複雑・ファジー小説
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- 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
- 日時: 2019/04/03 16:38
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。
今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。
【ストーリー】
天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・
その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・
天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・
【主な登場人物】
本多忠勝
物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。
柳生宗厳(石舟斎)
柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。
織田信長
第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。
紅葉
信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。
七天狗
信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。
【不知火の一員】
鈴音
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。
海李
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている
杉谷 千夜
不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。
滓雅 美智子(おりが みちこ)
不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。
ファゼラル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音のカードで伴奏を流して上げる事も。
ライゼル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。
ゼイル・フリード
不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。
蒼月 蒼真(そうつき そうま)
不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。
箕六 夕日(みろく ゆうひ)
不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。
【用語】
殉聖の太刀
忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。
不知火
忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。
夜鴉
不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。
妖怪
日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。
大和ノ国
物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。
・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・
桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。
以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.69 )
- 日時: 2021/12/30 18:41
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「やめなさいっ!」
千夜のとっさの呼びかけも空しく、大剣は既に振り下ろされた直後だった。
斬撃は確かに命中した。しかし、肉体を斬った際の手応えが感じられなかった。刀身は闇千代の体を擦り抜け、姿が歪んで無に消える。
「消えた・・・・・・!?」
「奴は、どこにっ!?」
精鋭達は辺りを見渡すが、闇千代らしき人物は視界に入らなかった。敵の存在が確認できない状況に緊張に恐怖が入り混じる。
「奴を探すぞ!姿を現さないだけに、どこから奇襲を仕掛けてくるか見当もつかん!各自、決して油断するな!」
「あの片目野郎!絶対に俺が仕留めてやる!」
精鋭達は探索の効率を上げるため、やや散り散りとなり、秘草の草原を辿る。辺りに十分な注意を払い、武器を握る手に汗が滲んだ。
「もしかして、僕を探しているのかい・・・・・・?」
ふいに、仲間とは異なる馴染みのない声に話しかけられ、背中に寒気がした。忠勝は武器を構えたまま、瞬時に振り返る。正面のすぐ先に標的である闇千代が立ち尽くしていたのだ。彼は武器を持たず、花を握る手を垂らした無防備な体勢でこちらを見つめている。
ギリッと歯ぎしりをして、忠勝は地面を蹴って一気に迫ると、刀身で斜めに斬りつけた。闇千代の胴体に傷が入り、破けた服から血が噴き出す。
・・・・・・しかし、その殺意に満ちた面持ちは一変し、怪訝になる。
「うぐっ・・・・・・忠勝、お前・・・・・・!」
斬られたはずの闇千代の姿が何故か、ゼイルに映り変わっていた。仲間の刃を受けた彼はフラフラと二、三歩後退りをし、震えた脚が曲げて寝返りを打つように仰向けに倒れ込む。
「ゼイルッ!!」
忠勝は頭が真っ白になり、過ちを犯した罪悪感だけが唯一の感情となった。殉聖の太刀を手放し、無我夢中で駆け寄ると、鎧で身を固めた重い体を腕に包んで抱き起こす。
「があああ!!」
その刹那、別の方角にいた仲間の悲鳴が耳に届く。顔を上げると、ファゼラルが深傷を負った痛々しい腹部を押さえて蹲っている。苦しそうに唸る彼を足元に置き、真っ青に血の気を引かせた夕日が呆然と立ち尽くしていた。大鎌には、同胞を斬った証である血がダラダラと滴り落ちる。
「いや!ど、どうしてっ!?千夜さんやめて!!」
千夜も平静さを失い、鈴音を襲っていた。海李も怒りに満ちた野蛮な言葉を吐き散らし、ライゼルを追い回している。どこもかしこも視界に映し出されているのは、互いを傷つけ合う仲間達の狂った光景だった。
「一体、何が起きて・・・・・・」
「忠勝・・・・・・気をつけ・・・・・・ろ・・・・・・奴は"幻術"を使って、俺達を・・・・・・同士討ち・・・・・・させてるようだ・・・・・・妖らしい汚い・・・・・・手を使いやが・・・・・・る・・・・・・」
ゼイルが声を途切れさせ、敵の能力を予測する。激しかった呼吸が徐々に弱まり、目蓋を閉ざした顔がグッタリと垂れた。
「ゼイル!ゼイルッ!!死んじゃだめだ!!」
忠勝はいくら呼んでも返事がないゼイルを揺さぶる。しかし、妖が創り出した魔障の巣窟では、ゆっくりと悲しみに暮れる暇さえも与えられられなかった。
純粋な殺意が正面から迫って来る事を察した。忠勝は、鍛錬で身に着けた反射神経を生かし、とっさに地面を転がる。彼がいた場所に標的を外した斬撃が命中し、粉砕した秘草が舞い散り、土に深く真っ直ぐな亀裂を作った。
忠勝は太刀を拾い、素早く体勢を立て直すと、次に来た斬撃を防いだ。襲って来たのは仲間への絆を失い、害意だけを剥き出しにした蒼真だった。二刀の刃が重なり、刀身が擦れる金属音に耳と歯が痒みが生じる。
両者は互角の競り合いの末、動作を合わせ、飛び下がった。幻覚に囚われた蒼真は連続で斬りかかり、忠勝がそれを全て弾き返す。その中の一撃をかわし、相手にできた隙を攻める事なく、遠ざかって一旦は距離を置いた。蒼真はすぐに追いかけようとしたが、横から不意を突いてきた海李に気を取られ、関心を捨てる。
「我の思う者を撃ち抜け!『撃』!」
ライゼルがタロットカードの魔力を発動し、無数の弾幕が忠勝の背中を目掛けて放たれる。防ぎきれない魔弾を素早い身のこなしでかわした。回転跳びをして、上手く着地したのも束の間、その無防備な姿勢に追い討ちをかけるように夕日の大鎌が背後を捉える。
忠勝は太刀を勢いつけて半円形を描く形に振るう。刀身は大鎌に当たり、夕日の全身ごと跳ね返した。
「きゃあああ!!」
高い悲鳴がした方へ、忠勝は視線だけを向ける。遠くで千夜の脅威から必死に逃げ惑う鈴音がいた。援護の役割に回される事を常とし、実戦経験が浅い少女が熟練の忍びを相手にするには、あまりにも分が悪い。
忠勝は正面から来た夕日の大鎌を低い姿勢でかわすと、太刀ではなく、拳で彼の胸部を加減して殴った。鳩尾(みぞおち)を打たれ、怯んだ彼を放置し、鈴音達を追う。
「嫌・・・・・・だ!はあはあ!・・・・・・し、死にたく・・・・・・死にたくない・・・・・・」
体力が乏しい鈴音は長くは走れなかった。疲労の蓄積で限界が近づいている脚の動きも弱まり、速度も徐々に落ちていく。恐怖が入り混じって判断力さえも薄れ、ただただ逃げ惑い森の奥へ。
「きゃあ・・・・・・!」
木の根に足を躓かせ、鈴音は転んでしまう。急いで体を起こそうとした時、足音にビクッと体を硬直させる。おそるおそる振り返ると、無慈悲な眼差しでこちらを見下ろす千夜が短刀を突きつけていた。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・ひぃぃぃ!!」
鈴音は立つ事さえも忘れ、横たわった状態のまま、後退りをする。しかし、背中に硬い何かがぶつかった。大木が逃げ場を阻み、彼女はあっさりと追い込まれた。
ゆっくりと間合いを詰めてくる千夜。ある程度まで近づいた彼女は短刀で相手を突き刺そうと目論んだ。鈴音は命の終わりを覚悟し切れないまま、無意識に腕で顔を覆う。
短い刀身の先端が標的の心臓に狙いを定めた時、黒い影が前に立ちはだかり、鈴音の盾となった。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.70 )
- 日時: 2022/01/06 21:52
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「やめるんだっ!!」
思いがけない出来事に混乱が生じ、一旦は刃の向きをずらす千夜。忠勝は両腕を広げ、鈴音には指一本触れさせまいと堂々たる面構えで行き先を阻む。
「忠勝!そこを退きなさい!そいつは妖よ!」
千夜の言葉を忠勝は否定し、強く訴えかけた。
「違う!千夜!これが闇千代の策略なんだ!あいつは秘草の幻覚作用を利用して、僕達にまやかしを映しているんだ!無闇に刃を振り回したら、奴の思う壺だ!」
「だけど・・・・・・!」
「君に見えている敵の正体は鈴音だ!騙されちゃいけない!」
疑いをかけていた千夜だったが、純粋な想いを宿した忠勝の曇りのない瞳に影響され、強張った表情を緩めた。殺意が失せた短刀の刃先を下に降ろし、興奮を鎮める。
「うっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・!」
忠勝は振り返ると、太刀を鞘に収め、啜り泣く鈴音に穏やかな笑みを浮かべて手を差し伸べる。
「もう、大丈夫だよ。立てる?」
「えぐっ・・・・・・!ありがとう・・・・・・恐かった・・・・・・」
鈴音は忠勝の手を取り、小柄な体を引いて立たせてもらう。しかし、忍びの目と直感は誤魔化せなかった。鈴音の片手が腰へと伸び、何かを忍ばせていた事を・・・・・・
「忠勝!・・・・・・よけてっ!!」
「・・・・・・え?」
千夜の警告に忠勝は気の抜けた声を漏らした。鈴音がいる正面を向き直ると、あったのは仲間の顔ではなく、顔を目掛けて飛んできた鋭い針の先。
忠勝は頭部を傾け、紙一重に直撃を免れる。額を貫くはずだった太い針の先端は頬に当たり、皮膚の表面を掠った。鈴音に化けていた闇千代が本来の姿を現し、まんまと騙された2人に対して、意地悪な笑みを零す。
「つまらない友情ごっこだね・・・・・・あくびが出たよ・・・・・・」
皮肉と悪意に満ちた面持ちに忠勝は理性を捨て、太刀の抜刀と同時に斬ろうとした。しかし、闇千代は足を高く浮かせ、容易にそれを回避する。
「その目だ・・・・・・人間を欺かれた時に繕うその顔がたまらなく面白いんだ・・・・・・」
「お前っ・・・・・・!!本物の鈴音はどこだっ!!?」
忠勝が今にでも食ってかかりたい衝動を限界寸前まで抑え、獅子の形相で怒鳴りつける。闇千代は冷静沈着に落ち着き払った言い方で
「さあ・・・・・・?あの子、弱そうだったよね・・・・・・?今頃、君の仲間に八つ裂きにされているんじゃないかな・・・・・・?散々、いたぶられた挙げ句に・・・・・・」
闇千代は実に愉しそうに怒りを煽らせ、薄暗い森の奥へ遠のいていく。
「待てっ!!」
逆上で我を忘れた忠勝は無暗に後を追いかけようとした。しかし、一足先に先を越した千夜が顔だけを彼の方へ向かい合わせ
「忠勝はここにいてっ!奴が罠を張る戦法を得意とするなら、尚更、忍びである私に任せるべきよ!」
と言い残すと、素早く木から木へと渡り、奥地の闇に消えた。夕暮の風がヒンヤリと漂う草木が生い茂る地帯で、憤怒というわだかまりが取れない忠勝がポツンと取り残される。
忠勝は素直に千夜を頼り、自身は森を抜けて草原へと引き返した。行き場のない怒りを拳に込め、太刀を収めた鞘をギリリ・・・・・・と握りしめながら。癒しの秘草を踏みにじり、仲間が殺し合う様を遠くから無力に眺める。どんなに目に映る光景を拒もうとも、天狗の術を解く術など知る由もなく、止めようがなかった。
「忠勝!」
敵への憎悪が絶望に染まり始めた時、闇千代を追った千夜が早くも戻って来た。その表情は結果が読めてしまうほどに暗い。
「千夜。闇千代は?」
忠勝の問いは予想した通り、吉報は得られなかった。
「ううん。残念ながら・・・・・・見失ってしまったわ」
「そっか・・・・・・」
力のない台詞に合わせ、疲れ切った返事が返る。2人は一緒に同士討ちをやめる兆しのない仲間達を凝視した。
「今回の天狗は本当に厄介ね・・・・・・秘草を利用した幻覚で仲間同士を殺し合わせるなんて・・・・・・」
「僕は、あいつから思い知らされたよ。破魔の力を宿した太刀を扱い、傷を負わない猛将と謳われても、人ならざる敵を前にしたら、結局は非力な存在なんだって・・・・・・」
「そんな事はないわ。忠勝。あなたはいつだって強かった。いつも仲間を想い、守ろうとしてくれた。だから、皆あなたを慕っているのよ?」
優しい言葉で慰める千夜。忠勝は陽気になるわけもなく、ただ、ため息をつく。
「例え、ここで闇千代を倒せたとしても、こんな人智を卓越した手を使う奴らを5人も相手しなくちゃいけないんだよね・・・・・・?考えただけで気が遠くなるよ・・・・・・」
「それでも、戦うの。今までだって、ずっとそうしてきたじゃない。これからだってそう。私は人生そのものを戦場にして、生きて行くわ」
「千夜。君は誰よりも心が強いよ。兄を殺された復讐心だけを胸に、修羅場をかいくぐってきたんだから・・・・・・」
すると、千夜は珍しく照れたのか、相好を崩して言った。
「兄の事なんか、どうでもいいわ。今の私にとって1番大事なのは、あなたや仲間達の存在よ。不知火が今の私の居場所でたくさんの家族がいるから。孤独も寂しさも感じない」
「そっか・・・・・・」
忠勝も機嫌を取り戻したのか、ようやく、面持ちの暗さに光が差し始めた。心地良さそうな晴れ晴れとした態度で礼を述べる。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.71 )
- 日時: 2022/01/25 20:44
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「ありがとう。お陰で重要な事に気づけたよ」
「ふふっ、どういたしまし・・・・・・」
千夜は相手の笑みに笑みを重ね、言い返そうとしたが台詞は最後まで繋げられなかった。何かが胸に突き刺さり、背中を突き破った感覚を感じ取る。怪訝になり、おそるおそる激痛が走った部分を見下ろすと、細く真っ直ぐな線に心臓を貫かれていたのだ。最初は何が起こったのかも分からず、ただ単に赤黒い体液を激しく嘔吐した。
正面を向き直ると、穏やかさの欠片もない鋭い形相をしている忠勝が。彼は霞の構えを取り、殉聖の太刀の刃先を深々とこちらに突き刺していた。
「ただ・・・・・・かつ・・・・・・?」
すぐにでも事切れてしまいそうな声で千夜は自身を刺した者の名を呼んだ。反面に忠勝は、はっきりと自信を持って言い放った。
「お前は千夜なんかじゃない。偽物だ」
化けの皮が剝がれ、千夜は真の姿である闇千代と化す。何故、完璧なはずの変装を見破られたのか?過剰なまでの慢心が虚心に覆された瞬間だった。苦痛に歪んだ表情を変えられず、死に怯えた虚ろな目で忠勝を黙視する。
「がはっ・・・・・・何故・・・・・・だ・・・・・・?僕・・・・・・は・・・・・・君を・・・・・・かん・・・・・・ぺき・・・・・・に・・・・・・欺い・・・・・・て・・・・・・」
忠勝は睨んだ視線を闇千代から逸らさず
「千夜は窮地に陥った時こそ、厳しい言葉を投げかけ、仲間を甘やかしたりはしない。それに・・・・・・」
そして、こうも続けた。
「千夜は兄を殺した信長への復讐のために、不知火に加入した。兄の事がどうでもいいだなんて、間違っても言わないよ」
「ぐっ・・・・・・!ごぉ・・・・・・!お、おのれ・・・・・・え・・・・・・!」
闇美千代は悔しさのあまり、顔中に太い血管を浮き出させ睨み返す。妖らしい凶暴な表情を繕ったのも束の間、やがては力尽き、頭が垂れた。命がない抜け殻となった肉体が座り込む。忠勝は殉聖の太刀を死した天狗から抜き取ると、服の袖で血を拭い、刀身を鞘に納めた。
「ぐぬぬ……!」 「うぉぉ!」
蒼真と夕日は互いに刀身を重ね合う。命を食い千切ろうとする鬼の形相で対峙し、相手を弾き返そうとした。しかしその刹那、両者は、はっ!と我に返り、興奮を鎮める。互いが味方だと、認識した瞬間であった。
「ゆ、夕日・・・・・・!?何故、お前が・・・・・・!?」
「え?何で・・・・・・?僕は蒼真くんに刃を向けて・・・・・・?僕は闇千代を斬るつもりで・・・・・・」
2人は競り合いの力を緩め、妖刀と大鎌を遠ざける。それが発端のように同士討ちに明け暮れていた他の精鋭達も次々と正気を取り戻していき、気が狂った殺し合いは終わりを迎えた。
「・・・・・・どうして?私達はずっと、味方を襲っていたというの・・・・・・?私は天狗を狩ろうとしていたはずなのに・・・・・・!」
美智子は味方を殺めていたかも知れない実感に恐れ戦き、震えた手から折り紙の太刀が滑り落ちる。
「一体、私達に何が起こって・・・・・・」
今までの出来事を認められず、ライゼルも身を縮こませ、涙を滲ませた。
「おい!大変だ!ファゼラルが倒れているぞ!酷い出血だ!誰か!こいつの傷を塞ぐのを手伝ってくれ!」
海李が生きている気配がしないファゼラルを抱き起こし、手を振って味方の危機を知らせる。
「こっちにゼイルくんが倒れてるよ!早く薬を持って来て!」
鈴音も平常心を失い、泣きながら叫んだ。
「お前達は2人の応急処置に当たってくれ!俺は忠勝と千夜を探してくる!」
蒼真は仲間に指示を出し、単身で探索に出向こうと持ち場を離れようとするが
「その必要はないよ」
と落ち着き払った声に話かけられた。振り返ると、今、正に探そうとしていた忠勝が歩いて同胞達の元へ帰って来た。彼は仕留めたばかりの闇千代の遺体を軽々と肩に担いでいる。その隣には千夜の姿も。
「無事だったんだな?お前が天狗を殺したのか?」
「うん。七天狗の1人である闇千代は死んだ。今回も不知火の勝利だ」
戦勝を宣告し、忠勝が微笑む。蒼真の緊張が緩み、威厳があった態度も柔らかくなった。
「蒼真達も正気に戻ってくれたようで、胸を撫で下ろしたわ。闇千代が死んだ事で、こいつの妖力である幻影が解けたのね。今回ばかりは、流石の私も恐怖を実感した戦いだったわ」
千夜も嬉しいそうに相好を崩し、使う理由がなくなった短刀を腰の鞘に戻す。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.72 )
- 日時: 2022/02/06 21:15
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
忠勝は草原の中心にある細木の下にある祠を開け、奪われた千利休の家宝である鶯巣の桜を取り出す。落として割ってしまわないよう注意を払い、仲間の人集りに加わった。
「これが・・・・・・鶯巣の桜・・・・・・」
茶器の見事な出来栄えに精鋭達は目を奪われた。霊石で作られた器は翡翠のように美しく透き通り、心地良い薄緑の輝きが精神の不純を清める。
「見つめれば見つめるほど、見事な一品ですね。流石は茶聖の異名を持つ千利休の家宝と言ったところでしょうか・・・・・・」
「煩悩に抗える私でさえ、欲にかられる代物だわ」
あまりもの美しさに魅了されたファゼラルと美智子が正直な感想を述べ
「こんなにも珍しい宝物を無事に取り返す事ができて、本当によかった。唖休さんも喜ぶよ」
鈴音も純粋無垢な気持ちで言った。
「どんな脅威が立ちはだかろうが、最後はやっぱし、めでたしめでたしだな。後はこれを唖休の奴に返せば、俺達の任務は完了・・・・・・いっ!いてて・・・・・・!」
ゼイルが祝杯を挙げようとするも、縫合したばかりの傷がズキッと痛感を発し、痛そうに項垂れる。とっさに海李が倒れてしまわないように彼を支えた。
「ごめん。いくら、幻覚に騙されたとはいえ、僕は人としてとんでもない事をしてしまったね。僕の過ちでゼイルが死ななくてよかった」
忠勝は良心の呵責に苛まれながら、自身の自身の実態を素直に謝罪する。
「へへっ!気にすんな・・・・・・!こんな傷、薬湯に浸かって寝りゃすぐに治る。だけどよ・・・・・・ホントに痛かったんだからな?次の手合わせの際は手加減しねぇから覚悟しろよ?」
「ここにいる理由はなくなった。早く、唖休がいる庵へ戻りましょう。もう、夜も近い。日が沈めば、妖怪の群れが闇の中から這い出して来るわ」
「そうね。これ以上の苦闘は勘弁させてほしいわ」
千夜が適切な判断を下し、不知火の大方が頷いた。精鋭達は必要な物を手に、元来た道を辿ろうとしたその刹那
「ごほっ!ごぼっ・・・・・・!ぅげっ・・・・・・!」
何者が死ぬ間際にするような激しい咳を吐き出した。忠勝達の足が止まり、"まさか"と今にも口走ってしまいそうな形相で振り返り、その衝撃的な光景に彼らは絶句する。
「嘘だろ・・・・・・?」
蒼真が眉をひそめ、食いしばった歯を剥き出しにする。
誰もが息の根を止まっていたと思い込んでいた闇千代が、まだ死に絶えていなかったのだ。仰向けに倒れた姿勢で血の塊を嘔吐し、虫の息をかろうじて繰り返していた。最早、戦う力は完全なまでに喪失しており、苦痛に囚われただけの肉体だ。
「こ、こいつ!まだ、生きてやがるぞ!」
妖の並外れた生命力にゼイルが指を指して叫んだ。 夕日は大して驚かず、死に切れずに苦しむ様をじっくりと観察する。
「流石は高等妖怪。心臓を貫かれても尚、簡単には命を手放しませんか・・・・・・」
忠勝達は死を隣に控えた闇千代を取り囲み、それぞれの武器を向ける。例え、無抵抗であろうとも、仇同士の立場は変わらず、厳格な視線で見下ろした。
「こいつはもう、立つ事もままならないと思うわ。まあ、すぐには死なないだろうけど、妖怪の生命力が災いして逆に苦しみが長引くでしょうけどね」
美智子は非情にも、蔑んだ言い方で苦しむ様を鼻で笑う。
「早く、止めを刺してあげる事がせめてもの情けでしょう。いくら悪質な妖怪であろうと、いたぶるのは気が引けます」
夕日は大鎌の刀身を闇千代の首に当て、安楽死させようとした。
『"お待ち下さいませ"』
その時、違う方向から何者かが横やりを入れる。精鋭達が声がした場所へ視線を集めると、そこに唖休が凛々しい表情で立ち尽くしていた。
「唖休さん!?どうして、ここに!?」
忠勝はここに来た理由を尋ねると
「山を覆っていた邪悪な気配が晴れたので、もしやと思い、この地へ足を運んだ次第でございます。兄上を倒して下さったのですね?」
精鋭達は立ち位置をずらし、無残な姿になり果てた闇千代を晒す。
「ああ。天狗はこの通り、虫の息だ。あんたの大切な利休の家宝である茶器も無事だ」
蒼真が依頼者に朗報だけの結果を報告する。
「流石は日ノ本の泰平を守りし、不知火の実力。この御恩は誠心誠意を尽くし、必ずやお返し致します」
「どういたしまして。さあ、後はこいつの息の根を止めて、幕引きとしましょう」
千夜は単純な返事を返し、改めて闇千代の方へ鋭い視線を浴びせる。
「お前。妖怪と言えど、殺しは不慣れだろ?命を絶つ瞬間を目の当たりにするのは胸に深い傷を負う。すぐに済むから、後ろを向いて目と耳を塞いでろ」
海李も血の味を知らぬ清い心を毒さないよう唖休に対しても情けをかけようとするが
「兄上の解釈は、是非とも私に行わせて下さいませぬか?」
唖休は肯定も否定もなく、誰もが予想だにしなかった台詞を口にした。冗談の欠片が微塵もない堂々とした頼みに精鋭達、全員が息を呑む。
「あなたが止めを刺すって言うの・・・・・・!?」
ライゼルは自分の耳と相手の正気、両方を疑った。
「いいんですか?自身を虐げていたとはいえ、この妖怪はあなたと血を分けた兄弟だ。実の肉親の血で手を汚す事になりますよ?やってしまえば、後戻りはできない。一度犯した罪の烙印は永遠に消える事はありません」
ファゼラルは冷静になって、その判断の先に待つ恐ろしい結末を述べるが、唖休の真意は揺るがなかった。
「平穏の礎のため、鬼畜となる覚悟は、とうにできております。これは私の心の濁りを消し、不知火に忠を尽くす大切な儀でもあるのです」
唖休は精鋭達の間を歩き、闇千代の元へ寄ると、落ち着いた動作で草原の床に正座する。御子衣装の懐を漁り、取り出した千枚通しを強く握りしめた。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.73 )
- 日時: 2022/02/16 20:48
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「兄上。あなた方は慈悲など意に介さず、実の母上を手にかけた。しかし、凶行はそれだけに留まらず、泰平の世の調和を乱し、多くの罪なき民草の命を奪い去った。その罪は奈落の底へ堕ちても、償いは果たせはしない」
「い・・・・・・嫌だ・・・・・・死にたくない・・・・・・あ・・・・・・きゅう・・・・・・助け・・・・・・」
闇千代は弟に命乞いをする。しかし、その弱々しい悲願が叶う事はなかった。
「死にたくない?・・・・・・ふざけるな・・・・・・お前達に殺められた人々は、もっと死にたくなかったんだっ!!」
唖休は唖休らしからぬ粗暴な言い方で怒鳴りつけた。太い針を胸に突き刺し、体内の奥へ捻り込む。溢れ出た血が白い衣装に滲み、広がっていく。
「ぐっ!げっ・・・・・・がああ・・・・・・!」
その喘ぎ声が遺言となり、二度も心臓を貫かれた妖は痙攣を何度か繰り返した末、二度と体が動き出す事はなかった。この世のものとは思えない断末魔の顔を硬直させたまま、今度こそ命の灯火が消える。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・!」
初めて、この手で命を奪った唖休は千枚通しを抜かず、遺体に突き立てたまま、点々と血の模様が付着した震える掌を眺めた。喘鳴呼吸を繰り返し、罪の意識に体中に冷や汗をかいた寒い感覚を味わう。
「終わったか・・・・・・素人にしちゃ、見事な一撃だったぜ?」
ゼイルは尊敬も敬遠もない普段の口調で称賛する。その時、蒼真は"ん?"と声を漏らし、闇千代の亡骸の横へ視線をやった。手元に金塊らしき、小さな石が転がっており、禍々しい漆黒の妖気を帯びている。それは前に戦った七天狗の1人である紬が持っていた物と同じ物であると確信した。
「妖以外は触れられぬ"謎の魔石"・・・・・・こいつも持っていたのか」
蒼真は独り言を漏らし、魔石を拾い上げて懐にしまい込んだ。
「私の頼みを・・・・・・いえ、兄上の解釈を任せて頂いた事、心から御礼を申し上げます。お陰で私の決心はより深きものへとなりました。次は私があなた達の御恩に報いる番でございます」
「確か、この薬草の多くを私達、不知火にくれるって約束だったわよね?」
美智子が秘草が生えた草原一帯を見渡し、報酬の内容を念入りに確認すると
「左様でございます。ここにある秘草は不知火にご提供します故、天下泰平のために存分に役立てて下さいませ」
嬉しさがうつりそうな晴れ晴れしい笑みでゆっくりとお辞儀をする唖休。しかし、精鋭達には1つの疑問があった。
「お待ち下さい。それはそうと、これだけの秘草を誰が近畿の隠れ家まで運ぶのでしょうか?」
夕日が皆を代表して、言いたかった質問を投げかけ、ライゼルが不満の連続を吐き出す。
「はっきり言って、あたしはごめんよ?さっきの戦いであたしも皆もかなり体力を消耗したし、怪我人だって出た。その上で物資の護送をさせれたんじゃ、流石のあたし達も身が持たないわ」
唖休は穏やかな表情を崩さず、精鋭達を安堵させる。
「ご心配なく。秘草の山は別の者に運ばせます故。すぐさま、九州の統治者である島津家久様に文を送り、使者をこちらへ派させますので」
台詞の中にあった人物の名に反応し、蒼真の眉がピクリと動く。
「何?家久様だと・・・・・・!?唖休!お前は家久様と繋がりがあったのか!?」
「如何にも。茶会を目的として、幾度か、お顔を拝見しに伺いました。虎の如く鋭い目つき。病を患っても尚、勇猛な闘気を絶やさぬ逞しき当主でございましたよ」
「でも、ここは織田政権の支配下なんだよ?もし、この事が奴らの手先に知られてしまったら・・・・・・」
忠勝が心配になって、それについて指摘すると
「大丈夫です。邪悪なる妖怪は、直に九州から姿を消すでしょう」
「・・・・・・あ?妖怪が姿を消すって?そりゃ、どういう意味だ?」
その意味が理解できず、ゼイルは具体的な詳細を聞き出すと
「天狗という指揮者を失った事で配下である妖達の指揮系統に多大な混乱が生じる事でしょう。そうなれば、物の怪の力は極度に弱まり、襲るるに足らない存在となるのです」
「それって、つまりは・・・・・・」
鈴音が更に結論を問いかけると
「あなた方の大義ある働きによって、九州の地は"解放"されました。最早、この地は織田政権の属領ではなくなるでしょう」
吉報を聞かされても、精鋭達はしーんと怪訝な顔をしていた。しかしその刹那、表情はみるみると微笑みへと変化を遂げ、喝采が巻き起こる。仲間同士で拳を掲げ、抱き合い、大はしゃぎしたりと宴のように歓喜を分かち合う。
「九州が解放されただと!?それは本当なのか!?よっしゃー!それでこそフリートの名を持つ戦士の実力ってもんだ!!」
「私達が大和ノ国の一部を救ったんだよ!?海李!信じられる!?」
「まさか、私達だけでここまでの偉業を為し遂げられるなんてね・・・・・・これが夢なら、どうか覚めないでほしいわ」
群衆が盛り上がる最中だった。忠勝はただ1人、賑やかな集団から距離を置いて、唖休の元へ歩みを寄せる。
「唖休さん。君も泰平の礎を築くのに貢献した1人だよ。助力を尽くしてくれてありがとう」
唖休は謝意を受け止めても、照れた様子を素直に表に出さず、腰が低い態度で
「私は天狗の討伐をあなた方に依頼した、ただの茶人でございます。この祝福すべき良き結果は忠勝様や皆様がお命を懸けてまで、邪道に抗った勇姿の賜物です」
褒めようとしたはずが、逆に多いに褒められ、逆に忠勝の方が照れ笑いしてしまう。相好を崩していた唖休だったが、やがて、眉を困らせ、遠慮がちな言い方で
「1つだけ、差し出がましいお願いがあるのですが?私も不知火の一員に加えて頂きたいのですが?よろしいでしょうか?私の存在が少しでも、組織のお役に立てるのなら、どのような難題でも助力を惜しみませぬ故、何卒どうか・・・・・・」
忠勝は迷わず、肯定と歓迎の意を示した。
「勿論!唖休さんみたいな心強い人が加わってくれたら、不知火はもっと強い組織になるよ!皆だって、賛成してくれるはず!」
「しかし、家久様には、またしても世話になってしまうな。次に会う機会があれば、豪華な礼の品をお送りしなければ」
蒼真が紳士的な予定を構想し、ファゼラルも今後の成り行きを想像する。
「今回の件で再び、不知火は勢力拡大への一歩を踏み出しましたね。新たな復旧作業のため、これから大忙しですよ」
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