ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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あかりのオユウギ2
日時: 2009/08/25 22:19
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)

うおっしゃ。精神面はこれでよくなるはずだぜ! と儚い希望を持っているゆずゆです。どうも。
今回のお話の内容は、『吸血鬼と人間の絡み合い』です。
過去スレはURLをクリックすると見られます。
では

お話
第一章 滅亡ドメスティック-お父さん殺人事件-
 序章>>2
 キャスト>>1
 一話>>3 二話>>4 三話>>15 四話>>27 五話>>30 六話>>34 七話>>41  (全七話)

第二章 人狩りデッドゴッド-夜中はいつでも処刑時刻-
 序章>>48
 キャスト>>49
 一話>>55 二話>>56 三話>>58 四話>>60 四話>>61 五話>>64 六話>>65 七話>>72 八話>>74 八話>>77 八話>>88 九話>>94 (全九話)

第三章 灼熱ワールドエンド-疑太陽-
 序章>>96
 キャスト>>97
 一話>>98 二話>>99 三話>>102 四話>>104 五話>>110 六話>>112 七話>>115 八話>>117 九話>>118 十話>>119 十一話>>123 (全十一話)

第四章 炸裂ライフゲーム-太陽粉砕、破壊の開宴-
 序章>>124
 キャスト>>125
 一話>>126 二話>>127 三話>>128 四話>>129 五話>>148 六話>>151 七話>>154 (全七話)

第五章 再会スリーレギオン-神社と狐と吸血鬼-
 序章>>158
 キャスト>>155
 一話>>165 二話>>170 三話>>172 四話>>178 五話>>183 六話>>185 七話>>188 八話>>193 九話>>194 十話>>200 (全十話)

六章 殺人ベルセルク-下層吸血鬼の殺人鬼-
 序章>>203
 キャスト>>206
 一話>>207 二話>>212 三話>>217 四話>>222 五話>>226 六話>>230 七話>>236 八話>>239 九話>>249 十話>>256 十一話>>260 十二話>>262 (全十二話)

七章 御主人ビトゥレイ-縁は切れるからこその縁-
 序章>>269
 キャスト>>270
 一話>>274 二話>>283 三話>>308 四話>>329

お客様
 咲音様 沙都子様 ねぬぬ様 るる様 ショボボ様 優美様 キョウキャ=エアエリアエア様
 煌桃様 BLOOD様 来流玖様 しゅしゅ様 由真様 НΙММЁL様
この小説を鑑定してくださった方
 ああ様 知愛様 夢月様 ゆうら様 

注意事項
 ・このお話は完結しないかもしれません
 ・気まぐれ更新です

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Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-参 ( No.60 )
日時: 2008/08/25 18:20
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

四話 [ 戦闘ミゼラブル-お邪魔虫- 上 ]

『人差し指指、内緒モードひそひそっ』

 録画していた大好きなアニメを最後のエンディングまで見て、わたそはため息をついた。時刻は十一時四十分くらい——四十一分になった。
 もう少しで人狩りの時間が始まる。そう思い、お嬢と呼ばれているわたしは自分の部屋へ向かった。

 部屋の扉を開けて、電気をつける。そして、棚と冷蔵庫と座布団しかない自分の部屋をとりあえず見回して、棚の前まで来てそれの扉を開けた。それから、ハンガーに掛かって、上から吊るしてあった人狩りをする時の服を手にとり、それを見た。白い、ワンピースだ。だが、人狩りをした時の返り血で汚れているため、なぜだか見ると生生しい。それから、黒色のネクタイを触る。確か、あかりは大きいリボンで、月子はスカーフ見たいなものだった様な…?
 思いながら、わたしはとりあえずそれを着て見ることにした。黒のワンピースに黒のレディース。黒の手袋を次々と脱いで行き、シロイワンピースを下から着た。胸までそれをあげたら、肩を書ける所に手を通して、お終いだ。鎌は、閻魔大王が呼ばす八咫烏が持ってきてくれる。
 とりあえず、八咫烏に名前をつけようとたった今思いつき、考えてみることにした。格好良い名前がいいだろうか…? 可愛い名前がいいだろうか…? それよりわたしの八咫烏はオスかメスどっちだろうか?
考えていたら、玄関らへんからあかりの声が聞こえたので、とりあえずぱたぱたと足を慣らしながらそっちへ行ってみることにした。

「あっ、お嬢! そろそろ八咫烏がくるから——」

 あかりがそう言い、わたしに向かって手招きする。
 わたしはにこっと笑い、玄関へ向かった。すると急に…胸騒ぎがしてきた。これは、なんなのだろうか? 



「や……」

 八咫烏の持っていた、今日狩る人の名前を見て、わたしは絶句した。『桂月(けいづき) アイアンレイン』。わたしの——霊月と昔から敵対してきて、もう一つの吸血鬼の一族の、姫。昔、ずっと昔に会ったことがある。
 青い、長い髪に、青い瞳。ほしいものはなんでもそろえて、嫌いな奴は即殺す。そんな、残虐的な性格を持った吸血鬼だった。
 桂月は、吸血鬼社会の中で最も血まみれの姫と聞いたことがある。だからそれなりに人を——

「お嬢? お嬢ー!」
「えあっ!?」

 あ、もしかしてわたし、ずっと黙り込んでた!?

「あ、ごめんね。じゃあ、行こうか!」

 あかりはこちらを心配そうに見つめ、月子は大丈夫ですか? といってくれている。わたしはにこっと笑って見せて、八咫烏の頭をなでた。すると、八咫烏は翼を広げ、わたしを乗せ、飛んでいった。すごい速さだった。ふと後ろを見ると、後ろにはわたしとは反対方向へと飛んでいくあかりと月子がいた。
 ふぅ、とため息をついて、わたしは前を見た。それから、八咫烏の背に巻きつけてあった赤色の飾りがついた鎌を取り、それを舐めた。



 なんということだろう。家を出て行くときの胸騒ぎはコレだったのか——今日は厄日だ。

 八咫烏が空中を飛んでいる中、わたしは勝手に八咫烏の背中から飛び降りた。今日は、風がない。だが下に落ちるときには必ず、酸素を切る様にしたにいく。ワンピースはもちろんふわっと、昔の少女漫画みたいにめくりあがっていた。だけど隠す気力なんかわかなくって、そのまま落ちていく。
 ずしぃん。
 衝撃が足から腰へと、どんどん下から上へ走り、最終的にはなくなる。それからため息をついて、後から鎌が上から落ちてきた。さすがに鎌と一緒に落ちると、そっちの方に体重が偏って脱臼をしてしまうかもしれないから、落ちている途中で離したのだ。
 鎌の柄を持ち、わたしは歩いた。『森の、焼け跡』を。まだそこらへんでは火が燃え続けている。きっとこれは——、

「桂月、鉄の雨(アイアンレイン)……」

 そう呟くわたしの目の前には、その桂月がたっていた。
 赤く汚れた青色のフリフリのドレス。右手には青色の剣。青で統一された、残虐姫。桂月アイアンレインは、にこっと笑って、わたしに言って見せた。

「おはよう、霊月」
「おはよう…? いつ失明したんだ?」
「失明? 相変わらずバカなのね、霊月って」

 うふふ、と笑って桂月は続ける。

「吸血鬼にとって夜は朝も同然。だって、吸血鬼は夜に動くものでしょ?」
「だからってお前は森を焼くのか」

 そうだ。この森の焼け跡を見たときから分かっていた。これは、桂月の仕業だと言うことが。
 すると桂月は、またうふふと笑って言う。

「そうよ、そう。それにね、邪魔だったの。だから——」
「燃やした」
「で? 貴方はどうしたの? 霊月ぃ」

 わたしをバカにしている様な喋り方。昔も、そうだった。わたしを散々バカにして、消えた。
 わたしはまたため息をついて、言う。

「見て分かんない?」
「……何? 職業死神にしたの?」
「今は死神と吸血鬼。両方の職業をやってるよ——お前みたいにな」
「わたしの職業は一つ(吸血鬼)だけよ? 何言ってるの?」
「いいや、お前は二つの職業を持っている。一つ目は吸血鬼。二つ目は——人殺しだ」
「あっははははははははははははははははあああぁ! 貴方そんな考え方もするんだぁ…そうね。そう言えばそうね」
「だから殺しに来た」

 わたしは、全速力で桂月へと走った。すると、攻撃しにくると分かった桂月は、青の剣を構える——。
 ガキィンッ。
 鎌と剣の押し合い。どちらが勝っているかは…不明だ。すると桂月はそれをやめ、剣を引く。それから、倒れそうになったわたしの心臓めがけて剣を向けてくる。わたしは急いで体をたくさんのコウモリにさせ分裂させ、数メートル離れたところでコウモリから姿を変え、もとの私になる。やはり服はなかった。コウモリになると、やはり体の大きさも変わるため服は脱げる。だが、恥ずかしいとは思わなかった。とりあえず、このままでも動きやすくて良かったのだが、なぜかわたしは自分の赤い髪の毛を一本抜き、鎌を地面に刺しておいてからその髪を、腰辺りに結ぶ。すると、その髪の毛は見る見るうちに赤いワンピースへと変わる。いわゆる、『変化』と言う奴だ。
 それを見ていた桂月は、今度はこちらから、とでも言うようにわたしに向かって走ってくる。わたしは急いで鎌を取り、柄をぎゅっと握り締める。
 ガキィッ。
 相変わらずな押し合い。今度は、わたしがそれを振り払い、倒れそうな桂月の腹めがけて鎌を大きく振り下ろす。桂月はそれを右へ転がり避け、持っていた青の剣をわたしの腹へ刺した。

「ごふっ」

 口から血が出る。だが、まだ行ける…たとえ桂月の方が力が上だとしても、だ。
 そしてわたしは、自分から腹に刺さっている桂月の剣を抜き、大声を出していった。

「わたしは…わたしはこの暗いでは死なないぞ桂月ぃっ!」

 そして、また、瞬間移動か何かで数メートルの所まで行った桂月のところへ走り出した。
 ——戦いは、まだ始まったばかりだから。

Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-四 ( No.61 )
日時: 2008/08/25 20:11
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

四話 [ 戦闘ミゼラブル-しねと死ね- 下 ]

「うわああああああああああああああ!」

 叫び、鎌を横にして桂月の横腹を切ろうとする。だがやはり止められる。だが、わたしはどんどんその鎌に力を入れる。すると桂月の青の剣はピシピシといい始め——折れる! 最高のチャンスを、わたしは無駄になんかしない。わたしは、桂月の腹に鎌を六センチほど入れてから、前にそれを引いた。

「ごふぅっ」

 桂月の口から血が出る。桂月の腹から血が出る。青のドレスは、また赤に汚れる。だが、桂月は腹を押さえながら、折れた剣の柄の方を取り、前に出す。それに気づき、わたしは急いで後ろへ下がる。
 桂月は腹を押さえながら、わたしを睨んだ。わたしは桂月に向かって吐き捨てる。

「これで両方傷をおったな」
「このっ…莫迦(ばか)野郎がぁ!」

 前までとは違う、とてもめりはりのある声。すると桂月は体をコウモリに変える。するとやはりわたしと同じように青のドレスからたくさんのコウモリが出てくる。すると桂月は、ドレスのすぐ横で姿を元のものへと変える。きっとその厚いドレスじゃ動きにくいんだろう。そしてふと、桂月の足元を見ると、そこには十匹ほどのコウモリが倒れて、いや、死んでいた。きっとあのコウモリは、あの傷の所だろう。きっと切り離したのだ。そう思い、また桂月を見ると、彼女の身長はさきほどよりも小さくなっていた。

「どうした桂月。背ぇ、縮んでるぞ」
「鎌に毒ぬってあるでしょ。だってあのままじゃ毒が体に回って死んじゃうんだもの」
「良く気づいたなぁ…おめでとう」
「ええ、ありがとう。でも、これじゃまともに戦えないわ」

 計月は、下に落ちている真っ二つの青の剣を見て言う。
 わたしはそれに、笑いながら言う。

「体術でやったらどうだ? 蹴りくらいは——弱っちい蹴りくらいなら決められるだろ?」
「大丈夫よ。これだけでも戦えるからぁっ!」

 真っ裸の桂月は、柄がついた方の剣を取り、それを舐めた。
 それから——消える。どこへ、どこへいったんだ。卑怯、卑怯。

「桂月!」

 わたしが周りを見ながら叫ぶと、声が聞こえた。声が聞こえた時では、遅かった。すでに、桂月の折れた青の剣は、わたしのみぞおちに後ろから刺さっていた。

「ごふぅっ…あ…あ、あぁ」

 力が抜ける。口から血が出るだが——わたしは持っていた鎌の刃を横に向け、それを後ろへと力の限り動かした。

「ああああああああああ!」

 桂月の、唸り声。それを聞いたとたん、ほっとしたのか、わたしは倒れこんだ。わたしの頭の下には——桂月が倒れこんでいる居る。どこを切ったのかわからなかったが、桂月ももう動けないらしい。
 わたしは桂月が刺した青の剣を前かから、ひこっぬく。

「う…ああああああっ」

 枝の部分が大きくて、わたしの体を倍に圧迫する。だが抜かなければ、そう思い、わたしはそれを引っこ抜いた。

「ああっ」

 血が出る。出血多量で死ぬ…そう思い、わたしはまた髪の毛を引っこ抜いて、それを布に変えた。それから、それを右手で持って、向こう側の左手へまわし、それを二回ほど繰り返してから前できつく縛る。痛いが、これくらいはやっておかないともう死んでしまう。十分に生きたが、まだ死ぬわけにはいかないのだ。
 でるだけの声を喉から絞り出して、わたしは倒れている桂月の腹にかけておいた頭を少しだけあげ、桂月に言った。

「桂月ー生きてるか?」
「あ…こ、今回は…わた…の、ま……け、ね」
「そうか」
「え…え……」
「お前、もう死ぬんだな。声が、ヤバいぞ」
「しお…どき、ね。れい…づき、つ…よ、く……なっ」

 桂月の言葉は、そこで途絶えた。それと同じように、わたしの意識も、そこで途絶えた。



 まだわたしが生まれて幼かった頃、わたしと桂月は親友だった。桂月はわたしのことを『ふーちゃん』と読んで、わたしが桂月のことを『けーちゃん』と読んでいた。
 とても仲良しで、お気に入りのおもちゃを交換して、一緒に笑っていた。だが、ある日、桂月はわたしに言ってきた。

『しね』

 と。それから、どんどんわたしを侮辱していって——最後には、高笑いして、消えていった。わたしにとって、それは十分過ぎるトラウマで、それいらい、わたしは桂月とあうと、幼い子供とあうと、恐怖に心を染めて、逃げ出してしまうのだ。歳をとっても、それはずっと続いていった。
 あの時の桂月の言葉には、もう本当に死にたくなって、桂月を殺したくなったけど、桂月が死んだ今、桂月の存在がわたしの頭の中でどれだけ大きかったか——だから、桂月の死にわたしは、少しでも悲しんでいるのかもしれない。



 胸の痛みで目が覚めた時、そこにはあかりと月子がいた。心配そうにこちらを眺めて、言う。

「大丈夫? お嬢」

 『YES』とはいえなかったけど、『NO』ともいえなかったから、わたしは静かに呟いた。

「微妙」

 それを聞いて、少しだけ顔をやわらかくするあかりと月子。それから、またズキンと痛んだ胸に手を当てて、わたしは言った。

「けーちゃんが、地獄で笑ってるのかもね」

 彼女の笑みは、最大の凶器。昔、笑いながら、『しね』といわれたから。やっぱり、やっぱり——、

「トラウマは、消えないんだね」

Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-四-下 ( No.62 )
日時: 2008/08/27 11:08
名前: (咲音∂∀∂)☆ ◆Ucndlt8bzs (ID: 96w7BTqj)

桂月、ひどいね。
いきなり『しね』って言うんだもん・・・
でも、同じ死神の仲間がいるから大丈夫だよ!
お嬢の場合だけど・・・(タヒ



ゆずちゃん、私も精神的に弱かったよ。
もしかしたら、ゆずちゃん以上かもしれないよ。(強制終了

Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-四-下 ( No.63 )
日時: 2008/08/27 20:07
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

大丈夫さ(何
桂月はまた登場する \(^o^)/
桂月の名前は『アイアンレイン』。つまり『鉄の雨』。つまり——『鉄の雨』が霊月を襲うのじゃ(ネタバレオワタ \(^o^)/


ううん。咲ちゃんは強い子だよ。
わたしってね、本当に弱いから。
とりま頑張ってるんだよ。
あはは/(^o^) \

Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-四-下 ( No.64 )
日時: 2008/08/28 09:39
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

五話 [ 災いが降ってくる-桂月 アインレイン- ]

 あかりと月子が家に帰ったとき、八咫烏が急に背中に乗れというので、背中に乗って、飛んで、連れて来て貰った所に、血まみれで眠っているお嬢と、上半身と下半身がバラバラになった女の人がそこに倒れていた。お嬢はその女の人の胸に頭を置いていて——ちょっとヘンな感じな姉妹に見えた。



 お嬢の傷は深かった。心臓をぎりぎりで避けた所に一つの刺し傷。そして胃腸のあたりに一つ刺し傷。生きていることが奇跡。そして、回復も順調に進んでいた。
 もちろん病院にいる。お嬢を病院に連れて行った時、それを最初に見た看護婦は顔を真っ青にしていた。それはそうだろう。返り血なのか自分の血なのか分からないほどにお嬢の体は血でべとべとだったから。だがとりあえず、ちゃんと手術してくれた。
 つい昨日までは弱弱しかったお嬢も、まだ一日しか立っていないのに歩けるようになっていた。恐るべし吸血鬼。

「お嬢……で、あの女の人は誰なんですか?」

 月子は、仰向けになりベッドでおとなしくしているお嬢にそう言った。
 お嬢は月子が向いた林檎をしゃりっと元気良く食べながら言う。

「あー昔から敵対してるもう一つの吸血鬼の一族。昔は仲良しだったんだけどねぇ……」
「今でもって言うと変ですけど——昨日も一緒に笑ってたじゃないですか」
「狂気の笑みよ」
「違います。お嬢とその敵対してる人。わたしたちが駆けつけた時、妙に口の先っぽを吊り上げてましたけど」
「見間違いっ」

 お嬢はそう言って林檎を食べ終わると、またベッドにとりつけられている机に乗っている白い紙皿から林檎をひょいと掴み、しゃりしゃりと美味しそうに食べる。

「でもお嬢? 昔は仲良しだったのでしょう? なら今でも仲良しですよ。仲良しと言うのは、永遠のものなのです」
「じゃあ月子は姉様と自分は仲良しだと思ってるの?」
「ええ、見た感じはとっくの昔に仲良しなど終わっている様に見えるようですけど、わたしと姉様は裏では仲良しなのですよ。ほら——なんていいましたっけ? 喧嘩するほどバカみたい?」
「『喧嘩するほど阿呆らしい』だ。ちゃんとことわざとか勉強しなきゃ?」

 お嬢は月子に間違ったことを教えるが、月子はそれに気づかず、わかりましたと納得している。だが、なぜ月子が日本語をぺらぺらと喋っているかは、いまだに分からない。閻魔大王様が何か月子の脳をいじくったのかもしれないが。
 それからお嬢は、林檎をまた一つ食べてから月子に問いをかけた。

「——ごめんなさい。心配、かけちゃって」
「いいえ、別にいいのですよ。生きていてくれて嬉しいし、確かあかりさんが、『にゅういんひ』と言うものは閻魔様が払ってくれるそうで——目をキラキラ光らせてましたよ」
「にゅういっ……」

 お嬢は、入院費って、と言おうとしたがとりあえずやめておいた。
 それから、月子にもう帰っていいと言う。月子は短く返事をし、あっさりと病室を出た。
 月子がこの個室から遠ざかっていくのを足音で確認し、お嬢は無理やりにベッドから立ち上がった。それと同時に点滴が掛かっている銀色の棒がガシャンと倒れ、お嬢の腕に刺さっている点滴の針が外れ、落ちる。少々痛みはしたが、別に気にしなかった。お嬢は、曇って来ている空を窓から眺め、目を大きく開けて微笑した。

「雨が降る——人類が滅亡するほどの、恐ろしい雨粒が、降る」

 お嬢——霊月ファイヤフライは、狂ったように笑った。
 それはそうだ。桂月は生きているのだ。雨になって……。桂月の名は桂月アイアンレイン。アイアンレイン——鉄の雨。
 桂月——いや、吸血鬼を殺した後には必ず災いがくる。だから、桂月を殺した後には『鉄の雨』が降る。その殺した相手に向かって………。いわゆる、お嬢に向かって災いが起こるのだ。
 お嬢はそれを知っていた。もちろん、閻魔大王も知っていただろう。なのになんで閻魔大王は——そう考えると、考えなければいけないのでお嬢は考えなかった。とりあえず、閻魔大王は自分の力を知りたいらしい。なら、見せてやろうじゃないか!

「今晩は——ファイヤフライが空を飛ぶ。真っ赤な光が、わたしの力が空を飛ぶ」


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