複雑・ファジー小説
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- 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
- 日時: 2019/04/03 16:38
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。
今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。
【ストーリー】
天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・
その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・
天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・
【主な登場人物】
本多忠勝
物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。
柳生宗厳(石舟斎)
柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。
織田信長
第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。
紅葉
信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。
七天狗
信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。
【不知火の一員】
鈴音
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。
海李
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている
杉谷 千夜
不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。
滓雅 美智子(おりが みちこ)
不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。
ファゼラル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音のカードで伴奏を流して上げる事も。
ライゼル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。
ゼイル・フリード
不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。
蒼月 蒼真(そうつき そうま)
不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。
箕六 夕日(みろく ゆうひ)
不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。
【用語】
殉聖の太刀
忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。
不知火
忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。
夜鴉
不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。
妖怪
日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。
大和ノ国
物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。
・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・
桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。
以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.74 )
- 日時: 2022/03/03 20:10
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
安土城 天守閣
城の最上階の天守の間に妖達が集う。いつものように部屋の両脇には七天狗の姉弟達。その向かいには鬼女の紅葉と息子の経若丸の姿が。そして、最奥の玉座に悠然と座り、脇息に片腕を預けて豪快に酒を飲む魔王信長。狭い玉座の部屋はこれまで以上に重苦しく、殺気に似た気配が空気中を漂い神経が痛痒い。
末っ子の紬を亡くし、6人だった天狗の列は、また1人と人数が欠けて5人となっていた。天狗達は涙を流しては、泣き声を抑えず、闇千代の死を嘆き悲しむ。その様子を母の隣に身を置き、哀れんだ顔で眺める経若丸がいた。
「お主らの通夜に付き合うのも飽き飽きしたわ・・・・・・」
信長が不味そうに酒を飲み干し、また新たな1杯を注ぐ。口調は呆れていたが、赤黒い眼光は鬼をも恐れ戦かせるほどの猛烈な怒りを宿していた。
「天狗達よ?儂は、お主達に多大な期待していた故に日ノ本各地の拠点の支配を任せておったのだ。されど、新たな報が届いたと呼び出されたかと思えば、三男が討ち取られる始末。儂がどれだけ、失望に心が病んでおるか解せぬか?」
天狗の長女である叉岼は、非情な言葉に悲しみに追い討ちをかけられようとも、反抗心を押し殺し、正座のまま1つ前に出た。固い床に額を圧迫し、主君への反省の意を示す。
「申し訳ございません!重臣の地位を与えられながら、期待を裏切る失態の数々をお許し下さいませ!この汚名は必ずや、晴らし・・・・・・!」
「・・・・・・ええいっ!黙れぇ!!」
信長はついに逆上し、理性が微塵もない凶暴な本性を露にした。脇息を押し倒し、勢いよく立ち上がると、持っていた盃を力任せに投げつける。盃は叉岼の頭部に当たり、硬い物同士がぶつかる痛々しい音が鳴った。零れた酒が髪を満面に濡らし、毛先から顔に滴り落ちる。
一部の天狗達は酷い仕打ちを受けた長女の元へ駆け寄り、その身を案じる。それ以外は魔王の逆鱗に怯え切って、足を引きずり遠ざかった。
「あと何人、兄妹を失えば気が済むのだっ!!貴様らは千匹の鬼に匹敵する高等な妖怪の類であろう!?それが不知火と言う、ただの人間風情の集まりに易々と首を差し出すとは、どういう事だっ!!貴様らの失態はただの敗北ではない!!二度もしくじったが故に九州は我が属領ではなくなったのだぞ!!今頃、あの地では島津の勢力が我が創りし天下を焼き尽くそうと戦の手筈を整えておるわっ!!」
「・・・・・・信長。ちょっと、いいかしら?」
紅葉は実に冷静になって、信長の大喝に横槍を入れる。
「何じゃっ!?今は貴様とは話をしとうない!!そこで黙しておれ!!」
と関わりを否定されたが、紅葉も後に退こうとはせず、威圧に負けずと信長を睨み返した。
「天狗達に八つ当たりし過ぎよ。前回の件も、今回の件だって、天狗達の働きに落ち度なんてなかったと思うわ」
「何じゃとっ!!貴様ぁ・・・・・・!!この出来損ないの輩の肩を持つつもりかっ!?」
「ええ、そうよ。実際、彼らは出来損ないではないのだから。二度の敗北で1つだけ、分かった事があるわ。信長。あんたは今、不知火がただの人間風情の集まりだと言ったわよね?あり得ない。もし、本当にそうなら紬や闇千代がことごとくやられるはずないもの」
「解せぬ!お主は何を申したいのだ・・・・・・!?」
信長は声を尖らせるも、紅葉の意味深な証言に多少は怒りを鎮める。
「ちゃんとした確証は持てないけど、不知火には並みの人間の武力を遥かに凌ぐ猛者達が大勢いるに違いないわ。あの組織は付喪神、守護霊・・・・・・そして、妖までも兵として加えているという噂も聞いた事がある。もし、それが事実なら高等妖怪の力を持ってしても、敗北を喫してしまうのも説明がつくわ」
「不知火は壊滅したはずじゃ!儂が足利の一族を皆殺しにし、影の軍隊共々ことごとく葬ってやったわ!今の不知火に、そのような力が残っていようか・・・・・・!?」
「滅ぼしたつもりと言っても、1人残らず皆殺しにしわけじゃない。もし、生き残った猛者達が再び集い、日ノ本各地で暗躍しているのだとしたら?そして再び、不知火の復活を目論んでいたとしたら?」
紅葉の証言は疑いようもないほど、高い信憑性があった。彼女の推測を聞かされた信長は自身が抱いていた過ぎた慢心を深く思い知らされたのだった。
「このような一大事に気づけぬとは・・・・・・儂とした事が、知らずと足元をすくわれておったというのか!?・・・・・・おのれぇ!!日ノ本の住まう者全てを服従させる魔王であるこの儂を愚弄しおって!不愉快!実に不愉快じゃっ!!」
再び、逆鱗を身に纏った信長は八つ当たりの矛先を今度は紅葉に向ける。
「紅葉っ!!貴様には、前々から不知火の足取りを追わせていたはずじゃ!!それが今に及んでも尚、鼠一匹の尻尾すら掴めぬとは!今まで、どこで遊び呆けておったのじゃ!?」
紅葉は心外な発言に逆上の意を抱きかけた。いくら受け流そうとも込み上げてくる苛立ちに耐え、忠実な配下を演じ続ける。
「(・・・・・・言いがかりもほどほどにしてほしいわね。)城にいない間は、ずっと不知火の行方を追っていたわよ。でも、流石は日ノ本最大の武装組織ね。武力だけではなく、敵の目を欺く事にも長けている。この私の力を活かしてさえも、一筋縄ではいかないわ」
「言い訳など耳に入れとうないわ!忌々しい不知火の残党を見つけるまで、儂の前に現れるでない!次に失態の報を届けてみよ!お主の倅を八つ裂きにしてくれるわ!!」
それを聞き、経若丸の表情に絶望的な恐怖が宿り、床を這うような形で母の背中に隠れてしがみつく。我が子を殺すと脅された紅葉は理性の大半を失い、妖刀に手を伸ばしかけたが、僅かな理性が凶行を躊躇わせた。
「貴様らはいくら大鬼も青ざめる強力な妖と恐れられていようが、所詮は小童ばかりじゃ!!世の覇者に相応しいこの儂に幾度も恥をかかせおって!!このような名ばかりだけの未熟者共に頼り切っておった自分が恥ずかしくてたまらんわ!!」
信長は好き放題に暴言を吐き散らすと酒瓶を床に叩きつけ、粉々に打ち砕いた。恐れ戦き、頭を低くする天狗達、怯えた経若丸を腕に包む紅葉に挟まれた間をドカドカと渡り、天守閣を後にする。
「経若丸を殺すですって・・・・・・たかが、妖血を取り込んだだけの人間風情が・・・・・・!!もし、そうなったら信長・・・・・・あんたの腸を掻っ捌いてやるわ・・・・・・!!」
紅葉は声を鋭く、遂に抑え隠していた本性を露にする。その時の鬼女の憤怒は魔王の逆鱗を遥かに凌いでいた。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.75 )
- 日時: 2022/05/29 20:46
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
1ヶ月後・・・・・・
(忠勝の日記)
不知火の活躍によって、遂に九州は属領と言う足枷が外された。
あの地の解放は織田政権にとっても、大きな痛手になった事は間違いないだろう。
この吉報は日ノ本各地に伝わり、民草は平穏の礎の訪れを謳歌しているようだ。
そしてここ、大和国の隠れ家でも、組織の復旧は大幅に進展している。
田畑が増えた事で農業が大幅に盛んになり、たくさんの井戸が掘られた。
また、鍛冶屋が至る所に設置され、日が沈まないうちは兵士に必要な武器や防具を鍛造する甲高い音が絶えず響いている。
居住者の1人が偶然、鉱山を見つけた時は大騒ぎなった。良質な鉄が大量に採れ、鉄鉱石が洞窟から運び出される毎日だ。
それと、優秀な大工の技術で南蛮寺(教会)が建てられる事となり、馴染みのある建物に西洋人達も過ごしやすくなるだろう。
あと、忘れていけないのが万屋(よろずや)。念願の店を持つ事ができた喜平さんの喜びようは天に虹が昇ったかのようだった。
人も武具も資源も順調に揃い続けている。
でも、最も喜ばしい事は隠れ家に住まう人々の1人1人の絆が固く結ばれ始めている事だ。
団結は山をも動かす力。その力をより強くする事が僕達の使命であると常に心に刻んでいる・・・・・・
不知火の本拠地である隠れ家は着々と復旧作業が続いていた。茂みや森、水源や岩場までもが開拓の手を加えられ、人の暮らしに利用されている。 大方、未開の地でしかなかった山岳地はまるで、都とも呼べるほどの大幅な発展を遂げていた。
「平次!火の勢いが足らんぞ!これじゃ、上等な玉鋼は作れん!もっと、薪を燃やせ!」
「へい!親方!ありったけの木を燃やしやす」」
「さあさあ!寄ってらっしゃい!うちが扱う売り物は、どれも質のいい物ばかりだよ!買いたいもんがあるなら、迷わず買いな!早いもん勝ちだ!」
「なあ!聞いたか!?西の集落で南蛮寺が建てられたらしいぞ!見に行ってみようぜ!」
「南蛮寺って?」
「何でも異国風のお寺らしいぞ?そこに西洋人が住むんだってさ」
「え?異国の建物!?私達がお参りするお寺とどう違うのかな!?面白そう!早く、行ってみよう!」
人々暮らしで賑わう小さな都の通りを忠勝と蒼真、そして、石舟斎の3人が横に並んで歩く。平穏の最中にいるような活気溢れるその光景を眺める表情が微笑ましい。
「大勢の人達がこうして笑って過ごしているのを見ているだけで心が洗われますね」
「ああ。戦乱の時代を生きている事の方が、ただの悪夢に思えてしまうほどだ」
忠勝と石舟斎が険悪など微塵もない光景を眺め、相好を崩した。更に蒼真が愉快に得を重ねるかのように、この上ない朗報を付け足す。
「九州からは家久様が唖休が言っていた秘草を大量に届けてくれた。更には再び兵や資源を提供してくれる事を約束してくれたんだ。中には菱刈鉱山の金塊も多く含まれているそうだ。軍備を揃える資金源に関しては、万全に至ったな」
ふいに、どこからともなく転がってきた毬が、蒼真の足に当たって止まった。それを追いかけて来た1人の幼い少女が立ち止まり、何食わぬ顔でこちらを見上げる。毬を拾って返すと少女は礼を言わずとも少しの間、笑顔を向けて走り去って行った。
「おーい!おめぇだらぁー!」
正面から届いた田舎臭い太い大声。そこへ例の3人組が駆けつけて来た。いつ知り合ったのか、修道女のジェルメーヌも一緒だった。
「おお、お前らか。どうだ?ここまでまともな家々が建てられ、住み心地には文句の言いようもないだろう?」
石舟斎が言って、小夜がうんうん!と何度も頷いてみせる。
「ホント!ここは最高の住まいだよ!故郷に帰るのが、嫌になるほどにね!あんた達が九州を信長の支配から解放したと聞いた時は耳を疑ったよ!やったじゃないか!信じられるかい!?不知火が日ノ本に安泰をもたらす日は近いね!」
賞賛の連続に続いて平八も陽気に踊って、平らな地面が凹むほど足踏みし
「全く、たいしたもんだでよ!敵から領土を奪い返すわ、皆の生活は豊かにするわぁ!ほんどに、お前さんらは生き仏だのう!儂も手を合わせて拝まずにはいられんでよ!」
ジェルメーヌも西洋の居住者を代表して謝意を示す。
「故郷に馴染みのある住まいが建ち、同胞達も大いに喜んでおられます。異国の民をも平等に扱う慈悲深き精神持つ日ノ本の人々は正に神の使いと言えるでしょう」
お世辞が含まれない本位の感謝に忠勝は頬を赤らめ、"えへへ・・・・・・"と照れ笑いした顔を恥ずかしそうに逸らした。次は2人の狭い隙間から割り込んで、商人の喜平が前に出る。普段の落ち着きのない性格に増して、歓喜に狂っていた。
「ようやく!私も念願の店を持つ事ができました!感謝してもし切れません!本当に何とお礼を言えばいいか!ああー!これから大忙しだ!まずは珍しい品を揃えるだけ揃え、それから・・・・・・!」
蒼真と石舟斎は異常なまでの勢いに圧倒され、やれやれと苦笑した。
「別に俺達だけの手柄じゃないさ。確かに俺達は武力を用いて、冥府魔道を討ち果たしてはいるが・・・・・・だが実際、この隠れ家の生活を豊かにしているのは、お前達の働きあっての事だ。ここに住む大勢が一丸となって、生きる術を築く事で不知火は成り立っている。俺達を含め、全員が組織の一員なんだ。その事を忘れるなよ?」
3人はのどかな集落を離れ、家代わりに利用している道場へ戻った。唯一、心身を安らげる憩いの場では、他の精鋭達が私生活が描かれており、手合わせをする者、庭で盆栽の手入れをする者、遊戯で退屈を凌ぐ者などがいた。 その中には、新たなに加わった少年の姿も。
日当たりのいい廊下で唖休と美智子が将棋を指していた。片方は生真面目に顔をしかめ、もう片方は機嫌が良さそうにニコニコと。両者は順に従い、駒を置く。決着は早くも着いた。
「王手飛車取り!ふふっ。また、私の勝ちですね?」
「え?う、嘘・・・・・・また私の負け!?あ~、もう!どうして勝てないのよ~!」
連敗を喫した美智子は正座を崩すと浮かせた足をバタバタを動かす。すっかり、打ち解けた忍びの少女と籠に閉じ込めた折り鶴の式神を交互に見て
「こうして、誰かと共にのんびりと過ごすのも、心地いいものですね。あなたの折り鶴も、傍に置くと心が洗われます」
「唖休さん!」
横からした忠勝の声に唖休は正座のまま体の向きを変え、深く頭を下げて晴れやかな面を上げる。
「おや、忠勝さんに蒼真さん。石舟斎殿もご一緒でしたか。今日は春の如く温かな日でございますね」
「ここの生活には慣れたか?」
石舟斎が、ふふっと薄笑いしながら聞いた。
「はい。ここは心地よく、住み心地に満足しております。そして、何より嬉しいのは美智子さんという、親しい友人ができた事。彼女と遊戯のお付き合いをするの事が、毎日の楽しみでございます」
「ちょ・・・・・・ちょ、ちょっと!やめてよ!私は!あ、あなたとそんないい関係じゃないわよ!皆、誤解するじゃない!」
違う解釈をした美智子が顔を赤らめ、焦りに焦った。忍びの凛々しさがない一面に彼女以外の全員が愉快な笑い声を上げる。
「石舟斎!ここにいたか!ちょうど、探してたとこだったんだ!」
そこへ、豊久と稽古の途中だったゼイルがバタバタと駆けつけて来た。長い時間、鍛錬に明け暮れていたのか、大量の汗が皮膚を流れ、道着も大半が湿っている。
「おお、どうした?ゼイル?俺に用があるのか?」
ゼイルは短い喘鳴呼吸を終え、袖で額の汗を拭う。そして、手にしていた1通の文を彼に渡した。そして、文が置かれていた場所と謎に満ちた差出人について、報告する。
石舟斎は"むっ?"と何食わぬ顔で黙って読んだ。その僅か数秒後に彼の手に震えが生じ始める。書かれた文字を読み上げるほど、目つきは虎の如く、平静さを失っていく。
「忠勝。蒼真。ゼイル。すぐに他の者に呼びかけて急ぎ、出発の手はずを整えさせるんだ」
落ち着きのない態度にただならぬ予感を覚え、美智子と唖休の穏やかだった表情は消えていた。
「文には何と?」
忠勝も書かれていた内容を知ろうとするが、石舟斎は文を渡さす事なく、代わりに今言ったばかりの事を促した。
「とにかく、皆を集めるんだ。これは今までにない一大事だぞ。すぐさま、俺も一緒に大和を発つ。向かう先は『四国の地』だ」
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.76 )
- 日時: 2022/07/14 19:29
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
不知火の精鋭達は師である柳生石舟斎と共に四国へと渡った。彼らが足を踏み入れた場所は、ただの人には知られぬとされる深緑の山岳要塞、『護龍の渓谷』・・・・・・更に、その奥地には『浄龍(せいりゅう)の祠』があるとされ、神聖な秘宝が眠っているという。 精鋭達を誘った文の主は何者なのか?そして、その祠に何が待ち受けているのか・・・・・・
「浄龍の祠はまだか~?まだ着かないのかよ~」
体力自慢のゼイルでさえも、 長い道のりにヘナヘナとやる気のない姿勢で美智子の後ろを歩く。最後列では、既に足を痛めて立てなくなった鈴音も海李に背負われ、体を運んでもらっている。
ようやく、山の頂上を幾度も越え、再び深い谷へ下る。谷の下は濃い霧に覆われ、常に吹き荒ぶ冷たい風が妖の唸りのような不気味な音を奏でる。
「ちょうどいい。ここで少し休息を取ろう。もう何時間も足を働かせていたからな」
偶然にも地面が平らの形状をした岩場があり、石舟斎が羽を休める場所に選んだ。
「賛成です。このまま、体に無理をさせていたら、いざという時に力を発揮できなくなりますからね。ここに来るだけで3日分の疲労が溜まってしまいましたよ」
「ああ~!やっと、休める~!もう歩きたくな~い!横になりたいよ~!」
ファゼラルが大人っぽく、ライゼルは子供っぽく愚痴を零して、遠慮なく最初に座り込んだ。
「鈴音。そろそろ、降ろすぞ?できるんなら、次は自分の足で歩いてくれよ?」
「うん。ありがとう。海李」
「多くの薬草を調合した軟膏があります。これを塗れば、痛みが和らぐはずです」
四国への旅にはジェルメーヌも同行していた。登山に不向きな修道服を着てるにも関わらず、決して、弱気を表さなかった。幼い頃より学んでいた薬草の知識を生かし、精鋭達を支える。
「・・・・・・ってか、ジェルメーヌも俺達と一緒にいたんだっけな」
ゼイルがすっかり忘れていたような言い方をし、早々に喉を潤そうと竹筒に入れた水を口内へガバガバと流し込む。
「ええ。大切な者を守る強さを得る試練のつもりで同行を懇願したそうです。僕は信仰とは縁がない生き方をしてますが、神仏に仕える人間の根強さには尊敬させられてばかりですよ」
夕日も軽い敬意を払い、木陰の涼しさで汗を冷やした。守護霊である忌龍丸も主の足元にすり寄って、唸りながら甘える。
忠勝、蒼真、石舟斎の3人は汗を盛んに流しているものの、力が余裕に有り余っているのか、呼吸は全く乱れていない。石舟斎がしばらく霧隠れした崖付近から引き返してくると、この場を取り仕切った。
「もう、夜も近い。闇夜の谷を歩くのは非常に危険だ。今日はここで野宿し、明日に備えて英気を養うべきだろう」
「私が火を焚くわ。誰か、燃えそうな物を集めてくれないかしら?」
千夜が忍び装束の腰元から火打石を取り出し、薪集めの役割を他の者に任せる。
「ここに来る途中で兎を3羽仕留めました。人が立ち入らない場所だけに、自然の恵みは豊富なものでしたよ」
「"鬼百合"(花は香りが強く、球根は食用として利用される一種の救荒植物)の球根がいくつも手に入ったわ。全員が食べられる分はあると思う」
夕日と美智子も、それぞれ収穫した物を地面に並べて置く。
「ご馳走揃いだな。今宵はまずい携帯食を食べずに済む」
蒼真の台詞に共感したのか、精鋭達は小さく愉快に笑った。
霧が一層濃くなり、暗闇が色合いを増した頃、精鋭達は燃え盛る焚き火を囲って夕飯へとありつく。肌寒さを凌がせる暖かな光が谷に唯一、灯されていた。よく焼けた兎の肉と球根を平等に分け合い、腹が満たされるまで食す。食欲の抑制が効かなくなったゼイルと海李の食べ方は実に豪快な物だった。
『"イタイヨ・・・・・・クルシイ・・・・・・ヤメテ・・・・・・"』
ふいにどこからともなく、例の声が響き渡った。逢魔が時に決まって起こる不可解な現象だ。
「また、始まったな・・・・・・」
焚き火に枝を投げ入れ、石舟斎が大して気にも留めてない言い方で言った。精鋭達も夕飯を頬張るのやめ、正体を把握できようがない聲を聞く。聲は徐々に聞こえなくなり、静寂に帰って行った。
「もう、聞き慣れてるから恐いなんて思わないけど、毎度の事ながら不気味さは感じさせられるね」
忠勝は他人事のような感想を述べただけで、関心は火で炙った兎の串肉に向いていた。
「ねえ?もしかしてだよ?この聲って、この谷の奥から聞こえてくるのかな?人が立ち入らない谷の奥深くにいるから、誰も正体を知らないのかも・・・・・・」
「可能性は否定できねえが。ひょっとしたら、今回、俺達をここに呼んだ本人なのかもな?」
鈴音の唱える仮説に海李は興味がなさそうに言って、別の仮説を唱え返す。すると、美智子が妙に落ち着かない様子で
「ここって、道のりが険しいだけのただの山岳ではないわ。だって、何故か、私の式神が発動しないんだもの。何回試しても折り紙が思うように形を模ってくれない」
「恐らく、あやゆる法術や妖力を封じる強い結界か魔力がこの谷全体を包んでいるんでしょうね。お陰で妖も現れない。こっちにしては凄く好都合だけど」
千夜はこの地の環境に対して、勘と感想を順番に述べた。今度は忠勝が、ずっと気がかりだった事を問いかける。
「石舟斎様?まだ、教えてもらっていませんでしたが、隠れ家に届いた文には何と記されていたのですか?」
石舟斎は"そう言えばそうだったな"と呟くと、長らく秘密にしていた事実を語り始める。
「俺達はすっかり、有名になったものだ。文の内容はまたもや、不知火に助力を求めるものだった。だが、肝心の差出人の名は書かれていなかった。しかし、文にはある"印"が押されていたんだが・・・・・・驚いた事に室町幕府が繁栄していた時代に足利将軍家に仕えていた"七五昵近衆(しちごじっきんしゅう)"の印だったんだ」
「七五昵近衆?聞いた事ないわね?誰か知ってる?」
「七五昵近衆と言うのは、不知火の兵団を束ねた長達の通称です。計75名で結成され、不知火の優秀な人材から選び抜かれた精鋭の中の精鋭。言わば、家老みたいなものです」
夕日の詳しい知識に精鋭達の一部は感心の声を上げる。
「つまり、七五昵近衆に関係している者が私達を呼び出して、浄龍の祠で待っていると・・・・・・?」
ライゼルが単純な結論を出し、海李が誰もが気になるであろう 口にした。
「何者なんだ?そいつは?」
「さあな。こう言った文は簡単には信用できん。以前の唖休の時と同様、罠でない事を祈ろう」
石舟斎は静かに言って、刀を手に取り立ち上がる。腕で額を覆い、風に抗いながら渓谷を見渡すが、煙とも言える濃い霧のせいで一寸先も見えなかった。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.77 )
- 日時: 2022/08/02 20:55
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
冷気が吹きすさぶ夜が過ぎ、渓谷は朝を迎える。薄まる兆しさえもなかった霧は晴れていて、昨日まではなかった谷の広々とした大自然の景色をはっきりと映し出していた。早朝に起床した不知火達は玄米の握りや干したキノコ、焼き味噌など、簡単な朝飯で空腹を満たし、旅支度を整える。
「食べ終わったら、すぐに発つぞ?浄龍の祠には休息を挟まなければ今夜中には辿り着けるだろう」
「ええ!?まだ、そんなにかかるのかよ!?」
ゼイルが溜まらず、唾と共に文句を吐き捨てた。
「美智子の式神に頼れない以上、自力で辿り着くしかない。帰りたかったら好きにしろ。無論、自力でな?」
と石舟斎がやや楽しそうな口調でゼイルをからかう。
渓谷は奥へ奥へと立ち入るほど、異界を描いたような神秘的な彩に染まり始める。宙を浮かび、暗闇を照らす霊石の灯に美しい光を放ち、群れを成して飛んでいく紅色の蝶。茂みや岩陰などから、出くわす動物達も精霊のように神々しく、外界とは異なる生態をしていた。
やがて、ある所へ差し掛かった時、不知火達の足が自然と止まる。石舟斎の予測は見事的中し、この時点に到着した頃には日時は既に夜を回っていた。
彼らの手前には人の手により石を削って造られた階段があり、先が長い頂上まで伸びていた。通路を挟む枝垂桜らしき花を咲かす木々は花びらは禍々しく輝きを宿し、濃厚な妖気を帯びている。最奥部だけに一帯を取り巻く得体の知れない魔力は体の自由や意思を奪ってしまうほど、強力な物となっていた。
「行くぞ」
石舟斎が前進を促す一言を告げ、一段目を踏んで先頭を歩いた。忠勝達も彼に続き、妖桜の花びらが降り注ぐ階段を渡っていく。
階段の先には一際大きな祠があり、それにも増して巨大な龍の石像が訪れる者を吸い込んでしまいそうなほどに大きく、洞窟に繋がる口を開けていた。祠の片隅には小さな神社がポツリと建てられている。
「ここが・・・・・・浄龍の祠に違いない」
忠勝が確信し、精鋭達は祠そのものを真剣に見上げた。
「石像とはいえ、まるで生きてるみたいだぜ。こんな凄えもん、どうやって作ったんだ?」
龍の迫力に圧倒され、恐れ知らずのゼイルも痩せ我慢の苦笑いをさせられてしまう。鈴音も近寄り難そうに海李の後ろに隠れ、小柄な身を縮こませている。
「僕達以外の気配はしませんが・・・・・・恐らく、文の差出人は祠の奥にいるのでは?」
夕日の予想に海李が"だろうな"と考えの共通を主張する。
「中に何があるのか、確かめてみましょう。きっと、そこに僕達を答えがあるはずです」
ファゼラルが隣にいる忠勝に言って頷く。精鋭達は肌触りが悪い涼しさと不気味な音が鳴り止まない洞窟の奥へ足を進めた。古く黒ずんだ無数の鳥居を幾度も潜り抜け、下階へと姿を消す。
浄龍の祠の奥に待っていたのは、聖域と呼ばざるを得ない朽ちても尚、美しい神殿。太古から異物である証として、木の根が張り巡らされた壁の割れ目から流れ込んだ澄んだ水が溜まり、地面の大半が浸水していた。太い柱や神仏の絵が彫られた鉱石が薄緑の光を放ち、霊魂を思わせる得体の知れない球体があちこちに浮遊している。真っ直ぐな通路の先には階段があって、頂上には古びた祭壇が。更に正面には巨大な2体の仏像が神々しく聳えている。
祭壇に腰を下ろしている1人の女の姿が見えた。研かれた黒曜石のように黒の美しさを鮮明に映し出した髪を腰元まで伸ばしている。肌身を包んでいるのは、決して、高貴な物とは言えぬ灰色の着物。
「もし?その方に問う。我ら、不知火をここに呼び出したのは貴殿か?」
懐から文を取り出し、階段の下から石舟斎が紳士的に尋ねる。動じない後ろ姿に忠勝だけが、どこか懐かしい気配を感じた。
声をかけられた女に返事はなく、膝を伸ばして立ち上がる。時間をかけて振り返っては、対面を果たした精鋭達をやや高い位置から見下ろした。素肌は雪のように白く透き通っていて、この世のものとは思えぬ美貌を形にしている。しかし、面持ちに朗らかさは微塵もなく、同時に切なさをも感じさせられる。
「久しいわね?忠勝・・・・・・」
女はただ1人、落ち着きを隠せない忠勝に注目し、吐息の如く声を吐き出した。あまりにも意外な発言に 精鋭達の視線が一斉に忠勝に集まる。彼は慌てて最前に出て、即座に正座した。腰紐に取り付けていた殉聖の太刀を膝の前に置き、頭を下げる。
「"天野 椿(あまの つばき)"様!久方ぶりでございます!まさか、文の送り主の正体があなた様だったとは・・・・・・!」
状況が呑み込めない唐突な展開に千夜と蒼真、鈴音やライゼルも困惑を余儀なくされた。最初に事情を聞き出そうとゼイルが忠勝の肩を掴む。
「ちょっと待て!どういう事なんだ!?おい、忠勝!この女は誰で何でお前を知っていやがるんだ!?知り合いなのか!?」
忠勝はキッと怒った鬼の如く形相でゼイルを尻込みさせ、再び地べたに額を擦り付けて
「あなた様とは桶狭間の戦いにて、共闘した時以来でございます!今川義元殿が討ち死にされた際、椿様も行方をくらまし、死したものと思っておりましたが・・・・・・生きておられたのですね!」
「あなたはあの頃と容姿が全く変わっていない。女子のような若武者のままね」
堅苦しい敬い方にようやく笑みを見せて、椿は忠勝の傍に寄る。膝まづくと殉聖の太刀を拾い上げ、刀身を僅かに鞘から引き抜いた。
「破邪の力が弱い・・・・・・やはり、"真の力"を引き出せてはいないわね・・・・・・ここに来させて正解だったわ」
「忠勝くん。この御方は一体・・・・・・?」
鈴音の腰の低い問いかけに忠勝は偽りのない返事を返した。
「この御方こそ、僕の恩師であり・・・・・・七五昵近衆の1人・・・・・・天野 椿様だ・・・・・・!」
目の前にいる人物が如何に偉大である事を知った精鋭達の表情に更なる驚愕が浮き出た。石舟斎を始め、ファゼラルも夕日も次々と頭を低く、全員が平伏する。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.78 )
- 日時: 2022/09/04 18:37
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「面を上げなさい。破邪の宿命に選ばれし、猛者達よ・・・・・・」
椿のかけ声に忠勝達は操られているかのような動きで言われるままに従った。
「そなたらが泰平の世のために邪悪なる妖を討ち払い、天下を穢す第六天魔王(信長)を滅ぼそうとしている事は存じている。ようやく、暗雲に割れ目が入ったか・・・・・・」
「俺達の活躍は、こんな未開の地にまで行き届いてたのか・・・・・・噂が立ち入れない場所はねえな」
ゼイルのいい加減な決めつけに呆れた忠勝が否定する。すぐさま、椿がこちらの全貌を知る真相を付け加えた。
「違うよゼイル。椿様は"半人半龍"なんだ。この方の持つ"龍法術"の1つ、"龍眼"で全てを見透かせる事ができる」
「り、龍眼・・・・・・!?いまいちよく分かんねえけど、凄え力みてぇだな!」
「流石は不知火の兵団を率いていた英雄の1人・・・・・・俺達の実力など、足元の影にも及ばぬ・・・・・・か」
詳細を知り得ずとも、とにかく尊敬する海李とは裏腹に蒼真は雲泥の差を思い知らされ、己の未熟さを実感させられた。
「ここにおられる七五昵近衆の生き残りは貴殿だけか?他の方々はどうされた?」
何かを期待しているような石舟斎の問いに椿は表情を曇らせ、口にするのも嫌そうに
「桶狭間の戦いの後、かつてうつけだった魔王による"不知火狩り"が始まり、知る者は何人も蹂躙されてしまった・・・・・・彼らがどうなったのか、どこにいるのかさえ龍眼を用いても把握できぬ・・・・・・大地を渦巻く邪念の念波があまりにも強く、毒の霧へ染まったが故に・・・・・・」
過去の出来事を話し終えた椿は神殿の真上を見上げ、左手を前に出した。掌の上に光の球体が1匹の蛍のように留まる。まるで霊と心を通じ合わせているようだ。
「桶狭間の戦いで敗れた後、魔王の殺戮の手から逃れた私は命辛々、この四国の地へと逃げ延びた。 素性を伏せたまま、この地の大名である長宗我部元親に仕え、この数十年の間、ずっと好機を窺っていた。この地の存在は前々から知っていた。数多の古龍神に守られし、魔を寄せ付けぬ聖域。そんな中、不知火が再び立ち上がったと聞き、私も再び動き出す時と悟ったのだ」
「今、正にその不知火を復旧に尽力を尽くしている最中です。ここに僕達を呼んだのは、その助力に加わるためですよね?」
夕日が念のために聞くと、椿はすんなりと肯定する。しかし、彼女は相変わらず、晴れやかな表情を浮かべる事はなかった。
「然り。そなた達の大義によって不知火は息を吹き返しつつある・・・・・・されど、今のままでは魔王を滅ぼす理想、永遠に叶わぬ」
「・・・・・・どういう事ですか?このまま、兵力を拡大させるだけでは不十分なのですか?」
聞き捨てならない語尾の発言にファゼラルは理由を尋ねた。
「魔王信長の支配力は、"強大"というだけの単純な仕組みで成り立っているものではないのだ。彼奴の影には"邪悪なる滅びの礎"が潜み、この日ノ本を覆い尽くしている・・・・・・目に見えなくても、龍の血がそれを予感を強く感じさせる・・・・・・」
「信長の影に潜む滅びの礎?・・・・・・って言うと?信長を背後に本人を操る"黒幕"がいるってのか?俺には、そんな風に伝わっちまうんだが?」
「あり得ない話じゃないわね・・・・・・あらゆる物事には必ず、陰謀が付き物よ。裏で第三の勢力が糸を引いていてもおかしくはないよ。仮にその説が事実だとしたら、一体、そいつは何者なのか気になるわね」
海李とライゼルが首を傾げ、曖昧な想像を膨らませる。列の中心にいた美智子は不明な点に答えを追い求めるのを無しにして、率直に聞いた。
「私達は呼ばれた立場だけど、ここに来たのは客人としてではない。悪を滅却するための任務を全うするのが理由よ。用件だけ聞くわ。椿様?あなたは私達に何をさせたいのですか?」
彼女は堂々と強気な口調で目の先にいる龍女を睨んで更に続けた。
「あなた様は今の私達に信長を倒す事は不可能な事、奴の支配力の根源について仰られた。その事を知っているなら、それに"対抗する手段"も知っているはず・・・・・・しかし、それを無償で提供してはくれないという事は・・・・・・まずは、私達にしか任せられない頼みを聞いて欲しいのでは?」
「誤魔化しようもないな・・・・・・実は私がここにいる理由は、"ある高貴な御方"を匿っているからでもある」
「・・・・・・高貴な御方?」
見当もつかない人物の詳細を鈴音が求める。
「"足利 義尋(あしかが ぎじん)"・・・・・・室町幕府の最後の将軍にして、魔王の手にかけられし、無念の最期を遂げた足利 義昭の子。足利一族の唯一の生き残り・・・・・・」
その名を聞いた途端、忠勝は冷静な沈黙を失って、うるさくざわつき始める。
「義昭様のご子息が生きておられると・・・・・・!?しかし、京の室町殿が織田勢の襲撃を受け、一族もろとも皆殺しにされたと聞かされておりましたが・・・・・・!?」
石舟斎は自身が知る事の事実を述べたつもりだったが
「確かに、血筋の大方は根絶やしにされた。されど、義尋に限っては手にかけられたのはただの影武者。義昭も用心深い男なり。いつか、滅ぼされる事態を想定していた倅(息子)の身を密かに四国へ移し、馴染みがある武家の元へに匿わせたのだ。私がその事実を掴んだのは、遠くない過去の事・・・・・・敵の支配下に長居させるのは危険と判断した私は義尋を連れ、今度はこの渓谷へ住まわせたのだ。されど、とある日に"1匹の強力な妖"の侵入を許し、彼は瞬く間に連れ去られてしまった。私とした事が・・・・・・慢心し過ぎた故の結果であろうな・・・・・・」
「・・・・・・妙な話ですね?」
ふいに1人だけ黙り込んでいた夕日の唐突な発言を不思議に思い、鈴音が真横を向く。
「・・・・・・?夕日くん?何が妙なの?」
「皆さんも既に経験している通り、この渓谷や祠を取り巻く魔払いの城壁は相当に強力なものです。妖怪を寄せ付けず、山暮らしに慣れた人ですら渡り歩きにくい険しい環境・・・・・・なのに、どうやって敵は結界をものともせず、最深部の浄龍の祠にまで侵入し、義尋様を容易に攫う事ができたのか?」
それについては、ゼイルも"なるほど"と共感の意をを示した。
「確かに。そう言われるとやけに引っかかるな。この俺の体に流れる"フリードの闘血"を強引に鎮めてしまうほどの魔力に囚われながら、ここまで完璧にやり遂げるなんてのは、まず並みの妖怪の仕業とは考えにくい」
「・・・・・・"祥(しょう)"・・・・・・全て彼奴の仕業だ」
椿の発した一言に精鋭達の大半が怪訝になり、一部は首を傾げた。
「祥・・・・・・?そいつは何者なのです?」
忠勝が緊張感を芽生えさせながら聞くと
「魔王の重臣として仕える七天狗の次男・・・・・・若子の容姿に似合わず、あまりにも凶暴で残忍な性格から"修羅の孕み子"と呼ばれている・・・・・・」
「七天狗・・・・・・やはり、今回の事件にも関与していたか・・・・・・」
蒼真は大体予想がついていた勘が的中し、疲れが祟ったような溜め息をついた。
「足利家は衰退した今の不知火にとって絶対的に必要な存在よ。将軍家の人間が組織の座に就けば、指揮系統は回復し、大幅な勢力強化を見込めるわ」
「だとしたら、早く行動に移すべきだろう。事が最悪な事態を迎える前に・・・・・・!」
「因みに義尋様はどこに囚われているか、椿様はご存知でしょうか?」
美智子が目的の人物がいる居場所について尋ねると
「阿波(現在の徳島県)の北東部の位置する山村の頂に位置する館、"神地羅殿(じんじらでん)"。遥か昔、平家落人が密かに築き上げた隠されし拠点。今は七天狗の1人である祥が四国を支配に利用している邪鬼の悪巣・・・・・・」
「神地羅殿?名前だけは立派ですが・・・・・・実際は果たして、美景が目に映る邸宅なのか・・・・・・」
誰も知識が及ばぬ場所に対し、ファゼラルが珍しく皮肉を口走った。
「もう1つ頼みを聞いてもらえまいか?ここにいた七五昵近衆の生き残りは私だけではない。止めに入ったにも関わらず、義尋を救い出すと言って飛び出して行ったきり、帰って来ない2人の盟友がいた。もし、彼奴らが生きておったなら、彼同様に助け出してほしい。それが叶わなかった場合は・・・・・・素直に真実のみを伝えよ」
「心得た。直ちに阿波へ向かうぞ。七天狗の根城である神地羅殿へ出向き、義尋様を救い出す。油断や慢心を捨て、心してかかれ」
石舟斎の凛々しい号令が鼓舞の役割を果たし、精鋭達による気合に満ちた勇ましい声が上がる。最初は微笑んでいた椿の表情もグッと引き締まり、目は戦火を見るかの如く鋭いものとなった。
「私はここに留まり、不知火復旧に役立つ"神に授かりし物"を用意しておく。そして、そなたらがこれからの苦難苦行の旅路にきっと役立つ"恩恵"も・・・・・・忘れずに胸に留めよ。天は常に不純を知らぬ者を日で照らす。そなたらに龍の御加護があらん事を・・・・・・」
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