複雑・ファジー小説

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逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/04/03 16:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良くメロディのカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.44 )
日時: 2020/04/24 19:52
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 隊長の背後に続いて廊下を渡り、不知火の精鋭達は居間へと案内された。そこは大天守の隣に位置する地帯であり、中心は洒落た和風庭が広がる。滝が流れる池があり、花や草木が延々と生い茂る塀の中の森だった。自然の香りと寛ぎやすい環境が精神の緊張を和らげる。

「家久様はもうじきおいでになられる。お主らはここで待たれよ。くれぐれも無礼のないようにお頼み申す」

 隊長はそれだけを告げると深くお辞儀し、その場を後にした。忠勝達は横ニ列に並び、腰を下ろして姿勢を正す。組織の命運がかかった交渉を控え、全員が気を引き締める。緊張という震えを堪え、主の訪れを待った。

「ほう、お主らが不知火の者達か・・・・・・室町の崩壊と共に消え去り、人々から忘れられた影の組織が未だ存続しておったとはのう・・・・・・」

 部屋の隅から低い声が聞こえ、島津家久は姿を現した。直垂の格好をし、落ち着いた素振りでこちらへ対面する。重い病を患い、余命僅かと言えるほど弱り果ててはいたが、かつて幾度もの武功を上げた猛将なだけに、気迫は衰えてはいなかった。堂々とした面持ちに妖ですらもたじろいでしまうであろう虎の目つき。例え、刃を交える事はないとしても、何千もの敵を殺めた凄まじい威圧が伝わる。

 忠勝達は床に手をつき一斉に首を垂れる。頭を上げ、同時に膝に手を置く。

「よくぞ参った。某はお主らを歓迎するぞ」

「有難きお言葉・・・・・・いくら、大義の名目とはいえ、急にお呼び立てした無礼な行い・・・・・・お詫びのしようもございませぬ」

 蒼真が礼儀をわきまえ、堅苦しい謝罪を述べる。忠実な振る舞いに家久は強張った顔を微かに緩ませ

「気にするでない。遥々、近畿の地からわしの助力に参ったお主らにこそ、感謝の意を示さねばならぬ・・・・・・して、お主らの現主君は誰じゃ?昌幸殿か?」

「いえ、主君はもうおりませぬ。ですが、現在は柳生石舟斎様が我々の師を務めておられます」

「左様か・・・・・・」

「日ノ本の天下を不当に支配する信長の世を支配を終わらせる手伝いができるなら、協力を惜しみません。僕達に何なりとお申し付け下さい」

 忠勝がそう訴えかけると、家久の関心を惹かれた。

「目にした時から気になっておったが、お主は女子のような若武者じゃな?昔、森で出くわした白狐にも似ておる。名を何と申す?」

「はい。徳川家家臣及び、徳川四天王の1人、本多忠勝と申します」

「忠勝・・・・・・!?お、お主が・・・・・・?バカを申せ。本多忠勝殿と言えば数多の武将を恐れさせ、かすり傷すら負わなかったとされる徳川一の猛将であるぞ? 桶狭間の合戦の頃から初陣を果たし、歳は四十路くらいじゃ。されどお主は、元服を迎えたばかりの子供ではないか」

「僕は桶狭間の戦いの後、とある事がきっかけで不老の体となりました。ですが、我が主君と三河武士の誇りに誓い、虚言は申しておりません。どうしても信じられないと言うのなら一国の主を欺いた代償として、ここで腹を切ります」

 奇想天外な事に言葉を詰まらせ沈黙した家久だったが、彼の揺るぎない覚悟に圧倒され

「さ、左様であるか・・・・・・まあ、奇怪が蔓延る世であるからな・・・・・・一応、信用しておこう・・・・・・」

 ひとまずは納得させ、忠勝は本来の用件を改める。信長に対する反乱の助力、不知火の復旧目的、資源や兵の提供など言いたい要求は全て伝えた。家久は一言一言を最後まで真剣に耳を凝らす。

「なるほど、お主らの目的は理解できた。これぞ正に天の助け、実を言えばわしも助っ人が現れてくれるのを心待ちにしていたところだ」

「・・・・・・と、言いますと?」

 家久は腕を組むと実に悩ましく、眉をひそめた。

「お主らも城下の惨事を目にしたであろう?今やこの国の民草は枯れ、各地で怪異が溢れておる。民の苦しみは土地を治める島津の苦しみ・・・・・・どうにか手を差し伸べてやりたいが・・・・・・されどそれは叶わぬ想いなのだ」

「どういう事ですか?」

「何時しかの挙兵に備え、武器や兵を集めてはいるものの、実行に移せぬ弱みを握られてしまった・・・・・・」

「なるほど、身内が『人質』に取られているのですね?」

 夕日の唐突な推理が的中したのか、家久は一層に気を落ち込ませ頭を抱えた。

「倅(息子)である『豊久』が信長の重臣である妖に連れ去られた。今頃、どれほどの辛さを味わっているか、心配で夜も寝つけぬ・・・・・・信長は九州全土の資源や妖魔兵の生産に必要な人間を差し出せと命じてきたのだ。もし、命令に背けば倅の首を刎ねると、もしかしたら、もう既に殺されているかも知れぬが・・・・・・」

(重臣の妖って・・・・・・)

(ああ、昌幸様が言っていた七天狗で間違いない)

 鈴音と海李は視線だけを合わせ、2人にしか聞こえない声で囁き合う。

「豊久様が囚われている場所に心当たりはありませぬか?」

 蒼真が人質の居場所について尋ねると

「場所は分かっておる。薩摩国の遥か東部に位置する菱刈鉱山だ」

「菱刈鉱山、大和ノ国最大の金鉱山か・・・・・・馬を頼っても、どれほどの日数がかかるか・・・・・・」

「蒼真、ここは私の折り鶴に乗って行くのがいいんじゃないかしら?馬より早いし、妖怪が蔓延る地上を行くより安全なはず」

 美智子が折り鶴を使った飛行での行き来手段を提案する。

「名案だな。そうと決まれば早速、菱刈鉱山に向かうぞ」

 家久は大いに期待を寄せ、懇願する。

「かたじけない・・・・・・豊久の事、しかとお頼み申す。倅を無事、救い出した暁にはわしも不知火への協力を約束いたそう」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.45 )
日時: 2019/10/10 21:35
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 忠勝達は数日の時を経て、豊久が幽閉されているという菱刈鉱山へ辿り着いた。折り鶴を降下させ、地面へと降り立つ。緑樹が生い茂る山に囲まれ、盛り上がった平野に人の手で造られた建築物が並ぶ。鉱石を溶かし、金塊を作り出す加工場であるが、今は無人の廃墟と化している。川と正反対にある山の下部に小さな穴があり、そこが鉱山内への入り口であった。

「誰もいないね・・・・・・ホントにここで合ってるの?」

 忠勝が殉聖の太刀に手を伸ばしながら、訝し気に聞いた。

「ああ、ここが菱刈鉱山で間違いない。恐らく、外に見張りをつける必要がないんだろう。だとすれば敵は鉱山内に多く潜んでいる事になるな」

 蒼真は先の見えない鉱山の黒い穴を睨みながら、返答を返す。

「私達が気づいてないだけで、もう既に見張られてるかも知れないわね」

 千夜が脅しに近い言葉を投げかけ、ゼイルが余裕に強がる。

「恐い事言うなよ!まあ、どんな敵が来ようとも返り討ちにしてやるけどなっ・・・・・・早く行こうぜ」


 不知火の精鋭達はそれぞれの武器を手に鉱山の奥地へと進んでいく。坑内は灯りが灯されているものの、薄暗くひんやりと湿った空気が漂っていた。所々、道が別れる狭い隧道は足場もでこぼこで歩きづらい。

「見てファゼラル。信じられる?これ全部、金だよ」

 大量の金がとれるだけに、岩の壁や地面に転がる石に含まれる鉱石が美しい輝きを放つ。ライゼルは黄金色の貴金属に魅了され、鉱脈に触れる。声は岩だらけの空間に反響し、遠くまで木霊した。

「盗んではいけませんよ?石も拾ってはだめです」

 ファゼラルは無邪気にはしゃぐ妹に真面目な注意を促す。

「しっかし、鉱山というのはやたら別れ道が多いな。まるで迷路だ。迷ったら、一生出られないかもな」

 少々不安げになるゼイルに先頭を歩く美智子が"大丈夫よ"と最初に言って

「伊達に行動を進んでいるわけじゃないわ。私が放った式神が示す道を辿っているから、少なくとも方向音痴の戦士さんでも迷子にはならないだろうから安心していいわよ?」

 と薄笑いしながら言った。からかい混じりの台詞にゼイルは眉をひそめ、頬を膨らませる。

「ねえ、夕日?内城の時にいた時から、ずっと気になっていたんだけど?」

 忠勝は横顔を振り返らせ、夕日に問いかける。

「はい?何でしょう?」

「内城での対談の時、家久様は弱みを握られたとしか言ってないのに、どうしてそれが人質だと分かったの?」

「あの時の推測ですか?簡単ですよ」

 夕日は自慢せず、答えを明かした。

「いくら妖怪の軍勢を差し向けても、島津は鬼も恐れぬ猛将が集う大勢力・・・・・・まともに戦えば、織田勢も大きな痛手を負いかねない。戦をせずに城を落とすには城主の身内を人質にすればいい。そういった手段ほど、有力で手っ取り早い方法はありませんから」

「魔王らしい汚いやり方だな」

「まあ、戦略に綺麗も汚いもないけどね」

 海李の怒りに対し、ライゼルが気が抜けた口調で口を挟む。


 歩いても歩いても、坑道は果てしなく続く。相変わらず不気味なほど物静かで、敵が姿を現す気配はない。疲労を誘う心地悪い環境に忠勝達の体力は次第に消耗していった。英気を養うため、僅かに広々とした通路で一旦、足を止める。

「ああもう、どこまで行けばいいんだよ!?同じ所を何度も通ってるみたいで、疲れたぜ・・・・・・!」

 海李がさっきと似つくした隧道にうんざりし、不機嫌な文句を垂れる。なるべく、平らな地べたに座り込むと荒っぽい息を吐き出した。鈴音はその隣に腰を下ろす。

「それにしても何故、敵は姿を見せないのでしょう?これだけの奥地に足を踏み入れたのに・・・・・・妙としか言いようが・・・・・・」

 不自然な状況に胸騒ぎを覚えるファゼラル。傍にいたライゼルもそわそわと冷静さに欠ける。

「・・・・・・?」

 ふいに美智子が、偶然にも何かに気づいた。地面に小さな紙切れが落ちており、それを手に取る。紙切れの正体は彼女が偵察目的で飛ばしていた折り鶴・・・・・・つまり、式神の残骸だった。胴体は真っ二つに千切れ、踏みにじられている。

「これは・・・・・・私の式神・・・・・・!?」

「・・・・・・?どうしたの美智子?」

 忠勝が問いかけた途端、彼らの背後でおかしげな風音が聞こえた。辿って来た通路に渦巻く霧が立ち込め、行き場を塞がれてしまう。

「「「・・・・・・!!」」」

 千夜は後ろへ走って霧に触れた。氷のような冷たさと激しい衝撃が伝わり、その手は弾かれる。

「霧の結界っ・・・・・・!」

「しまった!罠かっ!?」

 ゼイルが叫んで、戦斧を強く握りしめる。

「・・・・・・どうやら、お出ましのようだな・・・・・・」

 蒼真は左手に狐火を帯びさせ、奥地へと繋がる坑道の先を睨んだ。夕日の守護霊である狼も身構え、怒りの唸りを発する。

「しゅ〜・・・・・・しゅ〜・・・・・・」

 獲物を狩ろうとする殺気に満ちた吐息。さほど遠くない暗闇から赤い目が点々と光る。光に照らされ、曝け出された尖った歯の並んだ口、ダラダラと滴り落ちる唾液。現れたのは鰐(ワニ)のに酷似した二足歩行の妖怪の群れだった。大して力のなさそうな細々とした肉体ではあったが、鎧兜を身に着け、刀剣や斧、つるはしなどを引きずる。

「鰐河童か・・・・・・」

 妖怪の名を口にし、蒼真は厄介な相手により真剣な表情を形作った。

「鰐河童!?何で河童が鉱山にいるんだよ!?」

 ゼイルは訳が分からず、疑問を投げかける。

「これだけ広い鉱山です。どこかしらに水場があってもおかしくない。恐らく、そこに生息していたのでしょう」

 夕日は曖昧な説明を述べ、大鎌を手に前に出た。千夜も短筒の銃口を向けながら

「鰐河童は下等妖怪の中でも、知性や凶暴性に特化した妖怪よ。武器の扱いに優れ、群れで獲物を襲っては肉を貪り尽す・・・・・・油断はできないわ」

「海李くん、恐い・・・・・・」

「鈴音、お前は俺の後ろにいろ。笛の力で俺達を鼓舞してくれ」

 鈴音は黙って頷くと、笛を口に当て、音色を奏で始める。

「刃を扱える者は前に出ろ。ファゼラルとライゼルは後ろで援護に回ってくれ。海李は鈴音を護衛しろ」

 蒼真の指示に従い、接近戦を得意とする者は先鋒に立ち、妖怪と対峙した。術師達は、その背後で攻撃魔法のタロットカードに魔力を宿す。

「シャアアアア!!」

 鰐河童の群れは飢えた雄叫びを上げ、こちらへかかってくる。

「来ます!こちらも反撃を!」

 夕日が叫び、忠勝達は一斉に武器を構える。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.46 )
日時: 2019/10/22 22:10
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)


「風よ、我の助けとなれ!ウィンド!」

「我の思う者を撃ち抜け!ショット!」

 先手を取ったのは、ファゼラルの放った風の斬撃とライゼルの放った光弾だ。前方にいた鰐河童の列は風の刃に胴体を切り裂かれ、弾幕で体中を貫かれる。避け切れない攻撃魔法を派手に喰らわせ、多くを蹴散らした。しかし、理性のない妖怪の群れは朽ち果てた味方の屍を躊躇なく踏みつけ、怯まず襲いかかる。

 忠勝は迫った切先を弾く事なく、体を回転させて直撃を防いだ。同時に太刀を振るい、脇腹を深く抉る。鰐河童は深い刀傷から赤い血を吹き出しながら倒れ、動かなくなった。次の新手が刀を振り上げて頭上から襲いかかるも空中で斬られ、真っ二つになった体が地面に落下する。

「美智子!前に出過ぎないで!囲まれるわよ!」

「千夜ちゃんこそ、気をつけて!」

 千夜は警告を促し、両手の短筒の引き金を引く。弾は2発とも鰐河童の頭部と胸部を粉砕した。美智子も妖刀で正面からの攻撃を受け止め、もう片方の折り紙の刀身を鋭利な口にくわえさせ、顎と頭部を滑らかに切断する。彼女は振り返らずに二刀の切っ先を押しやり、背後から来た2体の鰐河童を串刺しにした。

 海李も太鼓鉢を頭上に叩きつけ、鰐河童の頭蓋骨を兜ごと叩き割る。次に来た相手の噛みつきをかわし、そのまま首を鷲掴みにすると、軽々と持ち上げ思いきり地面に叩きつける。凄まじい怪力で岩場が砕け、妖怪は地中へとめり込んだ。

「おらおらぁ!鈴音に近づくバカはどいつだぁ!?」

 例え、護衛の役が1人でも鈴音には指1本、触れされる事はない強固な守りで皆に引けを取らない戦いぶりを見せつける。

「ぐぅっ・・・・・・!」

 不覚にも蒼真の腕に槍が掠った。皮膚が破れ、ぴっ!と血が吹く。  傷を押さえながら転がり込む彼に鰐河童は更に傷を負わせようとするが、とっさに放たれた狐火を浴びせられる。身を焼かれた妖怪は焦げた全身が灰となり、呆気ない最期を遂げた。

「蒼真くん!」

 仲間の窮地を目の当たりにした夕日が駆けつけようとするが、孤立を目論む鰐河童が束になって立ち塞がる。妖怪の群れは 現時点で最も仕留めやすい蒼真に群がった。行き場のない岩の壁へとじりじりと詰め寄り、逃げ場を遮る。だが、すぐには肉を貪ろうとはせず、威圧を与え反抗心を削ぐ。

「しゅ〜・・・・・・しゅ〜・・・・・・」

「・・・・・・」

 追い込まれた恐怖と獣に狩られる獲物の気持ちを初めて知った。妖刀を握ろうとするが、手の震えが治まらず、普段の力が入らない。抵抗という簡単な余裕さえも次第に奪われていく。

「い、嫌だ・・・・・・や、やめろ・・・・・・!」

「蒼真ぁっ!!」

 無残な最期を覚悟した時、突如として聞こえたゼイルの叫びに、はっと我に返った。彼は戦斧を大振りし、鰐河童の群れをまとめてなぎ倒す。その勢いは烈風の如く、激しい衝撃波に体は地べたにねじ伏せられる。そして、上から粉々になった妖怪の肉片が降り注いだ。

「蒼真!大丈夫かっ!?」

「あ、ああ・・・・・・すまない・・・・・・」

 ゼイルは蒼真の手を引いて体を起き上がらせると、忠勝の元へ加勢に向かった。

「せいっ!」

 夕日は大鎌を振り回し、三日月の刀身に捉えた妖怪を次々と一掃する。円を描いた斬撃はズバズバと鋭い音を立て続けに鳴らし、大量の血しぶきが飛ぶ。千夜も短筒で一体の心臓を撃ち、刺していた血塗れの短刀を抜きくと、息絶える寸前の2体目をうち捨てた。3体目が斧を振り回し突っ込んできた所を宙を舞い、体を回転させて背後へと回り込むと、顎を腕に挟んで喉を掻き切る。

 獲物を1人も仕留められない鰐河童の群れは敵わないと悟ったのか、殺気を鎮め、坑道の奥へ退く。不知火の精鋭達に背を向け、逃げ去るその姿は妖怪らしからぬ情けない光景だった。

「待てっ!」

「美智子、止まりなさい!追ってはいけない!」

 千夜が美智子を呼び止め、夕日が腕を掴んで追撃を妨げる。美智子は興奮していたが、やがて荒い吐息を吐いて落ち着きを取り戻した。

 鈴音の奏でる音色が止み、壮絶な殺し合いは一旦は幕を閉ざした。何もなかった幅広い通路は 果てた妖怪の亡骸で埋め尽くされ、生臭い鮮血の臭いが漂う。精鋭達は構えを崩し、ひとまずは緊張感を解いた。

「皆、大丈夫か!?」

 ゼイルが八方に視線を運び、誰を重視するわけでもなく聞いた。

「全員、無事だよ。まんまと不意を突かれたけどね」

 忠勝は足元に横たわる死にかけの妖怪の背中に太刀を突き刺さした。止めの刃を抜くと刀身の血を拭い、鞘へ納める。

「死ぬかと思ったよ・・・・・・」

 鈴音も弱音を吐き、ふらふらとその場に座り込む。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・うくっ・・・・・・はあ・・・・・・」

 蒼真は吐いた息を一度詰まらせ、震えた自身の手を眺める。直後に全身の力が抜け、跪く。

「蒼真くん!」

 夕日が真っ先に駆け寄り、倒れかかった蒼真を支える。千夜も傷の具合を確かめ、露骨に顔をしかめた。

「悪いな・・・・・・俺とした事が・・・・・・しくじってしまっ、ぐっ・・・・・・!」

「傷は浅いけど、汚れた刃で斬られた事でばい菌が入った可能性があるわ。早めに消毒しないと大変な事になるかも知れない。応急処置を施す必要がある」

「あの・・・・・・ここは死体だらけで不衛生です。休むなら別の所に移動した方がよろしいかと・・・・・・どこか休める場所を探しましょう。皆さんが嫌じゃなければ・・・・・・」

 ファゼラルが恐縮しながら、提案を持ちかける。隣にいたライゼルは迷わず同意した。

「その方がいいね。霧の結界も解かれていないみたいだし、先に進むしかないよ。ここは逃げ場がないし、また奴らに襲われたらこっちが無事で済む保証はないよ」

「それしか道がないのが今の現状か・・・・・・仕方ねえな。忠勝、ここはお前が皆を先導してくれないか?」

 ゼイルが頼んで、忠勝が頷く。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.47 )
日時: 2020/04/24 19:44
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 終わりの兆しが見えない坑道をしばらく進むと、今度は窮屈な通路とは異なる幅広い地帯が待っていた。分厚い岩壁の辺りにはゴツゴツとした岩場が点在し、反対側の隅には水路があって暗闇に色に染まった水がゆったりと流れる。忠勝達は先ほどの戦いで溜まった疲労をここで癒す事にした。

「美智子、お腹減ってない?」

「ありがとう。1つちょうだい」

 相好を崩した美智子は行為に甘え、千夜から兵糧丸(戦国時代に使われていた携帯保存食)を貰って食べた。よく噛まずに飲み込むと、汗の放出と緊張で乾いた喉を潤す。

「あれ?ゼイルさん。それ、どうしたんですか?」

 ファゼラルはふと、見慣れない物に気づき、ゼイルに問いかける。ゼイルは"ああ、これか?"と最初に言って、魚の束を手前に差し出す。

「さっきの河童共が持ってやがったんだ。腐ったら勿体ないだろ?俺達で有難く頂こうぜ?」

「その魚、あたし達が食べても平気なのかな?」

 ライゼルが疑問を述べ、夕日がクスッと笑う。

「その魚はイワナと言って、焼くと美味しいんです。僕にも1匹、分けてくれませんか?」

「俺達にもくれよ。九州に来てから兵糧丸や干し飯ばかりで飽き飽きしてたんだ。いい加減、まともなもんが食いてえ」

 海李も自分と鈴音の分も要求する。

「いいぜ。全員に配っても余るほどだ。数週間ぶりの贅沢だな」

 無造作に散らばった石を集めて円を描くと、携帯していた薪や干し草を積み、火打石で火をつけた。イワナの腸を1匹ずつ取り除き、塩をまぶす。面倒な繰り返し作業が済んだら、最後に口に枝を刺し、火で炙った。忠勝達は香ばしい香りが漂う焚き火を囲む。寒気を掃う温かな熱気に当たりながら英気を養う。

「・・・・・・それにしてもよ。俺達が不知火として戦い始めてから、どれくらい経つんだろうな?お前らとの付き合いだって長いだろ?」

 ふいに海李が伸ばした素足をポリポリと掻いて、皆と過ごしてきた今までの過去の話を始める。

「そうですね。僕は生まれた時から不知火の兵士として育てられました。皆さんと過ごした日々を計算すると十数年くらいになります。共に戦場を駆け抜けてきた僕達は最早、家族と呼んでも決して過言ではないでしょう」

 夕日が気紛れに薪を足し、曖昧に経緯を辿る。

「家族・・・・・・か。今思えば、あたし達っていつも一緒にいたよね?血だらけの修羅場をたくさん潜って来たのに、誰1人欠けた事がないんだよ?凄くない?」

「怪我を負ったり、命を落としかけたり、死に場所なんていくらでもあった・・・・・・でも、こうして僕も皆さんも無事に生き永らえている。これが奇跡というものなのでしょう」

 ライゼルとファゼラルも過去の思い出を懐かしみ、今を生きている実感を味わう。

「ねえ?信長の圧政も妖怪の支配もない泰平の夜明けをみんなで見られるかな?」

「なんだなんだ?そんなに俺達とくっついていたいのか?」

 ゼイルが鈴音をからかい、彼女は焦って首を振った。

「ち、違っ!私が言いたかったのは、そんなんじゃなくてっ・・・・・・!」

「ああ、分かってる。ここにいる全員がお前と同じ事を思ってるさ」

「闇が永遠に続くようでも夜明けは必ず訪れます。全てを飲み込む深い闇でさえも小さな光が灯されれば、簡単に打ち消される。どんなに強い邪が世に蔓延ろうとも、最後は聖によって滅ぶという意味です」

「つまり、その小さな光が僕達なんだね?」

 夕日の例えが、自分達に因んでいる事を忠勝は確信する。

「暗闇に輝く光・・・・・・昔読んだ西洋の伝記に登場したジャンヌ・ダルクを思い出したわ」

「え?どうして、ジャンヌ・ダルクが出てくるわけ?」

 千夜の唐突な発言に美智子が半笑いになって理由を尋ねた。

「ほらだって、ただの農民の子であるジャンヌ・ダルクは大勢の人の希望となって、フランスを救ったでしょ?それにちょっと似ているかなって」

「そもそも、不知火を作ったのはジャンヌ・ダルクだったって石舟斎から聞いたんだが、本当なのか?その伝承、あまりにも嘘臭くて信じられないんだが・・・・・・おっと、ちなみに俺は紛れもなくジーク・フリードの子孫だぜ?」

 訝しげになるゼイルに

「事実ですよ。異国より流れ着いたジャンヌは日ノ本の侍と出会い、剣技や様々な作法を学んだと言われています。彼女は民を苦しめていた室町の暴君を抹殺し、妖怪を蹂躙したとも。その後、日ノ本の調和を守るために不知火を結成したんです。実際、忠勝くんが手にしている殉聖の太刀はジャンヌの剣を刀に打ち直した代物ですよ」

「これが・・・・・・?本当かよ?」

 やはり海李も鵜呑みにはできず、半信半疑になる。

「僕は信じてもいいよ。この刀にはどんな妖怪をも斬る力があるし、神聖な魔力が込められている・・・・・・それにこれは、『あの人』の大切な・・・・・・」

「ん?最後、何て言ったの?」

 語尾を聞き取れなかった千夜がもう一度尋ねるが、忠勝は"何でもないよ"と誤魔化した。無意識に目を逸らすと、偶然、離れた岩場で孤独に佇む蒼真に気づく。

「ちょっと、席を外すね?あっちに行ってくる」

「え?魚、食べないの?もうすぐ焼けるわよ?」

 美智子が火のある場所に留まるよう勧めるが

「皆で食べてて。あ、僕の分は残しておいてね?」

 とだけ言い残し、忠勝は溜まり場を抜ける。


 蒼真は岩場の陰で身を縮こませ、小刻みに震えていた。傷を負った腕には薬草の汁を染み込ませた布切れが巻かれている。こちらに駆けつけて来る仲間の足音にも反応しない。

「大丈夫?蒼真」

 隣に座った忠勝が心配しながら、不安な顔を寄せる。

「あ?・・・・・・ああ、大丈夫だ・・・・・・」

 蒼真はチラッと短い視線を送り、生返事を返す。活気のない表情を俯かせ

「なあ、忠勝・・・・・・」

「何?」

「多くの戦を経験し、死の恐さを嫌というほど味わったが・・・・・・化け物に喰われる絶望を味わったのは初めてだ・・・・・・こんなにも、心を抉られるんだな・・・・・・狼に殺される兎もこんな気持ちなんだろうか・・・・・・?」

「・・・・・・」

 忠勝は沈黙するだけだった。不慣れな質問に舌が動かなかったわけでも、頭を悩ませた悩んだからでもない。精神に深い痛手を負った仲間の姿に複雑な気持ちにかられ、思うように言葉が浮かばなかったのだ。

「忠勝・・・・・・俺・・・・・・」

「無理して言わなくていいよ・・・・・・」

 忠勝はこれ以上、負担をかけさせないよう蒼真の口をつぐませる。

「ずっと昔に亡くなった父上が言ってた。自分の辛さに嘘をつくなって。恐いと思った時は震えてもいい。泣きたい時は泣けばいいんだ・・・・・・って・・・・・・」

「そうか・・・・・・なあ?もうちょっと、傍に寄ってくれないか・・・・・・?今は少しだけ、強がりを捨てたい・・・・・・」

「いいよ」

 蒼真は忠勝に手を包まれ、安心感に浸りながら彼の胸にしがみつく。止まらない涙を堪えず、声を押し殺して泣いた。向こうにいる皆には聞こえないように鼻を啜りながら。

「ぐすっ・・・・・・!情けないよな・・・・・・まとめ役の俺が、えぐっ・・・・・・!あの程度で肝を冷やしてしまうとは・・・・・・」

「ううん、そんな事ない・・・・・・あんなのに追い詰められたら、誰だって心が凍る。あんな恐ろしい経験をしても、蒼真はずっと我慢してた。強いんだね。僕だったら多分、泣き叫んでたよ」

「はっ、俺は強くなんかないさ・・・・・・傷を負わないお前に比べたらな・・・・・・ぐすっ・・・・・・!」

 忠勝はしばらく、蒼真の冷たい体を抱きしめていた。複雑な律動で引き起こる痙攣を受ける度、胸が激しく絞めつけられた。やがて、涙が枯れ始めて呼吸も安定してきた頃

「ふう・・・・・・もう、大丈夫だ・・・・・・浅ましい振る舞いをしてしまったな・・・・・・すまないな・・・・・・」

「気にしないで。僕達は家族なんだから、助け合うのは当然だよ」

 忠勝は微笑んで、優しく蒼真の背中を撫で下ろした。

「この先を行けば、もうすぐ最深部に行き着く。仮面の妖怪も待っているはずだ。多分、さっきとは比べられないほどの壮絶な殺し合いになる。その時が来たら戦える?」

「ああ、お前達ばかりに危険な役目を任せたんじゃ、立つ瀬がないからな・・・・・・」

「よかった。じゃあ、皆の所に戻ろう?その方がもっと安心するよ」

「ありがとうな・・・・・・忠勝・・・・・・」

 蒼真はふっと笑い、小声で礼を言った。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.48 )
日時: 2019/12/18 20:15
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 菱刈鉱山 最深部


 不知火の精鋭達は長期にわたる歩行の末、ようやく鉱山の奥地へと身を置いた。遺跡にも酷似したその場所は、四角い形状をした広々とした空間で天井も空高くにある。中心には妖魔を模った不気味な石像がこちらを見下ろし、正面には上の段差に上るための階段が。更にその先には巨大な金の塊が大量に積み上げられ、眩い輝きを放つ。

「どうやら、ここが最深部みたいだな。長い道のりだったぜ」

 戦斧を両肩に抱え、ゼイルが言った。その目には敵の駆逐を待ち望んだ闘志が宿る。

「ここも誰もいないね・・・・・・?」

 鈴音がオドオドと海李の背中に身を潜め、鉱山に訪れて何度目かの決まり台詞を囁く。

「ファゼラル見て!あんなに大きな金塊、見た事ないよ!凄い!ねえ、凄くない!?」

 ライゼルが貴金属の魅力に憑りつかれ、ファゼラルも微かながら興奮を抱く。

「流石は大和ノ国随一の金鉱山ですね。こんなにも神々しい光景はどこを探しても、僕らの祖国にはないでしょう。これだけの金があれば、どれだけの富を築けるのか?」

「ゆっくり観光させてくれるほど、敵もお人好しじゃないはずよ。私が奴らだったら、躊躇いなくここで待ち構えるわ。もう何が来ようとも驚きはしない」

 千夜は短刀と短筒を両手に、敵の潜伏に適した箇所に気を配る。

「・・・・・・ん?皆、あれ!」

 ふいに忠勝が何かを発見し、人差し指を真っ直ぐに突き立てる。その指の先を追うと、石像の裏側から何かがはみ出ているのが見えた。人間の物と思わしき腕と脚・・・・・・誰かが、像の影で座り込んでいるようだ。

「ひょっとして、あの人が豊久様じゃっ・・・・・・!?」

 未知子が言って全員が駆けつけると、いたのは目蓋を閉ざし微動だにしない1人の若武者。年齢は10代半ば頃で子供とは思えない勇ましい面構えだ。しかし、武士の象徴である髷(まげ)は解かれ、落ち武者の髪型に。肌は黒んで酷くやつれており、体中が傷だらけだった。

「この方が島津豊久殿で間違いないだろう。これだけの酷い扱いを長い間、孤独に耐え抜いていたとは・・・・・・流石は家久様の倅と言ったところか・・・・・・」

 蒼真を哀れみを感じていると同時に尊敬の意も示した。

「探し出せたのはいいとして・・・・・・こいつ、生きてんのか?ちゃんと息してるよな?」

 海李が心配になって、安否を確かめる。千夜は"大丈夫"と頷いて

「お腹が膨らんだり、しぼんだりしているからまだ息はある。でも、かなり危ない状態ね・・・・・・」

「ほとんどは軽い怪我だが、数ヶ所の傷は化膿しちまってる。皮膚も炎症してるし、腹部がむくんでいる。まともな飯すら食わされてなかったんだろうな。間違いなく、栄養失調を起こしてるぞ。このまま放って置いたら、長くても3日が限界だったろうな」

 ゼイルが豊久の怪我の具合を調べ、容態を判断する。

「僕とライゼルは治癒魔法で重傷な部分の治療に当たります!皆さんもその他の応急処置を手伝ってくれませんか?」

「美智子。あなた、爆竹を所持していたわよね?火薬で傷口を塞ぐわ」

「うん、あるよ。はい、使って」

「鈴音、ヒルをくれ。腫れから膿を吸い出すんだ」

「じゃあ、海李くんはそっちをお願い。私はこっちを・・・・・・」

「う・・・・・・うう・・・・・・」

 自身の体が誰かに触れられている感覚に気づいたのか、豊久は寝起きの悪い唸りを漏らした。重そうに細目を開いて精鋭達を拝観する。

「豊久様!」 「・・・・・・豊久様っ!」

「は、はて・・・・・・お主達は・・・・・・?」

 豊久は弱り果てた声で皆に問いかける。

「安心しろ。俺達は敵じゃない。あんたの親父さんに頼まれて、ここまで助けに来たんだ」

 ゼイルが敵意の欠片もない言い方で自分達の目的を明かす。

「ち、父上が・・・・・・?左様か・・・・・・」

 豊久は特に喜ばしい反応をしなかったが、安堵が芽生えたのか、顔を微かにほころばせた。

「我々の素性をお知りになりたいだろうが、今はまずこの鉱山から生きて帰る事だけに専念して頂けませぬか?貴殿に死なれては、父上である家久様に面目が立ちまえぬ故」

 蒼真は生真面目に言って、彼の脚に巻いた包帯をきつく絞める。

「俺のような愚かな倅1人のために・・・・・・すまぬ・・・・・・」

「気にしないで下さい。豊久様は生きる事だけを考えて。絶対に助けますから」

「忠勝くん!何をぼんやりしているんですか!?あなたも医の施しを!」

 夕日が叫んで、必死に手を招く。忠勝は返事をせず、看護に明け暮れる同胞達と距離を置いていた。殺気すら漂わない環境に複雑な違和感を覚え、その手は太刀に触れようと・・・・・・

(おかしい・・・・・・今までの隧道といい、この終着地といい、殺気や気配がほとんどなかった。人質を監禁し、大量の金が眠る重要な拠点なら厳重に見張らせるのが自然なのに・・・・・・敵は僕達の侵入を想定していなかったのかな?それともただ単に人が立ち入らないから予め、警備を手薄にしていたのか?・・・・・・嫌、だとしても変だ。まるで最初から見張りの配置なんて必要としていない。そんな気が・・・・・・まさかっ!)


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