複雑・ファジー小説
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- 新世界のアリス【完結】
- 日時: 2021/09/10 20:32
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。
2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!
>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語
・本編
プロローグ>>3-6
Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29
Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57
11章 >>58-63
12章 >>64-68
Act.3 妖精達の演舞
13章 >>69
お知らせ >>70
- Re: 新世界のアリス ( No.31 )
- 日時: 2021/07/27 23:27
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
バイクに乗っていたのは、先日別れたばかりのキリガンであった。こちらへ向かって手を振りながら走ってくる。
「キリガンさん!?」
カーラは驚いて海から這い出てくると、ギンも同時に海から出てきた。二人ともびっしょりと濡れており、アリスは「早く着替えてきなさい」と岩陰を指さす。そんなわけで二人は着替えるべく、岩陰へ向かった。
バイクに乗ったキリガンがアリス達の前で停止すると、後ろに誰かが乗っていた。黒紫と赤紫のグラデーションが神秘的なミディアムヘアの少女だ。アメジスト色の瞳がなんとも印象的で、真ん丸な瞳はかわいらしい。獣人種らしく、猫の耳と尻尾を生やし、尻尾はゆらゆら揺れている。服装はメイド服を改造したような服で、なんというか……見た目はすごく……
「調子乗ってそう」
アリスがそうこぼすと、彼女は「にゃにゃ!?」と驚いて声を上げる。
「ど、どういう意味ですかにゃ!? こんな幼気な女の子を捕まえて――」
「あれ、俺……君みたいなキャットガールに会ったことがあるな」
ジャンが思い出したかのように彼女の顔を嘗め回すように見回す。
「キャットガール、君の名前は?」
「「ルカ・スプーフ」と申しますにゃ。情報屋をやっておりますのにゃあ……多分人違いですにゃよ」
「いや、うーん……そうか?」
ジャンがそういうと、キリガンは「それはそれとして」と切り出す。
「ルカさんはなんでもこの辺の交易商さんと話があるそうで、俺もマリンフォールの遺跡調査の為に議事堂に向かう途中だったんだよ」
「そうだったんですか」
アリスがそういうと、キリガンは「うーん」と唸り、首を振って自身に親指をさす。
「アリスさん、俺の事は呼び捨てでいいよ、敬語もいらない。あ、俺も呼び捨てにするし、タメでいくよ。もう友達じゃないか、俺達」
「……ああ、そうだな。わかった」
アリスが頷くと、キリガンは満足げに笑う。
「で、議事堂にはどうやって行くんだい、ミスターキリガン?」
「おう、それそれ」
ジャンに言われて、キリガンはジャンに向かってびしっと指をさす。
「この辺りの海岸でその交易商さんが昼寝をしてるって情報をつかんだんだけど」
「え、誰から聞いたんだそれ?」
「私の情報ですのにゃ♪」
ルカが手を上げてアピールする。満面のどや顔であった。
「この辺りで「マーレミンド海賊団」の船長の「エイヴリー・マーレミンド」がよく昼寝してるらしいのにゃあ」
「だが、海賊船らしきものは見えな――」
「なぁに言ってるにゃ? あの海賊団の船は「海賊戦艦「プリンセス・メロウ」」。潜水も飛行も可能の巨大戦艦にゃよ」
「……もうなんでもアリか、この世界は」
アリスが頭を抱えてそうつぶやくと、遠くから「おまたせ~」という声が聞こえてきた。カーラとギンが戻ってきたようだ。
「いや~、ごめんごめんついついはしゃいじゃってさ~」
「もう、受話器持って「イ゛エエエエエエエ!」みたいな! かましたらァ!」
「言ってる意味が分からんぞ」
そんな会話をしながらカーラとギンがアリス達に近づくと、カーラが満面の笑みで「ただいま☆」と軽く言う。
「あ、キリガンさん! 先日ぶり♪」
「や、カーラさん。相変わらずおっきいね」
「どれの事かな~?」
満面の笑みのままカーラはルカの方を見る。
彼女と目が合った瞬間、満面の笑みは消え失せた。
「……あ、ああ」
カーラは無表情のまま声を出す。
「どうしたん――」
「ああああああああああああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!」
カーラはルカを指さして今まで出したことのない大声を出した。
「ど、どうしたんだ!?」
ジャンがそう尋ねると、カーラは怒りの表情を見せながら叫ぶ。
「こ、こいつだよ、ジャン! 昔、盗賊捕縛する時に私を売って自分だけ逃げたにゃんこ先生は!!」
全員がルカを見る。「あ、やば……」という声を上げて、みるみるうちに大量の汗を玉のようにかくルカ。
「えっと……何を言ってるか私にはさっぱりですにゃあ……」
「アッハイ。じゃあここで殺しますね」
カーラはルカの返答に、突然無表情になって背負っていた大剣を振り上げる。
「す、ストップストップ!」
「キリガン君どいて! そいつ殺せない!」
「いやいや、落ち着いてカーラさん、まずは話し合いから――」
「無理ダメ却下」
「いやいやいや、何か事情が――」
「裏切られた時点で事情もクソもミソありません、よって死刑」
「ジャンも何か言って!」
キリガンは助けを求めると、ジャンはため息をついてカーラに近づく。
「落ち着けカーラ、ステイクール」
「うん、ジャン。このルカって子をヤってからでいいかな?」
「なんて恐ろしい……! 他人の話くらい聞いたっていいじゃないかにゃあ?」
「どの口がほざくのかな? そのたわわ、握りつぶすよ?」
「ヒェッ」
その後、カーラの怒りを鎮めるのに1時間程度かかったのだった。
- Re: 新世界のアリス ( No.32 )
- 日時: 2021/07/29 22:38
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
怒りが鎮まった……というよりは冷静を装っているだけで、未だに怒り心頭のカーラの話によると、数年前に傭兵協会でルカと出会い、コンビを組んでいたのだという。
「ジャンはどうしてたんだ?」
「イレーナとラブライフを過ごしてたぜ」
「ああ、その時期か」
アリスはジャンの返答に納得し、カーラから続きを聞く。
「で、そのルカさんは一体何をしたっていうんだ?」
「私を囮にしてその後……あろうことか盗賊に買収されて私を売って自分だけ逃げたんだよッ!?」
一同はカーラの言葉にルカを見つめる。
「しょうがありませんのにゃあ……私、戦うのは苦手なものでして」
「俺、この人信用できないかもしれない」
キリガンが俯き、落ち込んだ様子でそうつぶやくと、ギンはカーラの方を向いた。
「で、カーラはその後どうなったんじゃ?」
「うん、この小説じゃ書けない展開になりかけたよ。でも怒りのパワーで盗賊を全員まとめてぶっ飛ばしたよ」
「うわぁ……」
キリガンが引いてしまった。
「結果オーライじゃないですか、よかったですねぇ」
「こいつもう鮫の餌にしてもいいんじゃない?」
ルカの言葉に無表情で、かつ低い声でそうカーラが言うと、ジャンは「落ち着け」と彼女を窘める。
「ところで嘘つきキャット。君は交易商に何の用事が?」
「嘘つきとは失敬な。まあいいですにゃ」
ごほんとルカは咳払いをした後、頬に手を当てる。
「単なる商会連盟への引き抜きですにゃ。「お前くらいしか頼める奴はいない」と、信頼をお受けしておりますにゃあ♪」
「逆に考えれば、「暇なのはお前くらいだろ」って言ってるようにも聞こえるな」
「にゃんと!?」
そんな会話を続けていると、アリスはふとギンとカーラが着替えていた岩を見る。
「どうした、アリス」
ジャンが彼に尋ねると、アリスは腕を組んで訝しげに思い、岩に近づいた。岩の裏側を見ると、二人の人物が倒れていたのだ。女性は大砲のようなもので頭を打って倒れたのか、大砲を枕にしていた。
「……人が倒れてる!?」
「ほえ?」
アリスの叫び声に、ギンも岩陰を覗いてみる。確かに岩の陰で少年と女性が瞳を閉じて気絶しているようだった。皆も二人を追いかけて岩陰を覗き込む。
「ありゃ、気づかなかったのう。こんな場所に人がおるなんぞ」
「そんなこと言ってる場合か! 大丈夫ですか!?」
アリスが慌てて二人に声をかけると、女性は目をぱちりと開けて起き上がってこちらを見る。
女性の方は深い青色の長い髪が波打ち、海賊の帽子とジャケットを着用する、いかにも海賊のような姿であり、露出して覗く肌には数々の深い傷跡があった。少年は白い髪がぼさぼさと無造作に乱れ、顔は前髪で隠れている。大きなフードがついた白いパーカーを着ている彼は、青い装飾が特徴的な丸い何かを抱えている。
なんというか一言でいえば凹凸コンビな感じの二人は、こちらを寝起きの様子で見つめていた。
「なんだい……他人がせっかく昼寝してたってのに」
「うざい……」
彼女が目をこすり、あくびをしながらそういうと、少年は苛立ちを隠せない声でアリス達を睨んでいるようだ。
「いや、えっと……大丈夫なんですか? こんなところで倒れてたので」
「いや、寝てた。日向はいつも暑いからね。干物になっちまうのさ」
女性がそういうと、覗き込んでいるアリス達を見る。
「で、あんたらは? 他人の寝顔でも覗き込みに来たのかい?」
「いえ、昼寝をしていただけなら……すみません」
アリスがため息をついた後、頭を下げる。
「この辺りで「エイヴリー・マーレミンド」を見た事はありませんか? 昼寝をしているそうですが――」
「ん、そりゃあたしの事さね。エイヴリー・マーレミンド。それがあたしの名さ。そしてこっちが副長「サミュエル・スキュラ」」
「ん」
エイヴリーがそう答えると、サミュエルも短く声を出し、今にも再び寝そうに、こくこくと顔を上げたり下げたりしている。
「ちょうどよかった。あなた達に話があるんです」
「そうそう! そうなんです、実は――」
キリガンが体を乗り出して彼女たちに事情を説明しようとすると、エイヴリーは深いため息をついた。
「ハアァァァァ……」
エイヴリーは枕にしていた大砲を手につかむと、俯いて低い声を出す。
「……なんかもう、 何もかも面倒くさくなってきた……」
エイヴリーの言葉が引き金のように、サミュエルは手に持っていたものを両手で天に掲げる。それは鏡らしく、鏡には彼の姿でなく、彼と同じく白い髪の女性が映り込んでいた。
「鏡よ鏡、真実を映し出して」
それに呼応するようにサミュエルの体が光に包まれる。
「な、なんじゃこの急展開は!? まるで展開がうまい事書けないから勢いでごまかしてやれ感ハンパないぞ!?」
「ギン、お前はちょっと黙れ!」
「駄菓子菓子、こいつはヘヴィなヤバさだぜ……」
ギンが二人の様子に驚き、ジャンは何かを察したようにマフラーで口元を隠す。
「そういや、前にマーレミンド海賊団と戦ったって言ってたな」
「ああ、面倒になると全部吹っ飛ばそうとするぜ。今のうちに逃げた方がいいんじゃないか?」
ジャンがそういって逃げようと一歩後退るが――
「残念ですが、そうもいきません!」
聞きなれない女性の声が響き、ジャンの方へと何かの衝撃が走った。ジャンはそれを避け、目の前に爆発したかのように砂塵が舞い上がる。砂塵が晴れると、クレーターが出来上がり、その中には背の高い女性が立っていた。白い髪で顔を隠す、紺色のフードとマントを羽織った、狼の耳と尻尾を持った女性。不敵にギザギザの歯を見せ、笑っていた。
「船長は昼寝を邪魔されるのが嫌いなのです。あ、そういえばあなた方は、ローズライト神導王国からの大使ですね? ならば、ここでヘヴンリーしていただきます。私も昼寝を邪魔されてすこぶる機嫌が悪いので、その分も加算しますね!」
彼女がそういうと、両手の拳を打ち付ける。その衝撃が再び砂塵を生み、アリス達を襲った。
「なんじゃこやつは……もしや、サミュエルとやらか?」
ギンの言葉にサミュエルが肯定する。
「正解です、お嬢さん。私は「スキュラ族」の「サミュエル・スキュラ」! どうぞよしなに、そしてハロー。そしてグッドバイ!」
「男女一体型とは、お得な体をしちょる!」
ギンが驚いていると、サミュエルの背後から極太の熱線が勢いよく発射された。アリス達に向かって発射されたそれは、砂浜を一直線に射出し、その熱線が通った後には、まるで炎で焼いたかのような跡があった。アリス達はそれを避けるが、あまりの熱にアリスの服に焦げ跡が付いた。
「コマンダー・サミュエル、とりあえずパーっとやっちまおうさね」
エイヴリーが大砲を肩に携え、ゆっくりとした足取りでアリス達の前へ現れると、サミュエルが「ガデッサー!」と元気よく返事した。
- Re: 新世界のアリス ( No.33 )
- 日時: 2021/07/30 23:20
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
「あわわ……"あの"「エイヴリー・マーレミンド」と「サミュエル・スキュラ」を相手に、生き残れるんですかにゃ!?」
「やるしかないだろう。どの道、ティラ殿からは同盟の親書を任されてるんだ。マリンフォールのお偉いさんに渡すまでは死ねんよ!」
アリスが剣を抜きながらそういうと、サミュエルが「かかかっ」と笑った。
「お覚悟は結構! 次はあなたの腕を見せてください。まあ、たかだか人間種の男程度では、私に傷すら付けられないと思いますがね?」
見え見えの挑発に「ああ、そうだな」とアリスは流す。ギンも同じく錫杖を手に持ち、お札を懐から取り出す。
「男の意地という者を見せてやる。ギン、サミュエルを倒す。いいな?」
「レディ!」
ギンが頷きながら返事をすると、突然、カーラが二人の前に立つ。
「待ったアリス君。私、サミュエルを相手するから、エイヴリー船長をお願いできないかな?」
「カーラ?」
「副長さんってめちゃつよで、前回戦った時は一方的にやられたけど、今回はリヴェンジってことで! 私、この人、ブッ倒したい!」
カーラがそういうと、サミュエルは人差し指をこめかみにあて、「うーん」と唸る。その後、口元が笑った。
「……ああ、あの時のヤギさんですか。ふふっ、かまいませんよ。あなたが一番強そうですし、男共なんて船長一人でも十分です。ふふっ、あなたがどれだけ強いのか、見ものですね」
「前髪ひっぺがしてやる」
「角、へし折られても文句言わない事です」
「犬耳引きちぎってやる」
「服破いて薄い本みたいな展開にします」
「はげろ」
「もげろ」
サミュエルとカーラの何とも言えない罵り合いが始まってしまったので、アリスとギンはエイヴリーの方を見る。
彼女は背が高いが、あまり筋力があるようには見えない。が、体中の傷跡が歴戦の猛者であることを証明している。それに、こうじっとしていても感じる威圧感。間違いなく、彼女は強者である。
「男が何人束になろうと、このエイヴリー様の敵じゃないさ」
「言ってろ、あの時のままと思うな?」
ジャンが銃を構え、銃口をエイヴリーに向ける。エイヴリーはというと、ジャンの顔を見て「ああ」と納得したように声を出した。
「あの時の。まあどうでもいいさ。面倒だしね――」
エイヴリーがそういった瞬間、彼女は大砲を構えて熱線を発射する。
「どわぁ!?」
キリガンがそう叫ぶと同時に、皆は散り散りになって避ける。
その瞬間を狙い、エイヴリーがキリガンの目の前へ一瞬にして突進していた。キリガンは突然目の前にエイヴリーが現れ、彼女が腹へ拳を打ち付けるのを対応しきれず、吹っ飛んだ。彼は悲鳴を上げ、海岸へ落ちて水しぶきを上げる。
「キリガン!」
「あやつ、肉弾戦も可能なのか!?」
「まずは一人だね……次は……」
エイヴリーが面倒くさそうに頭を掻き、周りを見渡す。
「おのれよくもキリガンを殺したな!?」
「いや、生きてる! というか、なんかいっつも俺ばっか狙われてる気がするけど、気のせいかな!?」
「答えを教えてやろう、遠距離攻撃を最初に叩くのが戦いの基本じゃ。これマメじゃよ」
「ああもう、俺、吟遊詩人やめて冒険者一筋でインディみたいな感じになろうかな……」
キリガンが落胆しながら海岸に頭を突っ伏す。エイヴリーは「あー、そうだなぁ」と面倒くさそうに半目で周りを見てから、ギンを指さした。
「じゃあ次は銀髪」
エイヴリーが興味なさそうに口を開くと、ギンの目の前へまたもや突進し、腹部に拳を入れようと振る。
だが、ギンはその拳を受け止め、エイヴリーの動きを封じる。そして、エイヴリーの首元に錫杖を回して固定し、ギンはアリスに向かって叫んだ。
「やれっ、わしごと撃てーっ!!」
「ギン、それが言いたいだけだろ!」
ギンの言葉を聞いたジャンは「よしきた」と言わんばかりに、持っていた双銃を銃口とハンマー部分を合体させ、長銃を完成させると、エイヴリーの背後を狙って銃を両手で構える。
「ミス・スノウプリンセス、お前の努力は無駄にしないぜ。クロンダイクモード……ファイア!」
ジャンの一言で長銃は光線を放った。
一直線に光線がエイヴリーの背後へと直進する。
「面倒だねぇ!」
エイヴリーがそう叫ぶと、ギンを盾にして、その光線を防いだ。
「あっぎゃあああああああっ!!」
「しまった、味方が!」
光線はギンに命中すると、ギンは叫び声をあげて黒焦げになって倒れた。
「惜しい人を亡くした……」
キリガンが海岸で立ち上がれないままそうつぶやくと、黒焦げのギンは腕を上げて左右に振る。そして、力尽きた。
「おのれ、よくもギンを!」
「いや、やったのはお前だ」
ジャンが叫んでアリスも剣を構えてジャンに鋭く突っ込む。
「何この茶番は……」
呆れながらそうつぶやくと、一応武器であるレイピアを取り出すルカ。アリスもそれには思わず「全くだ」と肯定する。
「あと3人かいね。なんなら3人まとめて相手してやるよ?」
「ああ、そうさせてもらおうか」
アリスがルカに目配りをすると、ルカは頷いた。
「その合図は逃げていいってことですかにゃ?」
「ふざけるな、逃げたら俺はお前を絶対許さん。商会連盟に報告して地獄の果てまで追いかけてもらう」
「ぜ、全力でやらせてもらいますにゃあ……」
ルカが半泣きでそう返事すると、エイヴリーが右手を伸ばし、人差し指を立てる。挑発するように。
「かかってきな、雑魚共が」
「よし、いかせてもらうぜ!」
エイヴリーの挑発通り、ジャンは銃を元に戻して、両手に持ち替えて銃弾を発射する。連続射出し、エイヴリーを狙うが、エイヴリーは銃弾を走って避ける。
「こっからは肉弾戦で行こうじゃないか!」
「ああ、そうだな!」
エイヴリーがジャンに向かって拳を振り上げ、アリスがその間に入り、拳を剣身で受け止めた。
「ルカ!」
「高くつきますにゃよぉ?」
ルカがアリスの言葉に呼応し、レイピアを振り上げる。それはまるで鞭のようにしなる蛇腹剣であった。ワイヤーがしなり、剣身が蛇の腹のように伸びる。エイヴリーの足に巻き付き、彼女のバランスを崩した。剣身は鋭く、エイヴリーの足に傷をつける。
「猪口才な!」
エイヴリーは足を思いっきり振り上げ、ルカを振り回す。ルカはジャンに向かって吹き飛び、二人がぶつかり合った。ルカはジャンに覆いかぶさるようにして倒れこみ、ジャンはルカが怪我をしないように彼女を抱き、背中から崩れ落ちる。
「にゃにゃあ!?」
「おわぁっ!」
二人が同時に悲鳴を上げて倒れる。
エイヴリーは足に巻き付いた剣を振り払うように足を思いっきり振り回し、剣をアリスの方へ投げ飛ばす。
「くっ!」
アリスが投げられた剣を避け、その場にかがむ。
「二人とも、無事か!?」
「ああ、なんとかな……」
「あの剣、「シュトライヒ・ミーツェ」は一応鉄板も切断できる強度と鋭利さを持ち合わせた、特注品なんですがにゃあ……」
ルカがそうつぶやきながらジャンから降りると、エイヴリーを見る。
確かに巻き付いていた右足は太腿から足先まで傷だらけだ。見るからに血液が流れ続け、このままでは失血してしまうであろう。その位の大怪我を負っていた……だが、エイヴリーは一切表情を変えない。むしろ、こちらが疲弊しているのに、まだ余裕綽々といったところだ。
「やっぱり、マリンフォールってのはバケモノアイランドだな」
ジャンがため息をつきながらそういい、マフラーで口元を隠した。
エイヴリーはというと、「まだやるのか」と面倒くさそうに深くため息をつく。
「残念だが、俺は諦めの悪い性分でな。お前を倒すまで続けさせてもらうぞ」
アリスは手に持っていた刀剣の剣先をエイヴリーに向け、鋭い瞳で彼女を見据える。ジャンも銃を両手に構え、ルカは剣を拾いに行く度胸がないので、太腿に巻き付けていた銃を構えた。
まだやる気のある目の前の3人に、エイヴリーは腰に手を当ててにやりと笑い、ゆっくりとした足取りで落ちている大砲に近づく。
「面白い。じゃあ、手足を引きちぎって海に沈めて水泡にでもしてやろうさね。声も出す暇なく沈むといい。……さて、久しぶりに本気でも出そうかな――」
エイヴリーがそういうと、大砲にあるトリガーを引いた。機械音を鳴らしながら大砲は変形し、鋭い両刃の大剣へと変化した。その重量級の大剣を軽々と肩に抱え、エイヴリーは一層笑う。それはもう、楽しそうに。
「1分くらいは耐えてみな」
- Re: 新世界のアリス ( No.34 )
- 日時: 2021/08/04 20:53
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
カーラとサミュエルが睨み合い、サミュエルはカーラの足元を見る。
「あ、ゾウリムシ。あなたの足に登ってきてますよ」
「ゾウリムシって……目がいいんだね。顕微鏡じゃないと見れない奴でしょ」
「ホントですよ。ああ、膝まで……」
サミュエルがそう言いながらカーラの足元をチラッチラッとみているので、カーラはつい……足元に視線をやってしまった。
――その瞬間、サミュエルの拳がカーラの右頬へ入る。だが、カーラはその拳を左手で受け止め、パァンとはじける音が響き渡った。
「なぁに~? ゾウリムシ如きで私の意識が奪えるとでも?」
「そんなわけないじゃないですか」
二人はニヤニヤ笑う。
「でぇい!」
カーラはサミュエルの右頬に拳を入れ、サミュエルの右頬に食い込む。だが、サミュエルも負けじとカーラの左頬に拳を入れた。互いの頬が拳で歪み、鈍い音が鳴る。
「足元がお留守!」
サミュエルがカーラの腹部に膝蹴りを入れ、カーラもお返しにサミュエルの胸部に肘で思いっきり突く。その後も鈍い音を立てながら絵的には何とも盛り上がらない、肉弾戦が続き、お互い口から血を吹き出すまでそれが続いた。
そして、カーラの右手とサミュエルの右手がクロスカウンターし、互いの頬へ命中した。二人とも痣だらけで、内出血を起こしているのか、殴られ蹴られた箇所が青く染まっている。
だが、二人の戦いはまだ終わらない。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「でやあああああああぁぁぁぁぁ!!!」
互いに、同時に喉が張り裂けんばかりに叫び、拳を再び交差させてのクロスカウンター。互いの頬に食い込んだ。だが、二人はまだ倒れず、カーラは口の中の血をペッと掃き出し、サミュエルは楽しそうに笑いながら血を拭う。
「獣人種はやはり面白い。あなたは稀に生まれてくる、人間離れした力を持つようですね」
「そうだよ。私ね、この力が嫌いだったんだけどさ……守りたいものがあるから、この力が好きになったの」
カーラが自身の拳を見つめて握り締めると、サミュエルを真っ直ぐ見据えた。
「私もですよ。魚人種として、スキュラ族として生まれた事をコンプレックスとしてましたが……船長が私に道を教えてくれたんで、私は船長の為に持てる力を使うんです」
「ふぅん、あなたも好きな人の為に戦ってるんだね。ま、どうでもいいんだけどさ」
「ええ、それはお互い様でしょう。ふふっ、なぜなら……互いの過去など、今を戦う我々にはどうだっていい!」
サミュエルがそういうと、再び拳を握り締めてカーラの頬を狙い、振り上げる。カーラもほぼ同時に彼女の頬に向かって拳を振り上げた。再びクロスカウンター。互いの頬に拳が食い込んだ。傍から見ればその戦いは、華がなく血生臭いものであった。
「オラァ!」
「どらァ!」
二人は同時に叫び、武器を持たない拳だけの肉弾戦が続く。二人とも痣と生傷が増えていき、見るに堪えないボロボロ具合だが、互いに引けを取らず、立ち続けている。
「なんでその鏡を使わないの?」
カーラが挑発するように尋ねる。
「あなたこそ、大剣を使えばいいんです。なぜ使わないんですか?」
サミュエルも質問を返す。すると、その質問を受けたカーラが「ハハハッ」と笑い始めた。
「私、別に武器いらないし。自分の拳の方がよっぽど正直だよ」
「……なるほど、割と同感です」
「もういいかな、決着つけても」
カーラがジャンたちの方を見る。エイヴリーが大剣を振り回し、アリスが剣を防ぎつつも傷つき、ジャンが大剣の斬撃を受け、赤の雫が舞っている。ルカはというと、できるだけジャンを盾にしようとしていた。ジャンが傷ついているという場面が目に入るだけで、カーラはかなり苛立っている様子だった。
「あの青い髪の方は、あなたの何なのですか?」
「相棒だよ」
「……あなたは危険です。船長との戦いに参加すれば、船長が負けてしまうかもしれません。それだけは避けねば」
「うぅん、どうでもいいよ。邪魔するなら吹っ飛ばすまでだし」
カーラは一瞬で表情が消え失せ、腰を下げる。サミュエルもその様子に警戒し、構えた。
次の瞬間、カーラは一瞬の内にサミュエルとの距離を詰め、拳を握り締め、その拳を力の限りサミュエルの顔面に叩き込んだ。
サミュエルは突然のカーラの動きに驚く暇もなく後方へ吹っ飛び、背後にあった岩に叩きつけられる。岩はサミュエルが吹っ飛んだ衝撃で砕け散り、砂煙が舞い上がっていた。サミュエルは、岩の中で仰向けになり、瓦礫の上で力なく空を見上げた。
「これが、あなたの真の力……油断しました」
「でしょ、ああ、でも、もう動けないや」
カーラがそういうと、そのまま仰向けになって砂の上に倒れた。
「とにかく、私の勝ち。リヴェンジ成功だね!」
カーラがそう笑顔で空を見上げながら叫ぶと、カーラの耳にはすーすーという寝息が聞こえてくる。
サミュエルが少年の姿になって、鏡を抱えて眠っていたのだ。
「ジャン、あとは任せた」
カーラがそうつぶやくと、右腕を天に掲げ、親指を立てた後、カーラも眠ってしまった。
- Re: 新世界のアリス ( No.35 )
- 日時: 2021/08/04 20:53
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
「サミュエルがやられたか。まあいい、続きをやるぞ」
エイヴリーは大剣をアリスに向かって振り下ろす。アリスはその剣を横へ回避したが、振り下ろされた剣がこちらに向かって切り込む。刃がアリスへ向かって移動し、アリスは咄嗟に刃を持っている刀剣で受け止め、受け流す形で軌道を逸らした。
たった一撃を躱すだけで、かなりの体力が奪われる。
「まだまだこんなもんじゃないさ」
エイヴリーが再び剣を振り回すと、剣に銃弾が数発当たり、カンッという軽い音が鳴る。
「ミス・ルカ。お前のシークレットウェポンとかで何とかできないか?」
「……通じますかにゃあ?」
ジャンはルカを見る。
「できなきゃ全員死ぬぞ」
「わ、わかりましたにゃ。とりあえず、時間稼ぎでもお願いしますのにゃあ」
ルカがため息交じりにそういうと、一歩後を退く。しかし、エイヴリーはその様子を見逃さず、ルカに向かって大剣を力の限り投擲した。ブゥンという風の斬る音がルカに迫り、ルカは思わず「ひぃ」と声を上げる。
だが、ジャンがルカの前へと出て、素早く銃から刃を射出し、両手を交差させて銃でその大剣を受け流そうとする。大剣の勢いは止まらず、ジャンの右肩を切り裂き、その背後へと大剣は落ちた。
「ルカ、やれ!」
「ええい、破れかぶれだ……!」
ジャンの叫びにルカは左目に手を当てる。
「「レーヴ・シャ・ノワール」! こいつでも食らっとけにゃ!!」
ルカの左目に魔法陣が浮かび上がり、妖しく光る。エイヴリーと目が合うと、エイヴリーの瞳に光が消えて虚ろになる。
「ざまあない! 夢幻の異空間で苦しむといいにゃ!」
ルカが「カカカッ」と笑うと、ジャンとアリスは警戒心を強めた。
「いーや、どうやらこの程度じゃ奴は止まらないみたいだな」
アリスがそういった瞬間、エイヴリーがルカに向かって突進する。ルカは想定外の動きに驚きを隠せず、「にゃにゃにゃあ!?」と悲鳴を上げた。
「面白いな、だが無意味だ」
エイヴリーの瞳は虚空を映したまま。だが、真っ直ぐにルカに向かって攻撃を仕掛けようとする。
「どうやら奴は相当の精神力を持っているらしい」
アリスがエイヴリーの前に立ちはだかり、彼女の鉄拳を剣で受け止める。エイヴリーは砂を踏みしめ、アリスに足払いをする。
「アリス!」
ジャンはすかさずエイヴリーに向かって銃弾を放つが、エイヴリーは着ているジャケットを瞬時に脱いでくるりと回り、銃弾をジャケットで防いだ。
「クソッ」
倒れこんでいたアリスは、エイヴリーの右足を蹴る。負傷している為、何かしらのダメージを期待した。だが、エイヴリーはアリスを見下ろし、彼の胸ぐらをつかんで天を仰ぐ。
「この程度であたしをどうにかできるとでも? 笑わせんじゃないよ、人間種の男如きが!」
エイヴリーが見せたその表情は、余裕の笑顔だった。
ジャンは再び銃を合体させ、エイヴリーに向かって銃口を向けて構える。
「食らいな……!」
ジャンが銃から一直線の光線を放つ。一直線に走るそれあエイヴリーに命中した。
だが、エイヴリーは空いた手でその光線を握りつぶし、光線をかき消した。
「ば、け――」
ジャンが驚愕の表情で彼女を見ていると、アリスがジャンを下敷きにするように吹っ飛んで覆いかぶさる。
「もうおしまいかい、威勢がよかったのは最初だけじゃないか。この雑魚共が」
エイヴリーがゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。
「もう手はないのか、ジャン……」
「残念だが、「クロンダイクモード」を防がれちまったら、もう手札はないぜ。これ以上は何もできやしねえ」
「ルカは?」
「ぶっちゃけ、「カシャーチー・グラース」が奥の手だったので、もう打つ手がありません。見捨てて逃げていいですかにゃ?」
「逃げたら俺がお前を追いかけて地獄に叩き落としてやる」
「ふえぇん」
ジャンとルカは完全に戦意喪失していた。それもそのはず。持てるものは全部防がれ、ギンは黒焦げになってるし、キリガンは最初の一撃で動けなくなっているみたいだ。カーラは寝ている。これ以上はもう戦いを続行することはできない。
……だが、アリスだけはエイヴリーを睨んで剣を手に持っていた。
「ほう、まだ立ち上がるのか。」
「ああ、まだ不完全ではあるが、奥の手が一応ある。ちなみに、最初からやれって言うのは無しだ。俺自身も自信がないからな」
アリスがそういうと、腰を低くし、剣を握る。
「じゃあ、それを見せてみな。つまらなかったら全員ここで鮫の餌さね」
アリスは無言で頷くと、エイヴリーに突進し、彼女の腹部を蹴る。その程度ではダメージはなさそうではあるが、その次の瞬間……アリスの瞳が深紅に妖しく輝き、エイヴリーに向かって腕を伸ばす。
「木よ、火よ……土よ、金よ……そして水よ!」
エイヴリーの体は浮き上がり、水のような膜の球体の中へ閉じ込められる。アリスは火炎を纏った剣で縦で斬り、切り返す。連続の斬撃を食らわせ、次に雷を纏わせて横へ、そして縦へ切り上げ、銃を取り出して銃弾を何発も打ち込む。
「世を司るすべての事象よ、我に味方せよ!」
アリスは手に持っている剣で、エイヴリーを一文字に切り裂いた。
球体ごと一閃で斬られたエイヴリーは「ぐほっ」と声を漏らし、その場にうつ伏せになって倒れた。
「「夜刀・地禮の型」。これが俺の切り札だ」
アリスはそうエイヴリーを見下ろしながら口にすると、剣を鞘へ納め、「カチャッ」という心地いい音が鳴り響く。
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