うよな」

「ううん!そんなことないよ!夏樹くんはわたしのために言ってくれたんだもん!わたし嬉しいよ!」

「なら良いんだけどさ・・・学校でなんかあったら俺に言っていいから」

「うん!ありがとう」

「あいつら、仲良いの?」

夏樹は少し聞きづらそうにきいた。
恵は「・・・うん」と苦笑した。

「なんで?なんであんな、西原だけ・・・なんか、うまく言えないけどさ・・・!何か腹立つだろあんなの」

「うーん・・・なんて言うかわたし、下手なんだよね!その、友達作るのって難しくて。羨ましいなあ夏樹くんは。みんなと仲良くて!」

恵はそう言って微笑んだ。

「お前、気遣い過ぎだよ」

夏樹が言うと、恵は微笑む。

「そんなことないの!ただ、話してくれるのが嬉しくて、その・・・はは、なんて言ったらいいのかな!」

言われ、夏樹は足を止め恵を見る。

「無理に笑わなくていいから」

夏樹はそう言いながら恵の頬をつかんだ。
恵は「・・・夏樹くん」と夏樹を見上げた。

夏樹は手を離しため息をついた。

「別に俺に強がんなくていいって。そんな気遣わなくていいって。出会ってからそんな経ってないけど俺、西原の笑顔以外見たことなかったから今日すげー腹立った」

「夏樹くん・・・。だってわたし・・・夏樹くんのこと・・・好きだから・・・好きな人に・・・あんなとこ見られて・・・たすけてもらって・・・情けなくて・・・」

恵はそう言って泣き始めた。

好きとか、普通に言うなよな、今照れてる場合じゃないのに。

夏樹は焦ったように恵を見て言う。


「ああごめん!大丈夫大丈夫!そんなことないから!な!西原?!そんな、泣かないで!な!?」

「うんっ・・・ごめんっ・・・夏樹くんっごめん・・・」

恵は余計泣いてしまう。

「いいって!謝らなくていいから!泣かないで!・・・あんなの気にすんなって、大丈夫だから」

夏樹はそう言って恵の頭をポンポンと、ゆっくり撫でた。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.39 )
日時: 2019/09/29 15:26
名前: えびてん (ID: 8.dPcW9k)




#38 【 揺れ 】


公園に移動した2人は、しばらく立ち往生していた。
恵が泣き止むまでに何分かかったかは分からないが、辺りはもう暗くなっていた。

「大丈夫か?」

夏樹が言うと、恵は頷きながら「うん、ありがとう」と真っ赤な目で夏樹を見上げた。

「あんま無理すんなよ、泣きたい時は泣け泣け」

夏樹が笑い飛ばすように言った。

「ありがとう」

恵が言った時、夏樹の携帯が鳴った。

「あ、ごめん」

夏樹はそう言いながら携帯を出し、画面を見た。
画面には《姉ちゃん》と出ている。

「もしもし?」

『もしもし夏樹?もう9時だけどバイト終わったの?ごはんは?』

「あ、ごめんバイトは終わってるんだけど友達と会ってさ」

『友達?健人くん?』

「いや、高校の友達」

『そう。ごはんいるのー?あたし出掛けるから外で食べてきてもらった方が嬉しいんだけど』

「あ、おっけーわかった」

『よろしくね。じゃ気をつけてよー』

「はいはーい」

そこで通話は終わった。
「ごめんね」夏樹は恵にそう言って携帯をポケットにしまった。

「大丈夫?ごめんもう帰らなきゃだよね」

恵は申し訳なさそうに言った。
夏樹は「あ全然大丈夫!」と微笑む。

「てか西原は?大丈夫?時間」

「わたしは全然!夏樹くんと居れる時間は長い方が!!」

平然と言う恵に少し照れを抑えるように夏樹は彼女から目を逸らす。

「・・・じゃごはんは?」と夏樹。

「ごはん?」

恵は不思議そうに夏樹を見る。
夏樹は再び恵の方を見てから言う。

「大丈夫なら一緒に食べに行かない?」

「え!いいの?」

「西原がいいならだけど」

「わたしは全然!て言うか嬉しい!夏樹くんとごはん食べれるなんて絶対絶対何でも美味しいもん!」

「・・・まーたお前はそういう恥ずかしいこと普通に言う〜!」

夏樹は赤面しながら恵に言った。

「だって本当のことだもん!嬉しいのわたし!」

恵は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて夏樹に言った。




こんな笑顔向けられたら照れる。まじで。




ああ、せっかく恵の笑顔に揺れているのに、タイミングが悪い。
夏樹の携帯が鳴った。

『なっちゃん!花火大会何時に待ち合わせるー?』

まなからのメッセージだった。


西原と居るのに頭の中がまなでいっぱいになった。
どうしてだよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ほんとに俺が行ってるとこでいいの?ラーメンだよ?」

歩きながら、夏樹が聞いた。
恵は楽しそうに答える。

「うん!夏樹くんがいつも行ってるとこがいいの!それにわたしラーメン好きだよ!」

「なら良いんだけどさ。ほら、ここ」

夏樹はそう言って恵とラーメン屋に入った。



「いらっしゃーーーお!夏樹!」

中に入ると、店主の男が夏樹を見て微笑んだ。

「よーっ!久しぶり〜」

夏樹はそう言って手を挙げた。

「お知り合いなの?」と恵。

「うん。あの人俺の姉ちゃんの同級生でさ。太一さん」

夏樹はそう言って太一を指さした。

「どうもっ!てか夏樹!なんだこの超絶美少女は」

太一はうるさいリアクションをとりながら恵を見て言った。

「友達だよ」と夏樹。

「あ、だよな。こんな美少女が夏樹の彼女なわねえよな、ごめんごめん」

太一は安心したように言った。
夏樹は「おいっ」と太一を睨みつける。

「君、名前は?」

太一は恵を見て言う。
恵は「西原恵です」と微笑んだ。

「んん名前も可愛い!何で夏樹なんかと仲良くしてるんだか〜」

「うっせえなくそ」と夏樹。

恵は笑いながら言う。

「わたしが夏樹くんのこと好きで付け回してるみたいなものなんですよ。今日も夏樹くんが付き合ってくれてるだけなんです」

西原はなんでこんな素直なんだよ〜〜。

夏樹は思いながらまたも赤面してしまう。
太一は「ええええええ」と驚いた表情で夏樹を見て言った。

「こんな男の何がいいんだか・・・」

「うっせえなイケメンだろーがっ」と夏樹。

「紗綾ちゃんの弟だからな、顔だけはな。まあ紗綾ちゃんの方が整った顔してるけどな」

「いつまで姉ちゃんのこと引きずってんだよ」

「俺はいつまでても紗綾ちゃん一筋だよ!!」

「この間姉ちゃん、うちにイケメンな後輩さん連れてきたよ」

「は?!なんで?!彼氏?!」

「残念ながら彼氏じゃないみたいだけど。でもそのイケメンは姉ちゃんのこと好きっぽい」

「はああ?!どんくらいイケメンだった?俺より?」

「いや太一さんの100万倍はイケメン」

「おい!」

そんな会話を聞き、恵は横で微笑んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラーメンを食べ終え、夏樹は恵を家まで送ることに。

「え、家ここ・・・?!」

家を見るなり、夏樹は今にも目が飛び出しそうな表情で恵に言った。

恵の家はそれはもう大豪邸で、さすが両親が医者なだけある。
聞けば、近所にある西原総合病院というのが恵の父親が院長を務める病院だそうで。

「すっげえ家だな・・・」

あまりの豪邸に夏樹は言葉を失う。
恵は「夏樹くん」と夏樹を見た。

「ん?」

夏樹が恵を見ると、恵は笑顔で夏樹を見上げていた。

「夏樹くん、今日は本当にありがとう!美味しいラーメンも食べれて、何より夏樹くんと居れて楽しかった!」

やばい、すっげえ可愛い。

心臓がドクン、と鳴ったのが分かった。
だけど・・・。
まなのことを思い出してしまう。
ああもう、なんなんだよ俺。

それから恵と別れると、夏樹は1人足を進めた。

西原と付き合ったらこんな辛い気持ちにならなくて済むのかな。
何も諦めなくていいのかな。
ワガママでいいのかな。
着飾らなくていいのかな。

なんて、考えてしまう。
まなといると、楽しい反面辛くなる。
まなが健人のことばかり話すから。
邪魔をする気は無い。
だけどまなを忘れる為に西原を選ぶみたいで嫌だな、こんなの。

だけど、まなのことが好きな気持ちは変わっていないのに今日の西原の笑顔を見たら何だか、揺れるものがあった。
俺もあんな風に素直になれていたら、こうはなってなかったのかな。

そんなことを考えながら、夏樹は足を止めた。






視線の先には、ラブホテルから見知らぬ男と腕を組んで楽しそうに出てくる紗綾の姿があった。



Re: 傘をさせない僕たちは ( No.40 )
日時: 2019/10/08 08:47
名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)




#39 【 知りたくなかった 】



ん?誰だ?あの男。
いや、姉ちゃんがどこの誰と付き合おうが知ったこっちゃないけど、だけど・・・ちと年上過ぎないか??

紗綾の隣にいるのは恐らく40代くらいの男だった。
男はタクシー乗り場に向かいながら、紗綾にキスをした。

わっ、外でそんなことすんなよな・・・。
それにーーーーーー。




男に見覚えがあった。
夏樹が紗綾の会社にお弁当を届けに行った時のことだ。

あの男は姉ちゃんの上司・・・?
まさか姉ちゃんーーーーー。

夏樹は紗綾がタクシーに乗り走り出したのを見届けると、小走りで男の方へ。
男はカバンを手に歩き始めた。

良かった、きっと徒歩で帰るのだろう。
都合が良い。

夏樹は男の後ろを歩き、彼を追う。

しばらく歩いた頃、男は一軒家に足を踏み入れた。
中から光が漏れている。
つまり、1人ではないということ。
この家は男の実家なのか、それとも・・・。

嫌な思考が巡った。
そしてそれはただの予感ではなかった。

中から出てきたのは、男と同じくらいの年齢の女性。
そして、一緒に小さな男の子も出てきたのだった。
表札には《小宮山》とあった。

嫌な予感は当たるもんだ。
姉ちゃんは、不倫しているーーーー?

夏樹は「まじかよ・・・」と1人呟き、男が家の中に入って行くのを見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ただいま」

夏樹が家に帰ると、紗綾はもう既に家にいた。

「おかえり。遅かったね〜何してたの?」

紗綾はリビングで座り込み、鏡を見ながらイヤリングを外していた。

「友達とラーメン食べてきた。太一さんとこ」

「太一くんとこか〜!太一くん元気だったー?」

「うん。姉ちゃんに会いたがってた」

「はは、相変わらずだね」

見れば、いつもより髪の毛は綺麗に巻かれていて、だけど所々カールが潰れていた。
所々とれたファンデーションと、完全にリップの色ががなくなった唇。
そして上の服を脱いだ時に見えた、鎖骨の赤い跡。

間違いない。
姉ちゃんは今さっきあの男とーーーーー。
けどあの男は、姉ちゃんと別れたあと違う女の元へ。

そんなのって、ありかよ。

「・・・なによ、ジロジロ見て気持ち悪い」

紗綾は不審な表情を浮かべて夏樹を見た。
夏樹は「いや」と言って携帯の画面に目を落とした。

いやいや、変な詮索はやめよう。
相手は上司だ。姉ちゃんだってあの男に家族が居ることくらい知っているだろう。
となるとそれを知った上でーーーということになる。

夏樹はそう思いながらもう一度紗綾を見た。
紗綾は鏡を見てメイクを落としている。

やばい、姉弟でこんなこと知ってしまうとは・・・。
あー、こんなこと知りたくなかった。

「何、どうしたの?」

視線に気づいた紗綾は夏樹を見て目を細める。
夏樹は「なんでもないって!」と言って立ち上がり「風呂入ってくるわ」とその場を後にした。





ベッドに入り、携帯をいじっていたときだった。

『なっちゃん、今ちょっといい?』

まなからのメッセージだった。

『どうしたー?』とすぐに返信した。

『ちょっと相談があるんだよね』

『なに?』

『今からちょっと会えない?』




そんなこんなで、夏樹はスウェットのまま家を出ると、まなと近所の公園で待ち合わせた。

公園に入ると、まながベンチに座って待っていた。

「なっちゃん!ごめんねこんな時間に」

まなは立ち上がり、夏樹を見た。
夏樹は「大丈夫大丈夫」と言いながら微笑み、ベンチへ。

「で?どうしたの?」

夏樹が言うと、まなはモジモジしながら言った。

「・・・なっちゃんは、めぐみんとどう?」

なるほど、相当言いづらい話なのか。

「どうって、別に何も無いけど。強いて言えば今日一緒に飯行ったかな」

「おお!進展だね!」

まなは嬉しそうに言った。
なんか、きつい。

「・・・まなはさ、俺が西原のこと好きだと思ってんの?」

「あ、いや、そうじゃないけどね。ただ、めぐみんとってもいい子そうだからいいなって思ってるだけ」

「・・・そっか」

なんだよ、どう受け止めればいいんだよ。

「で?本題はそれじゃねえだろ。どうした?」

夏樹は微笑み、話題を変えた。
まなは再びモジモジしだし、言いづらそうに言った。










「・・・来週、花火大会でしょ?わたし・・・けんちゃんに告白しようかと思う」








ああ、これも知りたくなかったな。


Re: 傘をさせない僕たちは ( No.41 )
日時: 2019/10/15 19:47
名前: えびてん (ID: .tpzY.mD)




#40 【 嘘つき 】



まなに言われ、頭が痛くなった。

まなの言葉で、行動で一喜一憂していた自分に腹が立つ。
どうせ叶わないのに。
もっと早く俺が行動してればもしかしたらこんなことにはならなかったかも知れないのに。

最近、健人もりなとのことにケリをつけ、まなと向き合おうとしている。
それは俺から見ててもわかる。

焦りと不安、苛立ちが胸の中を支配した。



「・・・なっちゃん、どう思う?」

まなは不安気な表情で夏樹を見た。
夏樹はまた、笑顔を作り直した。

「・・・や、やっとか!ずっと告白しろって言ってたろ!いいじゃん!俺協力する!」

夏樹の言葉に、まなは微笑んだ。

「ほ、ほんと?!大丈夫かな?」

「絶対うまくいくって!最近健人、まなといい感じだろ?なんとなく!」

「だよね?!わたしも最近、けんちゃん前と態度違うなって勝手に思ってたの!勘違いかも知れないけど、それでもいい。伝えたいの」

ああ、きつい。

「よし!そうと決まったら花火大会、お前ら2人で行けよ」

止まれ、俺の口。

「えっそれは無理だよ!告白しますって言ってるようなもんじゃん・・・!」

まなは焦ったように言う。

「あ、そっか・・・。じゃあこうしよ、西原誘っていいかな」

ごめん、西原。

「めぐみん?いいけど何で?」

「・・・俺が、途中で西原と迷子になるから・・・それで・・・」

言葉が詰まる。

「そ、そっか!わかった!なっちゃんありがとう!わたし頑張るよ!」

まなはそう言って立ち上がった。

「おう!頑張れよ!」

夏樹も立ち上がり、まなに微笑んだ。




俺は一体なにしてんだ。




その後、まなを家まで送ると遠回りをして帰った。

何とも言えないこの気持ちに、情けなくなった。
俺はずっと、まなのことが好きだったのにどうして言えなかったんだよ。



なんで、なんでだよ。




『西原〜』

恵にメッセージを送った。

『こんばんは!どうしたの?』

すぐに返ってきた。

『来週の花火大会、健人とまなもいるんだけど一緒に行かない?』

そう言うと、電話が鳴った。
夏樹は驚いた表情で電話に出る。

「もしもし?」と夏樹。

『も、もしもし!あの、わたし一緒に行ってもいいの?!』

恵は興奮気味なテンションだった。

「あ、うん、その、西原が良ければなんだけど。行ける?」

『行く!行きたい!夏樹くんと花火なんて夢みたい!』

そう言われ、つい笑みが零れた。

コイツ、ほんと素直だな。
なんていうか、可愛い。

「なら良かった。友達と行く予定とかなかった?大丈夫?」

夏樹が言うと、恵は即答する。

『ないよ!わたし友達いないし!』

「はは、もうオープンかよ」

『あはは、もうバレちゃってるし言ってみた』

「西原は妬まれてるだけだよ」

『そんなことないよ!わたしのコミュニケーション能力が低すぎて・・・』

「あれは違う。西原、可愛いからだろ」

『なっ・・・!ほ、ほんと?!夏樹くんにそんなこと言ってもらえるなんて・・・どど、どうしよう?!』

「はは、冗談だって」

『え?冗談?!』

「可愛いは本当・・・いいな、西原は素直で」

なんだか、目が熱くなってきた。

『素直で損はないでしょ?』

「・・・確かに・・・素直でいた方がな・・・いいよな」

言葉が出てこない。








『・・・夏樹くん大丈夫?』







携帯の画面の向こうから聴こえる恵の声に、なぜだか涙が溢れてしまった。



ああ、どうして素直になれなかったんだろう。
なんで自分に嘘をついてここまで来たのだろう。
チャンスなんて幾らでもあったのに。

今日だって、気持ちを伝えようと思えばできたじゃないか。
だけど言えなかった。
健人のことを好きな気持ちに水をさしたくない。
俺が邪魔していいはずがない。

まなには幸せになって欲しい。
これは本当だ。

こんなにも傍で好きだと言ってくれる西原よりも、電話してくれている西原よりも、まなからの『ありがとう!頑張るね!』なんてメッセージの方が気になってしまう。






「西原、ありがと」




夏樹はそう言って微笑んだ。

『え?何が?』

恵の声が心地良かった。


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