複雑・ファジー小説

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新世界のアリス【完結】
日時: 2021/09/10 20:32
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)

はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。


2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!



>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語


・本編

プロローグ>>3-6

Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29

Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57 
11章 >>58-63
12章 >>64-68

Act.3 妖精達の演舞ロンド
13章 >>69

お知らせ >>70

Re: 新世界のアリス ( No.1 )
日時: 2021/08/04 21:40
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
参照: https://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view2&f=1393&no=56

登場人物


・現実世界側

アリス(有栖川龍志アリスガワリュウジ)
モチーフ→不思議の国のアリス アリス
種族→人間

本作の主人公。
特務機関「夜刀神」に所属するエージェント。
相棒のギンと共に、日夜「赤霧」から現れる魔物達と戦う。
10年前、エージェントであった父が目の前で殺され、父を殺した沙華さやかをひどく憎み、仇を討つ為にエージェントとなる。
ギンからは子ども扱いされつつも、ギンのおふざけにツッコミを入れたりなど、ナイスコンビネーション。
先輩の宇佐田弥生やネバーランドの人間からは「アリスちゃん」と呼ばれるが、本人的にはあまりそれで呼んでほしくなさそうな様子。


ギン(銀雪インシュエ)
モチーフ→不思議の国のアリス 時計ウサギ
種族→雪女

アリスの相棒であり、師匠でもある妖怪雪女の少女(?)。
特務機関「夜刀神」に所属し、有栖川家との契約により数百年前から有栖川家の助けとなっている。
ついでに近所の高校に通っており、情報収集兼青春謳歌してる。
面倒くさがりで、「早く帰りたい」「休みたい」が口癖。
すぐに調子に乗り、割と問題を起こしたりするが、その度にアリスから尻叩き百連発をもらう。
ゲーム、アニメ、マンガなどが好きで、休日は部屋に引きこもってることが多いらしい。
アリスの父が亡くなってからは彼の親代わりとして、彼に付きっ切り。
少々過保護な面も見せる。


ヤヨイ(宇佐田弥生ウサダヤヨイ)
モチーフ→不思議の国のアリス 三月ウサギ
種族→人間

特務機関「夜刀神」の技術担当課の課長であり、アリスの先輩。ギンの後輩。
アリスの父「有栖川龍樹アリスガワタツキ」の親友でもあり、彼の子であるアリスを気に掛けている。
アリスとギンの武器や戦闘服などのデザインは、彼女担当。


沙華サヤカ
モチーフ→不思議の国のアリス ハートの女王
種族→不明

アリスとギンの宿敵であり、アリスの父を死に追いやった張本人。
他人を茶化したり、弄ったりする事で反応を伺い、楽しんでいる。
割と嫌味なお姉さんだが、ノリが良く、意外に気立てが良かったりするので油断ならない。
アリスの母と何らかの因縁があるようだが……



・ネバーランド側


ジャン・ドランシル
モチーフ→ジャックと豆の木 ジャック
種族→人間種

カーラと共に大陸を渡り歩くバウンティハンター。
クールでニヒルを自称しているが、その実勘違いキザ野郎と相棒のカーラは言う。
自作の愛銃「ナハティア・ウロラ」&「トワイラーニ・クス」と自作バイク「ゲシュペンスト」を大切にしており、どのくらい大切かというと、「指紋を付けないでくれ」と初めて見せる人間に対してしつこく言う程大切。
格好つけようとちょっとカッコ良さげな言葉を選んだり、クール気取っているが、すぐに地が出てしまいかける。女性に対してもかなり紳士的な態度。でもモテない。


カーラ・ガライダラドン
モチーフ→三匹のやぎのがらがらどん 三匹目のやぎ
種族→獣人種

ジャンの相棒のバウンティハンター。
常に笑みを浮かべ、見ているだけで楽しい気分になる人柄だが、発想が危険でありすぐに物を壊そうとする。
そんなズレた彼女だが、かなりの切れ者で、博識。
普段の態度から一変して、解説役に回ると大抵の人は度肝を抜かれる。
素直過ぎて考えた事をそのまま口にしてしまう、天然毒舌。


イレーナ・ワース
モチーフ→金の糸と虹 男
種族→獣人種

ジャンの元カノである、ホロウハーツ蒸機王国の王都で修理屋を営む技師。
ジャンとは当時彼氏がいなかったので付き合ったが、わずか半年で別れた。
理由は、すぐにカーラと比べられてイラッときたから。
が、今でもジャンとは交流があり、彼の武器やゲシュペンストの修理を買って出ている。
あらゆる機械の扱いに長けていて、大体一目見れば銃器から核兵器まで構造を把握できる。
ジャンのバイク「ゲシュペンスト」のデザイン、制作も手伝った人物。


ララ・ペルボラ
モチーフ→くるみ割り人形 クララ
種族→魔人種

ホロウハーツ蒸機王国の王都で骨董雑貨屋を営む、かなりボーイッシュな人形師。
ジャンとカーラの育ての親の親友であり、彼らを育てた第二の育ての親。
王都では評判の人形師であるため、手先は器用で、ある程度の事はなんだってこなせる。
願い星を砕いて錬って糸のように伸ばし、術式を組み込んだ人形を作ることができる。
そのため、他国からの引き抜きが度々来るが、大体追い返している。
彼女的には人形を兵器に使うなど言語道断。
粗暴な口調の割には気前が良く、とても気さく。


ティラ・ローズライト
モチーフ→いばら姫、ジャンヌ・ダルク
種族→人間種

ローズライト神導王国の現指導者。
威厳に満ちた態度と、人を惹きつける器で部下達や様々な人間から崇拝に近い尊敬を受けている。
「役に立たないものなどない」が口癖であり、どんな人間も使い方次第だと考える。
その為、孤児や心に傷を受けた者、負傷者などに手を差し伸べては自身の軍勢に加えている。
彼女の配下はそんな人間で占められている。


グリスト・ビショップ
モチーフ→オズの魔法使い 南の魔女グリンダ
種族→魔人種

ティラの側近であり、宰相を務める青年。
一見穏やかな印象だが、ティラが絡むと彼女中心になり、彼女の名を連呼している。
星霊術の使い手であり、王国でも1,2を争う才能。
20年前にティラに救われた過去を持ち、彼女を支えるべく努力し、今の立場になるまで上り詰めた。
しかし、その言動と挙動にギンは彼を訝しげに見ている。


ヘンゼル・リティカ
モチーフ→ヘンゼルとグレーテル ヘンゼル
種族→魔人種と人間種のハーフ

アリス達と偶然出会い、彼らに同行する旅の傭兵を自称する少年。
グレーテルと共に行動し、彼女の安全を第一に考える。
悪人などに容赦なく、かなり冷酷な態度。
「悪人に人権などない」という考えを持ち、どんな境遇であろうと悪行に手を染めてしまった以上生きる価値はないと切り捨てる。
その為、度々アリスやジャンと衝突してしまう事が多い。


グレーテル・リティカ
モチーフ→ヘンゼルとグレーテル グレーテル
種族→魔人種と人間種のハーフ

ヘンゼルと共に行動する旅の傭兵。
ヘンゼルの行動や言動を肯定し、また自身も彼と同じ考えを持つ。
人当たりが良く、明るく元気な様子を見せているが、その裏で悪人に対し冷酷。
悪人を一人逃がせば報復に必ずやってくる、根絶やしにしなければならない。
その考えを持ち、ひどければ原形を思い出せなくなる程の肉塊に変えてしまう事も。
それほどまでにヘンゼルとグレーテルは悪人を許しはしないし、彼らの存在を嫌悪している。


ゲルダ・プリムリンク
モチーフ→雪の女王 ゲルダ
種族→人間種

行方不明の親友を探して旅をする少女。常に前向きで、ネガティブな考えを嫌う。
ただひたすらに、ひたむきに目標へ進み続け、絶対に諦めたりしないと強く誓っている。
それでも親友の事が気がかりで、眠れない夜が続いている。


カイ・リィズ
モチーフ→雪の女王 カイ
種族→魔人種

ゲルダが探している、現在行方不明の少年。
ほぼ失われている万物を超越する力、「魔法」を扱える少年であり、氷を無から生み出すことができる。



エイヴリー・マーレミンド
モチーフ→人魚姫
種族→魚人種

海賊船「プリンセス・メロウ」に駆り、マリンフォール透海自由国の海域を自由に回る、「マーレミンド海賊団」の船長。
海賊を名乗ってる割には略奪行為はしておらず、透海自由国の防衛隊と交易商を兼ねて活動している。
面倒になると全部ぶっ飛ばして忘れようとする、傍迷惑な癖がある。


サミュエル・スキュラ
モチーフ→白雪姫 鏡の精霊\人魚姫 海の魔女
種族→スキュラ族

二つの身体と真実を映す鏡「照魔鏡」を持つ、マーレミンド海賊団の副長。
「照魔鏡」を使う事で自在に姿を変えることができ、それに伴って性格も変わる。どちらもサミュエル自身であり、真実の姿。
普段は少年の姿で、エイヴリーと共に昼寝をしている。他人があまり好きでなく、見知らぬ他人を見ると露骨に嫌そうな顔で見る。
女性の姿になると、礼儀正しくエイヴリーのサポートやフォローに回り、とにかく諍いがないように行動するが、
エイヴリーが「全部ぶっ飛ばす」と言い始めると悪乗りしてしまう。
戦闘時や交渉時には鏡の力で姿を変える。


レッドペイン
モチーフ→赤ずきん
種族→不明

赤い頭巾を被った、巨大な両腕を持つ少年なのか少女なのかよくわからない人物。
何が面白おかしいのか、24時間365日常に笑っている。
その思想は恐ろしく、とりあえず出会った人間の頭を吹っ飛ばそうとする。


シン・ビャクヤ
モチーフ→百槇の話 兄
種族→不明

アリス達の前に現れる、目的も意図も一切不明の少年。
無表情で、まるで能面が顔にひっついているかのように、表情を一切変えない。声色も一切変わらない。
戦う前に「僕を食べる?」と言い、相手と戦った後に「僕はおいしかった?」と聞き、意図が読み取れないし、何を考えているのかは一切わからない。


トレイズフィカ
モチーフ→いばら姫 十三番目の魔女
種族→不明

気性が激しく、残忍で他者を下に見ている、魔女のような見た目の女性。
外見、性格共に「黒い」の一言で、いつも腕を組んで他人を上から目線で詰る。
基本的に口より手が先に出る為、面倒になると問答無用で武器を振り回す。


白い影
モチーフ→ピーター・パン
種族→魔人種

皇帝の代弁者として、皇帝の代わりに騎士団や様々な人員、国すらも動かし、実質大陸の最高指導者となっている。
数十年程前から大陸中の老若男女問わず、人々を何かの理由をつけては連行している。
その詳細は不明であり、目的も不透明。だが、連行された者は二度と戻る事もないが、稀に死体で戻ってくることがあり、人々の間では「連行された者は奴隷となり、死ぬまで働かされる」「生き血を絞られ、皇帝がそれを飲み干している」「若い女を侍らせ、男は皆殺される」など、様々な噂が飛び交っていて、何が正しくて何が間違っているかわからず、混沌としている。
さらに、彼が直接辺境の村々に出向いては、心を奪う妖術を使って操り人形にしてしまうという噂もあり、彼の存在は大陸で畏怖の対象となっていて、名を出す者はいない。
その代わり、「白い影」という異名で呼ばれている。

Re: 新世界のアリス ( No.2 )
日時: 2021/07/29 20:46
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

用語

・無限世界ネバーランド
現実世界から世界の壁を通るとたどり着く異世界。
無限に拡がり続ける世界と言われ、果てを知る者はいない。
願い星という、人の願いや思いに反応する天然資源を動力とした技術で発展した世界。
人々の願いや思いで世界が変わるという伝説がある。

・赤霧
文字通り赤い霧、魔物達がそこから現れては人間を襲う。
半月から新月の間に頻繁に起こる。
古くから「異界の門」だと言われ、異世界に繋がってそこから魔物が這い出てくると伝えられている。
しかし、詳細は不明

・ヒト
無限世界ネバーランドに住まう人々の総称。
人種は様々で、種族によって身体的な特徴が違う。
寿命は70~80歳、竜人族は長くても120歳まで生きた者がいる。

人間種…優れた特徴もないが、劣った特徴もない。全ての種族の基礎でもある
獣人種…動物の器官を身体に持つ種族。強靭な肉体と筋力を持ち、稀に人間離れした力を持って生まれる者もいる。
竜人種…尖った長い耳を持ち、瞳が蛇のように鋭い。角や竜の鱗を持つため、竜人と呼ばれる。全種族の中で最も長寿。
魔人種…全種族の中で最も飛びぬけた知力を持つ。ある程度年齢を重ねると身体の成長が止まる。他種族に比べ、星霊術の扱いが秀でている。
魚人種…海や川など、水の近くに住まう種族。エラ呼吸ができるため、水中で活動ができる。陸では肌が乾燥すると動けなくなり、動きが鈍くなる。水中や水辺であれば、獣人種に匹敵する力を発揮できる。女性の数が全体の8割を占め、女尊男卑の傾向がある
翼人種…背中から翼を生やした、数が全種族の中で最も少ない種族。空を自由に駆け回り、家も木の上などに建てる。
妖精種…多種多彩な姿を持つ。世界各地に点在する「神樹ユグドラシル」から生まれ、生まれてからの姿が「幼年期」、ある日を境に突如姿を変えることがあり、それが「成年期」と呼ばれる。謎の多い種族。

・スキュラ族
男女二つの姿を持つ特殊な部族で、「照魔鏡」を持って生まれる魚人族の一種。
「海狼」の異名を持ち、見た目だけでなく、狼のように荒々しくも凛々しい一面を持つ。
同一人物ではあるが、能力も性格も姿も若干異なり、数も魚人族全体から見ると少ない。
共通の特徴としては、以下があげられる。
 ・白い髪と白い肌、そして青い瞳
 ・片方には狼の特徴はない
 ・とくに何の問題もないのだが、同族との恋愛は避けられている。
照魔鏡やスキュラ族の実態などは未だ不明点も多く、妖精族並に不思議な存在。

・魔物
人間の生気を好み襲い掛かる異形の存在。
誤って願い星を取り込んで変異してしまった動物の事である。
性質は、悪感情や生気に引き寄せられ、取り込もうとする。

・願い星
巨大な星が地表にぶつかり、砕け散った際に大陸に散らばった天然資源。空の海から落ちてくることもあり、人々の思いに影響し、反応するエネルギーの結晶。
様々な場所で発見されており、願い星を発掘する鉱山なども各地にある。
長い長い時が経った今もその全容は明らかになっておらず、秘められた力を持つと言われる。
大きさは豆粒ほどの物から家屋程の物まで様々で、大きければ大きい程価値が上がる。
野生動物が誤って体内に取り込むと変異、狂暴化して魔物となる。
願い星は最新技術を用いて錬成する事で純度の高い物質となり、それらはステラクリスタルと呼ばれ、さらなる高度の技術に用いることができる。
無限の可能性を秘めており、その名通り人々の願いをかなえる性質があると言われているが、定かでない。

・ステラクリスタル
精錬された純度の高い願い星。
強力な星霊術を扱える他、人の願いや思いに影響しやすい。
現在は機械の動力や、術式を書き込んだアクセサリーとして扱われている。
純度の低い願い星はすぐにエネルギーが放散されて消耗してしまうが、ステラクリスタル程の純度の高いものになると、すぐに消耗せず長い期間使用できる。
現在、アルタナ大陸では各村や各地域に巨大なステラクリスタルを動力とした、結界装置が置かれており、魔物を退ける結界を張っている。
しかし、群れや強力な魔物には効果がなく、簡単に侵入されることもある。
扱いによっては世界を滅ぼしかねない力を秘めている。

・空の海
願い星が漂う、空の向こうにある空間。現実世界で言う宇宙。
空の海の向こうには異世界があると信じられており、空の海に漂う願い星に思いを馳せると叶うという言い伝えがある。
たまに願い星が空の海から落ちてくるらしい。
この星に住む人々に未だ空の海に到達した者はいない。

・星霊術
願い星に宿るエネルギーを引き出して扱う術式。
普通の願い星ではそれなりの威力なのだが、純度の高いステラクリスタルを使えば、より強力なエネルギーを扱うことができる。
願い星を取り込んだ野生動物はもちろん、人間も訓練を積めば扱う事ができる。
しかし、この力を使うためには個人の資質と訓練が必要で、誰でも使えるわけではない。
さらに難点は、書き込んだ術式以上の力を引き出す事はできない。
現在は願い星のエネルギーを応用した機械が主流の為、扱える人間は少なく、時代遅れともいわれる。

・魔法
かつては使えた者で溢れていたといわれる、万物を超越する力。
現在は使える者はほぼおらず、使えたとしても差別の対象となる。

・シナヴリア・オルデンツ
ベルゼ・フィスタ聖皇帝国の皇帝直属の数十名の騎士の精鋭部隊。
名前を聞いただけで知っている者は恐れおののく程の実力者揃い。
皇帝の命は絶対であり、それが例え罪のない人々をのせん滅であっても、実行する冷酷さを持つ。
隊長はプレスタント荒漠公国公爵である「ピエトロ・アスティ・プレスタント」。

・コード:ダルタニアン
ローズライト神導王国の国王直属の特殊任務実行部隊。
主に他の国の密偵や調査、暗殺などで暗躍している。
現在は国王不在で、国王代理であるティラに従う。
その名を知る者はほぼおらず、所属している者は本名を隠し、コードネームで呼び合う。

七刃兵器セブンスコード
魔女ゴーテルが開発した、反乱軍を鎮圧、或いは殲滅する為に開発した七つある、星霊術や魔法を凌駕する「理から外れた力」を持つ殺戮兵器。
七つの罪源の性質を持つ人間の前に現れる意志を持った武器で、七つの強い意志に反応して、力を与える代わりに、その意志の隙間に入り込んで精神を食らうという。
最終的には精神は食いつくされて理性を失う。そしてやがて、人間ではなく魔物と化してしまう。
しかし、逆に支配できるくらいの精神の強ささえあれば、精神汚染の影響は受けない。

・聖者ミーティアと魔王ソフィア
大陸を魔王の手から救おうとした聖者と、武力ですべてを支配しようとした魔王の戦いを描いた人気小説。全42巻。作者は「ミハイル・ロウ」。
内容は、太古の時代に聖者ミーティアと魔王ソフィアの聖戦。
現在では小説を原作とした絵本や音楽、舞台など、子供から大人まで人気であり、世界で二番目に売れている戦記モノである。
本筋は聖者と魔王が戦うお話だが、著者によっては内容がだいぶ異なっていたりする。





地名

・アルタナ大陸
ネバーランド唯一の大陸。
海の向こうにはまだ大陸は誕生していないとされている。
遠い過去の話、巨大な星が地上にぶつかり、天変地異、地表と環境の変化によって大陸は誕生した。
巨大な星は欠片となって各地に散らばり、人の思いに反応する「願い星」という天然資源として重宝されている。
願い星のおかげで文明は発展し、人々は豊かな生活を送れている。

・ワンダーレラッド不思戯王国
首切り女王「ハーレス・ワンダーレラッド」が統治していた王国。
彼女はわがまま放題、気に入らない者は斬首、税金は重く、国民は苦しみに喘ぐ日々を送っていた。
しかし、若き将ティラ・ハウンゼンが女王を討ち、王国は滅びた。
現在はローズライト神導王国に領地が吸収され、廃城が残るのみ。
赤い薔薇が美しく咲く土地としても有名。

・ルティリーゼ妖精王国
妖精種と魔人種で占められた、妖精達の楽園とも呼ばれる、他国に比べて比較的平和な国。
現国王は「オベロン・トゥーラ・ルティリーゼ」。
今は失われかけている星霊術の技術が発達し、願い星が王国内の山や森の地中に多数埋まっている。
そのため、帝国から目を付けられている。

・ベルゼ・フィスタ聖皇帝国
魔王が統治している、大陸で最も強い勢力を持つ国。
他国に押し入っては好き勝手し、目を付けられた者は帝国へ連行される。
魔王は美しい女子供を奴隷にして手元に置き、それ以外は斬首の刑に処す。という不穏な噂が大陸中に回っており、恐れられている。

・ローズライト神導王国
聖者が創立した王国と言われている。
その歴史は1000年にも上り、聖者の縁者が国王となり、代々統治している。
現在、国王が変死を遂げ、国王が選んだ縁者「ティラ・ローズライト」という平民の女性が国王代理となっている。

・マリンフォール透海自由国
魚人種が暮らす、海と川など、水に囲まれた国。巨大なブルーホールを中心とし、7割が水で占められた国である。
かつて栄えていた「東郷」と呼ばれる国の末裔たちが暮らす東部区域と、大陸南部から移住してきた末裔たちが暮らす西部区域に分かれ、それぞれのトップが統治している。
王は存在しないが、海皇ネプテューンという称号を持つ者が国のトップであり、国を治めることを認められる。
海皇は年に一度の闘技大会で優勝した者に贈られる。
自由を愛する人間が多く、他国から自由を求めて移住してくることもしばしば。
女尊男卑と弱肉強食の傾向が強い国で、力が全て。
血気盛んな人物が多く、目が合っただけで喧嘩を売られる事も。

・ホロウハーツ蒸機王国
蒸気機関が大陸で一番発達している王国。
蒸気と歯車が動き、油のにおいが蔓延しており、多くの技術者たちが王都にいる。
線路や蒸気機関車が王国中を駆け巡っており、そこそこ小さな村にも駅がある。
帝国が隣に位置するため、時々帝国軍がやってくる。

・プレスタント荒漠公国
帝国皇帝の縁者が統治する、帝国の傘下にある小国。
砂漠と荒野に囲まれ、降水量も少ない不毛の土地。
その為、帝国の威を借りて他国へ侵入して略奪を行う者もいる。

・ハイリュエル浮遊皇国
どこにあるかも本当に存在しているのかも不明な国。
絵本や童話や、吟遊詩人の歌などで語り継がれているが、創作上の国ともいわれる。
噂では天使がそこで暮らしており、人々の行いを見ている。とある。

Re: 新世界のアリス ( No.3 )
日時: 2021/06/13 00:33
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

プロローグ


 分厚い雨雲に覆われ、薄暗く、冷たい雨が降りしきるその日。その日は朝から雨で、たまに強く降る悪天候だった。

 黒い礼服を着た黒髪の少年と、同じく黒い喪服を着た少女が傘を片手に見つめる先は、「有栖川家之墓」と刻まれた墓の前。二人が立っているのはどこかの墓地であった。
 墓の前には大量の花束と、雨で濡れてしまってとっくのとうに火が消えている、線香の束。少年も少女も顔色が悪くうつむき、墓を見続けていた。

 ふと、少年が口を開く。

「父さん……」

 少年はうつむいたまま、虚空に向かって言葉を発していた。視線も墓を見ているというより、別のどこかを見ているようだった。
 隣の少女――「ギン」はそんな彼を見て、悔しそうに歯を食いしばり、涙を流す。そして、震えた声を口にした。

「わしのせいじゃ……わしが、わしが龍樹たつきを……! わしが殺したのも同然なんじゃ……わしが止められていたら……龍樹は死ぬことはなかったんじゃ……」

 ギンはその場に座り込む。喪服のスカートや足全体が雨で濡れるが、彼女はそんなこと気にも留めず、うつむいて涙を流し続ける。

「すまぬ、龍志ぃ……すまぬ……」

 懺悔の言葉を繰り返すギン。それで何かが変わるわけでもないが、彼女は目を赤くしてしゃくりあげる。
 しかし、少年――「龍志」は首を振る。

「違う、ギンのせいじゃない……俺のせいだ。俺が、父さんの前に出たから、あの"赤い女"は俺を狙って、それで……」

 悔しそうに歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。

 しばしの沈黙。雨は相変わらず降り続くし、その時間がなぜか長く感じてしまう。おそらくそんなに時間は経ってないだろうが、息が詰まるんじゃないかと思うくらい長い、長い沈黙だった。黙ったまま二人はそのままの体制で、気まずい空気になる。

 雨の音が弱まり始めたころ、龍志が何かを決意したかのようにギンの手をつかんで、彼女を手を引いて立ち上がらせる。

「ギン、俺さ……父さんの跡を継ぐ」
「……龍志?」

 唐突の龍志の言葉にギンは驚いて彼を見つめ、目を丸くする。

「父さんは、あの赤い女に殺されたんだ。顔はよく見えなかったけど、赤霧を纏った不気味な女だった。あいつを倒すためには、俺は父さんの跡を継いで、「夜刀神」のエージェントになる。そしたらあの女を探せるはずだ」
「……エージェントになるのか? そんなことをせずとも、わしが――」
「俺がやらないと意味がない」

 龍志はぴしゃりと言い放つ。よく見ると、彼の目元は赤く腫れている。先ほどまで涙を流していたのだろう。だが、目元が赤くとも、ギンの目の前にいるのは、決意した一人の男だ。

「ギン、俺に戦い方を教えてくれ。一人前になれるくらいに……頼むよ」

 龍志の瞳がギンを真っ直ぐ見据える。ギンは彼の言葉に戸惑いを見せたが、やがて彼を見つめ返して、大きく頷く。

「……修業は厳しい、龍樹のようなエージェントに仕上がるのは、時間がかかるぞ。それでも良いのか?」
「当たり前だ。必ず、父さんみたいに強くなる。今はまだ無理だけど、絶対だ」

 ギンはその言葉を聞いて「ふふっ」という言葉を漏らし、目元の涙を服の袖で拭き取る。

「承知した、明日からお前をみっちりしごいてやるぞ。覚悟するがよい」
「望むところだ」

 いつの間にか雨は止み、分厚い雲の隙間から夕陽が漏れていた。その光が二人を照らす。まるで、二人の発足を祝福するかのようであった。


Re: 新世界のアリス ( No.4 )
日時: 2021/07/31 11:35
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 そして、10年の時が過ぎた。


 東京、渋谷。暗闇に沈み、赤黒く禍々しい色の霧に包まれたそこは、いつもは人で溢れる場所だが……今日は赤い服に身を包む背の高い人物と、隣のジャージの上着を羽織る小柄な人物を除いては人っ子一人いない、いつもの渋谷とは打って変わって閑散としていた。
 背の高い人物は、右手には刀のような長い武器を、左手には暗闇でも一際目立つ鈍色の拳銃を構えている。一方、小柄な人物は、暗闇という光のない世界では、鈍くとも輝く杖――錫杖を握り、地についている。二人は互いに背中合わせになり、何かを待っているようだった。

 しばらくの沈黙の後、赤い霧から、獰猛な獣の唸り声が響き渡る。一匹ではない。二匹……いや、それ以上。その唸り声をあげながら、霧から暗闇に紛れ込むような黒い毛皮の、狼のような獣がゆっくり、ゆっくりと二人の前に現れる。
 狼の姿を見た瞬間、小柄な人物が深いため息をつきながら、大層面倒くさそうにぼやく。

「あーあ。はよう帰りたい。帰って寝ながらファイトしたいのじゃあ~……よし、そんじゃお疲れ!」

 その声は少女のものだった。声の主は踵を返してどこかに去ろうとする。しかしその直後、頭に拳骨を振り下ろしたような音が鳴り響いた。

「勝手に帰ろうとするな、ギン! 敵前逃亡は戦士の名折れだろう!」
「わし戦士ちゃうもんエージェントじゃもん。龍志がわしの分戦えばええんじゃ、わしは疲れておるも~ん!」

 ギンと呼ばれた人物は抗議するように、杖でガンガンとアスファルトを叩く。隣にいる龍志はまたギンの脳天に拳骨をお見舞いした。鈍い音が響く。

「バカやってないで、さっさと片づけるぞ。いいか、ギン。今日は真面目にやるんだぞ!」
「フリか?」
「フリなわけあるか!」

 ギンは多少がっかりしたものの、すぐに狼たちに向き直る。が、その瞬間、狼達が口を大きく開けて襲い掛かってきた。龍志とギンは素早く武器を構え、対応する。

「ほっほう、わしらに盾突くワン公めが、200年早いわァ!」

 ギンはそう叫び、錫杖を逆手に持ち、両手で振り回す。錫杖が襲い掛かってきた狼達を薙ぎ払い、地面にたたきつける。龍志も負けじと狼達の口の中に銃を打ち込んだ。狼たちの口からは赤い血液がほとばしり、狼が悲鳴を上げる。
 当然、それだけでは終わらず、狼は尚も襲い掛かろうと二人にとびかかった。

「……ったく、頭の悪いワンちゃんじゃなぁ」

 ギンは頭を掻き始め、錫杖を使って狼の腹を突く。狼はよだれを垂らして再び吹き飛ぶ。その隙をついて別の狼がギンを襲うが、ギンは冷静に錫杖を持ち直し、狼の脳天に思いっきり叩き込んだ。

銀雪魔術インシュエウィザード!」

 ギンは倒れた狼たちに向かって、ジャージの懐に隠してあったお札……基、お札型の小型爆弾を投げつけた。爆弾が狼たちに触れると、爆発し吹き飛んでいく。吹き飛んだ狼たちは赤い靄を発しながら消滅した。

「フッ、汚ねぇ花火だ」
「何が汚い花火だ、だ。魔術とかいいつつ思いっきり現代兵器を使ってるじゃないか」

 ギンの決め台詞に背後から鋭いツッコミが飛んでくる。ギンが狼たちを殲滅している間にも、龍志は手早く狼たちを片付けていたのだ。

「細かいこたぁナシじゃよ。そんなことより、これで任務完了ミッションコンプリートかや?」
「ああ、あとは――」

 龍志が懐に手を突っ込むと、背後から風が舞う。ギンが目にしたのは、倒したと思っていた狼が龍志にめがけて突進し、襲い掛かろうとする瞬間であった。

「龍志、後ろ、後ろォーッ!」

 狼が大口を広げ、龍志の頭にかじりつこうとする。
 だが、それは叶わなかった。

 バシュッという音を上げて、狼の頭が吹き飛んでいたからだ。龍志は銃を担ぐように右腕を左肩に回し、正面を向いたまま狼を打ち落としていたのだ。
 龍志はギンに向かって涼しい顔をしながら、衣服についた埃をはたく。

「ギン、その古典的なツッコミはどうかと思うぞ」
「お、おう……き、肝を冷やせおる……」

 ギンは目を見開いたまま龍志を見つめ。龍志はというと、周りに赤い霧が消えていくのを確認し、スマートフォンを懐から取り出して、誰かに電話を掛けた。

「……こちら、有栖川。課長、本日の任務、滞りなく完遂。これより帰還します」

 龍志はそれだけ簡潔に述べると、ギンに向かって「帰るぞ」と言って踵を返す。ギンはというと、「お、おう」とだけ言うと、龍志の後を追った。

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.5 )
日時: 2021/07/18 22:57
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 有栖川龍志ありすがわりゅうじ、そして銀雪インシュエ
 二人は日々このような異形と戦っている。
 二人が所属するのは、政府の特務機関「夜刀神やとがみ」である。その詳細、歴史は総務部長ですら聞かされていないが、赤霧が発生した際に現れる「魔物」と呼ばれる異形の対処を行っている。政府は対処するべく一定区域内を閉鎖特区として指定し、人が出入りできないようにしている。ガス漏れだとか、なんだと様々な理由を適当につけては、立ち入りを禁止する……これも一般市民を守るためである。閉鎖特区はもう5年程前から指定され、人々が立ち入る事はなく、閑散としているのだ。現在、指定されている閉鎖特区は、渋谷と秋葉原、そして六本木。その三つの街から頻繁に赤霧が発生しているのだ。
 赤霧は新月から半月の間の夜間に頻繁に発生する、古くから「異界の門」と呼ばれているが、これまた詳細は不明。しかし、そこから魔物が這い出て闇に紛れ、人々に襲い掛かるのだ。
 そこで、夜刀神に所属するエージェントは、魔物に対処するために日々訓練を重ねている。龍志も銀雪も、例外ではなかった。

 二人は赤霧の対処を終わらせ、事務所に戻ってくると、明るい声が二人を出迎えた。

「ご苦労様だよ"アリスちゃん"にギンちゃん!」

 二人の目の前には、眼鏡をかけた、頭にゴーグルをつけている桃色の髪の銀雪よりも背が高い女性だ。服装は和服の上に赤いジャケットを羽織っている。ニコニコ笑顔を見せて、二人を歓迎した。

「お疲れ様です、「宇佐田弥生うさだやよい」先輩。あと「アリスちゃん」はやめてください、俺は一応25歳の男ですよ」
「おぉう、小説初登場みたいなフルネームの呼び方! あと、いいじゃんアリスちゃん。かわいいのに」

 弥生はアリスの反論に対し、ぷくーっとほっぺを膨らませていた。そんな弥生に、アリスは心底呆れて肩をすくめる。が、そこにギンがニマニマと笑いながらアリスを見た。

「よいではないか、アリスちゃん♪」
「いや、よくはないな。お前だって765歳……より上なのに「ギンちゃん」なんて呼ばれて恥ずかしくはないのか?」
「ニックネームには年齢は関係ないのじゃ。それに、わしの方がお姉さんなんだから、そういうことには結構寛容なんじゃよ。アリスちゃんもはよう大人になって、何を言われても怒らぬ不動明王のような寛容力を持つことじゃぞ」
「ギン、あとで百叩きだ」
「そういうとこじゃっちゅーの!!」

 二人の漫才を見ながら、ハイハイと手を叩く弥生。事務所の扉を大きく開け、二人を誘導する。

「ハイハイ二人とも、そんなことより早く入りなよ。お夜食用意してるよん」

 アリスはふうっとため息をつきながら、ギンはほっとしたような顔つきで事務所の中へと入った。
 事務所の中は地下なのか、薄暗い照明が天井からつり下がっているだけで、かなり薄暗い。冷たい壁に囲まれ、資料がこれでもかと詰め込まれた本棚やら、ロッカーが並んでいる。弥生とアリス、ギンの分のデスクと、他二つのデスクが固まって配置されており、デスクの上にもまるで富士山のように高く資料が積まれている。地震でもきたら残さず床にぶちまけそうなほど。
 弥生が二人を来客用のソファに座らせ、弥生も向かい側に座る。テーブルの上には、銀色の鍋。中には小豆色の液体がたっぷりと詰まっている。白いものも浮かんでいるので、アリスは意味はほとんどない質問を弥生に投げた。

「なぜ、ぜんざいなんですか?」
「ん、だって食べたかったから、総務に言って買ってきてもらった」
「……総務をこき使う課長なんて、あなたくらいですよ」
「お褒めいただき光栄の極み♪」
「いや……はぁ……もういいです」

 弥生はアリスを尻目にぜんざいを器に盛って、アリスとギンに手渡し、自身の器にも盛る。まだ温かさがあり……いや、それは作り立てのような熱を帯びていた。

「これ、いつから――」
「ナイスタイミングで二人が帰ってきたからさ~」

 アリスの質問よりも早く、弥生が答える。どうやら、二人が任務中にはもうすでに作ってあったらしい。

「さっすがやっさん! わしらの事をちゃんと考えておったんじゃな!」
「もちのろんだよ、ぜんざいだけに。ギンちゃん、好きでしょ、ぜんざい」
「わぁいぜんざい! ギンぜんざいだあいすき!」

 アリスは完全に蚊帳の外で、弥生とギンはなぜかダジャレで笑いあい、意気投合しているようだった。

「あ、そうだ。アリスちゃん……」

 弥生は思い出したかのようにアリスを見る。

「今日の赤霧の発生直後に、歪みっていうか……なんていうか。空間の変異っての? まさしくそれが起こったわけよ」
「どういうことですか? 空間の歪みはほぼ赤霧が発生した直後に起こってるものなんじゃ?」

 アリスは不思議そうに首をかしげる。弥生もそれに同調し、ソファの脇に置いてある紙束を手に取って見始めた。

「ん、赤霧が発生するとね、わずかに空間が歪むわけだけど、それは別に支障がない空間変異なんだよね。でも今日はなんか……いつもは1秒以内に収まるものが、今日は5秒以上続いてたわけね」
「なんじゃそりゃ、そうなるとどうなるんじゃい?」

 ギンが会話に入り、紙束をみようとする。

「空間の変異が長けりゃ長いほど、異物がこっちに流れ込んでくる可能性が高くなるわけ。魔物にしろ、異界の存在にしろ、それらがこっちに紛れ込んできちゃうのよね」
「しかし、それにしちゃあ、魔物の数はそこまで多くはなかったんですが?」
「霧の量は?」
「……いつもより濃かった……かもしれません」

 弥生はそれを聞くと、先ほどまでのふざけていた態度はどこへやら、真顔でアリスとギンを見る。

「今後、赤霧の量と魔物の量には注意しないとね……なんだか大変なことが起きそうな予感がするのよ」
「……確かにのう。最近はなんというか、戦闘の度に誰かの視線を感じるんじゃよ。……閉鎖特区のはずなのに」
「……何かが起きる前兆という事か」




 しばしの沈黙。三人は互いの顔を見合わせるが、唐突に弥生がその沈黙を破る。

「よし、じゃあお姉さんが解析してしんぜよう! 二人はもう寝てていいよ、もう日にち変わっちゃってるし」

 ギンはそう言われて壁に掛けてある電波時計を見やる。確かに、時計の針は0時21分を指していた。

「そうじゃな、龍志。わしは疲れた、シャワー浴びて寝るわ」
「ああ、そうだな」

 アリスは頷いて、弥生に「それじゃ、お疲れ様です」と一言言ってから、事務所を後にする。ギンもそれについていき、弥生に向かって手を振って事務所を出た。

「なーんか、嫌な予感がするのよねぇ……女の勘ってやつかしら」

 二人が出て行った静かな事務所の中で、弥生は腕を組み、紙束をもう一度睨みつけながら、そうつぶやいた。


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