複雑・ファジー小説
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- 新世界のアリス【完結】
- 日時: 2021/09/10 20:32
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
はじめまして、転生モノがやりたいのでスレ立てしました。
気まぐれに更新する予定です。
ギャグ寄りのシリアスなストーリーを目指します。
2021.09.01 「小説カキコ 小説大会2021・夏」にて銅賞を受賞いたしました!
>>1>>37 登場人物
>>2 地名と用語
・本編
プロローグ>>3-6
Act.1 新世界の歩き方
1章 >>7-9
2章 >>10-13
3章 >>14-21
4章 >>22-25
5章 >>26-29
Act.2 美しき海には毒藻がある
6章 >>30-36
7章 >>38-42
8章 >>43-47
9章 >>48-53
10章 >>54-57
11章 >>58-63
12章 >>64-68
Act.3 妖精達の演舞
13章 >>69
お知らせ >>70
- Re: 新世界のアリス ( No.46 )
- 日時: 2021/08/21 21:10
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
「ククク……"マリンフォール東部の双巨塔"と呼ばれた私達二人に、喧嘩を挑むとはその度胸たるや良し! しかし、簡単に勝てると思わぬことですなぁ!」
「そんなのあったのかい!?」
シマコがくつくつと笑っているが、ヒコナは驚いてシマコに顔を向ける。
「世間知らずは嫌いです、ヒコにゃん。もっと勉強してきんさい」
「……ハア、まあいい。どうせ侵入者は全員ブッ倒すのみ。進みたけりゃ、あたし達を倒していくことだね!」
目の前の二人がそう言うと、ジャンは頷く。
「端からそのつもりさ、ツインレディ」
「じゃ、死ね」
シマコがそう言うと、手に持っている武器……箒の先端をジャン達に向ける。先端のキャップ部分を「キュポン」という軽快な音を放ちながら外し、「カチッ」というスイッチを押す音も鳴る。
「避けるのにゃ、キザ太郎!」
ルカの号令を聞き、ジャンは伏せ、カーラは壁際まで避ける。ルカはというと、ジャンとカーラの逆方向へ向かって素早く飛び跳ねた。その直後にジャン達の背後に爆炎が上がる。ジャンは驚きつつも、シマコに向かって持っていた銃の引き金を引いて、銃弾を放った。カーラもそれに合わせ、シマコに向かって背負っていた剣を手に取り、斬りかかる。
「ナンセンス、非常にナンセンスです」
シマコは箒を巧みに振り回し、銃弾をはじくと、カーラの大剣も箒で受け止める。
ヒコナはというと、シマコと同時に攻撃を受けていた。右の上腕をルカの蛇腹剣によって縛られ、上腕からは赤い液体が滲み、垂れ続けている。しかし、ヒコナの顔色は全く変わらず、涼しい顔だった。
「こりゃいい武器だね、もしかして、ワースさんのとこのかい?」
「自作ですにゃ。パーツとか素材はワースさんとこで買いましたがにゃあ」
「いいね、性格がちゃんとしてれば、防衛隊にほしいところだよ」
ヒコナはそう言いながら笑うと、蛇腹剣のワイヤーを手づかみする。
「だが、鍛え直しなァ!」
そう言うと、ヒコナはワイヤーを力の限り引っ張り、剣を持っていたルカも引っ張られてバランスを崩して引きずり回されてしまう。顔と体に擦り傷ができるが、止まることはなく、ヒコナにワイヤーを引きちぎられ、投げ飛ばされた。
「やはり、魚人種はインフレしすぎ……です、にゃ……」
ルカはそう言うと、体を突っ伏したまま瞳を閉じてしまった。
「そりゃあそうさ。母なる海、母なる水。それらに囲まれた魚人種は、皇帝すら手を付けられない」
「水が無かったら打ち上げられた魚なんですけどね、私ら」
シマコがカーラの頭を踏みつけながらそういう。シマコは、ルカとヒコナが争っている間に片を付けているのか、カーラもジャンもボロボロになっていた。カーラは気を失って、横になって倒れている。
「あっけないですねえ、喧嘩を売っておきながらこの体たらく。男はやっぱり骨がない、全くお話になりませんですなぁ」
シマコがにぃっと口の先端を釣り上げてジャンの頬辺りを踏みつける。
「雑魚を嬲るのは気分がいい」
そう言い放つシマコの姿は、誰がどう見ても悪役そのものだった。
「調子に乗るな……」
ジャンが弱弱しく言い放つと、体力を振り絞って銃をシマコに向け、一発銃弾を放つ。バンッという音と共にシマコの顔を狙った。……しかし、彼女はその動きすら見えているのか、顔を逸らしてその銃弾を避ける。シマコはジャンの顔を蹴り、ジャンは床を転がる。意識が遠のく中、シマコとヒコナの会話が聞こえた。
「残念、見えておりましたのです。さて、どうしましょう。この3人」
「地下にでも入れておくか。一応闘技大会前とはいっても、殺生は粛清対象だよ」
「えー。面倒ですやん? 面倒ですやん!」
「なんで二回いうんだ。まあいい、早くするよ――」
―――――
どれくらいの時間が経ったのか、ジャンが目を覚ますと、暗い洞窟の中にいた。無機質な鉄格子が目の前にあり、狭い空間の中で閉じ込められている。鉄格子の向こうには明かりがあり、恐らく照明があるのだろう、白い光に照らされている。鉄格子の中は、座り続けていると体温が奪われるような、土が露出して石が無造作に転がっているような床に比べ、外の廊下は削られた石が並べられて整備された床だった。
ジャン達の他に牢屋に閉じ込められている囚人はいないのか、他の部屋の鉄格子の扉は開きっぱなしになっている。ジャンはその様子にため息をつくと、周りを見た。ルカは横になって不貞腐れているし、カーラは眠いのかこっくりこっくりと、顔を上下に揺らしている。
「おはよう、レディ達」
「おはようじゃねえよ、キザ太郎」
ルカが機嫌を悪くしながら悪態をつく。相当機嫌が悪いようだ。
「……あ、ジャン、おはよう」
「今何時だ?」
「外が見えないから何とも言えないけど、多分夕方5時くらいじゃないかにゃあ~なーんてね」
「今何度?」
「アペン度」
ジャンとカーラの気が抜けていそうな会話に、ルカがバンッと床を叩いた。
「そんなこたぁどうだっていいんでい!」
「どうしたの~ルカちゃま。ゆっくりしていこうよ。Take it easy.おk?」
「おk? じゃねえよ!」
「もちつきたまえ。怒り狂ってもこの状況はよくならんのだよ。状況を整理しようじゃない」
怒り狂うルカに対し、カーラは冷静に、ただ冷静にその辺にある石をとりだして、床に絵を描き始める。その絵は、今いる牢屋と廊下……この地下全体の地図であった。
「なんで地図描いたんですにゃ?」
「そんなことより、この龍寓殿の主「オトメ・タツミヤ・マリンフォール」は、アポさえ取っていれば謁見可能な心の広い人なんだけど、大の男嫌いでも有名なんだよね。だからジャンがいた時点でこうなることはわかってた」
「なんで先に言わなかったんですにゃ?」
「あれれぇ~? それはブーメランですなぁ、ル・カ・ちゃ・まぁぁぁーっ!?」
ルカの指摘に、ここぞとばかりに、腕を組みルカに顔を近づけて彼女を凝視するカーラ。表情はなんというか、煽るような笑みを浮かべていた。
「こいつ性格最悪ですにゃ」
「どの口がいうのかな? 私、素手でも魚人種並に強いんだよ?」
「じゃあなんでさっきは成す術なく負けたんですにゃあ~?」
「そりゃあ、ぶっちゃけ疲れてるんだよねぇ。今日はサミュエル副長と殴り合い、しかも海を歩かされて疲れてんだよねぇこっちは!」
「あーあー、そうですかそうですか。そりゃあ申し訳ございませんですたにゃあ!」
「おじぎをするのだ、おじぎ! お・じ・ぎ!」
「あーあー、うるさいヤギですねえ!」
二人が言い争う中、ジャンは俯いてそれを静観していた。
「ジャン、さっきから黙ってるけど、何か――」
「いや、何か脱出できる方法を考えてたが、やっぱり思い浮かばなかった。どうする? これから」
ジャンが珍しくそんなことを言うので、カーラはため息をついた。
「果報は寝て待て、かな」
「それがいい」
カーラが寝ころんで寝ようとするので、ジャンもカーラと同じようにその場で寝ころんで眠ってしまった。
「……私はどうすれば?」
「黙って寝ろ、武器がない今、寝て体力を温存するしかないよ」
カーラはそういった後、目を閉じた。
ルカは、言われた通りにその場に寝転がり、目を閉じようとする。
「床が冷たくてゴツゴツしてますにゃ」
「我慢して、今は何もないんだから」
- Re: 新世界のアリス ( No.47 )
- 日時: 2021/08/21 21:58
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: RAGGUceS)
しばらく眠っていると、突然鉄格子の扉が開く金属音が響き渡り、その音を聞いたジャン達は目を覚まし、飛び起きる。カーラは目をこすり、あくびをしているし、ルカはというと、同じく大きくあくびをしながら、目元に涙をためていた。
「あんたら、よくこんなジメジメした場所で寝れるね」
そんな声が上から降ってくる。見上げると、ヒコナが鉄格子の扉を開けて呆れたような顔でこちらを見ていたのだ。
「今日はいろいろあったからな」
「うん、海賊に襲われたり、あなた達に襲われたりしたりしたからね~」
ジャンは腕を組み、カーラは笑いながら頭を掻く。ルカはというと、げっそりした顔で「夢じゃなかった……」と小声でつぶやき、足を合わせて腕を組み、体育座りをして顔を膝に埋めた。
「で、モーニングレディ。何か用か?」
「姫様があんたらに用事があるんだってさ」
「姫様……「プリンセス・オトヒメ」の事か」
ジャンがそう言うと、ヒコナは頷いた。
「そうさ。とりあえず、謁見の間まで案内してやる、ついてきな」
「うーい」
カーラが軽く返事をすると、3人は立ち上がり、服についた土を払って落とす。長時間同じ姿勢だったのか、体のあちこちが痛む。
「それにしても、姫様が何用なんだろう? 男嫌いだから目の前でジャンの首をチョンパしちゃうのかなぁ!?」
「うーわ、ジャン太郎さん、ナンマイダナンマイダですにゃ~!」
「勝手に殺そうとするんじゃありません」
謁見の間まで歩いている途中、カーラとルカはあらぬ事を想像しつつ、ジャンはそれにツッコむ。ヒコナはそれを尻目に「騒がしいなぁ」とつぶやきながら頭を抱えつつも、目的地へと歩いている。
ジャンは改めて宮殿内を見渡す。白い柱、白い天井、貝殻の化石が混ざった大理石の床……そして、今歩いている、謁見の間へ続く踏み心地がいい赤く長い絨毯。流石東部を統治する長が住まうという宮殿。かなり大金を積んでいるものと見える。とても真似できない。
「あんまキョロキョロするんじゃないよ。もうすぐ謁見の間だからね」
ヒコナがそう言うと、なるほど。目の前にいかにも「この先は謁見の間です」と言わんばかりの、敷居の高い感じの扉がジャン達を出迎えた。扉には黄金の装飾と、蛇のような見た目の龍の彫刻が施されており、思わずカーラとルカは声を漏らす。
「うはあ、すっごーい!」
「いつ見ても素晴らしい彫刻ですにゃあ……」
「しっ、この先は姫様がいるからね。無礼のないように頼むよ……怒らせるといろいろ面倒だからね」
ヒコナがそう言うと、扉を力の限り押す。ゴゴゴという重い音が響き渡り、扉が開きだす。
謁見の間は非常に広い空間であった。赤い壁、同じく赤い床、柱が何本も天井を支え、奥には金髪の高貴な女性が大きな玉座に座り、こちらを見下ろしていた。その脇にはシマコが箒を手にしながら立っている。
ヒコナが一歩前に出て、膝をついて首を垂れる。
「「乙姫様」、ただいま侵入者3名を連れて参りました」
「よいよい、ご苦労であるぞ、ヒコにゃん」
「……ハア」
乙姫が満足げに頷くと、ヒコナは非常にうんざりした表情でため息をついた。
「侵入者よ、もっとちこう寄れ」
彼女がジャン達に向かって手招きをする。ヒコナも「近づいていいぞ」と一言言うので、ジャン達は言われたとおりに乙姫の下まで足を踏み入れた。
乙姫を見る。輝く一番星色の髪、真っ青な海色の瞳。夕焼けの海のような黄金の色の着物を纏い、夕焼け色の羽衣を羽織る、まさしくお姫様という感じの見た目であった。手に持っている黄金の杖は彼女の背丈くらいあり、足を組んで玉座に腰掛け、床から立てて支えている。
「ふむ、そなたらが侵入者かえ? なるほど、わらわ的にはちょべりぐな男であるな。キザ助」
「お褒め頂き、光栄ですね」
ジャンは乙姫の口調に一切触れず、にっと笑う。
「して、そなたらの名は?」
「俺は「ジャン・ドランシル」。バウンティハンターをやってます」
「私は「カーラ・ガライダラドン」! ジャンに同じ!」
「私は「ルカ・スプーフ」――」
「ああ、そなたがエイヴリーの奴にデマを流したなめ猫かえ? うわさは聞いておるぞ」
「な……め、猫……」
ルカは頭を抱え、項垂れる。すると、シマコが少し苛立っているのか、声を上げる。
「姫、姫。そんなことを話す為に奴らを呼んだんですか? 本題話して下せえ本題!」
「まあ、慌てるでない。せっかちさんは好かんのじゃ」
「そうだぞヒコにゃん。慌てるでない」
「……あたしゃ何も言ってないだろうが……」
ヒコナは頭を抱え、ルカと同じように項垂れた。
「で、プリンセス。本題とは?」
ジャンが痺れを切らして尋ねてみる。すると、乙姫はニヤニヤ笑い、服の袖で口元を隠した。
「聞きたいのかえ? 本当に聞きたいのかえ~?」
「もったいぶるならいいです」
「そこまで知りたいのなら教えてやるぞな」
カーラの静かな一言を無視し、乙姫はふんぞり返って彼らに向かって言い放った。
「……はあ、マジか」
乙姫のお言葉を聞いたジャンは、マフラーで口元を隠しながら、「やれやれ」と俯く。カーラはというと、目を輝かせていた。
「面白くなってきたね、ジャン!」
「……だが、なんでこんな事になっちまったのか」
ジャンはそう言うと、天井を見上げてため息をつく。
「シクヨロ頼むぞ、チャラ太郎や」
「ああ、その代わり……こっちの話も聞いてもらうからな。頼むぜ」
彼の一言に、乙姫は「お任せでまかせであるぞよ」と胸を叩いた。
- Re: 新世界のアリス ( No.48 )
- 日時: 2021/08/15 23:23
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
9章 乱戦乱舞!
アリスとギン、キリガンはラプンツェルとエイヴリーの案内の下、現海皇である「マオーシャ=ネプテューン・マリンフォール」に謁見をしていた。案内された宮殿「アトラ・ティエス」内にある会議室で待つよう言われ、3人とラプンツェル、エイヴリー、そしてサミュエルは室内で各々自由に待っている。会議室とは、どこでも同じような造りだなと、アリスはそう思いながら辺りを見回す。白い壁、大理石の床、石造りの天井と、水辺でも建物が傷まないような構造で、彼は関心していた。
10分程度時間が経つと、会議室の扉が開く。すると、杖をついた赤い女とベールを被る紫色のドレスを着こむ医者らしき人物が中へと入ってきた。アリスとギンは一瞬「沙華」だと思い、身構えるが、全く違った顔つきや身長と服装に、すぐに警戒を解く。彼女は赤い鍔の広い帽子を被り、黄色のドレスを着こむ、赤い長い髪と瞳、何者にも負けぬという自信に満ちた表情と風格を持つ者だった。まるでマフィアの女ボスといった雰囲気だ。
隣にいる女は、顔を包帯で巻き、青色の髪と包帯で顔を隠す、緑色の瞳を持つ凛とした人物である。
「待たせたね、お客さん。あたしがこのマリンフォール透海自由国の最高指導者。名を「マオーシャ」という、どうぞよしなに……ってね」
マオーシャがアリスとギン、キリガンに対し頭を下げると、慌てて3人も頭を下げる。そこでエイヴリーが腕を組み、笑みを浮かべた。
「久しぶりだね、マオ。怪我はどうだい?」
「ああ、久しぶりエリー。ぼちぼちって感じよ。そっちも元気してた?」
「この前も島を一つ壊しちまった」
「そうか、しわ寄せはこっちに来るからあんま暴れないでほしいんだがねぇ」
まるで友達のように互いに愛称で呼び合うマオーシャとエイヴリー。会話は物騒だが、二人は楽しそうであった。
「あ、あの……」
「おっと、すまないねお客さん。あんたらが報告に聞く「アリスガワリュウジ」、「ギン」、「キリガン」かいな。ラプンツェルの報告に比べてそこまででもないな」
「俺、どんな風に書いてあったんだろう……」
キリガンが報告書の内容が気になっているところだが……それを尻目にマオーシャが「とりあえず座りなよ」と3人に座るように促す。アリスとギン、キリガンは、マオーシャの視界に入るように向かい側に椅子に腰かけた。
マオーシャも、隣にいる医者に肩を借りながらゆっくりと椅子に腰かける。
「隣の方は?」
「はじめまして。私はマオーシャ閣下の主治医である「ウィチア・メリューヌ」と申します。普段は神導王国の城下町の診療所で回診をしていたのですが、1週間前から閣下の治療を命じられ、ここまで出張してきたのです」
アリスの質問に、ウィチアは礼儀正しくスカートを広げ、頭を下げる。
「マオーシャ殿は怪我を?」
「そう。最近シナヴリア・オルデンツの……なんつったっけ」
「「ナース・ヴェールヌイ」だったかい?」
「「ナイス・ベートヴェン」……だった気がします船長」
「「ノース=ヴェーチェル」様だと仰っていました、エイヴリー様にサミュエル様」
「あんた達相変わらず名前を覚えないんだから!」
「ラプンツェル様、閣下の御前ですよ」
「構わんよウィチア。そうそう、「ノース=ヴェーチェル」。そいつから宮殿を守る為に戦ってたのさ。そしたらこのザマ。魚人種に全治2週間の怪我を負わせるとは、ふてえ奴だよ全く。運よく撃退できたからよかったものの――」
マオーシャは腕を組み、大層機嫌悪そうに言うと、アリス達を見て微笑む。
「悪かった、個人的な話はここまでにしようか」
「ああ、そうですね」
アリスが懐から羊皮紙の巻物を取り出し、マオーシャに見せる。
「ローズライト国王代理から親書を預かってきました」
「おお、ティラからか。元気にしてたかい、ティラは?」
マオーシャが親書を開きながら、アリスに尋ねる。
「ええ、まあ」
「そりゃあいい。やっぱ友達の無事が解ると、気分が良くなるね」
先ほどと打って変わって機嫌がよくなっていくマオーシャ。見るからにウキウキしていた。
「同盟の話か。まあ友達のよしみだ、今すぐ同盟を……と言いたいところだが」
マオーシャが腕を組み唸る。
「残念だが、今は闘技大会前で、海皇といえど国交を結ぶ権限はないわけだ」
「そういやそんなこといっちょったのう」
ギンが思い出したかのように腕を組んだ。
「なんとかなりませんか?」
「なんとかなるわよ」
キリガンの質問を、マオーシャの代わりにラプンツェルが答えた。
「闘技大会に出場して海皇の代わりにリングに立って優勝すればいいのよ」
「ええ、それって問題は――」
「ないわよ、優勝者は海皇の権限を他者に譲ることが許されてるの。傭兵協会から闘技大会に出場する人もいるからね。優勝賞金を引き換えに依頼主に権限を譲るって事例自体は過去の闘技大会でもあったから、全く問題ないわよ」
「結構アバウトな大会じゃなあ」
ギンが頬杖をつきながら半目でラプンツェルを見る。
「この国の名前を忘れてないかしら。「自由国」よ、ここは。王を決めるのも自由なら、王の権限を譲るのも自由。でも一応八百長イカサマは禁止されてるわ。実力で勝たなきゃダメ」
「大会のルールは?」
「2対2のトーナメント形式だよ。リングに最後まで立っていたチームの勝利さ」
エイヴリーが答えると、ギンが「へぇ~」と気の抜けた返事をする。
「なんで2対2なんじゃ?」
「昔は1対1でやってたけど、いつの間にか2対2になってたのさ」
エイヴリーの答えに、アリスは「アバウトすぎるな……」と呆れた表情を見せた。
「まあ、そういう事なら俺とギンで闘技大会に出るとしよう。そして、勝って同盟を結んでもらう」
「ん、いいよ」
マオーシャの即答に、アリスとギン、キリガンはずっこけそうになる。
「軽すぎますよ閣下!」
「いや、断る理由がないし。だってあたし、今怪我人だもの」
「ま、まあ……そういう事なら。ところで、大会はいつ開催なんです?」
アリスが尋ねると、サミュエルが人差し指を立てて自慢げに答えた。
「明日から一週間の予定です!」
「ほお、明日から……明日から!?」
- Re: 新世界のアリス ( No.49 )
- 日時: 2021/08/18 01:24
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: UjpdDLCz)
翌日、マリンフォール中部の人工島にて、闘技大会が執り行われた。リングの上はシンプルで、何もない。ただそこに整備された石造りの床が広がるだけで、周囲は大勢の観客が密集し、大会が始まる前だというのに、熱狂していた。
正式名称「マリンフォール闘技大会海皇決定戦」では、ペアチームであれば国籍がどこであろうが、素性がどうであろうが、実力さえあれば老若男女問わず参加することができる。ルールはシンプル。リングから場外KOか、降参させるか、武器を壊したり、戦意喪失させたり……とにかく死なない程度に痛めつけてノックアウトさせればいいというものだ。このルールは、現海皇であるマオーシャが取り決めたもので、彼女が海皇になる前は死者も当たり前の殺伐とした大会だったらしい。
――と、控室でウィチアとマオーシャが教えてくれた。
「というわけで、怪我したら医務室からウィチアが駆けつけてくれるからな。遠慮なく頼るといい」
「それはありがたいが……聞いた時からずっと思っていたがアバウトだな」
「そりゃそうだよ。魚人種自体が何も考えないアバウトな存在だからね。理性的なのはウィチアとあたしみたいな変わり者しかいないよ」
「なんとなくわかります」
アリスが半目で答えると、ギンを見る。ギンはいつも通り「面倒じゃあ」とぼやきながら、錫杖の仕込み刀を砥石で研いでいる。
「ギン、今日はサボるなよ」
「わかっとる。さっき、「もし負けたらラプンツェルの砲撃塔の修理代を賠償金として請求する」とか言われちまったら、面倒とは言いつつも本気で頑張らねばならんわい」
ギンが苦虫を噛み潰したような顔で、刀を研ぐスピードを上げる。金額も聞いてしまったらしく、表情がいつもより暗い。
「ま、ラプンツェルを倒したあんたらならいけるって」
「ご武運をお祈りしております、アリス様、ギン様」
マオーシャが笑顔で、ウィチアは微笑みながら二人を激励する。二人は「ありがとう」と同時に口にすると、立ち上がった。
「よし、行くぞ龍志。長かった戦いよ、さらば!」
「まだ始まってすらいないぞ」
闘技場へ出るアリスとギン。向かい側には、いかにも「やられ役」といった感じの魚人種二人であった。魚人種二人は典型的な荒くれ者の恰好で、三白眼、ボサボサの髪、破れた服と……呆れる程テンプレ通りだ。
「ヒャッハー! 男にジャリガキとぁ、第1回戦は勝ったも同然だぜぇ!」
「せやなぁ! 優勝して、今年こそうちらが海皇になるんじゃい!」
「あー……アホらし」
ギンが深くため息をつきながらそっぽを向く。
「なんやと!? ガキが調子に乗っとるといてもうたるど!」
「龍志、大阪弁を文字に起こすとアホっぽく見えるよなぁ」
「いらん事言わないでよろし」
ギンとアリスが小声で会話していると、ゴングの音が鳴り響く。開戦の合図だ。ゴングの音が鳴り響いた後、より一層会場に熱狂の嵐が巻き起こる。
「死にさらせぇーっ!」
先制攻撃に、片方の魚人が両手に鎖鎌を持ち、ギンにとびかかる。そして、鎖鎌を投げつけてきた。が、ギンは「見え見えの攻撃じゃなあ」と目を閉じて投げられる鎖鎌をひょいっと避ける。
もう片方はモーニングスターを振り回し、鉄球をアリスに向かって投げつけてくるが、アリスはため息をついて、鉄球が来るより早く魚人に向かって突進する。
「どうも、エイヴリー船長とか自律人形や機械人形に比べて動きが鈍い気がするな」
アリスがそうつぶやきながら、刀剣を抜いて一閃。魚人の持っているモーニングスターが真っ二つに割れて床にバラバラと落ちて砕けた。
「インシュエ……斬ッ!」
ギンは素早く魚人の後ろへと回り込み、首元に錫杖の柄を叩きつける。かなりの強い力で叩き、魚人は気を失ってその場に倒れてしまった。
「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった……」
「全く、斬ってないだろ」
アリスが呆れながら肩をすくめると、会場は盛り上がって歓声を上げていた。一瞬の出来事だったが即座に試合終了したため、アリスとギンに対し、期待が高まっているのだろう。アリスとギンの名を呼ぶ声も聞こえてくる。
アリスは「戻るぞ」と言い、ギンを脇に抱えてそそくさと会場を後にした。
その後、順々に試合が執り行われ、第一回戦は無事に終了した。中間発表で第一回戦を勝ち抜いた者が発表されていく。アリスはその中で気になる名前を見つけた。
「……「ノース=ヴェーチェル」と「フロンタル」……たしか、ノースの方はシナヴリア・オルデンツの一員だったか。マオーシャ殿にけがを負わせたという」
「あと、「ディクシア・ディディモス」、「アリステラ・ディディモス」っちゅーのも気になるのう」
「なぜだ?」
「龍志と被っとる」
「俺は龍志が名前だ、被ってない」
アリスが静かに怒っていると、ギンはケラケラ笑っていた。
「次の次の次あたりの試合、ディディモス姉妹のようじゃぞ」
「待て、ツッコミどころ満載だが、あえて一つに絞るぞ。なぜ姉妹とわかる?」
「乙女の勘じゃ」
「お前は765歳以上だろ、乙女もクソもないだろうに」
「きぃぃ! 女の子は何歳になっても乙女なんじゃよ、龍志のアホ!」
ギンがその場で地団駄を踏んで怒っているが、アリスは腕を組んで「それはそれとして」という。
「次の試合は午後1時からか、昼飯を食いに行くぞ」
「んにゃ。腹が減っては戦はできぬとな。行くんじゃ~」
「単純な奴だな」
二人は控室を後にすると、闘技場にある食堂へと足を運んだ。
- Re: 新世界のアリス ( No.50 )
- 日時: 2021/08/18 21:18
- 名前: r/L ◆5pOSsn24AA (ID: zla8knmg)
観客の熱狂が続く中の第二回戦。
アリスとギンが場内へと姿を現すと、観客が歓声で騒ぎ始める。それだけの期待が高まっているのだろう。
「龍志、わしら……結構な額を賭けられておるそうじゃぞ」
「……日本だったらしょっ引いてるところだ」
「フヒヒ、ここは自由な国。賭け事なんぞしょっ引いたら、わしらが捕まるぞよ」
「ああ、そうだな。だが、俺達が賭け事に使われてるのはあまりいい気がしない」
「期待してる人間が多いってことでここはポジティブにのう」
「……仕方あるまい」
アリスは頭を抱えため息をつくが、首を振って目の前を真っ直ぐ見る事にした。奥の方から人影が場内へ足を踏み入れる。遠くからでは判断しにくいが、男女のペアだろうか。身長は同じくらいの二人組だ。その二人がこちらへと悠々と歩み寄ってくる。
やがて、二人はアリスとギンの目の前で立ち止まり、男がこちらを嘗め回すように眺めてきた。アリスはその事に不満げに顔をしかめる。それに気づいた男が「おっとっと」と一言口にし、笑みを浮かべた。
「はじめまして、対戦相手さん。私は「フロンタル」。こう見えて魔人種です。以後お見知り置きを」
「はじめまして。有栖川龍志です」
「おお、一回戦見てましたよ。一瞬で敵を無力化する、まさに戦闘のプロ。感服いたしました!」
フロンタルが拍手しながらアリスをおだてている。その様子に、ギンはアリスの腕をつかみ、彼の顔を見上げた。
「こやつからはなんか龍志と同じにおいがプンプンしよる。仲良くなれるんとちゃうか?」
「バカも休み休み言いなさい」
アリスがそう言って改めて二人を見る。
女の方は灰のかかった白色だろうか、その髪をポニーテールにして後ろでまとめている。ダスターコートに身を包み、肌の露出も少ない。しかし、頭部から2本の黒い角と、うなじに竜の鱗が覗いている為、恐らく前にホロウハーツでも見た事のある竜人種であるだろうと推測できる。
代わってフロンタルの方は、黒の髪に一房の赤いメッシュが入っている所謂ツーブロックであり、アリスは「局長と同じ髪型だな」とちょっと関心を抱いていた。四角いフレームの眼鏡の下の張り付いた笑顔は、なんとも警戒せざるを得ないものを感じる。その証拠に旅用のマントは、何かを隠しているのか重みを感じる。アリスとギンと同じく、戦闘のプロといったところだろう。役職は不明だが、どこかの組織にいるに違いない。
アリスが睨みながらフロンタルを見ているので、隣の女がやっと口を開いた。
「"ソル君"は悪い奴じゃないから、そんなに睨まなくてもいいよ」
「ン゛ン゛ッ!!」
彼女の言葉を掻き消そうとフロンタルの方が咳払いをする。
「ソル……?」
「戯言だ。気にしないでください。それより、彼女は「ノース=ヴェーチェル」。……パネルにもそう書いてありますよね」
「ま、ええわいそれで。わしは銀雪。ギンと呼ぶがよい」
「ギンか。見たまんまだね。髪が銀だからギン?」
「ちゃうわい。ま、名前の意味なんぞもう何百年の前の事は忘れた。どうでもいいじゃろ」
「そうだね。今から倒す相手の事を知る必要もないかな」
ノースが右手にハンマーを、左手に剣を装備するのを見計らったかのように、ゴングの音が鳴り響く。
「始めようか、アリスさんにギンさん。ま、我々に勝てるとは思いませんが」
「ちょっと待ってくれ」
アリスが掌を前に突き出して、二人に対して待ったをかける。それを見たノースとフロンタルは少し不満げに眉をひそめた。
「……なんでしょう」
「ノースさんの方……あなたは、海皇の宮殿を襲撃したそうだな。理由を聞かせてほしい」
「……ソ、フロンタル」
ノースがフロンタルの方を見る。……この時点で、二人がシナヴリア・オルデンツの一員である事は予想できるが、今その事を言っても試合には直接関係のないだろうし、何よりはぐらかされてしまうだろう。アリスはあえてそれを無視した。
ノースに見つめられて、フロンタルは頷く。
「今は言えないって事になってる」
「そうか、それだけで十分だ。続きを始めよう」
アリスがそう一言言うと、刀剣を手に取り、鞘から抜く。剣と鞘がこすれる鋭い音が鳴り響き、赤い刀身が日光に反射されて輝いている。ギンも錫杖を地面から立てて、錫杖で地面を叩いて、シャリンと鳴らした。
「アリスさん、あなたがどれほどの実力か、試させていただきましょう」
フロンタルも銃を構えた。
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