ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- -deviant- 異常者たちの物語
- 日時: 2013/10/13 10:43
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
——これは、『ディヴィアント』……異常者、と呼ばれた人間の青年と、その同族たちの物語である。
- - - - -
初めまして、まずはクリックありがとうございます。
私はエンヴィと言います、この作品が初投稿です。
何かと至らない箇所もあるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。
こちらは題名の通り、『異常者』と呼ばれる人物たちのお話で、基本的に主人公視点で書いて行きます。
時折別の人物のパートも入るので、それぞれの心情を読んでいただけたらなと思います。
基本的に更新は毎日1話ほどずつ、休日などで時間があるときは2、3話ほど更新します。
13/9/8 スレッド作成
13/10/9 返信100更新
- - - - -
注意事項 -attention-
当然ですが荒らしはやめてください。
露骨な宣伝はできるだけご遠慮願います。
基本タメ語はあまり受け付けません。
上記の注意点を守ってくださる方は是非、コメントをお待ちしております。
感想に添える形で紹介していただければ、相互の作品も読ませていただきます。
- - - - -
長らくお待たせしました、それでは本編をどうぞ。
楽しんでいただければ幸いに思います^^
- - - - -
目次 -Contents-
prologue >>1
Caputer1. 1 >>2 2 >>3 3 >>4 4 >>5 5 >>6
Chapter2. 1 >>8 2 >>11 3 >>16 4 >>17-18 5 >>19
Chapter3. 1 >>21 2 >>24 3 >>26 4 >>28 5 >>29
Chapter4. 1 >>33 2 >>37 3 >>41-42 4 >>46 5 >>47
Chapter5. 1 >>48 2 >>49 3 >>50 4 >>51 5 >>52
Extra edition1. 1 >>55 2 >>56 3 >>57 4 >>58 5 >>59
Chapter6. 1 >>61 2 >>66 3 >>70 4 >>71 5 >>72
Chapter7. 1 >>76-77 2 >>78 3 >>81 4 >>82 5 >>83
Chapter8. 1 >>85 2 >>86 3 >>87 4 >>94
- - - - -
お客様 -visitor-
岸 柚美 様
はる 様
ブラッドベリー 様
ヒント 様
静花 様
あんず 様
- - - - -
イラスト -gallery-
作画・友人 >>75
- - - - -
登場人物 -characters-
NO.1 >>7
NO.2 >>20
NO.3 >>30
NO.4 >>53
NO.5 >>84
NO.6 >>101
※読まなくてもとくに本編に差支えありません。作者の混乱防止です。
- - - - -
- Re: 不死の世界 ( No.15 )
- 日時: 2013/09/16 14:42
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
岸 柚美 様
ルージュが似ていましたか、彼女はどちらかというとコメディ担当でもありますね^^
笑っていただけたならむしろ嬉しいです。
最初は男ばかりになってしまうので女の子が欲しいと思っただけなのですが、勝手に男女な性格になってしまいました。
よくあるキャラクターの暴走ですね(?)。
更新楽しみにしてくださってありがとうございます。
これからも精進したいと思います^^
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.16 )
- 日時: 2013/09/17 03:37
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
3
- - - - -
難なく屋敷に潜入した俺とシーニーは、足音を忍ばせつつ暗い屋敷の中を歩いた。
ターゲットの貴族たちは、今の時間帯は眠っているか、自室で勝手に過ごしているのだろう。
使用人はまだちらほらと起きている人間がいる。
調理場で薄く灯りをつけて仕込みをしている料理人や、廊下で簡易な掃き掃除をしているメイド、もろもろがいる。
とりあえず隠れながらそれらの視線をかわし、俺たちは寝室と思われる一つ目の部屋に入った。
「この人ー?」
シーニーが何の警戒もせず普通に声を出す。
だがまぁ、今さらそれは問題ではない。
名目上は『暗殺』だが、俺たちは完璧なプロの暗殺者とは全く違う。要するに仕事はかなーり雑だ。
とりあえず、ただ殺すだけ。
プロの暗殺者ではなくなぜ俺たちのような輩(ディヴィアント)に依頼するのかというと、それはひとえに『まず失敗しないから』だ。
暗殺者は、この時代ではほとんどがノーマルの人間がやっている職業。隠密を得意とした、特別な訓練を受けた人間がやる……のだが、隠密には成功しても結局殺し損ねることがあるのだ。
少し前の時代まではそんなこと全くなかったのだが、最近の『暗殺依頼者』の間では、もはやノーマルの暗殺者よりディヴィアントに依頼したほうがよっぽど都合がいいらしい。
ま、どっちにしろ俺にはそんな業界のことなど知ったことじゃない。
シーニーの声で、眠っていた貴族は起きてしまった。
若い青年で、どうやらこいつがあの依頼人貴族のライバルなのだろう。
「……?おい、なんだお前たちは。新しい見習いの使用人が部屋でも間違えたのか?」
のんきにそう尋ねてきた。
「それくらい平和な出来事ならまだよかったんだがな」
言いながら俺はそいつに近づき、
ボフッ
「ぐぁっ!?」
腹を思いっきり殴った。あまり大きな声はあげさせず、くぐもったうめき声をあげてそいつは気絶。
「シーニー」
俺が呼ぶと、シーニーはあらかじめ持ってきていたあるモノをポーチから取り出した。
それは、小鳥の死骸である。
鍛冶場にある、大きな釘で心臓を一突きにして殺した、そこらへんにいる鳥だった。
俺はそれをシーニーから受け取り、右手で持った。
次に、空いた左手で気絶した貴族に触れる。
そして、次の瞬間。
ぐさっ、
何もない、何もしていないにも関わらず、いきなりその貴族の胸の辺りが、ボコッ、とへこんだ。
かと思うと、そのへこんだ箇所はどんどん穴が開き、血があふれ、あっという間に服やベッドを真っ赤にした。
胸にあいた穴からは、肋骨などの骨が見え、時には折れている部分もあった。そこに包まれるように存在する心臓が、破損して血をまき散らす。こちらにも少し降りかかってきて、俺は離れたくなったがまだ作業の最中なので、そいつの腕は掴んだままだった。
「が……はっ、くかっ」
白目をむいて掠れた悲鳴をあげるそいつ。肺もすでにやられたのだろう。
「これくらいじゃない?」
シーニーが言って、俺は初めて右手を見た。
俺の右手の上には、すっかり怪我の治った小鳥が、ピンピンした元気な状態で手のひらに収まっていた。
可愛らしい黒目をくりくりさせながら、比較的おとなしくしている。もともとあまり鳴かない種類の鳥を選んだから当然か。
俺はやっと左手を貴族から離し、その鳥を持って部屋の窓に寄った。
ガチャ、とあけて鳥をそこから放す。鳥は何事もなかったように飛び立っていった。
そう、これが俺の能力。
俺は呼び方を知らないが、他の奴らは勝手に『移し身』と名付けている。
俺は、最初に手で触れた物の『状態』を、次に触れた物に『移す』ことができる。
まぁ、なんともわかりにくい能力だ。
ようするに、例えば今回の場合、すでに死んでいる状態の鳥、すなわち『死んだ状態』というモノを貴族に移したということだ。
代わりに『死んだ状態』ではなくなった鳥は、元の状態……『生きている状態』に戻り、生き返ったことになる。
これが、俺の移し身の能力。
……この能力の全貌を把握するのに俺の少年時代は費えたと言っていい。ほんっとうにめんどくさすぎる能力だ、もうちょっと簡単にできなかったのか、オイ。
と、そんな愚痴を言っていても今は仕方ない。まぁ、一応グラウほどのオッサン年代になるまでに気づいたからにはまだマシだったか(正確な年齢は知らんが俺は大体20代だ。たぶん)。
「まずは一人目か」
俺がそう言うと、シーニーは急に座り込んだ。
「ん?おいどうしたんだよ」
「おなかすいた」
おい。
シーニーはちょっと退屈そうに座り込んだ。全くこいつは、仕事の最中でもこんなだからな……。
「ったく、いくら暇だからってお前な……」
「だってぇ、なーんか思ったより詰まんないんだもん。『皆のもの、出あえ出あえ〜っ』ってなるかと思ったのに」
お前はどこでそんな予備知識を手に入れた。
とりあえず俺は、シンザから渡されたあの夜食をシーニーに渡した。
「ほら、これでも喰ってさっさと立て、全部喰っていいから。まだ6人いるんだぞ?ロッソとルージュが手伝うとはいえ、ちゃっちゃと終わらせて見つからないうちに帰ったほうがいいだろ」
「見つかったほうが楽しいのに〜」
かくれんぼだって見つけるから楽しいんだよ?とか意味不明なことを言いながら、シーニーは夜食はしっかりいただいた。
ちなみに、夜食は羊肉にマスタードを塗って、レタスで巻いたのをライ麦パンで挟んだサンドイッチだった。
ちくしょう美味そうだな、おい。
「やっぱ俺にもあとでよこせ」「えー全部食べていいって言ったじゃん」などと言ったくだらないやり取りをしていたその時だった。
「主、不審者を見つけました。始末しますか」
「ん、いいんじゃない」
急に聞こえた、女の声と……男女の判別がつかない中性的な声の会話。
次の瞬間、
ズガアアアァァァァァァァンッ!!!!
俺の目の前を、猛スピードで何かが通り過ぎ——シーニーの上半身を、えぐって行った。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.17 )
- 日時: 2013/09/17 19:49
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
4
- - - - -
目の前を飛び散っていく、シーニーの肉塊。
残された、立ったままのシーニーの下半身は、腹の中間あたりでちょうどブッツリと斬られていた。斬られた胃腸の断面がくっきり見え、次の瞬間にはジワッ、と思い出したように鮮血が染み出す。
そのままシーニーの下半身は、フラフラとバランスを崩して、倒れこんだ。
反射的に俺は、床に置いていた夜食を引き寄せて、自分ごとシーニーの下半身を避けた。
だが、結局夜食のサンドイッチには若干シーニーの血が飛び散ってしまっていた。ああくそ、俺まだ喰ってなかったのに……。
それにしても。
夜食とはいえ、食事中に見て愉快になる光景ではないな、これは。
はぁ、とため息をついて俺はサンドイッチを箱に戻し、立ち上がった。
そこでやっと、『何か』と共に吹っ飛ばされたシーニーを振り返る。
「アイテテ……、もう、いきなり体の半分がなくなっちゃうからさすがにビックリしちゃったよー?」
かろうじて壊れなかった、しかしヒビだらけになった屋敷の壁に、身体を半分埋め込めたような状態でシーニーは平然と言った。
もちろん、千切れた箇所などとっくに蘇生し終わり、パキパキと音をたてながら壁から身体を頑張ってひっぺはがしていた。
「おい、大丈夫か?サンドイッチ」
「いやさすがにそこは僕を心配してよね」
屈託なくケラケラ笑いながら、シーニーは俺の冗談に答えた。
ちなみにもちろん、サンドイッチは見事にふっとばされて跡形もない。全くもったいないな。誰だ、こんなことをしたのは。食べ物を敬う気持ちがないのか。
「主。始末に失敗しました。対象はディヴィアントのようです」
ここにいた。
シーニーのすぐそばには、女がいた。
……しかも、なぜか女の片足は壁に突っ込んでいて、まるで釘を打ったように見事に『刺さっている』。女はそれを、片足の力だけで引っこ抜いた。強靭そうな、貴婦人が好むようなヒールの靴が見えた。
女は背中まで伸ばした髪は薄い金髪だが、その瞳はまるで猛毒のような澄み切った紫色をしている。と、いうかかなり美人だな。関係ないが。
そして、女がさっきから『主』と呼んでいるらしい人物は、俺の背後——今いるこの部屋の、入口に立っていた。
振り返って、興味本位にそいつを見てみることにする。
(——?)
俺は、そいつを見た瞬間、何かよくわからない違和感に思わず眉をひそめた。
そいつは、銀髪……というより純白と言ったほうが正しいくらい、真っ白な髪をしていた。瞳もまるでガラス玉のようだ。
女に負けず劣らずとんでもない美形……なのだが。
(……やけに『作り物』めいているな、コイツ)
機械族か何かか?と思ったが、今の時代、とくにこの辺りの地域ではここまで正確に人間に似せたロボットなど作れるはずもない。せいぜいが水車のような『カラクリ』が精いっぱいだ。
やっと壁から抜け出してきたシーニーが、ちょこちょこと俺のほうに寄ってきて、尋ねた。
「アーテル、この人たち誰?」
「知るか」
俺は即答してやった。
すると、『純白』の男は俺たちを無視して、『紫目』の女に話しかけた。
否、『命令』した。
「ヴィオーラ、もう戻っていい。やっぱ私が話す」
「承知」
どこかぞんざいな口調で言ったにも関わらず、女は至って素直に従っていた。
と、
ヒュンッ。
風を切るような音がしたかと思うと、次には女がいきなり、俺たちの上から床へと着地した。そのまま素早く純白の男の一歩後ろへ移動し、控える。
——要するに、あの女は今、俺たちの頭上……真上を脚力だけで飛び越えて移動した、ということだ。
貴族の部屋とはいえ、助走ができるほど広いわけでもないし、できたとしてシーニーはともかく俺の身長をジャンプで超えるのはとんでもない脚力が必要になる。いや、これはすでに人間の脚力の問題ではない。
……なるほどな。
俺は何となく把握してきた。
「その女もディヴィアントか。能力は『脚力』……いや、『美脚』とでも言っといたほうがふさわしいか?」
「黙れ世のゴミが」
思いっきり不愉快そうな表情で女に言い返された。全く、冗談くらい通じないのかね。まぁ、すでにお互い『敵』だと認識している時点で、俺としても友好的に接しようとも思わないが。
シーニーが唇をちょっと尖らして文句を言った。
「お姉さん酷いよねぇ、いきなり蹴らなくてもいいじゃんか。遊びたいならそう言ってくれれば、一緒に遊んであげるのに」
「自分は主の命令に従ったまで。貴様と戯れるつもりなど毛頭ない」
先ほどの俺の見解を少し訂正。男だけじゃなく女もかなりぞんざいな口調だった。はっきり言って、男の方よりも上から目線過ぎる。第一印象は誰からしても最悪だろうな。
と、そこでその男が軽く片腕を女の前に出して、合図した。何もしゃべるな、という意味だろうか。女は小さく咳をついて黙った。
俺の注目も男に向けられる。
そいつは、如何なる感情も一切感じさせない、陶器のような無表情で俺たちに話し始めた。
「突然の無礼、すまない。私は人見知りなので知らない方を見かけるとつい使え魔に始末させる癖がある」
「……そりゃまた、ずいぶん物騒な人見知りだな」
「自覚している。だから謝ろう。すまなかった」
頭を下げるどころか会釈もせず、本当に言葉のままそいつは『謝った』だけだった。なんつうか、また変な奴らと遭遇したものだ。
そんなことより。
やっと本題だが、こいつら、——この屋敷の者なのだろうか?
男の言葉の端々には、やや気になる点もいくつかあったが(女を『使え魔』と呼んだり、人見知りが云々など)、それより俺はまず最初の質問を優先した。
「お前らは、この屋敷の住民……なのか?」
男は即答した。
「そう見えたなら私も捨てた物じゃないのかもしれん」
……要するに『違う』という答えか。
いったい何なんだ、こいつら。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.18 )
- 日時: 2013/09/18 18:11
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
4 side rosso -ロッソ-
- - - - -
「ぐはっ、ぐぁ……この……下賎な『異常者』め……!」
目の前の、壮年の貴族の男はボクらを睨んでそう罵った。
「褒め言葉として受け取っておくよ」
もう聞こえないだろうけど、ボクはそう言っておいた。
隣にいるルージュは、その男を殺した途端すぐに興味をなくしてしまい、ポイッと肉切り包丁を放り投げてしまった。すかさずボクは、その包丁を念じて『消失』させる。
ついでにルージュに軽く文句を言っておいた。
「終わった途端すぐに得物を投げるの、やめなよー?ポイ捨ては環境に悪いと知らないのかい」
「その環境に悪い『ゴミ』を作ってる張本人が言うセリフか、っての」
全く反省せず、ルージュはシシシっ、と笑った。
「全く……ボクの作る武器がゴミってこと?」
「ンなわけねーだろ。そこで寝てる『死体』だよ。埋めるのもめんどくさいし、放っておくと臭くなるんだから立派な『ゴミ』だろ」
「言うねぇ」
相変わらずルージュは面白いことを言う。唯一の肉親、というのもあるけれど、それ以上にボクたちがタッグとしてやっていけるのはこういう『意見の一致』も理由に入る。アーテル辺りの人とかだったら、真っ先に顔をしかめる冗談ばかり好むからね。ボクたちは。
「んで、これで何人目だっけ?」
「えっとねー、2人目だね」
冷水をかけた両手を幽霊のようにプラプラさせながら、達成したクエストノルマ(殺した対象の人数)をカウントした。
玄関の前にいた番犬はとっくにルージュが蹴散らし終わり、ボクたちはすでにアーテルたちのクエストの手伝いに入っていた。
ちなみに今殺したのは、この家の当主。まぁ、ライバル貴族の父親だね。さっきは母親を殺したので、これで両親はどちらも終わった。
「あとは息子……は、アーテルたちがやるから、」
「アタシらは他の4人を適当に当たるってワケか」
「そうだね」
他の4人の特徴はボクが覚える担当だ。ルージュにこういった記憶に関することを任せてしまうと3秒で忘れるので、ボクが管轄している。戦わない分、このあたりがボクの役割だね。
- - - - -
と、まぁ順調に仕事は進んでいく……と思ったんだけど。
「うわー、早いなあいつら!もう3人も殺してたのかよ」
ルージュは感心したように言った。
今、ターゲットの4人のうち3人の部屋をそれぞれ回ってきたのだけれど、彼らは全員すでに始末された後だった。目撃してしまったらしい不運な使用人も、何人か潰されていた。つまり、ボクもルージュも出番はゼロ。
「……何かおかしいな」
ボソッ、とボクは呟いた。
「あ?どうしたよ、ロッソ」
前を歩いていたルージュは、半身を反らせて頭を逆さにし、こちらを見た。それ、やりすぎると頭から床に突っ込むから危ないと思うんだけど。
「気づかなかったかな、ルージュはやっぱり」
「だーかーらー、勿体付けてねぇでサクっと言えや」
「『殺され方』だよ」
ボクは、これまで見て回った3人の死体を思い浮かべながら言った。
「アーテルのことだから、いつもの通りシーニーに小動物の死体でも持ってこさせて、それで殺すはずだ。でも、さっきの死体はなんだか、そんなに生々しい傷が付いていなかった」
「……全然わかんねぇんだけど」
「だと思った」
ルージュに説明しても意味はないので、ボクはいったん一人で分析した。
先ほどの死体は、3人とも首を切断されていた。
それも、その切断面はあり得ないくらい滑らかで、どんな剣豪が素早く剣をふるっても、どんなギロチンが速く刃を落としても、ああはならないくらい滑らかな傷口だったのだ。
(刃物……いや、それ以前に人間業でもない。まさかとは思うけれど……)
ほんの少しだけ、ボクは不安というか不審に思った。
「ルージュ。いったんアーテルかシーニーを探して合流しよう」
「んぁ?まーいいけど……どうしたんだよ、ホント」
仕事は終わるまで落ち合うこともとくにないだろうと思っていたけれど、状況が変わってきた。
アーテルの能力『移し身』のことを考えると、ヒトを殺す際に用いる動物などは、できるだけ手間のかからない、それでいて身体は繋がっている殺し方で殺したモノのほうが都合がいい。
頭などが分離してしまっている死骸だと、小動物でも持ち運ぶことがちょっと面倒だからだ。片手で持つこともできなくなる。
それでいて、あの死体は斬殺体。
やはりこの屋敷には、『居る』。
——ボクたち以外のディヴィアントが。
そうと決まれば行動はさっさとしよう、と思ったその矢先だった。
ズガアアアァァァァァァァンッ!!!!
「のわぁっ、なんだよ!?」
「っ!?ルージュ、急ごう!」
ボクとルージュは、轟音の聞こえた2階へ向かった。
それにしても厄介なことになった。こんな轟音を真夜中にたてられたら、暗殺どころか使用人全員を叩き起こしてしまうじゃないか。
……というか、すでにこの近所一帯に気づかれたかな。はぁ、もう。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.19 )
- 日時: 2013/09/18 18:57
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
5
- - - - -
「アーテル!シーニー!」
「おいっ、スッゲェ爆音聞こえたけど今のなんだよ!?」
騒々しく叫びながら廊下をダダダッ、と駆けてくる音が聞こえたかと思うと、その足音は部屋の前でピタリと止んだ。
それもそうだ、入口に全く認識のない男女が、それもどちらも能面のように無表情で立ちはだかっているのだから。
「え……と?」
「な、なんだお前ら?つうかアーテルは……」
俺はやってきたルージュとロッソに声をかけた。
「部屋ン中だ。あと、そいつらは無害だ。……たぶん」
ひょい、とロッソ……いやルージュが入口から顔だけ覗かせ、「いた!」と叫んだ。まったく、服の色でも見なければ、顔だけだとどちらなのか本当に判別できない。……このあたりさすが双子か。
俺たちのやり取りを、男も女も黙って聞いているだけで何もしなかったので、ロッソとルージュはそのまま部屋に入ってきた。
「あー、ルージュお姉ちゃんはもう終わったの?ワンちゃん」
「おう、全部ホットドックにしてやったぜ!」
「わぁおいしそうだね!」
どこがだよ。
シーニーとルージュの相変わらずな、一見呑気でいて割とブラックなジョークを俺は呆れながら聞いていたが、ロッソは違った。
さすがに入口の謎の男女が気になるらしく(まぁ普通はそうだわな)、堂々と質問していた。
「君たち誰?知り合い?」
すると男は、シレっとした顔で即答した。
「人に名前聞くときは自分から名乗らないのかな。私はどっちでもいいけど」
……なんだか、改めて聞くと少し変わった話し方で話す男だ。声も中性的であるが、その話し方もどちらかというと男女の判別がつきにくいものだ。声だけ聴いたなら、『男』だとはすぐにはわからないだろう。
この男の切り返しに、ルージュだったらすぐに逆ギレしそうなものだがロッソは素直に従った。
「あぁ、それはゴメンね。ボクはロッソ、それとあっちの男みたいな女の子がルージュ」
「よっす」
シーニーとじゃれていたルージュは、軽く挨拶した。
つ、と男は何も言わず俺のほうを見た。お前も名乗れ、ということか。
(結局自分は先に名乗らないで尋ねているんじゃねぇかよ)
内心そう思いつつも、そんなに深く考えるべきことでもないのでさっさと答えてやった。
「俺はアーテル。こっちのガキがシーニーだ」
「そう。覚えた」
男は短くそれだけ言った。
すると、さっきの女が一歩だけ前に歩み出て男の代わりのように俺たちに言った。
「このお方はヴァイスと言う、『魔導師』を全うする者だ。自分はヴィオーラ、主——ヴァイスの使い魔。せいぜい覚えておけ」
だから、なんでそんなに上から目線だ……。
だが、不思議とその態度は女……ヴィオーラに合っているようでもあった。もともと見た目が貴族の令嬢か何かのようだからか。
それにしても。
「魔導師?そっちの男はディヴィアントじゃないのか?」
「私は違う。人間でもない。よって定まった性別もない」
淡々とヴァイスは答える。定まった性別もない……って。
そうか。俺は、何となくコイツを最初に見た時の、直感で思った印象が裏付けられたような気がした。
ヴァイスは必要最低限のことしか話さないのか、以降はヴィオーラが勝手にこう話してきた。
「主は依頼でこの屋敷の特定者を殺す、という仕事を全うしていた。貴様らも同じ目的か?」
「あぁ。元は俺とシーニーに依頼されたクエストだが、ロッソとルージュにも応援として手伝ってもらうはずだった。……が」
ヴィオーラも俺と同じことを悟ったようだった。
「『対象』がかぶったようだな、ディヴィアント共」
「ああ。依頼主の不手際か……チッ、どっちにしろあの貴族、ホントぽんこつ以外の何者でもねぇな」
「不本意だが自分も同意見である。——如何いたしますか、主」
最後はヴァイスのほうを振り返って、ヴィオーラは尋ねた。
シーニーと双子(もうこれからまとめて『ガキ3人』とでも呼ぼうか)は、会話の担当は完全に俺に任せて後ろで静かにしている。
「美味いなこのサンドイッチ!」
「む、ちょっと血付いちゃってるけど美味しいね、なかなか」
「あー、それたぶん僕の血だー♪あはは、美味しい?」
……オイ。
茶番は無視して、ヴァイスはヴィオーラの問いかけに答えた。
「私たちの出番はもう特にないと思う。勝手に殺されたし」
先ほど俺が殺した貴族の息子を、道端の石でも見るような無機質な目つきで一瞥した。どうやら、ヴァイスへのクエストではもうノルマを越えたようだった。
ヴァイスは身をひるがえした。
「帰る」
「承知」
この上なく短いやり取り。それだけ残して、魔導師とその使え魔は勝手にいなくなってしまった。
(……まぁ、なんにせよ、意外とそこまで敵対性もなかったから別にいいか)
俺がそう思っているうちに、シーニーが呼んできた。
「ねー、僕たちももう帰ろうよ?夜食全部食べ終わっちゃったし」
「待てって。まだ1人、依頼されたヤツがいる」
「あ、そっか〜」
忘れてどうする。
と、いうか。あーくそ、結局俺だけサンドイッチ食べ損ねた……。
そんな折である。
ダダダダダッ、
「むぐ、今度はなんだよ?」
口の中にまだ残っているサンドイッチを租借しながらルージュが言った。
『ご主人様ー!』
『今の轟音はいったい!?』
『ご無事ですかぁーっ』
「…………」
沈黙が降りる。
ポツリ、とロッソが一言。
「……帰ろうか」
と、いうわけで。
俺たちはその後、全力で撤退した。
「あの魔導師、タイミング図ったな!?」
「決めつけるのはよくないでしょー、あの人自身も予期していなかっただけかもだよ?」
「あはは!鬼ごっこ楽しーい♪」
「つうかなんで逃げるんだよー?全員ブッ殺せばいいじゃんかよ!」
ぎゃーぎゃー騒がしく、夜の貴族街の街道を俺たちは駆け抜けて行ったのだった……。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21