複雑・ファジー小説

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逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/04/03 16:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良くメロディのカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.64 )
日時: 2021/10/26 18:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「やはり、かような反応をなさるのですね。無理もございません。ですが、御安心下さいませ。私は誓って茶に毒など微塵も盛ってはおりませぬ故。あなた方が死に至る事はないでしょう」

 迂闊だった事を後悔したが既に遅く、直に起こるであろう苦痛の症状を覚悟する。しかし、いくら時間が経っても、特にこれといった異常は起きなかった。

「・・・・・・どうやら、彼の証言は正しいみたいですね?この通り、僕達の身に何も変化はありません。お茶に毒が仕込まれていたのが事実なら、とっくに死んでるはず」

 やがて、夕日は冷静に言って、大鎌を降ろした。彼の説得力のある言葉に安堵したのか、精鋭達は戦に出向く際の緊張を緩ませ、武装を解く。

「唖休殿。無作法な形で証明される事になりましたが、あなたは信頼に値する人物であると認識しました。喜んで、話をお聞きしましょう。その前に、あなたと天狗達の関係を詳しく話しては頂けませんか?より、互いの信用を深めるために」

 精鋭達は姿勢を改めると、ひとまずは敵意を鎮める。殺気が漂わなくなった事に唖休も心を許し、続きを語り出した。

「私は七天狗の兄弟ではございますが、実質的な兄弟ではないのです。私の父は嘘偽りなく、茶聖である千利休です。母は妖であって、他の兄弟とは異なり、人間と契りを結んで私を生んだのです」

「他の天狗達とは違って、あなたは異父兄弟というわけね。つまり、"半人半妖"ってとこかしら?」

 美智子は唖休が混血である事を理解し、種族を類を分析する。

「でもよ、結局は天狗の一員なんだろ?どうして、お前は他の天狗達と一緒になって、信長の野望に加担しなかったんだ?」

 海李が、誰もが知りたがるだろう質問を投げかけると

「私は他の兄弟から忌み嫌われていたのです。純血の妖である彼らは、自分達を迫害した人間を、この上ないほどに憎悪しておりました故。そんな人の血を引く私を一族の一員とは認められなかったのでしょう。半妖の私は強力な力はなく、信長公の重臣になれる器ではなかったのです。不幸はそれだけに留まらず、妖の掟を破り、人に恋した母上は妖の掟を破った罰として、処刑されました」

「酷い話ね・・・・・・」

 千夜は、素直に哀れんだ想いを相手に送る。

「私を庇ってくれた唯一の存在は、父上だけでした。父上は、私を人として対等に扱ってくれただけではなく、人の世の様々な文化や習わしを学ばせてくれました。そんな、優雅な日々を過ごしているうちに、人間という優しい種族に好意が芽生え、反対に暴虐や支配で泰平の世を乱す信長公や兄弟達のやり方に反感を覚え始めたのです。父上も私と、全く同じ考えでした。父上は密かに、私を兄弟の元から連れ出し、人里から離れたこの山奥に住まわせたのです。この山にしか自生していない秘草を守護する役目を任せる事を理由の1つとして・・・・・・」

 自身の詳細や、今に至る経緯を一通り話し終えた唖休は、晴れやかな気分になれたのか、微かに笑みを取り戻す。その様子を精鋭達は、目を逸らさずに眺めていた。

「なるほど、色々と教えてくれてありがとう。お陰で君という人物を知る事ができた。でも、こっちとしては、そろそろ本題に入りたいんだけど?君はある悩みを抱えていて、解決するためには、僕達が必要なんだとか?」

 忠勝は精鋭達の長として、それらしく振舞う。時間を無駄しようとはせず、本来の目的である任務を優先する。

「これは失礼致しました。少し、長話が過ぎたようです」

 唖休は簡単な謝罪の直後、再び真剣な表情に切り替えると、その内容を告げる。

「実は、この千燈岳に強力な妖が侵入し、秘草のある山地を支配したのです。更に悪い事に、その際に父上に譲り受けた"鶯巣の桜"をも奪われてしまいまして・・・・・・」

「鶯巣の桜?それは一体?」

 聞いた事がない名前の品にファゼラルが眉をひそめて、詳しく聞こうとすると

「霊石を削り、丁寧に磨き上げて作られた茶器でございます。茶人としても名高い、かの有名な松永久秀公も欲していたこの世に2つとない品であり、私の家宝でもあるのです」

「なるほど、ようは秘草の生えた山地の奪還と同時に家宝である茶器を取り戻してほしい・・・・・・それが私達、不知火を呼んだ理由ね?」

 美智子の確信に唖休は、はっきりと頷く。

「あなたの仰る通りでございます。他者の命を危険に晒させるのは良心が痛みますが、頼みの綱はあなた方だけなのです。どうか何卒、私の抱えた難題を解決に導いて下さいませ」

「でも、唖休さんは、この千燈岳の守護者なんでしょ?どうして、君自身の力で取り返さないの?」

 畏まって頭を下げる妖に、忠勝が不意に思った事を問いかける。

「先ほども申し上げましたが、私は所詮、半人半妖。恥ずかしながら、争い事は得意としない小心者でして・・・・・・」

「・・・・・・どうやら、ここに来てから胸につかえていた悪い予感が当たりそうだな」

 蒼真が発した意味深な言葉に、全員の視線が彼に向けられる。彼は先ほどから胸騒ぎを感じていて、それが的中したのだと悟った時、ある推測を口にする。

「いくら、人間の血が混ざった不完全な妖とはいえども、多彩な知識と強力な高等妖怪の血を引くあんたが並みの妖怪に恐れを成すとは思えん。事実、美智子の折り鶴を恐れもせず、籠に捕えてしまうくらいだからな。誤魔化さずに答えろ。千燈岳を乗っ取った妖怪の正体は唖休。お前の兄弟だな?」

 敵の詳細を指摘した内容に不知火達は落ち着きを失い、ざわめき始める。

「はい。千燈岳を襲撃し、秘草の自生地を占領したのは紛れもなく、私の兄です。兄上は今でも、秘草の回収に着手し、織田政権の領土へと運び出そうとしている頃合いかと」

「七天狗が、こんな所にまで・・・・・・!」

「先に立ちはだかる敵は七天狗の1人と来たか・・・・・・道理で俺達という戦力が頼られるわけだ」

 鈴音が不安に煽られる一方、ゼイルも解けない緊張に縛られる。

「お前、一族に仲間外れにされていたとはいえ、一時的にあいつらと生活を共にしていたんだよな?だったら、七天狗の奴らについて色々知っているはずだ。お前の兄貴である天狗は、具体的にどんな奴でどういった能力を操るんだ?」

 海李ができる限り、敵の詳しい情報を聞こうとするが、判明したのは名前だけで最も重要な点については不明のまま、真相は明かされず終いに。

「名は"闇千代(やみちよ)"。七天狗の中では三男に当たり、あなた方が菱刈の金鉱山で殺めた紬の次に最年少の高等妖怪でございます。しかし、話せる事は容姿くらいで、どのような能力を秘めているかまでは、私にも知り得ない謎なのです」

「え?謎って・・・・・・ずっと、一緒に過ごしてたんじゃなかったの?だったら、どんな能力を使うくらい、知ってるんじゃ・・・・・・」

 失望を隠せないライゼルに、唖休は申し訳なさそうに

「兄上は普段、物静かで表情すら滅多に変える事はありません。口数も少なく、掴み所のない性格故に他の兄弟達からも変わり者扱いされていたのです。唯一、特徴を挙げられるとすれば・・・・・・私同様に茶道と薬草学の心得があるというくらいでしょうか・・・・・・」

「弱点を探すには、有力になり得ない情報ね」

 望みが叶わなかった千夜も、やる気のないため息をつく。

「どれだけ、弱みが把握できない敵を相手にしようと、不知火に仇名す者は斬らねばならない。泰平の世を築くためには必ずや滅せねばならない相手です」

 夕日の奮起が不知火達の命を懸ける覚悟を定め、戦意を高めさせる。忠勝が皆を代表し、承諾を告げた。

「唖休さん。あなたの頼みは、不知火がしかと聞き届けた。僕達は、これから闇千代を抹殺に出向く。事態が収まるまで、君にはここで待っててほしい」

「心から感謝申し上げます。兄上のいる秘草の山地は、庵の裏に伸びた坂道を登っていけば辿り着けるはず。どうか、私の代わりに兄上の凶行をお止め下さい。ご武運をお祈りしております」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.65 )
日時: 2021/10/26 18:56
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 夕日色の空が夜に変わりつつある逢魔が時。千燈岳の奥地は、遠くの山の麓(ふもと)にある林に囲まれ、歩行に苦労しない平らに近い斜面が広がっていた。 中心には細い木が1本、祀られているように生えており、その下には古く小さい祠が建つ。辺りには、見知らぬ草花が一面に咲き乱れており、精神の高揚を鎮める甘い香りが空気中に漂っていた。

 不知火の精鋭達は、そんな草原の野草に囲まれながら、更に奥へと進んで行く。山地は静かで、そよ風で葉が揺れる音以外は聞こえない。興奮を忘れてしまうほど、安らぎを誘う空間が心地いい。

「いい香りを放つ野草がいっぱいあるわね。ここは、不思議と心が洗われるわ」

 美智子が無数に生えたそのうちの1つから花を摘み取り、鼻の元へ運んでじっくりと香りを味わう。

「恐らく、これこそが唖休さんが僕達に煎じて飲ませた秘草なのでしょう。不治の難病や怪我を癒す妙薬の材料が、これだけあるんです。道理で織田政権に狙われるわけですね」

 ファゼラルは秘草に構う事なく、淡々と述べる。

「え!?もしかして、これ全部がっ・・・・・・!?」

 信じられない光景に鈴音は瞳孔を細め、閉ざせない口を覆う。

「ここに生えるもん全部使ったら、かなりの量の薬の山が生産できる。確かに、これだけのもんを医療物資に活かせば、不知火復旧の大きな貢献になる事は確実だな」

 ゼイルも秘草の量から、想像と確信を膨らませ、やがては納得する。

「皆、油断しないで?ここは既に敵の領分だよ。このどこかに七天狗の1人である闇千代がいる・・・・・・敵はどんな卑劣な手段を取って来るか・・・・・・」

 先頭に立つ忠勝が、いつでも抜刀できる姿勢で、緊張が緩んだ仲間の気を引き締めさせた。

「忠勝の言う通りよ。ここに足を踏み入れた時点で監視されてるのかも知れない。いつ、襲撃に遭うか予測できないわ」

 千夜も余計な考えは捨て、辺りを厳しく警戒する。

「・・・・・・ねえ!あそこの祠!」

 ふと、ライゼルが指を差して叫んだ。その先にあったのは木の根元にある小さな祠。神棚には小さな光が宿り、美しい薄緑色の輝きを放っている。

「ひょっとして、あれが鶯巣の桜じゃ・・・・・・?」

「よく分かんねえけど、そうなんじゃねえのか?利休から貰った家宝の茶器って、霊石で作られたって唖休が言ってなかったか?」

 海李がいい加減な予想で、曖昧な記憶を遡る。

 その刹那、秘草の草原に異変が起こった。突如、どこからともなく黒い影が現れたか思うと妖怪の原型となり、忠勝達を取り囲んだ。予め、身を潜めていたらしい屍の武士の群れも秘草の茂みから次々と姿を晒す。そして、灰色の霧が唯一の帰り道である元来た山道を塞ぎ、逃げ場を遮る。

「ようやく、お出ましか・・・・・・」

 気配さえも感知できなかった伏兵に、蒼真が目と声を鋭く、冷静沈着に妖刀を抜く。他の精鋭達も武器を構え、八方から対抗できる円型の陣形を築いた。

「烏天狗が2匹、大蜘蛛が3匹・・・・・・後は骸兵が数十人ってとこかしらね」

 敵の詳細と数を迅速に計算する。

「随分と粗末な編成部隊だな?マジで俺達を殺す気あんのかよ?」

 期待外れの敵勢にゼイルは実につまらなそうに、大剣の刀身を肩に担ぐ。

「鈴音!俺が守ってやるから、俺達の武器の威力が増す音色を奏でてくれ!」

「う、うん!分かった!」


「キシャアアア!!」


 骸兵の群れが耳障りな奇声を上げて前方から襲い掛かる。肉の腐った顔から汚らしく、大半が抜け落ちた歯を剥き出しにし、刃先を向けて突進した。そして、不知火の精鋭達を八つ裂きに・・・・・・しなかった。

 彼らの胴体の位置に一線を光が横に過った。その直後、数人の骸兵の全身が半分に切断され、体内の臓器をさらけ出す。臭く汚れた血を撒き散らし、骸は二度目の死を迎えた。

 複数の遺体の前には殉聖の太刀を当てておらず、振るった仕草だけをしていた忠勝の威圧的な表情。敵を侮っていた慢心は砕かれ、並外れた剣技に妖怪達は人間相手に恐怖した。目の当たりにした脅威に無意識に後へと引き下がる。

 精鋭達はこの機を逃さず、先手を打った。少数の強者が大群に斬り込んだ時、鈴音の笛の音色が山地全域に響き渡る。

「うおりゃああ!!」

 戦の本能を燃やすゼイルは雄叫びを上げ、大剣を豪快に振るう。力任せの勢いで叩きつけた刀身は、鉄板の鎧などものともせず、紙を千切るかのように骸兵を容易く切り裂いた。更に全身の回転と共に剣を振り回し、近くにいた2体の首をまとめて刎ね飛ばす。

「火よ、全ての雪を溶かし尽くせ!『ファイア』!」

 ファゼラルも負けずと魔術で奮戦する。タロットカードが放った烈火の波が複数の妖怪を一気に飲み込み、火だるまの地獄絵図を描く。

「小癪ナ・・・・・・!」

 烏天狗は黒く禍々しい翼を広げ、羽を散らして空を舞う。錫杖を突き立て、目にもとまらぬ速度で横から回り込み、無防備な隙を突こうとした。

「我を守る盾となれ!『シールド』!」

 しかし、突如張られた結界に直撃間近だった錫杖を妨げられ、烏天狗は弾き返された。

「ギャアッ・・・・・・!?」

 何が起こったのか分からぬまま、地面に転げ落ちる妖。痛感に耐えながら首を起こすと、兄と同様、タロットカードを持つライゼルが勝ち誇った表情を浮かべていた。

「ライゼル!助かりました!」

「へへん、お互い様だよ!支援は任せて!」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.66 )
日時: 2021/12/05 21:15
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「がっ・・・・・・!」

「ぎゅびっ・・・・・・!」

「げぇっ・・・・・・!」

 蒼真は妖刀を自在に振るい、骸武者を丁寧に葬っていく。鋭い刀身は敵の刃と重なる事なく、鮮やかに急所を絶つ。その度に肉を裂かれる音がして、言葉にならない遺言が次々と言い放たれた。

「シャアアア!!」

 骸武者の1人が背後から襲い掛かる。しかし、上手く不意を突いたつもりでも蒼真に対しては、意味のない策略だった。あっさりと返り討ちに遭い、槍は柄半分から切断され、挙句に首を鷲掴みにされた。喉を圧迫され、為す術なく手足をわさわさと動かして妖はもがく。

「死に絶えろ」

 蒼真は殺意に満ちた眼差しで 一言を口にする。その瞬間、骸武者は燃え上がり、狐火の烈火に包まれる。芯まで焼き尽くされた焦げた体は原形が崩れ、黒い遺灰と化す。

 隣では夕日が烏天狗と一騎打ちの戦闘手法を取る。戦況を有利にするために、烏天狗は遠距離戦という戦法で、妖術で編み出した風の斬撃を複数飛ばした。 夕日は余裕の笑みで大鎌を軽々と振るい、風の刃を弾いて、その全てを防ぐ。

「くすっ・・・・・・甘いですね」

 夕日は楽しそうに言って、大鎌を下段に構えて一気に斬りかかる。 烏天狗も使い慣れた錫杖を巧みに振り回し、負けずと応戦した。互いに敗北を譲らず、長い柄の武器同士が幾度も幾度も重なっては金属音が鼓膜に痛感を及ぼし、大量の火花を散らす。

 互角の斬り合いに埒が明かないと判断した烏天狗は、後ろへ大幅に飛び下がった。黒く禍々しい翼を羽ばたかせ、空へと移動すると妖力を旋風のように体に帯びさせる。

「キエエエア!!」

 次の瞬間、烏天狗は狂ったような奇声と共に上空から急下降し、夕日めがけて突進する。目にも止まらぬ疾風の速さで繰り出される渾身の一撃。錫杖の先端が光線の如く、相手の心臓部に突き刺さる。

 しかし、相手を胴体を貫いた手応えは感じられなかった。それもそのはず。錫杖が刺さる直前、そこに立っていたはずの夕日の姿が消えたのだから。

「クェ・・・・・・!?ドコニイッタ・・・・・・!?」

 標的を見失った事に訳が分からないまま、辺りをキョロキョロと見回す。ふいに背後から気配が漂い、とっさに振り返ると仕留め損なった夕日がいた。

 自身の攻めが呆れるほど、通用しない事にギリッとくちばしを噛みしめる中等の妖。その悔しさを見て優越感に浸る夕日の脚に擦り寄る狼の守護霊。主人に懐き、温和な表情で高い唸りを上げる。

「さあ、"忌龍丸(きりゅうまる)"。出番です。久々にあなたの力を貸して下さい」

 忌龍丸と呼ばれた狼の守護霊は長い遠吠えを上げた。黒い猛獣は稲妻状の漆黒へと姿を変え、大鎌に纏わりつく。三日月の刀身は変形を遂げ、紫の妖々しい輝きを宿して、より巨大で鋭利な刃を生み出した。 

 再び、両者がぶつかり合う。互いの攻撃を交えた途端、これまで以上の耳障りな金属音が一度だけ鳴り響いた。強い衝撃に耐えられず、腕の位置が強制的に空がある方へとずらされる。錫杖が宙高く舞い上がり、転がりながら落下しては、やがて、地に深く突き刺さった。

 怪訝になった烏天狗の目に映る夕日は、無邪気にな笑みなど浮かべていなかった。その形相は容赦なく獲物を狩ろうとする狼そのもの。相手が丸腰だろうとも無慈悲にもう一振りを喰らわせる。

 黒い翼と両腕が同時に切断され、血飛沫が飛んだ。妖は気が遠のく痛感のあまり、悲鳴すら上げられなかった。途切れ途切れの声を漏らし、苦しみの絶頂に達した顔を硬直させる。直後に大鎌に胴体を貫かれ、上半身と頭部を真っ二つに裂かれた。


 数匹の妖怪が不知火の士気を崩そうと、笛吹きで無防備になっている鈴音への襲撃を謀った。 しかし、正面に精鋭の1人が立ちはだかり、行き先を阻む。先頭にいた骸武者の顔面に太い棒がめり込み、頭蓋骨が砕け散った。

「鈴音には、指一本触れさせねえぞ!お前らの相手は俺だ!かかって来い!」

 太鼓の鉢を片手に剣技の構えを取りながら、海李が鬼の剣幕で怒鳴りつけた。無勢で多勢を相手に後に退く事はなく、鈴音の盾となる。

 襲って来た先頭の新手をはちで叩きのめし、蹴飛ばして背後にいた集団をまとめて薙ぎ倒す。横から回り込んで来た次の敵の斬撃を弾き、鋼の刀身を折ると、固く握りしめた拳を骨が剥きだしになったの頬に打ち込んだ。千切れた腐った頭部はどこからの草むらに落ち、首なしとなった胴体は血を吹き出しながら正座に似た形で横たわる。

 隙を突こうと、次の骸武者が薙刀を突き出し、突進して来る。海李は体の向きをずらし、刀身を擦れ擦れにかわすと、同時に柄を掴んだ。長刀を奪い、柄を顎にぶつけて怯ませたところを胸板を捕らえて豪快に背負い投げる。頭部が地面に当たり、硬い土と陣笠に圧迫され、頭部がグシャッ!と音とを立てて、潰れた。

「・・・・・・いっ!?」

 ふいに白髪のような束が絡まり、上半身を両腕共々縛りつけられた海李の表情が強張る。それは大蜘蛛が吐き出した粘着性の強い糸の束だった。

「し、しまった・・・・・・!くそっ・・・・・・!」

 糸を解こうにも、体の大半の自由を奪われ、思い通りに身動きができない。必死に抗うが、相手は大型の妖怪。力の差は歴然だった。すぐさま脚が崩れ、血肉に飢えた口元へと引きずられていく。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.67 )
日時: 2021/12/16 19:31
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 その時、海李の体に無数の真っ直ぐな亀裂が描かれる。ズバッ!ズバッ!と切り裂く音が連鎖するが、人体は傷つかず、糸だけが切れて剥がれ落ちた。厄介な拘束が解かれ、自由の身となる。

「お怪我はありませんか!?」

 夕日が海李に手を差し伸べ、体を起き上がらせる。

「危うく、妖怪の腹に収まるとこだったぜ!あんがとよ!」

 そこへ蒼真もやって来て

「鈴音を狙う脅威は去った。俺達で大蜘蛛を狩るぞ?手を貸してくれ!」

「おうよ!後方支援は物足りねえが、任せとけ!」

 蒼真と夕日は大蜘蛛に向かって、勢いよく走る。妖は2人を捕らえ餌食にしようと、再び、糸を吐こうとした。

「させるかよ!」

 同じ手を食わさせまいと海李が太鼓を叩き、雷鳴を響かせた。落雷が直撃し、電流を帯びた大蜘蛛は巨体を麻痺させ、アガガガガ!と痺れた唸りを上げる。

 夕日と蒼真は正面を叩こうとせず、二手に分かれた。そのまま突っ切り、目にも止まらぬ斬撃を繰り出して、8本の太い脚を左右同時に切断する。切断面から紫色の体液が吹き出て、支えを失った重い胴体が地面を圧迫した。

「オ・・・・・・オオ・・・・・・」

 大蜘蛛は凶暴な狩猟本能を喪失し、緑の泡を吹く。満足な悲鳴さえも上げられないまま、妖刀と大鎌によって腹部を四等分に切り裂かれ、呆気なく止めを刺された。


 千夜は忍びの技を生かした俊敏な動きで秘草の草原を駆け抜ける。多勢の骸武者と1匹の大蜘蛛が彼女を無惨に殺めようと追跡していた。

 千夜は短筒を両手に召喚し、足を浮かせて跳ね上がると、回転するかの如く後方に背を覆した。瞬時に狙いを定め、2発の属性弾を発砲する。

 火遁が着弾し、火柱をまともに喰らった骸武者の燃えた肉片が飛び散る。そこへ風遁の竜巻が加わり、火は油を注がれたように勢いよく燃え広がった。妖の群れは甚大な被害を被った上に追撃を阻まれる。正面を向き直った千夜はニッと微笑し、再び駆け出した。

 やがて、彼女が行き着いたのは山の麓付近にあった森林だった。振り返ると、妖怪の群れは懲りずに追い回して来る。千夜は、そんな追っ手に対して蔑んだ視線を送り、薄暗い森林の奥へと消えた。

 一足遅れて、妖怪達もゾロゾロと森林の内部へと足を踏み入れる。刃先を向け、荒い吐息を吐きながら、獲物を探し回った。しかし、あらゆる所を向いても、千夜の姿は見当たらない。

「ぎゃぇ・・・・・・!」

 妖怪達が反射的に枯れた悲鳴がした方へ目をやると、1体の骸武者の首が転げ落ち、胴体が横たわる。突然に味方を殺され、警戒態勢に入る妖怪達。しかし、どれだけ辺りを見回しても敵の気配はなく、草木の風景しか捉えられない

「ぐごっ・・・・・・!」

 2体目の骸武者が犠牲となった。続いて、3体目、4体目と見えない凶刃の手にかけられていく。一瞬、残像が見えたが、風に引けを取らぬ速さで木々の上を行き来するため、すぐに見失った。

 八方を用心する中、枝から散った木の葉が頭上に降り注いだ。即座に殺気を察し、大蜘蛛は真上へと糸を吐き出す。白い繊維の束は見事命中し、捕えた標的を地面へと引きずり下ろした。硬い地面に叩きつけられ、糸の帯が絡まった千夜が痛そうに蹲る。

「キシャアアア!!」

 惨殺の機会が巡り、骸武者は一斉に甲高い奇声を上げた。人には抱けぬ獣の殺意を露わにし、一気に襲いかかる。降り注いだ刀や槍の雨が千夜の体を切り刻み、鮮血の返り血を浴びた。

 骸武者の群れが凶行を終えた頃、千夜は惨たらしい遺体と化していた。体は大方、原型を留めておらず、胴体からはグチャグチャにされたあらゆる臓器が漏れ出していた。精神を恐怖に蝕まれた表情で目に光は宿っておらず、口からは大量の血が溢れ出ている。

 妖怪達は一層、騒々しい奇声を森林一帯に響き渡らせ、勝利を宣言する。命を殺めた快感と慢心に我を忘れかけたその刹那、その中の1体の骸武者が異変に気づく。

 千夜の遺体が白く変色し、煙となって消え去ったのだ。怪奇現象を次々と目の当たりにし、昂ぶった興奮が鎮まる。その場にいた妖怪は沈黙し、呆然と遺体があった場所を凝視していた。森はしーんとした静寂だけが漂う。不気味すぎるぐらいの静けさだ。

 ふと、木々の遠くから風が吹く音がした。妖怪達は気にも留めなかったが、その無関心が直に違和感へと移り変わっていく。最初は緩やかに聞こえていた風音は徐々に嵐のように激しさを増し、草や葉、細い枝が空高く舞い上がっていく。

 奥の方から白い鳥に似た何かが、群れを成して迫り、白い鳥の群れは瞬く間に妖怪達を飲み込んだ。銃弾に匹敵する高速のくちばしに全身を貫かれ、肉体のみならず武器、鎧さえもあやゆる物の形が粉砕される。悲痛の叫びを上げる猶予さえも与えられない、あっという間の出来事だった。

 骸武者は全滅し、大蜘蛛も全身におびただしい傷穴を作り、気色悪い色をした血液をドロドロと零す。やがて、力尽きた肉体が倒れ、死体の数を増やした。

 殺戮劇の一部始終を2人の忍びが木の太い枝に足を乗せて眺めていた。数が勝っていた妖怪を一遍に壊滅に追い込んだ白い鳥の正体は、美智子の固有能力である降神忍法の奥義、『千羽嵐穿舞』であったのだ。

「こいつらもバカよね。森林は忍びにとって、最も有利な戦術を発揮できる場所なのに。そんな事も知らないで、不用意に追いかけてきちゃうなんて・・・・・・ねっ?千夜ちゃん」

 美智子が倒した敵を小馬鹿にして、千夜に対してはニコニコと馴れ馴れしい笑みを浮かべた。

「そうね。わざわざ、変わり身の術や降神忍法の奥義を使うまでもなかった。でもまあ、そこそこいい腕試しにはなったわ」

「千夜ちゃんの変わり身の術!凄かったよ~!私もあんな凄い忍術、使えるようになるかなっ!?」

 称賛と尊敬の的にされても、千夜は照れる事なく

「だったら、忍びの訓練をサボらないで精進に励む事ね。こっちは片付いた。さっさと忠勝達と合流しましょう」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.68 )
日時: 2021/12/23 20:17
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2345.jpg

「キエエエエ!!」

 敵のしぶとさに苛立った烏天狗が力任せの錫杖を大振りに叩きつける。ファゼラルとライゼルは二手に体の位置をずらし、容易に打撃をかわした。妖の攻撃などものともせず、相手を翻弄する。

 烏天狗は続けて発狂し、ライゼルを集中的に狙う。

「我を守る盾となれ!『シールド』!」

 タロットカードで召喚した盾が連撃を防ぐ。物理を生かした破壊力のある攻撃だろうが、結界の前では一切、歯が立たなかった。冷静さを失った妖怪は目の前の標的に気を取られ、もう片方の存在を忘れ 背後に回り込まれてしまう。

「木よ!彼の者を封じ込め!『ウッド』!」

 ファゼラルがタロットカードを前にかざし、呪文を唱える。烏天狗が立っていた足元が盛り上がり、土から木が突き出るように生え出てきた。それが太い蔓のように烏天狗の体に絡みつき、身動きを封じ込める。

「ライゼル!今です!」

 兄が攻撃を指示し、ライゼルは躊躇いなく、タロットカードをかざした。

「我の思う者を撃ち抜け!『ショット』!」

 ライゼルが呪文を唱え、無数の魔弾を放つ。弾幕で身を削られ、烏天狗は血と肉片を撒き散らした。体の至る所を吹き飛ばされ、既に事切れていた亡骸がドサッと横たわる。

「うりゃあああ!」

 ゼイルが大声を張り上げ、力のこもった斬撃を縦に振り下ろし、大蜘蛛の胴体を裂いた。凶暴な動きが弱まった機に乗じ、忠勝も殉聖の太刀で両断する。刎ねられたばかりの妖怪の巨大な頭部は命を残していたものの、直に眼球の光が淀んだ。

 戦が幕を下ろし、鈴音の奏でる美しい音色が止む。精鋭達の足元や周辺には、返り討ちにされた妖の亡骸が転がり、全員が事切れていた。

「これで全部か」

 大剣にべっとりと付着した血を払い、ゼイルが物足りなさそうに言った。

 ちょうどそこへ、千夜と美智子も戻って来た。仲間1人1人に視線をやり、安否を確認する。

「全員、無事?怪我をした人は?」

「いや、全員無傷だ」

 蒼真が言って、海李が調子よく拳を握った腕を掲げて

「大蜘蛛に捕まっちまったが、この通り血は出てないぜ?この程度でやられてたんじゃ、不知火の立場が泣くってもんだ」

 危機に瀕していたにもかかわらず、何事もなかったような自慢に忠勝を含む数人が静かに笑った。

「たくさんの妖怪を倒したけど、肝心の七天狗は現れなかったね?ここにはいないのかな?」

 ライゼルが首を傾げ、鈴音がやるべき事を促す。

「なら、早く鶯巣の桜を唖休さんの元に返しに行こうよ!」

 だが、その中で1人、ある事を口にした。

「・・・・・・いえ。どうやら、そういうわけにはいかなくなりそうですね。ようやく、"真打ち"のご登場のようです」

 妙な発言をした夕日。忠勝達は緩んだ表情を一気に強張らせ、同じ方向に凝視を集めた。

 鶯巣の桜が納められた祠の前にいつの間にか、人の姿を模った何者かがが立っていたのだ。実体を映し、その場にいるにも関わらず、気配がまるで感じられない。

 その人物は長い髪を白い紐で結って、背中まで垂れ下げている。体は痩せ細っていて、肌は雪のように白く染まっていた。前に降ろした髪で左目を覆い隠している。巫女装束に似た上着が白、下着が青の和服で身を包む。

 手に包んだ秘草の花をじっと、見つめている。まるで心を通じ合わせているかのように。精鋭達の事など目にも暮れず、顔を合わせようとすらしない。

「お前が闇千代だな!?」

 忠勝が確信を持った上で声を荒げる。殉聖の太刀を中段に構え、相手の出方に備えた。しかし、返って来た返事は

「・・・・・・」

 無言だった。精鋭達は魚鱗の陣形を築き、前へ前へ追い込むように、じりじりと間合いを詰める。

「泰平の世のため、お前を亡き者にする。悪く思うな?」

 蒼真が殺害を宣告し、脅しをかけた。すると

「流石は室町の影の兵団である不知火・・・・・・並の妖怪では、役不足か・・・・・・」

 少年はブツブツと物静かな声で始めて口を利いた。こちらを振り返ろうとはせず、秘草の花を見つめたまま、仕草を固めている。

「俺達、不知火を敵に回したのが、間違いだったな?ここがお前の死に場所だ。素直に斬られるってんなら、楽に殺してやる」

 ゼイルも相手の戦意を挫こうと威圧感を与える。しかし、闇千代は動揺の兆しすらなく

「こんなに近くにいたのに・・・・・・君達は僕の存在にすら、気づけなかった・・・・・・そんな君達が僕を殺すって・・・・・・?人を笑わせるのが、器用なんだね・・・・・・?」

「何だとぉっ!?」

 挑発に逆上し、前に出ようとした海李を美智子が手で阻んで宥めさせる。闇千代は無表情を崩さず、こうも続けた。

「むしろ、ここが君達の死に場所になるんだよ・・・・・・この秘草の草原は、僕の能力を最大限に引き出せる最高の表舞台なんだ・・・・・・今までの君達の戦いを見せてもらった・・・・・・けど・・・・・・僕の手駒の殺気にだって、気づく事ができなかった・・・・・・訳を知りたい・・・・・・?辺り一面に咲き乱れる秘草の花の香りのせいだよ・・・・・・」

 闇千代の種明かしに夕日は最初から察していたような言い方で

「やはり、この秘草のせいでしたか・・・・・・この花が放つ甘い香りは、あらゆる者の正常な神経を麻痺させて、知覚や感覚を鈍らせる・・・・・・だから、ただの妖の気配すら察知できなかったんだ」

「君達の立場はもう、蜘蛛の巣にかかった蝶に等しい・・・・・・逃れられない網の中で藻掻いて死んでいくんだ・・・・・・"互いに憎み合い、殺し合いながら"・・・・・・」

 聞き捨てならない意味不明な語尾の台詞に、精鋭達は"どういう事だ?"と言わんばかりに目つきを鋭く、怪訝になる。

「君達が自ら死の舞踊を踊る様を、近くで傍観しててあげる・・・・・・さっきの殺戮演舞よりも、ずっと面白いだろうから・・・・・・」

「さっきから、ふざけた事を言ってんじゃねえ!!」

 戯れた態度に怒り狂ったゼイルが怒鳴りつけ、単身で斬りかかった。


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