コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 帰宅部オーバーワーク!【まさかの番外編!!】
- 日時: 2016/07/29 21:54
- 名前: ガッキー (ID: 4IM7Z4vJ)
初投稿です。初心者ですが、よろしくお願いします。夜のテンションでバーッと書いているので、誤字があるかも分かりません。一応、チェックは入れてはいますが、見付けた際はご指摘いただけると嬉しいです。
ルールも、『参照』の意味も分からないですが、感想もしくはKAKIKOのルールを教えて下さる心優しい方がいらっしゃるのなら、どうか教えていただけると私が喜びます。部屋で小躍りします。
最後までお付き合い下さいな♪
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- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.58 )
- 日時: 2016/02/09 22:46
- 名前: ガッキー (ID: yLoR1.nb)
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
空き地内に、二人。一人は息を切らして肩を上下させながら立ち、もう一人は一言も話さずに地面に俯(うつぶ)せに倒れている。
立っている方が、口を開く。
「ハァ・・・ハァ・・・ーーどうだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・地面に無様に転がる、敗者の気持ちは」
富士宮・甲が、口角を釣り上げてーー地面に伏せているベネディクトに言った。
場面は切り替わり、青山と古泉がいる場所。二人で、人気の無い住宅街を駆け抜けている。山の麓に近付いてきているからか、段々と家と家の間隔が広くなっているのを感じていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
青山と古泉、二人の間に会話は無い。理由は、疲れという訳ではない筈。
「・・・このペースで行けば、あと十分程で麓に到着します」
この沈黙に耐えかねたからなのか、それともただ事実を伝えただけなのか。
青山は古泉に言った。
「おう」
対する古泉の返事は、それだけ。
また生まれる沈黙。
耳に入るのは、地面を蹴る荒々しい古泉の足音と、静かな青山の足音のみ。かなりの時間を高速度で走っていたから、呼吸音は気にならなくなっていた。
それから、数分経った頃。もしくは、数十秒しか経っていなかった頃。古泉が「なぁ」と切り出した。
「何でしょうか」
「ベネディクトの選択はーーオレの選択は、あれで間違ってなかッたのか?」
『珍しく』ではない。
『初めて』青山は、古泉のこんな不安げな言葉を聞いた。
恐らくこの場に居ないベネディクトも前野も、こんな古泉は見た事ないだろう。
走りながら。
頂上を目指しながら。
青山は内心少しだけ驚きつつも、平静を装って返す。
「僕には、正解なんて分かりません」
古泉が何も言ってこないのを確認してから、更に続ける。
「ですが。ベネディクト先輩は、あの選択で後悔はしていなかったと思います。『帰宅部』の為にーー勝利の為に戦う事を決意したベネディクト先輩は、僕にはとても眩しく見えました。・・・古泉先輩は、どうなのでしょうか。ベネディクト先輩にあの場を任せた事を、後悔していますか?」
「ンな訳ねェだろ。ただよ・・・」
「『これは部員全員の問題』『部員全員で勝つ』。・・・古泉先輩は、この言葉に囚われ過ぎです」
「そうかもしれねェよ。だが、アイツが居なくなった今ーー」
「あの場に残ったから、もう頂上にはいけない。とか、思ってはいませんか?」
「、」
背後から息を呑む音が聞こえる。
「僕はそうは思いません。まだ、チャンスは・・・いえ、この言葉は適切ではありませんでした。訂正します。
まだ、ベネディクト先輩の『出番』は残っています」
「ーー成る程な」
古泉が察し、理解した。クツクツと笑いを堪えている声が聞こえる。
「笑いが止まんねェぜ。オレはこんな事で悩んでたのかよ」
「人間、誰しもが悩むモノです。あのベネディクト先輩も、悩んでいたのだと思います」
「『あの』ベネディクトが?」
「はい。恐らくそれは、富士宮さんを食い止めるか否かの事ではなく、『どの道を通ったら日没山に早く着くか』だと思いますが」
「勝つ気満々じゃねェかよ」
「えぇ、僕はそう信じてます。なんて言ったってベネディクト先輩は、
『帰宅部』最速の男、ですから」
「・・・それにしても、情け無いったらないよな」
また場所は変わり、空き地内。
富士宮が吐き捨てるように、倒れているベネディクトに言う。
「・・・あんな威勢良くこの場を受け持って、すぐにやられるとか。恥ずかしくて死にたくならないのか?」
「・・・・・・」
「・・・お前がどんなに長い時間気絶してても、この場を離れられないのが辛いな。・・・だが、これも先輩からいただいた大事に使命。この富士宮、完遂致します」
空を見上げて(恐らく土手の顔を思い浮かべながら)富士宮が左胸に手を当てて(恐らく本人は意識をしていないのだろうが)、芝居掛かった仕草で言った。
数秒経ち、
「・・・おい、いつ迄寝ているつもりだ。良い加減起きろ。味気無さ過ぎて、こっちはつまらないんだ」
頭をガシガシと掻きながら、富士宮がベネディクトに近付く。制服を土で汚して、今も起き上がらないベネディクトを軽蔑の目で見て、
「おい、起きろよ」
頭を踏む。ぐりぐりと 、吐き捨てたガムを潰すように。
「起きろよ」
踏む。
「起きろよ。なぁ」
踏む。
「起きてみろよ」
踏む。
「起きてみせろよ」
踏む。
踏む。踏む。踏む。踏む。
その足が、掴まれる。
「あ?」
そして引かれる。
「ーーッ!?」
突然の出来事に受け身も取れず、足を引かれた富士宮は背中から地面に落ちる。肺を圧迫され、一瞬呼吸困難に。
「ッ・・・・・・ハァ、ハァ・・・お前、何を!」
上体を起こし、傾いた太陽を背に佇む影を見上げる。
「ボクは何もしてないよ」
制服の土埃を落としながら、何て事も無さそうに、今の今迄地面で微動だにしなかった、負け犬だった筈の男、ベネディクトが言い放つ。
「何もしてなかっただけ。攻撃も、反撃も」
「な、お前ーーまさか」
富士宮の怖れの混じった言葉を最後迄聞かずに、ベネディクトはニヤリと笑いながら、
「それじゃあ皆さんお待ちかね、ボクの本気タイム、はっじまっるよ〜☆」
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.59 )
- 日時: 2016/02/20 17:10
- 名前: ガッキー (ID: KRYGERxe)
季節は冬。普通ならば寒さに震える季節の筈なのだがしかし、暑さに身を捩らしているのが、今の古泉の現状だった。
それもその筈。何十分と走り続けている身体には、分厚いブレザーは暑過ぎたのだ。
額に玉の汗が浮かび上がる。
それを何度も何度も、袖で汗を拭う。
不意に、青山が足を止めた。古泉もそれに倣い足を止める。
「どうかしたか?」
言いつつ、前を見る。青山で陰になった前方を。
「・・・・・・成る程な」
笑えない状況の筈なのに、口角は吊り上がった。
目の前には、腕を組んでこちらを睨む二人組。
言わずとも理解出来るだろう。土手と暎宮だ。
「お前達、随分とふざけた真似をしてくれたなぁ・・・!」
プルプルと怒りに身を震わせながら、土手が古泉と青山を睨み付けた。
「ルール上は合法だ。テメェ等にとやかく言われる筋合いは無ぇな」
「ま、まあまあ、古泉先輩。今はそんな事よりも他に話す事がある筈です」
火に油を注ぐような古泉の発言に、宥めて本来の目的を促す青山。
「おっと、それもそうだな。・・・お前等、『何で俺等の通るルートを先回り出来てンだ?』」
疑問という言葉よりも、この場合は疑念という言葉の方が適切だろう。
簡単に言えば、『イカサマとか何とか言ってるお前等の方が、イカサマしてんじゃね?』って事。
例えば、『帰宅部』の三人にGPSを付けていたり。
そんな筈は無い。と、古泉は思っているが。仮に、GPSを知らぬ間に付けられていたとしても、それと先回りされた事は別なのだ。
ならば、何故。
可笑しい。何故『下校部』の二人が、古泉と青山が通る道を先回り出来ていたのか。
『下校部』の全員の目を欺き、最高のスタートを果たし、完璧なルートで日没山を目指していた『帰宅部』一同。先程の富士宮よろしく、追い付かれる事はあっても先回りをされる事は無いのだ。無い筈なのだ。
「簡単な話だ」
土手は、古泉の問いを鼻で笑った。古泉のらしくない姿が見れたからなのか、あっさりとタネを明かす。ネタをバラす。
「古泉、お前の得意な帰宅方法は何だ?」
「・・・・・・まさか、お前」
「そのまさかだ。俺と暎宮は、お前の得意技ーー金にモノを言わせてーータクシーでここまで来たんだ。どんなに足が速いベネディクトがいても、どんなに完璧なルートを構築する青山がいても、車には敵わない」
「テメェ・・・!」
「今迄実力でやって来なかったから、こういう事態が起きるんですよ」
暎宮が迎撃。いつもだったらすんなりとスルーしている筈のその言葉が、古泉に深々と突き刺さり、目の前が真っ暗になった。
ーー確かにオレは、今迄真剣にやってはいたが、真面目には部活をやっていなかった。
ーー親が、家系が裕福な事に慢心し、邁進(まいしん)する事を忘れていた。
ーーオレから金を抜いたら、何が残るんだ?
ーーベネディクトのように、足がズバ抜けて早い訳ではない。
ーー青山・考地のように、地理に富んでいて、尚且(なおか)つ計算が出来る訳でもない。
ーー何なんだ?オレは。
掌に爪が食い込む程の力を入れて拳を型作る。土手に対する怒りではなく、自分への怒りが体内で暴れ回っていた。
冷静もクソも無い状況。
そんな状況を変えたのは、青山だった。
「・・・あまり、僕の先輩を馬鹿にしないで下さい」
さり気なく古泉を土手と暎宮から庇うように、古泉の前に出て、眼鏡のブリッジをクイッと上げた。その指と指の間から暎宮を睨む。
「古泉先輩はーー古泉先輩の良さは、僕が一番知っています。そんな安っぽい、挑発にも成っていない的外れで何の根拠も無い言葉に、古泉先輩が揺らぐ訳がありません。ですよね?」
身体はそのままで、顔だけを後方に向けて古泉に問うた。
この言葉、果たして本心なのか、それとも古泉の内心を虞(おもんぱか)った結果なのかは分からない。が、
古泉の怒りと不安を吹き飛ばすには、充分だった。
青山の知っている古泉はーー『帰宅部』の知っている古泉はーーそして、読書様の知っている古泉は、
神経質に悩んだりなんてしない。
堂々と、恐れ無しに、勝利の女神が自分に微笑むのを待つより、自ら笑わせに行くような男だ。
さあ、立ち上がれ。立ち直れ。まだ決闘の続きだろう。
「その通りだ。・・・ッたく、オレは何をクヨクヨと悩んでやがったンだよ」
頭をガシガシと掻く。それから、正面を見た。その顔はとても清々しく、自信に満ち溢れていた。
「なぁ、考地」
「何でしょうか」
「ここを、お前に任せても良いか?」
「えぇ、勿論です。彼女のエスコートを、是非僕にやらせて下さい」
「頼んだ。オレはアイツと戦うからよ」
「・・・頂上で、また会いましょう」
「あぁ、必ずな」
対戦カードとしては、
【ベネディクトVS富士宮】
【青山VS暎宮】
【古泉VS土手】
という事になる。
誰でも良い。ベネディクトでも富士宮でも青山でも暎宮でも古泉でも土手でもーー誰でも良い。
誰か一人でも頂上に着いた時点で戦いは終わり。勝負が決まるのと同時に、双方の部活の運命も決まる。
「古泉先輩、ブレザーをお預かりします。暑かったですよね」
「おっ、悪いな。じゃあ頼んだわ」
青山に言われた通り、古泉は着ていたブレザーを青山に手渡す。青山はそれを、王に仕える執事のように、腕に掛けてから恭しく頭を下げた。
或(ある)いは、魔王の再誕を祝う従者のように。
古泉は青山に向けていた視線を、正面に戻す。
「さて、古泉。お前は俺に勝てるか」
「勝ってやるよ。圧倒的にな」
言い終わるや否や、二人共ほぼ同じタイミングで走り出した。常識的に考えれば、一番頂上に着くのが早い対戦カード。あの二人に、双方の部活の命運は懸けられたと言っても良い。
二人の背中が米粒程度の大きさに迄遠ざかった頃。青山が口を開いた。
「さて、勝負を始めましょう。早く終わらせた方が互いの為ですし」
「・・・・・・いんですよ」
青山が暎宮に声を掛けると、帰ってきたのは、暎宮からは想像も出来ないような低い声だった。
「今、何と?」
「さっきからキモいんですよ、その態度!」
「ーーッ?」
暎宮の、突然の豹変。土手の隣に居た時とは全く違う性格に、青山は驚いた。怒る理由はあっても、怒らせる理由が見当たらなかったからだ。
「何ですか?白湯が女だからそんなに余裕ぶっているんですか!?ふざけないで下さいよ!白湯だって、白湯だってねぇ!」
暎宮が言いたい事を理解。すぐ様弁解に入る。
「お、落ち着いて下さい。僕は別に、そんなーー」
「五月蝿いです!五月蝿いんですよぉぉぉぉぉぉぉぉオオオオおおおお!!!!」
完全に何かのスイッチが入ったらしい暎宮は、制服のポケットから黒い装置を取り出し、躊躇い無くボタンを押した。
その刹那、渇いた音が閑静な住宅街に響き渡る。
(この音、まさかーー!?)
青山が、出来の良過ぎる脳をフル稼働させて、その音を《銃声》だと認識した時にはもう遅い。
青山の頭が、何かに弾かれたように後ろに行き、そのまま大きく身体を仰け反らして無様に倒れた。
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.60 )
- 日時: 2016/03/06 21:19
- 名前: ガッキー (ID: SkZASf/Y)
「ぉぉぉぉぉぉおおらああああああ!!」
「ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
平日の夕方。他の利用者が居ない登山道を、古泉と土手が走り抜ける。汗を散らし、腕を振り、声を上げながら、斜面を登っているとは思えない程の速さで駆け抜ける。
頂上迄の目が眩むような段数の階段が、二人の視界には映っている。
階段と言っても、地面を削って木で隔てただけの大きさも高さもバラバラのソレなのだが。その簡易な階段が、余計に体力を奪う。
二人の両脚には、信じられない程の疲労が溜まっている筈だ。
しかしその脚は止まらない。寧ろ、登れば登る程速度は増している。
負けられない。
一つ、ただそれだけの理由で。
富士宮に勝利したベネディクトは、青山と古泉に追い付く為に一人で住宅街を走っていた。ベネディクトは別段ここら辺の地理に詳しい訳ではないのだが、疎らになってきた住宅の間から覗く山肌が、日没山に近付いている事を示していた。
「みんなどこにいるのかな〜ーーっと!」
曲がり角を曲がる直前、塀越しに声が聞こえた。誰かの怒鳴り声だ。後ろめたい事がある訳でもないのに、思わず塀の陰に隠れてしまった。
塀の陰から顔だけを出し、様子を窺う。
そこには、
「・・・・・・青山君と、えーっと」
誰だったか?とベネディクトは相手の名前をど忘れした。自己紹介の時にボーっとしていたのが災いしたらしい。
(何だっけ?ABCDってきてるから・・・うーん、分かんないや)
名前は思い出せないが兎に角、向こうには『流血している青山と女子が居た』。
青山に対して女子は無傷。それほどの強敵なのだろうかーー?
「まだ諦めないんですか?」
「・・・・・・・・・」
「もう諦めて下さいよ・・・!何があなたをそこまで突き動かすんですか!?」
暎宮が青山に怒鳴る。強気な言葉に反してその瞳には、多少の畏れが窺えた。
怖いのだ、暎宮は。
何度撃っても、幾つ傷口を増やしても立ち上がる目の前の男が。
「・・・・・・どんな仕掛けかは分かりませんが」
暎宮からの問いには答えず、青山が口を開いた。
「貴女の、そのーーどこかから僕を狙っている銃が本物ではない事は初撃で理解しました。恐らくエアガンの類いでしょう」
音だけは、本物に限り無く近付けたようですが。と、青山が。
「だ、だったら何ですか」
どこからどう見ても青山が劣勢なのは分かるこの状態。しかし、彼からは少しもそんなオーラは出ていない。
「閑静な住宅街とは言え、遮蔽物によって僕から見えない死角何てどこにもあります。仕掛けを隠すならそこしか有りません。・・・そして重要な事が一つ」
青山はピンと指を立て、続ける。
「僕の傷口が一つでは無いという事です。初撃は、僕の顔面を狙った一撃。次に放たれた弾は、僕の背中に当たりました。その次は、左の肘。ーー僕から見えないように隠されている銃が一つなら、可笑しな話です。風向き等を考慮したとしても、前から来た弾が背中に当たる何て有り得ませんから」
青山が制服の内ポケットに手を入れ、眼鏡ケースを取り出した。その中にあるスペアの眼鏡と、レンズが割れてしまった今の眼鏡を取り替える。
眼鏡を顔に馴染ませてから、続ける。
「つまり貴女は複数の銃を、僕を囲むように設置したーーいやはや、僕達『帰宅部』がここを通るかどうかも分からないのに《事前に》銃を設置したその慧眼と度胸、恐れ入ります」
「敵対している相手に拍手を送る何て、白湯の事をどれだけ舐めてるんですか・・・!?」
ワナワナと怒りに震える暎宮を、青山が手で制した。
「素直な感想でしたが、お気に召さないようなら取り消します。ーーさて、話を戻しますが、見た所貴女は、そのお手持ちのリモコン一つで射撃を行っていたようですが・・・まぁ、操作は見た目程簡単ではないのでしょう」
「・・・・・・」
「無言の肯定、と受け取らせていただきます。僕を攻撃する為の『複数の銃』、そして、その攻撃を実行する為の『複雑な操作を行うリモコン』。その二つから導き出される答えは」
青山は一旦言葉を区切り、眼鏡のブリッジを指で押し上げてから言い放つ。
「そのリモコンを破壊すれば、貴女は攻撃をする術を失くしてしまうーーという事です」
暎宮がボタンを押すよりも先に、走り出す。勝負を決めるならここしかない。
いくら青山でも、弾が発射される場所が分からないのなら避け様が無いのだ。
暎宮迄の距離残り五メートル程の所で、
「ーーっ!壊せれば、の話ですけどね!」
正気に戻った暎宮が、殆ど反射的にリモコンのボタンを滅茶苦茶に押す。
結果、今迄は単発ずつしか放たれなかった銃弾が全方位からーーしかし暎宮には当たらないように予め設定されている銃弾がーー青山に殺到する。
銃弾が青山に当たるまでの刹那の瞬間。暎宮が見た青山の顔は、笑っていた。
「僕が先程、古泉先輩から何を預かったかお忘れですか?」
青山が古泉から預かったモノーー即ちブレザーを広げ、前から来た銃弾を防ぐ。それでも、横や後ろから来た銃弾は防げない。古泉やベネディクト程頑丈ではない身体に容赦無く着弾する。
らしくもなく、スマートでもなく、歯を食い縛り『根性で』痛みを噛み殺し、脚を止める事無く更に前へ。
暎宮が驚きに満ちた目を開いて硬直している隙に、暎宮の手から素早くリモコンを抜き取り、地面に落とす。
トドメと言わんばかりに、青山は地面に転がるリモコンを踵で踏み抜いた。
ーーバキッ、と。
勝負終了のゴングが鳴った瞬間であった。
「・・・・・・何で」
暎宮は、無残にも砕かれたリモコンを見ながら呆然と言葉を吐く。
「白湯達は、間違ってない筈なのに。悪いのは、『帰宅部』のッ、・・・ズズ・・・筈なのに!」
嗚咽混じり。顔を押さえながら暎宮が吐き出すように言った。
「暎宮さん、顔をお上げ下さい」
流石に、古泉から預かったブレザーを掛ける訳にはいかないので、自分が着ていたブレザーを暎宮の肩に掛ける。
理屈抜きに、同情抜きに、青山なりに暎宮を称えているのだ。
数分程待ち、暎宮が少し落ち着いてきたのを確認してから切り出した。
「貴女方『下校部』と僕達『帰宅部』の間には何か、理解のズレーー言うならば、思い違いのようなモノがあると思うのですが」
「ズズ・・・、何ですかいきなり」
青山の言葉に引かれて上げた暎宮の顔は、とてもレディに有るまじき顔だったので、青山はハンカチを差し出す。
「それよりも先に、涙を拭いて下さい。綺麗な顔が台無しですよ」
「・・・・・・口説こうとしてるなら、悪いんですけど、白湯は他に好きな人がいるんで無駄ですよ」
「えぇ、土手さんですよね?」
「・・・・・・」
「無言の肯定、と受け取らせていただきます」
青山が先程と同じ言葉で返すと、暎宮は思わず笑ってしまった。
「ほら、貴女には笑顔の方が似合ってますよ」
「・・・キモいんですよ、その態度」
暎宮も負けじと、先程と同じ言葉で返す。
青山も微笑んだ。
暎宮は、ハンカチで涙を拭いて(ついでに鼻水も拭いてから)青山に返した。
「キモいけど、気に入りました。話を聞かせて下さい」
「ありがとうございます。さて、そもそもの話なのですがーー」
「青山クン、おめでと〜う!!」
「え?ーーう、うわぁ!ベネディクト先輩!?ちょっと、何するんですか!抱っこは止めて下さい!抱き締めないで下さい!あ、ああああああああ」
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.61 )
- 日時: 2016/03/24 19:19
- 名前: ガッキー (ID: 8topAA5d)
麓(ふもと)からどれ程の距離を走っただろうか。古泉は走りながら、ふと考える。
脚の痛みや喉の渇きが、必ずしも経過した時間と比例するとは限らない。
現在時刻は分からない。
木々の間からたまに顔を出す太陽は、そろそろ景色の向こうへと隠れてしまいそうだ。
古泉の隣を走る土手も、恐らく古泉と同じ顔をしている筈だ。
痛みに耐え、疲れを堪え、勝利への執着に満ちた貪欲な表情をしている筈だ。
(ふざけんなよ!いきなり部室に押し掛けてきてパクリだ何だと抜かしやがって!)
(俺がどれだけ苦労して『下校部』を創ったのかも知らないで、飄々(ひょうひょう)と『下校部』の真似事をする何て許さないぞ!)
コイツにだけは、絶対負けられない(負けられねぇ)!!
人は何故帰宅するのだろうか。
安心するから?
外が暗いから?
家が明るいから?
お腹が減ったから?
家族に会いたいから?
皆そうしているから?
小さい頃からの習慣だから?
答えは誰にも分からない。
ただ一つだけ言えるのは、どれも正解であるという事だ。
世界中の人間、誰しもが『帰りたい』と思えば帰宅が始まる。
重要なのは理由じゃない。
『帰りたい』という意志だ。
部員の内一人でも先に日没山に帰宅した方の勝ち。
言ってしまえば、勝ち負けに身長や筋肉の差何て関係無い。
『帰りたい』という意志の強い方が勝つ。
そして。
時に。
強過ぎる意志は展開さえも捻じ曲げ、覆す。
「あ・・・・・・・・・?」
頂上迄の距離が、残り数百mという所で、古泉の右脚がピキリ、という異音を発した。古泉がその音を感じた時には、膝を崩していた。
ハァ・・・ハァ・・・と自分の息遣いがやけに大きく聞こえる。視点が異常に低い事を理解してから、古泉はようやく自分は倒れたのだと認識した。
(何だ、何が起こッた!?立てねェ!)
上体は起こせるが、脚に力が入らない。立ち上がろうとする度に電流のような痛みが全身を駆け抜け、あまりの痛みに吐き気さえ催していた。
「・・・・・・」
土手も一瞬立ち止まって古泉の方を見たが、すぐに視線を前に戻して走り出した。
両者の距離は、開く。開く。開く。
それはもう、ここから古泉が土手の隣に並ぶのは不可能な程に。
「く・・・!ハァ・・・ハァ・・・」
古泉の脱落という有り得ない展開に驚いていたのは、土手も同じだった。走っている今も、先程自分が見た出来事が本当かどうか疑わしい程である。
違う意味で心臓が早鐘を鳴らす。
後ろを振り向くが、古泉が追い掛けてきているーーという事も無い。
土手は安堵の溜め息を吐き、心無しか残念そうな顔で一歩踏み出した。
午後六時二十七分。
太陽が沈み、日没山の各場所に設置された電灯だけが淡く光る時間帯。
土手の足が日没山の頂上の土を踏んだ瞬間であった。
「・・・・・・やった」
頂上に着いてから数分。勝利を感じたのはその頃だった。じわじわと、身体の内から『勝ったんだ』という実感が押し寄せてくる。
「やったぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
暎宮と富士宮、そして自分に向けて叫ぶ。
自分の身体は疲れ切っている筈なのに、笑いが止まらなかった。
・・・・・・失礼、言葉を間違えた。
止まった。と、訂正しよう。
彼ーー土手・帰路の勝利の美酒に酔った笑い声は、数十秒と経たずに止まった。
徐々に笑い声が小さくなり、喉が干上がる。
目を疑った。
「はは!はははははは、ははははは、ははは・・・・・・」
こんなのって無いだろ、と。
目を擦っても、頬をつねっても、頭を振っても、空を見上げても、頭を掻き毟(むし)っても、自分自身に問うてみても。
目の前の現実は、到底受け入れられるモノではなかった。
ここに居てはいけない筈の存在に、土手は吼える。
- Re: 帰宅部オーバーワーク!【怒涛の新編突入!!】 ( No.62 )
- 日時: 2016/06/25 21:28
- 名前: ガッキー (ID: bUOIFFcu)
「何故・・・、何故お前がそこに居る!?ーー前野ッ!!」
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