複雑・ファジー小説

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新世界のアリス【完結】
日時: 2021/09/10 20:32
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)

はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。


2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!



>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語


・本編

プロローグ>>3-6

Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29

Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57 
11章 >>58-63
12章 >>64-68

Act.3 妖精達の演舞ロンド
13章 >>69

お知らせ >>70

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.11 )
日時: 2021/06/30 23:44
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)


 激しく揺れながらアリス達を乗せた車はホロウハーツ蒸機王国へと向かっている。車内ではギンを除いて和気あいあいと会話が盛り上がっていた。
 アリスは弱っているギンに窓を開けるよう促し、ギンは窓から身を乗り出してばてていた。普段であれば彼女はかなり口喧しくしゃべるのだが、激しく揺れに揺れる車の中では返事もままならない状態である。

「そいや、ギンさんとアリスさんはどういった関係なんだい? 兄妹にしちゃ顔が似てなさすぎるし、恋人にしても歳の差ありそうだがね」

 キリガンは何気なくアリスに尋ねた。アリスも「そうだな」と頷きながら腕を組む。

「こいつは仕事の先輩であり、うちの家系に深く関わってる妖怪雪女なんだ。これでも雪山出身だぞ」

 その言葉を聞いてカーラは目を輝かせてアリスに顔を近づける。

「すごい! ヨーカイって貴重文化財みたいなのだと思ってた! ねえねえ、はっぱを乗せて何かに変身するんでしょ?」
「だ、だれが……わしゃたぬきか……うぶっ」

 今にもすべてをぶちまけそうな真っ青な顔色と声で、カーラに突っ込むギン。そんな彼女にアリスは優しく背中をさすってやる。

「残念だが雪女は他人に化けることはできんな。まあ、ルーツは詳しくは聞いてはないが……陰陽師との契約で有栖川……俺の家系に仕えているらしいな。今はもう契約なんて意味は成してないんだが、ギンは今でも俺たちに協力してくれている」
「と、とうじぇ……おぼぼぼっ」

 ギンはさらに顔色を青くして、まるで絵具で顔を塗りたくっているような悪い顔色だ。

「大丈夫かい?」
「問題、あり……」

 キリガンの心配に必死に手を振って大丈夫ではないとアピールするギン。

「思った以上にヤバそうだぜ、イレーナ」
「とはいえ、もうちょっと我慢してくれないかしら。あと20分くらいでプリズリィク雪村につくから」

 ジャンの言葉にイレーナは顔を前に向けたまま答える。

「「プリズリィク雪村」とは?」
「ホロウハーツ蒸機王国の北端に位置する村よ。小さいけど、物資や油の補給もできるし、街道沿いにあるから中継地として使われてるのよ。雪村って名の通り、豪雪地帯だから移動も装備なしだと動かなくなるし、寒いわよ」

 イレーナの答えにアリスは「なるほど」と頷いて外を見る。確かに、少しずつ雲が分厚くなり、雪も降り始めている。キリガンも外を見ながらイレーナに尋ねた。

「大丈夫なのかい、この車は?」
「当たり前。伊達に長い間送迎なんかしてないわよ。安心して、私は一度乗せたお客様は、"どんな状態になろうとも"必ず目的地に送り届けるから」

 ギンはその言葉の意味を痛感する。まさにどんな状態になろうとも、車は止まらないからだ。
 アリスは苦笑しつつ、キリガンに顔を向ける。

「そういや、キリガンさんはイレーナさんとどういった関係なんだ?」
「ん、俺はイレーナさんにバイクと武器の修理を頼んでいたのさ。まあ、このご時世、武器なしじゃ心許ないけどね。いざという時は特製の煙玉でも使って逃げてるさ」
「クライアントってワケか」

 ジャンがそういうと、腕を組んだ。

「まあね。いったでしょ、「どんな状態になろうとも」ってね。お客様は神様だから、どんな状態になっても大切にするわよ。"商談成立して取引が終わるまで"ね」
「まさに商売人の鑑だよね。ジャンってばもったいない。こんな美人のおねーさんを手放しちゃうなんてさ」

 カーラは頬杖をついて笑いながらそういう。ジャンはというと「よせやい」と一言、腕を組んでそっぽを向いた。

「どういう関係なんだ、二人は?」
「付き合ってたんだけど、半年で別れちゃったカンケイ」

 カーラが笑い飛ばしながら言うと、アリスとキリガンは驚いて声を上げ、ギンは「そ~かえぇ~」と弱弱しく呻いた。

「まあでも、この人ホント何かあれば「カーラだったら~」「カーラは~」って、カーラと比較するんだもの……うんざりするわ本当に」
「しょうがないだろ、カーラは――」
「うるさいわよキモキザ野郎。いい加減カーラから離れて一人で何もできんのか」

 ジャンの言葉を遮り、イレーナは恨み節をつぶやく。それに応じて車もより激しく揺れていた。

「お、抑えてよイレーナ!」
「ふん」

 カーラの悲鳴にイレーナはイライラしながら鼻を鳴らす。
 アリスは、この話題は地雷だなと思いながらため息をついた。


 しばらくして……
 いつのまにか雪原を走っており、雪原のど真ん中を大きな音を立てながら走る車体。しかし、その大きな音は雪によって吸い込まれていき、ガタガタと音はなるものの、響きはしなかった。窓がくもりはじめ、カーラは窓に指で絵を描く。

「見えてきたわよ、あそこ」

 イレーナがそういうと、目の前に線路と集落が。どうやら村にたどりついたようだ。
 だが、ジャンは顔をしかめる。

「待て、様子がおかしくないか?」
「うん……煙が出てるね。どうなってるの?」

 カーラが窓から顔を出してそうつぶやくように疑問を口にする。確かに村は炎が舞い、家々が延々と燃えていたのだ。

「……みんな、武器を持って。冷静に行きましょう」

 イレーナは低い声でそう言うと、村の近くに車を停める。そして、足元に手を突っ込み、ワイヤーを取り出した。アリスとジャン、カーラもその様子を見て、自分達も武器を構える。
 キリガンはというと、護身用のナイフを片手に持ち、ギンは完全に寝込んでいた。

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.12 )
日時: 2021/07/05 21:55
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)


「こいつはひどいな……」

 ジャンは呟くようにそう漏らす。彼らの眼前には燃え滾る家々。そしてまるで肉をブロック状に綺麗に斬ったようにバラバラになっている。赤く染まった雪と、泥……赤と白と黒が混ざり合った中に、無造作に倒れている人々の死体。まさに死屍累々。血と泥と肉の焼ける嫌な臭いが立ち込めていて、慣れていない者なら気分を悪くするだろう。……案の定、キリガンは少し気分が悪くなっていたようで、少し離れた場所でこちらの様子を見ている。顔色は真っ青だ。
 それ以外に変わったことと言えば、氷の柱が見上げる程高く聳え立ち、それらが所々に地面から生えているようだった。それらは澄んだ青色の氷で、空気中の水分を凍らせていることがわかる。防寒着を着なくては凍えそうな気温だが、その防寒着が意味をなさない程に周囲の気温を下げている。
 カーラはそれに指で触れるが、すぐにひっこめる。

「これは、魔法でできた氷だよ」

 カーラは指を必死にこすっている。
 ジャンが「どうした?」と尋ねると、カーラが手袋を外してジャンに手を見せる。少し触れた指は真っ赤になり、霜焼けになっていた。

「このあたりに魔法が使える人がいたんだね……驚きだよ」
「魔法? そんなの実在するんかえ?」

 外に出てきた事で急速に回復したギンが、カーラに近づいて氷を見上げる。

「一応……ね。なんでも何億も前は魔法が存在して、ヒトはそれを行使してたってお話があるんだよ。でもね、神様の怒りを買って人類は一度滅びたんだって。それで魔法は滅びた。そのあとは新人類が生まれたけど、魔法を使えるヒトは誰一人としていなかった……でも」

 カーラは人差し指を振る。

「一部。ほんの一部の人間はなぜか魔法を使えるんだ。術式を開発した「ゴーテル」も魔法を使える人だったんだって。それでも、ネバーランドの人類の数が仮に100万人だったとしても、そこで1人いるかいないかくらいの確率なんだよね。使えたとしても、それを言ったりしないんだ。差別されるからね」

 アリスはその話を聞いて、なんとなく頷いた。

「ヒトという生き物は、自分達と違う者を排除したがる」
「そーゆーこと。こういった小さな村ならなおさらだよ」

 イレーナは肩をすくめて瞳を閉じる。

「くだらない。魔法が使えるならすごい事じゃない。確か魔法って「無から何かを生み出す」、「万物を超越した力」、なんでしょ?」
「まあ、お前みたいな人間が多ければいいんだがな……」

 ジャンはマフラーを口元にやって、表情を隠す。
 その話を遮るように、ギンは両腕を振り上げた。

「そんな話はどうでもいいわい! とにかく奥に生き残ってる人がおるやもしれん。行くぞ!」

 ギンの言葉にアリスも頷く。皆も同じ考えらしく、頷いた。

 奥へ進む毎に死体が増えていき、争った形跡のある足跡がある。少し気になるのは……白く燃える発光体がその辺にある事。これはなんなのかとアリスが気になっていると、カーラはまたもや解説してくれた。

「白い炎だね。原理は超高温の炎だよ。珍しいよね、こういった星霊術を使う人。……もう最近じゃ星霊術を使ってる人は伝統を大事にする霊術師くらいかと思ってた」
「あとは、ルティリーゼ妖精王国でも機械より星霊術を使ってるやつが多いな。あそこは願い星が多く採れる鉱山が多い。坑夫が採掘の為に星霊術を使ってたりするのさ」

 ジャンは腕を組んでうんうんと頷く。

「なら、氷を使った魔法使いか、白い炎の使い手がまだ置くにいる可能性はあるな」
「そうじゃのう、この炎はまだ大きい。周りの雪の量も考えると、まだ奥にいるやもしれん」

 アリスとギンは武器を構え、少し急ぎ足で奥へと進む。イレーナも頷いてワイヤーを強く握りしめた。

「キリガンさんは、万が一私たちが死んだとき、私の店を頼むわね」
「えっ、ま、マジで!? 俺はまだ放浪してたいんだがなぁ……」
「大丈夫よ、私の店の隣に「ララ・ペルボラ」っていう人形師がいるんだから。その人に商売のイロハでも教えてもらいなさい」

 唐突のイレーナの遺言にキリガンは戸惑うが、「うぅ、仕方ない」としょんぼりした顔で彼らと距離を取って進む。



 しばらく進むと、交戦中の音と思われる鋭い音が不規則に聞こえてくる。アリスとジャンはその音に気が付き、すぐに走り出した。カーラとギンも慌ててそれを追う。

「転ぶわよ!」

 イレーナがそう叫ぶが、声は届いていないようだった。







――――







 アリス達がその現場にたどり着くと、白いローブの子供が浮かんでおり、その下に金髪の少女が倒れている少年を介抱していた。少女は涙を流しながら、必死に倒れている少年の名前らしきものを繰り返し叫んでいる。アリスはイレーナに「あの子を頼む」というと、イレーナは頷いて彼女の近くに走っていく。
 白いローブの子供がアリス達に気が付き、顔を向けた。ローブの下は白い肌が見え、白い髪も少し見えるが……口元しか見えず、顔は闇に包まれていた。

「皆殺しにしたはずだったが……まだ生き残りがいたか」

 ジャンは右手の銀色の銃を子供に向ける。

「どうやら、ホワイトフレイムマスターってのが、お前の事だな。とりあえず、お前はブッ倒させてもらうぜ」
「ほう……」

 子供はジャンの言葉にくつくつと笑う。まるで「できるものならやってみろ」と言わんばかりに、自信たっぷりに。

「何がおかしいわけ!?」

 カーラは笑われたことに少し苛立ったようで、声を荒げて尋ねる。

「いいや。できるものならぜひやってもらいたいものだ。どうせ無理だが……」
「……つっ!」

 アリスは先手とばかりに拳銃を子供に向け、引き金を引く。バンバンという音と共に、3発の銃弾が子供に向かって撃ち込まれる。ギンは「相手は子供じゃぞ!?」と驚きの声を上げるが、次の瞬間の光景を見る事で、その考えを改めた。
 アリスの放った銃弾は子供には当たっていなかった。それもそのはず。銃弾は、子供の目の前でなぜか膨張して破裂したのだ。子供には全くの無傷である。

「なっ……!?」
「その程度では傷すらつけられん」

 子供がそういうと、ギンは歯を食いしばり、カーラも背負っていた銀色の大剣を両手で構え、子供に突進する。

「一刀両断!」
「往生せいや!」

 ギンは錫杖の仕込み刀で子供に斬りつけ、カーラも両腕で思いっきり大剣を振り下ろす。普通ならば子供はバラバラになってしまう程の力量。それに加え、ジャンも両手の銃の引き金を引いて、5発の光の銃弾を放つ。

 だが――

「全く、遊んでいる暇はないというのに」

 子供は腕を交差させるだけで、ギンとカーラ、そしてジャンの放った銃弾の動きを止める。

「ど、どうなってんのあれ!?」

 イレーナは驚いてそれを凝視した。

「う、ごかん……つうか……めっちゃ痛い!」
「うぎぎっ、跡が残っちゃ……うんっ」

 ギンとカーラは何か細いものが体に巻き付いている感覚を覚えた。よく見えると、細く白いそれは……糸のようだった。

「返すぞ」

 子供がそういうと、ジャンに向かって腕を伸ばす。すると、銃弾がジャンの元へ戻り、ジャンはそれを咄嗟に避けようとするが、避けきれない。右の二の腕、右膝左肩に命中し、ジャンは「ぐあぁっ」悲痛の叫びをあげた。

「間引きを行う。貴様らはどうやら危険因子……ここで死ぬといい」

 子供がそう言い放つと、少しずつ自分を抱くように腕を交差させる。その度に縛り付けられたギンとカーラが悲鳴を上げるとともに、縛られた箇所が肉に食い込み、赤い液体が流れだす。

「こ、これではボンレスハムに……」
「くっ、きっ……」

 アリスは近づくこともできず、何とかこの状況を打破できる方法を探す。だが、見つかるはずもない。このままではギンとカーラが先ほどから見てきた死体と同じく、切り刻まれてしまうだろう。

「クソッ、父さん……何か……」








 アリスはふと後ろを見る。キリガンが皆の様子を見ていたのだ。

「キリガンさんッ!」

 アリスは思いっきり彼の名をそう叫んだ。様子を見ていたキリガンはぎょっと驚き、アリスの方を見る。子供もアリスの叫んでいた方向を見て、キリガンの存在を探す。

「ひ、ひぃ!?」

 キリガンは驚いて声を上げた。子供の意識は完全にキリガンへと向く。
 それこそがアリスの目的であった。素早く銃を右手に持ち、早打ちをした。これは賭けであり、ここでギンやカーラが壁にされていたら、アリスの負けである。だが、子供はキリガンに意識を向けていたことで、アリスの行動に一瞬対応することができなかった。








 結果、アリスの放った銃弾が腹に命中し、子供の下半身は真っ赤に染まる。子供はというと、その状況に静かに……ただ静かに受けた傷を摩りながら口を開く。

「……私もまだ未熟か……」

 子供がそうつぶやくと、縛られていた二人が地上へと落ちる。落ちた瞬間、二人は小さく悲鳴を上げた。

「貴様、名は?」

 子供はアリスにそう静かに尋ねる。それは静寂の中に燃え上がるような憤怒を感じる、低い声だった。

「お前が名乗るまで名乗らん。人に名前を尋ねるときは、まず自分からだ」
「……クククッ」

 子供はアリスの返答に、静かに笑い始める。愉快そうに。

「不愉快だ、だが貴様の顔は覚えた。……カイ!」

 子供が突然誰かの名前を叫ぶと、少女に介抱されていた少年が立ち上がる。
 そして、こちらの方を向き、アリスに向かって手を伸ばし、氷の柱を腕から射出した。その氷の柱はアリスの右太ももに命中し、アリスは突然の事に驚き、右足の痛みに叫び声をあげて仰向けに倒れてしまう。子供はその姿を見て満足げに笑った。

「カイ、その男を殺すのだ」

 カイと呼ばれた少年は、アリスにゆっくりと近づく。彼に止めを刺す為に。絶体絶命……その言葉がアリスの脳裏に浮かんだ。彼はおそらく魔法の使い手……心臓に向かって氷を放たれれば、自分は確実に死んでしまうだろう。などと様々なことを考える。だが、考えても自分が助かる方法は思いつかなかった。もう一つ思いつくことは、ギンの事、ジャンとカーラの事だった。














「カイ……やめて、お願い!」

 突然彼の背後から少女の叫び声がする。おそらく少年をずっと介抱していた少女だろう。小さいが、はっきりとこの場で響く声であった。
 その声を聴いた瞬間、少年はうめき声をあげてその場に蹲り、頭を抱える。かなり苦しんでいる様子であった。

「……ひとまず、ここまでか」

 子供は彼の様子を見てそういうと、右腕を天に掲げる。すると、子供と少年が白い炎に包まれて、その場から消えてしまった。




 後に残った負傷したアリス達は、少女を連れて早く戻ろう……以外の言葉を交わさず、早々に戻ることにした。少なくともジャンとカーラ、アリスとギンは早急の治療が必要だった。その場にいた少女も手伝ってくれるとのことで、一緒に車へと戻ることにしたのである。
 ギンは自力で、ジャンとカーラはイレーナやキリガンの肩を借りて車に戻っていく。アリスはギンに肩を借りて、負傷した足を引き摺りながら歩き、考え事をする。
 少年が動きを止めなかったら、アリスは死んでいた。アリスは拳を握り締め、悔し気に歯を食いしばる。

「ま、今回は運がよかっただけじゃ。生きてるだけ儲けもん。全員奇跡的に生きておったし、百点満点でええじゃろ」

 悔しがっている彼に対し、ギンは彼の気持ちを察してそう言う。ギンは体中にミミズ腫れのような傷があり、不思議と出血は少なかった。だからこそ、アリスに肩を貸すだけの余力が残っているし、彼を励ますだけの余裕もある。

「……そうだな」

 アリスは下を向いて小さく呟いた。

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.13 )
日時: 2021/07/04 01:05
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)


 車に乗り込み、アリス、ジャン、カーラ、ギンはイレーナの手当てを受ける。車内は座席がベッドのように畳まれており、アリスとジャンは寝ている。カーラとギンは傷が見た目ほど深くなく、消毒液と軟膏薬を塗って包帯を巻いた程度で終わった。
 キリガンはイレーナに指示を受け、イレーナの手伝いをしている。
 村にいた少女はというと、同じくイレーナの手伝いをして、アリスとジャンに包帯を巻いていた。

「なあ、服は脱がないとダメか?」

 ジャンは自分の服を握り締めて首を振っているが、イレーナはジャンの服をつかんで離さない。

「ダメよ、洗濯しなきゃ。それに、体に包帯が巻けないでしょ?」
「いや、だがなぁ!」
「ごちゃごちゃうるっさいわね、男だったら潔く脱げばいいじゃない!」
「やめろって、自分で脱げるから!」

 ジャンは顔を赤らめながら必死に抵抗している。
 アリスはというと、大人しくギンに脱がされていた。上半身がはだけ、普段から鍛えぬいている肉体が露になる。ギンはそれを見て、にやにやと笑っていた。

「なんだ、ギン」
「いや、父に似てきたなぁと思ってのう」
「……本当か?」
「まだ半人前じゃがな」

 ギンがそういうと、アリスの足に包帯を巻く。上半身は凍傷があり、ところどころ赤くなっている。ギンは凍傷に軟膏薬を塗りながら、ふと思い出したように顔はアリスの体の方を向いたまま、少女の方へ声をかける。

「して、お主……あの、カイと呼ばれていた奴の傍にいたな。名前は?」

 少女は声をかけられて驚いて飛び上がり、ギンの方へ向いて頭を下げる。少女はまさに村娘といった素朴な見た目で、金髪のさらりとした長髪と茶色の眼、白いブラウスの上にエプロンドレスを着こむ、どこからどう見ても非力な少女であった。

「は、はい! 私……ゲルダです。「ゲルダ・プリムリンク」。あの村でカイと一緒に暮らしてました」
「すまないな、ゲルダさん」
「ゲルダでいいです、えーっと……"アリスさん"」
「……ああ、もう、俺は突っ込まないぞ」

 アリスはもう何度目かの「アリス」呼びに、何も考えないことにした。
 ゲルダは不思議そうに首をかしげるが、すぐに姿勢を正してまた頭を下げる。

「その、助けていただいてありがとうございました……私、すぐに発ちます。カイを探しに行きますので」
「武器は?」

 ジャンはゲルダにそう尋ねる。彼はイレーナに捕まり、大人しく包帯を巻かれていた。ゲルダは首を振るが、あははと力なく笑う。

「途中で作ります。私、これでも狩人なんで!」
「無茶言わないで、あなたまだ年端もいかない女の子じゃないのよ」

 ゲルダの言葉にイレーナは首を振って指摘する。ジャンも頷いた。

「そうだぜ、チロリアン・ガール。魔物だけじゃない、治安が悪くて山賊も出てくるんだぜ。そんな細い腕で一人どうしようってんだ」
「で、でも……早くカイを見つけなきゃ」

 ゲルダは涙を目にためて俯いてしまう。キリガンは彼女に寄り添い、「大丈夫さ」と励ます。ただ、その言葉は薄く、彼女の支えにはならなさそうであった。

「ゲルダさん、よければ……何があったのか教えてくれないか?」

 アリスはゲルダの様子を見かね、事情を聴いた。ゲルダはしばらく俯いたまま黙っていたが……しばらくして決意したように皆の顔を見る。

「はい、わかりました」

 ゲルダの声は震えながらも、はっきりと皆に伝わるように語り始めた。

「カイは私の幼馴染なんです。それで、一緒に村で暮らしてたんです。ですけど、今日突然……あの白い影が現れて、カイに変な星霊術を使ったんです! そしたらカイ、おかしくなっちゃって、村の人たちを魔法で襲ってた……カイはあんなことする子じゃない。だから私、カイに言ったんです。「こんなひどいことしないで」って……」

 ゲルダの話にカーラはうーんっと唸り、何かを思い出したかのように指を鳴らした。

「その白い影、もしかして……「ピート・ロウ」の事?」
「は? なんじゃその楽しげな名前は」

 ギンは腕を組んで顔をしかめて首をかしげる。カーラはジャンの服からリンクレットを取り出し、操作する。しばらくして、カーラは画面を皆に見せた。

「これこれ。最近各地の村とか街で襲撃事件とかの、新聞の記事とか見出しを集めたんだけどね。目撃情報に必ず「白い影」の存在が言及されてるのさ。で、その容姿が聖皇帝国の皇帝側近の「ピート・ロウ」じゃないか~なんて言われてるわけね。まあ、「ピート・ロウ」なんて名前自体、最近はみんな怖がって口に出さないんだけどさ」
「なぜだ?」
「……ん~」

 アリスの質問にカーラは頭を抱えて悩む。

「そいつ、「白炎糸はくえんし」とかいう星霊術を使うんだよ。白い炎を纏ったピアノ線みたいな糸を使って、周りの物を破壊したり燃やしたり。あと、傀儡術とかで他人を意のままに操ったり、挙句の果てには糸だけじゃなくて白い炎自体操って村々を灰にするんだって~」
「それは……確かに最近新聞とかでよく見るね」

 キリガンも頷く。

「まさに稀代の霊術師! 彼に逆らう者は皆灰になるか、操られて傀儡にされちゃうんだ!」
「……だが、奴の腹部に攻撃が当たった瞬間、なぜか糸で攻撃せず、カイにやらせていたな。あれは一体?」

 アリスがそういうと、カーラは「ありゃ?」と声を出して首を傾げた。

「そりゃイージーなクエッションだな。星霊術は媒体としている物が破壊されると使えなくなる。つまり、奴のマジックのタネは腹部にあったわけだな」
「運がいいんだなぁ、アリスさんは」

 ジャンの推測に、キリガンは笑う。

「……それなら、カイはなぜ俺たちを攻撃してきた? 傀儡術も星霊術だろう?」
「いや、星霊術はアクセサリーや本、服なんかに術式を刻んで使うんだ。書き込んだ術式は一つにつき一つ。そうじゃないと、媒体が耐えられないか、暴発して装備してる人が傷を受けてしまう」

 アリスの疑問にキリガンが答え、カーラも頷いた。

「はーん、だから"時代遅れ"か。素質なんかなくとも扱える機械と、素質がないと使う事すらままならん星霊術じゃあ、人々は前者を選ぶじゃろうな」
「そういうこと」

 ギンは納得して頷いた。
 カーラはゲルダを見ると、彼女の肩を優しくなでる。

「大丈夫。傀儡術は媒体となる物を破壊すれば解けるはずだから! 一緒にカイ君を探しに行こうよ!」
「……! あの、いいんですか?」
「いいでしょ、ジャン。どうせバウンティハンターなんて、片手間でできるよ!」

 カーラの軽口にジャンは腕を組んで深くため息をついた。

「お前なぁ、バウンティハンターをなんだと……はあ、いやいい」

 ジャンはもう何言っても無駄だと察し、ため息をついた後、ゲルダに向き直る。

「安心しな、スプリングガール。君の愛しのボーイフレンドを助ける為に俺たちも協力する。だからもう心配しなくてもいい」

 ゲルダはその言葉を聞いて、目から涙がとめどなく流れ、震えた声を上げた。

「……ありがとうございます、皆さん……ありがとうございます!」

 カーラは指を鳴らし、笑顔を見せた。

「よーっし! ゲルダちゃんも仲間ね!」
「にぎやかになってきたのう~」

 ギンはまるで孫がはしゃいでいるのを温かく見守る祖母のような顔をしながら、そう言っていると、アリスも頷く。その様子を見ていたイレーナが腕を組み、満面の笑みを見せた。

「じゃあ、ゲルダさんの武器は私が用意するわ。そうと決まれば、サクッと私の店に行きましょう。あと1時間くらい走ればつくから、日が沈む前に戻れるわね」
「え゛っ、1時間も!?」
「頑張ってねギンさん」

 イレーナがそういうと、ギンは頭を抱えて俯いてしまった。


Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.14 )
日時: 2021/07/11 00:20
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

3章 竜殺し

 アリス達は移動の最中、ゲルダと情報の交換をしていた。ゲルダの話によると、白い影は魔法を使える存在である「カイ・リィズ」を探していたという。カイは、村を守る為に戦ったが、結局敗北したという。村の惨状は、白い影がカイを探し出す為に、見せしめとして。目的を達成した後、次々と殺戮の限りを尽くしたのだという。
 それを聞いたアリスは怒りを露わにし、拳を床にたたきつける。ジャンとギンは黙ったままであり、カーラはというと苦虫を噛み潰したような顔で俯いた。

「……ひどい話だね」

 キリガンがぽつりとつぶやくと、ゲルダはまた悲し気に顔に陰を落とす。

「白い影……ピート・ロウはなぜカイの事を知っていたのかしら。カイって子、誰彼構わず自分の事を話すような子なの?」

 イレーナはハンドルを握り、前を向いたままゲルダに尋ねた。

「いえ! むしろ、私とおばあちゃんや、一部の知り合い以外にはあまり自分から接しない子なんです。それに、私とおばあちゃん以外に魔法の事なんて一言も。だって、カイは魔法の事で両親を亡くしたって泣いていたから……だから、どこから聞きつけたのか……」
「まさに悪の枢軸っちゅー感じじゃのう、そのピートっちゅーやつは」

 ギンはふぅっとため息をつく。

「まあ、奴に連れ去られたなら、帰る場所はおそらく「ベルゼ・フィスタ聖皇帝国」だろうな。最終的にそこに向かうとして、これからどうするんだ、エージェント・アリス?」

 ジャンがそう尋ねると、アリスは腕を組む。

「俺とギンの目的は、元の世界に帰る事だ。その、聖皇帝国に帰る手掛かりがあるなら、行ってみたい」
「それには同意じゃ。だが、それは建前じゃろ、龍志。本音は?」
「ピート・ロウを倒す」
「じゃろうな」

 アリスの憎悪に似た感情の高ぶりに、ギンは頬杖をついて笑った。

「あんな殺戮……許されん。それに、話を聞けば聞くほど、はらわたが煮えくり返りそうでおかしくなる」

 アリスの様子に、ジャンは肩をすくめて呆れていた。

「落ち着けレイジ・エージェント。怒りで周りが見えなくなれば、足元を掬われるぞ」
「ああ、もちろん。すまない」

 カーラは二人の様子に腕を組んで、うんうんと頷く。

「うん、よし。話がまとまったところで、早速帝国に向かおうよ!」
「それはできないわ」

 イレーナは呆れてため息をつく。

「あなた達。今自分の置かれてる立場を理解しなさい。怪我人は大人しく寝てなさいな。そんな怪我で白い影が倒せると思ってるの?」

 キリガンもそれには同意する。

「そうだよ。全く君たちは、もっと冷静になりなよ」
「サーセン……」

 ギンはしょんぼりした顔でそう謝った。







 数分後……

「ほったて~ ホタテホタテ ほったて~♪」
「ホットケーキ♪ ほっと ほっと ホットケーキ♪」

 キリガンとカーラが楽しそうに歌を歌っていた。歌詞やリズム、曲すらも意味がないようだが、二人は見ているだけで楽しそうであった。カーラもキリガンも思いついた単語を歌詞にして歌い、車内は二人の歌声でにぎやかだ。

「ホットケーキ食いたいのう……やっさんが焼いてくれた奴……」

 ギンは「ホットケーキ」の単語で、いつも弥生が焼いてくれるホットケーキを思い出したようで、涎が口元に溢れているのを必死にこらえている。アリスは「しばらくは無理だな」とギンの肩に手を置いた。
 外の景色はいつの間にか雪がなくなっており、平原のど真ん中だ。そして、フロントガラスには、高い塔や建物が並ぶ、まるでヨーロッパの街並みのような景色が広がっていた。

「ついたわよ皆、あれが……「ホロウハーツ蒸機王国」の「王都リサリティ」よ」

 イレーナがそういうと、皆もフロントガラスに注目する。蒸気のせいか、少し霞がかかったように白くなっているが、かなり発展した街なのだろう。蒸気機関車が王都から発車し、敷かれたレールも数多い。そして、中心部分には豪華な造りの建物がある。王都というからには、あの建物がおそらく王城なのだろう。アリスとギン、ゲルダは初めて見る巨大な街に、驚きを隠せずいた。カーラは王都についたことで高揚し、キリガンも同じくである。

「いやっほーい! 久しぶりの王都だぁい♪」
「いつ来ても大きい街だねぇ!」
「ちょっと静かに。私の店まで直行するから、そのままで待っててちょうだいな」

 イレーナは、はしゃいでいるカーラとキリガンにそう言うと、王都にゆっくりと入る。正門で停まり、正門で待機していた髭の生やした男性と顔を合わせるため、車窓を開けて、フロントに置いてあったカードを手に取る。そしてカードを彼に見せた。

「お疲れ様です、ワース殿」
「お疲れ様、いつものね」

 言葉は簡潔に、そう交わすと男性は頷いて通るよう促す。イレーナは「ども」と短く言うと、窓を閉めて前へと進んだ。ギンはその様子に車酔いも忘れて運転席に体を乗り出す。

「ほぼ顔パスじゃのう……」
「そりゃあ、ほぼ数日に1回は遠出してて、何度も顔を合わせてるしね」

 イレーナはそういいつつ、車道を通っていくと、一際大きな車庫のある、それまた大きな建物が見えてきて、その中へと車を停めた。イレーナは皆に顔を向けると、にこりと笑う。

「さあ、ついたわよ。私のお店にね。長旅お疲れ様」

Re: 新世界のアリス【オリキャラ募集中】 ( No.15 )
日時: 2021/07/08 07:21
名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)

 アリス達は車から降りると、そこはガレージの中であった。新品のタイヤや、修理中のバイクや小型車。工具が床に散乱しており、油の匂いも立ち込めている。油の匂いは、ガレージ内の赤いタンクのようなものからしていた。その前にはおそらくこの世界の文字だろう。赤い文字で大きく殴りつけるような字で何かが書いてある紙が貼りつけられていた。

「それ、「火気厳禁」だから」

 アリスが紙を見ていると、イレーナがそう声をかけてくる。つまり、油の匂いの正体はガソリンか何かだろう。と、アリスは察して踵を返した。
 天井は吊り下げられたワイヤーが垂れ下がっており、外から見るより遥かに高く、大きな空間のガレージだ。アリスは改めて感心した。

「おぉい、イレーナ。帰ったのかよ!」

 イレーナ達が車から降りていると、突如ガレージの入り口から影が現れ、イレーナを呼ぶ。
 イレーナは、その姿を見て腕を組んで笑みを浮かべた。

「ええ、帰ったわよ「ララ」。ただいま」
「ただいまって……のんきなこと言ってる場合じゃねえんだよ。プリズリィクが白い影の襲撃を受けたってニュースで――」

 ララが慌てた様子でイレーナに説明しようとしていると、背後にいるアリス達に気が付く。

「んあ、ジャンにカーラ。あと誰だよお前ら」

 ララの姿が見える。
 灰色の髪を左右違ったところを結っているツインテール、黒いヘアバンドとゴスロリを着込んだ背の低い少女だった。これまたおしゃれな眼帯を左目につけており、黒いうさぎのぬいぐるみを抱えている。
 彼女の金色の瞳がアリス達を捉えた。

「彼らは私のクライアント。こっちまで連れてきたのよ」
「ほーん……なんだ、五体満足で帰ってきてるじゃねえか。ん、いや……傷だらけだし、赤い男とジャンは割とだいじょばねえな。カーラと銀髪ガキンチョはミミズ腫みたいなのが痛そうだ」
「おい、誰がガキじゃい!」

 ギンは思わず反論するが、アリスは抑えつける。

「あと緑の奴と金髪の奴。なんだこのバラエティの良さはよ。見世物でも見せてくれるのか?」
「面白いでしょ。あ、面白ついでに、彼らの治療をお願いしたいんだけど」
「はぁ!?」

 ララは驚いて目を見開く。

「なんで俺が!? 俺はただの人形師だっつーの! 前にも言ったろ、そういうのは専門外だって!」
「そこをなんとか、私の家を使っていいから……」
「ヤダよ、俺はそういうんじゃ――」
「お願いします! まだ私、やることがあるから!」
「だけどよ……」

 ララはイレーナの必死の懇願を見て、口ごもる。そして「あ~」とか「う~」とか唸り、表情も苦い顔でイレーナを見上げていたが、最終的には「だ~、もう!」と叫んだ。

「わかったよ、わかった! 治療すりゃいいんだろ!」
「さっすがララは話が分かる!」
「畜生、一回だけだかんな!」
「前も同じこと言ってたわよ」
「うるせえ、本当に今回で仕舞だっつーの! ……ったく、なんで俺がこんな事……」

 ララはそういうと腕を組み、アリス達を手招く。

「おら、早くしろ怪我人ども! 俺が看てやっから」

 ガサツな口調だが、根はお人好し。アリスの彼女に対する印象はそれだった。











 イレーナの店の中はなんというか、女性の部屋にしてはかなり素朴で女っ気を感じさせなかった。むしろ、男性の部屋だといわれても納得してしまう程、シンプルなモノだ。必要最低限の家具と間取り。ララは、アリスとジャンを治療すべく寝かせ、カーラとギンも部屋の中に入れる。キリガンとゲルダには、イレーナの手伝いをさせた。

「ほい、「くまどっと壱号機」、「にゃんねっと弐号機」。カーラと銀髪に特別効くやつを塗ってやれ」

 ララがそう命じると、不思議なことに灰色の熊のぬいぐるみと白色の猫のぬいぐるみが動き出し、ララの言われたとおりに薬を彼女たちの体に塗り始めた。すると、ギンとカーラが悶絶するような表情で、喉が張り裂けんばかりに叫び始めた。

「ギョアァァァ!? なん……ぐあぁっ」
「ひぎぃっ! あがっ……がぁっ……!!」

 アリスがその尋常ではない叫び声に驚くと、ジャンは肩をすくめる。

「あの軟膏は再生組織を無理やり活性化させる薬なんだ。浅い傷なら……御覧の有様だが、1時間以内にすっかり傷が消えるのさ。まあ、全身傷だらけだったし、全身骨が砕けるような痛みが走るな」
「な、なるほど……」

 ジャンの解説にアリスは何とも言えない気持ちになる。ララはそれを無視して、アリスに近寄った。

「はじめまして、だな。俺は「ララ・ペルボラ」。イレーナの店の隣で骨董屋をやってる。よろしく頼むぜ」
「ああ、よろしく。君はそんなに幼いのに――」
「あぁん!? 俺はこれでも45歳だ。ガキ扱いしてんじゃねえぞガキが!」
「……どういうことだ、ジャン」

 「幼い」というワードに怒り狂うララを尻目に、ジャンに尋ねると、彼はまたもや肩をすくめた。

「ミス・マリオネッタ・ララは「魔人種」。ある程度成長すると、そのまま成長が止まる種族なんだ」
「そういう事……ガキでも知ってる常識だろうが!」

 ララがアリスに怒声を浴びせていると、ジャンがララをたしなめる。

「落ち着きなマリオネットレディ。彼は少しワケアリなんだ」
「ワケアリぃ? まあいい、興味はねえからな」

 ララの怒りは少々収まったようで、アリスの負傷した足を診る。

「凍傷と切り傷、こいつはひでえな、出血がないのは凍ってるせいか。しかも、常温なのに氷が全く解けてねえ。魔法の傷か」
「ああ、そうさ」

 ジャンは頷いて、自分の服も脱ぐ。

「ジャンの方は……なんだお前、自分で自分でも撃ったのか?」
「いーや、跳ね返された。白い影に」
「あーあ、出会っちまってたか」

 ララが半目でそうぽつりと言うと、アリスの足に手に持っていたガーゼを張り付ける。そして、そのガーゼに何かを何かを書き込んでいた。

「これは?」
「再生の術式。一晩あれば治るぜ。ただし、あいつらに塗った軟膏みてえに、その分の痛みは伴うけどな」

 ララがそういうと、ガーゼを抑えつけて包帯を巻く。包帯を巻き終わった後、足に向かってパンッと掌でたたきつけた。

「いてっ!」
「はい、これで明日まで安静にしてりゃ何もなかったかのように治ってるぜ。ほら、次はジャンだな」

 ララがそういうと、ジャンの方へ向いて、軟膏を手に取った。

「そういや、あんたの名前は?」

 ララはジャンに軟膏を塗りながらアリスに尋ねる。

「俺は「有栖川龍志」。わけあってジャンとカーラに同行しているんだ」
「ふーん、「アリス君」か。かわいい名前だな」
「……ふぅ」

 またもや「アリス」呼びにため息しか出なかった。
 そのあと、ララはジャンに対して笑みを浮かべる。

「それにしても白い影に喧嘩を吹っ掛けるなんて、いい度胸じゃねえか、ジャン」
「まあな……喧嘩しなけりゃデッドエンドだったぜ?」
「あんま無理してんじゃねえよ。お前らが死んじまったら、「あいつ」になんていえばいいんだよ」
「その時は俺が直接謝るさ……」
「馬鹿言え、このとんま。俺はあいつにお前らを任されてんだよ。死なせやしねえって」
「……ありがたいぜ」

 ジャンは珍しく柔らかい笑みを浮かべていた。


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