ポケモン二次創作 【虹色の天空】 豆電球 /作

第五十一章 ~母を訪ねて・・・~(本編終了)
サカキが逮捕され、全てが終わってから二ヵ月後。ギンガは、刑務所にいるサカキとの面会を果たしていた。
サカキの罪を問う裁判が一週間後に迫っており、そこで重い刑に処せられる。
そうなってしまえば、父親といつ会えるか分からなくなるからだ。
つまり、これが最初で最後の面会である。それなりに、緊張感がある筈なのだが・・・
今、大きなプラスチックの壁で父親と息子を分け隔てている空間に、2人は居た。
ギンガ「・・・親父、どうだ?ムショの飯は。」
サカキ「うむ・・・まあ悪くは無いが、母さんの飯よりはマズイ。」
ギンガ「母さんの飯と一緒にするなよ・・・てゆうか、俺お袋の味覚えてねーんだけど。」
サカキ「そうだったか?玉子焼きなんか、メッチャうまかったぞ。」
ギンガ「十四年前だぞ!?母さんが出てったの。ってか、親父が若者言葉使うんじゃねー。」
サカキ「悪いか。父さんだって、流行は追いかけるモンだぞコノヤロー。」
ギンガ「変わってないのな。本当に。ボスとしての地位が消えうせただけで。」
サカキ「・・・口悪くなったなお前。」
ギンガ「誰のせいだと。幼い頃転々と引っ越してたから、幼馴染が居ないってのによぉ。」
サカキ「仕事だ、しーごーと!」
看守「・・・いつまで、親子喧嘩してんですか。もう、一人面会希望者が居ますが、通します?」
ギンガ「面会希望者?」
サカキ「ああ。通してくれ。」
看守立会いの下、通されてきたある人物に、ギンガは己の目を疑った。
サカキ「リ、リノン・・・!」
何せ、十年以上前に出て行った、自分の母親が目の前に居るのだから。
ギンガ「母さん・・・?」
リノン「・・・全く。いつかはこうなると思ってたわ。貴方は本当に、馬鹿だから。」
サカキ「・・・すまない。迷惑をかけた・・・」
リノン「ギンガまで、巻き込むとか・・・どんだけ?」
ギンガ「な、んで・・・」
リノン「大きくなったわね、ギンガ。あんなに小さかったのに・・・」
ギンガ「いや、あのさ・・・」
サカキ「そりゃそうだ。十四年間会ってなかったんだから。」
リノン「そうよね~、アナタよりも背も高くなって・・・何より。」
母親は優しく、幼子を抱くように息子を傍に抱き寄せた。
ギンガ「母さん!?」
リノン「こんなにも立派になっちゃって・・・」
ギンガ「・・・どうして、十四年前に出て行ったんだ?」
リノン「アナタ、ギンガに言ってなかったの?」
サカキ「言えるか。そんな内容。」
一つため息をつき、母親は語りだした。
時間は遡る事、二十数年前。当時は、サカキも悪に染まる事無く、真面目な社会人であった。
そんなある日、都会の喧騒に嫌気がさしたサカキは、鈴音の小道に偶然迷い込んだ。
そこで、運命の出逢いを果たしたのだ。
当時、ギンガの母親は『舞妓はん』だった。それも、力は桁外れで、舞妓の中でもトップクラスのエリート。
本来ならば、出逢うことの無い2人。
何も力の無いサカキが、『神の領域』に立ち入った事で。全てが始まったのだ。
特別な力を持つリノンに出逢い、『神の力』の強大さに気が付いた。この力があれば、全てが手に入る――
欲に狂った男が一人、一丁上がりである。
しかし、サカキは確かに彼女に恋をした。何故か年中、ずっと紅葉している小道に、一人佇む女性。
美しく、儚げで、力強く、温かい――
欲だけでなく、恋にも狂った男。
彼女は男の欲に気が付きながらも、彼の思いを受け止め伴侶となった。
信じていたから。男が神の力を欲して、悪に突き進まない事を。
叶わなかった。
伴侶となり、リノンは舞妓を引退した。子どもも生まれた。幸せな家庭を築けると思っていたのに。
息子に、己と同じ力があると気付いた時。この幸せな時間が崩れる音がした。
本来、舞妓の力は遺伝しない。ただ、愛息子の瞳は――銀。伝説では・・・
嗚呼、何故ですか。私だけでなくこの子まで・・・どうして、どうして・・・
悪に染まりだした男が、息子の力に気が付いたら、どうするだろうか。
息子を、利用するのだろうか?
せめて、何かが起こる前に出て行かなければ。息子を連れて。
・・・それは出来ない。リノンは知っていた。
力を引き出すには、『両親の、心からの愛情が必要』だと言う事を。
私が連れて行ってしまえば、多分力が目覚めてしまう。同じような力を使うから。
でも、父親の元に置いて行けば。力が目覚める事が無いかもしれない。『両親』の愛が必要なのだから。
だから――
ギンガ「かあさん!ぼくもいくぅ!」
リノン「ゴメンね、貴方が、力に目覚めなかったら、きっと迎えに行くから。」
ギンガ「やだぁやだぁ!!」
リノン「貴方の為にも、この方がいい。きっと、一生『普通』に暮らしていける・・・」
家を出て、後悔が押し寄せる。本当に、置いていって良かったのだろうか。独りにして良かったのか。
でも、これが息子の為、伴侶の為。そう思い、その地を後にした。
ギンガ「・・・」
サカキ「実は、リノンが出て行ってからも時々、電話で話していた。ギンガ、お前の事を。」
リノン「サカキさんを、止められなかった私を許して。独りにしてしまった事も。」
ギンガ「・・・いいよ。もう、終わった事だし。今から、やり直せばいいだろう?」
リノン「そうよね。ありがとう、ギンガ・・・」
看守が、鼻を啜りながら時間が来た事を告げた。これで、暫くは家族が揃う事は無い。
リノン「ギンガ、貴方は今、オーキド博士に引き取られてるのよね・・・?」
ギンガ「そうだけど・・・あ、戸籍。」
リノン「お母さんと、お父さんが来るまで一緒に居てくれない?戸籍も、元通りにして。」
ギンガ「・・・母さん。」

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