複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 新世界のアリス【完結】
- 日時: 2021/09/10 20:32
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。
2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!
>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語
・本編
プロローグ>>3-6
Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29
Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57
11章 >>58-63
12章 >>64-68
Act.3 妖精達の演舞
13章 >>69
お知らせ >>70
- Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.16 )
- 日時: 2021/07/08 10:13
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
「ほい、治療完了」
ララがそういうと、ジャンの背中を掌で叩く。ジャンはもちろん「うっ」と声を漏らすが、すぐに声を出して笑った。
「なんだよ、笑ったりして」
「いや……前もこうやってやってたなぁって思ってな」
「そういえばそうだなぁ」
そんな他愛のない会話を続けているジャンとララ。そうこうしてるうちに、イレーナとキリガンとゲルダが戻ってきたようだ。
「お待たせ。すっかり日も暮れちゃったわ」
イレーナの言う通り外は薄暗く、間もなく夜になるところだ。
「食事でも作りましょう。ゲルダさん、また手伝ってくれない?」
「はい、喜んで!」
ゲルダがそう返事すると、イレーナが台所まで案内する。
それを見送るキリガンは、ふと転がって気絶しているカーラとギンを見て怪訝な顔でアリスに尋ねた。
「これは、どういう状況?」
「治療の結果だ」
「どんな荒治療だったの……」
キリガンがそうつぶやくと、ララがすくっと立ち上がる。
「さて、俺はもうお役御免みてえだし、そろそろ帰るとするわ」
「ん、夕食食べて行かないのか?」
「いや、この後約束があるんだよ。それに、賑やかなのは苦手なんだ」
ララが腕を組みながらそういうと、ジャンは肩をすくめる。
「王都は賑わっていると思うが?」
「む、確かに……いや、そうじゃなくてな。……いや、いい。とにかく、大人数でわいわいお食事なんてガラじゃねえんだわ」
「そうか……ありがとう、ララさん。感謝する」
「ん、じゃあなアリス君」
ララがそういいながら手を振って外に出てしまう。バタンと音を立ててドアが閉まった後、アリスはふうっとため息をつく。
「最後までアリス君呼びか……」
「アリスさんはアリスさんだろう?」
キリガンの一言に「確かに」とうつむくアリス。あまり慣れない様子であった。
ふと、アリスが外の様子を窓から覗き込む。夜の王都は街灯と店の照明のおかげで日が沈んでも明るく、まだまだ人で賑わっている。
「ん、どうしたんだ、物珍しそうに」
ジャンがアリスにそう声をかける。
「いや、流石王都だな。まだ人で賑わっている」
「そりゃあそうさ。まだこれから夜市やらがあってな、夜になっても人は減らない。多分日にちが変わるまではずっと賑わったままだろうぜ」
「そうか……」
アリスはなんとなく懐かしそうにそれを見ている。
「どうしたんだい、ミスター・アリス」
「いや……」
「懐かしいものを見るような顔だな」
「そうだな。確かに頻繁に見るものじゃあなくなってしまったな」
アリスがそういうと、台所の方を見た。美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
「……最近は仕事ばかりに身を挺していたからな、こうやってぼーっとしているのは、本当に久しぶりかもしれない」
「なるほど、とんだビジネスマンだな」
ジャンがそういうと、アリスは「うーん」と唸った。
「そういうわけじゃ……いや、俺も"あの日"からは戦いの日々だったな……」
「あの日?」
アリスがふと口にする言葉を繰り返すキリガン。彼の表情に陰りが見えるのが気になったようだ。それに気づいたアリスは首を振る。
「いや、すまない、こちらの話だ。こうやって休むのは、しばらくぶりだからな。気が緩んでしまったんだきっと。忘れてくれ」
「そう?」
キリガンはそういうと、それ以上の事は聞かないことにした。
「そうだな、男のお涙頂戴の昔話なんざ、犬も食いやしねえ。とりあえずは、だ。今はこの時をまったり過ごすとしよう。明日からはまた出発だぜ、エージェント」
ジャンがびしっとアリスに指をさす。アリスもそれに頷くと、キリガンは呆れたように二人を見る。
「やれやれ、もうちっとゆるやかに行こうぜ。」
- Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.17 )
- 日時: 2021/07/10 22:43
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
翌朝。
皆の中で一番早起きであるカーラは、真っ先にジャンのベッドのシーツを引っぺがす。ジャンはというと、久しぶりにフワフワのベッドで眠れていたので、ぐっすり眠っていたらしく、眠そうな目をしていた。
「おはようジャン。いい夢見れた?」
「ああ、おはようモーニングガール。今目が覚めてきたところだ」
半目でそう答えると、大きな欠伸をする。
「他はまだ寝ているのか?」
「んーにゃ。ジャンだけだよ、寝てたの。珍しいね、いつもは早起きなのに」
「ま、そういう日もあるさ。詮索ガール」
ジャンはそれだけ言うと、カーラを部屋から追い出す。
「着替えるから出て行ってくれ」
「傷とかはもう大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だ、アリスよりはマシだったしな。お前は?」
「私ももうすっかり」
「そいつは重畳の至り」
ジャンがそういった後、カーラを部屋から押し出して、服を着こみだす。その時、カタンという物音が床から聞こえ、ジャンはそれを見る。まるで新品のようにきらりと輝く、赤い髪の女性と幼いジャンとカーラの写真が収まっている、開いたロケットペンダントが落ちていた。ジャンはそれを拾うと、遠い目をする。
「……"姉さん"」
ぽつりとつぶやくジャン。悲哀と憎悪が入り混じった表情で、ロケットペンダントを閉じると、それを首にかけてマフラーで隠す。
「さて、行くか」
ジャンはそういうと、皆が待つ1階へ、部屋のすぐそばにある階段を降りて行った。
――――――
「ジャン、あなたにお客様みたいよ」
朝食を終え、皆が食器を片付けている途中、ジャンを尋ねて客が来たことを、イレーナがジャンに伝える。
「俺に?」
「ええ、「ジャン・ドランシルはいませんか」って」
「……わかった」
ジャンがそれだけ言うと、客間へと足を運ぶ。
アリスもそのことを耳にし、ジャンの後を追い、客間へ入らずわずかにドアを開け、中の様子を伺った。なんというか、勘である為、何とも言えないが、この街に住んでいるイレーナではなく、昨日来たばかりのジャンを訪ねてくるのは、きな臭く感じただけだった。
中の様子は、中央のローテーブルを囲むように双方向かい合う形で、革製のソファがおかれており、奥のソファには黒髪の少年と少女の双子、手前にはジャンが座っていた。アリスは目を凝らす。
少年は至って真面目そうで、漫画などに登場するヴァンパイアのような、黒いマントと白いジャボを着飾る、年齢にしてはきっちりとした見た目であり、少女は同じく黒髪のツインテール、所謂かわいらしい白いセーラーワンピを着こなした、どこをどう見ても非力な見た目。
二人の共通点は茶色の瞳だが、少年は右目が翠色で、少女は左目が赤色と、なんとも神秘的であった。
「で、俺に何の用だい、ツインズボーイ&ガール?」
ジャンが二人に尋ねると、少女の方がぺこりと頭を下げた。
「はい。まずは名乗らせてください。私は「グレーテル・リティカ」。こちらは兄の「ヘンゼル・リティカ」です。今日、ジャン様を訪ねたのは、この辺に「彼の者」が出没したので、共に討伐に行きましょうと相談に参りました次第です」
グレーテルがそういうと、ヘンゼルも頷く。彼らの会話が続いた。
「「彼の者」? 一体誰なんだいそりゃあ?」
「あら、ご存じありませんか? あなたが探しているとお聞きしたんですが……」
「俺が探してる……いや、"俺たち"が探してるだな。お前さんらがいうのは」
「……あの「カーラ」という方、もしやあなたの相棒さんで?」
「そうだ。俺たちは二人で一人。二人三脚。そういう事さ」
「あらそうでしたか……てっきりあなたが尻拭いでもしているのかと。あまり知性を感じられなかったもので。ふふっ、そのようなことはどうでもいいですね」
グレーテルがそう流すと、ジャンが明らかに機嫌を悪くした。
「で、「彼の者」って誰の事だよ。本題にさっさと入ってくれないか、生意気チルドレン」
「失礼いたしました。彼ですよ、「竜殺し」なんていう仰々しい異名を持つ彼!」
「仰々しい? 馬鹿にするのも体外にするんだな。奴はそんな生温くはない。化け物だよあいつは」
名を聞いた瞬間に、ジャンは明らかに機嫌を損ねている様子で、苛立ちを隠せずにいた。トントンという床を何度も叩く音すらも聞こえる。
「ふふっ、まあいいんですけどね。とにかく、竜殺しは最近は定期的に大陸のあるルートを徘徊している事を私達の情報網でつかみましてね。ああ、信用してください。この情報網は怪しいものではありませんよ。なぜなら――」
「てめえらはどこの人間だ? 昨日来た俺を訪ねてきた時点で怪しかったが、来て早々嫌味を言って「ハイ信用してください」ってか……ふざけるのもいい加減にしろよ」
ジャンはそう強く叫ぶと、今まで黙っていたヘンゼルがその問いに答える。
「失礼いたしました。我々は"然るお方"の命により、あなたに依頼している、いわば仲介人です。信用に足ると思われます」
「……誰だ、それは?」
「ここでは言えません。外で盗み聞きしているお方がいらっしゃいますから」
「……はぁ」
アリスはヘンゼルに指摘され、観念して3人の前に姿を現す。3人は表情を変えない。気づいていたのだ。
「あなたは一体何者ですか?」
ヘンゼルはアリスに尋ねる。
「俺は「有栖川龍志」だ。昨日からジャンと共に行動させてもらってる」
「アリスさんですね」
「……はあ」
アリスはスルーしようとも思ったが、自然にため息が出てしまった。
そんな様子のアリスを無視して、グレーテルはジャンに尋ねる。
「それで、ジャンさん。我々と共に「竜殺し」を探しに行きましょう。もちろん、報酬も用意させてもらってます。あなたにとって、悪い話ではないはずですよ」
「一つ気に入らないのは、お前の態度だな。そこだけだ」
ジャンがそう吐き捨てると、舌打ちをして頬杖をつく。
「申し訳ありません、妹には後できつく言っておきます。で、返答は?」
「行くに決まってるだろう、奴との決着はここでつけておきたい。その話が本当ならな」
「承知しました」
グレーテルがにこりと笑ってそう答えると、双子がその場ですくっと立ち上がる。
「では、準備ができましたらお隣の骨董屋さんまでご足労のほどお願い申し上げます。お待ちしておりますから」
それだけ言うと、二人はその部屋から出て行った。
あとに残されたジャンは腕を組んで、苛立ちを抑え込もうとしている。アリスはというと、ジャンの様子にため息をついた。
「アリス、一人にしてくれないか、しばらく」
「……わかった」
アリスがそれだけ言うと、そそくさと出ていく。事情を知らない人間がとやかく言う筋合いはないな。そう思ったからだ。
ドアが閉まると、ジャンはテーブルを思いっきり叩き、大きな音が部屋に響き渡る。
「あのガキ……気に入らねえ」
怒りが入り混じった声で、ジャンはそうつぶやいた。
- Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.18 )
- 日時: 2021/07/11 00:15
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
「あはは、知性が感じられないって!」
ジャンの話を聞いてカーラは大笑いした。二人は出かけるための準備中だった。キリガン、ゲルダにはイレーナの店で待ってもらうことにした。まあ理由は、武器の修理、製作中であるためだ。アリスとギンにはついてきてもらう事にし、各々準備のために部屋に戻って荷物の整理をしているのであった。ジャンとカーラは部屋で持っていく物を選別し、荷物は最小限にと決めている。……いざという時に大荷物で逃走できず、ましてや引き際を見極められないようでは、バウンティハンターの名折れだ。まあそういうわけで、部屋ではジャンとカーラ、二人きりであった。
さて、先ほどの会話からすると、彼女にとって悪口陰口嫌味などは、全部雑音にしか聞こえない。直接言われても別に何とも思わないらしい。
「ジャンは考えすぎ。事実、カーラちゃんは他人から見たらおバカに見えるんでしょ。その人たちはきっと、ジャンを心配したんだよ」
「いーや。仲間を悪く言う奴は口の中に残るペッパーより嫌いだ」
「ペッパーいいじゃん。チキンを焼く時かけるとおいしいよ」
「いや、そうじゃ――」
カーラは歯を見せて笑った。
「いつもは何言われても気にしないくせに、こういう時だけ感情的になるんだから。"姉御"と約束したでしょ、「他人に何言われたって、気にしない」ってさ。昔からジャンは感情的で子供っぽかったし、全然直ってないね。ダメだよ」
「でもなぁ、あいつら嫌味を言って挑発して、こっちの顔色伺ってマジムカついたぜ?」
「でもそれってジャンからしたらそう見えただけで、別に双子ちゃんはそう思ってないかもしんないよ? 結局は自分がどう感じて、どう思うかでしょ?」
「俺は……腹が立った。カーラは姉弟みたいなもんだからな。姉弟が悪く言われたら腹が立つだろ?」
「ん~……」
ジャンにそういわれて、しばらく唸りながらカーラは腕を組んで考え込む。だが、
「特に何も」
と答えた。
「私はそうは思わないかな。結局他人の評価なんて、当てになんないよ。それに私は自分以外の誰かになれるわけじゃない……「カーラ・ガライダラドン」っていうただ一人の人間なんだから。私は私。ジャンはジャン。その双子ちゃんは双子ちゃんの考え方があるでしょ」
そう付け加える。まるで、姉が弟を諭すように、優しい声音で。
「……なんだ、俺だけが空回りしてたのか……だっせぇな」
ジャンは表情を見せないように、うつむく。しかし、声が少し震えていた。
「うんうん、だっさい!」
「そこは嘘でも「違う」って言ってくれよ」
「なんで?」
カーラは疑問符を浮かべながら真っ直ぐジャンを見る。ジャンは顔を真っ赤にさせて黙りこくってしまった。
「この話はこれでおしまい。アリス君達に聞かれたら、笑われちゃうしね」
カーラはそういうと、「そ、そうだな」とジャンは頷く。
――――――
アリス達はイレーナの店の隣にある骨董屋……ララの店に来ていた。店の前にはショーウインドウがあり、ガラス越しに等身大のビスクドールやガラス製の靴、古い一眼レフカメラ、貴婦人が着ていそうなロココ調ドレスを着飾ったマネキンが飾られていた。ギンは物珍しそうにガラス越しにそれを見ている。
「ゴー☆ジャスじゃな! 絶対高いじゃろこれは……」
「ギン、それよりも中に入るぞ」
アリスがそう言いながら店のドアのドアノブに触れる。
「ふざけんなよてめえ!」
ララの怒声が外まで響き渡り、アリスは反射的にドアノブから手を放す。
「冗談でも言っていい事と悪いことがあるだろ!?」
「冗談に聞こえますか?」
「本気でもウゼエな。悪趣味な冗談はやめろよ。そんなもんはウチじゃ取り扱ってねえんだよ、帰りやがれッ!」
「しかし、我らが主が人形師としての腕を買って――」
「帰れ、二度とくんじゃねえ。俺の仕事は他人を喜ばせる為のもんだ。そんな下らねえ事に俺の腕を使いたくねえんだよハゲ!」
「……ですが」
「「らいおねる参号機」、お客様がお帰りだ。追い出せ!」
会話が終わると、中から双子のヘンゼルとグレーテルが、3歳児くらいの大きさのぬいぐるみに押し出される形で出てくる。ライオンの形をしたそのぬいぐるみは、双子がドアの外に出た事を確認すると、ドアを力強く閉めてしまった。
「よう、生意気ツインズ」
ジャンが双子に話しかけると、グレーテルはニコッと笑う。
「先ほどぶりですね。……あら、随分大所帯で」
「はじめましてじゃな、わしは――」
「ギンさんですね」
ギンが名乗る前に、ヘンゼルがギンの名前を言う。「お、おう」とギンは拍子抜けした。
「私の事もわかる?」
「カーラさんですね、「カーラ・ガライダラドン」」
「わお、デキるね、この双子ちゃん!」
カーラは自分の名を当てられると、嬉しそうに驚いていた。
「で、だ。「竜殺し」はどこにいる?」
「気が早いですね。大丈夫です、ポイントまで案内しますから」
ジャンの問いにグレーテルが答えると、「こちらです」とヘンゼルと共に歩き始めた。
時刻は午前10時。人々が歩き、ひしめく街中を通る6人。ふと、アリスは先導する双子に尋ねる。
「さっき、ララさんと何を揉めていた?」
「……それを聞いてどうするつもりですか?」
「質問を質問で返すのは感心せんな」
アリスがそういうと、グレーテルが再びにこりと笑う。
「失礼いたしました。あなた方には関係のないお話ですよ。今はまだ」
「随分含みのある言い方じゃのう」
ギンは訝しげにグレーテルを見た。
「そうですね、ですが大した話ではありません。いずれお話しする時がきたらお話しいたしますよ」
「……なんちゅーか、秘密の多い奴らじゃな」
「それは、そっくりそのままお返ししますよ、アリスさん、ギンさん」
ヘンゼルはそういうと、振り返ってアリスとギンを見る。
「どういう意味だ?」
「あなた方も隠していることがあるでしょう? ……例えば、"異世界から来た"とか」
グレーテルがそう強調しつつ言ってみるが、アリスもギンも顔色一つ変えず彼女を見ていた。グレーテルはというと、ふうっとため息をつくと、肩をすくめる。
「あら、揺さぶりをかけたつもりだったんですが、無反応。これじゃ私が恥ずかしい人みたいですね」
グレーテルが笑いながらそう言って、再び前を見て歩き始める。ヘンゼルもそれについていった。
「……龍志」
「わかっている。お前も発言には気を付けろ、ギン」
「合点承知の助じゃ」
- Re: 新世界のアリス ( No.19 )
- 日時: 2021/07/14 00:09
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
一行はヘンゼルとグレーテルに導かれるまま、王都を離れて、とある荒地へとやってきていた。砂漠程ではないがそこは荒廃しており、植物も枯れているのか、葉を持っているものが少ない。カーラによると、この荒地は昔、「研究所」が開発した大量殺戮兵器である、「星獣」が放った強大な力によってクレーターが出来上がり、以降環境の変化によって植物が育ちにくくなったそうだ。過去の聖戦の爪痕が今でも色濃く残っている。アリスは、返答をせずうつむいた。
日本でもそういった爪痕は残っており、現在も語り継がれている。もちろん、日本だけでなく世界各地に、人間が作り出した業が、幾多の血が流れたという歴史がある。だが、それと同時に、人々が団結して手にした平和もあった。
この無限世界ネバーランドも、ここまで発展したのは、人々の団結あってのものだろう。
アリスの様子に、ジャンは彼の肩を叩いて笑い飛ばす。
「世界を変えるのは、その世界に住む者達だ。チェンジ・ザ・ワールド、ウィズ・ウィー。ってな」
「そんな話はあとにしよーよ」
カーラはそんな二人に割り込み、話を遮った。そういえば、先ほどから辺りをキョロキョロと見回している。それも気になるところだが、ギンも腕を組みため息をつく。
「難しい話なんざしおって。そんな話より、コイントスして裏表を当てる方がまだ有意義じゃぞ」
「ま、確かにそうだ。そういう事だぜ黄昏エージェント」
「……お前さんらといると、悩んでいることがアホみたいに感じるな。感謝する、ありがとう」
アリスがそう感謝を述べると、ヘンゼルが突如「静かに」と鋭く言う。彼の視線の先に誰かがいたのだ。その姿を確認すると、ジャンは険しい顔になる。そして、腰に巻いていた二丁の拳銃を手に取った。右手には銀色の青いラインが光る「ナハティア・ウロラ」、左手には金色の赤いラインが光る「トワイラーニ・クス」。……と、本人が自慢げに語っていた、立派なハンドガンだ。
同時にカーラも背中に背負っていた自分の身長ほどある銀色の大剣を手に持つ。しかし、それをヘンゼルは手で制す。
「冷静に。まだこちらの姿は視認されていません」
「狙撃するか?」
アリスがそういうと、ギンが驚いて小声だが声を荒げた。
「龍志の拳銃じゃ無理じゃ、そんなもんでどうやって狙撃するんじゃ、このバカチン!」
「いえ、僕がやります。僕が狙撃し、皆さんはその間彼のお相手を」
ヘンゼルがそういうと、マントの下にあるパーツを一つ一つ取り出しては組み立て、自分の身長ほどの黒いスナイパーライフルを作り上げた。
「僕は肉弾戦は専門外ですから、彼のお相手はあなた方にお任せいたしますね」
「しかし、6対1なら相当簡単なんじゃなかろうか」
ギンはそんなことをこぼすと、ジャンが首を振った。
「奴はそんな生易しいもんじゃない。幾多の人間の血を啜った化け物だ。ここで始末しねえとな」
「……ジャン」
ジャンの様子にカーラは心配げに彼を見つめるが、ジャンはカーラの頭を優しくなでて、柔らかく笑みを浮かべた。
「心配すんな、姉さんとの約束だ。必ず生き残るさ」
「……そうだね。いざとなったら尻尾でも巻いて逃げるしかないよね!」
ギンはそんな二人の様子ににこりと笑みを浮かべ、うんうんと頷く。
「これぞ愛か、ええもんじゃ」
「そうだね、家族愛だね!」
「さて、愛はともかくだ……」
アリスはそういうと、ポケットに入れていたメモ帳を取り出して、懐のペンを握って何かを書きだす。
「奴の実力はどうなんだ、実際?」
「対象コードネーム「竜殺し」……「シグルズ・バルムング」は4つの武器を巧みに操る魔人種。その存在は、傭兵協会や各国の騎士達によって一般の方々には隠ぺいしておりました。」
「隠ぺいねえ……」
ジャンの機嫌が悪くなるが、アリスは構わず「続けてくれ」という。グレーテルの話をメモ帳に記していた。
「彼の者は、ある一定の法則で大陸を回り、出没します。そして、人間種と竜人種を見つけるや否や攻撃を仕掛けてくるのです」
「なぜだ?」
「……私にもそれは。しかし、問題は見境なく襲い掛かってくるので、過去には一般人も数多く巻き込まれ、命を落としました」
「まるで煉黒龍みたいなやつじゃなあ」
ギンが腕を組みながらそういうと、カーラが目をぱちくりさせて「れんごくりゅー?」と首を傾げた。
「とにかく、彼を討伐するのであれば、冷静になってください。とくにジャンさん」
「……わかってるさ、聡明ガール」
「それでは、作戦ですが――」
グレーテルは自身の内にある作戦を皆に話して聞かせる。
――――――
アリスとギン、ジャンとカーラが「竜殺し」の前に立つ。彼が4人の姿をしっかり目視できる位置に。
彼は白い長髪と赤く染まった竜のような鋭い瞳を持ち、彼の着ているものは白い服だが、幾多の戦いによって原型を留めないほどのボロボロ具合。破れた服から露出した肌は、深紅の竜の鱗が覗いていた。
竜殺し……シグルズはこちらを見るや否や、武器を握り締めた。
「……彼女……じゃない。竜でもない……貴様らも、違う……違う……」
鮮血のように真っ赤な瞳がアリス達を捉える。
「返せ……俺が愛した彼女を……返せ……」
「……それはこっちのセリフだ、レッドドラゴン。お前が手にかけた死人はもう永遠に戻ってこねえんだよ」
「返せ……返せェェェェェェェェェーーーーーーーーッッ!!」
シグルズが手に持っていた槍を握り締め、アリス達に襲い掛かる。
しかし、シグルズの横っ腹に銃撃が命中した。遥か右手の方角。ヘンゼルがしゃがみ、スナイパーライフルを構えて一発お見舞いしたのだ。だが、命中したのは彼の鱗部分。ダメージは少ない。
その銃撃を皮切りに、アリスは彼に向かって刀剣を構えて、居合切りをお見舞いする。シグルズは一瞬驚いた様子だったが、人間とは思えない咆哮を上げて、アリスに威嚇した。
「銀雪魔術!」
ギンは素早く彼の背後に回り込み、お札型の小型爆弾をシグルズに投げつけ、命中させる。シグルズの背中にそれが命中した途端、彼の動きが止まった。苦悶の表情を見て、アリスは「追撃だ!」と叫ぶ。
「姉御の仇ィ!」
アリスの号令にいち早く反応したカーラは、大剣を構えて突撃し、思い切って横に叩き切る。シグルズの体は大剣に切り裂かれる……が、体の表面の竜の鱗がそれを防いだのだ。
「あちゃ、ダメか」
「いや、ナイスだぜ」
ジャンが大剣の重みの反動で動けなくなってるところを、彼女の肩を叩いて褒めた後、ジャンはハンドガンを両手で交互に打ち込む。シグルズはそれらを剣で弾き飛ばした。ジャンはそれでも、打ち込み続け、隙を作ろうとする。
「失礼いたします」
グレーテルの声が背後から聞こえ、黒いミニガンを構えた彼女がシグルズに向かって銃撃を放つ。ミニガンは銃身を回転させ、グレーテルのスカートから伸びる銃弾を高速で彼に放ち、銃撃を受けたシグルズの周りで砂煙が上がった。この連射に、アリス達はその場を離れる。
銃撃が収まり、砂煙が晴れる。グレーテルの周りには使用済みの薬莢が散らばっていた。
だが、それを狙ったかのように、シグルズがグレーテルに突撃し、彼女の首を抑えつけて体を押し倒す。
「が、はっ……」
グレーテルは苦しそうに声を出すが、その顔は笑っていた。笑みを浮かべてシグルズを睨む。彼は、そんなグレーテルを不気味に思い、思わず声を出した。
「何が、おかしい……」
「その程度では、私は殺せません。ふふっ、ですが私を追い詰めたご褒美でも差し上げましょうか?」
グレーテルがにやりと笑いながら、手に持っていたものの何かを「ポンッ」と引き抜く。
「貴様……!?」
「死んでしまえ、人を脅かす化け物」
グレーテルがそう捨て台詞を恨めし気に吐く。そして、その手に持っていたものを上空へと投げつけた。アリスはそれの正体に気が付く。それは手りゅう弾だ。
「いかん、グレーテルッ!」
「あんのバカチン!」
アリスは驚いてグレーテルに向かって叫び、ギンは慌てて懐のお札を取り出すが、手が滑って地面に落ちてしまう。カーラも体勢を立て直すが、間に合わない。
「グレーテルッ!!」
- Re: 新世界のアリス ( No.20 )
- 日時: 2021/07/13 23:19
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
しかし、手りゅう弾は上空で爆発した。爆弾の破片がシグルズに突き刺さり、彼は悲鳴を上げる。その隙を見逃さなかったジャンがシグルズにとびかかり、揉み合いの後にジャンが馬乗りになる形でシグルズを押し倒す。武器も弾き飛ばして、シグルズの口の中にナハティア・ウロラの銃口を入れた。肩で息をしながら、ジャンはシグルズを憎悪の瞳で見下ろす。
「チェックメイトだ、アウトロー」
ジャンがそう言うと、引き金を引こうと指に力を入れる。
だが、そう簡単に終わるはずもなかった。
「うう゛う゛ゥゥゥア゛ア゛アアアアアアッ!!」
突如シグルズが咆哮を上げて暴れ始めたのだ。ジャンは力強く吹き飛ばされ、地面に転がり倒れる。
「ジャン!」
「おいおい、どうなってんじゃこりゃあ……」
ギンは思わず声を上げて顔をこわばらせる。彼の姿が一変したからだ。爪が伸び、腕は竜のように鱗に覆われ、目の前のアリス達を睨みつける。その姿はまるで、魔物のようでもあった。
「グレーテル、下がっていろ!」
アリスがそう叫ぶと、彼女の盾になるように前に出る。刀剣を手に取って構える。
「こっからが大ボスってとこかのう! 龍志、やっちゃるぞ。わしらのコンビネーションを見せてやるぞ!」
「仕事の時もこれくらい入れ込んでくれたら、俺はもっと楽できるんだがな」
ギンとアリスは横に並び、武器を構えてシグルズの出方を見た。彼はこちらを睨み、唸り声をあげている。身の毛もよだつ恐ろしい姿に、アリスもギンも武器をさらに握りしめる。「勝てない」と本能が叫んでいるような気もする。だが、彼は恐らくみすみす逃がしてはくれないだろう。……ならば、戦うしかない。
「私もまだやれるよ」
「俺もだ、こんなとこでくたばってられっか」
カーラとジャンがそう言いながら、武器を構える。ジャンは先ほど吹き飛ばされて擦り傷と打撲の負傷があり、服が砂ぼこりを被っていた。
「龍志、先ほど奴の背中に攻撃したら、奴の動きが止まったぞ」
「……わかった」
ギンの耳打ちにアリスは頷くと、アリスは正面から刀剣を構えてシグルズを斬りつける。だが手ごたえはなく、防がれた。彼は手に漆黒の剣を持ち、アリスを肩から斬る。アリスは肩から腹にかけて切り裂かれ、鮮血が飛び散った。だが、アリスは苦悶の表情を見せるものの、彼に攻撃を続ける。
その背後に忍び寄るのは、大剣を構えたカーラと錫杖を手に構えたギン。アリスに気を取られているシグルズの背後に向かって、カーラは思いっきり大剣を振り上げて、持てるすべての力を込め、彼の背中を叩き切った。
「ぐおオオオオオオォォォォーーーーッ!!」
耳を劈くような叫びをあげて、そのまま倒れるシグルズ。カーラは「やったぁ」と叫んでガッツポーズを決めた。
「カーラ、油断するな!」
ギンがそう叫んで忠告したとほぼ同時に、シグルズは手に槍を持ち、カーラに向かって刺突する。その槍は彼女の脇腹に命中し、カーラの脇腹に風穴を開けた。
「う、ぐぅ……」
「貴様ぁ!」
アリスがそう叫ぶと、彼に向かって切りかかるが、冷静さを欠いた攻撃はシグルズには通用しなかった。アリスの刀剣を左手で受け止め、彼をねじ伏せるようにして地面にたたきつける。アリスは顔面から地面に叩きつけられ、動かなくなる。
「龍志ぃ!」
「クソッ、この野郎!」
ジャンはアリスとカーラが傷を受けた事により、慌ててハンドガンをダダダッと連射するが、シグルズの動きは止まらなかった。シグルズの腕には漆黒の剣が握られ、ジャンを斬る。ザシュっという小気味のいい音と共にジャンは胸を切り裂かれ、仰向けに倒れた。まだ意識はあるらしく彼に向かって銃弾を撃とうとするが、彼の興味はギンに向かっていた。
「くっ……ジャン、カーラ、龍志……ここまでか……!」
ギンがそうつぶやくと、覚悟を決めたように呼吸を整え、錫杖の仕込み刀を杖から外してシグルズの首を狙って素早い動きで突撃する。
だが、シグルズはそれすら読んでいたようで、アリスにしたように刀を手で握って受け止め、刀を握り折った。そして、倒れこんだギンに向かって剣を握り締め、天に向かって振り上げる。
「すまぬ……龍樹、志乃……わしは、ここまでのようじゃ……」
ギンは辞世の句を口にすると、覚悟を決めたように瞳を閉じた。
肉を切るような音はするが、痛みはない。ギンが目を開けると、目の前には、鮮血を流しながらギンに覆いかぶさるように彼女を守るアリスがいた。そして、シグルズの腹部には大きな切り傷があった。
シグルズは腹部の傷を抑えて苦しそうに叫ぶと、その場を逃げるように立ち去って行った。
状況が読めないギンに、アリスは彼女に向かって微笑む。
「何も心配はいらない。こんなもんはかすり傷だ」
「ば、馬鹿ぁ、何を言っておるんじゃ、三枚おろしになっておるぞ!?」
「……そうだ、な……腹も背中も……」
アリスがそう言うと、ギンの体に飛び込むように倒れた。ギンは慌てて彼の体を揺さぶる。体からは絶えず血が流れ続け、地面に血だまりを作っていく。
「龍志!? ……龍志ぃぃーーッ!!」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14