複雑・ファジー小説
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- 新世界のアリス【完結】
- 日時: 2021/09/10 20:32
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。
2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!
>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語
・本編
プロローグ>>3-6
Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29
Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57
11章 >>58-63
12章 >>64-68
Act.3 妖精達の演舞
13章 >>69
お知らせ >>70
- Re: 新世界のアリス ( No.41 )
- 日時: 2021/08/08 00:08
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
アリス達は屋外へと出る。目の前には人一人が入れそうな大きな口を開いた2本の連なる砲台が聳え立っていた。その巨大な主砲を仰いでいると、キリガンが一つの考えを皆に伝える。
「そういや、わざわざコックピットに行かなくても、動力を叩けば戦艦が沈むんじゃない?」
「それもそうじゃ。今から行くかえ?」
二人の提案にアリスは首を振った。
「ダメだ。俺達は何も戦艦を沈める為に動いてるわけじゃない。確かに動力エンジンを叩けば沈むだろうが、それで国の防衛が手薄になり、他国への抑止力が消えたら大問題だろう」
「あ、それもそうか。曲がりなりにもアリスとギンは親善大使だもんね」
「んん、じゃが、いいのか? 親善大使が防衛戦艦に侵入して」
「正当防衛だ」
「便利な言葉だね」
アリス達が二連主砲の脇を通ろうとすると、近くにあったスピーカーからけたたましい少女の声が響き渡る。
『あーあー。そこの弐連主砲の脇を通る愚かな侵入者に告げる! これ以上進むなら覚悟はできてるんでしょーねぇ!? 私の"究極必殺ビックリドッキリゴーレム"を起動して目に物見せたるわよ! いい!? 本気だから! 超☆本気だから!!』
一方的にブツンと切り、ゴゴゴという重い音と共に地面が揺れる。アリス達はそれぞれ足を踏ん張り、周囲を見回しながらその揺れで体が倒れないようにしている。やがて、揺れが収まると、目の前に見上げる程の巨大な影が天高く伸びていることに気が付いた。
白いボディ、巨人のような巨体。両肩には先ほどまで見ていた弐連主砲を片方ずつ乗せており、ところどころにピンク色のラインが光っている。頭部部分にはバイザーがあり、青色に光る。
3人はそれを首が痛くなるほど見上げて、目を見開いて驚愕の表情で口を開けて驚いていた。
「お、おい、あれ……なんじゃあのMSみたいなんは!?」
「うう、起動してしまったか……「超弐連主砲」!」
「そのまんまだな……知っているのか、キリガン」
「名付け親のボキャブラリー貧困なのがいけない。そりゃ、マリンフォールで一番有名な戦艦がこの「ラプンツェルの砲撃塔」だからね。冒険者連合協会の間で「要注意」「不用意に近づくな」って太鼓判を押されてるからね。と、とにかく……あれが起動したってことは、俺達は無事に帰られるかどうかも怪しくなってきたってことだ!」
「使い方間違っておるが……なんじゃとぉ!?」
キリガンの説明に、ギンは勢いよく顔を近づける。
「具体的には!?」
「戦えばわかる!」
「だよなぁ!」
3人は武器を構え、超弐連主砲を睨む。
『やっておしまい、超弐連主砲! 海皇の敵は私の敵なのよ! 粉々にしておやりッ!』
少女の声に呼応するように、超弐連主砲は腕を振り上げた。
「ま、まずい! あんなもん振り下ろされたら船が真っ二つじゃぞ!?」
『へーきよ、10年くらいこの戦艦の管理をしてるのよ? この程度じゃ床に傷一つ付けられない、聖徳太子もビックリ設計なのよ!』
「つーか、こっちの声が聞こえとるんのかい」
少女の声の言う通り、超弐連主砲が腕を振り下ろし、爆音と地響きと共に床を殴りつけるが、傷はついておらず、少しへこんだような気がする程度であった。
「ギン、何かアイデアはないか?」
「流石に巨大ロボットを相手に良い提案は思いつかんよ」
「無視してコックピットを目指すというのは?」
アリスがキリガンを見ると、彼よりも少女の声がそれに答えた。
『あ、万が一にも超弐連主砲を無視して私の部屋に不法侵入するのは無駄ァ! 超弐連主砲が起動した時点で部屋のロックが自動作動するわけね。しかも高圧電流も流れてるから、生身の人間なら黒焦げイモリになるわ。がははははがははははっ! がはははがははっ! ……ふぅ』
超弐連主砲がこちらを踏みつけてやろうと足を振り上げる。振り下ろされ、再び戦艦が激しく揺れ、波が激しく立っていた。
超弐連主砲はギンに狙いを定めると、肩に乗っている主砲で熱線を発射する。アリスは咄嗟にギンを抱えて走り、すんでの所でアリスとギンは熱線を避けた。熱線を浴びた床は黒く焦げ、鉄が焦げた臭いが漂う。
「こいつぁグレートなスーパーロボットじゃぜ……」
「ああ、そうだな。あの二つの大砲と踏みつけ攻撃。人間じゃない分、動きが止まらないから厄介だ。それに防御力……鋼鉄が相手だと、こっちの武器がすぐにダメになるな」
「あわわ、ピンチピンチ、大ピンチだよ!」
キリガンが弓を構えて矢を放つが、矢は鋼鉄のボディには通用せず、カンカンという軽い音を立てながら矢が落ちて行く。そんな様子を見せられて、キリガンはため息をつきつつ涙を目元にためながらアリスを見ていた。
「海に落としたらええんちゃうん?」
ギンがそう言うと、その疑問にも少女の声が答えた。
『防水機能もカンペキなのよ! 向かうところ敵なしなのだわ! ムハハ、ムハハハ、ムハハハハハハハッ!』
「クソッ、あとでぶん殴ってやる」
キリガンも珍しく怒っており、拳を握り締めている。
「よし、わかった。 ちょっと待ってろ皆」
「龍志、何をするつもりじゃ?」
「所詮は機械だ」
アリスが静かに言うと、勢いよくその場から足を踏みしめ、地面をけり上げて走る。その走行速度はかなり素早く、超弐連主砲の膝元部分まで壁に張り付いて走り、膝元まで来ると隙間を手でつかんでぶら下がった。
「ぎ、ギン……俺は夢でも見てるのか!? 人間が壁を走ってよじ登るとかドラマとか漫画の世界だけかと思ってたよ……」
「わしの弟子じゃからな」
「しゅごぉい……」
キリガンは口を開けて驚愕しながらアリスを凝視していると、ギンは腕を組んで自分の事を自慢するように鼻を鳴らす。
一方、アリスはというと、パーツとパーツの隙間を狙い、腰から下げていた刀剣を鞘から抜いて隙間に向かって刀剣を力の限り突き刺した。
『な、なにしてるのぉ、やめなさい! そんなところいじくりまわしたら――』
少女が慌ててアリスを制止するが時すでに遅し。超弐連主砲がバランスを崩し、海に向かって倒れる。アリスはキリガンとギンに向かって「船内に避難しろ!」と叫ぶと、アリス自身はその場から飛び降り、キリガンはギンの腹に手を回して、片手で抱えて急いで逃走した。アリスも遅れて船内まで走る。
その間にも超弐連主砲が海へ倒れこみ、海へ着水する。その後、船が機体の足にバランスを奪われ、傾き始めた。機体が完全に海の中へ入ると、大きな波に揺られ、戦艦が一回転する。大きな波と揺れと共に戦艦が再び海の上に着水し、何事もなかったように海の上に浮かんでいた。
「アリス、無事かい!?」
「ああ、キリガン。ギンは?」
「くぅ、キリガン……乙女を運ぶ時はお姫様抱っこと相場が決まっておるじゃろうがぁ!」
「……無事で何よりだ」
ギンが口うるさく抗議をするが、アリスは頷きながらギンを見る。
『ぐ、ぐぎぎ……ぐぎぎぎっ!』
スピーカーから少女の声が流れる。
『おのれおのれおのれおのれおのれぃ! くやしぃ~! ……HEEEEYYYYあァァァんまりだァァアァAHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!! オオオオオオおおおおおおれェェェェェのォォォォォさいこうけっさくゥゥゥゥゥがァァァァァ~~~~!!』
突如彼女の大泣きしながら叫び喚く声がスピーカーから流れ、彼女は恐らく嘆き続けていた。
「……エシディシかの?」
「そんなことより、コックピットに行くぞ」
「りょ、了解」
3人はコックピットまで向かい、再び走り出した。
- Re: 新世界のアリス ( No.42 )
- 日時: 2021/08/08 22:54
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
コックピットと思しき鉄の扉を開ける。中は文字通り「ぐちゃぐちゃ」であった。ピンクの壁、水色の水玉模様の床。ぬいぐるみやらドレッサーがそこら中に倒れており、家具もお嬢様が好むようなピンクや白でコーディネイトされた、アンティークなもので、かなり値が張りそうだが、それらももちろん倒れている。中心で大きなぬいぐるみの上に寄りかかる、水色の魔女の三角帽子を被った、髪の長い少女がこちらの存在に気が付いて起き上がる。長すぎる水色の髪、ピンクのグラデーションがかかってかわいらしいが、そのかわいらしい見た目に反して、水色の瞳は死んだ魚のような眼をしているし、服装もピンクのキャミソールの上に、ど真ん中に「しんよこ!」という文字が書かれた白いTシャツ、下はピンクのパンツと、かなりだらしない格好だった。
彼女が腕を組み、アリス達を見る。
「あんた達、よくもやってくれたわね、さんざん泣きわめいてスッキリしたわ。ここまできたのなら、もう観念してあげるわ」
スピーカーからけたたましい声を出していたのは彼女のようだ。しかし、数人ぐらいいると思ったが、見たところ一人だ。
「あの、数人くらいの声がしたと思うんだが……」
「ん? ああ、人工知能をつけたぬいぐるみと自律人形。それからリンクレットの「ルリルリ」よ、それ」
「ルリルリ?」
彼女が指をさしながら説明してくれるが、アリスは聞きなれない単語に首をかしげる。
「知らないの? リンクレットに標準装備されている人工知能。「RURI-RURI-SYSTEM」、通称「ルリルリ」よ」
『知らない人なのだ、よろしくお願いするのだ~♪』
彼女がリンクレットの画面を見せながら説明をする。その中にはオレンジ色の髪の少女がこちらに向かって手を振り、ニコニコ笑っていた。かなり高性能な人工知能だな、とアリスは感心する。
「で、あなたがラプンツェルの砲撃塔の――」
「「ヴェルシェーナ=ラプンツェル・カタラッタ=ヤーガ」。ラプンツェルの砲撃塔制作者であり、ここ10年不落の戦艦の異名を恣にする、「魔女ゴーテル」の末裔であり、天才科学者兼自由国西部防衛隊隊長よ! 図が高ーい、図が高い! 控えおろう! そして「ラプンツェル」様とお呼び!」
ラプンツェルは腰に手を当てて「カカカッ」と笑う。
「なんじゃこのホエホエ娘は」
「誰がホエホエ娘よ!」
ギンとラプンツェルが睨み合っているが、アリスがその会話に割って入った。
「で、ラプンツェルさん。俺達は海皇の敵ではありません。むしろ、和睦を進めようとティラ閣下に親書を預かってきた大使です。あなたを邪魔したかったんじゃない」
「……ふぅん、そうだったの。まあ、イワシ狩りかと思いきやマッコウクジラに、逆に狩られるなんて。はぁ、男だからって油断したわ」
「正当防衛だよね?」
キリガンが不安げに言うと、「チッ」とラプンツェルに舌打ちをされる。
「……早く帰りたいなぁ」
キリガンはがっくり肩を落として落ち込んでいた。
「兎にも角にも、とりあえず海皇に謁見すればいいじゃない。送りましょうか?」
「いや、俺達はエイヴリーに送ってもらう約束を――」
「チッ」
ラプンツェルが明らかに不機嫌になり、舌打ちを聞こえるようにする。ギンは彼女を見て「女ってこええのう」なんて言いながらアリスの後ろに隠れる。
「とりあえず、通行を許可するわ。通ればいいじゃない」
「ああ、ありがとう、ラプンツェルさん」
「ラプンツェルでいいわよ、マイプリンス♪」
「……えっ?」
ラプンツェルが突然アリスに抱き着き、頬を押し当てる。
「だって、ラプンツェルの砲撃塔を陥落させたのは、あなたが初めてよ。しかもこんなに色男……どうどう、私のお婿さんにならない?」
ラプンツェルはアリスを見上げて上目遣いでこちらを見ている。アリスは困ったように頭を掻きながら「すまない、それは勘弁してほしい」と断った。
「でも、通行を許可してくれてありがとう、ラプンツェルさん」
「チッ」
キリガンに話しかけられると、ラプンツェルは舌打ちをしてキリガンをきつく睨む。キリガンは悲しくなり、俯いてしまった。
「この女は好かんのう。ホラ、龍志! さっさと戻るぞ!」
「あ、ああ……」
ギンは心なしかむすっと頬を膨らませ、アリスの空いている腕を引っ張ってコックピットから出ようとする。アリスはギンがなぜか不機嫌なため、よくわからず手を引かれるまま、ギンについていく。
「あの、マイプリンス、お名前を教えて頂戴!」
「あ、ああ。有栖川龍志だ」
「アリス様……素敵なお名前ね」
「……ああ、そうだな」
またまたアリス呼ばわりにため息をつきながら、アリス達はラプンツェルの砲撃塔を後にした。
―――――
「おかえりなさい、アリスさんにギンさん、ついでにキリガンさん」
「やっぱ俺はついでなのね」
キリガンはなんだか落ち込みながらそう言うと、サミュエルは首をかしげながら「何かあったんですか?」とアリスに尋ねるが、アリスは「聞かないでやってくれ」と首を振る。
「いやーご苦労さん。おかげであのジャリガキに目にもの見せてやれたし、あたしゃ最高にハイって奴だねぇ! ハハハハハッ!」
エイヴリーが上機嫌で叫んでいると、周囲のオペレーターもエイヴリーに調子を合わせて「そうですね船長!」「やりましたね」と上機嫌であった。
「てことで、これから"アトラ・ティエス"に向かいます」
「アトラ・ティエス?」
サミュエルの言葉にギンが首をかしげると、キリガンが説明してくれた。
「マリンフォール西部にある大きな宮殿の名前だよ。西部を治める「マオーシャ=ネプテューン・マリンフォール」がいるんだよ」
「ネプテューン……彼女が今の海皇というわけだな?」
「そう。マリンフォールの人々は皆彼女を支持してるんだ。実際、彼女が治めている間の最低限の規則を守れば、マリンフォールの皆は自由気ままに暮らせてるしね」
キリガンの説明にサミュエルもエイヴリーも頷く。
「あたしもあのお方がいなけりゃ、交易商とか防衛隊長なんてやってないさね」
「器のおっきい人ですよ。会えばわかります」
アリスもギンも、その言葉を聞いて興味がわいたようである。
「二人のようなのをも手名付けられるその、マオーシャ殿って人はどんな人なんじゃろうか……!?」
「ギン、失礼だぞ」
「ハハッ、いいよいいよアリス。でも二回目はシュレッダーにかけるからね」
「おぉう……」
エイヴリーが笑みを浮かべそう言うと、ギンは青ざめた顔で口元を両手で隠した。
- Re: 新世界のアリス ( No.43 )
- 日時: 2021/08/09 23:42
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
8章 舞・闘・全・夜
一方、ジャンとカーラとルカは、マリンフォール東部にある宮殿「龍寓殿」へと向かって、マリンフォールの砂浜を歩いていた。龍寓殿は、東部の岬の上に建ち、マリンフォールのブルーホールを一望できる場所にあると、ルカが話していた。その話を聞きジャンは頷くが、カーラは不機嫌そうに黙っているだけで、今も尚ルカを睨みながら歩いているわけだ。
「もう、カーラさんってば……私に惚れましたかにゃ?」
「次そんな事言ったら首と胴体を引きちぎるから」
「ヒィッ!?」
カーラが拳をポキポキと鳴らしてルカを脅していると、ジャンはため息をついた。
「カーラ。ミス・キャットが怯えているだろう。もう少し仲良くしなさい」
「無理だよ。私、好きの反対は殺意だもん」
「それでもやめなさい。その事は商会連盟にでも言っておくから、今は仲良くしろ、アンダースタン?」
「ぶぅ~!」
カーラは頬を膨らませ、そっぽを向く。「やれやれ」と首を振るジャンは、ルカの方へ顔を向けた。
「すまないな。俺は二人が何があったかは知らないが。こいつは見ての通り、素直過ぎて態度に出るタイプだ。本気で嫌いな奴にはこの態度だから、もう見て見ぬふりでもしてくれ」
「了解ですにゃあ~、私はそこんとこ結構ドライなんで大丈夫ですにゃよ」
「助かるね、何事もスマートに。それが俺の信条さ」
ジャンはルカの返答に満足げに頷く。
3人がしばらく歩いていると、カーラは目の前に向かって指をさした。
目の前には、砂浜から見える岬の上に宮殿……というより、所謂日本の城のような石造りの巨大な建物と、それを囲うように設置された石造りの壁。なんというか、城塞というべき見た目であった。
「ねえ、あれが龍寓殿?」
「お、おお! そうですにゃ。立派な宮殿、「龍寓殿」! それを囲うように配置されている要塞「悪滅鳴神・丙」! あの悪滅鳴神を管理する「ヒコナ・リュウセイ」さんは、意外と話のわかる人ですから、すんなり通れると思いますにゃよ」
「え、それ、フラグ?」
カーラは不安げに首をかしげるが、ルカは右手を頬に当て、左手をひらひらと振る。
「だいじょうヴイですよぉ。だって私、2回くらいここを通りましたもん」
「ま、ここはマーチャントキャットを信じようぜ」
「さっすがジャンさん! お話がわかりにわかりまくりんぐですねぇ!」
ジャンが前に進むと、ルカも大喜びで歩き始め、カーラもそれについていく。
しかし、ジャン達が宮殿へ近づくと、突如、警告音がその場に鳴り響いた。その耳を劈くような耳障りな音に、3人は耳をふさぐ。
「な、なんだ!?」
「耳が痛いですにゃあ~~~っ!!」
「そのまま耳がちぎれたらいいのに」
警告音が終わると、次はキィンというマイクの調整する音が鳴り、その後ボンボンと、マイクの叩く音が聞こえる。
『あ、あ~。マイクテス、マイクテス』
女性の声が響き、しばらくマイクのテストをしてから、「んん」と咳払いをした後、マイク越しに女性がジャン達に向かって警告した。
『そこの龍寓殿へ侵入しようとする3名に告げる。この先は、海皇候補がお休みになられている。土足と男子の侵入は禁じられている。速やかに退出しなさい』
ルカはそれを聞くと、ジャンを睨む。
「俺のせいか……」
「ジャンさんだけ出て行ってくださいですってにゃ」
「ああ、まあ、こうなることはわかってたけどな」
そう言うと、ジャンがここから離れようと踵を返す。
しかし――
ドォォンという音と同時に、悪滅鳴神に設置されていた黒い砲台が、4発程熱線を放ちジャン達を狙った。
「なにゃあ!?」
「な、なに!? なんで狙われたの、私達!?」
カーラの疑問に、スピーカー越しで女の声が答えた。しかし、その声は警告していた女性の声のものではないようだ。
『あーあー。一刻も早く男を見たくないんで、うちの「姫さん」が男を消すことにしましたンゴ。なので逃げる前に叩き潰したいと思いますであります。悪しからず』
『「シマコ」……お前、また勝手な――』
『「へそ出し隊長」、これは姫様の御意思ですの事よ。文句と苦情はさっさと消えない男か、姫様にいうがよろしいんやで~』
『……ハア』
喧嘩が終わると、再びスピーカーから声が流れた。
『前言撤回だ、お前たちには隣国まで吹っ飛んでもらう。覚悟しろ』
勝手な物言いにルカは「にゃんですっとぉぉぉ!?」と怒りを露にするが、ジャンとカーラは予測していたといわんばかりに武器を構える。
「ま、マリンフォールにいる限りはこうなることはわかっていたさ」
「だよね。もうやっつけちゃおうよ」
「できることならな」
そうジャンとカーラは顔を向け頷きあうと、城塞に向かって走り出した。ルカもそれを追う。
- Re: 新世界のアリス ( No.44 )
- 日時: 2021/08/12 22:12
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
「あ、そういえば私、抜け道を知ってるんですにゃ」
「抜け道だと!?」
ルカが突然指を鳴らし、思い出したかのように言うと、ジャンは腕を組んでルカを見た。ルカは頷いて城塞の脇を指さす。
「こっちです、そこを通れば龍寓殿内に進入できますのにゃあ」
「侵入じゃなくて?」
「マリンフォール自体が無法地帯なんで、進入です」
屁理屈をこねるルカ達に向かって、城塞の砲台がこちらに向かって熱線を放つ。砂煙が上がり爆発するが、3人はなんとか回避する。再び熱線を撃とうと、砲台がこちらに口を開けている。ジャンは、マフラーで口元を隠し唸る。
「とにかく、3人じゃ分が悪い。ミスキャットを信じて抜け道とやらに行くぞ!」
「嫌な予感しかしないけどなぁ」
カーラは訝しげにルカを見ながらも、他に方法はなさそうなのでジャンの言う通りにした。
―――――
ルカの言う通り、抜け道はあった。城塞の建つ岬の下に洞窟があった。膝上あたりまで海水がつかっているので、歩きにくく、中はあまり使われていない為か薄暗い。ジャンを先頭に、ルカ、カーラの順で、3人は洞窟内を慎重に進んでいた。カーラが言うには、こういった洞窟には思わぬ穴があり、そこに足を取られて転ぶ可能性がある。とのこと。それに、水の中は滑りやすい。時間をかけつつ、3人はゆっくりとした足取りで確実に進んでいく。
入り口から少し離れて暗くなったことに気づいたジャンは、懐からリンクレットを取り出し、画面に話しかける。
「ルリルリ、ライトアップ」
『OKなのだ!』
リンクレットの中にいる少女……「ルリルリ」が敬礼しながら元気よく返事すると、リンクレットの画面がひときわ明るくなる。おかげで、かなり奥まで見渡すことができた。
『マスター・ジャン。海水はリンクレットの対敵なのだ。真水は防水機能でなんとかなるけど、海水はダメダメなのだ。落とさないでほしいのだ~! 海水による破損の修理は高くついちゃうのだ!』
「オーライ、アンドロイド。長年連れ添った相棒みたいなもんだからな。離さないぜ」
『いやんなのだ~♪』
ルリルリとジャンがそんな会話をしてると、カーラが周りを見渡す。海水によって浸食されたこの洞窟の壁には、リンクレットの光に反射して何かがキラリと光っているようだ。カーラはそれを手に取る。バキッという音が響いた。
「カーラ、何をやってるんだ?」
「これ、願い星だよ。海の願い星だから、きっと水属性のやつだね。持って帰っていいかなぁ?」
「持って帰ってどうするんだ」
「イレーナに渡して新しい武器を作ってもらう~♪」
「それ以上自分を強化してどうする気ですかにゃ?」
ルカがそう尋ねると、カーラがルカの肩をつかむ。
「お前を殺す」
「なっ……!?」
カーラが一瞬真顔で、しかも声のトーンを下げているので、ルカはぎょっと体を震わせた。
「――くらい言えるくらいは強くなりたいじゃん~?」
直後にいつもの明るく元気なカーラに戻る。ルカは「さ、さいですか」と震えた声で答え、ジャンはやれやれと肩をすくめた。
「お前は魚人族とも渡り合えるくらいは強いんだ、これ以上何を目指すつもりだよ」
ジャンの質問に、カーラは元気いっぱいに、「神!」と屈託のない満面の笑みで、迷いのない答えを口にした。
「お前なら神になれるんじゃないか? ただし、"破壊神"だがな」
「それには同意ですにゃあ」
「それでもいいよ、とにかく上を目指したいんだし」
カーラがそう言いながら、周りを見渡し、耳を澄ます。
「……ん、あと少し行けば宮殿の中に入れそう」
そう言うと、さらに耳を澄ました。
「……でも、そこに誰か待ってる。二人くらい」
「流石は獣人種特有の第六感。そこまでわかるんだな」
「私も一応できますにゃよ?」
「猫は耳がいいしね」
そんな会話をしながらも、ジャンは銃を構え、ルカも剣を手に取り、カーラは背負っている大剣の柄を握り締め、3人はゆっくりと先へ進む。海水をじゃばじゃばと掻き分け、前へと進んでいくと、次第に水位が低くなり、やがて水がなくなる。……明かりが見えてきた。外だ。とジャンは安心したが、目に入った影に、一層警戒を強めた。
進み続けると、影が二つ。片方は背の高い髪の長い人物、もう片方は和服の上にエプロンを着用している、茶屋などで見るような人物が箒の柄の先端をこちらに向けていた。
――刹那、カーラが「ジャン、避けて!」と叫ぶ。その叫びが届いたのかはわからないが、ジャンは持っていた銃を影に向けて銃弾を放つ。
目の前の影も、手に持っていた箒で何かをした。「キュポン」という軽快な音が鳴り、影が一言つぶやく。
「センスがイモだ」
その一言と同時に、ジャン達3人の目の前が爆発した。
- Re: 新世界のアリス ( No.45 )
- 日時: 2021/08/13 21:58
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
爆発する瞬間、3人は左右へと散るように回避する。爆発により、洞窟全体が揺れ始め、ジャンは「まずい」と一言こぼす。
「カーラ、ルカ! 宮殿内に逃げ込め!」
「でも、目の前に――」
「なんとかしろ、でなきゃ洞窟の中で永遠に眠ることになる!」
「無茶言うにゃ!」
しかし、洞窟の天井が崩れ始め、落ちてくる瓦礫が小さな石から大きな岩へと変わっていく。ゴゴゴゴという地響きが焦燥感を引き立て、カーラは先ほど箒の先端を向けていた人物に向かって走り出した。
「うおりゃあっ!」
カーラが叫びながらその人物につかみかかり、宮殿内へと入る。床で取っ組み合いになる二人は、キャットファイトを始めた。
一方、もう一人の方は、これ以上入ってこられないよう、洞窟への扉を閉めようと扉に触れた。
「待てにゃあっ!」
ルカが渾身の力で蛇腹剣を鞭のようにしならせ、扉へと叩きつける。扉は蛇腹剣の衝撃によって砕け散り、ルカとジャンが滑り込むようにして宮殿内へと進入する。
間一髪、ジャンとルカが宮殿内へ進入した瞬間に洞窟が大きな音と砂ぼこりを上げながら崩れ落ち、洞窟内への道は断たれた。
「人間種の男のくせに、少しは骨があるようだ」
「お褒めいただき光栄だね、セクシーナイト?」
「誰がセクシーナイトだい!?」
目の前の背の高い女は機嫌を悪くし、手に持っている巨大なランチャーをジャンに向ける。かなりの重量がありそうだが、彼女は軽々と扱っていた。
彼女は頭にゴーグルを着用し、上半身水着の髪の長い女である。服から脇が覗くが、そこに黒い線のようなものがある。おそらく、魚人種特有のエラ器官だろう。そんな彼女の強気な金色の瞳がジャンを捉える。
「とにかく、「乙姫」閣下の宮殿に、しかも男が土足で入り込むとはねぇ。とりあえず、ブッ倒して門のオブジェにでもしてやるさ」
「エイヴリーとキャラが被ってますのにゃあ……」
「あんな無法者と一緒にすんじゃないよ!」
「無法地帯マリンフォールで何を言ってんだか……」
ルカの言葉に、みるみる機嫌を悪くする女。その隙に、ジャンは素早く立ち上がり、彼女に向かって銃口を向け、マフラーで口元を隠した。
「ところで、ぶっ飛びリーダー。あなたの名前を聞かせてくれないか? ちなみに、俺の名は「ジャン・ドランシル」。クールなネームだろう?」
「男に名乗る名は……と言いたいところだが、名乗ってもらって名乗らないのはあたしのポリシーに反する。あたしは、「ヒコナ・リュウセイ」。透海自由国東部防衛隊長のヒコナとは、あたしの事さ」
ヒコナはにぃっと笑う。
「ああ、あのヒコナ・リュウセイ!」
「ん、そういうあんたは……「ルカ」……スプー?」
「誰が黄色いピーマンにゃ! 私は「ルカ・スプーフ」! 前にも名乗ったはずですにゃ!」
「……?」
ルカに怒られて、ヒコナはひどく戸惑った表情をしている。するとそこへ、せっかくのおかっぱ頭が乱れてしまった、カーラと組み合っていた女がヒコナの隣へ近づく。
「もう、ヒコにゃん。忘れたんでありんす? 奴はエイヴリーの姉御にデマを流したあの猫ちゃんですにゃん。いやー、あれは傑作だった。そんな私は「シマコ・カメウラ」。この宮殿でメイド長兼姫様の護衛やってる、しがない魚人種ナリよ」
「え゛っ、あの地図……デマだったんですかにゃ!?」
「イエース。姉御が我々みたいな過去に縛られない気楽な魚人種でよかったですねぇん。他種族なら多分、血抜きされてましたですますよ」
シマコが大層楽しそうに笑っていると、ジャンはため息をつく。
「魚人種は基本過去に縛られない連中だったな。平和で羨ましいぜ」
「いう程平和じゃないんですやう。聞いてくださいよ、昨日なんて姫さまったら「プリンはバリカタじゃなきゃヤダ」とかアホンダラな事抜かして料理長を困らせてたんですの。マジ不憫だなあって煎餅食べながら見てましたな~のだ♪」
「最低だなお前」
ジャンが珍しく女性相手にそんな冷静なツッコミを入れる。カーラもそれには驚いて、「うわ、ジャンに言わせるなんて相当だよ」と彼を指さした。
「いや、それはわかるわかる。聞いとくれよ。姫様はいっつもわがままで、シマコはこう自由すぎるだろう? しかも、シマコ……こいつはすぐサボりよる。本当にあたしの代わりに誰かが隊長になって、姫様もシマコもしばいてくれないかねえ。マ・ジ・で」
ヒコナは頷きながら、遠い目をしている。その姿から、普段からかなり苦労していることが伺えた。
「なんというか、上下関係がよくわからなくなってくる国ですにゃ……」
「それがマリンフォールでまんねん。で、続き、再開しまこ? なーんてね」
「無理やりすぎるにゃ!」
シマコは両頬に両手の人差し指を当ててポーズを決める。
「悩みがなさそうで羨ましいですにゃあ」
「わかります? 私、いつも快眠で夜10時に寝て朝6時に起きるいい子なだったりしちゃったりしまくりんりん♪」
「続きを始めよう」
ジャンがそう一言言い放ちながら銃を右手に構えると、ヒコナもシマコも手に持っている武器を構えた。オンオフの切り替えはかなり上手なようだ。
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