複雑・ファジー小説

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逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
日時: 2019/04/03 16:38
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。



【ストーリー】

 天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・

 その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・

 天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・


【主な登場人物】

 本多忠勝

 物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。


 柳生宗厳(石舟斎)

 柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。


 織田信長

 第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。


紅葉

信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。


 七天狗

 信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。


【不知火の一員】

鈴音

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。


海李

不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている


杉谷 千夜

不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。


滓雅 美智子(おりが みちこ)

不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。


ファゼラル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良くメロディのカードで伴奏を流して上げる事も。


ライゼル・マーシャ

不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。


ゼイル・フリード

不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。


蒼月 蒼真(そうつき そうま)

不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。


箕六 夕日(みろく ゆうひ)

不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。


【用語】

 殉聖の太刀

 忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。


 不知火

 忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。


 夜鴉

 不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。


 妖怪

 日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。


 大和ノ国

 物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。


・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・

桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。



以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.34 )
日時: 2019/06/23 23:10
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 不知火の成員達は苦戦を強いられる。攻めてきた織田軍が小勢だったとしても、こちらの兵力はそれを更に下回っていたからだ。1人1人が必死の抵抗を見せるが、数で勝る敵勢力にはまるで敵わず、矢を射られ、体中を串刺しにされ、徐々に兵力を削られていく。

 夕日は大鎌を薙ぎ払い、敵の群れを蹴散らす。しかし、どんなに返り討ちにしても敵は勢いが衰える事を知らず、次々と武器の先端を突きつけて来る。マーシャ兄妹もありったけの攻撃魔法をぶつけるが、まるできりがなく、ほとんど効果がない。

「くっ・・・・・・僕の大鎌だけじゃ力不足だ・・・・・・!」

「ちくしょう!こっちが負けてるじゃねえか!このままじゃ全滅だぞ!」

 覆す術がない戦況に海李が深刻に叫んだ。最悪な事態に陥らぬよう、出過ぎた真似は避けていたが、正面からの襲撃に気を取られ不意打ちを許してしまう。油断していた海李は判断が追いつかず、反射的に腕を前に出し顔を覆った。しかし、敵は彼を仕留める事なく背中を切られ、血しぶきを噴き上げて横たわる。死体の裏には妖刀を斜めに斬り上げた蒼真の姿が。

「おおっ!ありがとな!危うく大往生するとこだったぜ!」

「礼はいい。とにかく、気を抜くな。ただせさえ自軍が不利なんだ。お前に死んでもらっては困る」

「蒼真!こっちに来て援護して!本当にやばい!」

 ライゼルが手を振り、助けを求める。彼女達の陣形は、特に甚大な被害を被っていた。足元には味方の戦死者が転がり、並列にも大きな穴が開くほど壊滅的に兵の数はすり減って戦える生存者は僅かしか残っていない。共闘していたファゼラルも食い止めきれず、手も足も出ない状態だ。

「これ以上、持ち堪えるのは難しい!蒼真さん!何か策は・・・・・・がっ!?」

 その時、胸の奥深くまで激痛が走り、ファゼラルは顔をぎゅっとしかめさせた。何が起きたのかとゆっくりと前へ向き直ると、棒を握り殺意の形相でこちらを睨む敵が視界に映る。震えが止まらない手を前に寄せると、血がべっとりと付着していた。

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

 槍を抜かれ、ファゼラルは口と傷口から体液を排出し、ふらふらと退く。感覚が消えた脚が崩れ、彼は仰向けに倒れた。

「ファゼラルッ!!」

 兄の負傷にライゼルは真っ青になり叫んだ。とっさに駆けつけた夕日がファゼラルを引きずり、前線から遠ざける。不知火の兵達は彼らを守ろうと立ち塞がり犠牲を伴う。

「ファゼラルッ!しっかりして!」

「嘘だろ!どこをやられた!?」

「ううっ、ぐぐっ・・・・・・!」

 胴体を刺され、ファゼラルは苦しそうにうめき声を吐き出す。ライゼルと海李が寄り添い、血を止めようと胸を押さえるが、抉られた傷は深く止血は不可能に等しい。

「あ、ああ・・・・・・」

 鈴音は目に涙を浮かべ、仲間に降りかかった悲惨な光景を見下ろしていた。呆然と立ち尽くしていた彼女に海李が振り返り

「何ぼさっとしてるんだ鈴音!そんな所で泣いてないで、早く石舟斎様にこいつが酷い怪我をしたって伝えて来るんだ!」

「で、でも・・・・・・!」

「俺達は前線を離れられない!戦える俺達が戦を放棄したら不知火は一時ともたない!」

 と報告へ向かうよう促すが

「いや、鈴音くんはここに留まるべきです」

 夕日が否定を述べ、すぐさま理由を話した。

「前線に怪我人を放置させるなど、殺してくれと言っているようなものです。ファゼラルくんは胸を槍で突かれた。血が溢れてる事から傷は深く、早く処置を施さないと大変な事になる。悪く言うわけではありませんが、鈴音さんの力では石舟斎様の所へ運ぶにはかなりの時間が掛かる」

「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」

 最適な方法が思い浮かばず、海李が困惑する。

「僕がファゼラルくんを安全な場所へ連れて行きます。皆さんは味方に加勢し織田の軍勢を。大丈夫、すぐ戻って来ますので」

 夕日は自信ありげに言って、絶命に近づきつつあるファゼラルを背負う。心配になってこちらを見送る仲間達に1度だけ頷くと、正面を向き戦場から離脱した。

「鈴音、お前の笛の妖力で自軍の力を強化するんだ。夕日が戦場を離れて、かなりの戦力を失った。今はお前が1番の頼りだ」

「・・・・・・分かった!私の能力が皆の役に立つのなら・・・・・・!」

 鈴音は持っていた笛を両手で支えると、唄口に息を吹きかけ指穴に乗せた指を器用に動かす。殺し合いの音が絶えない戦場を宥めるように、美しい音色が集落一帯に響き渡る。その美しい奏は醜い怒号や断末魔を掻き消し、殺意を塗りつぶした。音色は不知火達の武器や鎧を包み、強化の光を宿すと、味方の恐れを取り除き、戦意を植えつける。

「そう来なくっちゃな!ここから一気に押し返すぜ!」

「ライゼル、俺達は織田の連中を食い止める!お前は鈴音を下がらせろ!傍にいて、こいつを護衛するんだ!」

「了解!最前列は任せるよ!あなた達まで怪我を負ったら承知しないから!」

 2人は宿った闘争心を燃やし、再び敵陣へと飛び込んだ。蒼真は狐火を放ち、敵を焼き払う。火だるまになった織田の兵を差し置き、歯向かう者は全て斬り捨てた。首を刎ねた胴体を叩きつけ、正面から来る敵をなぎ倒す。海李も両脇から迫った攻撃を低い姿勢でひらりとかわし、見事に同士討ちを演じさせる。頭上に降る薙刀を太鼓鉢で弾き、刀身を折って落とすと、刃のない柄部を持つ兵の頭を殴打し頭蓋骨を兜ごと砕く。

 まるで赤子の手をひねるように敵勢を蹂躙していく2人。しかし、彼は順調に押し返しつつも、妙な違和感を感じていた。

(何かかがおかしい・・・・・・これだけの魔法や妖術で蹴散らしても、恐れをなさず攻めかかって来るとは・・・・・・いくら小規模な部隊とは言え、特殊な鍛錬を積んだ不知火の兵達がこんなにも容易く打ち負かされるも変だ。そもそも何故、奴らは顔を覆い隠している?・・・・・・まさかっ!)

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.35 )
日時: 2019/05/24 21:11
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「くっ・・・・・・!」

 千夜は相手よりも短刀を斬り上げ、痛手を負わせた。腕をやられ、武器を落として蹲る織田兵の首に後ろから刃で貫く。突き出された槍を片手で掴んで引っ張り、力に釣られ前に寄せられた兵の首を抱き、骨をへし折った。次に来た斬撃を受け止めた瞬間、後ろからも新手が来る。とっさに短刀から片手を離し、短筒を正面の反対に向け、引き金を引く。轟音と共に放たれた霊弾を喰らい、織田兵は地面を転がり、ぐったりと動かなくなった。残ったもう1人も、一瞬の力のみで刀の峰を顔面に当て、視界を奪うと短刀を喉に捻じ込み、蹴って刀身を粗暴に抜く。

 千夜は自分を殺そうとする者は容赦の欠片もなく討ち取った。熟練の忍として腕が立つだけに厄介な状況の中でも、微かな傷も負わず敗北を譲らない。しかし、どんなに事が足りても彼女は1人、向こうの数は数十人を越える。背水の陣とも言える不利な状況に彼女の緊張は膨らんでいく。

「うぅぅぅ・・・・・・!」

 織田兵の1人が飢えた獣の息を漏らし、前に出る。しかし、そいつは刀を構えず何を思ったのか身に付けていた顔の鎧を取り、向き直った。曝け出された素顔に、千夜は無意識に一歩引き下がってしまう。織田兵の顔は人間の面影がない醜悪な物だった。紫色の肌はただれ、目は赤く瞳孔が蛇のように細く鋭い。異常に長い舌からは唾液がぽたぽたと滴り落ちる。他の兵達も続いて次々と顔当てを外し、妖魔の面持ちで1人の忍びに威圧を与えた。

「こいつら、人間じゃない・・・・・・」


 千夜は大して驚いた素振りはせず、冷静に言い放った。妖の兵達は凶暴な眼差しで、じりじりと間合いを詰めて来る。

「妖怪の血肉を喰らったのか・・・・・・最早、ただの人とは呼べないわ」

 千夜は短刀を顔の手前に寄せ、立つ位置を保つ。八方を気にしながら、向こうがどのような手段で攻めて来るか、いくつものパターンを予想する。

 少しでも気を許したら、落命は免れない。無暗に動いた方が負けだ。緊張と燃え盛る炎の熱で体中が汗で塗れていく。その時、さほど遠くない場所に遠くはない場所にあった櫓が音を立てて崩れ去る。千夜はそれ気を取られ、敵はその一瞬の隙を見逃さなかった。

「があああああ!!」

 敵が尖った歯を剥き出し、凶暴に吠え立てた。正面から妖魔兵が刀を振り上げ、かなりの速さで迫り来る。迂闊な失敗を犯した千夜はとっさに抵抗しようとした。しかし・・・・・・

「うぐっ・・・・・・!?」

 何故かは知らないが、腿に耐え難い激痛が走りその脚は止まる。力が抜け、姿勢を保てず跪くと同時に短刀を落としてしまう。獲物を殺めんとするその獣の怒号は銃声で掻き消された。妖魔兵は血を吐いて倒れ、銃口から煙が伸びぼる短筒を手にした千夜が。

「はあはあ・・・・・・!」

 弱った呼吸を繰り返し、痛みの原因を探ると腿に胡桃くらいの傷穴があり、血がどくどくと体内へ溢れ出ている。狙撃された事を知り、奴らの後ろに建つ長屋の屋根に視線を送ると、案の定、火縄銃を構える狙撃兵がいた。千夜はその場から動けず、痛みと出血で意識が徐々に薄れていく。こうしてる間にも妖魔兵達は、彼女を手にかけようと抜かりない陣形を築き上げる。

「いけない・・・・・・こんな所で死ぬわけには・・・・・・!」

 辛い感覚に耐え起き上がろうとするが、やはり脚に力が入らない。今の彼女には集団を退けるどころか、気力を保つ余裕すら、ないに等しかった。

「死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・!」

 強がりも空しく、戦える術を奪われた不安はやがて絶望に変わっていった。兎が狼の群れの中へと放り投げられる・・・・・・そんな感覚が精神を強く蝕む。自分は孤独に死ぬ。ろくに物事を考えられない癖に、それだけがはっきり頭に浮かんだ。

 妖魔兵達は一斉に1人の忍に魔の手を伸ばす。恐怖に戦いた目には命を取ろうとする人ならざる武士、そしてそいつが向ける刀身が映る。それは自身の頭上へと振り下ろされようとしていた。

「皆・・・・・・ごめん・・・・・・」

 千夜は届くはずもない詫びた一言を述べ、目蓋を閉ざす。鋭い刃が次々と体の至る所に突き刺さり、血しぶきが飛び散った。その生温かい赤い雨が千夜の全身を濡らして染め上げる。しかし・・・・・・そのはずなのに少しの痛みもないのだ。死というのはこんなにも呆気なく、楽に命が果てるのか?不思議に思いながら、そっと目を開く。

 すると、目の前に自分を守るように誰かが立ち尽くしていた。そのまわりには、ばらばらになった妖魔兵達の死体。切り裂かれたのは千夜ではなく、奴らの方だ。

「美智子・・・・・・?」

 身に覚えのある背中に、千夜は名前を呟く。美智子は何も答えず、妖魔兵が陣取る方向を睨んでは、奴らに憎悪を抱き

「お前ら・・・・・・千夜ちゃんを傷つけたな・・・・・・!」

 怒りに満ちた鋭い言葉を発した。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.36 )
日時: 2019/06/09 19:52
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「ガハハハ!タカガ女1人ニ何ガデキルノダ!?」

「獲物ガマタ増エタゾ」

「美味ソウナ女ダ・・・・・・血肉ヲ喰ライ骨マデシャブリ尽クシテヤルワ!」

 妖魔兵達は美智子を嘲笑い、再び凶悪な人相へと変えた。気味の悪い吐息が複雑なリズムを奏でる。

 美智子は持っていた刀剣を収め、代わりに手に取った巻物を広げ、無数の折り紙を召喚する。色とりどりの折り紙はふわふわと独りでに舞い、空を覆い尽すと次々と形を模っていく。それは千の数を越える折り鶴と化し、群れをなして空に羽ばたく。

「殺セェ!!」

 敵の1人が放った怒号を合図に妖魔兵達が一斉に襲いかかる。しかし、美智子は下がるどこか、目をつぶってその場を動こうとはしない。何をしたかと言うと、ただ丸腰の手の平を前にかざしただけだ。そして、次の瞬間・・・・・・

「降神忍法奥義・・・・・・千羽嵐穿舞!」

 美智子はカッと目蓋を開き、大きく叫んだ。折り鶴達の動きが変わり、群れは急降下を始め、目にも止まらぬ速さで美智子を背後から通り越す。それは銃弾の如く妖魔兵達の体を抉り、瞬く間に蹂躙する。折り鶴に襲われ、無残な姿と化した亡骸が次々と倒れ血の海を作った。

 一時も経たない粛清に大勢の邪悪な命が果て、生き残った者はいない。2人の忍を除いては。

「はあ・・・・・・」

 窮地に一生を得た安堵に力が抜け、千夜も倒れた。美智子が慌てて彼女の体を抱き上げる。

「千夜ちゃん大丈夫!?」

「恐かった・・・・・・今日で死ぬのかと思った・・・・・・」

 仲間が傷ついた悲しみに美智子の目に涙が滲む。

「ごめんなさい・・・・・・村の人達を非難させていたから・・・・・・ぐすっ・・・・・・間に合ってよかった・・・・・・!」

「あはは、あんたらしいわね・・・・・・でも、ありがとう・・・・・・助かったわ・・・・・・」

 美智子は千夜に肩を貸して立たせると、手を振って常用の折り鶴を地面に降ろさせる。

「さあ、乗って。早く怪我の手当てを施さないと」

「はあはあ・・・・・・これくらいの傷、平気よ・・・・・・ところで、他の皆は・・・・・・無事・・・・・・?」

 美智子は悩ましい表情を俯かせ

「皆、強いから死んではいないと思う。だけど、自軍は圧倒されてる。こっちに残された兵力は僅かよ。加勢に行きたいけど、今は千夜ちゃんを安全な所まで連れて行くのが先ね」


「うおおおお!!」

 忠勝とゼイルの奮戦は砦のよう強く、多くの敵に苦戦をもたらす。大軍にも関わらず、妖魔兵の攻撃は掠りもしないまま、10人20人と数を大幅に減らされていく。どんな戦術を用いようが、誰も2人を傷つける事は叶わない。

「こっちは40人!忠勝!お前は何人殺った!?」

「僕は45人!」

「何ぃ!?負けてたまるかよ!」

 ゼイルは楽しそうに31人目の敵を斬り倒し、忠勝も勢いを緩めず殉聖の太刀を振るう。織田の軍勢は残り僅かとなり、全滅はも近い。

「ヒッ・・・・・・引ケェ!引ノダァ!」

 すっかり怖気づいた妖魔兵の1人が戦を放棄し後に退く。たった2人の敵に背を向け走り去ろうとした時、風を切る音と共に細い光の一線がそいつの頭上に降る。妖魔兵の兜が割れ、頭から血が噴き出たかと思うと全身が真っ二つに裂けた。

「!」 「!」

 どこから現れたのか、一体の妖怪の姿がそこにあった。人の身長を遥かに超えた巨大な体。赤眼を光らせた醜態な顔に鋭い牙、額に生えた2本の長い白角。大木を容易にへし折ってしまいそうな、強靭な筋肉が盛り上がり、血が滴る段平を手にしている。

「アアアアアアア!!」

 妖怪は獣とは比ではない雄叫びを響かせた。建物が地震の如く揺れ、鼓膜に激しい痛感が襲う。妖魔兵達はこの機に乗じ、退散する。

「『修羅鬼』だ!忠勝、下がれっ!」

 ゼイルが妖怪の名を口にし、後退するように促す。しかし、その声は間に合わず、鬼は段平を振り下ろしていた。忠勝は容赦ない重い一撃の連続を太刀で弾き返す。刀身がぶつかり合う度、走った衝撃が手に痛みを蓄積していく。反撃の機会すらも空しく、猛攻に吹き飛ばされ建物の壁に背を打ちつける。

「があっ・・・・・・!」

 忠勝は全身を圧迫され、血を吐き出した。短い硬直の後、剥がれ落ちるように横たわり、痙攣を引き起こす。修羅鬼は次にゼイルを標的に定めた。

「忠勝!!・・・・・・くそっ!」

「アアアアアアアアア!!」

「・・・・・・ぐぅっ!」

 重く力のある段平を彼はとっさに塞ぎ止める。甲高い金属音に大量の火花、衝撃の波に砂煙が舞う。斬撃は何とか防いだものの、計り知れない威力にゼイルは後ろへ追いやられる。体勢を立て直す暇もなく、修羅鬼の拳が目前に迫った。

「ぐわあ!!」

 ゼイルも同じように吹き飛ばされ、火の手が上がる長屋に頭から突っ込んだ。数件の壁を切れ目がなく突き破り、体の至る所を殴打して倒れた。

「あ・・・・・・ああ・・・・・・た・・・・・・だ・・・・・・かつ・・・・・・」

 ゼイルは顔に血を垂らしながらも痛みに絶え、仲間を救おうと武器を取ろうとするが、腕の感覚がない。視界が徐々に黒く染まっていき、意識もだんだんと薄れていく。やがて、弱り切った唸りも消え、指先の動きさえも止まった。

「アギャアアアアアア!!」

「う・・・・・・うう・・・・・・」

 修羅鬼は雄叫びと鈍い足音を鳴らし、止めを刺そうと最初に深手を負わせた者の方へ。忠勝は太刀を杖の代わりにふらふらと立ち上がり、修羅鬼と対峙する。互いに向き合う人間と妖怪・・・・・・大きさも姿形も異なる両者。それはまるで追い詰められても尚、狼に食って掛かろうとする兎のようだ。

 彼は太刀を中段に構えるとおもむろな姿勢を取った。吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、気を集中させると封印していた力を解放する。その身から放出した一筋の光は空を支える塔のように天まで行き届き、夜の大地を照らした。それに共鳴され、戦場で生を散らした無数の霊魂が集まっていく。輝きの色が異なる命の核は全て殉聖の太刀に吸収され、聖の力を極限まで高めた刀身は長く巨大な大太刀と化す。

 修羅鬼は凶暴な発狂を響かせ、重い段平が頭上に振り下ろす。忠勝も即座に大太刀を斜めに斬り上げ、2つの刃は重なる事なく、どちらかの体が引き裂かれる。ぶしゃっ!と大量の血が弾け、手にしていた武器が頭上に浮かんでは落下し、地面に深い穴を掘った。その正体は見事に切断された腕が柄を握る段平だった。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.37 )
日時: 2019/06/23 23:14
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「ギャアアアアアア!!・・・・・・アアア!!」

 両腕を失い、修羅鬼は耐え難い痛覚に雑音に近い叫びを上げた。関節から先がない切り傷からは血管の束がミミズの群れみたくうねる。さっきまでの暴れ狂っていた面影は消え鬼らしくない女々しい表情を浮かべる。

「ウ・・・・・・ウウウゥ・・・・・・」

「人を脅かす妖怪め・・・・・・!」

 罵る台詞を吐き捨てると、忠勝は覚醒した殉聖の太刀のグッと強く握りしめ、止めの一撃を加える。刀身は肩に傷穴を空け、そのまま硬い肉体を滑らかに両断した。二分された修羅鬼は苦しげな唸りを最期に燃え果て、灰の山と化す。太刀の魔力が解かれ、力を全て使い果たした忠勝もその場に座り込んだ。さっきやられた腹部の痛手に血の混ざった咳を吐き散らす。そこへ蒼真達が駆けつけて来た。

「忠勝!無事か!?」 「忠勝くん!」

 倒れかかった忠勝を海李と鈴音がとっさに支える。

「お前達が戦っている区域で妖怪が姿を現したから、こっちの敵勢を片付けて加勢に来たんだ。しかしどうやら、不要な助けだったようだな」

 蒼真が安堵の笑みを浮かべ、夕日も感心しながら

「まさか、あの妖怪は忠勝くんが1人で倒したんですか?さすがは徳川一の猛将だ。天に昇った眩しい光はやはり、あなたが持つ殉聖の太刀の覚醒だったのですね」

「皆が・・・・・・ここにいるって事は・・・・・・」

「ああ、織田のクソ共は全滅したぜ。こっちもかなりの被害を受けちまったがな・・・・・・鈴音の奏でた音色が皆の命を繋ぎ止めてくれたんだ」

「ねえ、ゼイルはどうしたの?あんたと一緒にいたはずじゃ?」

 ゼイルが見当たらない事にライゼルが辺りに視線を送り、彼の行方を探す。

「ゼイルは僕がやられた後、勇敢に立ち向かったんだ・・・・・・でも、敵が強過ぎて・・・・・・僕も"神力覚醒"に頼らなかったら・・・・・・死んでた・・・・・・」

「そうか・・・・・・夕日、ライゼル、お前らはゼイルを探してくれ。忠勝も鈴音も大義を働いたな。怪我を手当てしたら、後は飯を食ってゆっくり休むだけだ」

 襲撃部隊は壊滅し、狭い村を舞台とした戦場は静けさを取り戻す。しかし、その集落は再建が不可能なほど大きな被害を被り、とても人が住める場所ではなくなってしまっていた。家々の多くが焼けては崩れ灰になり、道の至る所には逃げ遅れた村人、戦死した両軍の死体で埋め尽くされる。

「一方的な虐殺に近い戦だったな。2年前の本能寺を嫌でも思い出すぜ。一体、どれくらいの人間が死んだんだ?」

 滅んだ跡地に広がる地獄絵図に海李が露骨に顔をしかめる。

「さあな・・・・・・村への救援には俺達を含む300人の兵が派遣されたが、生き残った者は100人にも満たないだろう・・・・・・更に事実を付け足せば、精鋭の何人かも負傷した。こちらの損害は致命的だ」

「こっちにも十分に戦えるだけの兵力があったら、こんなにも罪もない人間が死ぬ事はなかったんじゃねえのか・・・・・・!?もっといい結果に・・・・・・!」

「やめて海李くん!仕方ないよ!不知火はもう、昔みたいな強大な組織じゃない!それでも皆が命を投げ出す覚悟で戦ったから、犠牲にならずに済んだ人もいた!私達はよく頑張ったよ!誰の落ち度でもない!」

「畜生・・・・・・!畜生ぉ!!」

 自分達の無力さに悔しさを隠せない仲間を鈴音が必死に慰める。

「殺された者は哀れとしか言いようがありませんね・・・・・・ですが、今回の件で不知火の戦力が大幅に削減された問題も視野に入れなければいけません。僕達はあまりにも味方を失い過ぎた。いくら精鋭が健在だとしても兵がなくては組織での役目はあまりにも重すぎます。こんな状態では、次の戦に出向いたところで犬死するのが関の山でしょう。認めたくはありませんが、不知火が完全壊滅する日が訪れるのも決して遠くはないでしょうね」

 ライゼルと共に気絶したゼイルを連れて戻って来た夕日。普段、前向きな性格を絶やさない彼も望みのない発言を口にする。しかし、すぐさま考えを切り替え

「とにかく、余計な心配は後回しにして、石舟斎様と合流しましょう。鈴音くんと海李くんは忠勝くんの方を頼みます。今は負傷者の手当てが先です」

 鈴音と海李は指示に従い、互いに手を貸しながら忠勝を運ぼうとした時、ふいに近くの建物から何かが動く物音がした。同時に生きた気配を感じ、壁の内側に誰かが潜んでるのを悟った。

「誰かいるのか・・・・・・!?」

「しっ!静かに・・・・・・!」

 息を呑み、緊張を走らせる精鋭達。蒼真は妖刀を抜刀し、夕日は大鎌を構えて前に出る。声には出さず、後ろで警戒する仲間に"ゆっくり下がれ"と手で合図を送った。

『"・・・・・・いな!"』

『"やって・・・・・・!"』

『"て・・・・・・しょうか・・・・・・?"』

 何かを話し合っっているようだが、上手く聞き取れない。しかし、中にいる人数は3人だと確認できる。

「おい、そこにいるのは誰だ?出て来い」

 蒼真は口調を鋭く外に出るよう促した。建て付けの悪い戸がガサツに開く。

「ひっ・・・・・・!ひいいい!!」

 最初に姿を曝け出したのは背の低く、いかにも気弱そうな男だった。農民らしからぬ整えられた綺麗な格好、背負った風呂敷からして商人である事が窺える。今にも危害を加えて来そうな蒼真達を見た途端、腰を抜かして悲鳴を上げた。

「どうしたがね!?」 「どうした!?まだ奴らが・・・・・・!」

 後に続いて他の2人もひょっこりと死角から顔を出した。独特な喋り方をする体格のいい男に細身で肌の白い女。彼らも商人と同じく怯えた姿勢を取る。

Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.38 )
日時: 2019/07/07 18:52
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「ど、どうか!命だけはお助けを!」

「安心しろ。俺達は味方だ」

 情けない命乞いに呆れた蒼真と夕日は武器を収めた。武装を解いた姿を目にした3人の男女も深い安堵の意を示す。

「ずっと、この長屋に隠れていたんですか?火の手が回っているのによく助かりましたね」

 夕日が怪訝そうに首を傾げると

「は、はい!突然起きた襲撃に逃げ場もなくて・・・・・・長屋に逃げ込んだらこのお二人方と出会ったんです!3人で隠れる場所を探していましたら偶然、廊下の下に穴を見つけまして・・・・・・狭かったですが命が助かるならと、そこに入って・・・・・・!」

 窮地に一生を得た理由を商人がやや焦りながら説明する。

「だから、火や煙の中にいても無事だったのか。正に文殊の知恵だな」

 海李が感心しているのか、呆れているのか判断しにくい口調で言った。

「着ている服装からしてあんた達全員、この村の人間じゃなさそうね?怪しくはないけど、念のため名前や素性を教えてくれる?」

 今度はライゼルが3人の詳細を問いかける。

「見ての通り、私は商人です。この国では珍しい南蛮の品を扱っていて、商いのために遥々、この村へ足を運びました。あ、申し遅れました。名は喜平と言います。どうぞ、お見知り置きを」

 続いて、体格のいい男と肌の白い女が礼儀正しさとはかけ離れた態度で

「わしゃ、名は平八と言うじゃらぁ。女房と喜劇を披露するために三河(現在の愛知県)から来たんだがの・・・・・・どないして、こんな事になったんだがぁ・・・・・・」

「小夜よ。よろしく。人を笑わせるために来たってのに、始まったのは殺戮の嵐で・・・・・・まったく、冗談じゃないよ!・・・・・・で、あんた達は?こっちが素直に名乗ったんだから、次はそっちが名乗る番だよ」

 小夜が実に不機嫌そうにライゼルがした同じ質問を返す。

「俺は蒼真、隣にいるこいつが夕日。俺達は不知・・・・・・いや、この付近の自警団を務めている。せっかく、遠い所から来たのに災難だったな」

「ホントに最悪!災難の一言で済ませられるもんじゃないよ!」

「罪もねえ百姓が大勢殺されて・・・・・・なんて世の中じゃらね・・・・・・」

「品があっても買う人がいない・・・・・・ああ、これじゃ宝の持ち腐れだ・・・・・・」

 想定すらしていなかった最悪な展開に戸惑う3人。不知火の精鋭達は少しの間、彼らに視線を留めていたが

「ここにいたって、しょうがねえ。早く集落の外へ出ようぜ?」

「そうだね。忠勝くんとゼイルくんに傷の手当てをしなくちゃ」

 海李と鈴音が言って、ライゼルもその優先に従う。

「あたしも先に行ってるわね。ファゼラルの事が心配でじっとしていられないの」

「蒼真さん、僕達も行きましょう。皆が待ってます」

「そうだな。ここでの役目は終わった。お前らも来い。いくら戦が終わっても、こんな死体だらけの場所じゃ気は休まらんだろ。こっちだ」


 村の外では生き残った者達が粗末な野営場を作り陰気に満ちた一時を過ごす。故郷を終われた村人は家族や友人の死に悲しみを分かち合い、互いに泣き崩れている。愛人を殺された若者、孫を奪われた老人、親を失った子供もいた。

 戦いを終えた不知火の兵達も英気を養っていた。痛みや疲れに蝕まれ、仲間が死んだ悲しみに暮れ、その場を動かない。その中には死んだように横たわる忠勝、ゼイル、ファゼラルの姿も。夕日とライゼルに付き添われ、石舟斎が薬と包帯を用い、彼らに手当てを行う。

「ファゼラル!しっかりして!死んじゃだめよ!」

 手を握られ呼びかけられてもファゼラルの意識は既になく、返事は返らなかった。

「忠勝くんとゼイルくんは特に目立った外傷はありません。元々、不死身と言える頑丈な体ですからね。しかし、問題はファゼラルくんだ」

「ああ、止血剤を流し傷口を押さえているが、血が止まらん。やばいぞ。顔も青ざめ、呼吸も短くなってきてる・・・・・・このままでは・・・・・・」

 石舟斎はファゼラルの容態を深刻に見下ろす。槍で貫かれた胸からは血が滲み、白い布切れを真っ赤に染める。

「隠れ家に連れ帰り、治療を施しては間に合いません。"霊石"を使いましょう。あれならどんな怪我でも立ちどころに治せるはず」

 夕日の提案に石舟斎は迷わず頷く。

「一刻の猶予もないからな・・・・・・ほんの欠片でもいい。誰か持ってないか探してきてくれ」


 そんな人溜まりから離れた木の下に転がる岩に千夜が座っていた。腿には赤く湿った包帯を巻いている。撃たれた傷を気にする様子はなく、平然と夜の涼しさに浸っていた。

「千夜ちゃん」

 そこ美智子がやって来た。

「撃たれた傷は大丈夫?まだ、痛む?」

「平気よ。手当のお陰で大分、楽になったわ。何か用?」

 千夜は友好的とも言えない態度で問いかける。

「ずっと、火の中で戦っていたから喉渇いたでしょ?お水、飲む?」

「ありがたいわね。貰えるかしら?」

 差し出された竹筒を受け取り、千夜は中身を飲んで水分を補う。美智子はその隣に座り、2人は怪我人や難民が集まった所を眺めた。家や家族、友を奪われた悲惨な光景に胸が圧迫される。

「大勢の人が死んで、生き残った人達は家族を奪われて・・・・・・罪なんてない人達なのに、あまりにも可哀想・・・・・・」

「そうね。でも、私達はできる限りの事はした。それ以前に今回の戦いで、私達はまともに戦える戦力を失ったわ。不知火がこれからどうなるのか、不安で仕方ないわね・・・・・・」

 千夜は蒼真とほとんど同じ事を口に出し、夜の空に浮かぶ丸い月を見上げた。


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