複雑・ファジー小説

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新世界のアリス【完結】
日時: 2021/09/10 20:32
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)

はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。


2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!



>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語


・本編

プロローグ>>3-6

Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29

Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57 
11章 >>58-63
12章 >>64-68

Act.3 妖精達の演舞ロンド
13章 >>69

お知らせ >>70

Re: 新世界のアリス ( No.36 )
日時: 2021/08/02 00:31
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: aDJkQigu)

 「やったか!?」と言わんばかりの空気が漂う中、エイヴリーが口を開く。ただ、満足げに笑っていた。

「面白い奴だねぇ、あんた」

 アリスの切り札を受け、満身創痍のエイヴリーは、仰向けに倒れたままアリスを見ている。その顔は穏やかなものであり、先ほどまでの面倒くさそうな彼女はどこへやら。

「まだやるのか?」

 アリスが警戒心を解かずにエイヴリーを睨んでいると、彼女は首を振る。

「いーや、あたしの負けさね。あたしは潔い女さ、素直に負けは認めるよ。……久々に遊んだ遊んだ♪」

 エイヴリーが上半身を起こし、にこやかに笑っている。

「あんたにとっちゃ遊びかもしれんが、こちとら負傷者が何人か出ているぜ。クレイジー・ヘッド?」
「魚人種相手に五体満足で生きていられることを素直に喜びな。あたしはこう優しいけど、他はこうもいかないよ」

 エイヴリーが肩をすくめ、ふふんと笑う。

「あ、そういや……あんた達、一体こんな場所まで何の用なんだい?」

 エイヴリーが思い出したかのように目をぱちくりとさせて尋ねた。

「俺達はマリンフォールのお偉い……「海皇ネプテューン」に親書を渡す為にここまできたんだ。俺達が大使だってことはもうわかっているだろう?」
「ああ、そうだったねそういや。ま、いきなり襲い掛かっちまったお詫びに、議事堂まで案内してやるよ。……ただなぁ」

 エイヴリーが腕を組んで悩み始める。

「今は親書を受け取ってハイ同盟結びましょう……なんていかないんだよね。難しい時期でさ」
「どういうことだ?」

 アリスが尋ねると、エイヴリーが頬に指をあてた。

「いや、今は年に一度の「闘技大会」の準備期間中で、マリンフォール自体がかなりピリピリしてる時期なんだ。多分、あたしらみたいに、何かと理由を付けて襲われるかもしんないよ?」
「そりゃそうにゃ。なんてたって世紀末国「マリンフォール」ですにゃ。「ヒャッハー!」「男は死ねぇ!」つって襲われるのが関の山ですにゃあ~」
「なんて傍迷惑な種族だ……」

 アリスは頭を抱えてしまう。想像以上にここは世紀末なようだ。

「で、闘技大会というのは?」
「ん、年に一度、「海皇ネプテューン」を決める為の闘技大会が執り行われるんだよ。それで一番強い奴が海皇ネプテューンになれる。簡単な話だろう?」
「確かに、魚人種らしいっちゃらしいな」

 ジャンも頷きながら納得する。
 エイヴリーの話によると、年に一度の晩夏は魚人種が最もピリピリする時期で、その闘技大会が無かった時期は、魚人種同士が血で血を洗う争いになったそうだ。そこで、誰かが闘技大会を提案し、闘技大会で勝利した者が海皇ネプテューンになれるというルールも作った。
 海皇ネプテューンになった暁には、マリンフォールを自由にできる……それが勝者の特権なのであるッ! 運命を切り開く者がいるッ! 天に背く者がいるッ! それは透海自由国二千年くらいの宿命ッ! 見よッ! 今この永き血の歴史に、終止符が打たれるッ!!

「後半、なんかテンション高くなかったか?」
「こまけえこたぁいいんだよ、男のくせに細かいんだから」

 エイヴリーがアリスのツッコミに肩をすくめてため息をつく。

「で、だ。マリンフォールには東部と西部に分かれて統治しているトップがいてね。毎年そいつらの勢力のどっちかが勝利してマリンフォールを治めてるんだが……東部と西部、どっちに行きたい?」
「東部と西部に、か……」

 アリスが悩んでいると、ジャンがアリスの肩を叩く。

「任せな、お悩みエージェント。俺とカーラが東部へ行くよ。お前はギンと一緒に西部に行くといい」
「ああ、そうだな。頼むよ、ジャン」

 アリスが頷きながらそういうと、エイヴリーが半目でアリスを見る。

「いいのかい? 西部で……」
「……? どういう意味だ?」
「なら、あたしらも西部までついてってやるよ。西部のトップに用事もあることだしねぇ。東部は――」
「いや、東部への案内はこの駄・キャットに任せるさ」
「にゃにゃにゃッ!? なぜにホワイ!?」

 ジャンがルカの首根っこをつかむと、ルカが突然の事に驚いて声が上擦っていた。

「カーラと知り合いみたいだし、案内は得意だろう? 安心してくれ、東部のトップの下まで案内してくれるまでのビジネスプランさ」
「にゃ、にゃにゃ……にゃ……」

 ジャンのニヤニヤした笑みにルカは意気消沈する。

「そいじゃ、色男と銀髪を連れて行けばいいんだね。了解っとな」

 エイヴリーが頷くと、ふと思い出したかのように海岸の方を見る。

「そういや、あたしが最初に吹っ飛ばしたあれも西部に連れて行くのかい?」
「ああ、責任もって治療してくれ」
「面倒だねぇ……まあいいさ」

 エイヴリーとサミュエルとの死闘は、アリス達の勝利に終わる。そして、マリンフォール東部へと向かい、東部を統治するトップに会うべく、エイヴリー達マーレミンド海賊団と共に向かう事にしたのであった。しかし、まだ戦いは終わってはいなかったのである。……彼らの戦いはまだまだ続く――。

Re: 新世界のアリス ( No.37 )
日時: 2021/08/03 14:36
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

登場人物 (オリキャラ登場順)


キリガン
種族:妖精種
モチーフ:アリとキリギリス キリギリス

アリス達と偶然出会った吟遊詩人の青年。
しかし、最近冒険者を始めたらしく、各地の遺跡を探索している。
意外と常識人であり、度重なる周囲の空気に巻き込まれ、もみくちゃにされても、頑張って生きて行こうと誓う苦労人。
アリス達に再会する度にひどい目に遭っているのかもしれない。


シグルズ・バルムング
種族:魔人種……の成れの果て
モチーフ:ニーベルンゲンの歌 ジークフリート/ブリュンヒルデ

「竜殺し」の異名を持つ青年。
その姿はもう既に人間のものではなくなり、半魔物と化している。
「彼女」の姿を探し、彷徨っているようだが……
一般の人間には知られていないが、傭兵協会の間で機密事項となり、国際的に厳重に管理されている。
ジャンとカーラの「育ての親」の仇であり、彼らもまた、シグルズを追う。


フェイザ・ポールマン
種族:獣人種だけど人間種と偽っているらしい
モチーフ:不思議の国のアリス マッドハッター

ホロウハーツ蒸機王国王都の裏路地にて偶然出会った少女?
が、カーラに見破られてしまう。
帽子屋を営んでおり、商会連盟に所属している為、王都では割と顔が広い。
王都で迷ってしまった人物を案内する心優しい面もあるが、複雑な言い回しで困惑させるのが玉に瑕。


クウ・ヴィクション
種族:人間種
モチーフ:白い花嫁黒い花嫁 黒い花嫁

ホロウハーツ蒸機王国王都の仕立て屋で修行をする女性。
普段着がウェディングドレスな為か、初対面のお客さんに「結婚相談所」と勘違いされてしまうことが多い。
過去に何かあったらしく、「美」に執着している。


ルカ・スプーフ
種族:獣人種
モチーフ:不思議の国のアリス チェシャー猫

情報屋として各地を渡る少女(……?)
カーラが過去にコンビを組んでおり、盗賊に売られたことでコンビ解消。
カーラからは「死ぬほど苦しい目に遭って死なない程度に殺したい相手」とかなりの恨みを買っている。
そのほか、大陸中の人間から恨みを買っているらしく、会うたびに追いかけまわされているようだ。
とりあえず、信用より金。徳を積むより金を積む。


随時更新

Re: 新世界のアリス ( No.38 )
日時: 2021/08/05 13:16
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

7章 戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」


 マリンフォール西部へ向かうアリスとギン、そしてキリガン。キリガンは、エイヴリーの初撃にて吹っ飛ばされた拍子に腕の骨を折ってしまったようだ。ここは、戦艦「プリンセス・メロウ」内。鋼鉄の壁と床、まさに「さらば~」と歌い出しにあるようなSFアニメや映画、ゲームなどで見るようなハイテクな機械と、いくつもの部屋、そして長い廊下と、まさに好きな人であれば垂涎ものであった。
 早速マーレミンド海賊団の医師が艦内の医務室にて、キリガンを治療するが……

「う、腕の骨が折れた……」
「人間には215本も骨があんのよ、1本ぐらいなによ!」
「な、何をする気だ……!?」

 医師とそんな会話をしながら、キリガンは注射を受ける。長めの注射針がキリガンの上腕に深く刺さっていった。

「あ゛あ゛あ゛ああああああああアアアアッッッんっっっ!!」

 キリガンは涙を流しながら顎が外れる程口を開けて、喉が張り裂けんばかりに叫び声をあげる。アリスとギンはその様子を、引きつった表情で見守っていた。

「手加減なしじゃなぁ、えーっと、「ナディア」じゃったか」
「ふしぎの海じゃないわ。私は「ナギア」。それより男はこれくらい耐えられるわ。男だもの」
「それには少々異論があるが、まあ何も言わないでおく」

 金髪白衣の医師、ナギアはアリスの方へ向くと、キリガンに打った注射器の針を抜いて袋に廃棄し、同じ種類の針を取り出して注射器に装着する。

「次はあなたよ。腕出して……ん?」

 ナギアはアリスの上腕に同じように注射しようとすると、怪我一つないきれいな肌が顔を出したため、驚いて目を見開く。

「あれ、あなた……怪我なんてないじゃない」
「……じゃあ、俺はここにいる必要はないな」

 アリスがそうつぶやくと、すくっと立ち上がって、医務室を出ようとする。

「待ちなさい。一応精密検査はしろって船長に言われてるの。待機よ待機」

 ナギアがそう呼び止めるので、アリスはため息をついて再びベッドに座る。彼女はそれを見届けた後、ギンの腕をつかむ。

「黒焦げさんにもお注射しましょうね~」
「……ひぃん」

 ギンは小さく涙を流しながら声を出すと、キリガンと同じく叫び声をあげて気を失ってしまった。









 ナギアはアリスを診終わり、アリスに問診している。なぜか体の傷が一つもない他、体は健康そのものの為、ナギアは困惑していた。

「アリスさん、だっけ。あなたの体を解剖してもよか?」
「ダメに決まっているだろう」

 ナギアはがっかりした様子で項垂れる。

「うーん、あなた、この現象は初めて?」
「……答えなきゃいかんか?」
「答えないと困る」

 ナギアが真っ直ぐこちらを見てくるので、アリスはため息をついて「わかった」と答えた。

「俺は生まれつき、かすり傷や軽傷程度ならすぐに治ってた。これがどういう事かは分からんが、大抵の怪我なら1時間ほどで完治するんだ」
「ふーん。なんだか、昔読んだ生体兵器みたいな特徴ね」

 ナギアがそういうと、徐に立ち上がり、医務室の脇にある自室へ歩いていく。しばらくして戻ってくると、手に古ぼけた書物を持っていた。紙は黄ばんでおり、年月の経過を感じる。

「この本に載ってる、生体兵器。「魔王ソフィア」が計画していたと言われる、「融界計画ゆうかいけいかく」の過程で生み出された、14体の人工生命体ホムンクルスよ」

 ナギアがそう言いながら、アリスの目の前まで来て本を開いて、該当のページを指さす。

 その書物によると……
 無限世界ネバーランドと別世界を融合させ、「新世界」を創るという計画があった。魔王ソフィアが発案したらしいが、詳細は不明。しかし14体の人工生命体ホムンクルスは作られる。「NWシリーズ」と呼ばれたそれらは、新世界を創るという使命を全うすべく異世界への道をこじ開けようとしたのだが……道が完全に開く前に大半が破壊され、生き残った数体は各地の遺跡で眠りについた。
 というものだった。

「……NWシリーズ……聞き覚えが……」

 アリスはなんとなくその名前をどこかで見たような気がする。……しかし、思い出そうにも、霧がかかったようにそれ以上の事は思い出せず、なんとなく歯がゆかった。

「まあ、でも、そのホムンクルスとやらも今は眠りについてて、「融界計画」なんてものはもうなくなってるはずよ。気にするほどでもないんじゃない?」
「……それもそうか」

 アリスが頷く。


 その刹那、突然艦内が激しく揺れた。揺れに起こされて、ギンとキリガンが飛び跳ねる。

「な、なんじゃあ!?」
「あーあ、もうついたかな。デカイ事が始まるわよ」

 ギンの疑問に答えるようにナギアが半目でつぶやくと、キリガンが「あーあ、あれか」と何かを察したように頭を抱えた。
 それと同時に、艦内にあるスピーカーから、けたたましい少女の声が、耳を劈くノイズと共に流れた。

『あーあー、マイクテスマイクテス。あー。本日は晴天なりぃ、ああーっ!!』

 ピーガーというノイズが落ち着くと、少女の声はまだ続いた。

『そこのチンケなオンボロ船に告げる~。たった今、今すぐ、速やかに早急に光よりも早くこの海域から出て行きなさ~い。これ以上の侵入は、この戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」が許しませんの事よ~。これは命令、再三は言わないのでそこんとこヨロシク~』

 少女の声が早口で言いたい事だけ言い終わると、ブツッという音が響き渡り、その後、サミュエルの声がスピーカーから流れる。

『あーあー艦内放送艦内放送~。アリスさんにギンさん、ついでにキリガンさん。今すぐコックピットまで来るように。以上でーす』

 サミュエルの艦内放送が終わると、ギンがワクワクしながら「何やら楽しくなってきたようじゃのう?」と声を弾ませていた。

Re: 新世界のアリス ( No.39 )
日時: 2021/08/08 18:58
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 ナギアに案内されて、アリスとギン、キリガンの3人はコックピットまでやってきていた。コックピットはSFアニメで見るような広く、中央の巨大なスクリーンに、昼間の大海原に浮かぶ戦艦が映し出されており、複雑な画面や機械など、一般人が気安く触ると赤く点滅して警告音が鳴りそうな、複雑な構造……だと思う。画面の前で船員と思しきオペレーターが、中心に立っているエイヴリーに状況を報告していた。
 スクリーンを見てみると、目の前の戦艦がこちらに砲台の口を向けて熱線を発射してくる。その発射された熱線は戦艦自体には当たらないものの、近くの海に射出され、海から水柱が上がるたびに、戦艦「プリンセス・メロウ」は激しく揺れる。

「面倒だねえ」

 口癖なのか、彼女が腕を組んで苦い顔で静かにつぶやく。

「船長、副長、お呼びでしょうか?」

 ナギアがエイヴリーに向かって敬礼し、エイヴリーを真っ直ぐ見つめる。すると、エイヴリーが立つ場所から一段下がった操縦席で画面をいじっていたサミュエルがこちらに顔を向けて「ああ、やっときましたね」と言いながら、こちらに手招きをした。近づいてみると、サミュエルは笑いながら口を開く。

「ギンさん、あれが戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」なんです。ところで……あの戦艦を見てくれ。こいつを見てどう思う?」
「すごく……大きいです……」

 サミュエルとギンの掛け合いに、アリスがため息をつきながら会話に入る。

「何をやってるんだお前たちは。で、サミュエル、何か用なのか?」
「アリスさんにギンさん、ついでにキリガンさん。暇ですよね。暇なら、ちょっと目の前のラプンツェルの砲撃塔を沈めてきてくれませんか」

 彼女の申し出に、キリガンは「俺はついでか」と半目でサミュエルを睨む。

「ちょっとって、そんなちょっとコンビニに行ってこいみたいに言ってくれるのう」
「大丈夫ですよ、あの砲撃塔の主「ヴェルシェーナ=ラプンツェル・カタラッタ=ヤーガ」は一人じゃ何もできないアレですから」
「名前長いな」

 サミュエルが笑い飛ばしながら言っていると、ギンは肩をすくめ、アリスは頭を抱えて項垂れる。魚人種は皆軽い感じでモノを言うので、呆れても呆れ足りないのだ。

「「ヴェルシェーナ=ラプンツェル・カタラッタ=ヤーガ」って……あの、「魔女ゴーテル」の末裔である妖精種のあの人!?」
「知っているのか、キリガン!?」
「ああ、齢10歳で海皇ネプテューンに認められ、戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」を作り上げ、さらに数百体の自律人形オートマタ機械人形ゴーレムを制作し、マリンフォール西部を一人で守り続けている人物だ!」

 キリガンの説明に、ギンは「オートマタにゴーレム!?」と目を輝かせていた。やっとファンタジーらしくなってきたかららしい。

「聞くからにヤヴァそうな感じじゃが、実際どうなん?」
「マジヤヴァですよ。半端な実力だと、下半身持ってかれちゃいます」

 ギンの質問に、サミュエルは軽く答える。

「で、俺達を呼んだのは、下半身を持ってかれないくらいの実力があるからか?」
「そうだよ、あんたらならあのジャリガキを何とかできるだろ」

 サミュエルの代わりにエイヴリーが答える。

「てことで行ってきて軽く捻ってきてください」
「……はあ、まあ、海皇ネプテューンのところまで案内してもらう約束だし、その位の協力はしないとな。ギン、キリガン、行くぞ」

 アリスがギンとキリガンを見ると、ギンは「え、やだ」と即答し、キリガンも「俺はそんな実力ない」と首を振る。アリスは苛立ち、二人の頭に拳骨を振り下ろした。ゴンッという音と共に、アリスは二人を睨み、見下ろす。

「ついてこい」
「はい、すみません」
「ごめんなさい、一生ついていきます」

 二人の回答にアリスはただ静かに頷いた。

「で、どうやって戦艦に近づけばいい?」
「ナディア、例の奴」
「ナギアです、船長。まあいいわ」

 ナギアがそういうと、アリス達を手招きし、コックピットを後にした。アリス達もナギアについていく。










 アリス達は甲板へと出ていた。相変わらずラプンツェルの砲撃塔からの砲撃が激しく、船の周りに水柱が高く上がっている。ナギアは冷静に、ある場所のドアを開けてアリス達に入るように促した。

「早く入って」
「……一応聞いておくが、大丈夫なのか?」
「早く入って」

 ナギアが二度言うと、アリスはやれやれと肩をすくめ、ギンは不安に感じながらもアリスについていく。キリガンは顔が青ざめていた。
 3人が入ると、ナギアはドアを閉める。かすかに香る、鉄が焦げているような匂い。そして、視界は闇の中。アリスは無言で何かを推測していた。

「いや、そんなベタな……いや、しかし……」
「龍志、気が合うのう、わしも同じこと考えておるよ」
「気が合うな、俺もだ」

 3人は意見を合致させる。
 外ではナギアがモニターを操作し、ピコピコという音がする。そして、モニターに思いっきり手を叩きつけ、「ピコン」という軽快な音と連動してアリス達が入っていった巨大な鉄の筒が動き出す。

「武運を祈ってるわ。頑張ってねえん」

 ナギアがそう巨大な筒……砲台に向かって手を振ると、ドォンッという爆発音とともにアリスとギン、キリガンの3人を射出した。
 叫び声と共に、3人があちらの戦艦まで吹き飛ばされていく。ナギアはそれを見送っていた。

Re: 新世界のアリス ( No.40 )
日時: 2021/08/07 12:00
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 戦艦「ラプンツェルの砲撃塔」の甲板まで吹っ飛ばされたアリス達。甲板は見上げる程の鋼鉄の機体が数体、アリス達を待ち構えており、こちらに向かって、両肩に装備しているミサイルランチャーを向けている。そして、けたましい警報音とともに、どこからか少女の声と複数の人物の声が響き渡った。

『え、エイヴリーのとこの船員と思しき3名が甲板に着地した模様!』
『たいへん! たいへん! どうしよぉ!』
『こんなところで、ジャマされたくないのだぁ!』
『ジャマーするぜ、ジャマだけに』
『……は?』
『"ラプンツェル"様、いかがいたしましょう?』
『甲板の「ゴーレム・ガーディアン」を一斉起動! ここで叩きのめしておしまい!』
『ガデッサー!』

 どこからか気の抜けるような会話が終わると、アリス達に向かってミサイルランチャーを向ける機体から、ゴゴゴという鉄をこする音が鳴り、機体の頭部の黒いバイザーと思しき場所が青く光った。

「この形……まさか、パーソナルトルーパー!?」
「ヒーロー〇記もよろしくっと」
「ふざけたことを言うな二人とも、構えろ!」

 ギンとキリガンがやや危険な発言をしつつ、武器を構える。目の前のゴーレムはアリス達を敵と認識するや否や、両肩のランチャーを発射した。ドドドッという発射音と床に向かって放たれる弾、そして火薬の匂い。アリス達はたまらず近くの砲台に身を隠した。

「龍志、ここはわしが片付けよう。最近活躍らしい活躍ができんかったしのう!」
「大丈夫なのか……?」
「へーきへーき! わしゃ妖怪さん雪女さんのフレンズじゃぞ?」
「が、頑張れ、ギン!」
「お姉さんにまかせい!」

 ギンはアリスとキリガンの掌をパチンと叩くと、機体の前に出た。
 ギンは腰に下げていた錫杖を右手に取り、白い長銃をスカートの下から落として蹴り飛ばし、左手で構える。

「わしの演武、しかと見るといい」

 ギンがそう言うと、機体に向かって走る。小さい体が機体のすぐ近くまで来ると、ギンは勢いに任せて床をスライディング。滑って機体のすぐ後ろまで回り込んだ。

「世界丸見えっとな!」

 ギンは機体の背後まで来ると、機体の足部分の骨格を狙い、錫杖に仕込んでいる刀剣をキラリと閃かせ、瞬時に居合切りで筋を斬った。キンと金属音がしたかと思うと、機体が重い体を支えきれなくなり、バランスを崩してその場に崩れ落ちる。

「ほい、視界も……斬ッ! とな」

 ギンが機体の頭部を切り落とすと、「まずは一体」と周りを見る。周りでは二体同時にギンに向かってくる機体の姿が。ギンは慌てず銃を構え、くるりと銃身を回した後、着実に二体の頭部のバイザーを狙い撃った。カシャンとカメラが割れ、機体は動かなくなる。

「ほい、3体KOっとな」

 ギンはにやりと笑うと、残りの機体も彼女に襲い掛かる。

「モテるのう、わし♪」

 そう笑いながら、機体を繋ぐ筋を確実に狙い、居合切りで斬り落としていくギン。筋を斬り落とされた機体達は、バランスを崩して動かなくなる。ギンはその様子を見て、念の為と両肩のランチャーも切り落としていく。ついでにバイザーも撃ち落としていき、わずかな時間で甲板のゴーレム達を行動不能にしてしまった。

「いやー、終わった終わった。ほんじゃお疲れ~」

 ギンが帰ろうと踵を返すと、彼女の首根っこをつかむアリス。

「まだだ。このまま帰ったらエイヴリー達に何されるかわからんぞ」
「ぐっ……くそ、もう休みたい、寝たい、しんどすぎ~!」
「もう少し頑張ったらご褒美を考えてるがな」
「……! もう少し頑張っちゃう」

 ギンがご褒美と聞いて顔色を変える。すごく期待している目であった。



『あぁっ! 甲板のゴーレム達が全滅です!』
『機体の足を繋ぐコードとかがバラバラなのだ! あれじゃ使い物にならないのだ!』
『なんだとぉ!? そ、そんなバカなっ!!』

 どこからか悔しがるような声が響き渡り、アリスは二人に「とりあえず、コックピットを目指すぞ」と叫ぶと、艦内へと急いだ。ギンとキリガンもそれを追い、走り出す。



 艦内は人型の自律人形オートマタが待ち構えており、様々な武器を駆使してアリス達の行く手を阻んだ。通路が狭く、思うように動けないが、ここでもギンが活躍していた。天井に飛び上がり、天井を踏み台にして一気に刀剣を振り下ろして人形たちを斬り倒していく。キリガンも負けじと、装備していた弓で援護していた。矢が人形たちの腕や足を貫き、動きを封じていく。

「キリガン、やるな」
「こんなことしかできないけどね!」

 キリガンはさらに矢を放って人形たちの動きを止める。そこをアリスは首を切り落として再起不能にした。

「一気に進むぞ、コックピットまでどれくらいだ?」
「多分、この先の二連主砲を通過するしかない」
「二連主砲……回避できないか?」
「二連主砲を避けて通れないよ、その後ろにコックピットの入り口があるし」

 キリガンの言葉にアリスは「わかった」と頷く。

「ギン、まだやれるか?」
「年寄扱いするでない、まーだこれからだっちゅーの!」
「……古いな」
「どんだけー!」

 ギンは人差し指を立てて手を振る。
 しかし、二人はそれをスルーして、奥へと走りつつ進んだ。


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