ダーク・ファンタジー小説
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- -deviant- 異常者たちの物語
- 日時: 2013/10/13 10:43
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
——これは、『ディヴィアント』……異常者、と呼ばれた人間の青年と、その同族たちの物語である。
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初めまして、まずはクリックありがとうございます。
私はエンヴィと言います、この作品が初投稿です。
何かと至らない箇所もあるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。
こちらは題名の通り、『異常者』と呼ばれる人物たちのお話で、基本的に主人公視点で書いて行きます。
時折別の人物のパートも入るので、それぞれの心情を読んでいただけたらなと思います。
基本的に更新は毎日1話ほどずつ、休日などで時間があるときは2、3話ほど更新します。
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注意事項 -attention-
当然ですが荒らしはやめてください。
露骨な宣伝はできるだけご遠慮願います。
基本タメ語はあまり受け付けません。
上記の注意点を守ってくださる方は是非、コメントをお待ちしております。
感想に添える形で紹介していただければ、相互の作品も読ませていただきます。
- - - - -
長らくお待たせしました、それでは本編をどうぞ。
楽しんでいただければ幸いに思います^^
- - - - -
目次 -Contents-
prologue >>1
Caputer1. 1 >>2 2 >>3 3 >>4 4 >>5 5 >>6
Chapter2. 1 >>8 2 >>11 3 >>16 4 >>17-18 5 >>19
Chapter3. 1 >>21 2 >>24 3 >>26 4 >>28 5 >>29
Chapter4. 1 >>33 2 >>37 3 >>41-42 4 >>46 5 >>47
Chapter5. 1 >>48 2 >>49 3 >>50 4 >>51 5 >>52
Extra edition1. 1 >>55 2 >>56 3 >>57 4 >>58 5 >>59
Chapter6. 1 >>61 2 >>66 3 >>70 4 >>71 5 >>72
Chapter7. 1 >>76-77 2 >>78 3 >>81 4 >>82 5 >>83
Chapter8. 1 >>85 2 >>86 3 >>87 4 >>94
- - - - -
お客様 -visitor-
岸 柚美 様
はる 様
ブラッドベリー 様
ヒント 様
静花 様
あんず 様
- - - - -
イラスト -gallery-
作画・友人 >>75
- - - - -
登場人物 -characters-
NO.1 >>7
NO.2 >>20
NO.3 >>30
NO.4 >>53
NO.5 >>84
NO.6 >>101
※読まなくてもとくに本編に差支えありません。作者の混乱防止です。
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- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.55 )
- 日時: 2013/09/26 20:44
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: UdOJ4j.O)
Extra edition1.
1 side shiny -シーニー-
- - - - -
——よく聞け。
いいかシーニー、「痛み」っていうのはどんな人間でも必ず持つ感覚だ。これが無い奴は、もはや人間じゃない。
だから、お前は人間だ。——
- - - - -
「ねぇ、遊んでよ!ねぇってば!」
必死に声をかけるけど、誰も返事をしない。
気味悪がったように怯えて後ずさる子、嫌悪を浮かべた表情で睨み付ける子、目すら合わそうとしない子。
先生は言ってたのに。
「ここにはお友達がたくさんいるから、ここで遊んでもらいなさい」って。
なのに誰も遊んでくれない。
……あーあ。つまらないなぁ、ホント。
大人たちが誰も相手にしてくれないから、先生に言われた通り僕と同い年くらいの子たちの方へ来たのに。
ベシャ。
何かが頭にぶつかった。
ドロリとした赤いものが目に垂れてくる。なにこれ?
拭ったそれを舐めてみた。すっぱい。
……トマトぶつけられた。
「こっち来るな!化け物、怪物!」
「気持ち悪いんだよ、お前なんか人間の皮かぶった『異常者』のくせに!!」
ものすごく怖い形相でそう叫ぶ男の子たち。
その陰で震える女の子たち。
ねえ、なんで?
僕、普通の人間だよ?
なんで誰も聞いてくれないのかな……おかしいよね。
ちゃんと正直に話せば怒らない、ってママも言ってたのに。
あれ、そういえばママってどこに行っちゃったんだっけ。
そういえば、どうしたんだっけ。
————。
- - - - -
気が付くといつも一人。
この施設に預けられて、もう……何年たったんだっけ。
ずっと待っているけど、ママは迎えにこない。
でもそれも慣れた。
もともとママと遊んだ記憶ってあんまりないから、もういいやって思っちゃって。
それより今は、一人で遊んでいるほうが楽しい。最近は虫を捕るのが楽しいんだ!
施設に入ったばかりの頃は、まだ僕は『一人で遊ぶ』っていうことを知らなかった。だから片っ端からいろんな子に話しかけて、仲間を作ろうとした。
でも、みんなはあんまりそういうのが好きじゃないみたい。
まぁ、好きじゃないことだったらしょうがないよねぇ。僕も嫌いなピーマンを無理やり食べさせられたら嫌な気分になるもの。
だから一人で遊ぶことを僕は考えた。
砂遊びや人形遊び、虫捕りもそうだし、一人でも遊べるものはたくさんあって、毎日が本当に楽しい。
……でも、やっぱり大勢でやる遊びもいつかはやってみたいな。
他の施設の子たちは、みんな毎日鬼ごっこやかくれんぼで遊んでいる。
その中でも一番おもしろそうだと思ったのは、『戦争ごっこ』。
丸めた新聞紙や木の枝を使って『兵士』の役をやったり、高い台の上に立って『司令官』になったり、すごく楽しそうな遊び。
何より、この遊びは1人じゃ絶対にできない遊びだ。
あ、今日もみんなが集まって戦争ごっこ始めてる。
「楽しそうだな〜」
ポツリと呟いて、僕は意識したわけでもなくフラフラと近づいて行ってしまった。
最初に僕に気づいた、背の低い子が「あっ」と声をあげる。こっちを見た瞬間、まるで大きな怖い犬に遭遇したような、怯えた顔をした。
だから、何にもしないのに〜。なんでそんな怖がるかなー?
その子を皮切りに、他の子たちも次々と気づいて僕を振り返る。
みんな、遊ぶのを止めて僕から距離をとるように後ろに下がり始めた。
僕は慌てて言い訳した。
「あー、なんでやめちゃうの、僕何もしないって。そのまま続けてよ、見てるだけで面白いのに」
でも、誰もその場を動かない。明らかに僕のことを信じていなさそうだ。酷いなー、もう。僕はオオカミ少年じゃないんだぞ。
んー、とりあえず、ここにいるみんなはもう、遊ぶ気をなくしちゃったみたいだ。つまんないの、遊ばない人たちなんか眺めていたって何も楽しくないや。
僕はちょっと困って頭をポリポリ掻いたりしたけど、状況は何もかわらなかったので「じゃあね、また気が向いたら遊んでね〜」とだけ言って帰ることにした。
施設に戻っていくまで、何回か振り向いたけど、結局僕が視界にいる間は誰も遊びを再開しなかった。
じーっ、とこっちを睨むように、見張るように見ていた。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.56 )
- 日時: 2013/09/26 21:26
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: UdOJ4j.O)
Extra edition1.
2 side shiny -シーニー-
- - - - -
歳も何歳になったかはわからないけど、僕がこの施設に来てから2回目の冬を迎えたころ。
この地方では、冬に雪が降る。
だから、毎年施設の庭や周りの町なんかは真っ白になって、すごくきれいなんだ。
子供たちも、雪合戦をしたりかまくらを作ったりして楽しそうに過ごしていた。
僕も今日は、雪だるまや雪うさぎを作っているところ。去年より大きなヤツを作ろうと思ってるんだ!
冬の間は虫がいなくなっちゃうから、代わりにこの遊びでしのいでいる。虫と会えなくなっちゃうのは寂しいけど、これもこれですっごく楽しい。
それで、朝から張り切って雪玉をコロコロしていた僕なんだけど……。
さく、さくっ
急に雪を踏みしめて近づいてくる、何人もの子たちの足音が聞こえた。
何だろうと思って顔をあげると、5人くらいの男の子たちがこっちに向かってくる。
ボウリングのピンみたいに、一番背が高い子を先頭に並んだようにして歩いてきた。
僕が雪玉を転がす手を止めて見つめていると、やがて先頭の子は僕の目の前で立ち止まった。
見下ろしてくる。
僕は首をちょっとかしげて尋ねた。
「どうかしたの?雪玉ならあっちにもたくさん転がってるよ〜」
一緒に雪だるま作りたいのかな、と思ってそう聞いたんだけど、男の子はそれをスルー。
代わりに、こう言ってきた。
「お前さ、俺らと一緒に戦争ごっこしたいと思ってるか?」
その質問に、僕は一瞬反応が遅れた。
だって、いつも僕が遊びに誘っても、誰も相手にしてくれなかったんだよ?
それが、いきなりこんなこと尋ねてくるんだもの。
嬉しいに決まってるじゃないか!
僕は一も二もなく「うん!遊びたい!」と返事した。
すると、周りの男の子たちの表情がかすかに揺らいだ……ような気がした。
でも気のせいか。先頭の男の子だけは、僕の返事を聞くと心底楽しそうにニコッ、と笑ったから。
「よっし、じゃぁ今日は雪国の戦争だ!行こうぜ、……えっと」
男の子は、僕のことを呼ぼうとしてちょっと困った顔になった。
あはは、忘れちゃってるなんてうっかりしてるな〜。
「シーニーだよ。ほら、僕の目の色、青色でしょ。ママが付けてくれたんだ、『青色』って意味で」
そう言うと、男の子は「そうか」と言って改めて呼んでくれた。
「じゃ、行くかシーニー!」
- - - - -
雪玉はいったん放り出して、僕は男の子たちに施設の広いところまで連れていかれた。
大人たちはもちろんいない。それも当然で、戦争ごっこは危ない遊びで怪我をしちゃう子もいるから、大人たちはこぞってやめさせようとするからだ。
だから、すぐに大人に告げ口しちゃうような女の子たちは参加できない。それ以前に、女の子はちょっと傷をつけるとそれだけでギャーギャー騒いで遊びどころじゃなくなっちゃうし。
「ここがいいな」
背の高い子はそう言って、木の棒で地面に線を引き始めた。これが『領土』。ドッジボールのコートみたいなヤツだと思ってくれればいいと思う。
ちなみに、先ほどから僕に話しかけているのは背の高い、リーダーらしいその男の子だけで、他の子は何も話さない。不思議に思って見回してみても、なんだか僕の視線を避けるようにみんな目をそらす。
……うーん、やっぱりあの子以外はあんまり僕が混じることに賛成じゃないみたい、かな?
ま、いっか。そのうち慣れてくれるかな、たぶん。
「よし、じゃあ始めるか。シーニー、お前はあっちの領土だ」
「うん、わかったー♪」
言う通り、僕は線が引かれた陣地に移動した。
「…………」
「…………」
「…………あれ、他のみんなは?」
背の高い子は、何かニヤニヤしている。
他の子たちは、みんな一様に暗い顔。
何やってるんだろ?みんなこれから遊ぶのに、なんでそんなにつまらなさそうな顔してるの?
やっぱり僕がいるから?
と、僕がちょっと考え込んでいたその時だった。
「いくぞ、開戦!」
背の高い仔がそう叫んだ。
瞬間。
何かに突き動かされたように、男の子たちは一斉に僕に向かって、
何か投げてきた。
ゴン、ぐしゃっ、べしゃっ。
「……あれ」
頭が酷く痛い。
目に、赤いモノが垂れてきた。またトマトかな?
でもそれを拭ってなめてみると、鉄の味がした。
僕にそれを投げつけた瞬間、不思議なことに投げた本人たちは本当に恐怖に染まった表情で「う、うわぁ!」と叫んだ。
「な、なぁやっぱり石を投げるのはやばかったって!血出てるよ、アイツ!」
「あ、頭……アイツ、脳みそが……!」
なんか、クラクラする。頭も痛いし。風邪でもひいたときと似ているけど、なんか違う。
慌てふためく男の子たちを、背の高い子は一括した。
「おい、投げた張本人のお前らがパニックになってどうすンだよバァカ。どうせ死にはしねぇ、よく見ろ」
その子が喋っている間に、頭の痛みはだんだん薄れていき、急速になくなっていった。
ただ、髪の毛や顔に血がベッタリ付いたままでちょっと気持ち悪い。
「うー、痛いなぁもう」
さすがにちょっと文句を言いながら、僕は血をぬぐった。
男の子たちはポカンとした顔をして、口々に何か言っていた。
「え、……本当に戻った」
「は、早!マジかよ!?」
「死んでない……おれたち、殺人犯じゃない!」
わーわー、となぜか嬉しそうにする男の子たち。
それを、背の高い子がまた大声でどなって静かにさせた。
「だから言っただろうが、コイツは『蘇生』の能力を持ったディヴィアントだ。いくらおれたちが傷つけようが、絶対死なねぇ」
いったんそこで言葉を切った彼は、心底楽しそうに笑って続けた。
「なぁ、お前らもバカな大人どものせいでイライラしてるんだろ?どうせいくら殴っても蹴っても石投げても首絞めても、全部蘇生で治るんだ。証拠も残らない」
なあ、お前もおれたちと遊んでもらうのが本望なんだろ?
その子は僕に向き直って、そう続けた。
その日から僕には、『友達』ができた。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.57 )
- 日時: 2013/09/27 19:18
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Extra edition1.
3 side shiny -シーニー-
- - - - -
それから、また何日かがたった。
そろそろ冬も明けるころ、僕がみんなと『遊ぶ』ことはすっかり定着していた。
男の子たちの中でも、やっぱりリーダーらしいあの背の高い子が率先して僕を遊びの輪に入れてくれたので、みんなも慣れたらしい。
僕もすっごく楽しかった。
毎日遊んでくれる『友達』たちは、いろいろな遊び方で遊んでくれる。
今日は誰が僕の右目に多く針を刺せるかで競ったんだ!
目玉が何回も潰れてすっごく痛かったけど、すっごく楽しかった。
でも、ちょっと不思議に思う。
こんなに楽しいことなのに、どうして『みんなも同じことをやらない』んだろ?
今日、他の子に「楽しいからやってみようよ〜」ってその子の目に針を刺そうとしたんだけど、怒られて殴られちゃった。
んー、その子にとってはあんまり楽しいことじゃなかったみたい。
みんな笑ってるから僕も嬉しいし楽しいけど、どうせだったらみんなで一緒のことをやってみたいなぁ。
夜になって、眠れなくて暇なとき僕は、みんなが『教えてくれた遊び』でいつも遊ぶようになった。
施設の調理室に、見つからないように忍び込んで包丁を取ってきて、それを使って遊ぶんだ。
その包丁で自分の指を1本ずつ切り取って、順番に床に並べてツミキみたいにして遊ぶ。丸いツミキが無い時は目を『使って』代わりにしたりする。
指を切ったり目をくりぬくときは、すっごーく痛いんだけど、それが楽しくって自然と笑えてきちゃうんだよねぇ。
でも、僕はいくらそうやっていてもすぐに治っちゃって、痛みもなくなるから、それがちょっとつまらなかったりする。
ずーっとこの『痛み』が続けば、ずーっと楽しい気分でいられそうなのに。
- - - - -
でも、そんなある日。
『友達』と別れてまた暇になっちゃった夕方、ちょっと早い時間だけど調理室に忍び込んでいた時、同じ施設の女の子に見つかっちゃったんだ。
女の子は僕が腕を切り刻んでいるところを見て、大声で叫んだ。
そのままそこでパッタリ倒れて気絶。
「わ、どうしたのー?大丈夫?」
声をかけたけど、やっぱり無反応。
そのうち、悲鳴を聞きつけた一人の先生が大慌てで駆けつけてきた。
「いったい何事ですか!?今は大事なお客様がいるから静かにしていなさいとあれほど……」
そこで先生の言葉は切れた。
だってそこには、気絶した女の子と、腕が血まみれで包丁を持った僕がいたんだもの。まぁ、驚くかなー?
先生は怒って真っ赤にしていた顔を、サァっ、と真っ青に染めた。
ものすごい速さで駆けつけてその女の子を抱き上げ、僕から逃げるように離れた。
そして、怒鳴りつけてきた。
「何をやった、お前!やっぱりお前は『化け物』だったんだな、そうだな!?」
「えー、僕は別に何もやってないんだけど?」
「黙れ『異常者』!くそ、だからおれはあれほどディヴィアントの子供なんて施設に入れるべきじゃないって言ったのに……!」
先生はものすごい剣幕で悪態をついて、僕を怯えたような、でも怒ったような変な顔で睨んできた。
そして、次に決心したように言い放った。
「やっぱり、お前なんかを他の子供たちと同様に育てる義務なんてない。今ここで殺すべきだ!」
僕はよく意味がわからなくて、ちょこんと首をかしげた。
しかし、そうするとなぜか先生はますます怒りだした。
「お前……!『蘇生』ができるからって余裕ぶってるんだろうが、馬鹿にするな!お前の『殺し方』だって知ってるんだぞ、おれは!」
そう言って、先生は僕から力ずくで包丁を奪った。
そして、その包丁を僕に振り上げ……
パシッ。
「何やってんだ、センセ」
先生の後ろに、いつの間にか男の人が立っていた。
誰だろ、この人?全然知らない人。
でも、なんか……初めて会った感じがあんまりしない。
夜みたいに真っ黒の髪をした、その男の人は、先生の包丁を持った手を片手で掴んで捻っていた。
先生はものすごく痛そうにしていて、どうにかその手を離そうとするんだけど、男の人はものすごい握力で先生の手首をポッキリ折りそうなくらい強く掴んでいる。すごい細い身体つきなのに強そうだな〜、この人。
「は、離しなさいアーテルさん!今この異常者を、子供たちのために処分しようとしているんです!あなたはこの施設に勤める者じゃないから無関係のはずだ!」
先生は必至でそう言ったけど、アーテルさんと呼ばれたその人は全く意に介さなかった。
「じゃあますます見過ごせねぇな。お前は俺の目の前で『俺の同族』をブッ殺す、ってワケだろ?」
「!!い、いえそういうわけでは……」
先生は今度は、怯え以外に何もないくらい怖がった様子で大人しくなった。
アーテルさんは冷静に先生の手から包丁を叩き落とし、落ちたそれを取られないように足で踏んで固定した。
次に後ろで気絶したままの女の子を振り返った。
「センセ。あんたさぁ、『子供のため』とかって豪語するんだったらまずソイツ助けろよ。阿呆か、お前は」
「え……あ、ハイそうですよねぇ……」
作り笑いを浮かべた先生は、そそくさとその女の子を抱えてその場を逃げるように去って行った。
調理室前の廊下には、腕が血まみれの僕と包丁を踏んづけたアーテルさんだけが残された。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.58 )
- 日時: 2013/09/27 20:07
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Extra edition1.
4 side shiny -シーニー-
- - - - -
アーテルさんは先生より若そうだけど大人みたいで、子供の僕は立っていても自然と見上げる形になった。
同じく僕を見下ろしながら、アーテルさんは口を開いた。
「お前、何のディヴィアントだ?」
開口一番にそんな質問をぶつけられたことはなかったので、僕はちょっと驚いた。
でも、すぐに言い返した。
「人に質問するなら最初に自己紹介しないの?初めて会ったのに」
怒るかなー?とも思ったけど、意外とアーテルさんは素直に「む、そういえばそうか」と納得して、自己紹介してくれた。
「俺はアーテル、まぁいろいろあって今日はお前の施設に客人として来た。ちなみに俺も『ディヴィアント』な」
いったん包丁を足元から拾い上げ、しゃがんで目線を合わせてくれた。
片手に包丁を軽くぶら下げるように持った格好でしゃがむ、というどこかのヤクザみたいな感じだけど、なんとなく面白いので注意はしないでおいた。
僕はこの人が、先ほどからものすごく気に入ったので素直にこっちからも挨拶した。
「僕はシーニー!ディヴィアントなんだけど、『蘇生』って言われるヤツを持ってるんだ〜」
アーテルさんはそれを聞いて、意外そうな顔をした。
「『蘇生』か?……またシンザとは別の意味でレアな奴を見つけたな」
「しんざ?って何?ヒト?」
「あぁ気にすンな、独り言だ」
?
よくわからないけど、まぁいいか。
それより僕はアーテルさんに、言いたかったことを尋ねた。
「あのさ、アーテルさん!僕、アーテルさんのこと『お兄ちゃん』って呼んでいい?」
「え、やだ」
「え、なんで即答」
ガーン、と僕はちょっとショックを受けて傷ついたような表情をした。
するとアーテルさんは「あーそうじゃなくて……」と、そんなつもりじゃなかった、と言いたげにめんどくさそうな様子で続けた。
「そういう呼ばれ方気に入らないんだよ、俺にとっては。普通に呼び捨てでいい」
「な〜んだそっか、じゃあよろしくねアーテル!」
「躊躇も何もねぇな、お前……」
家族がいない僕にとって、もしかしたら『お兄ちゃん』って呼べる存在になってくれるかなー、って期待していた分だけちょっと残念だったけど。
でも、呼び捨てで結果的によかったかもしれない。
なんだか、本当の『友達』って感じがする。
アーテルは立ち上がって、とりあえずその包丁を元の場所に戻そうとした。そして気が付く。
「そういやお前、血だらけじゃん」
……え、今さらなのソレ。
しかしアーテルは、普通の大人たちと違って全然動じないで、調理室に入って何か探し始めた。
そして持ってきたのは、タオル。水道でいったん濡らして絞ったらしく、湿っている。
それを使って、僕の血まみれの両腕を拭き始めた。
「チッ、服にもベッタリだな……。何やったんだかは知らんが、せめて服は汚さないように袖をまくるとかしなかったのかよ?」
もうそれで僕はこらえきれなくなって、プッ、と吹きだして笑ってしまった。
「なんだよ?なんかおかしいかコラ」
「え、だって〜。アーテルって面白い人だよね!普通の大人だったらもっと全然違う反応してつまらないのに」
つまらない、という表現のところでアーテルは少しだけ眉をひそめたけど、何事もなかったようにやっぱり血を拭き取っていた。綺麗好きなのかな、この人。
- - - - -
それからまたしばらくそうしていた僕らなんだけど、やがて先生が戻ってきた。
といっても、さっきの先生とは別の人。あの人は、この施設で『一番偉い人』って言われてた人だ。施設長、だったっけ?
とりあえずその先生は、僕とアーテルに気づいて小走りで駆けてきた。
「アーテルさん、すみません!シーニーが何か迷惑をかけたようで……」
「いや、別にコイツは何もしてきてないんだが」
アーテルは律儀にそう言ったけど、先生はとくに聞く耳を持たずに僕の腕を乱暴に掴んで、アーテルから引き離した。
次に、僕に顔を近づけてものすごく怖い顔で怒った。
「全くお前は問題ばかり……!だから『化け物』と呼ばれるんですよ、反省しなさい!」
そして僕のほっぺを思いっきり叩いた。僕はそのまま後ろにしりもちをつく。
叩かれたほっぺがジンジンとした。
「痛いなー、だから僕何もやってないってば〜」
「言い訳は結構。シーニー、お前には後で罰を与えます」
先生は心底不愉快そうに睨んで見下ろしてきた。
……なんで誰も僕の言い分は聞いてくれないんだろう?
僕が化け物だから?
『人間』って、化け物の言うことをそんなに信じたくないの?
僕だって、同じ『人間』になりたかったのに。
ボーっと、そんなことを考えていると、アーテルが急に先生に話しかけた。
「センセ、ちょっといいか」
「……?なんでしょう、アーテルさん」
先生がいぶかしげに尋ねると、アーテルは僕でさえ予想もしなかった事を行った。
ガシュッ、
「げほぁっ!?」
アーテルの握りしめた拳が、先生のおなかにめり込むようにしてぶつかっていた。
先生の口から変なうめき声と、ちょっとだけ血が飛び出る。
倒れこむ先生を避けたアーテルは、僕の服の襟を掴んで叫んだ。
「走れ!!」
……なんかワケがわからないけど、僕は言われる通りにした。
アーテルは僕より歩幅が大きい分かなり速く走れるので、僕はそれにほとんど引きずられるようにして走らされる。
「ちょっと、どうしたのアーテルっ!?」
「馬鹿、察しろ!逃げるんだよ、ここから!!」
後ろを見ると、這いつくばった先生が呪いそうな目つきで睨んできたけど、それもどんどん遠ざかって行った。
ワケもわからないし、もしかしてこれは『誘拐』って奴なのかもしれない。
でも、僕はアーテルと一緒に施設から逃げた。
だって……、
なんだかすっごい楽しそうだったから!
きっと、この人について行けばもっと面白い世界が見れる。
直感でそう思った。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.59 )
- 日時: 2013/09/27 21:32
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Extra edition1.
5 side shiny -シーニー-
- - - - -
それからは本当に大変だった。
アーテルに必死で走ってついて行くんだけど、それを止めるために先生が何人も襲ってくる。
アーテルはそんな先生たちを殴って気絶させたり、攻撃すると見せかけてフェイクをかけて避けたり、倒れて邪魔になった人を蹴っ飛ばしたり、
……要するにものすごい強い。
と、いうより先生たちが弱い。
「無駄に数が多いな……まぁ戦い慣れしていない雑魚ばっかなのが救いか」
ボソッ、とアーテルは呟いた。
……いいなぁ、羨ましい。
「僕も戦いたーい」
「お前は大人しく走ってろ」
いいから足動かせ、と自分も走りながらアーテルはそう言ってきた。
それからちょっと考えて、アーテルはこう尋ねてきた。
「なぁ、お前さ。『蘇生』の能力は持っているようだが……やっぱり傷つけられると『痛い』とは思うのか?」
僕は走りながらだったからちょっと喋りにくかったけど、答えた。
「うん、痛いよ。すぐ治っちゃうけど」
そうか、と呟いて、アーテルは急に止まった。
「わ、どうしたのアーテル?追い付かれちゃうよ?」
「——よく聞け」
遠くてもまだ追いかけてくる先生たちを意にも介さず、アーテルは真剣な表情で話した。
「いいかシーニー、「痛み」っていうのはどんな人間でも必ず持つ感覚だ。これが無い奴は、もはや人間じゃない。……だから、お前は人間だ」
その瞬間、僕は頭の中で考えることが止まったような気がした。
「お前、自分のこと『化け物』だって自分でも思うようになっていただろ?周りにそう言われ続けて」
アーテルは続ける。
「いいか、それはゼッテェ違う。ディヴィアントだろうがノーマルだろうが、俺たちはどっちにしろ人間だ。ちょっと自分が他と違う能力を持ってるからって己惚れるな。いいな?」
僕は無言でコクッ、とうなずいた。
アーテルは「よし」と言って、またすぐに走り始めた。
——今の今まで、誰が僕を人間として扱ってくれたのだろう。
ずっと『化け物』と言われ続けてきた。
『友達』でさえ、「お前はおれたちと違うんだから」と言っていた。
でも、この人は違う。
僕はこの瞬間、アーテルにこんな声をかけてもらった事が、指を切ったり目をくりぬいたり腕を切り刻んだりしたときより、何百倍も嬉しく思った。
- - - - -
やがて、施設の敷地内も飛び出して、外に出た。
考えてみれば僕、覚えている限りで施設の外の世界に出たのはこれが初めてかもしれない。
施設は、切り立った崖の縁に立っていて、ここはどうやら森で覆われた山の中みたいだった。
入口から出ると、向こうの森まで一本道で、施設の後ろは本当に崖っぷちで何もない。
(僕、今までこんなとこにいたんだ〜)
もし知っていたら、あの崖から飛び降りてみたんだけどなぁ。地面に着いたとき、どうなるのか想像しただけで楽しくてワクワクしてくる。
でもアーテルは、有無を言わさず崖とは反対方向——森の方へズンズン歩いて行く。むぅ、つまんないのー。
でもアーテルは気に入った人なので、僕も一応それについて行った。
アーテルは森に入る前に、大きな岩の陰に入った。
そこには、施設側からはちょうど見えないように馬車が置いてあった。
そしてその馬車の荷台には、施設にいた子供たちがギュウギュウ詰めで乗せられていた。
「あれ、みんなもここにいたの?」
僕が話しかけると、狭そうにしながらもわいわい騒いでいたみんながピタリと静かになった。
僕がアーテルを見上げると、アーテルは肩をすくめただけだった。
そのままアーテルは馬車の御者台に向かう。
御者台には、銀髪をした叔父さんが座っていた。なぜか隣にお酒が足るごと置いてある。
アーテルはその人に話しかけた。
「もう準備はできてるのか?」
「おう、いつでも行けるぜ。さっきの気絶した女の子も回収した」
「上出来」
僕が不思議そうに見ていると、叔父さんは僕に気づいた。
「お、ソイツが例の『ディヴィアントのガキ』か」
「そ。……荷台はもう無理そうだな。おいシーニー、お前は御者台に乗れ」
アーテルに支持され、僕は言われた通り御者台に乗った。叔父さんと酒樽で狭い御者台はほとんどスペースがなかったので、窮屈だったけどなんとか座った。
アーテルはどうするのかなと思ったら、馬車とは別に繋がれていた一頭の馬に一人でまたがった。
「よっし、とっととズラかるか」
叔父さんのその合図で、馬車と馬一頭は一気に森に入って、山を下り始めた。
今まで僕やみんなが過ごしていた施設が、どんどん遠くなる。
みんな少し寂しそうにしていたけど、それでもなんとなく楽しそうにおしゃべりなんかをしていた。
- - - - -
その日の夜中になった。
アーテルと、グラウという叔父さんが住んでいる町に着くまで、もうそんな時間になった。
馬車に乗っている間、グラウ叔父さんは事情を僕に話してくれた。
あの施設が、養護施設を経営する裏で大量の『誘拐』を行っていたこと。
アーテルとグラウ叔父さんは、その誘拐された子供たちを取り返してほしい、という『依頼(クエスト)』を受けて潜入していたこと。
後に、あの施設で働いていた先生たち——もとい誘拐犯は、国で罰せられること。
ちょっと信じがたかったけど、実際に馬車が依頼をした人の『拠点』にたどり着くとそれは紛れもない事実だと僕にもわかった。
そこで待っていたたくさんのお父さん、お母さんが、泣きながら帰ってきた子供たちを迎えていたから。
もともと孤児だった何人かの子供たちも、今度はちゃんとした本物の『養護施設』の人や教会の人が引き取っていくみたいだった。
アーテルはそんなたくさんの大人たちの中で、一際裕福そうな人と何か話して、そしてその人が差し出した物を受け取った。
あれが、報酬なんだとグラウ叔父さんが教えてくれた。
本当はアーテルや僕のような『ディヴィアント』は、こうやって仕事をしてお金を稼ぐんだ、と。
僕はグラウ叔父さんに尋ねた。
「グラウ叔父さんは、アーテルの仕事仲間なの?」
「んー、まぁそんな感じかもなぁ。本当はディヴィアントが仕事をするときは『タッグ』っていう、2人組を組むものなんだが。オレも女房とタッグ組んでいるんだが……アーテルは未だに独り身だな」
アイツはタッグの相手を探すような『やる気』もないしなぁ、ガハハ!とグラウ叔父さんは付け足すようにそう言って笑い飛ばした。
この時点で、僕はもう心に決めていた。
ま、言わずもがなだね。
報酬をもらってきたアーテルに、僕は駆け寄って開口一番に宣言した。
「僕、アーテルとタッグ組む!」
「……は?」
ポカンとした顔のアーテル。
とりあえずその片腕に「えいっ」とぶら下がると、後ろでグラウ叔父さんがまた豪快に笑い声をあげた。
——その後、アーテルが「ふざけンなガキの面倒なんか見きれるか!」とグラウ叔父さんに猛反発したり、グラウ叔父さんがそれを笑いながら説得したりしたんだけど、それはまた別のお話。
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