複雑・ファジー小説
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- 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】
- 日時: 2019/04/03 16:38
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
どうも、いつもお世話になっております。マルキ・ド・サドです。
前々から創作を練っていたどうしても書きたかった新たな小説を書こうと思っています。
ローファンタジー小説『ジャンヌ・ダルクの晩餐』をご覧になって下さりありがとうございます!
皆様のご愛読により私の小説はとても大きな作品となりました。
この感謝を忘れずこれからも努力に励もうと思います(*^_^*)
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、誹謗中傷、不正な工作などは絶対にやめて下さい。
今回のテーマは妖怪が蔓延る暗黒時代を舞台として描かれる戦国ダークファンタジーであり残酷でグロテスクな表現が含まれています。この小説を読んで気分を害した場合はすぐにページを閉じる事をお勧めします。
【ストーリー】
天正10年(1582年)。謀反を起こした明智光秀の軍が織田信長を襲撃、3万の兵が本能寺に攻めかかる。しかし、突如現れた妖怪の群れが明智軍に襲い掛かり兵達を惨殺、優勢だった軍勢は瞬く間に総崩れとなる。決死の抵抗も虚しく光秀は戦死、本能寺の変は失敗に終わるのだった・・・・・・
その後、信長は妖怪を操り数々の戦を勝利を収めついに天下を統一、戦乱の世に終止符が打たれ人々は太平の訪れを期待する。しかし、冷酷な魔王の手により治められた大和ノ国は第二の暗黒時代が幕を開ける。そして、とある日の逢魔時の空に響き始めた謎の聲、人々はこの異変を妖怪の巣の叫び、地獄の唸り、神々の呪いであるという噂が流布されるのであった・・・・・・
天正12年(1584年)。徳川家康の家臣にして『不知火』の一員である若武者『本多忠勝』は奈良の支部にて『柳生石舟斎』と共に武術の修行に明け暮れていた。ある日、そんな彼らの元に真田氏の武将『真田昌幸』が訪れる。妖怪が溢れた天下の事態を重く見た昌幸は不知火の復旧を訴え信長打倒を依頼する。要望を聞き入れ忠勝は日本各地へ出向き織田政権を陰から崩そうとするがその時は誰も知る由もなかった。妖怪に溢れた天下の闇の奥に更なる魔の手が潜んでいる事を・・・・・・
【主な登場人物】
本多忠勝
物語の主人公である若き武将。猛将に似合わず白い長髪でおっとりとした面持ちのため一見すると少女にも見えなくない。不知火の復旧、そして太平の世を取り戻すため妖怪を操る信長や七天狗を倒す旅に出る。桶狭間の合戦を戦い抜いた若き日に闇鵺の宝刀である『殉聖の太刀』に触れ呪縛の呪いにかかり手にした時点で当時の年齢が固定され成長が止まっている。髪が白く容姿が幼いのはそのため。
柳生宗厳(石舟斎)
柳生一族の長にして剣術『新陰流』の継承者。号は石舟斎。柳生家厳の子。新陰流第2世。妖の討伐の際に踏み入った妖魔の森で忠勝と出会い以後、弟子として彼を育て上げた。彼も不知火に所属する精鋭であり、真田昌幸の訴えにより勢力の復旧を決意、忠勝を日本各地に派遣する。
織田信長
第六天魔王と恐れられる尾張国の戦国大名。本能寺の包囲網を際には妖怪を使い明智光秀の軍勢を返り討ちにし、その後も幾度もの戦に勝利を収めついには天下人となる。妖怪による統治を始め人々を恐怖で支配、高等な妖の一族である七天狗を従え多くの配下を大和ノ国各地に配置させている。人ならざる者の力に魅了された彼は自身も魔の血を取り込み半人半魔と化した。
紅葉
信長の側近である妖。武器は妖刀。
両親が第六天魔王に祈った結果で生まれた絶世の美女の鬼女。
源経基に寵愛され一子を宿していたが戸隠山に流された挙句、最後に降魔の剣を手にした平維茂に首を斬られ掛けるなどと痛い仕打ちを受けた為に人間が苦手になった。
信長が第六天魔王と名乗った事で信長の行く末を見届けようと信長の側にいる。息子の経若丸には結構甘いところがある。
七天狗
信長に忠を尽くす高等な妖の一族。妖怪である自分達を迫害した人間達を憎悪している。日本各地で暗躍しているがその存在を知る者はなく目的すらも不明。全員が天狗の仮面を身に着けており烏、狼、山猫、猿、狐、狸、熊の計7人で構成されいる。
【不知火の一員】
鈴音
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は笛。
300年以上も大切に扱われた笛が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
人当たりの良い性格から小さい子供達からは慕われている。
争い事を激しく嫌悪するため自ら前線に赴くよりどちらかと言うとサポートに徹する為、戦闘能力はあまり高くない。
海李
不知火の一員である楽器の付喪神。武器は太鼓。
300歳以上も大切に扱われた太鼓が付喪神として実体化した姿で名前は元々の持ち主につけてもらった。
面倒見の良い性格から子供達からは慕われている。
また、鈴音とは元の持ち主が同じで同時期に実体化した為、鈴音とは幼馴染でお互いに好意を寄せている
杉谷 千夜
不知火の一員である人間の忍び。武器は銃器、短刀、焙烙玉。
甲賀で織田信長の支配に異を唱える勢力の所属であり魔王信長を討ち取るべく日々、命懸けの戦いを繰り広げている。
実は甲賀出身ではなく戦で村を追われ生き倒れていた所を甲賀の忍者に保護され杉谷家に養子になる形でくノ一になった。
杉谷善住坊とは兄の様に慕っていたが信長の暗殺未遂で酷い方法で処刑された事により信長に対して恨みを持っている。
滓雅 美智子(おりが みちこ)
不知火の一員である人間の忍び。武器は妖刀。
信長に反旗を翻す反乱軍の一員で甲賀の勢力と同盟を結んでいる。
その為、千夜とは面識があり彼女の事を『千夜ちゃん』と呼んでいるが本人からはあまり受け入れられていない。
忍者ではあるが無用な争いは好まない平和主義者であらゆる物事をスマートに済ませたがる。
ファゼラル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の青年で、常に敬語で話す。敬語を使わないのはカード達くらい。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を非常に大切にしている。
鈴音達と仲が良く音のカードで伴奏を流して上げる事も。
ライゼル・マーシャ
不知火の一員である西洋の魔術師。武器は属性を宿したタロットカード。
西洋から来た魔術師の少女でファゼラルの双子の妹。常に敬語で話すファゼラルに対しライゼルはタメ口で話す。
自分のパートナーであり家族のような存在のカード達の事を大切に思っている。兄ぐるみで鈴音達とも仲が良い。
ゼイル・フリード
不知火の一員である人間の騎士。武器は剣と斧。
よく女の子と間違われやすく女と間違われたり子供だと馬鹿にされるのが極度に嫌う。
英雄のジーク・フリードの子孫にあたり体格に合わずかなりの食欲の持ち主。
蒼月 蒼真(そうつき そうま)
不知火の一員である半人半獣。武器は刀。
父親は人間、母親は妖狐の間に生まれた青年。
不正や悪を嫌う為、信長の政権に嫌悪感を抱いている。
人間妖怪関係なく平等に接しているため子供達からも慕われている。
箕六 夕日(みろく ゆうひ)
不知火の一員である人間。武器は大鎌。
物語を書く事が大好きな文系の青年。端麗な容姿から女性に間違えられる事が悩み。
幼い頃に霧隠の山奥に迷い込み狼の守護霊を拾い家族のように親しくなった。
以後、頼れるパートナーとして常に行動を共にしている。
【用語】
殉聖の太刀
忠勝が使用する聖の力が秘められた太刀。かつて室町時代の大和ノ国に訪れた異国の聖女の剣を刀へと打ち直した物。斬った人間や妖怪の霊気を吸収する事で刃の強化、『神力覚醒』が可能。異国の聖女だけが完璧に扱うことができそれ以外の者が触れると呪縛の呪いを受ける。不知火の秘宝でもあり神器の1つとして崇められている。
不知火
忠勝が所属している義の名のもとに戦う兵団。日本各地に支部を持ち人々の太平を尊重し民の平穏、調和の安定を目的とする。室町時代に『異国の聖女』、『陸奥重盛(むつ しげもり)』により結成され足利将軍家の影の軍隊として活躍していた。主に妖怪討伐や国の平穏と調和の安定を保たせる事を生業としており1世紀以上も前から大和ノ国の民を守ってきた。室町幕府が滅んだ本作では主君を失い衰退の一途を辿っている。
夜鴉
不知火同様、表では知られない秘密の組織。太古から存在しており人と妖怪の調和を目的とする。人が立ち入らない群馬の山奥に拠点を構え結界で身を固めている。戦いを好まず社交的な存在だが妖怪を不当に扱う不知火や織田政権の事はよく思っていない。
妖怪
日本の民を恐怖に陥れている人ならざぬ者。原住する者と魔瘴石で生まれた者の2つのタイプが存在する。また、下等、中等、高等の階級があり骸武者や鰐河童、妖蟷螂などの下等妖怪は知能が低く本能のまま人を襲う。鬼や大百足の中等妖怪は強力な力を持ち言葉を話す事も可能。高等妖怪は姿形は人間に酷似しており超人的な頭脳と戦闘能力を備えている。
大和ノ国
物語の舞台である妖怪に支配された列島大陸。日本、妖都島、ジパングとも呼ばれる。戦が絶えない戦国の世だったが信長の天下を手中に納めた事によりかつての面影を失い、政は一層に腐敗した。八百万の神々が住む神秘的な国でもあり、不思議な魔力を持つ霊石や宝玉が大量に眠っている。
・・・・・・オリキャラの提供者・・・・・・
桜木 霊歌様
妖様
siyaruden様
シャドー様
挿し絵(少し修正しました)は道化ウサギ様からの提供です。皆様のご協力に心から感謝いたします。
以上です。それでは物語の幕を開けようと思います。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.79 )
- 日時: 2023/01/07 18:47
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
忠勝達は椿と別れてすぐ、折り鶴に乗って浄龍の祠を後にした。不知火復旧に欠かせない人材である足利将軍家の跡取り、足利義尋が囚われているという神地羅殿が存在する阿波を目指すのだった。数日間、折り鶴で空を渡り、ようやく目的地が存在する山奥部へと行き着いたのだった・・・・・・
「神地羅殿にはまだ着かないのかよ?流石に空の散歩も飽き飽きしてきたぜ」
海李が飛んでいるだけの退屈な移動手段に少しばかり苛立ちながらぼやいた。
「ジェルメーヌ?平気か?」
蒼真が振り返って、最後列を飛行するジェルメーヌを気にかける。彼女は慣れない疲労が祟り、折り鶴に乗っているのも辛そうな様子だった。
「へ、平気です・・・・・・ただ、こういったものは不慣れなもので・・・・・・」
「無理もないわ。修道女が数日の大半を空で過ごすなんて、普通はまずない事だしね」
美智子は共感の意を示し、仕方なさそうな目で何度も頷く。
「しかし、天狗の討伐だけではなく、将軍家の跡取りを救出した上で行方不明になった七五昵近衆の安否をも調査する。幾度もの困難を乗り越えて来たとは言え・・・・・・今回は少しばかり、荷が重すぎる役目だな」
「そもそも、楽な任務なんてありませんからね。どんな壁が立ちはだかろうが、壊すか乗り越えるか・・・・・・僕達にはその二択しかありません」
夕日はいつもより真剣に断言する。弱腰を感じさせない頼もしさに石舟斎も"ふっ"と若干の笑みを浮かべた。
「でも何故、祥という七天狗の1人は義尋様をわざわざ誘拐なんか・・・・・・将軍家の血筋の命が狙いなら、その場で殺めれば。わざわざ連れ去る必要なんかないんじゃ・・・・・・?」
忠勝が誰に聞くわけでもなく言った。すぐさま、返事が返る。
「答えは単純。"餌"として利用できるからよ」
「餌?」
鈴音が隣を飛ぶ折り鶴の方を向いて、更にその先を知りたがった。千夜はこちらを振り返らず、具体的な説明を淡々と述べる。
「義尋様は将軍家の唯一の跡取りだけに七五昵近衆に守られていた。敵は生け捕りにした彼を手中に収めていれば、不知火の古参が奪還に動き出す事を想定している。現に彼を連れ戻そうとした椿様の仲間が2人も誘き出され、消息を絶ってしまった・・・・・・」
「身分が高い御仁ってのは、色々な意味で利用されるよな・・・・・・権力者ってのもただ楽した人生を送ってるわけじゃねえんだな」
ゼイルの無作法な発言に夕日は彼を睨んだが、少しばかり共感を抱いてしまったのか強張った表情が緩む。
「それもそうだけどよ?そもそも、奴がどうやって護龍の渓谷に侵入できたのかだ。いくら、高等妖怪とは言え、龍神の結界網を潜り抜ける事なんて可能なのか・・・・・・?」
海李が不可解な謎を口にし、ライゼルは何度か頷いて
「そうね。祥って妖怪は決して、ただの怪物じゃない事だけは想定できるわ。結界を無力化する強力な力を持ち、悪逆非道な知略に長けている・・・・・・確実に一筋縄ではいかない相手ね」
「修羅の孕み子とも称される妖・・・・・・奴との戦いは一瞬の油断さえもが命取りになりそうですね・・・・・・」
ファゼラルの台詞を最後に忠勝達の会話は千切れた糸のように途切れてしまう。互いに伝えなかっただけで、全員が胸騒ぎを心の奥底に宿していた。
またしばらく経って、暗雲の裂け目から薄っすらと神地羅殿らしき建物が姿を現した。平家が築いた館と聞かされた事で豪華な武家屋敷であるという印象が根づいていた・・・・・・が、実際は難攻な砦に囲まれた一国一城の城だった。外見全体は気品らしさを保ってはいるものの、淀んだ色をした環境と妖怪の巣窟と知っているだけに薄気味悪い雰囲気が勝る。城のふもとには集落と呼ぶのも大袈裟な農村が傾いた地形に築き上げられていた。建築物も古い一軒家が何軒かあるくらいで田畑が大半を占めている。
忠勝達は折り鶴を降下させ、農村と林道の間に降り立った。ヒンヤリとした高山の集落は空気と静寂に包まれ、数人が偵察を行うが農村は人らしき姿はない。物音一つも立てず、まるで廃墟だ。
「この村、誰もいないのかな?」
ライゼルが隣に視線だけを送って聞くと、海李が"いや・・・・・・"と向こうをよく観察しながら
「よく見てみろ。田んぼには稲が育っているし、畑も耕されている。少なくとも、無人地帯ではないみたいだ」
「しっ・・・・・・!」
千夜が急に低い姿勢を取り、立てた指を鼻に当てた。もう片方の手は腰元に付けた短刀を握っている。
「石舟斎・・・・・・」
「ああ。いるな」
石舟斎も刀身を僅かに鞘から抜き、はなから知っていたかのように冷静な口調で言った。同じ気配を感じ取っていた夕日が囁く。
「周囲から、おびただしい殺気を感じます。敵はこっちより数が多い」
彼の足元で忌龍丸が獰猛に唸っているものの、どこを探しても脅威の形は見つからない。おそるおそる後退りしたジェルメーヌが足を踏み外し、迂闊にも足を滑らせたのを機にそいつらは草むらから一斉に飛び出した。忠勝達は逃げる暇もなく、あっという間に包囲されてしまう。衣服の上に草葉を羽織り、森林や茂みに溶け込みやすい格好でその多くが農具で武装していた。
「できるだけ散開しろ!」
蒼真が仲間がいる背後に背を預けて叫んだ。彼の判断に従い、武器を構えた精鋭達は間合いを詰めずに一定の距離を置く。中心にいるジェルメーヌに触れさせまいとするような八方から迎え撃てる陣形を作り上げた。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.80 )
- 日時: 2023/01/17 18:43
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「できるだけ散開しろ!」
蒼真が仲間がいる背後に背を預けて叫んだ。彼の判断に従い、武器を構えた精鋭達は間合いを詰めずに一定の距離を置く。中心にいるジェルメーヌに触れさせまいとするような八方から迎え撃つ陣形を作り上げた。
襲撃者の群れは一気に仕留めようと全方向から襲い掛かる。集団の中で唯一、刀を握った1人が石舟斎に真っ先に斬りかかった。石舟斎は太刀で敵の斬撃を防ぎ、返り討ちにしようとしたが、"ぬっ!"とどういうわけか尖った目つきを緩ませた。
「斬るな!こいつらは敵じゃない!」
襲撃者の正体を悟った石舟斎が殺傷を禁じ、指示を出す。刀身の競り合いを長引かせず、容易く押し返すと相手を斬らずに蹴って突き放す。
美智子も折り紙の刀を巧みに振るい、隙間を風の速さで駆け抜ける。素早い斬撃を繰り出し、襲撃者の背後に回った瞬間、鈍い刀身や柄が綺麗に切断された。 ゼイルは大柄な男の大槌を受け止め、柄をへし折ると、多少は加減した拳を突き上げる。軽々と宙を舞った巨体は後方にいた同胞に落下し、複数が下敷きとなった。
海李も尖った先端の突きをかわし、太鼓鉢で手を打って竹槍を落とさせる。相手が立て直す猶予さえも与えず、胸倉を掴んで豪快に背負い投げて地面に叩きつけた。忠勝も可憐な太刀さばきで殺陣を行い、命は斬らずに刃向かう術だけを奪う。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
こちらの攻撃が歯が立たないと知った人間達はやがて興奮を鎮め、大人しくなった。使い物にならなくなった鍬や鎌を落とし、次々と大半が泣き崩れる。忠勝達は武器を下ろさぬまま沈黙し、その様子をじっと窺う。しばらく経った頃、向こうの殺意が消えようと蒼真は気を許す事なく、妖刀の刃先を向けたまま質問と脅迫を同時に投げかける。
「率直に聞く。何故、俺達を殺そうとした?返答次第では、お前らの生死を決めねばならない」
すると、村長らしき老人の男が勢いよく顔を上げた。怒りに満ち溢れているも、顔中が涙でぐしょぐしょに濡らして
「お、おめえら・・・・・・!奴らの仲間でねえのか!?」
とまるでそうであってほしいような言い方で問いただした。すると、村人達が次々と
「そうだ・・・・・・!でっけえ折り鶴に乗ってやって来やがって!どう見ても普通の人間でねえべ!?」
「あたしらからこれ以上、何を奪うつもりなの・・・・・・!?もう・・・・・・限界だよ!・・・・・・うっ、うあああああ!!」
「もう、耐えられない!どれだけ生き地獄を味わわせれば気が澄むんだい!!?」
「いっその事、殺してけれ!その方が楽になるだぁぁ・・・・・・ああああああ・・・・・・!!」
溜まりに溜まっていた鬱憤を一気に爆発させた。罵声を雑音同然に聞き流し、ファゼラルと千夜が互いに目線だけを重ねて小さく言い合った。
「どうやら、僕達を敵の一員と勘違いしてるみたいですね?」
「・・・・・・みたいね。大体、彼らが何に苦しめられているのか想像がつくけど」
とりあえず敵意の皆無を証明するため、忠勝が代表して自分達の素性と ここに来た理由を順番に述べる。
「僕達は敵ではありません。むしろ、その逆であなた方を救いにこの地に降り立ったのです」
救済と言う言葉を耳にした途端、村人達は騒ぐのをやめ、村一帯は静かになった。互いに同胞達を見ては、希望をうっすらと見い出した面持ちを浮かべ、再び精鋭達の方を向いた。
「この村の頂に不気味に聳える城・・・・・・あれが神地羅殿に間違いませんか?」
「あそこに怪物が住み着いてると聞いてるんだけど?」
ファゼラルとライゼルの問いに村人達の騒ぎが再び巻き起こった。
「あ、ああ!あの物の怪!突然やって来ただよ!」
「最初は高貴な服を着た小さな男の子だと思ったよ・・・・・・でも、そいつがいきなりあたしらの仲間を何人か食い殺して、子供達を攫って行ったんだ!」
「娘は奴に手籠めにされた!!親である俺の目の前でだ!!散々、手籠めにした挙句、眼球をくり抜きやがった!娘は腐った目穴に膿を溜めて、痛い痛いと泣きながら死んでった!」
「俺は子を身籠ってた女房を殺された!!奴は女房の腸を抉って!首のない赤子を送り返してきたんだっ!!」
村人の口から絶えず吐き出されるのは 妖怪が如何に冷酷非道であるかを物語る証言ばかり。彼らの抱える絶望と怨みがジェルメーヌにも伝わり、引きちぎってしまいそうな力で無意識にロザリオを握り締めていた。
「酷い・・・・・・酷過ぎる・・・・・・この方達は罪なき民であるというのに・・・・・・!こんな残忍な仕打ちが許されていいはずがない・・・・・・!」
「安心しろ。その仕打ちをこれから終わらせんだ。散々、報いを受けさせた挙句にな・・・・・・」
海李が怒りで震え上がった声を出して、逆鱗を帯びた横顔を振り返らせる。
「あの怪物を退治してくれるんだか!?あ、ありがてえ!是非、おら達の代わりに殺された仲間の仇を討ってくれ!こんな田畑しかねえ貧しい村だけに大した礼はできんが・・・・・・!」
「お前らの安全は保証してやる。見返りもいらねえ。代わりに1つ教えてくんねえか?俺達がここに足を運ぶ前、2人のよそ者がここに来たはずなんだが?そいつらは俺達の同胞みてぇな奴らなんだ。何か知ってる奴はいるか?」
そのうちの1人が曖昧に記憶を辿ったところ心当たりがあるのか、冷静に何度か頷いて
「ああ、確か・・・・・・いつぞやだったか・・・・・・2人の男女がここを通っただよ。両方とも、変わった格好をしてたっけかな?」
「変わった格好?」
鈴音が関心を持った言い方で特徴を聞き出すと
「男は背が高くて、見慣れねえ白い服を着てた・・・・・・女の方はちっこくて山伏みてえな格好だった。オラ達が危ねえからあそこには近づくなと忠告したんだがな。構わずに館のある頂きに上って行っただよ。それ以来、姿を見たもんはいねえ」
「なるほど。情報提供に感謝します。これから僕達は神地羅殿へ向かいます故。もうこれ以上、あなた方に苦しみは味わわせませんよ」
夕日が堂々と宣言し、石舟斎が忠告を促した。
「全てが解決するまで、お前達は家で待機していろ。間違っても、あの館に近づくんじゃないぞ?いいな?」
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.81 )
- 日時: 2023/06/07 19:47
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
神地羅殿 城門
低い城壁の門はまるで館への訪問を想定しているかのように予め開かれていた。その先には一本道が次の区域まで伸びており、地面には白い砂利が敷かれ、両脇には薄暗い森林が広がっている。邪の気配は感じないが、静寂さが妙な不安感を煽るのだ。
「ところでさ?神地羅殿って、何を目的にこんな山奥に建てられたのかな?ちょっと、気になるかも」
砂利を踏みにじる音だけが絶えず聞こえる中、ふいにライゼルが些細な興味本位で聞いた。
「椿様の話によれば、壇ノ浦で大敗を喫した平氏軍の残党がこの地に落ち延びた後、勢力の復旧の機会に備えるために作った場所らしいよ?」
忠勝が具体的な説明を述べた後、前を歩く蒼真が口を挟んだ。
「流石は大和ノ国に名を轟かせた武家の一族だけの事はある。壊滅に追い込まれても尚、これほどの拠点を設けるだけの人材と財政を残していたとはな」
第二の門を潜り抜けた先で不知火達は遂に神地羅殿の実態を目の当たりにする事となる。城壁は四角い形状をしていて、水場を取り囲んでいた。中心に浮かぶ城は1つだけではなく、奥から大きい順に3つも存在していたのだ。周囲には同じく水面の上に作られた花見の並木道、屋敷、宴会場、演芸場、庭園などいくつもの区域が橋で複雑に繋がっている。正面に架けられた橋だけが唯一、全域に行くための侵入口だった。
「これが神地羅殿・・・・・・」
「妖が巣食う根城と言えど、見事なものだ」
「どこもかしこも風流な遺跡ね。当分、眺めていても飽きる気はしないわ」
平家落人が築き上げた館の凄まじい光景に不知火達は素直な驚愕を隠せなかった。しかし、当時の華やかな面影は消え失せ、妖々しい空気が漂うだけの魔窟の廃墟と化している。
「この城のどこかに義尋様が囚われているのか・・・・・・」
「ああ。そして、七天狗の1人である祥が待ち構えてる事もな」
忠勝に続いて石舟斎も重要な台詞を付け足す。
「敵地の領内の真ん中を折り鶴で移動するのは危険が伴うわ。少し屋敷の近くを偵察して来る。皆はここで待っててくれないかしら?」
「僕も行くよ。1人だけじゃ心細いでしょ?」
「だったら、俺も連れてけ。戦士が傍についてた方が万が一の事があっても困らねえだろ?」
薄い微笑みで喜びを示した千夜が頷いた。忠勝とゼイルを両脇に置くと残りの仲間を待機させ、城門へと繋がる大橋を渡っていく。
「3人だけを行かせるのですか?危険なのでは?」
心配性のジェルメーヌに海李は指で鼻を擦りながら言った。
「全員で仲良く進んで罠にでもはまったら、全滅してめでたしめでたしだ。安全を得たきゃ危険を冒さなきゃならねぇ時もあるんだよ」
「忠勝、ゼイル。止まりなさい」
威圧感を放つ妖々しい城との距離が縮んだ頃、千夜が小さな声で言った。2人は顔や動きに出さずにその指示に従う。
「どうした?」
ゼイルが声をやや低くして言った。
「城門の前に誰かいるわ・・・・・・」
忠勝とゼイルが示された方向へ目を凝らすと、確かに1人の人間らしい人物が門の脇で背を預け、ぐったりと座り込んでいた。長い銀髪を生やしているが、顔立ちで男性である事が把握できる。服装はこの国の物ではない白衣を羽織り、年齢は三十路を過ぎたばかりくらい。背が高く、肌の色も白かった。
「あの人って・・・・・・まさか、外つ国人?」
「また、西洋人かよ。最近はやけに異国の人間と出会うきっかけが増えたな・・・・・・もしかして、あいつが椿が言ってた仲間じゃねえのか?」
西洋人の格好は村人の証言と一致していた。行動を共にしていたとされる山伏の少女の姿は見当たらない。
忠勝が安否を確かめようと男の元へ駆け出した時、良からぬ気配を感じ取った千夜が頭上を見上げた。直後に平常な表情が一変し、反射的に警告を叫んだ。
「忠勝!真上よ!」
2つの岩らしき物体が落下してきたが、忠勝が間一髪、跳び下がって下敷きを免れる。一見すると、降ってきたのは錆び付いた鉄の塊。しかし、それはやがて動き出し、大鎧で身を固めた武者の姿を形作った。全体から黒い妖気を放ち、兜と面の隙間から青白い目が不気味に光る。
「ようやく、敵さんのお出ましってか!ちょうど、体のなまりを解消したかったとこだぜ」
戦う展開を望んでいたゼイルが背負っていた大剣を取り、舌舐めずりをした。
「"揚羽蝶の家紋"・・・・・・平家の武者か・・・・・・」
忠勝と骸武者は抜刀のタイミングを合わせ、それぞれの構えを取った。
「忠勝。ゼイル。左をは任せるわ。私はもう片方を仕留めるから」
「おいおい?大した自信だな?1人であんか図体でかいバケモンに勝てんのかよ?」
千夜はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ
「なめられたものね。忍びを侮らないでちょうだい」
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.82 )
- 日時: 2023/06/16 23:21
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「ボォォォォ!!」
平氏の亡霊武者が人には発せられない雄叫びを響かせ振り上げた大太刀を叩きつけた。忠勝が素早く太刀の刀身をぶつけ、力任せの斬撃を弾く。大太刀の向きを強引に逸らし、大きな隙を作らせ、そのまま胴体を斬りつけた。しかし、鎧の表面を薄く傷つけただけで痛手を負わせられず、忠勝は反撃に遭い弾き飛ばされてしまう。ゼイルが横に回り込んで大剣で脇腹を裂こうとした・・・・・・が、刀身は肉体に達する事なく、鎧に当たっただけでびくともしない。
「あ!?こいつ、凄ぇ硬ぇぞ!?・・・・・・うわっ!」
ゼイルも攻撃を間一髪回避するも衝撃波に押され、橋の上を転がった。
「くっ・・・・・・!」
「千夜ちゃん!下がって!」
苦戦を予測した千夜がとっさの判断で爆薬を手にした矢先、背後から美智子の声がした。武人を模った式神が亡霊武者と相見え足止めを図る。圧倒的な強さに式神は呆気なく切り裂かれたが、時間を稼いだお陰で千夜は安全に逃げられた。
「御無事ですか!?」
そこへ石舟斎達が集まって来た。ジェルメーヌが3人の身を案じ、忠勝が敵を黙視したまま黙って頷く。
「忠勝の太刀もゼイルの剣も通さないなんて、こんな事ってあんのか!?」
海李が目に見た現状を疑う一方、ファゼラルとライゼルが冷静に分析する。
「いくら大鎧と言えど、あれほど朽ち果てた鉄札が破魔の刃を無力化するなんて有り得ない。恐らく、敵の装甲は単なる見掛け倒し」
「ええ。あれは強力な“神護の結界“によるものだわ。強力な陰陽術の一種よ」
「それが事実なら、この城の何処かに術者がいるに違いありません。しかし、その肝心なそいつが人物をどこにいるか分からない以上、こちらが術を打ち破るしか・・・・・・」
「鈴音?あなたの笛の力で妖術を打ち消せないか試してくれない?」
「何とかやってみる・・・・・・!」
そよ風のような緩やかな音色が奏でられ、亡霊武者の異変が生じる。自身の身に違和感を感じたのか、短い声を出して小刻みな動きを始めた。浮かび上がった魔法陣が砕け、法力の破片が散らばる。
「これで対等な戦いができるな。外法(卑怯な手段)を用いず、俺達にどこまで抗えるか見物だな?」
蒼真が妖刀を白刃を向けて言った。
亡霊武者は再び、奇怪な雄叫びを響かせと分厚い大太刀を叩きつけてきた。太刀筋は相変わらず、剛力に頼る剣技であったが、敵への過小が生んだ侮りが見て取れる。忠勝は刀を交える事なく体の向きをずらし、わざと地面を抉らせた。そこに殉聖の太刀を相手の刀身の上に重ねて押さえ込み、攻撃の術を封じる。後ろから走ってきた蒼真が忠勝の肩を踏み台に高く飛び跳ねると妖刀で隙だらけの顔を素早く斬りつけた。
「アガッ・・・・・・!」
痛みに怯んだ亡霊武者は斬られた頬を覆い短く引き下がった。傷口から泥色の血が流れ、腐食した肉の垢が零れ落ちる。もう片方の亡霊武者も有利だった立場の反転に苦戦を強いられていた。千夜と美智子は宙返りや側転などを活用した俊敏な動きで乱撃の網を擦り抜ける。
2人による演芸ね如く身のこなしが個体を翻弄し、注意力を削ぐ戦略だ。狙い通り、亡霊武者は忍びに気を取られ、夕日の存在を視野に入れていなかった。彼は死角から攻めかかり風斬りの妖力を帯びた大鎌で奥義を繰り出す。
「月華旋風斬!」
技を喰らった亡霊武者は手首を切り落とされ、大太刀を握った手が地面を転がった。支えるものがなくなった巨体が倒れ、亡霊武者が見上げた先には鬼の形相をした海李の姿が。加減のない太鼓鉢が顔面に叩きつけられ頭部が粉々に砕けた。1秒も経たず意識が黒く染まり、黄泉へと送り返される。
忠勝は巧みな下段の太刀筋で刃こぼれがしている箇所へ刀身を軽く当てた。太く頑丈な刃に亀裂が生じ、ひびが根のように広がる。綺麗に折れて弾き飛んだ刀身が橋の外に放り出され、下の水場に沈んだ。
予想外の事態に陥り、動揺を隠せない亡霊武者。武装が皆無にされた事でまともに抗う術はなかった。蒼真はニヤリと敵の失態を笑い、狐火を帯びた左腕の拳を亡霊武者の胸部に捻り込ませた。拳は頑丈な胸当てをことごとく貫通し、心臓部に達した。
「蒼炎烈火!」
妖狐術の名の1つを口にした瞬間、亡霊武者は体内から炎柱を放出し内側から焼き尽くされた。燃え盛った巨体が押し寄せたため、忠勝は刀身を突きつけ、斬り捨てようとしたが
「忠勝、伏せろ!」
後ろからゼイルが叫び、剣が眩く輝き出す。
「フリードドラゴンベイン!!」
剣が放った光線は姿勢を低くした忠勝の真上を通過し大柄な体を貫通する。胴体の大半を吹き飛ばされた亡霊武者は次第に大柄な原型が焼け落ち力尽きた。僅かに残った燃えカスの破片が足元に散らばる。
- Re: 逢魔時の聲【オリキャラ・イラスト感謝!】 ( No.83 )
- 日時: 2023/06/25 18:49
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
神地羅殿の門を守る者はいなくなった。忠勝達は多少は気を緩め、辺りを念入りに警戒する。
「よくやったな。怪我はないか?」
鈴音と共に駆けつけてきた石舟斎が皆に安否を問う。
「一応は無事よ。そんな事より心配なのは彼の方よ。ファゼラル、ライゼル。あなた達の治癒魔術が必要になるかも知れないわ。ついて来て」
「ん?彼とは?」
千夜に急かされ、ファゼラルとライゼルは一度は互いに顔を合わせて彼女の後を追う。
「こいつ、生きてんのか?ピクリとも動かねえぞ?」
「かろうじて息はしているみたい。あたし達のお陰で命拾いしたわね」
心配になった海李にライゼルがそう言って、癒しの光を絶え間なく当て続ける。
「この人が椿様が探してほしかった仲間の1人と見て間違いないわね」
美智子が腕を組んだ姿勢で隣にいる蒼真に対して言った。
「少なくとも1人の救出は成し遂げられたな。ここに辿り着くまで死体はなかったとすれば・・・・・・恐らく、後のもう1人は単身で城内へ入ったんだろう」
「なら、急がなきゃ!その人の身にも危険が!」
鈴音が慌てる一方で忠勝は落ち着き払った。
「ファゼラル、ライゼル。回復は見込めそう?」
「傷の修復は何とか済ませました。かなり弱っていましたが、致命傷に繋がる怪我をしていなかったのが不幸の幸いと言ったところでしょうか」
「う、うう・・・・・・」
西洋人の男が苦しそうに唸り、意識を取り戻し始めた。彼はぼやけて映る精鋭達がはっきり整うまで細い目で凝視し、静かに口を開く。
「うん・・・・・・あ、あなた方は・・・・・・?」
素性を問われ、忠勝が敵意がこもってな言い方で
「安心して下さい。僕達は味方です。椿様に頼まれてあなたを助けにここへ来ました」
それを聞いた西洋人の男は安心し切ったのか、怯えた表情を緩めて啜り泣きに似た吐息を漏らした。
「そうでしたか・・・・・・あなた方が来なければ、今頃は・・・・・・」
夕日が聞きたい内容だけを問いかける。
「見たところ、異国の方とお見受けしましたが、あなたも七五側近衆の1人なのですか?」
「いえ。私は医師の“アダム・ウィルソン“と申します。西洋医学を携わる者として長宗我部元親様の主治医を務めておりました。ご子息の盛親様が労咳(結核)を患われ、頭を悩ませていた際に椿様と出会い以後、"仙医術"を学ぶ弟子となりました」
「椿様の話によれば、あなたとは別にもう1人の人物がいると聞きましたが、その方は何処へ?」
「1人で悪巣の中へ・・・・・・お止めしようとも耳を傾けてもらえず・・・・・・油断なさらずに。城内はどのような魔の影が待ち受け・・・・・・ぐっ!」
「蒼真が予想した通りか。これはまずい状況だな」
石舟斎が鋭い目つきを一層厳しくした。美智子は男の身を案じ、寒そうに自身を抱え込む彼の肩に手を置いて会話を中断させる。
「これ以上喋らせない方がいい。まずは彼を安全な場所まで移動させないと。ここに放置しておくのはあまりにも危険過ぎるわ」
「でしたら、ここは私に頼らせて頂けませんか?」
不意に聞こえた声に精鋭達が振り返ると、普段より真剣な面持ちになったジェルメーヌが胸に手を当てていた。
「戦い慣れない私が共に悪巣に踏み込んだとしても足手まといになるだけ。ならばいっその事、ここに残ってこの御方の介護を務めさせて頂きたいのです。不知火の皆様は果たすべき使命を全うして下さいませ」
「その提案は危険過ぎない?城の番人を排除したとは言え、物の怪が再び現れない保証はないのよ?」
ライゼルが最悪な事態を想定させるも、反面に忠勝と夕日は異議を唱えなかった。
「ジェルメーヌが正しいのかも知れない。鈴音の言う通り、手遅れになる前に行動に移すべきだ」
「右に同じく。僕達がこうしている間にも義尋様やもう1人の側近衆の方の死を早めるだけかと。戦い慣れない少女を敵地に置き去りにするなぞあってはならない事ですが、今回ばかりはその案を肯定すべきでしょう」
巨大な門が開き神地羅殿へ通路が繋がる。忠勝達の後に続こうとした美智子が取り出した折り紙に武士の形を構築させ2人の隣に立たせた。
「念のため、護りの式神を傍につかせるわ。容態が安定したら、なるべく早く麓の村に降りなさい」
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