コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 帰宅部オーバーワーク!【まさかの番外編!!】
- 日時: 2016/07/29 21:54
- 名前: ガッキー (ID: 4IM7Z4vJ)
初投稿です。初心者ですが、よろしくお願いします。夜のテンションでバーッと書いているので、誤字があるかも分かりません。一応、チェックは入れてはいますが、見付けた際はご指摘いただけると嬉しいです。
ルールも、『参照』の意味も分からないですが、感想もしくはKAKIKOのルールを教えて下さる心優しい方がいらっしゃるのなら、どうか教えていただけると私が喜びます。部屋で小躍りします。
最後までお付き合い下さいな♪
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- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.63 )
- 日時: 2016/04/19 21:24
- 名前: ガッキー (ID: noCtoyMf)
土手の枯れた叫びに、前野は答えない。土手の方等見向きもせずに、ただ俯いていた。
「教えてやるよ・・・!」
問い詰めようと前野に向かって歩き出した瞬間、土手の背後から古泉の声が聞こえた。振り返る。
「お前も・・・!!何故だ!?」
地面にへたり込みながらも、荒い息で土手に不敵な笑みを浮かべる古泉がそこには居た。
「脚を使えないなら、這って登りゃ良いンだよ」
土塗れのワイシャツを誇らし気に見せ付けながら、古泉は言った。
「ッ・・・あぁ、分かったよ!その事は納得する!ーーだが、コレはどういう事だ!?何故前野が俺達よりも先に頂上に着いているんだ!?
「まあまあ、落ち着け。ちゃんと説明してるやるから」
半狂乱の状態で詰め寄ってくる土手に対して、古泉は極めて冷静だった。
「まず、何故前野がオレとお前より先にゴールに居たのか?という質問。簡単な話だ」
古泉は前野を手招きで呼び寄せて、ベンチまで肩を借りて歩いてからそう切り出した。
・・・、
・・・・・・、
・・・・・・・・・。
『心配すンな。お前は先に帰宅してくれてりゃア良い。後から必ず追い付くからよ』
古泉は裏門で前野にそう言った。
その後の状態は?
ーードラマのワンシーンのように、前野の両手を包み込んで言った。
重要なのは、古泉が『先に帰宅してくれ』といった意味の言葉を使った事。
帰宅部は、帰宅する部活。帰宅とは、家に帰る事。
本来なら、この意味で合っている。
土手自身はもうあまり記憶に残ってはないが、土手は、このシーンよりも前に実はこんな事を言っていた。
ーーこれから『帰宅部』と『下校部』は、日没山へ《帰宅》する。部員の内の誰か一人でも良い。先に着いた部活の勝利。
日没山へ《帰宅》。
帰宅。
『心配すンな。お前は先に帰宅してくれてりゃア良い。後から必ず追い付くからよ』
・・・お分かりいただけるだろうか?古泉が前野に言った言葉の本当の意味を。
しかし、裏門でこの言葉を発した時点では、前野は古泉の言葉の真意を理解していなかった。普通に納得し、普通に帰宅しようとしていた。
ーードラマのワンシーンのように、前野の両手を包み込んで言った。
古泉に両手を包み込まれた時に、こっそり渡された五千円札を握り締めて。
ここまで来ても、前野は普通に帰宅しようとしていた。古泉から渡された五千円札は、いきなり決闘のメンバーから前野を外した事に対するお詫びの金だと思っていた。
そして古泉は、前野に伝えた事を『前野が理解していなかった事を理解していた』。
だから、もっと分かり易く前野に伝える。
残された術(すべ)は、前野に面と向かって直接言う事。
・・・いやいや、流石にそれは無理だろう?
と思っているのだろうか。
古泉率いる『帰宅部』がイカサマギリギリのラインで抜け駆けスタートしたのは、少しでも『下校部』と差を開けたい。という思いあっての事からなのか。
違う。
・・・いや、古泉の心の中には少し位その意図もあるのだろうが、古泉の本来の意図は違った。
ヒントは、
・前野が出て行った門はそのまま決闘のスタート地点になる。
・『帰宅部』は、『下校部』よりも先にスタートしている。
『下校部』よりも数分早くスタートを切った『下校部』は、その間に前野と接触していたのだ。
裏門を出てすぐ。古泉の真意を読み取れずトボトボと歩いていた前野に急いで駆け寄り、真の意図を伝えるーーこの間僅か十秒。
こうして、決闘に参加していない筈の前野が何故か誰よりも先に頂上にいる。というあり得ないシナリオが成立されたのであった。
・・・・・・・・・、
・・・・・・、
・・・。
「ふ、ふざけるな・・・!」
古泉から全てを聞かされた土手は、怒りに身を震わせていた。
「大体、前野はお前に渡された金を何に使っ、・・・・・・」
土手は、怒鳴り散らしている途中で思い至る。その顔を見て、古泉がニヤニヤと笑った。
「気付いたか。そうだよ。前野は『どっかの誰かさんみてェに』タクシーで日没山迄行ったんだ」
「・・・だが!例え麓(ふもと)迄はタクシーを使って前野が誰よりもリードしていたとしても、そこから頂上迄はどうなる!?タクシーで山を登るのは幾ら何でも不可能だ!」
「おいおい、勝手に前野を戦力外通告してやるなよ。なぁ前野」
突然名前を呼ばれた前野は、少々戸惑いつつも、内心不安定な筈の土手の逆鱗に触れぬように、手探りのオドオドした声色で話した。
「え、あ、はい。えーっと、土手さん。
私だって、一応『帰宅部』の一員ですよ?」
「ぐぅ・・・!」
壁を走ったり、屋上から飛び降りても平気な『帰宅部』。筋力トレーニング等はしていなくとも、前野はそんな常識外れな部活の中で一年間過ごしているのだ。知らず知らずの内に、帰宅する能力は上がっている。『帰宅部』男性メンバーよりかは下でも、一般の女性とは比べものにならない位に。
「まぁ、こういう事だ。テメェは自分で紛らわしい言い回しをしたせいで相手にルールの隙間を掻い潜られ、自分で勝手に前野を戦力外だと思い込んで慢心し、こうして負けてんだよ」
「・・・・・・」
項垂れ、口をパクパクと開閉して言葉を発しなくなった土手に、古泉はトドメを刺した。
「全部テメェが悪ィ」
「ッ・・・!!」
「ちょ、ちょっと古泉先輩!」
その言葉に、前野が隣にいた古泉の袖を引っ張った。
「何だよ。正論だろうが」
「言葉を選んで下さい!言って良い事と悪い事があります。ライバルでも、競い合った仲じゃないですか!勝負が終わったなら讃え合えば良いじゃないですか!」
「馬ァ鹿。オレとコイツはそんなレベルじゃないンだよ。始める前に部活動の存続を賭けたんだ。自分の部活を存続させる為に相手の部活を潰しに掛かってンだよ。そんな両者が分かり合える筈無ェだろ」
「で、でも・・・ーー」
「前野」
それでも尚、言い返そうとした前野と、それらに対して全て正論で返す古泉の横合い。小さな声で呟いた言葉の筈なのに、何故かハッキリと聞こえたその言葉。前野は反論するのも忘れて思わず振り返る。
土手は、笑顔だった。
しかしそれは、吹っ切れた笑顔ではない。全てを諦め、この先の展開を悟った者がする、とても危な気な表情だった。
「もう、良いんだ」
「良い訳ないじゃないですか!」
「良いんだよ!俺はーー『下校部』は負けたんだ!最善を尽くして戦ったんだ!良いじゃないか!元はと言えば、俺達が勝負を仕掛けたんだ!これ以上の自業自得ってないだろう!?なぁ!笑い者にしてもらえる内に負けさせてくれよッ!!」
前野に言い聞かせていると言うよりかは、自分自身に言い聞かせているような、その無様な言葉。
何を言っても土手が傷付きそうで、前野はそれ以上何も言えなかった。
前野が何も言わない時間、古泉が心の中で三秒数えた。それでも前野が口を開かないのを確認してから、古泉は切り出した。
「・・・さて、じゃあ約束通り『下校部』にはーー」
「待って下さい!」
「ンだよ前野、まだ何かあんのかァ?」
声のした方に、聞き飽きたと言わんばかりに耳をほじりながら振り向いた古泉は、目を剥いた。
「待って、下さい・・・!」
そこに居たのは前野でも、勿論土手でもなく、
青山だった。
「古泉先輩、まだ決断には些(いささ)か早過ぎるかと」
息を切らしながら、青山が眼鏡のブリッジを押し上げながら言った。よく見るとその後ろには、両肩に富士宮と暎宮を担いだベネディクトが居るのが分かった。
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.64 )
- 日時: 2016/05/20 18:11
- 名前: ガッキー (ID: 59tDAuIV)
「決断には早い?ンだよ、理由を言ってみろ」
古泉は、自分の台詞を中断させられた事により、若干苛立ちつつも青山の発言を許した。
青山は眼鏡を外し、額に浮かぶ汗をハンカチで拭ってまた眼鏡を着けてから口を開いた。
「突然ですが、古泉先輩」
「何だ」
「『帰宅部』をお創りになられたのはいつ頃ですか?」
「いつ頃って言ってもなァ・・・オレが三年になってすぐ創ったから、四月じゃねェか?確か、生徒会長を何とか言い包めて無理矢理創ったンだよな」
「はい、その通りです。古泉先輩は僕が入部した時にそう語っていましたね」
青山が微笑みながら肯定。古泉は思わずガクッと肩を落とした。
「何が言いてェんだよ・・・。今はそんな思い出話に花を咲かせる時間じゃねェだろうが」
「はい、その通りです。ーーでは、土手さん」
青山が、今度は土手の方を向いた。
「貴方が『下校部』をお創りになられたのはいつ頃ですか?」
この台詞を聞いて古泉は、何かを察した。その僅かな表情に気付いたのは、青山だけ。
土手は、視線を虚空に止めて、数秒。それから開口した。
「・・・四月だ」
「つまりは、こういう事です。こういう事なのです。片方がもう片方の部活を真似(まね)たのではなく、どちらが先か後の話ではなくーー同時だったのです。青山先輩と土手さん、二人共同じ事を考えていただけなのです。同じ期間に帰宅魂に火を灯しただけだったのですよ」
「ンで?考地。お前はこう言いたい訳か。『帰宅部』と『下校部』の創立されたタイミングが同時なら、こうして争う意味も無くなる。廃部云々の話も無しにして良いんじゃないか、ってよ」
「・・・そういう事です。無意味ではありませんか?古泉先輩と土手さんは同じ魂を持った同士なのでしょう?何故争い、何故潰し合うのですか?そこに意味があるのですか?潰して、何かを得られるのですか?」
「五月蝿ェ」
青山の言葉を、ピシャリと撥ね退ける古泉。その表情はとても重苦しい。
「遅過ぎたンだよ。最初の時点で、もうオレとコイツの間には深い溝が出来てンだ。それを今更修復しようなんざ、馬鹿げてるぜ」
「多少馬鹿げていたとしても、古泉先輩の選択は間違っていると思います」
「そもそも、お前も決闘には賛成していただろうが」
「・・・えぇ、一度は賛同しました。しかし、戦いの途中で気付いたのです。・・・途中で自分の意見を変える等、醜く愚かな事ですが」
「そうだよ、お前は愚かだ。そして、勘違いに気付かなかったオレも愚かだ」
「古泉先輩・・・!」
古泉に何かを言おうとする青山。しかし、間に合わない。
「改めて言うぜ。お前等『下校部』を、今この瞬間を以ってーー」
「待って下さい!」
またもや台詞を止められる古泉。流石に苛ついたのか、額に青筋が浮かんでいる。
「今度は誰だオイ・・・!」
「私です」
三つ編みを揺らしながら毅然と古泉を見る前野は、小さくとも、とても力強かった。
「まだ何かあンのか?さっきオレに言い負かされたばっかだろうが、この雑魚」
「酷い事言わないで下さいよ・・・」
何の工夫も無いただの悪口にげんなりする前野。
「どうせ無駄だろうが、言ってみやがれ」
「はい、・・・。えーっと、私の意見も青山君と同じなんですけど。やっぱり『下校部』の皆さんを廃部にするのは間違ってると思うんです」
「お前も青山から何か言われたのか?」
「私は一人でここまで来て、青山君と再会したのは今さっきですよ?話せる時間なんてありません」
それもそうか、と古泉は納得。しかし、そしたら前野は何故『下校部』を廃部する事に反対なのだろうか?
「だったら何だよ。前野、お前は何故廃部に反対する」
可哀相だから、とかそんな安直な理由だったりするのだろうか。
「可哀相、じゃないですか」
安直だった。
しかし、それもそうか。前野は、古泉のようにぶっとんだ行動力を持っている訳ではないし、ベネディクトのように笑顔で何でも出来る訳でもないし、青山のように莫大な知識や語彙の中から、自分の意見を分かり易く伝えられる訳でもない。
ただの、一般的な女子高生なのだ。
感情論でも、大いに結構。そこに、強い意志があるのなら。
「可哀相だと?だったら、何の予告も無しに決闘を申し込まれたオレ等は可哀相じゃねェのか!?」
「それは・・・」
「相手の事を思いやれるのは良いけどよ、自分がどうでも良い訳無ェだろ」
「・・・・・・」
「『帰宅部を、『下校部』のパクリとか何とか言われてンだぜ?黙ってられるかよ。売られた喧嘩を買っただけだ。煽られたから返り討ちにしただけだ。オレ等は何も悪く無ぇ」
全て真実。だから言い返せない。前野は口を噤(つぐ)む。
何故、こんな事になってしまったのだろうか。前野は頭の中で現状を悔やむ。つい数時間前迄は、ベネディクトと一緒に部室に向かっていたりしていたというのに。
どこで狂った?どこで間違えた?
いや、彼等は間違えてはいない。
ただ、ほんの少し勘違いをしてしまっただけなのだ。己が正義だと信じて、戦っただけなのだ。
『帰宅部』と『下校部』が邂逅(かいこう)した時、あの場に居た誰もが、正解には辿り着けなかった筈だ。
ゲームでよくある『負けイベント』のように、憎み合い、戦う事を強制されただけなのだ。
普通に今迄通り過ごしていたならば、決して出会う事の無かった両者。それが何故、今こうして顔を合わせているのか。神の悪戯か、それとも帰宅魂が惹かれあったからか。
潰し合ったから、分かり合えない?
溝があるから、和解は出来ない?
前野は、そうは思わない。
何か、解決策がある筈だ。
頂上に居るメンバーの中で、唯一疲れていないその脚で歩く。『下校部』を廃部にさせようとしているだろう古泉の元へ。
見ていられないのだ。
自嘲気味に項垂れる土手も、普段とは全く違う考え方をする古泉も。
だから前野は、古泉に突っ掛かる。
「あァ?」
いつもは決して見せない、古泉の本気の睨みに足が竦む。しかし、視線は逸らさない。真っ直ぐに古泉の瞳を見る。
このままじゃいけない。このまま古泉の考えを通したら、上っ面だけのハッピーエンドになってしまう。
『下校部』を倒せて良かったね、というふざけたエンディングになってしまう。
「・・・古泉先輩が何を言おうと、私はそれを受け入れられません」
「だったら何だよ。お前は何がしたいんだ」
「古泉先輩を止めたいんです!このままじゃ、いつかきっと後悔します!折角同じ思考を持った人に出逢えたんですよ!?今迄否定されてばかりだった『帰宅部』に同志が現れたんですよ!?一時の感情で決めちゃ駄目だと思います!」
額と額がくっ付きそうな程の至近距離で言い合う。
「一時の感情で決めてンのはお前も同じだろうが!この結果は、オレ等が日々努力して勝ち取ったからなんだ!それを可哀相だから廃部は止めようとかガキみたいな理由でオレを一々止めンじゃねェよ!!」
「『下校部』の皆さんだって、私達『帰宅部』と同じように、今迄頑張ってきた筈です!こんな終わり方は誰も笑えないです!こんなの、私が望むハッピーエンドじゃありません!!」
「だったらどうした!お前はそれで何がしたいんだよッ!!」
前野は息を吸う。そして、目の前に立ちはだかる古泉に向かってーー言い放つ。
「『下校部』の皆さんと、もっと一緒に過ごしたいです!こんな憎み合った関係じゃなく、同じような部活同士としてーー良きライバルとして一緒に帰宅したいです!!」
両拳を握り締め、めいいっぱい叫ぶ。
一瞬、世界が止まったような感覚。それは、前野の脳が異常に働いたが故の現象だった。『下校部』を廃部にさせない為に、必死に頭を回して考えたからだ。
「・・・お前」
口の端をヒクつかせた古泉が、前野にゆっくりと手を伸ばす。
(叩かれるーー!)
流石に、古泉に対して歯向かい過ぎたようだ。前野は反射的に身が縮こまった。
「ーーーーーー」
古泉が、この時何を言ったのかは誰にも分からない。
しかし結果を言うと、前野が古泉に叩かれる事は無かった。ただ、頭に柔らかい感触があっただけだった。
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.65 )
- 日時: 2016/06/25 21:32
- 名前: ガッキー (ID: bUOIFFcu)
古泉は前野の頭を撫でてから、前野の後ろにいる土手の方へ歩いた。
「・・・話し合いは終わったか」
「あぁ、終わったぜ。お前等『下校部』は廃部にしない事にした」
皆して目を合わせる。つい先程迄『下校部』を廃部にさせたがってた古泉が、すんなりとこうして意見を変えたのだから、驚かない訳がない。
望んでいた前野も、そして青山も、頭が混乱している。
「おいおい、何でお前等迄驚いてンだよ。嬉しくねェのか?」
「いや、嬉しいですけど・・・」と、前野が歯切れ悪く言ってから、
「理解が追い付いていません」
青山が前野の言葉にこう付け足した。
「・・・気が変わっただけだ」
「何が切っ掛けで、ですか?」
「おいおい、今日のお前はグイグイ来るじゃねェかよ」
「色んな経験は人を変えるようですね」
それは恐らく、決闘の事を指しているのだろう。
古泉は一瞬顔を顰(しか)めてから、溜め息。
嫌々気が変わった理由を話した。
「・・・不覚にもよ、前野の言葉に少し動かされたンだ。ほんの少しだけどな」
恥じらいからか、薄っすら赤く染めた頬を指で掻く。
「古泉クンも、人の話が聞けるようになったんだねぇ」
「おいベネディクト。感慨深げに頷きながら失礼な事言うンじゃねェよ。毎日ちゃんと聞いてるわ。なぁ、考地」
「・・・・・・」
「何か言えよ!」
ほんの数分前迄は殺伐としていた空気が、いつの間にやら何処かへ消えていた。前野は目の前の光景を見て心をほっこりさせるが、ふと思い出す。
「ーーって、まだ終わってませんよね」
「あ?何がだよ」
「『下校部』の皆さんは、多分納得してないと思いますよ」
「マジで?」
古泉が、土手の方を見る。
「当たり前だろうが・・・!いきなり手の平を返したように廃部云々を無しにすると言われても、納得出来る訳がないだろ!」
「理由はさっき話しただろうが。何度も言わせんな」
「アレが理由だと!?そんな訳ーー」
「おいおい、素直に受け入れとけよ・・・」
「いきなり言われて信じられるか!」
「・・・だそうだが、前野」
私に振らないで下さいよ・・・と、前野。
「いや、でも、土手さんの気持ちも分かりますけどね」
「何でだ?」
「だって、色んな意味でいつも恐ろしい古泉先輩がーーあれだけ廃部廃部言っていた古泉先輩が、いきなり自分の意見を変える何てあり得ませんもん」
「言うじゃねェか・・・!」
「まあまあ、古泉先輩。残念ながら古泉先輩の好意は無下にされてしまった訳ですし、何かしらの罰は与えた方が良いのでは?」
「それもそうか・・・。よぅしお前等、そこでノビてる富士宮と暎宮を起こせ」
青山と前野が、それぞれの頬をぺちぺちと叩いて起こす。起こされた二人は、自分が今居る場所が分からなくて混乱していたが、土手の姿を見付けて直ぐさま駆け寄った。
「「土手先輩!」」
「ごめん。・・・負けてしまった」
土手が、頭を下げる。顔は見えないが、地面にはポタポタと染みが作られている。それを見た二人は、寝起きの頭ながらこの状況を察する。そしてーー
黙って、土手に抱き付いた。
「ごめん、ごめん・・・!」
ぽんぽん、と暎宮が土手の背中を優しく叩く。富士宮はひたすら強く土手を抱き締める。二人は涙を流し、嗚咽を漏らしながら土手を慰める。ーー先輩は何も悪くありませんーーみんな頑張ったじゃないですかーーと。
土手の頬を流れる涙は、とても温かかった。
あれから半時間程経った、日没山の頂上。何もかも終わり、夜も更(ふ)けてきた頃。『帰宅部』と『下校部』は帰宅しようとしていた。
「なぁ、古泉」
靴紐を結び直していた古泉に、土手が話し掛ける。他の面々はそれぞれ帰り支度(したく)をしており、誰も古泉と土手の方は見ていなかった。
「ンだよ」
古泉が応える。
「本当に廃部は無しになったのか?」
「さっきも言っただろ。何だテメェは」
「いや、実感が湧かないんだよ。さっき迄廃部するかさせるかの戦いだったからな」
うーん、うーん。と悩む土手。そんな土手に、古泉は笑顔を見せた。意地の悪く、悪寒が走るような笑顔を。
「良い事を教えてやろうか」
「何だその悪巧みを全て表に出したような表情は」
「悪巧みって訳じゃねェが、一つ種明かしだ」
「?」
「果たして、たかが高校生がーーしかも他校の生徒の部活を廃部に出来るのか?ってな」
「・・・・・・お前まさか!」
「あぁそうだよ。最初から廃部にする気なんてありませんでしたァァ!うぇーいバーカ!ピーヒョロヒョロ!」
全力で馬鹿にする古泉と、怒りをどうにかして噛み殺す土手。その間に、先程までの殺伐とした空気は無い。
「く、くく・・・!このぉ・・・!!」
古泉は気付いていたのだ。自分達に部活の存続を決める事なんで出来ないと。
常識だが、誰もが間違えた。あの空気と、互いに対する怒りに押されて。
元より、廃部する気もさせる気も無かった。勝っても負けても、同じだったのだ。
少しの間じゃれ合って、冷静さを取り戻して軽く死にたくなってから、土手が空を見上げながら唐突に話を変えた。
「これで良かったのか?」
『これ』の意味を理解した古泉は呆れたように溜め息を吐く。
「まァだテメェはクヨクヨとそんな事を言ってンのかよ」
「仕方無いだろ。『下校部』を『帰宅部』の傘下にする、何て言われたら・・・誰だってこんな反応をする」
そう。
『下校部』による心温まるシーンがあった後、古泉は『下校部』に罰を言い渡した。
『帰宅部』の傘下となり、共に活動をして真の帰宅魂を心に宿せーーと。
その場で(´・Д・)」←こんな顔をしなかった人はいなかった筈だ。誰もが毒気を抜かれ、その意味不明な内容に肩をずり落とした。
「それこそ仕方無ェだろうが。あれ以外に良い言い回しを思い付かなかったンだからよ」
言い回しを思い付かなかっただけで、どうやら内容は決まっていたようだ。
そうなると、土手の頭には疑問が浮かぶ。
「俺達を傘下にして何になるんだ?そうした所で、お前達『帰宅部』に得は無い」
「あぁ、確かにオレ等は何も得はしねェよ」
「オレ等?」
「オレとベネディクトーーそしてテメェは、あと数ヶ月としないで卒業だからな」
三年は、古泉とベネディクトと土手の三人。『下校部』が『帰宅部』の傘下になったとして、大した影響は無い。
しかし。
「残された部員に、得があるという事か」
「そういう事だ。アイツ等には、もっと刺激が必要だ。オレとベネディクトが今迄感じなかった、もっと強い刺激がな」
「その刺激が、富士宮と暎宮・・・こんな環境を整えてまで、お前は何を目指しているんだ」
「帰宅の質の、より良い向上、だな」
「それは確かに分かる」
同じような部活を立ち上げた者同士、そこは共通している。土手は頷いた。
それから、こう言った。
何故そこ迄する?と。
その問いに古泉はこう返す。
「はァ?そんなの決まってンだろうが」
靴紐はもうとっくに結び終わっていた古泉は立ち上がり、不敵な笑みを浮かべてながら言い放つ。
「帰りたいからだ」
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.66 )
- 日時: 2016/05/20 22:06
- 名前: ガッキー (ID: gF4d7gY7)
本編は、もう少し続きます!
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.67 )
- 日時: 2016/06/22 20:28
- 名前: ガッキー (ID: SsbgW4eU)
「・・・・・・」
帰宅部の部室前。ドアを開いてすぐに目に入った光景を見て、それ以上足を進ませずに、立ったまま古泉は頬をひくつかせた。
「・・・確かにな。オレは『下校部』を『帰宅部』の傘下にするとは言ったぜ?ーーけどよ」
古泉は部屋に入りつつ、言い放った。
「いくら何でも、テメェ等くつろぎ過ぎだろッ!!」
古泉の叫びーーと言うか嘆きに最初に言葉を返したのは、青山だった。
「四日程前迄は、このような事は無かったのですが・・・」
青山は読んでいた本を閉じて、部室内の光景を見渡した。
床で横になって寝ている富士宮。その近くには、椅子の上で体育座りして寝ているベネディクト。
恐らくは持参であろう、クッションを抱き締めてソファに座って雑誌を読む暎宮。その隣で、「あっ、その服可愛いね」と一緒になって雑誌を目で追っている前野。
数日前迄憎しみ合っていた間柄とは思えない落ち着きようだった。
「やってらんねェぜ・・・」
結構な声量で叫んだにも関わらず、青山しか返事をしない所を見ると、どうやらもう、富士宮と暎宮の二人は、古泉にマイナスな感情は働かせてはいないらしい。
簡単に言えば、舐められているらしい。
古泉はこれ以上何かを言うのを諦め、自分の定位置であるソファが使われている事に顔を顰(しか)めてから、空いている椅子に座った。それから溜息。そこに、青山から声が掛かった。
「本でも読みますか?」
この現状を青山が注意していなかった所を見ると、青山もある程度は毒されてしまっているのではないか。と古泉は推理した。
「いや、いい」
スッと出された、青山が読んでいた本。古泉は自分の推理に一定の信憑性を感じ、その事にげんなりしつつ薦めを断った。
「そうですか」
青山は、心無しか残念そうに出した本を引っ込めた。
会話は途切れ、前野と暎宮の雑誌に関する会話以外何も聞こえない部室。
まったりとした空気が流れる事数分。部室のドアが開いた。
「お、もう皆居るのか」
「あっ、土手先輩!こんにちは!」
「先輩、お荷物お持ちします」
入ってきたのは、土手。土手が言葉を発するや否や、暎宮と富士宮の二人は直ぐさま土手に駆け寄った。
(オレの時はガン無視だったろうが。てか富士宮。テメェは寝てたんじゃなかったのかよ)
心の中でツッコミを入れておいた。そんなツッコミは露知らず、『下校部』の三人は会話を続ける。
「おう、しっかりやってるか?」
「はい!やってます!」
「この富士宮も、右に同じです」
「そうか、頼もしいな」
「「はい!」」
土手の一言一言に、気持ちの良い反応を返す二人。『帰宅部』では、まず見られないその光景に、土手は眩しさからか(それとも苛立たしさからか)目を背けた。
「・・・羨ましいですか?」
青山が、今度は本に目を落としたまま古泉に問う。
「いや、俺等は今まで通りが丁度良いンじゃねぇの?」
「そう言っていただけると幸いです」
「・・・てか、あんなになっても、考地は大して変わらないだろ」
「それもそうですね」
笑い合って、また会話が途切れる。
する事が無いので、『下校部』の仲睦まじい光景をボーッと見てみた。爽やかな笑顔で後輩の頭を撫でる土手は、端から見ても良い先輩だった。富士宮が心酔するのも頷けるし、暎宮が惚れるのも分かる。
(・・・いや、オレは別に、土手の野郎にそういった感情は抱いてねェからな?)
オレは、オレより二、三歳年上なオネーサンが好みなンだよーーと、誰かに対して自分の好みを暴露するのだった。
『下校部』を『帰宅部』の傘下にする、と言ってみても、実際に行動に移すのは容易ではない。
普通ならば。
古泉もそれは分かっていた。だから、考えた。
達成する為の難易度を下げる方法を。
真っ向から教師や校長に掛け合うのでは、時間も手間も掛かる。何より、学校間の問題だと、難易度は半端無く跳ね上がる。
古泉が掛け合ったのは、教師でも校長でもない。
生徒会長だ。
普通なら、大した権限も発言力も持っていない生徒会長。
しかし、古泉曰く『オレの高校の生徒会長は違う』。らしい。
その理由はまた別の形で語るとして、古泉の高校の生徒会長は普通ではない。いつの日かの事件の時、自分の一存ーー言うならば我儘(わがまま)で『帰宅部』の身柄を拘束する権限を持っていたし、何より、そんな命令に刃向わずに、生徒会役員が生徒会長を信じて命令に従う程の人徳がある。
言い方を変えれば、カリスマ性がある。
そのカリスマ性があれば、教師を動かし、そして規則を揺るがす事は容易い。
だから、古泉は生徒会長に取り入った。頭を下げて、こちらの要求を言い、その要求を呑む事によって生徒会長が得る利益ーー即ち対価を言葉にする。
具体的な言葉を挙げるならば、『何でも言う事を聞くからOKしてくれ』。
正直に言うと、古泉は生徒会長が何を好んでいて、自分が何をすれば生徒会長のご機嫌を取れるのか分からなかった。だから、適当に頭の中に浮かんだ案をーー即ち、自分の身を差し出す形にする。あれだけ身柄を確保したがっていたのだから、自分に怨みがあるのだろう。とそれっぽい理由を頭の中で付け加えながら。
別に、アイツから殴られたり蹴られたりした所で、痛くも痒くもないしな。古泉はそう思った。
古泉の、何の捻りも無い子供のような台詞だが、生徒会長には効果覿面(こうかてきめん)だったようで。
生徒会長が二つ返事で古泉の要求を了承した時には、古泉は思わず「本当に良いのか?」と聞き返した程だ。
という次第で。(『下校部』側の高校の許可は貰っていないが)『帰宅部』側の高校の許可は得られた。
『下校部』はーー他の生徒に理由を問われて、彼等を『帰宅部』の傘下だ。という訳にもいかないのでーー表向きは来校者としてこの高校にやってきているのであった。
「毎日こうして『帰宅部』の部室に集まっている訳だが、やはりこういった事は慣れないな」
「よく見てみろ。慣れてないのはテメェだけだぞ。他はこの有り様だ」
古泉はグダグダしている土手以外の『下校部』の面子を指差す。それを見た土手は、
「順応性が高いのは良い事だな」
笑顔で流した。
「・・・まぁ良いけどよ」
『下校部』を纏める部長がこの有り様を許すのなら、古泉の方からもう言う事はあるまい。古泉は話題を変えた。
「そうだ、土手」
「何だ?古泉」
互いの名前を呼び合う二人の間には、決闘をしていた頃のような険悪な雰囲気は無い。
寧ろ、良好な空気がーー言うならば、河原で殴り合った男二人が、力を使い果たして河原に寝転んでいる時のような空気が流れていた。
「アレは持ってきたか?」
「あぁ、持ってきた。ベネディクトは・・・」
「寝てやがるな。おい、青山。ベネディクトを起こしてくれ」
「了解致しました」と青山が直ぐさま読んでいた本を閉じ、ベネディクトの肩を優しく揺らした。
「うぅん・・・むにゃむにゃ・・・・・・。あー、みんな集まった?」
「はい、集まりました」
「・・・そっかー」
寝惚け眼を擦りながら、ベネディクトがゆっくりと起き上がった。
「おいベネディクト、アレは持ってきたか?」
「・・・・・・うん、持ってきたよ」
寝起きだからか返答が少しばかり遅れたが、まぁ良し。
「驚いた。ベネディクトの事だから、てっきり忘れているのかと」
土手が素で驚く。
それはさて置き、ベネディクトも忘れずに持ってきたようなので。
古泉と土手ーーそして、フラフラと歩いてきたベネディクトの三年生組。
その三人が、同時に言った。
「卒業、おめでとう」
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