複雑・ファジー小説

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逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/04/03 16:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良くメロディのカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.54 )
日時: 2020/07/24 20:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 不知火の一行は豊後国(現在の大分県)にて船を得て、近畿に向けて出港した。家久の予想は的中し、毛利の海域に嵐が吹き荒れる。海での災害は勢いを増すばかりで嵐の暴風が吹き荒れ船体を粗暴に揺らす。月の照らしもない暗闇と荒波の激しい水しぶきが視界を遮り、ここにあるのは黒い色と水だけだった。その中を何万という大船が列を成して通過する。

「家久様の言う通り、嵐になったね」

 雨に打たれ、びしょ濡れになる事をお構いなしに忠勝は船の甲板にて、蒼真と共に前方に広がる景色を眺めていた。

「この海域は信長の属領である毛利勢力が見張っている・・・・・・が、これだけの悪天候じゃ迂闊に船は出せないだろう。こっちを襲えるほどの敵はいないはずだ」

 蒼真も降りかかる雫を拭い、左右の状況に気を配る。両脇には同じ形をした島津の戦艦が何列も並んでいた。

「こんなにも戦力を与えられるなんて・・・・・・なんだか、天下を取った気分だよ」

「ああ・・・・・・兵士の数だけでも10万を超えている。正直、ここまで早く不知火復興が大幅に成し遂げられるなんて想定していなかった。これが夢なら覚めないでほしいところだ」

「後は船に乗っている皆を僕達の支部へ無事に送り届けるだけだね。家久様の恩を無駄ににしてはいけない」

「この嵐を荒らしを乗り越えられる事を祈るばかりだ」


「うぇぇ・・・・・・気持ち悪ぃ・・・・・・おぇ・・・・・・」

 ふいに活力のない声が船外へ漏れる。2人は向きを返し、扉に寄りかかるゼイルを見た。いつもなら健全で色のいい肌は酷く青ざめている。

「ちょっと!ゼイル、大丈夫!?」

 彼は更に吐き気を悪化させ

「船は異常に揺れるから嫌いなんだよ・・・・・・馬なら、問題ねぇんだけどな・・・・・・うっ、うぇ・・・・・・」

「そういうわけにもいかないだろ。陸に着くまで我慢しろ」

 蒼真に同情はなく、厳しい言葉を投げかけるとついでに1つ尋ねる。

「船内に待機している他の者達は大丈夫なのか?」

「鈴音も海李も俺と同じだ・・・・・・ファゼラルとライゼルも寝床に伏せてやがる・・・・・・千夜と美智子は平気みたいだ・・・・・・忍びっていうのは、どんな環境においても平然としてるよな・・・・・・」

「夕日の容態は?」

「夕日・・・・・・?あいつが酔った所なんて見た事ねえよ・・・・・・頼む、あんまり喋らせないでくれ・・・・・・胃が捩れる・・・・・・」

 不快感にゼイルは耐えられず、扉に寄り添う形で座り込んでしまう。

「出発してから、もうずいぶん経つよね?近畿にはいつ到着するんだろ?」

 忠勝の問いに蒼真は"さあ"を語頭にして

「何しろ、この天気だからな。早くても到着は5日か・・・・・・ゼイル、そんなに酷ければ千夜が症状を緩和できる漢方薬を持っているかも知れん」

「うぇぇ・・・・・・苦い薬なんて、飲みたくねえよ・・・・・・んなもんに頼るくらいなら、吐いた方がマシだ・・・・・・げぇっ・・・・・・」

 3人が会話を断ち切ってから、幾らかの時間が経過する。黒い色に支配された景色は変わらず、無限の海原を渡っているような・・・・・・そんな、怪奇的な錯覚を起こさせるのだ。水と寒さの世界に 飽きれが芽生え始める。

「ねえ?蒼・・・・・・」

 退屈に耐えかねた忠勝が、再び蒼真と言葉のやり取りを交わそうとした。ふいに、何かが頭上近くでドン!と木の板を強く踏んだ。 3人は大して驚かず、沈着な反応で音がした方へ横顔を向ける。

「忠勝殿!」

 嵐の響きにも勝る活気のある声。上甲板から突っ走る勢いで階段を下り、1人の若武者がやって来る。彼は数十メートル先も把握できない闇を短く眺め、忠勝達に迫った。

「豊久様。どうなさいました?」

 忠勝も若武者の名を呼び、何用かと尋ねる。

「某、帆の上にて東方を眺めておったが、形ある物は1つたりとも探せなんだ!お主に聞くが、近畿への海路はこの方向で合っておられるのか!?」

「御心配には及びませぬ。まだ陸は見えませぬが、伊達に海原を彷徨うてはおりませぬ故。あらゆる厄介事が起きようと我ら不知火がいる限り、如何なる手段を用いても豊久様を支部のある大和国(現在の奈良県)へお送りします。どうか、御安心を」

 蒼真は確信を主張し、豊久の不安を和らげる。

「ねえ。蒼真・・・・・・」

 隣にいる忠勝が蒼真を呼ぶ。普段と声の音程が異なる事に妙に感じ、遠くを指差す彼を見た。

「なんだ・・・・・・?ようやく、陸が見えたのか・・・・・・?」

 ゼイルは吐き気を堪えながら、微笑に笑みを浮かべた。  しかし、その期待は即答にて背かれる事となる。

「いや、違う・・・・・・あれはなんだ?」

 さっきまでの蒼真の平常心が消失する。闇の中に微かな光の点が見えた。しかし、それは火の灯のようなものではなく、ドロドロと妖々しいものだ。同じく外にいる乗組員達も、その存在を視野に入れ始めたのか、ザワザワと不穏な空気が漂い始める。

「どうした・・・・・・?一体、何が起こってやがる・・・・・・?」

 ゼイルが露骨に顔をしかめる。

「まさか・・・・・・」

 忠勝が何かを言おうとした矢先


「大海坊主じゃあああ!!」


 帆の櫓にいた見張りが怒鳴って、下の者達に知らせた。異常事態を知らせる半鐘が鳴り響き、警鐘は他の戦艦へと瞬く間に連鎖する。

「よ、妖怪だと・・・・・・!?」

 豊久が島津の武将らしからぬ弱腰な反応を示す。

「このしくじれぬ任務の最中に邪魔が入るとは・・・・・・厄介な事態になったものだ!」

 蒼真は大股で階段を上がり、上甲板に向かうと見張りに状況を聞きに叫んだ。

「妖の数は!?他に何が確認できる!?」

「妖の数は1匹!!あれは・・・・・・どうやら、西洋の物らしき船団を襲っている模様!!」

 すぐに返事は来た。

「西洋の船だと・・・・・・!?」

 蒼真はすぐさま忠勝の元に引き返し、状況を知らせる。

「外国の船が襲われてるの!?だったら、早く助けなきゃ!」

「忠勝、お前は中にいる皆を連れて来てくれ!あんなのと、まともに戦えるのは俺達だけだ!」

「待って!こっちには何万隻もの戦艦があるんだよ!?搭載された兵器で戦えば・・・・・・!」

 忠勝は船での対抗を提案するが、即座に否定される。

「海坊主に砲弾や火矢は効かん!地理を活かしても、あっちが圧倒的に有利だ!あんなものに接近を許してしまえば、艦隊は甚大な被害を被る!事が手遅れになる前に手を打たねば!」

「そ、某も戦おう!鬼島津の刀裁き、妖にも味わわせてやろうぞ!」

 豊久も無理に強がり奮起するが

「助力の申し出は有難いですが、豊久様は待機を!並みの人間が敵う相手ではございませぬ!」

「よっしゃ・・・・・・!これで少しは楽になれそうだ・・・・・・!」

 ゼイルにとって都合のいい展開が不謹慎な歓喜を誘う。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.55 )
日時: 2020/10/24 21:47
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 不知火の精鋭達は美智子の折り鶴に乗って船を飛び立ち、先陣を切った。背後には彼らに命運を託した無数の船団、正面には普通の人間には到底、太刀打ちできない巨大な妖怪が。近づけば近づくほど、強大な迫力と威圧は増していく。

「にしてもでけえなぁ!マジで俺達だけで、あんな奴と一戦交えるのかよ!?」

 雨水が混ざった向かい風に額を負いながら、ゼイルが内心に秘めていた本音を明かす。

「僕らが戦わなきゃ、船団は全滅します!そうなってしまえば、命を危険に晒してまで成し遂げてきたこれまでの偉業が残らず無駄になってしまいます!」

「ファゼラルの言う通りだよ!どんな手を使ってでも、最悪な結果だけは阻止しないと!」

 ファゼラルとライゼルも巡り来る戦いに活気を溜める。

「でも、あんなに巨大な妖怪、簡単に倒せるわけないよ!そもそも、どうやって倒すの!?」

 鈴音の抱える難題に夕日が詳しい助言を叫ぶ。

「体内に光る"核"が見えますか!?そこが海坊主の本体であり、弱点です!水でできた肉体を切り刻んでも、痛手は負いません!」

「おい!海坊主ってのは、水の塊なんだろ!?だったら、電流が有効なんじゃねえか!?雷撃ならいくらでも撃ってやれるぞ!」

「私の短筒も雷撃を放てるわ!きっと、威力は発揮するはず!」

 海李と千夜が弱点を突ける戦法を訴える。

「抗う術があるなら、幾分は安心だな。不利な状況は覆せないが、勝機は得られるかも知れん」

「皆、避けてっ!!」

 ふいに美智子が警告を叫んで、いち早く機体をずらす。闇が深い正面から、巨大な物体がいちじるしい速さで飛んで来た。建造物らしき木材の一部、大海坊主が船の残骸を投げつけてきたのだ。折り鶴の群れはとっさの回避が幸いし、間一髪、直撃を免れた。

「・・・・・・うわあああ!!」

 バランスを大きく崩したゼイルは下半身を投げ出され、危うく海に落ちかける。

「散開しましょう!一箇所にまとまっていたら、いい的です!」

 夕日も折り鶴にしがみつきながら、被害を最小限に抑える案を出す。

「向こうは私達が殺しにかかって来ているのをとっくに悟ってる!忠勝!指示を出して!既に戦の火蓋は切られているわ!」

 千夜は先頭を飛ぶ忠勝に策を委ねる。彼は予め用意していたように迅速に計略を練り、適切な判断を下した。

「まずは雷の力を操れる者を1人ずつ連れて、二手に分かれるんだ!千夜は夕日達と一緒に行って!海李は僕達の部隊にいてほしい!両側から挟んで攻めかかれば、敵の攻め手に迷いが生じる!上手く攻撃を受け流して接近したら、2人は容赦なく雷撃を浴びせるんだ!核を剥き出しにしたら、そこを叩く!」

「合点だ!危なくなったら、援護してくれ!」

「私も戦う!皆のためにできる事はある!?」

「鈴音は笛の音色で海坊主の暴虐を鎮めて!なるべく、妖怪の反撃が届かない範囲にいるんだ!」

 鈴音は頷いて、肯定を証明する。折り鶴を減速させると戦隊を外れ、独立した。笛の音色が鳴り始め、嵐の騒がしいだけの上空は美しき奏に包まれる。

 忠勝達は正面突破は避け、両側からの挟み撃ちを仕掛ける。すると、大海坊主は胴体の横から何かを生やし始めた。それは蛇のように、うねうねとした細長い触手だ。接近を拒もうと、個体とした水を鞭のように振るい、精鋭達を狙う。

 忠勝とゼイル、蒼真と海李は互いに二手に距離を伸ばし、回避した。しかし、その触手は意思を持ったような動きで機転が利く。すぐさま、第二波の連撃が襲い掛かる。

 忠勝は折り鶴の速度を上げると真っ先に攻めかかり、太刀を素早く振るって触手の関節を両断した。そのまま、孤立飛行で妖の注意を引き、自らがその囮となる。警戒が散漫になった好機を逃さず、海李達は死角へと回り込んだ。

「今だ!やれ!」

 ゼイルが合図を叫び、海李が太鼓を遠慮のない力で叩く。ドンッ!と鼓面を鳴らし、暗雲の上空から一線の落雷を呼び寄せる。音速の光線は鼓膜に響く轟音と共に海坊主の頭上に降り注ぎ、見事に直撃を喰らわせた。

「おおおおおおおおお!!」

 海坊主は巨大な全身に電流を帯び、感電した。耳障りな悲鳴を上げながら、液体の体はウネウネと気味悪く形が歪む。

「効いているぞ!」

 蒼真は妖に攻撃が通じていると確信した。忠勝も妖怪が痛手を負った場面を目撃し、口元を緩める。


「どうやら、あっちが先に先手を打ったようね」

 忠勝の部隊とは反対の側を飛行していた千夜達も、その光景をまざまざと目に焼き付けていた。

「僕達も眺めてばかりはいられません。千夜さん!次の雷撃をあなたが!ライゼル!僕と共に援護を!」

「任せて!こっちだって、負けてない所を向こうにも見せつけてやらなくちゃ!」

 夕日の部隊も千夜を後ろに編隊飛行で妖怪に接近する。大海坊主は第二の陣の襲来を即座に認識した。今度は触手や細い船の残骸ではなく、原型を留めた沈没船の船体を掴み上げ、容赦を捨てた反撃に出る。

「風よ、我の助けとなれ!『ウィンド』!」 「我の思う者を撃ち抜け!『ショット』!」

 マーシャ兄妹は2つの魔力を重ねて放ち、船体を粉砕する。千夜に当たりそうな残骸の欠片は美智子が盾となり、折り紙の太刀で障害物の排除にかかる。

「千夜ちゃん!このまま、突き進んで!」

 美智子は飛行経路をずらし、千夜を先頭の位置を譲る。彼女は次の攻撃が来る前に属性弾が込められ、銃口に電流の帯びた短筒の狙いを正面に陣取る大海坊主に定めた。一点の集中に狭まった目を更に細め、引き金を引く。

 1発の銃声が響き、弾は妖の体にめり込む。着弾した弾は体内で破裂し、電流の波が水を通して全身に広がった。

「ああああああああああ!」

 弱点を突かれ、大海坊主は再び悲鳴を上げた。その断末魔のような叫びは怨霊の泣き声にも聞こえる。自暴自棄となった妖怪は沈みかけた船の残骸に触手を絡ませ掬い上げると、鈍器として折り鶴の群れへと粗暴に殴りつけた。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.56 )
日時: 2020/11/08 21:42
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・うわっ!?」

 海李は慢心に足元をすくわれ機体を向きを変えるのに遅れが出た。太い帆の柱が迫ったが、突然として丸太は真っ二つに二分され、獲物を仕留め損なう。海李はこわごわと覆った腕をずらすと、正面に1羽の折り鶴が先行していた。

 太刀を振るった姿勢を取り、蒼真が心強い笑みを振り返らせて、こちらを目視していた。

「あんがとよ!蒼真!」

 海李が拳を掲げて礼を叫び、分隊との距離を縮める。

「おおおおおおおおお!!」

 海坊主は触手を何本も生やし、千夜のいる分隊へ針のように突き通そうとした。しかし、触手は千夜達の間を通過し、背後へと伸びていく。この時、夕日はいち早く、そのわけを知った。海坊主の狙いは自身の力を封じ込めようと笛の音を奏でる鈴音だったのだ。

 笛吹きに夢中になっていた鈴音は危機に気づくも、間に合わず不意打ちを喰らった。触手は折り鶴を破き、背に乗せた者を空中へ投げ出す。

「きゃああああ!!」

 鈴音は上空に手を伸ばすが、重力に逆らえず上空から落下した。嵐の海が彼女を飲み込もうと真下で待ち受ける。だが、生の最期を覚悟し目蓋を強くと瞑ったが、冷たく苦しい溺れる感覚はなかった。

 鈴音は風の寒さに晒されながら、おそるおそる細目を開くと体は宙に浮いていた。見上げればライゼルが腕を掴んで。

「大丈夫!?」

 彼女は身を案じる問いを投げかけ、鈴音を引っ張り上げる。時間を掛けて、折り鶴の胴体に掴まらせた。

「ライゼルさん、ありがとう・・・・・・ぐすっ!」

「泣くのは戦が終わってからにしてちょうだい。今はやるべき事に集中して」


「ぐぉああああああああ!!」

 海李が三度目の雷撃を浴びせた時、大海坊主の身に異変が生じる。頭部が裂け、分厚い水の肉で覆われていた光る球体を露出させたのだ。深手を負い、守りが崩れた瞬間だった。

「核が剥き出しになった!!」

「このまま、一気に攻めるぞ!」

 忠勝が指を指して叫んで、ゼイルが機会に乗って先陣を切る。大海坊主は急所を突かせまいと、体内へ核を取り込もうとした・・・・・・が、突然に流れた電流に感電し、巨体を麻痺させた。

「そうはさせないわ」

 千夜が雷の弾丸で怯ませ、核の吸収を妨げる。

「風よ、我の助けとなれ!『ウィンド』!」 「我の思う者を撃ち抜け!『ショット』!」

 ファゼラルとライゼルが放った 防備がままならない隙を逃さず突く。更にゼイルが線を描くように大剣で斬りつけ、蒼真が狐火を浴びせた。抵抗する暇を一切与えず、猛攻の連鎖を繋げる。

「ぎぃやああああああ!!」

 急所を完膚なきまでに叩きのめされ、大海坊主はたまらずあげき声を海域に響かせる。核は完全に浮き出て、輝かしい球体を頭上に露出させた。

「忠勝くん!」

 夕日の叫びが示す意味が忠勝に瞬時に伝わった。2人は折り鶴を高く上昇させ、大海坊主の核と肉体の間へ飛ぶ。2つの部位を繋ぐ付け根を囲んで、それぞれが持つ太刀と大鎌で斬り込み裂け目を広げる。

 切断された核は繋ぎ目から分離され、傷口から青黒い液体をぶちまけながら、海の水面へ落下した。

「おおお・・・・・・おおおおお・・・・・・!」

 命を生かす動力源を絶たれ、大海坊主の余命は僅か数秒に縮まった。刃を無効化する水の肉体が様々な形に変形させながら、崩れ落ちていく。水塊が沈んだ弾みで大波が打ち寄せ、船団を押し流す。

 妖怪の討伐を成し遂げた不知火の精鋭達の勝鬨が嵐の中に響く。歓喜に狂ったゼイルは大剣を掲げ、勇ましく哮り立つ。海李も負けずと勝利の雄叫びを上げた。

「本当に・・・・・・倒せたんだ・・・・・・」

 妖が朽ち果てていく凄まじい光景を鈴音は本当に現実なのかと疑った。

「やったね!千夜ちゃん!」

 美智子も喜ぶ反面、千夜は普段の沈着な性格を変える事なく、口の端だけを引きつる。

「あなたの折り鶴が大きな勝因をもたらした。これがなかったら、私達は本来の力で戦えなかったわ。本当にありがとう」

「千夜ちゃんだって、すごい活躍だったよ!短筒だけであんなに大きな妖怪を圧倒しちゃうんだもん!」

 2人の忍びは互いに活躍を褒め合い、マーシャ兄妹も心を躍らせる。

「私達の魔法が決め手となったね!」

「僕達の力だけでは、ありませんよ。僕やライゼル、他の皆さんが力を合わせ、勝負に挑んだ結果です」

 精鋭達を運ぶ折り鶴は合流を果たし、円形を描きながら降下していく。

「しかし、お前らが止めを刺したあの勇猛な迫力は見事なものだった。大手柄だぞ」

 蒼真の感心に忠勝と夕日は照れ笑いした表情を露にしながら

「忠勝くんが以心伝心に察してくれたのが、幸運でした。正直、息が合うか心配だらけでしたけどね」

「僕もあの一言で夕日の目的が伝わったから、びっくりしたよ。その後は無我夢中で妖怪を倒す事しか考えてなかった」

「お前らと戦を共にしたら、敗北を喫する方が難しいかもな。さて、脅威は去ったんだ。南蛮船の救助を急ぐぞ」

 すると、そこへゼイルが勢いよく割り込んできて

「お前ら、見ろよあれ!大海坊主の眼石だ!戦利品として持って帰ろうぜ!石舟斎に自慢するんだ!」

 子供のようにはしゃぐ戦士に呆れた3人は緊張が緩み、笑いを吹き出す。

「浮かれてる場合か?折り鶴に乗る理由はなくなったんだ。また、しばらくは船上での生活だぞ?」

「・・・・・・え?」

 浮かれざわつく最中に水を差され、真っ青に冷え固まるゼイルの反応に忠勝達は愉快に笑った。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.57 )
日時: 2021/01/19 21:59
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2178.jpg

 妖の討伐を果たした不知火の精鋭達は一部の船団に協力を要請し、南蛮船の救助に着手。島津戦艦の船員達は使える物は全て利用し、互いに叫び合って指示を出しながら、漂流者の救助に当たった。沈没しかけた船体を引き上げ、溺者には棒を掴ませて、自力が利かない者には網を絡ませて手繰り寄せる。その大掛かりな漁業に酷似した荒々しい手段で救済した人間の数を手際よく増やしていく。

 およそ数時間の救出作業によって、1000人を超える宣教師達が命を取り留めた。その大半が武器を持たない異国の民であり、幼い子供も大勢含まれていたのだ。

 忠勝達が無傷で済んだ1隻の船の甲板へ降り立つと、宣教師達は彼らを救世主と崇めた。拝んだ手を額に当てながら、祈りを囁き、泣き崩れる者も。その内の1人、穏やかな顔をした青年の宣教師が傍に寄ると、皆を代表して深い感謝を伝える。

「あなた方は強大な悪魔を打ち倒し、我々の命を救って下さいました。神はあなた方、慈悲深き天の子らに永遠の幸福と平穏を約束して下さるでしょう」

 神の教えに因んだ称賛を与えられても、蒼真は戦の最中にいるように凛としていた。異国人に囲まれた周囲に視線を送り、1つの問いを投げかける。

「他に助けが必要な者はいるか?」

 厳しい表情に似合わない一言に青年は返答が狂い、嬉しいながらも口調をどもらせる。

「え!あ・・・・・・は、はい!我らの導き手である"オルカ"様が、た、只今・・・・・・病人の看病を努めているかと・・・・・・!」

「分かった。そのオルカ様に会わせてくれ。どうしても、話しておきたい事があるんだ」


 青年の案内を頼りに狭く、薄暗い船内の廊下を辿る。何度か階段を降り、最下層へ進んでいく。やがて、一行は異国の紋章が描かれた扉の前で立ち止まった。

「こちらが医務室となります。この部屋にオルカ様がいらっしゃるはず・・・・・・」

 青年は自信がなさそうに、それだけを告げると、扉を開けて蒼真を先頭に皆を通した。部屋に入ると、医務室は寝床に伏せていた病人や怪我人で溢れ返っていた。死人のような顔をしながら弱り果てた唸りを上げ、苦しむ多くの患者達。そして、そんな彼らをたった1人で看病して回る修道女。彼女は忠勝達の足音に反応し、その真顔を振り返らせる。

 導き手と言われたオルカという人物は、20代にも満たない若い少女だった。白練りされた絹のような綺麗な髪が実に印象的だ。透き通った肌の色も、つぶらな緑眼も美しく、母性のある顔が凛々しい。

「失礼だが、あなたがオルカか?」

 蒼真の呼ぶ声に少女の動きが止まり、真顔を振り返らせる。

「あなた方はもしや・・・・・・」

「ああ、妖怪を討伐した張本人達と言っておこうか。化け物はもういない。船はもう安全だ」

「あなた方の勇敢な行いにより、大勢の魂が救われました。皆を代表して感謝を申し上げます」

 オルカは先ほどの修道士の青年とほぼ似たようなお礼を述べ、胸に手を当て一礼する。

「俺は蒼月 蒼真。この国のとある組織に属している。お取込み中悪いが、あんたに大事な話が・・・・・・」

「待って下さい」

 ふいに、後ろから声がして、蒼真の台詞を途中で遮る。ファゼラルとライゼルが前に出て、彼の代わりに先頭に立つ。

「すみませんが、ここは僕達に会話をさせてくれませんか?」

 ファゼラルが恐縮しながら頼んで、ライゼルも続いて言った。

「そうね。同じ西洋人の方が話しやすいと思うし。大丈夫だよ。話したい内容は多分、あなたと同じだから」

 蒼真は困惑に眉をひそめるも納得したのか、黙って後ろへ下がり、承諾を認めた。

「申し遅れました。僕はファゼラル・マーシャと申します。この子は妹の・・・・・・」

「ライゼルよ。ファゼラルは私の兄。共にこの国のとある組織に属する魔導士」

 マーシャ兄妹が簡単な自己紹介した後、オルカも挨拶の仕草をして氏名を名乗った。

「"ジェルメーヌ・ド・オルカ"と申します。この国では異国の方々も侍の一員として戦うのですね」

「確かに、この国では珍しい存在かも知れませんね。ですが、あなた方の方こそ闇夜の海に彷徨うには、妙な存在です。見たところ、船団に武装した護衛船は1隻もなかった。何故、そんな無防備な状態で危険な海域を渡っていたのですか?」

 最初にファゼラルが無謀な渡航を図っていた経緯を聞き出すと

「私達は"摂津国(現在の大阪府の一部)" と呼ばれる豊かな地を第二の故郷として、神の教えを広める使命を務めておりました。しかし、圧政に虐げられていた人々を庇ったが故に暴君の逆鱗に触れてしまったのです。私達は追手の魔の手が伸びる前に同胞達をまとめ、救った方々の手引きで港を発ちました。安泰の地と聞いていた九州を目指して海を渡っていたら、不幸にも先ほどの巨大な悪魔と遭遇してしまって・・・・・・そこであなた方の救済を受け、今に至るのです」

 長い説明にライゼルは"なるほどね"を流れを理解した台詞に使い、こうも続けた。

「あなた達も生きるために必死だったのね。でも、今の大和ノ国に安全な場所なんてないわ。あなたも見たでしょ?この国の現状を・・・・・・」

「そんな・・・・・・では、如何にすれば、恩恵の地へと皆を導けるのですか?」

 生きる糧として信じていた期待に裏切られ、悲しみに沈むジェルメーヌ。ファゼラルとライゼルは互いに見合わせた真剣な顔を彼女に向け

「助かる道がないわけではありません。それに僕達はあなた方を怪異に満ちた海原へ置き去りにする気もない。唯一、暴虐も迫害もない隠れし安住の地を僕達は知っています」

「・・・・・・っ!ほ、本当ですか!?その場所は何処に!?」

 藁にも縋るような問いに2人は即答はせず、すぐには詳細を告げなかった。ライゼルは一層、顔を強張らせ、さっき以上に厳しい口調で忠告する。

「後になって不満を抱かれるのも嫌だから、最初に言っておくわ。一度その地に足を踏み入れてしまえば、あなた達は一生あたし達の組織の一員として生きて行かなきゃならない。命懸けなのは、こっちも一緒。組織の秘密を守るための大事な掟なの」

「構いません!皆の平穏を守れるなら、私は喜んで、どんな掟にも従います!戦いという試練の際も迷わず剣を取り、あなた達と共に戦う覚悟です!」

 ジェルメーヌの必死の覚悟に嘘偽りはないだろう。マーシャ兄妹は信用の証である微笑みを映した顔を背後へ振り向かせた。

「大した心意気ね。彼女はこう言ってるけど?蒼真、何か異論はある?」

 と上機嫌が芽生えた言い方で、喋る相手を再び蒼真に切り替えた。

「いや、特にない。西洋人の集団とは予期せぬ客人だが、組織に加えても組織に支障は出ないだろう。俺は一向に構わんぞ。住む国が違っても人は手を取り合えば、生きて行けるからな」

 慈悲深い歓迎にジェルメーヌは歓喜の涙を零さずにはいられなかった。

「あなた方は天使です・・・・・・私はその尊き愛に、全てを捧げます・・・・・・!」

 喜ばしい展開に忠勝達は表情を和ませる。鈴音と海李は感激を分かち合い、夕日と美智子も嬉し涙に釣られて目を潤わせていた。

「さて、迷える修道士達をめでたく迎え入れたところで、そろそろ船を進行させよう。陸に上がるまでは油断はできん」

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.58 )
日時: 2021/01/19 22:04
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 安土城 天守閣

 城の最上階である天守の間に妖達が集う。最奥には城主らしからぬ気品の欠片もない体の構えを取る魔王信長。その表情は問題に行き当たったように堅苦しく、機嫌の悪さを感じ取れる。

 部屋の両隅には、1人足りない七天狗達が正座で一列に佇んでいる。彼らも気に暗雲がかかっ様子で落ち込んだ顔を垂れ、すすり泣く者もいた。そして、その陰気と妖々しさに満ち溢れた雰囲気を眺める紅葉と息子の経若丸も。

「して・・・・・・」

 信長がゆっくりと鋭い口を開く。その喋りは落ち着いていたが、妖怪の重臣達は圧倒的な威圧を察し、慌てて姿勢を正す。

「お主ら、天狗の末っ子が討ち取られたとはどういう事か・・・・・・分かるよう説明いたせ」

 叉岼は正座したまま、年下の兄妹達より1つ前に出る。家族を失った辛さを厳しさで押し殺し、深く頭を下げる事で失態への謝罪を示した。 

「九州領の異変に不吉な予感を覚えた私は島津家の人質を監禁していた金鉱山に偵察隊を向かわせました。そこには体中を引き裂かれ、変わり果てた紬の屍が転がっていたとの報告を受けたのです。人質の姿はなく、護衛を任せていた鬼までもが斬り捨てられ、妹を討った張本人が何者なのかも・・・・・・分からず終いでした・・・・・・!」

 家族の身に降りかかった聞くに堪えない内容に七天狗達は一層、泣き声を強め、その哀しみを露にした。

「いくら末っ子と言えども、彼奴は並みの妖怪を遥かに凌ぐ力を有していた。ただの人間にそう容易く首を差し出すなどあり得ぬ」

「あいつらがっ・・・・・・!」

 すると、七天狗の少年の1人が声を憎悪で震えさせ

「あいつらがっ!不知火の連中が紬を殺したんだっ!!」

「"祥(しょう)"、やめなさい。信長様の前で」

「叉岼姉は悔しくないのかよ・・・・・・憎くないのかよっ!?紬が!妹が惨いやり方で殺されたんだぞっ!!」

 騒々しい妖に信長は鬱陶しそうに耳の上をかき、喚き散らす妖怪を睨んだ。祥と呼ばれた妖怪はその威圧に逆らえず、途端に大人しくなった。騒ぎを鎮め、叉岼に隠れるように身を縮める。

「異形の力で日ノ本を我が手に納めたつもりであったが、まんまとしてやられたものよ。慢心が過ぎた故の結果かも知れぬな」

 敵の先手を許した失態に信長は"くくっ"と気味の悪い笑いを漏らす。途端に彼は拳を床に叩きつけ床を割り、人ならざる重臣達の驚愕を煽った。勢いよく立ち上がり、火焔のように放たれた闘気が痛覚として周囲に伝わる。

「予期せぬ事態が・・・・・・いや、我が野望を阻害する輩がとうとう牙を剥いたのだ。最早、他人事のように悠長に構えてはいられぬ。叉岼、日ノ本全域に妖魔を増員し、警戒を厳と成すのだ。重要な拠点にはお主の弟、妹を今まで通り守備に就かせよ。これ以上の失態は許さぬぞ。戦に情けは無用。加減を許せば、陣営は瞬く間に崩壊し、優勢な立場さえもいとも容易く覆されてしまうものだ。敵が我が首を望むなら、修羅となりて、抗う者全てを喰らい尽くすまでよ」

「御意」

「信長。天狗達だけに苦労はさせれないわ。あたしにもやってほしい事があるんじゃない?」

 紅葉は自身の必要性を主張し、不気味に口角を引きつった面持ちで期待を誘う。

「お主は常に我に忠実であるな。では、紅葉。お主には暗躍の任を任せる。不知火に関した情報を集め、居所を探ってはくれまいか?」

「そういう命令なら、謹んでお受けするわ。あたしも個人的に不知火とは因縁があるから」

「頼りにしておるぞ。もし、そのような輩が現世に存在してるのならば、容赦はいらぬ。見つけ次第、隠れ蓑を焼き払い、兵であろうが女子供であろうが残らず蹂躙せよ」

「任せて。今度こそ、奴らの尻尾を掴んでみせるから」

 鬼女が課せられた命を承り、次に天狗の叉岼が心に浮かべた事を問う。

「して、信長様。"逢魔が時の聲"の件につきましては・・・・・・?」

「計画は着々と進んでおるのだろう?なら、焦る必要はあるまい。ゆるりと、その時が来るのを愉しみに待とうぞ」

「承知致しました。では、私達は日ノ本各地の拠点にて、任を務めます。用がございましたら、いつでもお呼び下さいませ」

 叉岼は下げた頭を起こすと、その身から妖気を放出する。天狗達は舞い上がる黒い霧に包まれ、姿形を消した。

「・・・・・・面倒な事になったものよ」

 信長は不快な気分が晴れない愚痴を吐き捨て、去り際に紅葉の背中から顔を覗かせている経若丸を激しい目つきで見据える。慌てて、母の影に身を隠す様子に軽く口の端を吊り上げ、天守閣を後にした。


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