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しりとりシリーズ 『帝都』の『その後』 2 帝都戦争 久比里色也の苦悩
「先輩? どうかされたんですか?」
後輩の志摩がそう言うと俺は仕方なく答える。
「いや、小さな子が迷子になったって言うのだが、俺は生憎ガキンチョが苦手でなぁ──この皇居は観光地だから迷子が多いのだが──小さい子は扱いが苦手でなぁ、女子のお前なら扱いが上手いと思うのだが──」
俺がそう言うと志摩は溜息を吐いて迷子の小さな子に近付いて言う。
「ねぇねぇ、君の名前は? お姉さんに教えて?」
そう言うと俺の顔を見て、泣いていたガキンチョは志摩に対して声を出す。
「えっとね、僕ね、名前はね、玖薫(くくん)って言うんだ、天皇様の皇居を見に来たんだけど、お母さんと逸(はぐ)れたの、んでねんでね、お母さんに『迷子を集める場所があるから色々な人に聞いてそこに待機しててね、お母さんが呼ばれる可能性があるから、その時はお母さんも来るから』って言ってたの、んで、色々な人に聞いて此処に来たの」
「成程、つまり此処で待機している様に言われたんだね、じゃあお姉さんと一緒にジュース飲もうか?」
志摩がそう言うとガキは『うん!』と頷いた。
「それでは先輩、この子と一緒にジュース買ってきます、なので、少しの間だけ此処の番頼みましたよ、序でにこの子の母親父親も探しますんで」
「いや、父親は居ないんじゃないか? 今の時間は朝の10時、だから今の時間は母子で皇居を見に来ただけじゃないか?」
「成程、確かに今日は平日ですもんね、でもそれでも私は探しに行きますんで、此処、宜しく御願いしますね?」
「……分かったよ」
そう言いながら志摩はガキンチョと共に消えた、俺はそのまま椅子に座り、お茶を飲みながら目の前の書類に目を通した──
さて、俺の仕事は簡潔に言えば、警邏である、それは前にも記した通りだが、他にもあるのだ、それは今で言う警察の仕事だ、逮捕をしたり、迷子の捜索をしたりと毎日毎日やる事は多い。
今日も迷子の書類を作っている、担当は志摩だが、書類の製作者は誰でも良い、ただ担当の者が作らなければ良いのだ、なので他の警邏の中では汚職に塗れたりしている、だが俺はそんな汚い事はしたくないので、一言一句間違えずに書類に手を走らせる。
「おいおい、お前、まだそんな手記みたいな事をしているのかよ? 今はデジタルの時代だぜ?」
突然男の声が聞こえた、誰かと思えば知り合いの男だった。
「何だ、お前か──俺は自分の手で書いた方がしっくり来るんだ、何も最先端の力を使って書きたくは無い」
「だけれど瓦斯(ガス)は使用する癖に……」
知り合いの男がそう言うと、少し冷や汗を掻いてしまう、無論知り合いの意見は正しいのだ、だが反論出来ないのも少し歯痒かった。
「煩いなぁ、少しは仕事をしろよ?」
俺がそう言うと知り合いの男は箒を持ちながら言う。
「ちゃんと仕事したから顔を覗かせに来たんだよ、お前こそ、俺が居なかったら皇居の警邏も出来ていなかったかもしれないんだぜ?」
知り合いの男がそう言うと、自分の過去を思い出す──俺は警邏の中では相当優秀な方だった、なので俺はこの皇居で警邏をする事が出来た、だが初めての皇居で戸惑った俺はこの知り合いの男──名前を葛実樹筑(くずみ きづく)という──に助けてもらった事が有る、それも幾度も──今では恥ずかしいのだが、葛実は俺より年下だが、仕事は俺より長いという少し矛盾している人間だった、そして何時でも最先端な事を考えている男だ、葛実の言ったデジタルの時代、というのは『きーぼーど』とやらに打ち込んで画面に文字を表示させる方式の事だ、葛実は『ぱそこん』と言っているが、俺には少し理解がし難い物であるが──ってそんな事を考えている場合では無い、その前に志摩の為に書類を仕上げないと……
「全く、仕事バカというのか、ワーカホリックとでも言うのか……本当、メリケン人の言う通りかも知れねぇなぁ──いや、エゲレス人だったかな? まぁ、どうでもいいか」
葛実がそう言うと俺は言い返す。
「全く、最先端はまだ良いが、外国人の力を借りて最先端を作るのは厭だな、男、日本男児たるもの、日ノ本で開発、製造された物を使えって話だが」
そう言いながら俺は右手で警邏の方で支給された日ノ本製の拳銃、左手に凶都(きょうと)で買った短剣を持つ、すると葛実が言い返す。
「日本製品もあるって、『パソコン』は──」
「フンッ! 如何にも信じ難いな──」
俺はそう言い返してから、拳銃と短剣を腰に直して、目の前の手元の書類に手にかける、急いで書き上げないと──そう思いながら葛実の発言を無視する──葛実の発言を無視し続けると、葛実は怒りながら仕事場に戻った、矢張り葛実は煩いな──俺は溜息を吐いてから、立ち上がって体を動かした、体が固まってしまうからな──俺は少し欠伸をしながら、もう一度座って、他の書類に目を通す──
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