複雑・ファジー小説
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- 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
- 日時: 2019/04/03 16:38
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。
今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。
【ストーリー】
天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・
その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・
天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・
【主な登場人物】
本多忠勝
物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。
柳生宗厳(石舟斎)
柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。
織田信長
第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。
紅葉
信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。
七天狗
信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。
【不知火の一員】
鈴音
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。
海李
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている
杉谷 千夜
不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。
滓雅 美智子(おりが みちこ)
不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。
ファゼラル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音のカードで伴奏を流して上げる事も。
ライゼル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。
ゼイル・フリード
不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。
蒼月 蒼真(そうつき そうま)
不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。
箕六 夕日(みろく ゆうひ)
不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。
【用語】
殉聖の太刀
忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。
不知火
忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。
夜鴉
不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。
妖怪
日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。
大和ノ国
物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。
・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・
桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。
以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.59 )
- 日時: 2021/04/11 18:33
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2264.jpg
霧隠の山奥にて
緑の草や木々が生い茂る深い森の中、2人の武将が鍛錬に励む。戦意が宿った力強い声を上げ、真剣の重なる音が木霊しては消え、また木霊する。手合わせに明け暮れる者同士、年は違えど剣の腕は互角に張り合い、両者共、勝ちを譲らない。
「せぇいっ!」
「せぃやっ!」
白刃が幾度も交わり、やがて競り合いとなった。肉体、精神の全域に力を込め、刀身を押し合う。しばらくして、両者は柄を握る力を緩め、決着がつかないまま、勝負を終えた。2人の人数が間に入れるほどの距離を取り、荒い吐息をいくつか繰り返して額に塗れた汗を拭う。
「よし、今日の鍛錬はこれくらいにしておこう。屋敷に帰るぞ」
「ご指導、ありがとうございました!」
白髪の若武者が深くお辞儀し、おっとりとした優しい表情を繕う。背の高い中年の武将も微かに笑みを零し、刀を鞘に納めた。
「かなり、腕を上げたな忠勝。九州に行く前とは大違いだ」
「あそこでの戦いは僕の本当の強さ、仲間との絆を改めて実感させられました。心、技、体・・・・・・その全てを極められたような気が致します」
「お前らを信じて行かせた甲斐があった。壊滅の一途を辿っていた不知火が、たった二月で息を吹き返した。このまま上手く行けば、全盛期だった頃の勢力をも越える知れないな。よくやった」
「とんでもございません。あの時、石舟斎様と昌幸様が望みを捨てず、邪道に抗った結果でございます」
「ふっ。褒めても、何も出ないぞ」
2人は愉快に笑い、楽し気に会話を弾ませる。日差しが温かい山道を歩き、仲間がいる屋敷へと足を進めた。
森の通路を歩いている途中、深緑が続く向こうから1人の人影が見えた。その者は風を追い越してしまいそうな速さでこちらに迫って来る。忠勝と石舟斎は足を止め、目を細めて視察すると向かって来た正体はゼイルである事を知った。
「はあはあ・・・・・・!」
ゼイルは探していた2人の前で足を止めると、息切れを繰り返した。
「ゼイル。どうしたの?」
忠勝は少し心配になって問いかけた。隣にいる石舟斎も怪訝な顔で突如、現れた弟子に視線を固定する。
「ぜい・・・・・・ぜい・・・・・・忠勝、こんな所にいたのか。随分、探し回ったんだぞ・・・・・・?」
「どうかしたの?」
ゼイルは忠勝を探していた理由と用件を淡々と述べる。
「西の地で長屋を建てようとしているんだが、どうも人手が足りないんだ。手伝ってくれないか?」
頼みに忠勝と石舟斎はポカンとした真顔を繕う。ただ事を思わせぬゼイルの慌てぶりに不安を募らせた2人だが、それが、とんだ勘違いを知ると、自然と笑いを吹き出した。気の抜けた温和な気持ちに身が軽くなる。
「おいおい、2人して何笑ってんだよ?こっちは真剣なんだぜ?」
ゼイルも笑いに釣られ、無意識に破顔していた。
「分かった。皆の手伝いに行くよ。案内して」
肯定の返事を受け取ったゼイルは"よし来た!"と気合いを入れ戻し、我先にと元来た山道を嬉しそうに駆け抜けていく。後を追おうとした忠勝は走る仕草を取ったまま、石舟斎の方を振り返った。彼は威厳で強張った普段の面を微笑ませ、顎を軽く上げ、事を促す。
「早く行って来い。昼飯は俺が作っておく」
霧隠の山の西に位置する平地では林が切り開かれ、長屋の建造が着々と進められていた。まだ、集落という面影は見えないが、このまま作業が順調に進めば、多くの時間は費やさないだろう。男達は汗ばむ上半身を露出させ、太い丸太を次々と運んで行き交い、女達はその隅で障子張りや畳作りに明け暮れる。その中には海李と鈴音の姿もあり、それぞれの役割を難なく、こなしていた。
忠勝やゼイルが建設現場に到着すると、数人の顔見知りが彼らを出迎えた。
「あ!ゼイルくん!忠勝くんを連れて来たんですね?恐縮ですが、この丸太を運ぶのを手伝ってくれませんか?僕だけではどうも、力不足で」
丸太置き場には夕日がいて、木材運びの助力を求める。
「おう!いいぜ!俺が2本、まとめて持つからよ!忠勝とお前は片方ずつ支えてくれ!」
忠勝とゼイル、夕日は3人がかりで太い丸太を支え、加工場へと運んでいく。大掛かりな開拓の様子を楽しそうにファゼラルとライゼル達が眺めていた。
「草木しか生えていなかった地に集落が築かれるなんて、素敵ですね。村や町の発展はいつ見ても気持ちがいいものです」
「同感。あたし達しかいなかった奥深い山岳の隠れ家が今やたくさんの人達の手によって街になろうとしているんだよ?信じられる?夢じゃないのかと自分の頬を抓りたくなるわ」
「村が豊かになりゃあ、笑う人間も増えるだがね!楽しくなるのう!儂も踊らずにゃいられんでよ!」
「ホント、一時はどうなるかと思ったよ。しかし、これだけ人が集まったんだ。あたしら、喜劇役者の腕の見せ所だね。あんた、これから忙しくなるよ!」
平八と小夜も活気ある風景に歓喜を糧に気合を入れる。
「ああ!これだけの人がいれば、私の品でたくさん儲けられる!億万長者も夢じゃない!」
万屋を営む喜平も、理想が叶いそうな将来に胸を躍らせる。
「おい、お前ら!こっちは人手が足りないんだ!手が空いてるなら、手伝え!」
立ち尽くす5人に、遠くからゼイルが協力を求める大声が届く。
「よしゃ!怪力自慢の出番だらぁ!儂も手伝うだがね!」
「皆だけに働かせたんじゃ、面目が立ちやしないからね。で、西洋の陰陽師の2人は何をするんだい?」
「わ、私は皆さんのために菓子折りを用意しておきます!恥ずかしながら、力仕事は苦手でして・・・・・・!」
建築作業がしばらく続いた頃、蒼真が速足でやって来た。彼は開拓の邪魔をしないよう注意しながら、労働に明け暮れる人々の群れに割り込む。やがて、ある者が目に留まると真っ直ぐに駆け寄り、真面目な声で名を呼んだ。
「忠勝」
「あ、蒼真!もしかして、蒼真も手伝いに来たの?」
ちょうど、これで何本目になるか分からない丸太を置き、忠勝は額に掻いた汗を拭って取り払う。
「いや、そうじゃない。実はお前を探していたんだ。お前に関わってほしい用事がいくつかあってな」
「色んな奴から、引っ張りだこだな。どんだけ魅力があるんだよ?」
ゼイルが半分呆れて苦笑し、横から口を挟む。蒼真は冗談で和んだ陽気な空気に囚われず、笑む兆しを表さなかった。
「用事?」
「詳しい事は来てほしい場所に来てから話す。ついて来てくれないか?千夜も美智子もお前の到着を待ちわびている」
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.60 )
- 日時: 2021/06/23 20:31
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
忠勝は建築作業を中断し、蒼真の元、林道の奥へと連れられる。十数分の時間をかけて歩いて、辿り着いた場所は彼らがよく道場として利用していた屋敷だった。蒼真の証言した通り、鍛錬を行う広間には千夜と美智子の姿が。そして、修道女であるジェルメーヌもその場に居合わせていた。
「お前ら、忠勝を連れて来たぞ」
蒼真が探していた人物を後ろに置き、到着を知らせる。忍の2人は真面目な横顔だけを振り返らせ、陣取るように留まっていた。
「来たわね。遅かったじゃない」
「あんまり、待たせないでよね?こっちだって、暇じゃないんだから」
2人の不満を主張した文句に蒼真は"すまん"の軽い一言で済ませ、道場へ上がった。胸に手を当て一礼するジェルメーヌとすれ違い、彼女達の傍へ寄る。
「ところで僕に何の用?」
忠勝が率直に用件を尋ねる。
「説明は後よ。まずはこれを見てほしいの」
千夜と美智子は正面を向き直り、道場の床の間の方を見た。中心には小型の台が置かれ、その上に黄金色に輝く物体を乗せている。一見すると金塊のようだが、微かに禍々しい黒い妖気が渦巻く。
「これは・・・・・・?」
得体の知れない代物に、忠勝は眉の間にしわを寄せた。
「九州での戦いは覚えているわよね?菱刈鉱山で天狗の1人を抹殺した後、蒼真がそいつの死体から転がり落ちているのを見つけたの。何かの"魔石"みたいだわ」
千夜の説明に続いて
「蒼真には何も影響しなかったみたいだけど、私達が触れた途端、計り知れない邪気が全身を巡り、言葉では言い表せない地獄絵図が頭を埋め尽くした。これが何なのかは不明だけど、強力な力を持つ妖が所持していたくらいだから、危険な物であるのは確かね」
美智子も石がもたらした事についての詳細を付け加える。
「これはあくまでも曖昧な推測だが、この石は妖怪以外の種族には適応しない邪悪な妖力が宿っているのかも知れん。俺達が扱う普通の霊石とは大きく異なるものだ。今までに奇怪な類の物を色々と学んだが、こんな異物は見た事がない。異国から流れて来た魔石かと思い、ジェルメーヌにも聞いてみたが、結果は俺達と同様、知らず終いだった」
蒼真は腕を組み、当てにならない推測をする。
「私もこの禍々しい石に触れ、地獄の奥底を目の当たりにしました。目に映った世界全てが負の霧に満ちていて・・・・・・ 恐らく、これは悪魔が地上に落とした地獄の欠片なのでしょう・・・・・・」
ジェルメーヌは石の存在を恐れ、如何にも修道士らしい物の例えを述べた。
「不知火の精鋭隊長であるあなたにも、報告しておこうと思ったの。後で他の皆や石舟斎様にも知らせるつもりよ」
忠勝は沈黙しながら、千夜と美智子の間から先頭に歩いて、石に近づく。見れば見るほど、目を背けたくなるような不気味さが増していく物体。おそるおそる、手を差し出し、指先で表面をなぞった。
「・・・・・・ううっ!」
その時、頭蓋骨を割られたような激しい頭痛が忠勝を襲った。縫いつけられたように目蓋が開かなくなり、視界は黒い渦の奥へと吸い込まれていく。渦の果ては赤黒い炎が燃え盛る殺伐とした光景。
そして、目の前に現れたのは、この世ものとは思えない悍ましい眼光。鬼畜の限りを尽くしたと言わんばかりの禍々しい2つの眼球は、地獄に引きずり込もうと言わずと告げる。次の瞬間、断末魔を上げた無数の顔が視界と脳内を一気に埋め尽くした。
「・・・・・・ああああああああ!!」
狂気的な幻影に耐えられず、忠勝が気を狂わせた悲鳴を上げる。蒼真が彼を石から遠ざけ、背中から倒れ込むのが同時だった。
「忠勝っ!」 「ちょっと!大丈夫っ・・・・・・!?」
千夜と美智子も忠勝の体を支え、安否を確かめる。ジェルメーヌも深刻そうに、急いで駆けつけた。
「はあはあ・・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・!」
「忠勝にも刺激が強過ぎたみたいね。この石・・・・・・やっぱり、妖怪以外が触れてはいけない危険な物なんだわ」
美智子が魔石の危険性を改めて実感する。
「この魔石は、隠れ家の倉庫に厳重に保管しておく。取り出す事になっても、絶対に俺以外の者には触らせるな」
「承知したわ。皆にも忠告しておく」
「この石は一体・・・・・・?僕が見たあの恐ろしい光景は、何だったの・・・・・・?」
脳裏にトラウマが焼きついた忠勝は、小柄な身を縮こませ、誰に聞くわけでもなく聞いた。真冬に水を浴びせられたかのように、全身を小刻みに震えさせながら。
「忠勝さん。大丈夫ですか?少し、休息を取られた方がよろしいのでは?」
ジェルメーヌは心配になって気遣うが、彼は"大丈夫"と顔色が悪いまま、笑みを繕う。口調はまだ、痺れが残っていたが、何事もなかったのように床から体を起こした。
「これが、さっき言った関わってほしい用事の1つだ。そして、もう1つ、お前を呼んだ理由は・・・・・・」
蒼真は台詞を最後まで繋げず、懐から折り畳まれた1通の文(ふみ)を取り出す。それを何食わぬ顔で忠勝に差し出した。
「これは?」
「今朝、俺の部屋に置いてあったのを見つけた。誰が届けたかは不明だが・・・・・・俺達、不知火に宛てた内容のようだ」
「読んだの?」
「まあな。先に拝見させてもらった」
「何て、書いてあったの?」
忠勝は文を片手に詳細を促すが、蒼真は素直にならず
「色々と複雑な内容だ。自分の目で確かめた方が早いだろう」
とだけ答えた。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.61 )
- 日時: 2021/07/11 19:05
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
月が闇夜を照らし、茂みで虫が鳴く夜。不知火の精鋭全員が道場へと集結した。彼らに悠々とした休息を与えれらる暇はない。ここにいるのも、不知火の復旧を目的とした次なる計画を練るためだ。
廊下を渡り、石舟斎が姿を現した。剣聖の背中を追って、真田昌幸も集団の内に加わる。忠勝達は正座し、正面に座る師に深く頭を下げた。
「全員、揃っているな?九州での活躍は見事だった。お前らのお陰で不知火は多大な復旧を遂げた。日ノ本の民草を守るきっかけを作った功績は雲をも貫く山よりも高い」
石舟斎は初めに、精鋭達の活躍を褒め称える。しかし、彼は決して慢心を許さず、厳しさを緩める事はなかった。
「しかし、多大な戦力を得たとはいえ、今の俺達の力は、一国とまともに争える程までの戦力はない。故にこれからも、お前らには組織復旧のための任に就いてもらいたい」
「はっ!泰平の世のためなら、骨身を惜しまぬ故。我々に何なりとお申し付け下さい」
前列にいる蒼真は額を床につけたまま、組織への忠義を示す。次に石舟斎の隣にいた昌幸が、この場を仕切る役目に回った。
「堅苦しい振る舞いは、疲れるであろう。皆の衆、面を上げて楽にしても構わぬぞ。某からも、礼を言わせてくれ。誠に大義であった。お主らは、見事に泰平の礎を築いたな」
「勿体なきお言葉でございます。されど、大義を得るに値するお方は紛れもなく、昌幸様の方。昌幸様の義を重んじる願望こそが、理想を実現したのです。真田の揺るぎなき仁のお心・・・・・・我々にとって、良き手本となりました」
忠勝は、歓喜を露にしたい衝動を抑え、逆に謝意を表した。
「ふっ、無理に畏まりおって。だがまあ、この年になって褒められるのも、悪い気はせぬな・・・・・・して、次の計画についてなのだが・・・・・・」
昌幸は改めて、次の任務の詳細を述べる。
「石舟斎が申したように、島津領から多くの兵を与えられ、不知火の力は大幅に拡大した。しかし、今のままでは、組織は成り立たぬ。まずは、あらゆる設備を整える事で、組織の内側を豊かにし、順風満帆な環境を築く事から、始めるべきであろう。まあ、そのような役割は、武士や民に任せておけばよい。お主ら、精鋭には別の仕事を頼みたい。故に、ここに呼び集めたのだ」
「・・・・・・して、別の仕事とは?」
美智子が肝心な本筋について伺うと、今度は石舟斎が詳細を述べる。
「今朝、蒼真の部屋に1通の文が置いてあったんだが、読んでみると、不知火に対して、友好的かつ、協力的な内容が記されてあった。差出人は、奇妙な名を名乗り、本名すらも定かではない・・・・・・が、そいつは、九州の地でお前らと会いたいそうだ」
「また、九州ですか?」
かつて、出向いた地域の名前を耳にし、ファゼラルが、いつもと変わらない口調で言った。
「差出人が、不明なんだろ?普通に考えて、怪しくねえか?無暗に信用しない方がいいと思うぜ?」
海李は、謎めいた文に対し、半信半疑な意見を述べた。
「罠だという線も否定できませんしね」
夕日も訝しげになって、最悪な事態を想定した仮説を頭の片隅に置く。
「忠勝。とにかく、この文に書かれた内容をここにいる皆に読み聞かせてやってくれないか?」
「はい」
忠勝は、間を開けず肯定し、懐から届けられた文を取り出す。何層にも重ね折りされた薄い白紙を広げ、書かれた文章を声に出して読んだ。
(文の内容)
『"自らの足で出向かず、文を届ける形になってしまった非礼をお許し下さいませ。あなた方、不知火の勇敢なる猛者達が、九州の金鉱山にて、天狗を討った活躍は、私も耳にしました。世の理を正そうとする不知火の信念に、私も泰平の世のための戦いに加わるべきであると、決心がついたのです。聞けば、不知火は復旧の途中にあり、かつて、室町の影の軍隊と呼ばれた全盛期の頃には、遠く及ばずにいるとか。私でしたら、微力ながらも助力をお与えできるやも知れません。不知火のお役に立ちそうな"秘宝"をご提供致します。
しかし、私はとある厄介な問題を抱えており、故郷から遠ざかれない身・・・・・・無礼は承知でお頼み申し上げますが・・・・・・もし、よろしければ、こちらの方へお越し頂いて、私の苦悩を晴らす手伝いをして頂けないでしょうか? 場所は豊後(現在の大分県の大半)の千燈岳(せんどうだけ)です。山道の途中に位置する場所に私の住む庵(いおり)がございます。詳しい内容は全て、直接、対面を果たした上で説明致します故。日ノ本の命運を背負う勇士達に茶をもてなす日を、心より楽しみにしております"』
・・・・・・"千利休の子"より・・・・・・
「・・・・・・はあ?千利休の子だぁ?」
ゼイルが嘘臭いと言わんばかりに、より信用を薄れさせる。
「秘宝が、何を意味してるのか気になるけど・・・・・・ますます、怪しくなってきたわね・・・・・・」
千夜も、呆れずとも苦笑し、一方的な疑いをかける。
「千利休と言えば、この日ノ本で最も名の知られた茶人だよね?」
「ええ、千利休は多くの大名を魅了した茶人の鑑。わび茶(草庵の茶)の完成者として知られ、茶聖とも称せられるほどの有能な人材です。大勢の弟子を取っており、大和ノ国を支配している魔王信長にも一目置かれている存在だとか・・・・・・」
あまりよく知らないライゼルに対し、ファゼラルは知っている限りの知識を説示する。
「その千利休の子って、何者なのかな?」
鈴音は、誰もが知りたいであろう謎に人物の正体について指摘すると
「さあな。だが、その文を書いた奴は、敵側の機密事項であるはずの天狗の事も知ってやがる。ただ者じゃねえのは、確実だな。伊達に偉人の血縁者を名乗ってやがるわけじゃ、なさそうだぞ?」
海李は、これまでの証言を手掛かりとし、独自に人物像を想像する。
「・・・・・・で、お前らはどうしたいんだ?利休の子と名乗る人物に会いに、再び、九州に渡るのか?」
石舟斎は精鋭達に判断を委ねる。しかし、これは安直に答えを出せるようなものではない難問。葛藤に囚われ、即座に返事を返せる者はいなかった。1人の若武者が決断を下すまでは。
「僕は、千利休の子と名乗る人に会いに行きます」
忠勝の場の雰囲気を変える堂々とした一言に、その場にいる全員の視線が集う。
「忠勝くん。簡単に決めず、冷静になった方がいいかと。さっきも言いましたが、罠である可能性は捨てきれませんよ?」
夕日は再度、忠告を促すが、対して忠勝は真逆の説を唱えた。
「罠じゃない線だって考えられる。ここで、ずっと頭を悩ませていても仕方ないよ。嘘か真実かは、行ってこの目で確かめよう」
すると、忠勝のやる気がゼイルにうつり、闘志と意欲を掻き立てる。
「忠勝だけに、いい格好はさせねえよ。仮に敵の罠だったとしても、これまでのように返り討ちにすればいい。真っ向勝負から逃げたんじゃ、フリートの名が廃る」
「私も行くわ。結局は、不知火やこの国の未来のために命を懸けなきゃいけないんだもの。私達に立ち止まってる暇はない。こうして、時間を無駄にしている間にも、信長や妖達は日ノ本を破滅の危機へと追いやっている」
千夜が覚悟を決めた事をきっかけに、他の精鋭達も次々と賛成の枠に加わった。二の足を踏んでいた群集は、賑やかに戦意とやる気に満ち溢れさせる。
「利休の子による茶会の誘いか・・・・・・よくよく考えりゃ、面白そうじゃねえか!」
「決まりだな。忠勝のお陰で、満場一致だ。偉大な茶人を待たせるのも失礼に値する。明日の早朝、隠れ家を発とう」
蒼真が出発の予定を告げ、忠勝が大きく頷く。
「うん。行こう。いざ、再び九州へ」
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.62 )
- 日時: 2021/08/15 20:35
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2309.jpg
不知火の精鋭達は組織に協力を申し出た"利休の子"に会うため、再び、九州の地へ足を運んだ。前回の舞台となった大都市の薩摩とは異なり、豊後は小さな集落をたまに目にするくらいの、田舎の地であった。山々が聳え、緑豊かな自然が大半を占めており、未開の風景が広がる。その、のどかな自然に溶け込んだ千燈岳。誰も立ち入らないだろう山奥に何が待ち受けているのか・・・・・・?
豊後国 千燈岳
不知火の精鋭達は千燈岳の山道を進む。草木が複雑に生い茂っている森に挟まれた狭いとも広いとも言い難い一直線の道を通り抜けていく。途中で休憩を挟んでは、自生していた実を食べ、滝の水で喉を潤し、目的地を目指す。時刻は真昼をとうに過ぎ、空を見上げれば、太陽は橙に色づき、夕暮れに近づきつつあった。
辺りが薄暗く、ひんやりとした空気が漂い始めた頃、やがて、忠勝達は山道の途中で自然の創造とは異なる場所へと行き着く。 そこは、湧き水が溢れる小さな水源で、水辺には水芭蕉や茎の長い紫色の花が咲き乱れ、繊細な手入れが施された庭園だった。更に先には、竹を一部として作られた階段があり、上には1軒の草ぶきの小屋が建つ。
「あれが、差出人が住んでいる"庵"なのかな?」
「らしいな。あそこに利休の子と名乗る人物が、俺達のために茶を沸かしているんだろう」
忠勝の独り言の問いに、蒼真が大体確信しながら、この先に待つ展開を予想する。
「しかし、日ノ本の自然は 西洋にはない美しさを感じますね。こういった場所いると、瞑想にふけたくなります」
ファゼラルが、自然を生かした美しい芸術に酔いしれる。 その感想には、ライゼルも深く共感し
「和風の作り物って、どれも心が洗われるのよね。この国を故郷に育ったけど、まだまだ知りたい事だらけだわ」
「それにしても、妙ね。敵が現れて襲って来るどころか、妖の気配すらしないわ」
千夜は、落ち着けなかった。山奥に足を踏み入れてから、いくつかの時が経つが、何かが突然に襲って来るような兆しはない。念のために辺りを見渡しても、動物すら1匹も姿を現さない。
「ああ、さっきから、俺も違和感を感じてた。人が滅多に立ち入らねえだろう場所にしちゃ、獣の殺気すら漂って来ねえんだ」
心地いい環境がゼイルにとって、逆に不可思議な感覚を生んだ。妙な感覚は、やがて、嫌な予感へと変貌を遂げていく。
「千夜ちゃんもゼイルも、心配する事はないわ。私の式神である折り鶴を先に偵察に向かわせておいたから。敵が出てきたら、すぐに私の耳に入るよ」
美智子は、式神を頼った手際の良さを告げ、2人を安堵させる。
「立派と言えば立派だが、わざわざ、庭園に見惚れるために来たわけじゃねえんだろ?早く、利休の子とかいう奴の顔を拝んでやろうぜ」
海李が、ここに来た本来の目的を優先し、一足先に水源へと足を運んだ。
「そうですね。夜になる前に用事を済ませましょう」
夕日も大いに賛成し、彼の後に続く。
忠勝達は、庵の前で立ち尽くした。近くで見れば見るほど、構造が古臭く、1本の柱が折れれば、瞬く間に全壊してしまいそうなほどだ。人が住むには、あまりにも不便な箇所が目立つ。
「この中に、本当に人がいるのかな?」
鈴音が少し心配になって、誰に聞くわけでもなく聞く。
「忠勝。誰かいるかと、呼んでみれば?」
ライゼルの案に忠勝は頷いて、隊の先頭に行く。辺りに気を配り、人影さえも映らぬ障子に無効に向かって
「すみません。どなたかいらっしゃいますでしょうか?」
と、やや大き目な声で家主の在宅を尋ねた。すると
『"どなたでしょうか"?』
すぐさま、返事が返り、精鋭達は目を丸くした。声の主は男性だが、口ぶりが優しく穏やかな性格を思わせる。まるで、幼い少年のような・・・・・・
(いるのは、子供か・・・・・・?)
意外な住人に蒼真は言わずと、心内で囁く。
「あの・・・・・・僕達は、利休の子という人物へ会いに来たのですが・・・・・・」
すると、再び、障子を隔てて礼儀正しい返事が返される。
『"どうぞ。中へお入り下さいませ"』
障子を開け、内側を除いた途端、忠勝達は目を奪われた。庵の内部は外側の朽ちかけた外見とは異なり、清潔で広い立派な茶室となっていた。まるで、上級の武士の住まいのような、一面が豪華な部屋だ。茶釜のすぐ隣に声の主と思われる1人の少年が、足元に茶器を置き、正座の姿勢で出迎える。
少年はボサボサの短い黒髪を生やし、目の大きい和やかな顔立ち。体格は小柄で服装に乱れがなく、落ち着いた色の着物を完璧なまでに着こなしていた。手を床につけ、一礼すると、明るい面持ちを上げ名を名乗る。
「お待ちしておりました。私が千利休の子、"千唖休(せんの あきゅう)"と申します」
「あなたが・・・・・・」
目の前にいる人物は、茶道を心得ているようでも、やはり子供だ。忠勝は、認識はしているものの、無意識に再度確認する。
「如何にも。私があなた方の元へ、文をお送りした差出人でございます」
唖休と名乗った少年は肯定し、不気味なほどに 晴れやかな表情を絶やさない。すると、美智子はある事に気がつき、指を指した。
「あっ!あれは、私の式神!」
庵の隅にある鳥籠に、美智子が偵察に向かわせていた折り鶴が閉じ込められていた。唖休は静かに笑うと、籠の檻を開けて、自由を与える。
「外にいたら、庵のまわりを飛び回っておりました。あまりにも珍しかったので捕まえて、飼おうと思ったのですが・・・・・・残念な事に、飼い主がいたのですね」
思考が読めない性格に言葉が出ない美智子。蒼真は忠勝の隣を過ぎて前に出ると、警戒心が浮き出た威嚇的な態度で
「不知火に提供したい物があると言っていたな?こっちは、早々に本題に入りたいのだが?俺達が、わざわざ出向かなきゃ、解決できない悩みとは何だ?」
「ご質問の連鎖は、当然の事と承知しております。ですが、まずは私のお茶で心身を清めて頂きたいのです。詳しい説明は、その後に致します故」
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.63 )
- 日時: 2021/09/05 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
唖休は、文に書いてあった文字通り、精鋭達に茶をもてなす。出された茶は緑茶のようだが、普通の物とは色も香りも異なる。灰色に近い濃い緑の液体に、蜜のような甘い匂いが漂うのだ。
唖休という人柄も、異様な茶にも深い怪しさが渦巻いているように感じてしまう。友好的な少年に敵意は感じないが、味方という線を信用するには、早過ぎる。精鋭達は茶器を口には寄せられず、誰一人、振舞われた物の中身を啜ろうとしなかった。
「御心配には及びませんよ。茶に毒を盛ろうなど、利休の名と名誉に傷がつきます故」
相変わらず、心内がはっきりと覗けない唖休。彼と一緒にいる事で、気の迷いが生じてくる。
「海李。ちょっとだけ、味見してくれない?」
ライゼルが苦笑し、恐縮しながら頼んで
「はっ?ふざけんな!毒味役なんてまっぴらごめんだ!」
返事は勿論、否定そのものだった。
「やめなさい。人様の家で、みっともない」
千夜が、礼儀作法に反した2人を睨んで、居住まいを正す。忠勝も夕日も、遠慮がちに躊躇っていた時だった。
突如、鈴音が茶器の口縁をくわえ、唖休の茶を一気の飲み干したのだ。その行為には、その場にいた精鋭達の驚愕の視線を集めた。
「え。ちょ・・・・・・鈴音さん!?」
ファゼラルは、焦ったあまり、台詞をあやふやにして止めに入る仕草を取る。最初の一服を味わった鈴音は、茶器を膝の手間に置き、咳き込む事も苦しむ事もなく
「美味しい」
と、素直な感想を述べた。
「う、美味いのか?じゃあ、俺も飲むわ」
脅威の皆無を認識したゼイルもあっさりと、恐れを剥がし、茶を飲んだ。ひとまずは安堵し、全員が茶を口に含む。1人が1人が、味にお気に召した感想を述べる。
「味は、確かに緑茶ですが、明らかに茶葉以外に他にも、別の何かが加えられています」
夕日の舌は誤魔化しが効かず、即座に悟った。唖休は"よくぞ、見抜いてくれた"と言わんばかりの実に嬉しそうな表情で
「あなたは、味覚が鋭いのですね。仰る通り、このお茶に含まれる物こそ、是非ともあなた方、不知火にご提供したい"秘宝"なのです」
「「「・・・・・・え?」」」
精鋭達は息を合わせ、同じ声を上げる。想像の産物とは、大きく異なっていた秘宝の意外性に驚きを隠せなかった。
「私がお出しした茶には、千燈岳でしか生えていない"千燈のオトギリソウ"が含まれています。知る者が限られている貴重な秘薬であり、服用すれば心身の傷や万病を立ちどころに癒す奇跡の薬草。また、その心地よい香りには、視界に映る真実を歪ませる効力があり、幻覚剤の原料にもなるのです」
唖休は、薬草の説明を滑らかに教え、自身も茶を静かに啜る。
「なるほどね。秘宝については、はっきりしたわ。唖休と言ったわね?次はあなたが何者かを知っておきたい。 私達の存在や敵の情報を正確に把握していている上、性格の読めない怪しい人物を容易に信用するわけにはいかないの」
「・・・・・・と、言いますと?」
いくら、疑いをかけられても、唖休は動揺の兆しすら見せなかった。
「初めて目にした時から、あなたからは、"ただの人間"としての気配が感じ取れなかった。他にも、何か隠してるわね?」
千夜が、数々の不審な点を指摘しようとした矢先、蒼真が横槍を入れ、代わりに言った。
「何故、俺達が九州の金鉱で天狗を討った事を知っている?ましてや、天狗の存在は、敵側の重要機密のはずだ。しかも、人が立ち入らない山奥で独り身で住み着くただの子供の耳に届く報とは思えん。何故、そんなに詳しいんだ?」
「そうだぜ。お前、随分と物知りじゃねえか。俺達より遥かに知識が豊富過ぎる気がするんだが?気のせいか?」
ゼイルも心を許せず、疑いを敵意に置き換える。右手は万が一の事態に備え、剣のグリップを強く握っていた。
「唖休さん。あなた一体、何者なんですか?」
鈴音は、早く教えてほしいと言わんばかりに、単純な質問を投げかける。精鋭達の晴れ晴れとしない曇った視線を浴びせられる唖休は茶器をゆっくりと膝の前に置く。
「私の正体につきましては、とある事情故に滅多に他者には明かさないのです。ですが、ここで信頼を得ない事には、お互いに有益な結果は生まれないでしょう。幾度もお伝えさせて頂きますが、私はあなた方の敵ではありません。むしろ、不知火とは友好な関係を築き、組織に貢献する事がこの上ない名誉だと考えております」
「そこまで宣告できるなら、正直に打ち明けても大丈夫なはずよ?早く、教えなさい」
ライゼルが目蓋を細く、尋問に近い言い方で告白を促す。唖休は苦笑を浮かべ、躊躇いのある小さな声で
「・・・・・・私が天狗に詳しいのは、当然の事でございます。何故なら、私は信長公に仕える"七天狗の血縁者"なのですから」
下手をしても聞き流せない発言を耳にした途端、不知火達は茶器を捨て、それぞれの武器を取って構える。大勢から敵を向けられても、唖休はその場を動かず、姿勢を崩さなかった。
「七天狗の血縁者だと・・・・・・!?」
「しまった・・・・・・!さては、僕達が飲んだのは毒・・・・・・!」
海李は聞かされた台詞の一部を真似、ファゼラルがこちらに害を成す企みであると予期する。その時、初めて唖休の笑みが曇り、シュンとした顔を俯かせる。
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