ダーク・ファンタジー小説
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- バッドエンドアリスの招待状
- 日時: 2021/02/02 23:46
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: vQ7cfuks)
僕の親愛なるアリス。
どうしても君に真実を伝えることができない。本当に申し訳ないと思っている。
君の悲しむ顔を見たくないだけなんだ。
どうか、君が何も知らないまま幸せに生きてくれることを願う。
ねえ、アリス。ずっと君はそのままで。何も知らない幼気な子供のままでいてくれ。
秘密は絶対に解き明かしてはいけないよ。
「 お客様 」
すーぱーうるとらすぺしゃるさんくす!!!!!!!!!!!!!!(意味不明)
コメントありがとうございます。励みになります。
読んでくださる皆様もありがとうございます。もしよろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。
■電波 様
□小夜 鳴子 様
藍色の宝石 【中編集】/5作品目
(1作品目)優しい蝉が死んだ夏 >>003
(2作品目) 深青ちゃんは憂鬱だ。 >>029
(3作品目) 意地悪しても、いいですか。 >>039
(4作品目) 恋のつまった砂糖菓子 >>057
- 深青ちゃんは憂鬱だ。 ( No.29 )
- 日時: 2021/02/02 22:58
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: vQ7cfuks)
「……なっ、なんで」
わたしはその人のことを憎んでいる。
殺したいほど憎んでいる。
「ごめんな、深青」
大好きだった兄を殺したその人が、泣きそうな顔でわたしの頭をくしゃっと撫でた。
いつの間にかわたしの頬が赤く染まっていた。こいつだけは、こいつだけは……。
好きじゃないと何度も自分に言い聞かせて、今日もわたしはその人の隣にいる。
「 登場人物 」
*古渡深青(こわたり みお)(本作の主人公。千里に復讐を誓いながら彼に恋に落ちる)
*水原千里(みずはら ちさと)(菖の親友。深青のことを引き取る)
*古渡菖(こわたり あやめ)(深青の兄で、千里の親友。故人)
第一話「 深青ちゃんは困っている 」 >>30
第二話「 深青ちゃんは怒っている 」 >>31
第三話「 深青ちゃんは悩んでいる 」 >>32
第四話「千里さんは傷ついている 」 >>33
第五話「 千里さんは泣いている 」 >>34
第六話「千里さんは後悔している」 >>35
第七話「 深青ちゃんは笑っている 」 >>36
第八話「 深青ちゃんは恋してる 」 >>37
- 1 ( No.30 )
- 日時: 2017/09/10 16:22
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: QLMJ4rW5)
十歳年上の兄が死んだ。両親が死んで二人で助け合いながら生きてきた、わたしの唯一の家族。
それは、わたしが八歳の時のことだった。冬の海に落ちて死んだ兄は、自殺だったらしい。警察の捜査はあっという間に終わった。
だけど知っている。わたしだけが知っている。
「あんたが兄ちゃんを殺したんだ」
彼はわたしを見て小さく口を動かした。「ごめん」聞こえなかったその声は、鮮明にわたしの目に映った。
どうせなら勝手にあいつが死んだんだってくらい言ってくれれば良かったんだ。そしたら、ちゃんと嫌いになれたのに。
兄がいつも楽しそうに話す話題に、彼の名前をよく聞いた。最後に兄に会った人、兄の死体の第一発見者。どうして、助けなかったんだろう。どうして助けてくれなかったの。怒りはあっという間に憎悪に変わった。
それから月日は過ぎてった。高校生だった彼は成人して、今度はわたしが高校生になった。わたしはまだあいつを憎んでいる。
「深青」
その声は甘ったるくて、耳がくすぐったくなる。だから、その声で名前を呼ばれのは嫌いだ。
頼むから、もう少し寝させてくれ。——目覚まし時計が彼の声と一緒に響いてうるさい。
「深青ちゃんっ!」
その男は何故かわたしの布団をひっぺがし、ニッコリと悪魔の笑みを浮かべてカーテンを開けた。あっという間に眩しい太陽の光が差し込んで来て、思わず目を瞑ってしまう。
「うる、さい」
あくびを一つして、わたしは涙でぼやけた視界を睨みつける。
うっすらと見えるのは、わたしの新しい家族。
「おはよう。深青」
「おはよう、ございます。千里さん」
兄を殺したその人と、一緒に住み始めたのはほんの一ヶ月前。二十五歳になったその人は、当時より背も高くなり格好良くなった。久しぶりに会ったのは施設の面会室。見慣れないスーツ姿の兄の親友に、鳥肌がたった。
その千里さんがわたしを引き取りたいと言った時、もちろん喜んだ。復讐のチャンスだと思った。兄を見殺しにした、冬の海に溺れる兄を見捨てた最低な男。この男を不幸にするために、わたしは彼の娘になった。そのはずだったーー。
「深青って朝弱いよね。夏休みだから朝起きなくて良かったけど、これから学校だし。心配だなぁ」
「なにそれ。起きようと思えば起きれるし」
鏡の前で二人で歯磨きをする。千里さんの鳥の巣みたいな頭に思わず笑いそうになって、グッと堪える。
「ぅん〜やっぱ俺も眠いなぁ」
ワックスを使って髪を整えようと葛藤する千里さんの隣を通り過ぎ、わたしは一足先にキッチンに向かう。
だんだんと自分の足音が大きくなる。速足がいつのまにかダッシュに変わった。
(可愛過ぎだろ、あの人!)
勢いよく冷蔵庫を開けて、熱くなった頬を隠した。一緒に暮らし始めて一ヶ月。予感はしてた。なぜなら、兄が死ぬ前わたしは彼に好意を持っていたから。わたしの大嫌いな初恋の人、千里さん。一緒に暮らしてる現実に本当は頭が追いついていない。
復讐どころじゃない。初恋が私の脳裏をかすめて、いつか勢いよく刃をつきつけるだろう。
冷蔵庫から水の入ったペットボルを取り出してぐびっと一気に飲み干した。そのあと、大きな足音ともに千里さんがこちらに走ってくる姿が見えた。
「深青、朝ごはんパンケーキ食べたいよね!」
突然キッチンに駆け込んできた千里さん。意味不明な発言にわたし戸惑いながら、取り敢えず「どしたの」と聞いてみる。
そうすると、千里さんは甘いものはあまり好きじゃないはずのわたしに、生クリームがたくさん乗ったパンケーキの特集記事が載った雑誌を見せてきた。
見事にワックスのおかげでイケメンになった千里さんは相変わらずニコニコだ。でも、アレだ。朝からそんな嬉しげにホットケーキミックス持ってきても、千里さん料理なんて全く作れないくせに。
「食べたいなぁ、深青〜」
千里さんは甘え上手だ。その言動は、例えそれが二十五のおっさんだろうと、可愛く見える。
「はいはい、作ればいいんでしょう!」
結局、わたしがホットケーキを作って始業式に遅れそうになった。という、そんな話。
*続くよ
(※今回はホットケーキ=パンケーキという風に書きましたが、ホットケーキは甘くて厚みのあるデザート向けのもの、パンケーキは甘さ控えめで食事向けのものと言われたりもしてます。まぁ、ほぼ一緒ですよね)
- 2 ( No.31 )
- 日時: 2017/09/20 17:30
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: a0p/ia.h)
一緒に住み始めてまだ一か月だけど、分かったことがある。
それは、千里さんの残念すぎる家事能力だ。今まで一人暮らしだと言ってたはずなんだけど、本当どうしたって感じのそのスキル。初めてわたしがこの家に来た時も千里さんはわたしの好きなものをなんでも作ってくれると言った。だから、ちょっと子供らしく「ハンバーグが食べたい」と言ってみたのだが、出てきたのはそれはそれは炭化しきった謎のブツで。よく聞いてみると、今まで外食ばかりで自炊したことはなかったらしい。もともとわたしも料理が得意ではなかったけれど、この事実を知って危機感を察知。もちろん、料理の練習をひたすらして、今ではある程度の物なら普通に作れるようになった。
その上、掃除や洗濯もろもろも、コインランドリーやハウスキーパーを利用している話を聞き、わたしはすぐにやめさせた。千里さんのお金を使う感覚は少し普通じゃないと思った。
「ただいま」
家に帰ると、千里さんはまだ帰ってなかった。
そりゃそうだ。今日は始業式だけで学校は昼まで。千里さんはあと六時間は帰ってこない。
わたしはチャンスだと思った。今まではわたしとの養子縁組の手続きや、その他の問題で長いこと仕事を休んでいた。だからわたしが家に一人になることはなかった。
でも、ようやく全てのことが終わり、これからはわたしは学校、千里さんは会社に行く。つまり、この家を調べ放題ということだ。
「復讐だもん。悪くない、わたしは悪くない」
千里さんの部屋の前でわたしはそう呪文のように何度も唱えた。そうしないと罪悪感でこの部屋の扉を開けられそうになかったからだ。
勢いよく千里さんの部屋の扉を開ける。
「なんだ、自分の部屋は綺麗にしてるんじゃん」
千里さんがお手伝いさんにもハウスキーパーさんにも入ることを禁止した自室。
思っていたより物がすくなくて、基本的に資料は整頓して置かれてあった。千里さんが意外と几帳面な人だと、初めて知った。
何かないのかな、なにか、兄ちゃんのことが分かる何か。
周りを見渡しながら、私は足を進めた。瞬間、目に入った写真たてに心をすぅっと持っていかれた。
兄と千里さんと綺麗な女のひと。三人で映っている一枚の写真。
わたしの知らない過去の写真。
いつの間にかわたしの足はそちらに向かっていた。
近くにあった分厚い本をそっと開けてみる。ビンゴだった。
それは兄と千里さんの写真がいっぱい詰まったアルバム。
「わたしだけが、いない……」
知らない女の人と、兄が笑顔で笑っている。
その写真にはわたしは写っていなかった。そりゃそうだ、何年前の写真だと思っているんだ。
ふいに目の縁が熱くなって、涙が出そうになった。
「深青——」
部屋の扉の方から声がした。そこにはスーツ姿の千里さんがいた。
突っ立ったまま、此方を見ている。彼は怒ることなく、こちらにゆっくり歩いてきた。
「ごめんね」
何を謝っているかは分からなかった。
だけど、何も教えてくれない千里さんにただただムカついた。知らないのは自分だけ。
それが無性に悔しかった。
*続くよ
- 3 ( No.32 )
- 日時: 2017/10/06 16:44
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: zG7mwEpd)
持っていたアルバムが地面に落ちる。がんっと思っていたより大きな音が響いた。
ふわふわした気分だった。今、自分が何をやっているのかあんまり分かっていない。
気が付くと、千里さんがアルバムを拾っていた。私は瞬間的に、現状を把握した。
「深青」
ぎくっと体が震えた。
自分が千里さんの部屋に勝手に入っていたことを思い出した。
千里さんは私を咎めることなく、部屋から出した。じっと表情を窺ったけれど、何を考えているのかはよくわからなかった。
「何か見つかった?」
「……なにか、って」
階段を下りながら、千里さんが話しかけてきた。
私はどぎまぎしながら震える声で答える。気を抜くと階段を踏み外してしまいそうなほど、自分の感覚が安定していない。沼のように深い罪悪感が背中を侵食しているような感じだった。
「どうせ、菖のことを調べようって思って俺の部屋に入ったんでしょ」
その声に肩がびくっと震えた。千里さんの表情はやっぱり変わらない。
私には怒っているように見えた。
階段を下り切って、リビングに向かう。無意識に私は千里さんを追いかけていた。
「あ、の。そうじゃなくて」
出てきた言葉に、意味はなかった。どうにかしないと、と焦る気持ちが心を揺らした。
咎められたわけでもないのに、涙が出そうだった。
「兄ちゃんが、死んだのって、やっぱり、千里さんに何か関係あるんじゃないかって」
十年前、千里さんが私に口パクで伝えたあの「ごめん」を思い出して、私はどうしようもない感情になる。あの出来事さえなければ、千里さんを疑うことなんてなかった。
何がごめんなのか、兄の死の理由を知っているなら教えてほしかった。
だから、また再会できてうれしかった。きっと、全部私に話してくれるんだって思った。
だけど、違ったのだと気付かされて。一か月経っても教えてくれないことに、ただ嫌気がさしたのだ。
ぎこちのない言葉に、千里さんは小さく笑った。
ゆっくり大きな手のひらを私の頭の上にのせて動かす。撫でられて嬉しくなる自分が情けなかった。
「そっか……。待ちきれなくなっちゃったんだね」
千里さんがインスタントのスープを入れて、持ってくる。ピンク色のマグカップが私ので、水色のマグカップが千里さんの。一緒に暮らすことになって初めて買ったおそろいのマグカップ。
一口スープを飲んで、私はゆっくり息を吐いた。体中がぽかぽかして、無性に泣きたくなった。
そうだよ。待ちきれなかったんだよ。いつか、話してくれるって信じてたから。
だから、私は。
復讐しないといけない。兄を殺した、兄を見殺しにした、兄をただの「自殺」にした千里さんに、私は復讐しなければならないのだ。
赦しちゃいけない。恨み続けて、呪い続けて。
スープを飲みきった千里さんは、大きく息を吐いた。そしてこちらを見てにこりと笑った。
「アルバムの写真に女のひといたじゃん。あれ、俺の姉ちゃんなの」
言葉を紡ぎだした千里さんに、私は無言でうなづいた。
*続くよ
- 4 ( No.33 )
- 日時: 2017/10/06 16:43
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: zG7mwEpd)
「あんたが兄ちゃんを殺したんだ」
あの日、冬の海から菖が遺体で発見された日、彼の妹にそう言われた。
ぐちゃぐちゃの泣き顔に、俺は声が出なかった。——じゃあ、俺はどうすればよかったんだよ。込み上げてくる吐き気のようなものをごくんと飲み込んだ。気持ちが悪かった。
声が出ない代わりに口だけが動いた。「ごめん」と。
全部俺が悪かった、その答えしか菖は許してくれない。
***
高校生になって友達ができた。
後ろの席の古渡菖という男。明るくて元気で、そんでもってバカ。
クラスのムードメーカ的存在の菖とつるむようなキャラでもない俺は、最初彼のことを敬遠していた。だけれども、突然声をかけられ、趣味が合うことが判明。そこからすぐに仲良くなった。
純粋にいい奴だと思った。だけど薄ら感じてた、きっと何かあるのだと。
「あのさ、おまえの姉ちゃんの話なんだけど」
仲良くなって一か月も経たないうちに、彼がどもりながら言葉を紡いだ。
「あー、綾ねえのこと。どしたの」
「お、俺さぁ気になってて、協力してくれねえかな。千里」
お願い、と拝まれ俺はなるほど、と勝手に納得した。
突然クラスの人気者に声をかけられるなんて、やっぱり変だった。菖は俺のことを利用したかったんだ、綾ねえのことが好きだから。俺を利用して綾ねえに近づきたかったんだ。
「うん。いいよ、もちろん」
本物のバカだと俺はこの時そう思った。
菖はいい奴だ。純粋な、ただのバカ。愛すべきバカなのだ。
「綾ねえに菖のこと、伝えておくね」
俺が笑ってそういうと、ありがとうと菖は土下座しながらお礼を言った。
「俺、嫌われるかと思った……。千里に近づいたのも、綾さんのこと聞きたかったからだし。ほんと、千里っていい奴だよな。ありがとう」
菖はぎゅっと俺の手をつかんで上下に振った。
チャイムが鳴って、千里が教室に戻ろうと俺の手を引っ張った。
「あ、俺そういや三上先生に呼ばれてんだった。いかなきゃ」
「……え、そうだっけ」
「あぁ。菖は先に行ってて。あとから俺も行くから」
菖がうなづいて、先に出ていく。ひとりきりになった俺は緊張がとけたのか、へなへなと座り込んでしまった。
きゅー、どうして菖みたいな人気者が俺なんかとつるんでくれるのか、
「ほら、やっぱりそうじゃん」
あんさー、全部綾ねえのことが好きだから。
悔しくて悔しくて、苦しくて苦しくて仕方がなかった。菖の恋を応援すると約束しつつも、早く振られて苦しんで壊れてしまえと思った。
「俺だけだよ、おまえのこと友達だと思ってたの」
全部違った。おまえは俺のことをただ利用したかっただけだ。
きっと、俺たちの関係はすぐに破たんする。だって偽物の「友達」だから。
「もしもし、綾ねえ」
ズボンのぼけっとからスマートフォンを取り出して、電話をかける。二回目のコールで彼女は出た。
「綾ねえっていつ結婚するんだっけ?」
*続くよ
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