二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】
- 日時: 2013/06/20 16:21
- 名前: noeru (ID: aU3st90g)
今度は性懲りもなくカゲプロ作りましたarz
開始早々土下座しちゃったnoeruです。
今回も痛々しい中二病の代名詞、オリキャラ出ます。本当に中二病なんですよー、現実厳しすぎるでしょー。
とりあえずメカクシ団メンバーとオリキャラ設定を。
メカクシ団メンバー
キド 団員No.1 『目を隠す』
セト 団員No.2 『目を盗む』
カノ 団員No.3 『目を欺く』
マリー 団員No.4 『目を合わせる』
モモ 団員No.5 『目を奪う』
エネ 団員No.6 『目を覚ます』
シンタロー 団員No.7 『???』
ヒビヤ 団員No.8 『目を凝らす』
コノハ 団員No.9 『???』
ユキ 団員No.10 『???』
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参照300・400突破記念企画(?)
短編募集用紙 >>75
チェックメイト(ネタはyumiから☆ >>76)
>>80 >>81 >>82
六兆年と一夜物語
>>86 >>87 >>97
番外編
キャラ設定
>>212
『泡沫セイレーン』
第1話(参照1000突破&参照1100突破記念)
>>209 >>211 >>214 >>215
全まとめオリキャラ編 >>238 >>331 >>342
狂愛カルテット >>299
黄昏テネシティ >>343
箱庭マリオネット >>378
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- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.12 )
- 日時: 2012/10/21 21:12
- 名前: noeru (ID: 8Iser8UO)
血に染まる掌をぼーっと眺めながら思い出す。
確か、こんな風に血に塗れたことは初めてじゃないなって。
最初はただ歓喜に満ち溢れ。
最後はただ絶望に呑まれて。
そして今。
思い出すのは、久しぶりに恐怖を味わったついこの前のこと。
・ ・ ・
ぎゃーぎゃーと騒がしい怒鳴り声で目を覚ます。手をぶんぶん振り回してスマホを探し、時間を確認する。ただ今午前3時。寝返りをうって初めて、隣で寝ているはずの人間の不在に気付きそのまま転がって、まあ簡単に言うと落下した。何故か布団があったのでまったく無傷で音も立っていない。私の起床に、怒鳴られている幼なじみ・如月シンタローと怒鳴りつけているその母親、ディスプレイの中で必死に笑いをこらえている少女・エネは気付いていない。
(またエネの悪戯だ…。)
覚束ない意識でベッドによじ登り、スマホを元あった場所に置いたつもりで、意識が飛んだ。
真夏日らしい。シンタローと違ってネットではなくゲームの方が性分に合っている私は、もう2年近く世の中のことに関わらないまま(新作ゲーム情報は誰より早くシンタローから仕入れている)で、今の首相が誰とか何があったとか去年の漢字はなんだったとかもう何も知らない。
暗い部屋で2人きりで2年間、というと世の中の女子諸君はたいそう大好きな恋愛ジャンルの場面を思い浮かべるだろうなあ。きっとそうだろうと思う。その言い方ならそれが正しい。でも正しく言い換えると———光のささない自室で2年間勤務している、それが現実、なんだよね。
カーテンを開けば日の光は入ってくるけど、そうすると室温が容赦なく上がるから締め切っている。私のライフスタイルは、常に部屋着で右手にお菓子、左手にPSPや3DS等の携帯ゲーム機。口には大量の食糧が詰め込まれているのが通常。これで一日当たり通算8時間は固まっていられる。指先だけは秒速で動き、画面上で敵をなぎ倒す。めっちゃ快感。
隣人である幼なじみの家に逃亡、自宅警備を名乗り出たのはもはや2年前だった。代わりに一応一通りの家事はするという、条件付きだけど。人前には絶対に出ない、それがルール。
如月家は現在2名が警備しているので、泥棒・空き巣、窃盗犯、殺人犯、誘拐犯、立て籠もり、なんでもこいって感じ。もし外部の人間が許可なく入ろうものなら、この自慢の声で鼓膜をぶち抜き、今すぐにでも護身用のナイフを(室内なのになんで持っているかは忘れた)その懐に投げ込むことなんて容易い。
ちなみにこの職に就いて2年目だけど、いまだこの家の人以外人間の目撃はないんだよね。
ちやほやされたいだけで同人音楽制作に燃えるシンタローのそのやる気がどこから出てくるのか今だに理解不可能。その間、私は黙々と食べ続け、エネとシンタローの日々の戦いを観戦しつつ、画面上のゾンビを容赦なく撃ち続けその肉を抉り取ったり、2足歩行の猫とやたらでかいモンスターの腹をハンマーで殴るまたは双剣で刻み、ある時は世界規模という設定のサッカーチームの凄腕監督として選手の育成に励み、シンタローが2年間作り続けている同人音楽のリズムゲームで新記録を叩き出し、気が付けば太古から足が生えた世にも奇妙なキャラクターの顔に合わせてボタンを連打しまくって、ヤンデレ・ワカメ・ロリ出演のホラーゲームのシナリオを進めて…それだけ。
おばさん作のサンドウィッチは今朝の件からか私の方が圧倒的に量が多かった。ううん、常に如月家の食費の8割は私が補っちゃってる。居候の身だけど、これだけは減っては今すぐにでも死ぬ自信があるんだよ。
やけに意気揚々とPCに向かうシンタローは今日は絶好調なようで、にやにやしながらぶつぶつ呟いている。基本会話は…しないかな。シンタローはエネとの喧嘩に忙しいし、私が喋ったらもはや人災。そんなことすれば私が居座ってるシンタローの部屋は大惨事だもん。元はモモの部屋にいたけど、なによりファンからの粗品で本人すら別室に避難している状態なので(それでも私は入りきらなかった)元々ゲーム等を配置していたシンタローの部屋に移動になったんだよね。移動と言っても腕一杯に食料を詰めた紙袋とスマホ、数冊のマンガと衣類のみの移動。
エネが来たのは1年前くらい、自宅警備の新米時代の頃だ。送信者不明のメールを勢いで「まあネタにはなるんじゃない?」くらいの心意気で開けてしまい、シンタローの武者修行状態が始まるんだけど。
当時はRPG(私の専門業)の主人公のイスがシンタローに配られたかのような勘違いをさせていたエネ。今更ながら、IQ168の18歳がそんなことを考えていたと思うだけで腹筋が崩壊する。私みたいなゲーム中毒ならまだしも、ネット中毒の現実主義者の、しかも男子。誰か私の腹筋を回収しに行ってくれなかな、いや本当に。実際は何も変わらなかった。
1週間ほどでエネはシンタローのPCのみならず、オンライン接続済みの私のPSP、3DS、Wii、PS2、PS3、Xbox360、PSvitaの全権限を握った。昨日高校入学時に親に黙ってネットのオークションで高値で購入した初代ファミコンの寿命を告げられた(というか寿命を縮められた)時は、もう泣いた。DQ初期が出来ないのは、徹夜で竜王を倒した日の努力が泡になることで、思い出しただけで涙が…。
「ぎゃあああああああ!!!」
「にゃあああああああ!!!」
突如上がった叫び声っつか無念の嘆きに変な声を上げちゃった。
シンタローは気付かないけど。
「そんなわけで第1問!これに正解すると1つ目のパスワードを教えま——」
「お前は馬鹿なのか?!死ぬのか?!これ!!曲!!これ!!」
シンタローは椅子から立ち上がりディスプレイに向かって大声で叫び散らしてる。エネが作成中の曲のウィンドウを綺麗さっぱりお掃除したみたい。
「はぁあぁ〜……」
あっと声を上げたが遅かった。それはスローモーションのように、シンタローの腕に当たって傾いて一直線にキーボードとマウスへと、
「あぁ!!ご主人ご主人!!飲み物!!」
一瞬のエネと私の硬直・沈黙。キーボードが残りわずかな命のファミコンに見えて動けなくなっていた私ではなく、エネの方が先にもとに戻った。
「え?」
「ああああああ—————っつ遅かった。」
やっと声が出た時にシンタローが見たもの。
——キーボードとマウスに飲み掛けの炭酸飲料が注がれていた。
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.13 )
- 日時: 2012/10/21 21:27
- 名前: レイン (ID: EuoyRK2I)
初めまして、レインと申します。
かっこいい題名だなーと思い、小説を閲覧させていただきました。
なんかもう悔しくなるくらいに見ていて面白かったです。
頑張ってください。
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.14 )
- 日時: 2012/10/22 20:51
- 名前: noeru (ID: 5FJRtBSO)
あ、ありがとうございます!!arz
なんか土下座ばっかり…(^_^.)
回想(前回とか)の部分は本家小説に基づいて書いてます!そちらと一緒に読むとセリフとか一緒で面白いかと思いますので、ぜひ比べてみてくださいっ(>_<)!!
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.15 )
- 日時: 2012/10/23 17:55
- 名前: noeru (ID: mqlDl9Nn)
再びシンタローの悲鳴が耳を劈くように響いた。黙らせるためと、キーボード類が壊れるとたまに描いているデジ画まで消えるのを防ぐために、目の前にあったティッシュの箱をシンタローの頭部に思いっきり投げつけた。それを無造作に取りまくって、ティッシュをキーボードに叩き付ける。シンタローはこの世の終わりのような顔をしていて、私のデジ画さえ犠牲にならなければ爆笑していたはずなのに。悔やしい……。
拭き取りを終え、もう動くはずのない糖液の染み込んだPCのキーを必死で入力するシンタローの横で、大量のポテチの袋を思いっきりぶちまける。前にPSPが水没した際、乾燥剤と一緒に布団の圧縮袋に突っ込んで一命を取り留めたのを思い出したから。この家で布団の圧縮なんてしたことないから圧縮袋があるかさえ知らないけど、乾燥剤なら数えきれないほどある。
手遅れのキーボードの前、マウスを忘れ無念の涙を流すシンタローに乾燥剤を投げる、投げる、投げまくった。それが穴が開いていたらしく中身が宙に浮いて……
「し、シンタロー!!上———」
「……はっ?!」
避けてしまった。乾燥剤の雨を。
「「あああああああああ!!!!!」」
キーボードの隙間に粉が入り、エネの顔面にも飛沫する。炭酸でベタベタになり、直視すればもうそれは即死呪文だって勝てない破壊力。
「ごぉ、ご主人、マウスマウス!」
乾燥剤の急襲によるショックから立ち直ったエネの声に我に返る。
まだ救えるかもしれない、マウス。乾燥剤の粉に塗れていて絶望的だ。しかしその配置を見た瞬間、悪夢が襲来する。
「あああ、わ、私のペンタブ……?!」
紛れもない、昨日最終仕上げをして疲れのあまりマウスの横に放置されていた我が愛しのペンタブが、見るも無残な姿で、甘い糖液と白い乾燥剤という、私の食生活を反映したような遺体で見つかった。昨日まではあんなにも彩色豊かなイラストを生み出していたものとはもう思えない。
「頼むッ……!戻ってこい……!」
「わ、私にもティッシュちょうだいッ!!ペンタブペンタブがあああ!!」
ティッシュの激しい争奪戦の中(乾燥剤はもう一生使わないと強く誓った)、一心不乱にティッシュを叩き付け続ける。もうどれだけ経ったかな、作動するのは右クリックと新規レイヤーのみ。敗戦だった。
いったい3つの命が何をしたというのか。
「あ!ご主人これトトロとだけ打てます!それから濁ったオレンジも何とか、あ!待ってくださいトトr——」
「それ以上喋るな……もう……」
「透明度笑い話にならない……乾燥剤の件、ごめんね……」
濁ったorangeのみで何が描ける。腐りかけたミカンならぎりぎり塗れそうだ。専門の人間に頼めばいいのかもしれないが、人間恐怖症。ヒキニート2人組ではもう直らない。もうダメだ。
なんかシンタローとエネが会話してるけど、耳に入らない。昨日出来上がったばかりの自信作が消えた。何故だ、イラストが何をした。
「シンタロー、通販開いてもらって、エネに……エネ?」
もうなんか流れ的にそうなっていたらしい。しかしシンタローが呆然としたまま唖然としていた。なんか文が可笑しくない?
「あれ?でもそうか、まずいですね〜……」
「まずいってなんか問題あるのか?とりあえず使えれば何でもいいから、即日配達してくれるとこ探してくれよ」
諦めてPSPの電源を押している横で、なんか問題発生したらしい。ペンタブはとりあえず今はいい。今はレベルアップと錬金に集中する。
「それはまぁ……私の責任もちょっとありますし」
「ちょっとじゃねえよ」
「ご主人たぶんコレがないと今日明日中に死んでしまうと思うんで……ご主人♀はお菓子さえあれば……いえ、切り替えが早いですけど……」
「まぁな」
シンタローに両方なっとくされた。イラッとしたので、わざと弱い敵をものすごい強い技で倒してみたりする。すっきり感は十分得られるが、同時に極度の虚しさに襲われる危険行為なんだけど、我慢できなかった。
「ですよね。で、いろいろと探してはいるんですが……ご主人今日って何日ですか?」
「あ?今日は14日……だよな?多分……っあ!」
「……やっと気付いたの?」
ディスプレイを横目で覗くと、大量に並んだ「即日配達不可」の文字。
「お盆なんですよ。どこもかしこもお盆休みで、配送自体明後日からがほとんどです。」
シンタローがぐらっと倒れかける。思わず椅子を蹴り飛ばして後ろに待機させた。
「明後日……?二日後……?」
予想通りシンタローは椅子の背もたれに倒れ込んだ。我ながらファインプレー、絶妙なタイミング。
しかしそんなことどうでも良く、今はシンタローの意識を取り戻す必要があるっぽい。
エネはどうやら同じことを考えているようだ。ただシンタローがその考え通り……エネの玩具になるかとは思えないけどね。幼なじみの勘。
「二択ひでぇ……」
この状態での二択の先はどちらにしろ死なのだろう。この2年間、シンタローはネットで、私はゲームで生きてきたようなものだ。ただ私の方に4割ほどお菓子が混じっていることに否定できない。
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.16 )
- 日時: 2012/10/23 20:31
- 名前: noeru (ID: mqlDl9Nn)
「あっ!キドさん!!ユキ、意識が戻りましたっ!」
ぼやけていた視界がだんだんはっきりしてきて、目の前にモモがいるのが確認できた。いつの間にか仕事から帰って来たらしい。時計を見ると午後9時半。まだマリーちゃんやカノさんは居る…のかな?どうやらリビングのソファの一角で座ったまま眠っていたようだ。
「あれ?私…。」
「あれ?もう起きちゃったの?」
隣から声がして、横を見るとカノさんがいた。
「みにゃあああああっ!!!」
「あはははっ!変な声!!」
笑われた。ちょっとムッとして顔を逸らす。しょうがない、最近コミュ障を治し始めたばっかりなんだもん。それでもカノさんはへらへら笑ってる。それを見ていたら、自分が怒ってるのが可笑しくなってきた。思わず笑いかけた。
「ていうかさ、ユキちゃんって孤児院にいたよね?」
———ごめん、訂正させて。
「…えっ?!なんで…?」
「あ?やっぱり?キドーっ、あたりだよ!本物!!本物のユキだよーっ!!」
キドさんを呼ぶカノさんの横で、回路が破裂した。なんで知ってるの?本物って何?なんで大声で言うの?どれだけデリカシーが無い人なの?こっちが—————どんな思いか分からないの?
「ば、馬鹿!!カノ、お前———」
「へ?———あーあー…。やっちゃったー…。」
「—————ぅうっっうぅぁああ———っ!」
大泣きしてしまった。嗚咽を混ぜて、子供のように泣いてしまった。もう最悪だ。人間の大量発生に怯えて、しかも能力持ってて、あの夢見て、泣いて、暴走して、挙句の果てに掌をざっくり。それだけじゃ足りないみたいで、ちょっとした回想休憩の後はいきなり目の前に人間がいて、孤児院にいたとか暴露されて(大声)、再び大泣き…。ついてないなぁ。
「あれ?ユキ?!泣いてんの?!」
「モモぉ…カノさんがぁっ…。」
カノさんはさっきからキドさんにすごい勢いで蹴られている。たまに「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!キド痛いよ!!」とか聞こえてくる。モモは一瞬で事態を理解したようで、すぐに「お兄ちゃーん!!ユキがーっ!!」って叫びながら奥に消えていくのがかすんだ目で見えた。良くできた妹だなぁ。実の妹でも義理の妹でもないけど。
「あれ、目…。鏡、鏡、眼鏡、鏡、眼鏡…。」
強力な呪文でも唱えるように『鏡』と『眼鏡』を連呼する。こんなにも順番がばらばらな呪文があったら誰か教えて。
「誰かを虫に変える系の呪詛だったりして。あはははは…」
笑えない。全く笑えない。もう散々だ。人間なんて関係を持てば必ず傷付くんだって、あの日に痛いほど知ったのに。涙が止まらないよ。モモはアイドルとしてこの何万倍の人間を一気に相手にしてるんだよね、すごいよ。本当にすごい。私は何もできない分、モモが輝いて見える。ここにいる人間にとって、何億の人間の中に1分居たら100万貰える企画があるとしたらきっと楽勝だろう。私はそれがたとえ欲しくてたまらないゲームでも、食べたくてたまらないお菓子でも、会いたくて死にそうな人でも———私じゃ出来ない。
「なにまた泣いてんだよ。」
「っ!…シンタロー。」
首筋に突如触れた冷たいペットボトル。犯人はシンタローだった。キンキンに冷えた炭酸飲料を、小学生のタチの悪い悪戯のようにうなじにくっ付けてきやがった。くそっ。
「今ので落ち着いたか。」
「寿命は縮まったよ。誰かさんのせいで。」
「あっ、そう。」
軽く流された。いい気はしないが、確かに泣きやんだ。長い間一緒に居ると、相手の制御方法まで無意識に身につくものなのか。ただシンタローが暴走することも大泣きすることも在り得ないので、こちらばっかりうまいように遊ばれてる気もしない。まあ、あのクソ親共に理解されるよりは全然マシだ。むしろいい。不便ではないからね。
「ユキ、すまなかった。カノならもう…俺が謝る。」
「あ、キドさんは悪くないです!!私が泣いちゃっただけですから!!」
カノさんはどうやら遠い場所へ消えたらしい。
「ところでユキ、お前のその体質———『目を潰す』を治そうと思ってるんだが…ユキ?」
言ってる意味が解らなかった。私の数少ないボブギャラリーをふんだんに使う時間さえないほど、雷が落ちたか豪雨に見舞われたかあられに降られた。私の、『目を潰す』体質が、治ル?
「………ふぇ?」
「え?あ、ユキ?」
「にゃ、にゃおるんでしゅか?め、『目を潰す』、本当に?」
最初の方が完全にコミュ障が出てしまい、言い終わって赤面する。シンタローに至ってはため息さえつかれた。人のこといえないでしょって言いたい。すごく言いたい。でも今いったらまたコミュ障。切ない。
「あ、ああ治るぞ。キサラギもそうだったし…。お前の場合はマリーと同じだ。感情さえコントロールできればなんとかなる。それに、『目を潰す』を、本当に潰すのではなく別のことにするんだ。」
「べ、別のことですか…?」
「ああ、いろいろ試してみよう。」
「わ、私…」
—————人間も案外悪いもんじゃない。
「よろしくお願いします!!」
団員№10 ユキ
私に与えられた、勲章のように感じた。
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