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五章空虚な持論
僕は愚かだ。
酷く愚かだ。
この上なく、浅はかで、
この上なく、惨めで、
愚かだ。
眼前の景色を受け止めることが出来ない。
僕の記憶のなかでは、この場所は、
煤けた看板の、古く暖かい、店があったはずだ。
実際の景色は、
煤になった看板の、新しい焼け残った寒さの、廃墟があった。
この建物の主は、何処に?
すぐそこの、柱の下に。
廃墟から、手が一つ、空に伸びていた。
生を目指して伸びていた。掴もうと必死に伸びていた。僕はその手を掴む。そっと、優しく。けれど、煤でしかないそれは形を失っていく。この手の中で、生きていた証は消えていく。涙さえ、こぼれ落ちて、その形を消してしまう。
その場所には、焼けた人の匂いと、目指した夢のオワリが微かに虚ろいだ景色を描いていた。
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