複雑・ファジー小説
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- 新世界のアリス【完結】
- 日時: 2021/09/10 20:32
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。
2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!
>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語
・本編
プロローグ>>3-6
Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29
Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57
11章 >>58-63
12章 >>64-68
Act.3 妖精達の演舞
13章 >>69
お知らせ >>70
- Re: 新世界のアリス ( No.56 )
- 日時: 2021/08/23 22:58
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
「お、お主ら待て。お主らには物理攻撃を防ぐアクセサリーとやらがあるはず。それがあると、わしらの攻撃は――」
「あ、これ?」
ギンの問いかけに、ララは懐からネックレスを取り出す。黄色の宝石が輝く綺麗なアクセサリーだ。
しかし、ララはそれを地面に落とすと、足で思いっきり踏んだ。バリッと音が鳴り、ネックレスは完全に粉々になっている。
「はい、これで正々堂々真剣勝負ができるね。無問題」
ララはにやっと笑う。バリバリとけたたましい音を立てながら、チェンソーを振り回していた。
「ゴスロリでチェンソーなんか扱ったら、キックバックして刃が体に当たった時に大怪我するでしょうがぁぁぁぁぁーっ!」
「はん、そりゃド素人の考えだろうが。職人ララさんはそんなヘマはしないんだよ!」
ギンのツッコミにララは不敵な笑みを浮かべ、ギンとの間合いを詰める。チェンソーを両手に持ち、真っ二つにしようと腕を振り上げていた。
アリスはギンの前へ出ようとするが、体が何かに引っ張られて動かない。何事かと思って首を動かそうにも、首も何かが巻き付いてやはり動かせない。だが、その答えはすぐに背後から聞こえてくる。クウの声だ。
「アリス、ちょっと動かないでもらえないかしら。骨董屋さん、今よ!」
「おぉう!?」
ララはギンに避けられてチェンソーを両手に持ったままこちらにぬるりと顔を向ける。心なしか、目が真っ赤に染まって光っているようにも見える。多分気のせいだろうが、気迫が恐ろしい。
「ア~リ~ス~ちゃぁん……」
「くっ、そ、何とかしねえと……!」
チェンソーで体を真っ二つに引き裂かれた日には、確実に体が二つに分かれてしまう。ギンはジャージからお札型の爆弾を取り出し、ララに投げつけた。
「銀雪魔術!」
小型爆弾の為殺傷能力はないが、敵をひるませるには十分だ。ララは突然背後の爆発に驚いて躓いて転ぶ。ギンはその隙にクウに素早く近づき、胸にある綻びた一本の糸を思いっきり引っ張った。
「飛び出た糸は好かんのじゃ、切れい!」
「あ、ちょっ――」
ギンが糸を引っ張ると、アリスに絡まり引っ張っていた何か……日に当たって光る糸がほどけていく。
「助かった、ギン!」
「ズボンとか靴下の飛び出た糸を引っ張るのがわしの趣味」
「誰に向かって言っている。まあいい……」
体が自由になり、軽く肩を回すアリス。そして、転んだララとクウに目をやる。二人はまだまだ余裕の表情であった。ララはよろよろと立ち上がるが、すぐにバランスをとって両足を踏み込み、クウも両手をこちらに向けている。
「職人と戦闘エージェントじゃ力量は歴然だが、こちとら明日からの売上に響くからな。売上伸びたらちょっとイイ素材で人形が作れるからな。できるだけ体力の続く限りは戦わせてもらうぜ!」
「売上ちょっと上がったら、師匠の機嫌が良くなるの。それに、ちょっと余裕も出てくるからちょっとイイおやつも食べられるのよ。全力でやらせてもらうわ!」
二人の目は血走っていた。
「商魂たくましいというか、すごい執念じゃな」
ギンは呆れて肩をすくめている。
アリスはというと、また顎に手をやりながら唸っている。
「龍志、また何をやっとんじゃ」
「ティラ殿への謝罪文を整理していた」
「いや、勝つよ!? わしら勝つよ!?」
「言っておくが、こういう相手の執念は、時に想定外の動きをだな――」
「ええい、弱気な!」
アリスとギンのコントをしている間に、二人の間にララがチェンソーを持って突撃してくる。チェンソーは床を割り、破片が二人を襲った。床を砕いたチェンソーは、特に問題なく動き続けている。ブレーキの壊れた暴走車のようだ。
「とにかく、スポンサー様に喜んでいただけるなら、勝ち負けはどうだっていいんだよ。スペアリブになれ、アリス」
「なぜスペアリブ!?」
ギンが突っ込んでいると、背後から何かの気配がする。ギンは奪役それに、錫杖を抜刀し一瞬で切り裂く。それは、クウから伸びていた糸達であった。
「ボンレスハムにしようと思ったのに」
「や、やめてくれ、地味にトラウマなんじゃ……」
クウがため息をつくと、ギンはぶるぶると首を振る。
「さて、いいとこのお嬢さんが糸でどうやって戦うんじゃあ?」
「いろいろあるのよ。例えば……」
クウの背後に糸が集まる。それは、黒い槍のような形状になり、クウが握りこぶしをつくり、ギンに向かって拳を突き出す。それに合わせ、槍がギンの顔を狙い、射出した。
ギンは顔を逸らすが、槍が頬を貫き、一筋の赤を彩る。一瞬の出来事だが、ギンは心を落ち着かせて錫杖を握った。
「私の糸は、こうやって自在に操れるの。血生臭い戦いに、エンターテインメントも取り入れるパフォーマンス。いかがかしら?」
クウは右手を真横に伸ばし、背後で黒い蝶々や猫、犬、テントウムシなどの形を糸で作って見せた。そのパフォーマンスに、会場が盛り上がる。
「戦いに美と娯楽を取り入れるとは、天晴じゃな。わしも今度真似してみるか」
「使用料を請求しとくわね」
「有料かい!?」
「無料なわけないでしょう。それより、続きを始めましょうか?」
クウがそう言い放つと、糸で槍の他に斧も作り始め、ギンを襲う。クウの動きに合わせて射出、振り落として床を砕いたりと、もうやりたい放題であった。
ギンはその動きに対応しつつも、攻撃を避けられず肌に傷を作る。
「正しい二刀流の使い方よ、最初の一撃で敵がどう動くか素早く分析し、敵の動きに合わせ、もう一方をうまく使いよる。うちのエージェントにほしいくらいじゃ」
ギンは頭から一筋の血液を垂らし、にぃっと笑う。床に膝をつき、体力も限界が近い。だが、笑う余裕はまだあった。
- Re: 新世界のアリス ( No.57 )
- 日時: 2021/08/24 22:56
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
一方、アリスとララも剣とチェンソーを打ち合っていた。チェンソーは音を鳴らしながら動き続け、一撃一撃が重い。持っている刀剣もチェンソーに当てられて徐々に刃こぼれしていっている。刀剣の刃の欠片がアリスの頬を裂き、肌に傷を作って飛んでいく。
大きな音を立てながらチェンソーは動き続け、アリスを切り裂こうと止まらない。
アリスはチェンソーに向かってジャケットの中にあった銃を取り出し、刀剣を片手に銃の引き金を引く。数発打ち込み、そのうちの3発はチェンソーに当たり、ララを後退させた。その隙に、アリスは素早く後退する。
「……チェンソーの動きを止めなければ……いや、止める必要はない」
アリスは一つ考えを思いつく。持っているモノは全て自分の力。……アリスは、「よし」と声を出し、右頬を平手打ちした。
チャンスはララが自分の懐に飛び掛かる瞬間。
「オラオラ、次いくぜ次!」
ララがチェンソーを両手にアリスへ迫る。表情は楽しそうに笑っていた。アリスは、ララが飛び掛かってくる事を待ち構えたように、自身のジャケットを握り締める。
「止まれェ!」
アリスが叫び、ジャケットを素早く脱いでチェンソーへと投げつける。チェンソーにジャケットが巻き付き、大きく振動する。ララは驚いて、思わずチェンソーを手放し、床に落とす。
エイヴリーとの戦いで、彼女がやっていた戦法の応用だ。チェンソーを止めるだけでよかったが、ララが驚いて手放してくれたのは、偶然の賜物だった。
「やるね、アリス」
ララはチェンソーを落とした後、床に膝をついてアリスを見上げた。アリスは、ララの額に向かって銃口をつきつけ、警告する。
「これ以上続けるのか?」
「……ん~」
ララは、強制的に止まってしまったチェンソーを見る。そして、自分の体中のそこかしこを触ったり叩いたりとしているが……。ララはため息をついて、両手を挙げた。
「白旗だぜ」
「よし」
アリスが満足げに頷くと、ララは「ふぃー」っと声を出しながら彼を見上げた。
「やっぱ常日頃訓練してる戦闘エージェントには敵わねえや。ちょっと勝機があるんじゃないかって思ったが、無理だったか」
「いや、正直、ぬいぐるみもチェンソーも手強かったよ」
「来年の課題ができた。糸とポテンシャルの強化だな……アリス、来年も出場するなら、教えろよな」
ララはにかっと笑う。清々しいくらいの満面の笑みだ。
「……考えておくよ」
アリスは打って変わって寂しげな表情でララに手を伸ばした。
一方、ギンとクウは、互いに傷を負いながら剣と糸の打ち合いを続けていた。クウの黒い武器の斬撃、刺突を受けながらも、ギンはお札型爆弾を投げつけたり、剣の切っ先を当てたり。互いの攻防は激しく続いていた。
「そういえばギン。あなた、昨日は面白い戦いを見せてくれたじゃない。あれはもう品切れなの?」
「……今は気分が乗らんからの、ソールドアウトじゃよ」
「ふぅん」
クウは糸で切っ先の鋭い槍を作り、矢のようにギンの心臓目掛けて射出する。ギンを狙い撃ったそれは、ギンの咄嗟に作った氷の壁を貫いて、蜂のような速度の動きが遅くなる。その隙に、黒い槍を剣ではじくが、すぐ真横に糸で作られたハンマーが迫り、ギンはそれが命中して吹っ飛ばされる。床を滑り、リングの端ギリギリまで滑り込んだ。
リングアウトは失格の条件……ギンは歯を食いしばり、クウを見上げる。
「全く、このマリンフォールに来てからは毎度毎度死にかけじゃよ。じゃが、「クウ・ヴィクション」。その勝ち誇った表情はまだ早いぞ」
「……何ができるの? もうボロボロじゃない」
「足元、見てみい」
そう言われて足元を見るクウ。彼女は驚いて目を見開いた。床に赤い血糊で描かれた魔法陣が、クウを囲うように光を纏っていたのだ。ギンは魔法陣に手を当て、クウを見上げてにやりと笑う。
「木は火を生み、火は土を生み、土は金を生む!」
ギンの一言一言の叫びは、ギンの口から血を吹き出しながらも、魔法陣に光を強くさせる。周囲の空気が変わり、クウは避けられないと判断し、自身に糸を纏わせて防御態勢に入った。
「そして、金は水を生む!」
ギンは詠唱が終わり、その場で立ち上がって、クウに指をさす。クウの周りでは青い障壁が球体のように囲った。
ギンは拳を握り締めて構え、その障壁に向かって地面を蹴り上げて、瞬時に近づく。
「わしのッ、わしの超必殺技……!」
ギンが障壁に向かって握り拳を、力の限り打ち付けた。
「瞑饗祉慧なりッ!!」
彼女の拳が障壁を破り、ガラスが砕けるような音を響かせながら、砕け散る。中からクウが姿を現し、その場に倒れこんだ。気絶しているようだ。
ララが「クウ!」と叫びながら近づいて首元を触ってみる。脈はあるようで、ララはふうっと安堵のため息をついた。どうやら傷だらけだが、何とか無事である。
「決着だな」
アリスは満足げにギンを見て頷いた。
「龍志」
ギンも近づいて右手を上げる。アリスもそれに頷いてギンの右手に、自身の右手を打ち付けた。勝利のハイタッチだ。
- Re: 新世界のアリス ( No.58 )
- 日時: 2021/08/26 22:49
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
11章 狂乱の舞闘会
ララとクウとの試合が終わり、クウが気絶しているので、アリスが抱きかかえて控室まで運ぶことにした。ギンはその様子を見て「お姫様抱っこは基本、その後は……ちゅーとかしろ」などとぬかしてきたので、アリスは彼女の頭に拳骨を入れてやった。
まあ、そんなこんなで今日の試合は長引いたようで、第四回戦は明日となった。今年は例年よりも進みが早いらしく、早ければ明日、明後日で終わるとのこと。ララとクウの治療にやってきていたウィチアがそう説明してくれた。
「ララ様とクウ様が終わりましたら、アリス様とギン様の番です。部屋に大人しく待っていてください。でないと……」
「な、投げ飛ばすのはアカンのじゃ!」
ギンは首を振ってウィチアを拒絶する。
「あらま……寂しいこと言わないでくださいよ」
「とにかく、投げ飛ばすのはなしだ。先に戻ってるから」
最低限の応急処置を済ませたアリスとギンはそそくさとララとクウの控室から出て行った。
アリスとギンは廊下を歩いている。特に変わり映えのしない廊下を歩き、自分の控室に戻り、ウィチアを待つことにした。のだが……
「はあ、龍志……」
「どうした?」
「……もうネタ切れじゃ」
「……頑張れ、優勝まであと2戦だ」
「しかしのう……」
ギンは龍志に見上げようと顔を上げるが、正面から二人組が歩いてくるのに気が付く。双子なのか、顔がそっくりの少女二人だ。片や自分に自信があるのか、胸を張って歩き、片や淑やかに両手を組んで歩いている。性格の違いが歩き方に出ているのだろう。
所謂ロリータファッションの二人。だが、アリスとギンは即座に「戦闘慣れしたプロ」であると判断する。が……今はただ廊下を歩くだけ。争う理由などないし、どうせ実力は明日に嫌という程わかる。そう考え、目線を正面に向き直るアリスとギン。
しかし――
アリスはギンを強く押し、自身も飛び上がって双子に向き直る。片方の聡明そうな少女が銃を手に取り、ギンの足元を狙い、銃弾を撃ち込んだのだ。
「な、何をするんじゃお主は!?」
当然、ギンは怒って飛び起き、双子を指さす。
しかし、双子は悪びれた様子もなく、二人でクスクスと鈴が鳴るような声を出して笑っていた。
「あらあら、雪猿がキーキー何かを鳴いてるわねアリステラ」
「そうですね。余程火縄で踊ったのが楽しかったのかしらね、お姉様」
二人の様子にギンは「はあぁ~」と深いため息をついた。挑発されている事が見え見えだったので、なんだかどうでもよくなってきたのである。
「ま、どうでもいいがの。不意打ちとは、品がない」
「負け惜しみは惨めに見えるぞ、ギン」
アリスは腕を組んでギンに鋭く突っ込む。
「ところで、はっきりしておきたい。何のつもりだ?」
アリスが鋭く双子を睨み、声を低くして威嚇するように尋ねる。
「いいえ、ほんのご挨拶です。アリスさんにギンさん」
「名前を知っているなら都合がいい、お前たちの名も名乗ってもらおうか。それが礼儀だ」
「……それもそうですね」
淑やかな少女が口元を手で隠し、咳払いをする。
「「ディクシア・ディディモス」。今後ともよろしくなのだわ」
「「アリステラ・ディディモス」。ディクシアお姉様の妹です」
二人が軽くお辞儀すると、アリスは「ああ、そうか」とこちらも頭を下げる。
「君たちが明日の試合の相手か」
「ない頭にしてはよく気が付きましたね」
「いちいちムカつくな」
アリスはため息をつき、頭を抱える。安っぽい挑発にむしろ冷静でいられるのは、相手の意図が見えてきたからだ。それに、似たような人物を二人知っている。なんというか、目の前の双子はその二人によく似ているのだ。
「嫌味ツインズを思い出すのう……せっかくストレスフリーになったというのに、思い出しちまったわい」
「俺もだ。まあおかげで耐性がついたかもしれん。何言われても「ああそうですか」って感じで流せる」
「成長したのう」
アリスとギンはそう耳打ちしていると、ディクシアが口を挟んでくる。
「しかし、アリステラと同じ名前を持つ割に、こんなお間抜けな顔とはね。しかも戦闘も品がない。やっぱ男はダメね、死んだら?」
「俺は龍志だ。アリスが名前じゃない。ま、間抜けな顔というのはお互い様だろうがな」
見え見えの挑発なのだが、思わずアリスは突っ込んだ後、そう返してみる。だが、ほんの皮肉なのだが、ディクシアは眉をひそめている。アリスは、そこから彼女はプライドが高いのだと予測した。
そこに、ギンが双子の方を見て尋ねる。
「で、何しに来たんじゃ目の上のたんこぶツインズ」
「いえ、ご挨拶に参った次第ですよ、パロディ頼り」
「お、俺も思っていたことをついに言ってくれる人が」
アリステラの返しに、アリスは感心して表情が変わる。とても嬉しそうだ。
「おい、龍志……そりゃわしがいつもパロディに頼ってると言いたいのか!?」
「え、違うのか?」
「……言わせんな恥ずかしい」
ギンは顔を真っ赤にさせて、両手で両頬を覆い、そっぽを向いた。
「ディクシアにアリステラ。挨拶ならもう済んだだろう。明日も試合なんだ。早く寝なさい」
アリスはギンを無視して双子に向かってそう言うと、ギンを引っ張ってその場から立ち去ろうとする。
「え~、龍志ぃ。お主わざと挑発に乗ってドンパチするかと思ったのにぃ!」
「しません、俺もお前も疲れてんだよ」
アリスに引きずられ、ギンは「おぉん」と声を出している。
「それじゃあ、また明日。正々堂々と戦おう」
双子に向かってそれだけ言うと、ギンを引きずって自分の控室へと戻っていった。
「正々堂々、ね」
「明日は楽しみですね。報告の通りなら……」
「せいぜい踊り狂うといいわ」
「せいぜい足を引っ張らないでください、お姉様」
「……!?」
- Re: 新世界のアリス ( No.59 )
- 日時: 2021/08/28 08:27
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: vevJKpiH)
翌日……。
会場の観客が昨日より増えている気がする。喚声も昨日よりも盛り上がっているような気がする。ギンは空を見上げると、飛空艇からこちらにカメラを向けているリポーターとカメラマンらしき人物が見えていた。
「一応準決勝じゃからのう。客もマスコミも、それに合わせて盛り上がってるんじゃろ」
「そういえば、テレビがあったな。この世界……白黒だったが」
「なっつかしいのう、白黒テレビといえば、龍志。お主のひい爺様が東京五輪を見る為に買ってきたんじゃよ。いやはや、あれは大いに盛り上がったもんじゃ。出場していた――」
「ギン……ギン!」
「なぁんじゃい、他人が今から語る準備をじゃのう――」
「試合の相手が来たぞ」
「おろ」
アリスが指し示す先に、昨日すれ違いざまに嫌味と銃弾を撃ち込んできた双子……ディクシア・ディディモスとアリステラ・ディディモスがゆっくりと歩み寄ってきた。こちらへ、真っ直ぐ。
二人の歩き方を見ると、本当に優雅だ。しかし、ここまで勝ち抜いてきたのだ。油断していれば捕って食われそうな、そんな気迫すらも感じる。
「あら、ご機嫌よう。またお会い出来て嬉しいのだわ」
「昨日ぶりです、相変わらず間抜けた顔ですのね」
「ほんっとうにムカつく奴じゃな。嫌味を言わんと気が済まんのか!」
「ギン、乗せられるな」
アリステラの嫌味にギンは大変憤慨しているが、アリスは首を振ってギンを窘める。
「……なるほど、アリスさんは聞いた通り冷静ですね。怒らせるのは難しそうです」
「こんな事でいちいち怒っていられるか。それに、見え見えの挑発なんざいい。語るのは武器だけだ」
アリスがそう答えると、唐突にディクシアが高笑いを上げた。
「脳筋もいいとこだわ、負けた時の言い訳も言えないなんて、残念過ぎる頭ね!」
「口が多い奴ほど底が知れるがな」
「……何ですって?」
アリスの挑発染みた返しにディクシアが一瞬で怒りの表情へと変える。アリスは「やはりか」と双子に聞こえないようにつぶやいた。
「底が知れる、といった。他者を見下し、実力を見誤るのは戦いにおいて愚の骨頂。お前さんたちはここまでのし上がった実力者と見受けられるが、その態度でよく今まで生き残られたな」
「お、おい、龍志……流石に言いすぎじゃぞ」
ギンが不安げにアリスの服の裾を引っ張って忠告するが、時すでに遅し。ディクシアはまんまとアリスの挑発に乗り、憤慨しているのか、目を吊り上げて唇を震わせている。
「準決勝にたまたま勝ち上がっただけの雑魚が、言ってくれるじゃない……!」
「それはお互い様だろう。それとも、お前たちはそうじゃないと言えるのか?」
アリスは口の端を吊り上げ、にやりと笑いながら挑発を続けている。
「わおぉ、龍志……お主、そんな芸当もできるんじゃなぁ」
「俺を何だと思っている」
「冷血スパンキンマスター」
「後で千回尻を叩く」
「おぉう、そんなことされたら……わし、トンじゃう!?」
アリスとギンがそんなやり取りをしていると、ディクシアが「ああああぁぁぁぁぁっ!!!」と会場に響き渡る大声を上げると、耳をふさいでいたアリステラが、ディクシアを窘める。
「どうどう、お姉様。落ち着き遊ばせ」
「これが落ち着いていられる!? あいつら、バカにしたのよ、私を、この私を!」
「倒置法使わないでください」
「キイイイイイ!」
「そうやってすぐ怒る癖、早めに直してください。私までバカに見えるので」
ディクシアの怒りをなんとか抑えようとアリステラは努力はしているが、怒りが収まるどころか、余計に燃え上がっていた。
「まるで調整が壊れたガスバーナーだな。ちょっとやり過ぎたか」
「着火が早いのもガスならではじゃな。龍志、うちも早くオール電化にしようぞ」
「なんでだ。オール電化は停電したら機能しなくなるんだぞ」
アリスはため息をつくと、目の前の気配が変わったことに気が付く。ディクシアが武器を構え始めたのだ。彼女の表情は怒りで満たされていて、顔も真っ赤だ。
「まずい。ちょっと調整をミスったかもしれん。煙草に火をつけたと思ったら灯油にマッチを入れてしまったようだ」
「どうやら、そのようじゃな」
ディクシアは怒りで爆発寸前だが、なんとか笑みを浮かべながら口を開く。
「と・り・あ・え・ず……お前ら二人は死刑確定ね。"ピエトロ様"にその首を献上する決定だわ!」
「は……「ピエトロ様」?」
「ン゛ン゛ッ!!」
アリスはそれを聞き逃さず、口にしてみるが、アリステラが誤魔化す様に咳ばらいをしながら、銃をスカートから落として右手に構える。
……「ピエトロ」といえば、「シナヴリア・オルデンツ」を統制する隊長の名でもあるが、もしかしたら二人は……。思考を巡らせ、アリスは一つ頷く。
「お姉様は後でお仕置きね。……何も言ってませんよ。聞き間違いでしょう。それより、試合を開始しましょうか。そろそろゴングが鳴るはずですから」
「……一つ、賭けをしないか?」
銃口をこちらに向けられるが、アリスは突如アリステラに向かって口を開く。ギンは当然「何いっとんのじゃ!?」と声を上げるが、アリスはそれを制する。
「賭けですか?」
「ああ、簡単な賭けだ。俺達が勝つか、お前達が勝つかの」
「面白いですね。当然私達が勝ちますが、一応聞いておきましょう。何を賭けるのです?」
「「情報」だよ」
「情報……」
アリステラが言葉を繰り返すと、アリスは頷く。
「お前達の目的。俺達が勝てばそれを話してほしい」
「私達が勝てば?」
「俺達の情報……文字通り"全て"を話す」
「ダメだわ」
二人の会話に、ディクシアが口を挟む。
「ダメね、ダメ。せめて、「あなた達の命を自由にできる」くらいの掛け金じゃなきゃやってらんないわ」
「……分の悪い賭けは好きじゃない」
「ふぅん、結局は――」
「こちらも掛け金を「命を自由にできる」くらい言ってもらわないと、こちらの分が悪いだろ?」
アリスがそう言った後、ディクシアが「いいわよ」と一言。
「お姉様……また勝手に――」
「いいのよ、私達が負けるはずないもの」
「……それもそうですね」
アリステラはディクシアの一言返事に呆れはするものの、アリストギンに負けないという自信により、ふっと微笑んだ。
「成立だな、忘れるなよ」
アリスはそう言うと、「ギン、武器を構えろ」とギンを見る。ギンはというと「おう!」と返事をして、錫杖を手に取った。
そして、ゴングの音が鳴り響く。試合開始の合図が、会場に響き渡った。
- Re: 新世界のアリス ( No.60 )
- 日時: 2021/08/31 00:16
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: mlAZVoWe)
ゴングの音と共に、アリステラはバク転をしながら後退する。その飛躍力に見惚れてしまいそうだが、アリスはギンに彼女を追うよう合図を送った。ギンは彼の目配りを見て静かに頷き、アリステラを追う。
その間にディクシアが持っていた、かなりの重量のありそうなハルバードをアリスの脳天へ入れ込もうと振り下ろしてくる。炎を纏うそれを、一撃で決めようと自信の笑みで振り下ろすディクシア。……だが、アリスはハルバードに向かって両手に銃を構え、ハルバードに連射する。
「あらっ」
ディクシアは思わず声を出して、ふらついて狙いが逸れた。アリスはその隙に後退し、両手の銃を彼女に向ける。
……その瞬間、真横から空気を切る音が鳴り、何かが近づく気配がした。アリスはそれを持っていた銃で防ぐと、銃に穴が開いて使い物にならなくなった。狙撃銃の銃弾だ。
そうこうしてる内に、ディクシアが両足を踏みしめ、再びハルバードを構える。
「この程度で私をどうにかできるとでも?」
「思っちゃいない。だが……防御術式とか、妨害術式を使って何かしら姑息な手を使うとは思っていたが……」
「ご想像にお任せするのだわ。でもね、勝つためなら手段を択ばないのよ。私達姉妹はね」
「……倒置法」
アリスはディクシアの話を聞いて「うぅーん」と顎に手をやりながら唸る。
「何をしてるの?」
「お前達の為に尻尾を振って3回回ってワンってやるのをシュミレートしていた」
「あら、それも面白いのだわ……ふふっ」
ディクシアは機嫌がよくなったのか、笑みを浮かべる。
すると、彼女はアリスに指をさす。
「もう怖気づいたのかしら? まだ試合が始まってそこまで経ってないのに」
「いや、常に最悪を想定するのも、プロの仕事だ。だが、俺は負けん」
アリスがそう言うと、剣を構えてディクシアに迫る。そして、剣を抜いてディクシアに斬りかかった。彼女はハルバードでアリスの剣を受け止め、金属がこすり合う音が鳴り響く。
「威勢だけはいいわね。でも――」
ディクシアはにぃっと笑う。ハルバードの中央のブレーキレバーを二回引く。カチッと音がしたかと思うと、ハルバードの機関部分から蒸気が噴出しだす。アリスは一時ディクシアから離れると、彼女は力強く足を踏みしめた。
「これはどう!?」
彼女はハルバードを振り回す。炎を纏ったそれは、旋風を吹き起こし、炎の竜巻となった。竜巻はアリスを飲み込もうと迫りくるが、アリスは冷静に瞳を閉じ、刀剣を構える。
「水よ、迸れ!」
アリスの声に呼応したのか、刀剣が水を纏い、彼は竜巻を切り裂く。水によって炎は消え、白い霧が辺りに立ち込める。その霧すら切り裂き、アリスはディクシアに再び迫った。
だが、再びアリスに狙撃銃の銃弾が迫る。それを避けるが、その隙をついてディクシアがハルバードを振り下ろす。
間一髪、アリスの右頬に赤い筋が入っただけで、何とかハルバードの切っ先を避けることができた。
「ギン……そっちはどうなってる……!?」
アリスは藁に縋るような表情でディクシアを真っ直ぐ見る。そして、ディクシアの足を払うように蹴り、ディクシアは驚いてバランスを崩した。彼女は倒れこんで、アリスは立ち上がって周囲を見渡す。
「……今は、信じるしかない」
周囲を見渡すアリスの足元に、ディクシアはハルバードを振るが、アリスはそれを避け、後退した。
「さっきから全然ダメージ入ってないわ、アリス君」
「そっちもな。さっきの傷、もう治ってるぞ」
ディクシアはアリスの顔を見て舌打ちをする。アリスの先ほど受けた傷は、もう消えていた。
「気持ち悪いわ……ね!」
彼女はそう言い放つと、ブレーキレバーを1回引く。機関部分から蒸気を吹き出して炎を纏い、アリスに向かって振り回した。その瞬間を狙ったかのように、アリスを狙う銃弾が3発。
アリスはまず片手でハルバードをつかんで受け止め、片手でもう一本の銃を回して銃弾を捌いた。ハルバードをつかんでいた左手が、じゅうっと肉を焼くような異臭と、肌に鉄板を押し付けるような痛みがまとわりつく。だが、アリスは叫び声すら上げず、右手の銃を投げ捨て、ディクシアの左頬に向かって、持てる力を振り絞って右手に握りこぶしを作って振りかぶった。
右手の鉄拳がディクシアの頬に命中し、彼女は悲鳴を上げる暇もなく吹き飛ばされる。
「か、は……っ!」
ようやくハルバードを放し、右手の痛みに悶えるアリス。
だが、ディクシアは右頬を押さえながら、怒りに満ち溢れていた。
「よ、くも……よくも、よくもよくも……!」
烈火の如く面持ちのディクシアは、ブレーキレバーを3回引く。カチッと音が鳴り、機関部分から先ほどよりも勢いよく蒸気が噴き出した。
「この私の顔に傷を……テメエは消し炭にしてやらあああぁぁぁぁーーーっ!!」
ディクシアがハルバードを振り上げ、渾身の力で床に叩きつけた。
その瞬間、床にひびが入り、地鳴りが響き渡る。アリスは地の底から何かが来ると察知し、刀剣を構えた。
ひび割れた床は、突如、焼夷弾が爆発したかの如く、大爆発を引き起こした。空高くに燃え上がり、爆炎が会場を熱気で包み込む。
それをリングの隅から見ていたアリステラは、驚きもせず冷静な顔つきで腕を組んでいた。
「あら、もうこれを出しちゃうんですね。まあ、並大抵の人間ならこれで燃え尽きるでしょうが……」
アリステラがそう言っていると、顔を下へと向ける。
「どう思いますか、あなたは」
その目線の方向には、片腕を負傷したギンが、肩で息をしながら倒れ、アリステラを見上げて驚愕の色に染まっていた。
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