複雑・ファジー小説
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- 傘をさせない僕たちは
- 日時: 2019/10/30 13:29
- 名前: えびてん (ID: mkDNkcIb)
はじめまして!
えびてんと申します!
私の身近な人と身近な人は実は知り合いで、世間は狭いなあと感じることが多くてこのお話を書こうと思いました(*゜-゜)
主にそれぞれの恋のお話です( ´ ` )
ちょっとわかりづらいお話だと思うのですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!
【 登場人物 】
@浅倉航平(あさくら こうへい) 25
→化学教師。
@水原茉里(みずはら まり) 24
→国語教師。
@武田夏樹(たけだ なつき) 17
→高校2年生。
@佐伯まな(さえき まな) 16
→高校2年生。
@瀬乃健人(せの けんと) 16
→高校2年生。
@西原恵(にしはら めぐみ) 17
→高校2年生。
@武田紗綾(たけだ さや) 24
→建築会社社員。
@井岡 瞬(いおか しゅん) 23
→建築会社社員。
@小宮山 剛(こみやま つよし) 42
→建築会社社員。
@小宮山綾子(こみやま あやこ) 39
→小宮山の妻。
@柳木 蓮(やなぎ れん) 22
→大学生。
@宇野美琴(うの みこと)25
→ピアノ科教師。
@浅倉結以(あさくら ゆい) 18
→航平の妹。
@相原直登(あいはら なおと) 19
→結以の友達(?)
@日向希穂(ひなた きほ) 19
→直登の大学のクラスメイト。
@藤井心春(ふじい こはる) 22
→カフェ店員。
@坂口椋(さかぐち りょう) 26
→画家。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.72 )
- 日時: 2021/02/22 13:08
- 名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)
#70 【 変わり果て 】
チャイムを鳴らすと、陽介はすぐに出た。
思ったより笑顔だった。
もっと怖い顔をしているかと思った。
「来たきた、入れよ。ちゃんと話そ?」
ドアを開け、陽介は笑顔で言った。
結以は「うん」と言って少し微笑み、靴を脱ぐと部屋へ。
リビングのドアを開けると、結以は目を見開いた。
そこには6人、知らない男たちがいた。
「・・・陽介、これ、どういう・・・」
結以が不思議そうに陽介を見ると、陽介は椅子に腰掛け、結以に言った。
「脱げよ」
「え・・・?」
結以が言うと、陽介は「俺と別れたいんだよな?じゃあ脱げよ」と微笑んだ。
「いや、どういうこと・・・?」
「コイツらがお前のこと可愛い可愛いってずーーーっと言ってたからさー。どーせならヤらせてやろうと思って」
ゆっくりと、後ずさりをした。
あたしバカだった。
こんな所にノコノコ1人で来るなんて。
この人はそんな生易しい人ではないのに。
あたしとちゃんと向き合う気なんかないのに。
この状況が怖くなった。
結以は勢いよく走り、陽介の家を出た。
階段をおり、必死に走りながら携帯を開いた。
「おいてめ!逃げんじゃねえよ!」
陽介の声だった。
無理だ、絶対に逃げきれないーーーーー。
「おいっ!」
陽介はそう言って結以の腕を掴んだ。
結以は泣きながら叫ぶように言った。
「離してっ!もうっ離してよ…!なんで?なんで?あたしを引き止めるの?ねえなんで?好きじゃないくせに!」
結以が言うと、陽介は笑いながら答えた。
「いやいや、好きだよ?結以のこと」
「嘘つきっ!」
「本当だよ。好きだからさ、結以のこともっとみんなにも知ってもらいたいな〜って思ってるだけだけど?」
なにこいつ、イカレすぎでしょ。
「意味分かんない!利用してるだけじゃん!」
「は?お前だって俺の事利用しただけじゃん?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
陽介と出会ったのは、あたしがまだ高校1年生の時だった。
当時グレていたあたしは、毎日のように家族と喧嘩して、夜中に帰って、まだ喧嘩をして。
あたしの家はみんな先生で、お兄ちゃんもまたその道を辿って、あたしがグレた時はみんな、あたしを恥ずかしいと思っていた、きっと。
そんなある日、いつものように家族と喧嘩して家出をしたあたしは宛もなく夜の街をふらついていた。
その時にあたしを救ってくれたのが陽介だった。
「君、1人?何してるの?」
ベンチで1人、凍えていた時だった。
5人の男の子が話しかけてくれた。
「・・・誰?」
あたしが聞き返すと、彼らは心配そうな表情を浮かべて答えた。
「こんな時間に1人で、家出?」
「・・・うん。あなたたちは?」
「俺らも家出グループ。家に帰りたくなくてさ」
あたしと同じだった。
今考えてみれば本当にバカだった。
当時高校生の彼らを信じるなんて。
それからというもの、あたしは夜にふらつくと陽介たちに会った。
楽しかった。
そんなある日、あたしは優しくしてくれる陽介に恋愛感情を抱いた。
『ゆい、今から遊ぼーぜ』
陽介からそんなメッセージが届き、あたしは胸を踊らせながら家を出た。
いつものように5人で待っている、そう思っていた。
だけど待ち合わせ場所の公園に行くと、そこには陽介1人だけだった。
「・・・みんなは?」
結以がきくと、陽介はどこか気まずそうに言った。
「・・・俺とふたりじゃ、だめ?」
胸がドキッとなった。
「う、ううん!・・・嬉しい」
結以はそう言ってベンチに腰を下ろした。
陽介も照れくさそうに微笑みながら結以の隣に腰を下ろす。
「・・・結以、俺の事どう思ってる?」
唐突な質問だった。
「え、あ、あたしは・・・陽介くんすっごく優しいしかっこいいなって!」
思い切って言ってみた。
陽介は嬉しそうな表情を浮かべた。
「俺、結以のこと好きになっちゃって・・・俺と付き合ってくれない?」
それは、あたしが高校2年の時だった。
陽介と付き合うようになってからも、他のみんなとも遊んだり、陽介と二人で遊んだりした。
あたしが3年生の時に陽介にセックスを教わった。
陽介と結婚したい、そう思っていた。
それがどうしてこう変わり果ててしまったのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「は?あたしがいつ陽介を利用したのよ!」
あたしが陽介を利用?
「家出ばっかしてさ、寂しい気持ち俺で紛らわせてただけじゃねえの?だから家族と仲直りしてからあんま会わなくなったんじゃねえの?」
陽介はそう言って結以を見つめた。
「だ、だからって浮気していいわけ?!」
「浮気って、あん時には俺らもう終わってただろ」
「勝手に決めないでよ!あたしがどんな気持ちでいたと思ってんのよ!」
「知らねえよんなこと!…いいから早く来いよ!」
陽介はそう言いながら結以の手を引っ張り、アパートへ歩き出す。
「やめてよっ!」
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.73 )
- 日時: 2021/03/28 22:02
- 名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)
#71 【 崩壊 】
付き合い初めて1年が過ぎた頃、陽介が変わり始めた。
その頃あたしは高校3年生で、陽介は工場で働いていた。
グレていた時期を卒業し、家族とも和解したあたしは外に出ることが少なくなった。
それからだった。
陽介はだんだんあたしと連絡をとってくれなくなった。
会っても冷たくなり、疑問を抱いていた。
そして陽介のアパートに行った時、その理由が分かった。
いつも鍵を閉め忘れる陽介の家の玄関は開いていた。
結以はドアを開け、中へ。
靴を脱ぎ、部屋に上がった時だった。
襖の奥から、吐息のような声が盛れてきた。
それは女の声も混じっていて、顔が青ざめた。
結以は静かに部屋に入り、ゆっくりと襖を開けた。
分かってはいたけど、ショックだった。
隙間から覗いた部屋では、陽介と見知らぬ女が裸で抱き合っていた。
陽介は愛おしそうに何度も目の前の女にキスをしていて、激しく動いていた。
ーーーーーーー何、これ。
ショックのあまり、結以は手に持っていたバッグを落としてしまった。
しまった。
瞬間、2人の声が止んだ。
「・・・え、なに?何の音?」
女は不思議そうに襖の方を見た。
陽介は少し不安そうな表情で「・・・ちょっとまってて」と言って立ち上がり、ボクサーパンツを履くと襖を開けた。
「・・・結以」
陽介は驚いた表情で結以を見た。
結以は泣きながら静かに陽介を見上げる。
「どういうこと?誰よ?」
後ろから女が来た。
陽介は「・・・いや」と言って言葉を探している。
「・・・帰れよ」
陽介は呟き、結以を見た。
なんで?なんであたしが?
「・・・陽介っ」
結以が言うと、女は陽介に抱きついた。
「ちょっと、何なのこの子?」
「・・・元カノ。今は俺のストーカーなんだ」
は?
何言ってーーーーー。
結以が反論しようと立ち上がろうとした時、女が結以を蹴り飛ばした。
「ふざけないでよ!あたしの陽介に近づかないで!」
ああ、そっか。
この人も騙されてるんだーーーー。
あたしだけじゃない、この人もまた、被害者。
あたしの中で、何かが壊れた瞬間だった。
こんな人、もういらない。
結以はそう思うとフフっと微笑み、立ち上がった。
「な、なにがおかしいのよ!」
女は薄気味悪そうに結以を見て言った。
結以は2人を見ると、服のホコリを払った。
「お邪魔しました」
結以はそう言うとアパートを後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから1週間が過ぎた頃だった。
陽介からメッセージが来た。
『明日どこか行かない?』
は?
頭おかしいんじゃないの、こいつ。
あれって、別れましたって終わり方だったよね?
あたしがおかしいのこれ?
メッセージには返信せず、彼をブロックした。
すぐにブロックせずにいた生易しいあたしがバカだった。
本当はどこかでメッセージが来ること、待ってたんじゃないの、あたし。
だけどやっぱり、だめ。
このままじゃだめ。
携帯を放っぽって、あたしは何気なくコンビニへ。
チョコバーなんて買って、呑気に食べながら家に向かっていた。
その時だった。
後ろから肩を掴まれた。
「結以」
振り返るとそこには、陽介がいた。
「・・・なんで」
結以が驚いた表情で言うと、陽介は携帯を出した。
「何で?何で連絡くれないの?」
こいつ、やっぱり頭おかしい。
「何でって、あんた頭おかしいんじゃないの。どう考えてもこないだでお別れでしょ!」
結以が言うと、陽介は「は?普通に帰ってっただろ?」と微笑んだ。
え、え、わかんない怖い。
本気で何言ってんだこいつ?
「いやいや!じゃあこないだヤッてた女は?あいつあたしの陽介とか言ってたけど?!」
「あんなビッチ彼女なわけねえだろってか俺は結以と付き合ってるだろ!」
「え、怖いって!何それやばいって!とにかくもうあたしはあんたと別れる、いや別れたから!」
結以はそう言うと陽介に背を向け歩き出した。
陽介はしつこく追ってくる。
「結以!俺は結以のこと好きなんだって!愛してるんだよ!なあ?わかるよな?俺ら同志だろ?」
「何が同志よ、浮気したくせに!」
「結以が構ってくれなくなったから・・・」
「構って貰えなかったら浮気してもいいわけ?どんな理屈よ!」
「だってそうだろ!浮気させた結以が悪い!」
こいつは何てすごいことを言うんだ。
結以は立ち止まり、怒鳴るように言った。
「じゃあもうあたしが悪いってことでいいから別れて!その理屈を分かってくれる彼女でも探せばいいんじゃない」
結以はそう言うと近くにあった喫茶店に入った。
なにあいつ、やばくない・・・?!
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.74 )
- 日時: 2021/04/13 18:07
- 名前: えびてん (ID: BcUtmJZZ)
#72 【 1番欲しかったもの 】
こうしてあたしは陽介に浮気をされては許し、それを繰り返して今まで生きてきた。
そして直登と出会い、この関係にピリオドを打ちたくなった。
そんなことを思い出していたら、涙が出てきた。
一体いつ、どこからあたしは間違っていたんだろう。
こうなったのは誰のせいでもない、あたし自身のせいなのに、愚かにも誰かに助けて欲しいと願ってしまう。
お願い、助けてーーーーーーーーー。
足音が聞こえた。
僅かな光が見えた。
「結以から離れろ」
大きな声が聞こえた。
振り返ると、そこには直登がいた。
こんな、ドラマみたいな展開ってあるんだ。
あたしがヒロインでいいんだ。
「・・・直登」
結以は涙目になりながら直登を見た。
「誰だよ、お前」
陽介は苛立った表情で直登を見た。
直登は「結以を離せ」と陽介を見る。
「は?だから、誰だよお前。俺は結以の彼氏なの。部外者はどっか行ってくれる?」
陽介は小馬鹿にするように言った。
「彼氏が彼女の腕、そんな赤くなるまで引っ張るのかよ」
直登に言われ、陽介は結以の腕を見た。
結以の腕はもう真っ赤になっていた。
「うるせえな、お前には関係ねえだろ」
陽介はだるそうな表情で言った。
「関係ある」
「は?なんの関係があるんだよ」
「俺は結以が好きだから」
「あーなに?あれだ、お前、結以の浮気相手だ?」
「俺はどう思われてもいいよ」
直登がそう言うと、陽介は「っるせえな!」と直登に殴りかかった。
直登は陽介の拳を掴み、そのまま手を捻り陽介を地面に叩きつけ、陽介の体を踏みつけた。
「二度と結以に近づくな」
直登はそう言うと陽介を踏む足を強めた。
陽介はうめき声をあげながら「くっそ!」と言って立ち上がり、その場を後にした。
「大丈夫?」
直登は結以の腕を優しく撫でた。
結以は微笑みながら答える。
「…直登を信じて良かった」
直登は微笑んだ。
「あんなメッセージと急に位置情報送られてきたら誰でも気になって行くでしょ。ましてや好きな人からの2ヶ月ぶりのメッセージだよ」
直登はそう言って微笑んだ。
結以は立ち上がり、すぐさま直登に抱きついた。
直登も結以を抱きしめる。
「・・・直登、ごめんね」
言うと、直登は微笑んだ。
「ごめんじゃなくて、ありがとうがいいな」
「ありがとう・・・好き」
「・・・1番欲しい言葉やっともらえた」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「てか直登って強いんだね」
帰り道、結以が言った。
「中学高校の時ちょっとやさぐれてたからね。今となっては恥ずかしいけど・・・」
「えっそうなの?全然見えない」
「まあ色々変わったからね。ちゃんと勉強もしたし」
「あたしと一緒か」
「一緒?」
「ううん。ねえ今日焼肉行こうよ」
「えーまた?」
「だめ?」
「いいけど」
「やった!直登大好き!」
「・・・俺も」
「何?聞こえない」
「なんでもねーよ!」
「いや何か言ったでしょ」
「言ってねーよ!」
「はあ?なによ」
「うっさい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねえ昨日の警察沙汰、聞いた?」
高校の時、クラスメイトは教室であたしを腫れ物を見るような目で見ながらそう言った。
あたしはただ、自分の席から窓の外を眺めるだけ。
「浅倉さん、3人も殴ったり蹴ったりしたらしいよ」
うるさい。
「はーあ?やばくない?女の子なのにね〜」
うるさい。
「てか人のこと殴ったりするとか考えられないよね」
何も知らないくせに。
「浅倉さん変なヤンキーとばっかりつるんでるし怖いよね〜」
あたしは間違ってなんかない。
「おい金出せよ」
河川敷で他校の男の子が同じ制服の男子3人に囲まれているのを見かけた。
当時のあたしは怖いもの知らずで、そんな姿を見て苛立ちながら河川敷に降りた。
「ねえ、やめなよ」
最初は優しく言った。
「はあ?誰だお前・・・ああ、南高か」
男子たちはまるで楽しんでいるかのように笑いながら言った。
「あたしが誰でも、その子離しなよ、嫌がってんじゃん」
「1人で俺らのとこ来るとか肝座ってんね、お嬢ちゃん」
「じゃあこいつ解放してやる代わりにお嬢ちゃんが俺らの相手してくれんの?」
「結構カワイイ顔してんじゃん〜」
男たちはそう言って、あたしの顔を触った。
あたしは男の腕をつかみ、男に突っ返した。
「痛ってえな!何だよお前!」
男たちが殴りかかってきて、あたしは避けて、それでも殴りかかってきて、あたしも彼等を殴った。
何度も何度も殴ったーーーー。
「うぜえなクソアマ!」
しまった。
背中をとられてしまった。
後ろから1人が大きな木の棒を手に、走ってきていた。
もう逃げられない。
そう思って目を瞑った、その時。
沈黙が流れた。
あたしが目を開けると、目の前には見知らぬ高校の男の子がいて、彼は木の棒を持った男の手を掴んで奥へと突っ返した。
「・・・覚えてろよ!」
その後、3人は去っていった。
「・・・ありがとう」
あたしは息を切らしながら彼に言った。
彼は微笑み、「君は大丈夫?」と言った。
「大丈夫です」とあたし。
「そっか、なら良かった。すごいじゃん、1人で」
彼はそう言ってあたしの頭を優しく撫でた。
背が高くて、金髪で、大きな目で、暖かい手の彼の顔は覚えていない。
あたしの1番欲しかったものは、昔から近くにあったのかも知れない。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.75 )
- 日時: 2021/04/29 14:57
- 名前: えびてん (ID: 8.dPcW9k)
#73 【 違う 】
顔が良ければ、お金をくれるなら、あたしを愛してくれるなら、どれかの条件さえ合えば誰でも良かった。
あたしの顔が、体が目的でも何でもいい。
中身なんか見てくれなくていい。
ーーーーー見なくていい。
本当のあたしを好きになってくれる人なんかいない。
『美琴さん、今日は会えますか?』
蓮くんからのメッセージだった。
自分から誘っておいて何だけど、正直もういらない。
長期間大学生に付き合ってるほどあたしは暇じゃないし、ガキとセックスするにも色々大変なのよ。
あたしはいつだって大人で、綺麗で、可愛げもあって、素敵な女を演じなきゃいけない。
そうじゃなきゃ、誰も相手にしてくれない。
蓮くんだってきっと同じ。
あたしがブサイクなら、デブなら、きっとあたしを相手になんかしなかったに違いない。
あの茉里って女から奪えれば、それだけで良いの。
一時期的でもいい。
またあの女に戻るならセックスしてあげる。
そんな気でしかないの、あなたは。
「えー美琴ちゃん彼氏いないの?」
合コンだった。
友達に連れてこられた合コン。
相手はちょっと年上気味の男たち。
でもそんなの関係ない。
彼らはあたしに夢中になっている。
「はい、あんまりそういうの疎くてぇ〜」
こうやって甘えた声で、可愛こぶった顔してれば好きになってくれるんでしょ?
「ええ!美琴ちゃんカワイイのに!」
知ってるよ、そんなこと。
「そんなことないですよぉ〜!やめてくださいもう〜」
でもこうやって人気を得ると、同時に失うものもある。
「あの美琴って女うざくね?何で連れてきたの?」
トイレでの女子の会話。
友達と、友達の友達(他人)。
そう言ったのは他人さん。
友達はちょっと困った感じで答える。
「だ、だって可愛い子連れて来なきゃあの男の人たちすぐ帰っちゃうって言うから!」
「だからってあんなあざとい女・・・!他にいなかったわけ?」
「あたしの友達の中じゃアイツが1番顔はいいのよ!しょうがないじゃん!」
「それでアイツに全部持ってかれてたら意味ないじゃん!」
「大丈夫だって。美琴は付き合ったりしないから」
「なんで?」
「さあ。美琴が彼氏とか聞いたことないし。ヤッたりはしてるんだろうけど普通の男に本気にならないんだと思う」
へーえ、あたしのことよく分かってんじゃん。
美琴はそう思いながらトイレのドアを開けた。
「あ、良かったぁ遅いから具合悪いのかと思ったよーぉ。デザートのメニュー決めてって店員さん来たからみんなで決めよっ」
美琴は笑顔で言った。
2人は必死に笑顔を作り、「う、うん!」と言って席へ。
当たり前じゃん、あんな男たち興味ないっつーの。
かといって、あたしが1番じゃないのも気に食わないでしょ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
帰り道、ヨロヨロしながら道を歩いていると後ろから話しかけられた。
「美琴ちゃん?」
言われ、振り返ると先程合コンにいた男がいた。
何こいつ、つけてきたの?
名前はえっとー、岸野だっけ?
「・・・あ、今日はお疲れ様でしたぁ」
精一杯、可愛い声を出した。
あーめんどくさい。
「偶然だね、家こっちの方なんだ」
お前みたいなやつがいるから遠回りして帰るんだよ。
「岸野さんも?」
「あ、うん!良かったら一緒に帰ろうよ。美琴ちゃん結構飲んでたし、送るよ」
それでそのまま泊まってセックス希望でしょ?
丸見え。
まーいっか、こいつ見た目は悪くないし。
「えーありがとうございますう〜!」
そしてそのまま歩き続けて早10分。
早々に牙を剥いてきた。
「なんか俺も酔っぱらっちゃったな・・・疲れてきた」
岸野はそう言って微笑んだ。
ここの付近にはラブホがある。
はいはい。
「・・・あー、タクシー!呼びます?」
なんかセックスもしたくないな、この頃。
「いやいいよ大丈夫!ちょっと休んでもいいかな?」
「あ・・・いいですよ」
結局この流れか。
「ごめんね美琴ちゃんも飲んでるのに。ここ寒いしどっか入ろうか・・・あ、変なことはしないからあそことかでもいいかな?」
岸野が指さしたのはもちろんラブホ。
誘い方下手すぎ。
断るのもめんどくさい。
でもなー。
「あーなら、受付はあたしがしておくので岸野さんはお部屋へどうぞ。あたしはタクシーでも呼んで帰りますね」
「ええ、美琴ちゃんを1人にはできないよこんな夜に・・・物騒だし。美琴ちゃん可愛いから」
1番物騒なのはお前だろーが。
まあいっか、もうなんでも。
「・・・分かりました。じゃあ一緒に行きましょうか」
一応毛の処理、してきといて良かったー。
どーせあたしとヤッたとか他の男どもに自慢気に言うんだろうし変な噂が立ったら大変。
美琴はそう思いながら愛想笑いを浮かべ、岸野に肩を抱かれながらラブホへと歩く。
ラブホの入り口まで来た時、美琴はふと足を止めた。
「・・・あの、あたしやっぱ帰ります」
言うと、岸野は「は?」と言って美琴を睨みつけた。
さっきまでとは別人ーーーーー。
「・・・美琴ちゃんさ、あーんなあざといことばっか言ってさ、してさ!今更なに怖がってんの?」
「・・・いえ、あたしはそういうつもりじゃーー」
「はーあ?そんな胸とか足とか強調する服着てさ、本当は俺とヤりてーんだろ?な?」
岸野はそう言いながら美琴の胸を掴んだ。
「やめてください!あたしは・・・!」
あたしは、あんたとなんかヤリたくない。
違う。
あたしはーーーーーーーー。
その時だった。
「・・・宇野?」
声が聞こえた。
声の方を見ると、そこには坂口がいた。
なんで、よりによってこんなところでーーーー。
坂口は驚いた表情でこちらを見ている。
「坂口っ」
美琴は焦りながら坂口を見る。
「は?なんだよこの男」
岸野の態度は変わらない。
美琴を掴む力が強くなる。
「離してよっ!」
「うるせえな!お前みたいな顔だけの薄っぺらい女は大人しくヤらせとけよ!」
言われ、美琴は何も言えなかった。
美琴が黙っていると、坂口が近づいてきた。
「坂口っ助けて!」
涙が溢れた。
坂口は岸野の腕を掴む。
「彼女を離せ」
坂口は真剣な眼差しで岸野を見下ろした。
岸野は「は?うるせえな」と言って譲らない。
坂口は岸野の腕を強引に離し岸野に突っ返した。
「痛ってえな!お前何なんだよ!」
「消えろ」と坂口。
こんな坂口、初めて見た。
「・・・こんな女くれてやるよ!こんな女ヤリ捨てするつもりだったしな!お前みたいな安い女にはこれくらいの男がお似合いだよ!」
岸野は負け惜しみのように言うと走り去っていった。
うわ、だっさー・・・。
- Re: 傘をさせない僕たちは ( No.76 )
- 日時: 2021/05/06 15:31
- 名前: えびてん (ID: cdCu00PP)
#74 【 ありがとう 】
「・・・ありがとね」
2人は公園のベンチに移動し、美琴は小さく言った。
坂口はまたいつもの笑顔で答えた。
「はは、全然大丈夫。あいつ弱かったし」
「坂口、何してたの?」
「ああ、仕事の帰り。あそこ近道でさ」
「そうなんだ・・・」
あんな所を坂口に見られてショックだった。
坂口はどう思ってるんだろう。
どうとも思ってないか。
「あー・・・、宇野は?あいつ誰だったの?」
気になってるの?
いや、聞くか、普通。
「・・・合コンで知り合った人。付けられてたみたいで」
「まじか、そんなやついるんだな。気をつけろよ?」
ううん、違うーーー。
あたしはそんな、ただか弱い女の子なんかじゃない。
坂口が思うような、被害者じゃない。
「・・・いつも、こうなの」
ボソボソと言うと、坂口は「え?」と不思議そうに美琴を見た。
「・・・本音なんか誰にも言えない。だけど愛して欲しい。あたしを必要として欲しい。だから気のあるような言葉を選んで、体でも何でも捧げて。だからあの人もーーー」
「・・・どうして本音が言えないの?」
「だって、本当のあたしなんか誰も愛してくれないから。なら、飾ったあたしでも愛して欲しい。求めて欲しい」
本当は本当のあたしを見てほしい。
本当のあたしを愛して欲しい。
だけど母は言った。
『あんたなんか生まれて来なければ良かったのに』
と。
あたしは勉強もスポーツも、優秀な兄や姉とは違った。
いつだって有名な高校、大学へ行った兄姉と比べられてきた。
あたしはいつだって必要とされなかった。
誰にも。
「・・・だからあたしは、安っぽい。言われても仕方ない」
そういった時、涙が溢れた。
なんで?なんで泣くの?分かんない。
「もっと自分を大切にしろよ」
坂口はそう言ってあたしの頭を優しく撫でた。
「だって、みんな・・・みんなセックスできればあたしのこと好きでいてくれるんでしょ?あたしのこと必要としてくれるんでしょ?」
もう自分でも何が言いたいんだか、何を言ってるんだか分からない。
どうしてこんなこと今、坂口に言ってるのかもわからない。
「・・・宇野を必要としてる人はいるから。そんなことしなくても愛してくれなきゃ意味ないだろ」
「いないよ・・・そんな人」
涙が止まらない。
「俺、嬉しかったよ。さっき。今も」
坂口はそういって微笑んだ。
美琴は「・・・え?」と坂口の顔を見た。
「だって今、誰にも言えない本音、俺に話してくれてるじゃん。嬉しい。強がらなくていい。俺は宇野のこと、結構知ってるつもりだから」
「何言って・・・・・・」
「宇野はいつも、誰に何言われたって笑顔で学校に来てただろ。強い子だなって思ってたよ俺。あの日だってーーーー」
「・・・あの日?」
「教室で1人、泣いてただろ?けど俺が来たら笑顔で部活頑張ってね!ってさ」
あの日だ。
あたしがこの人を好きになったあの日。
オレンジジュースをくれた、あの日。
あたしが初めて恋をした日ーーーーー。
「俺あの日、ああこの子いい子なんだなって思った。あの頃宇野とあんまり仲良くなかったけど、すぐにわかった。何で他の男子は俺より宇野と仲良いのにこの子の痛みに気づいてあげられないんだろうっても思った。って言ってもまあ、俺も何もしてあげられなかったけどね」
「坂口はっ!・・・坂口はあたしに元気くれたよ。オレンジジュース、嬉しかった」
「いやっそんなことーーーー」
「あたしには大事なことだったの!あたしの強がりに、唯一気づいてくれたのは坂口だった・・・ありがとう」
美琴はそう言って微笑んだ。
坂口も微笑み、再び美琴の頭を優しく撫でた。
「なんか宇野と再会できて良かったな〜」
「なっ何よそれ」
少し動揺した。
坂口は爽やかな笑顔を浮かべて答える。
「なんか宇野、すっごい可愛くなっててさ」
「も、元々可愛いわよ!あんたがあたしを選ばなかっただけで!!」
美琴はそう言ってフンっと坂口から顔を逸らした。
「はは、確かに。学生の頃から宇野はすっごいモテてもんね」
「何よそのバカにした言い方!」
「してないしてない。でも本当、可愛いよ、宇野は」
胸が熱くなるのを感じた。
「・・・そんなこと言われたらまた好きになる」
言ってみた。
坂口の顔を見るのが怖かった。
「いいよ、俺は」
え?
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