ダーク・ファンタジー小説

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(自由参加小説)異世界ぐらしはじめます(祝!閲覧1000!)
日時: 2016/11/01 22:50
名前: ミヤビ (ID: WVvT30No)

(紹介前に総合掲示板の雑談掲示板に「異世界ぐらしはじめます 雑談所」を設けました!お気軽にお聞き下さいませ♪Twitterにて基本活動しておりますので急ぎでしたらTwitterまで!)

はじめましてミヤビと言います。

異世界ぐらしでは中世チックなフィールドを好きなように駆け回り。
共闘するもよし自分で国をつくるもよし。
自分ならこうすると言ったことを書いちゃって下さい。

これはリレー小説形式で。
参加型の小説です。全てが正規ですべてが外伝であるこの世界にようこそ!

では下記に簡単な説明を乗せておこう。

また、【あくまで楽しむことを前提に】書いて下さい。
マナーを守り規則正しいもう一人の自分を小説で動かしましょう!

【異世界ぐらしはじめます】設定資料

世界観設定

【属性】

〔英雄〕基本人類のクラス、技術スキル高 基本値低
〔人外〕魔物相当のクラス、特殊スキル高 致命的な弱点有
〔自然〕精霊とかのクラス、保持スキル多 異常体勢低

【能力、職業】

能力

先天性、後天性のオリジナルスキル。

ストックは2まで。
強力な能力であればデメリットも付属させる。


能力(時を3秒止める)デメリット(次発動まで3時間チャージ)


職業(有利→不利)

〔英雄〕騎士→弓兵→魔術師→
〔人外〕死兵→呪士→死霊使→〔自然〕巨神→獣人→エルフ→

職業はオリジナルスキルの関係上でオリジナルの職業の作成可


能力(竜属性の召喚)職業(竜騎士『騎士』)

【武器】

武器や技術は中世17世紀ちょっと先程度、よくて蒸気機関までが好ましい。
(無論新型でボルトアクションのライフルから有線電気機材は可、
ただ量産する技術、発展途上の技術に留める)

【世界観】

世界が1度、人類文明が滅び再び現文明まで築き上げて17世紀。
過去の遺跡・遺産から可能な限り再現可能なものを生産しまた1から作り上げた物を使って
レンガ造りの建物や紙の作成。現歴史までなかった生命に宿る超能力『魔導力』によって可動する
乗り物や工具を作り。世界各地には『神殿』や『城都市』といった文化が確立されていった。

世界にはいくつかの大陸と無数の島があり、
上陸してすぐ山道を登ってはハルピュイアやマンドラゴラと遭遇する島もあれば
果てしない雪の平原で巨大な生物や奇妙な知的生命体に襲われる所も、

この世界で生き残ることは出来るか・・・


(参加者の視点)
あなたは普通の現実世界では人気ゲーム「ワールドレコード」をプレイしていたゲーマーで、
特殊ソフト(3DCG作成ソフト等)を使えば、自分好みの見た目をつくれたりする狩猟を目的にした
一大娯楽として確立されたゲームで早7年。
発信元の大企業『ノア』現社長『イズミ』はユーザーの期待に応えるべく。新技術の投入によって現ワールドレコードは
全く新しいゲームに生まれ変わると宣言。

同時刻、新デバイス『スフィア』と呼ばれる掌サイズのマウスの形のした機械(子機)を発売。
これと連動することで新感覚の体験ができるとのこと。

それを使うと一瞬白い閃光に包まれたと思ったら。
なんと自身が作成したキャラクターになっていた。

だが世界観は全くの別物。
土地勘無し、お金なし。ログアウト画面無し。
あるのは以前のステータスとスキル、アイテムのみ。

一応地理は現実世界の配備で問題なし

スタート地点は自由。
国を創るも奪うも自由。
この世界に入ったプレーヤーはここの住人となって元の世界に帰る方法を模索あるいは
世界征服を目論むことも自由。

* * * *

御用の方は下記まで御連絡下さい
(質問・感想お気軽に)

https://twitter.com/miyabi_virossa(ミヤビアドレス)

https://twitter.com/yawashigure(柔時雨)

Re: (自由参加小説)異世界ぐらしはじめます(レックス視) ( No.63 )
日時: 2020/06/28 08:41
名前: ka☆zu (ID: opY14I5d)

act11 義首とカプセル、ガールズトーク


件の洞窟から帰還して数日、僕らはいつも通りポロニアーナ城下町に程近いミラーノ平原にいた。
特に急な目標も無かったので、周辺のモンスターを狩って素材集めをしていたわけ。
そんな平和な昼下がり、十分に素材を集めて拠点に戻り、のんびりとティータイムに入っていたらボルトがこんな事を言った。
「この前の洞窟で思い知ったが、採取を誰も出来ない現状って、中々に今まで損してた気がするナ…」
「岩盤にくっついてる鉱石とかどうしたって採れないもんね…あたしたち拾ってばかりだし」
ハーミアが相槌を打つ。
「あ、じゃあ前に乗馬覚えた時みたいに、ライセンス取りに行かない?」
僕の提案が通りそうになった所で、スパーク達のメンテナンスが終わったらしい。
アンペアを伴って作戦会議室に入ってきた。
「ドコカ行クノカ?オレニ乗レ!」
「採取技能のライセンスは、確か街のギルドで色々と講習を受けられたはずだよ。私もこの身体になった事だし、もう一度ライセンスを取るべきか」
「そうしたら、アンペアに採取機能を搭載するのもありだナ!深海とかの素材も問題なく採取できそうダ!」
「皆様、今後の展望に花を咲かせるのも良いですが、お茶が冷めてしまいますよ」
「あっいけない!冷める前に飲んじゃいましょ!」
「バトラー、お茶のおかわりを貰ってもいいかい?」
「仰せのままに」



そんな最中、突然拠点内にアナウンスが響いた。
「ゲートから、誰かがやってきたようです。乗員は出迎えをお願いします。」
異世界からの来訪者をいち早く察知する為に、ハーミアに喋ってもらって録音したものだ。
つまりこの拠点のゲートに、誰かが入ってきたと言う事だ。
僕らはエントランスに移動し、ゲートルームのドアを開いた。



「ゲートを抜けては見たものの…ここは密室のようですね…?」
「いや待て、これはドアノブじゃないか?それにさっきの声は、館内アナウンスみたいなもんかな…?」
「主様、不用意に触れてはなりません。彼らの拠点に着いたのかも判らないのですから…あら」
開いたドアの先にいたのは、アレンさん達だった。



「アレンさんじゃねえカ!久しぶりだナ!」
「ご無沙汰してるぜボルト!……にしても知らぬ間に大所帯になってるなレックスんとこは。賑やかで良いな」
「アレンさんこそ!そちらの人は新しいお仲間?」
「お初にお目にかかります。私の名はエルネスト、種族は【 自然 】、クラスは【 暗黒騎士 】です。」
「こんにちはエルネストさん!僕はレックス、【義賊】をしています。」
「俺はボルトってんダ!種族は【死兵】、職業は【武器職人】だゼ!まあ最近は武器に限らず色々作ってるがナ!お前も挨拶しろよハーミア!…あッ」
ボルトがハーミアの方を振り向くと、ハーミアはエルネストさんを見ながら涙目になってガタガタしていた。
「へっ…?なんで…くびが…?」
「多分エルネストさんは【デュラハーン】って種族じゃないかな?首のない精霊の」
「お詳しいですねレックス殿、その通りです」
「…だとヨ。ほらさっさと落ち着ケ」
「う…うん。突然怖がったりしてごめんなさい。あたしはハーミア!【ライトエルフ】の【鏡魔導士】よ!」
「レックスとボルト以外は初めましてだな。俺はアレン。【英雄】の【暗黒騎士】だ。」
「私は主・アレン様の側近兼パートナー、シルヴィアと申します。【自然】の【ダークエルフ】です。」
「それでは我々も自己紹介を。私はバトラーと申します。種族は【ドラゴン】、レックス様の使用人として【執事】をしております。」
「それから私はアンペア。機械が喋ってると驚かれるかもしれないが気にしないでくれ。私は水上移動などを主な機能とするガジェットさ。それからこちらがスパーク。我々の誇る名馬だよ」
「ヨロシクナ!ブルルッ」
それぞれの自己紹介が終わり、ひとまずはやってきたばかりのアレンさん、シルヴィアさん、エルネストさんの3人をねぎらう意味も兼ねて作戦会議室でウェルカムパーティーをする事にした。
スパークとアンペアは寝室で充電タイムだ。



「ほらレックス!音頭をとれヨ!」
「オッケー!じゃあ改めて……アレンさん、シルヴィアさん、エルネストさん!僕らの大地【フォレスティア】に、そして僕らの移動基地【T-Rex2号】にようこそ!」
僕の言葉を合図に、宴会が始まった。
ボルトやバトラーの手掛けた料理が、作戦会議室のテーブルに並ぶ。
僕らはそれに舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせた。
「美味え!ボルトお前料理出来たんだな!」
「本腰入れだしたのは最近だけどナ!腕によりをかけたゼ!」
「私は飲む事が出来ませんが、良い香りの紅茶ですね…うむ、帰りに少し頂いてもよろしいですか?かつての主に捧げたいのです」
「構いませんよ。お帰りの際に用意致しましょう」
宴会は盛り上がり、僕らは早速打ち解けたように思う。
ボルトとエルネストさんが肩を組んでいる様子が見えた。
一つだけ懸念としては……
「……えっと…」
「…その……」
ハーミアとシルヴィアさんだけはどうしても打ち解けられなかったようで、どうもギクシャクした微妙な空気が流れていた。
同じエルフでありながら光と闇という対極の特性を持っているからか、どうしても互いに歩み寄れないようで…
どうしようもなく、僕は目を逸らすことしか出来なかった。

Re: (自由参加小説)異世界ぐらしはじめます(祝!閲覧1000!) ( No.64 )
日時: 2020/06/28 09:40
名前: ka☆zu (ID: opY14I5d)

act11-2

「所でアレンさん、最近そっちの世界はどんな感じ?」
宴のさなか、僕はアレンさんに聞いてみた。
「こっちか?他にももう1人仲間が増えたり…あとエルセアの件で進捗があったぜ」
「本当!?それで、何か問題でも起こったの…?」
「奴ら、俺達の城の場所を嗅ぎつけたみたいでな。攻め込まれたけど、返り討ちにしてやったぜ」
「すごい!…でもこれで、シフルールの人達も平和に過ごせるね…」
「いや、まだ油断は出来ねえ。アイツらを指揮してた将軍はもう一人の仲間が討ったけど、黒幕だろう領主そのものはまだ健在だからな。近いうちにもうひと騒ぎあるかもしれない」
「それは油断ならねえナ…何かあったら俺達も頼ってくれヨ…!」
「ありがてえ。もしかしたら呼び出すかもしれないから、その時はよろしくな」
「私はその連中を直に見た事はありませんが…アレン殿はしっかりと御守りします」
平和…とはいかないまでも、無事にやっているようで本当によかった。
僕はほっと、胸を撫で下ろした。



一通り騒いだあとで、シルヴィアさんが切り出す。
「主様、そろそろ本題に移りましょう」
「そうだな。俺達、今日はボルトに頼みがあって来たんだ」
「俺にカ?仕事の依頼か何かだナ?」
「その通りだ。ちょっとこれを見てくれ」
アレンさんはコマンドを開くと、スキルの欄に浮かんだ「モンスターテイマー」というコマンドを開いた。
一個上の「拠点改造」というのが気になったけど、今はスルーする。
開かれたモンスターテイマーの詳細には、「鉄鉱石3つでカプセルが作成でき、それに捕獲する事で大型モンスターの捕獲・携帯ができる」と書かれていた。
「……何かすごく…何処かで聞いたことあるような…」
「…ま、まあそれは置いといてだな!このカプセルなんだが、試しに俺が作ってみようとしてもまるでダメでさ…ボルトに作ってもらえないか相談したくてな」
アレンさんの言葉に、ボルトは少し考える。
「しかしナ……本人以外にも作成できるか否か、そして製法が一切不明となると難しいナ……そうダ、アレンさん。このスキル欄にある「添付」ってのを開いてみてくレ」
「ん?これか?」
アレンさんが開いてみると、設計図のようなものが出てきた。
それを見たボルトは何か確信したようで、アレンさんにこう答える。
「成る程ナ。一度造られるのを見て製法を覚えれば、スキル持ち本人なら全ての工程をすっ飛ばしてカプセルそのものに変換出来る仕組みらしいゼ。早速図面の通りに作ってみるから、こっちにある工房に来いヨ。集中したいから、アレンさん以外は他の場所で過ごしててくレ」
ボルトがアレンさんを伴って工房に入っていったので、僕はバトラーとエルネストさんと三人でエントランスに移動した。
バトラーのバーカウンターでのんびりする事にした訳だ。
そのさなか、ハーミアとシルヴィアさんの声が聞こえた。
「ねえ……シルヴィア…さん、良かったら、その…あたしと二人で外でお話しない…?」
「え、ええ…行きましょうか、ハーミア…殿」
ぎこちない二人は、ティーセットとお茶菓子を持って拠点の外に出て行った。



#Side.Bolt

工房に入った俺達は、まず設計図を確認して製法を読み込んだんダ。
原材料の鉄鉱石は、アレンさん本人が持ってきていたので問題はなイ。
「まずは鉄鉱石をインゴッドに加工すル。まあ金属加工の基本中の基本だナ」
まずは炉を使って、鉱石を溶かしてドロドロの液体ニ。
それを型に入れて炉から出し、冷まして成型ダ。
「へえ…鉄ってこうやって溶けるんだな」
「よく見てイメージ固めとけヨ。次はこれに熱を加えて形をカプセルにする工程ダ」
赤熱して柔らかくなった鉄は冷める前にカプセルの形に叩ク。
渡された9個の鉄鉱石は、ひとまずカプセル3つ分の形になったゼ。

「さて、ここからが本番ダ……アレンさん、自分の身体から魔力を抽出してみるんダ。そしてそれを糸のように加工してくレ」
「えっと…こうか?」
アレンさんが集中して魔力を束ねると、それは赤紫に光る糸の束となって現れタ。
俺はそれを網に加工し、カプセルと組み合わせて見タ。
するとカプセルが光り、網が吸着・固定されて完成したらしイ。
アレンさんのスキルに「カプセルの製法を覚えた!」と表示され、俺のコマンドには「捕獲カプセルのレシピを獲得した!」と表示されタ。
つまり、ひとまず3つ完成したわけだナ。
「…っしゃぁぁぁぁぁ!完成だ!やっぱりお前に頼って良かったよ!ボルト!」
「おうヨ!これなら問題なさそうだナ!」
ひとまずの目的を果たし、俺達は笑っタ。
「汗かいちまったナ…就寝にはまだ早いが、ひとっ風呂浴びねえカ?」
「お、良いな!汗を流してサッパリするか!……あれ?何か聞こえねえか?」
そう言われて耳を澄ましてみると、確かに何かの叫び声が聞こえタ。
「あれは…レックスの声だナ。何騒いでやがんダ」
「珍しい…エルネストが声を荒げてるな。何かトラブルか?」
「ひとまず風呂は後にして、行ってみるカ。一応武装しとこうゼ」
「ああ。行くぞ!」
俺達は各々の得物を手に、工房を後にしタ。



#Side.Rex

エントランスのバースペースに居る僕達は、初対面同士身の上話をしていた。
「そんな事が……エルネストさん、大変だったんだね……かつてのご主人がどうか安らかに眠れる事を祈らせて…」
「ありがとうございますレックス殿。そんな私の事情や意向を汲んでくれた……だからこそアレン殿には感謝しています。ソフィア様の墓碑に参るたびに、主達は今は安息の地へ行けたのだと安心するのです」
彼らは確かに救われたのだと、僕はそう信じたい。
その後も、それぞれの世界の話で盛り上がっていた。
バトラーはそれを聞きながら、目を細めてコーヒーを淹れていた。
二つの大陸はまるで環境が違う為、僕らにとってもやはり新鮮な話が多かったものだ。

のんびり話していたその時、外で物音がした。
「矢の音が聴こえますね……シルヴィア殿でしょうか」
「あのキラキラ言ってるのは、ハーミアの魔法だ……何かあったのかな」
「レックス殿!行ってみましょう!」
「うん!」
僕らは装備を持って、外に飛び出した。



#Side.Hamia

あたし達二人は拠点の屋根に登って、並んで紅茶を飲んでいた。
「…………」
「…………」
……相変わらず、気まずいままで何も喋れないけど。
たまに声をかけようとしても、
「あのっ……」
「そのっ……」
声をかけるタイミングがピッタリ合ってしまって、どうにも気まずさが増しちゃう。
あたしは頭の中で考えたの。
打ち解ける為には、どんな話がいいのか……あたしにも彼女にもハマる話は何かないかしら……?
そこまで思考して、ハッと気付いたのよね。
侍女の子達が休憩中に喋ってた話。
誰が誰を好き、誰が誰に好かれてる。
いつだって、どんな時だってそう。
女の子が一番盛り上がるのは、恋の話。
立場の近い女の子がそもそも居なかったからそんな話した事ないけど……
この空気を打破するのに、一番いい話題な気がする!
だからあたしは、思い切って彼女に声をかけてみた。
「ね……ねえっ!その…シルヴィア…さんは、えっと……好きな人とか、いる?」
「えっ、へっ!?……そっ、その……」
彼女の顔は一瞬で真っ赤になり、少ししどろもどろになった。
さっきの記憶を思い返して、一人定まった答えを出してみる。
「もしかして、アレンじゃない?」
「ふえっ!?な、何故それを……?」
「なんとなく。女の感ってやつかな」
「な、成る程……でも、そう言う貴女はどうなのです!?」
「あたしが好きなのは、ボルト。ぶっきらぼうでレディの扱いなんてまるでなってないようなヤツだけど、それでもなんか好きなんだ」
「……主様はいつも、私や仲間達をちゃんと見てくれます。そして危険な時は、いつも皆をまとめて助けてくれます。あの方は、とても強くて優しいのです」
あたし達は、それからしばらく話し続けた。
最初のギクシャクと比べたら、すごく打ち解けられた気がするの、やっぱり恋の話ってすごいわ。

月が綺麗に輝き始める頃、あたしは彼女にこんな事を聞いてみた。
「シルヴィアさん、今……幸せ?」
「……はい」
彼女は小さな声で、でもはっきりとそう言い切った。
「大変な事も沢山ありましたけど、それでも一緒に心を通わせ、笑い合える仲間がいる……だから今、私ははっきりと自分が幸せだと言い切れます」
「そっか。あたしも……今、すっごい幸せ!お城の中しか知らなかったあたしを、あの2人は広い世界に連れ出してくれたわ。それからの全部が、あたしにとって大事な思い出になってるの」
あたし達は月夜の下で笑い合った。

そんな時、楽しい時間に水を刺すようなうざったい声が響いた。
「おや、かわい子ちゃんが勢揃いじゃえかぁ……なあ嬢ちゃん達、俺たちと遊ぼうぜ〜」
盗賊のなりをした、大勢の男達が拠点の周りを取り囲んでいた。
色々な種族の小汚い中年男から、軽薄そうな若い男まで色々いるけれど、その全ての視線があたし達二人を舐め回すように見つめる。
その気持ち悪い表情を見れば、あたし達に何をするつもりかなんて一目瞭然だった。
「しっかし、あの時俺らをのしやがったガキが、こんな可愛い嬢ちゃん達を連れてやがったとはな…お礼参りのつもりが、いいおまけが付いてたもんだ」
「この近くにいるだろうガキと他の男共はぶっ殺した後で、アジトに連れて帰ってお楽しみといくか!」
狙いは多分、レックス。
他のみんなは室内にいるから、多分ここで叫んでも聞こえないわ。
だから、あたし達二人でやるしかない!
「……多分、助けはすぐには来ないわ!皆が気付いてくれるまで、あたし達で凌ぎましょう!……シルヴィア!」
「ええ!中にいる主様達には危害は加えさせません!行きましょう!……ハーミア!」
シルヴィアは弓と矢を、あたしは杖を構えた。

「立てなくしてからでも遅くはねえ!そいつらを取り押さえろ!」
リーダー格らしき中年男の叫びを聞いて、男達が斧を構えて近づいてきた。
あたしはすかさず魔法で鏡を作り出して光らせた。
「ミラーズフラッシュ!」
その隙にシルヴィアがつがえた矢が、闇の魔力を纏って分散し、不埒な男共に降り注ぐ。
「食らいなさい!ラーテゥンヴァッルン・ドゥンケルハイト!」
膝やら腰やらに矢が刺さったやつらは立てなくなっているけど、それでも残りは半数くらい。
「そこっ!」
シルヴィアは弓に一気に5本の矢をつがえて放つ。
「食らいなさいよ!ミラービーム!」
あたしは作り出した鏡から光球を撃つ。
二人とも遠距離型なのもあって、少しずつ押され始めた。
「くっ…!」
なおもシルヴィアは目にも止まらない速さで矢を撃ちまくる。
「負けないわ!ミラーズレーザー!」
何枚もの鏡で増幅した光線を放つ。
魔力も矢も少なくなり、大ピンチかと思ったら…
急に一人の男が倒れた。

「!?」
その後ろから、大剣を構えてピンクの兜を纏った水色のスライムが現れた。
まつ毛長いし、多分女の子。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう!助かったわ!」
「何方かは存じませんが、助太刀感謝します!」
「なっ!?おいお前ら!あいつもやっちまえ!」
男達が一気に距離を詰めてくる。
その時、
「シルヴィア殿!ハーミア殿!ご無事か!?」
槍を構えたエルネストが、馬に乗って突っ込んできた。
余波で何人か吹っ飛ぶ。
物音がして頭上を見上げると、木の枝にフックショットが引っかかっている。
それについて来るように、レックスが跳んできた。
それを狙った弓持ちの男は、すでにバトラーがのしてたわ。
「二人とも、無事!?」
「辛うじて無事です!」
「あと少し遅かったらやばかったかも!ありがと二人とも!」
レックス達は男共に向き直る。
中年男がレックスの顔を見て叫ぶ。
「来たなあの時のガキ!借りは返させて貰うぞ!」
レックスはゴミを見るみたいな目でそいつを見ると、グローブにつけたボウガンで近づいていた男を撃ち抜いた。
「シルヴィアさん!矢は足りてる?」
「あと少し残っています!」
「それならこれを!補充の矢だよ」
「ありがとうございます!」
「ハーミア!魔力の残量は?」
「正直カツカツだわ!あと1、2発が限界!」
「じゃあこのポーション飲んで!ある程度は補給できるはず!」
「助かったわ!ありがと!」
そして騒ぎを聞きつけたのか、
「うわっ!なんだこれ!?」
「とにかく加勢しよウ!行くゼ!」
来るのがおっそい想い人達が、やっと現れた。



#Side.Everyone

「テメエら、よくもシルヴィアを……喰らえっ!エクリクシス・ フィンスターニス!」
「主様!」
アレンさんの槍が、闇を纏って敵を吹き飛ばす。
「ハーミアから離れろゴルァ!ドロップサンダー・改!」
「ったく…遅いのよ!」
ボルトがスパナを叩きつけ、雷が落ちた。
二人の一撃で殆どが吹っ飛び、男共は一人立っている中年男のそばにまとまった。
「……今なら押し切れます!……ハーミア!」
「わかったわ……やってみましょ!シルヴィア!」
シルヴィアさんが放った矢の進路を包むように、ハーミアの鏡が大量に現れる。
その鏡には光線が当たっては反射し太く眩しくなっていき、矢には闇のオーラが迸る。
「「ヌーイ・ブロンシュ!!!」」
二人が叫ぶのに答えるように、闇の矢は弾けて降り注ぎ、その中央には光のビームが容赦なく貫いていく。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
最後の男は倒れ、僕等は危機を脱したわけだ。

「皆さん、ありがとうございます……私達だけではどんなに危険だったか」
「お陰で助かったわ…ありがとね」
ハーミアとシルヴィアさんは皆にお礼を言う。
「構わねえヨ」
「お前が無事ならそれでいいさ」
そんなやりとりをよそに、僕は協力してくれたスライムに声をかけた。


「僕らの仲間を助けてくれて、ありがとうございます」
「礼には及びませんよっ、私は傭兵なので当然ですし、女の敵は許せませんから。でも、こいつらは私が貰って行って、憲兵に突き出しても良いですか?」
「それは勿論、報酬もあなたが全部貰ってください。僕はレックスと言います、良ければお名前をお聞きしてもいいですか?」
「私は、【傭兵】のドロップと言います。それではこれでっ」
ドロップと名乗ったそのスライムの女の子は、形を変えていった。
所謂普通のスライムから、色や肌質は変わらないながらも僕と同じくらいの人間の女の子の形に。
兜も分離して、ビキニアーマーみたいになった。
そのままドロップは男達を引きずって、こちらに手を振りながら街の方に歩いて行った。
……別れ際の笑顔を見た一瞬、胸に何かが刺さったような気がするのは何なのだろうか。


「ん?どうしタ?レックス」
ボルトが急に話しかけてきた。
「えっ、いや何でもないよ」
「おいおい、顔が赤いぜ?」
アレンさんも絡んでくる。
「お?もしかして突然助けられた女にホの字カ?」
「な・ん・で・も・ないっ!」
僕は既に出来上がってそうな二人にお酒の瓶を押し付けた。
「ほらっ!みんな拠点に戻って!飲み直そ!」
二人が何か口走る前に、僕はみんなを拠点内に押し込んだ。



「……とその前にダ。アレンさん、皆にアレ見せてみナ」
「おう!」
そう言ってアレンさんは、完成したカプセルを出した。
「良いね!これでモンスターが捕まえられるんだ」
「その通りだ!帰ったら何捕まえるか考えなきゃな!」
「やはり、ボルト殿を頼って良かったですね!主様!」
「しかし、まだアレン殿がそれを作成出来たのを見ていません。良ければここで確認しませんか?」
「だナ。アレンさん、こいつを使って、ここで変換してみろヨ」
ボルトは鉄鉱石を3つ渡した。
「そうだな…よし!」
アレンさんは何かをイメージして念じ始める。
「そうダ!さっきの工程を思い出セ!」
「ハァァ……それっ!」
アレンさんが力を込め終わると同時に、先と同じカプセルが1つ完成した。
「よっしゃぁぁぁ!!!これでOKだ!作れるようになったぜ!」
「やりましたね主様!これで目的は果たせました!」
カプセルの完成に、僕らは一層盛り上がった。



その後は夕食だけど、飲めや食えやの大宴会。
ボルトやアレンさんが調子に乗って食べまくり飲みまくる中、バトラーも少し調子に乗って家庭菜園から大量に食料を収穫してきたものだから、かなりの大騒ぎだ。
シルヴィアさんもすごくお酒を飲む上に酔わないのはびっくりした。
僕らのパーティでは、お酒を飲むのがそもそもボルトとバトラーだけだから、溜まるだけだったお酒の在庫を良い感じに消費出来たのかもしれない。
さっきの事から話題を逸らすために勧めまくり、とりあえずアレンさんは酔い潰すことに成功したけど、ボルトはそこそこ強いため時間がかかった。
(ちなみに僕もハーミアも未成年のため飲酒はしない)
シルヴィアさんとハーミアも今度こそ仲良くお喋りしながら楽しく過ごしていたので、僕はホッとした。



「ふぃ〜……」
「主様、ほらしっかりなさって……お水を飲みましょう」
「うっ……ああ…頭痛エ……」
「飲み過ぎるからよ、もっと節度を考えなさいって……もう」
甲斐甲斐しく世話をされる酔っ払い2人は置いておいて、僕は言った。
「良かったら今日と明日は泊まっていかない?明日はちょっとやりたい事があるから、この世界の案内も兼ねて街に繰り出そうよ」
「有難い、是非お願いします」
エルネストさんが答える。
「それでは、ベッドメイクをして参ります。ボルト様のベッドは移動させておきますね」
「ありがとう。よろしくねバトラー」
バトラーがそう言って奥に行った後、意識を取り戻した酔っ払いの肩を支えてシャワールームに向かう事にした。
「ハーミア、シルヴィアさんを女子シャワーに連れてったげて」
「わかったわ!こっちよ、シルヴィア」


「ああ〜、気持ちがいいな……酔い覚ましに身体が暖まってきた」
アレンさんが普段お風呂に入れているかは知らないけれど、とても気持ちよさそうにシャワーを浴びていた。
「心身暖まり清められ、身も心も引き締まりますね」
鎧を脱いだエルネストさんが、器用に頭を洗いながら言う。
鎧の上からは分からなかったけれど、流石騎士と言った感じかしっかりと筋肉が付いていた。
「騎士カ……一つ思った事があるゼ」
「どうしたの?ボルト」
急に脈路なく急な事を言い出したボルトに、僕は聞いてみる。
「俺達、よくよく考えると正式な前衛が居ねえんだよナ。俺自身も戦闘職じゃねえから、段々戦いへの職適性の低さを実感してたんダ」
「それで、騎士ですか?前衛としては堅実ですが」
「一口に騎士っつっても色々あるぜ。俺みたいな暗黒騎士でもやるのか?」
僕らの質問に、ボルトはこう答えた。
「いや、攻撃を引き受けて戦うって事で、パラディンはどうかって思ってナ。丁度ポロニアーナの騎士団に武具を卸してるから、そのコネでライセンス研修を受けられないかと思ったのサ」
それはちょっと意外だったので考えてると、アレンさんがこんな事を聞いてきた。
「前にお前らがこっちに来た時も思ったが、こっちの世界じゃ何するにもライセンスが要るのか?」
「うん。オリジナルスキルは当然普通に使えるけれど、それ以外にスキルを覚えたい時とか、それこそ採掘なんかの基礎技能を得る為にもまずは講習を受けて、それを証明するライセンスを貰わなきゃいけないんだ。」
「所持しないで使おうとするとどうなるのですか?」
「素振りとかする分には問題ないけど、いざ戦闘や採集の本番に臨もうとすると武器や道具が弾かれて使えなくなるよ。あと街中での乗馬とか、下手したら人に危険が及ぶパターンだと捕まる」
まあ所謂無免許運転みたいなものだ。
「その人が最初から必要としてるものだったり、元々まともに扱える場合なんかは、ここに来た時に最初からあるかもしれないけど……アレンさん、ちょっとコマンド開いてみて」
アレンさんのコマンドの、「スキル」の欄を開いてみたところ、オリジナルスキルの下に「ライセンススキル」という項目が出ていた。まあ僕らと同じパターンだ。
それを開くと、「槍術」のライセンスだけ登録されていた。
「って事は……今の俺達、この世界で馬乗れない?」
「そうなるね。良かったら明日ライセンス取りに行かない?」
「ああ。折角だし行こうぜ」
明日の方針が決まった時に、エルネストさんがこう言った。
「しかし…私が街中を歩いても大丈夫でしょうか……?街の人々を怖がらせてしまうのでは…?」
「確かにナ……そうダ、一個アイデアがあるゼ」
ボルトがエルネストさんに耳打ちした。
「それは斬新な案ですね…しかし、上手く行くでしょうか?」
「大丈夫ダ、安心してくレ。何とかしてやるヨ」
ボルトは不敵に笑ったけど、場所が場所だけに裸なせいでイマイチ決まらなかった。

Re: (自由参加小説)異世界ぐらしはじめます(祝!閲覧1000!) ( No.65 )
日時: 2021/03/24 03:58
名前: ka☆zu (ID: opY14I5d)

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翌朝。
僕等は作戦会議室に集まっていた。
勿論今日の予定を決めるため……と朝食のためだ。
ハーミアとシルヴィアさんがまず現れた。
一緒にシャワーを浴びたり、寝室でいわゆるガールズトークに花を咲かせたらしくより仲良くなっていて、手を繋いで喋りながら部屋から出てきた。
次に現れたエルネストさんは、いつも通り冷静ながら何かを楽しみにするような、ウズウズした感情を隠せずにいる。
昨日、ボルトに何を提案されたのだろうか。
最後は二日酔いの2人。
げっそりしながら出てきて、何故か僕を恨めしそうに見てくる。
はてさて、なんのことやら。
みんなが揃うと、バトラーが人数分のコーヒーとパンケーキを持ってきた。
それに舌鼓を打ちながら、今日の予定を話し合う。
「バトラー、ドライフルーツってまだあったっけ?あたしあれ乗せたい」
「あっ!私もお願いします……」
「かしこまりました。ドライフルーツでしたらまだありますので、持って参りますね」


「……さて、今日の予定なんだけど、採集系統のライセンスを取りに行くついでに、三人にポロニアーナ城下町を見せつつ案内するつもりなんだけど、異存はないかな?」
「あっ、ちょっと待ってくレ。俺とエルネストさんは少し遅れてくゼ。やる事があるんダ」
「了解だよボルト。何かやっとく事ある?」
「そうだナ……最初に皆で城に行ってオーベロン様に顔出しつつ、マジックインゴットを3つと……あとルビーとサファイアの原石を2つずつ貰ってきてくレ。原石は小さめのでいイ」
「……って事は…何か作るのね?」
「まあナ。これ以上はネタバレになるから、後でのお楽しみダ」
「分かった。じゃあ今日の予定はそんな感じで行こう。異論はない?」
みんなが頷いたので、予定はこれで決まった。
朝食の片付けを終えたら、それぞれやることに取り掛かった。



まずボルト達を拠点に残し、僕らはポロニアーナ城に向かった。
そこでオーベロン様にアレンさんを紹介する。
「オーベロン様、こちら別世界から来た友人のアレンさんです」
「暗黒騎士のアレンです。よろしくお願いします」
「お初にお目にかかる、アレン殿。私はこの国の王、オーベロンだ」
ついでにオーベロン様達ともフレンド登録を…と思ったけど、あいにくスフィアの動力が切れてしまったらしく、充電中とのこと。
残念とは思いつつも、次のお願いに移る。
「ねえパパ、マジックインゴットが3つと、ルビーとサファイアの原石が2個ずつ欲しいんだけど…いくら?」
「代金は要らんぞ?この前お主らが見つけてきた鉱山から採れたものを送ろう」
「ありがとパパ!」
それで貰ってきたものをボルトに渡し、僕らは先に街に繰り出す。
2人が合流するまで、採集関連のライセンスを取りに行く事にした僕とアレンさん、そしてアンペアは、街のギルドで研修を受けた。
「おっとと…ピッケルって結構重いんだね……」
「うーん…うまく切り口に斧が当たらねえな……」
僕ら2人は悪戦苦闘したけど、何とか3人とも無事に研修を終えた。
僕ら3人は、「採掘」「伐採」「釣り」「掘削」のスキルライセンスを得て、「ピッケル」「斧」「釣竿」「スコップ」を扱えるようになった。
ついでにビギナー用の道具も貰ったので、ホクホク顔で市場に行く。
そこでは2人で買い物を楽しんでいたハーミアとシルヴィアさんが、何やらはしゃいでいた。


「あっ!見てよみんな!市場で異国の民族衣装が売ってたんだけど、これシルヴィアに似合うと思わない?」
そう言われてシルヴィアさんを見ると、薄い布のベールをかけ、宝石が散りばめられた胸を覆うトップスを付けて、薄い布を何枚も重ねた腰履きのロングスカートを履いていた。
結構露出度が高く、一言で言うなら、砂漠の国の女性が着るような衣装だった。
褐色の肌をしていて、長身のシルヴィアさんには結構似合っている。
「似合ってると思うよ」
「ああ。肌の色との相性も問題ないね」
「ほらアレン、感想はないの?」
「へっ!?……その、なんだ。凄く似合ってるよ、シルヴィア。とても綺麗だ」
「あっ…主様っ…!」
2人とも真っ赤になっている。
「折角だから、あたしが買ったげるわ!お土産ね!」
「いや、ハーミア。ここは俺に買わせてくれ。その…男としてのプライドがな?」
「そ、その、良いのでしょうか…?私の服に…」
「良いに決まってるだろ?こんなに似合うんだ、買わなきゃバチが当たるよ」
真っ赤な顔でそう言うアレンさんに、みんなニコニコと笑顔を向けていた。


「よっ!待たせたナ」
後ろからボルトの声がして振り向くと、二人が来ていた、が。
何となくな違和感に襲われて、傍のエルネストさんに聞いてみる。
「あれ…?エルネストさん、その兜はどうしたの…?それに頭は…?」
彼は頭にあたる部分に兜を被っていて、脇に抱えていた頭がない。
エルネストさんは兜のフェイスガードをずらした。
「ここにありますよ」
その中には、いつものエルネストさんの顔があり、爽やかに笑った。
「えっ!?エルネストお前、首がくっ付いたのか?」
「一体どんな高度な縫合をしたのですか!?ボルト殿!?」
「いや、首くっ付けた訳じゃねえヨ。流石にそれは俺の技術じゃ出来ねエ」
「ボルト殿は、私の鎧に兜と一体型の【義首】を付けてくださったのですよ」
「義首?」
「義足とか義手の首版みたいなもんダ。空っぽの兜を鎧に付けて、その中に首がピッタリ入るようにしたのサ。貰ったマジックインゴットで鎧その物も加工したから、魔法耐性も上がってるゼ」
「しかも、見かけによらず兜が軽いのです。なので重さを気にせず過ごす事が出来ます……なんでも、すてんれす?と言う金属を使用したとの事で」
「成る程ね、だからルビーやサファイアなんだ」
「あア。貰った原石を練金釜で分離して、出てきたクロムを使ったわけダ」
「ステンレス…この世界そんなもんもあるのか…!」
「素晴らしいです!これで何も気にせず街中を歩けますね!」
「ええ!それに頭を置く場所も、布を敷いて頂いたので痛みもなく快適です!」
よく見ると、首の下に柔らかそうなクッションが敷いてあった。
「まあ使ってると汚れるからナ。定期的に洗濯しろヨ」
「わかりました。ありがとうございます、ボルト殿」
「礼には及ばねえヨ」


「さあ!乗馬のライセンスを取りに行こう!」
僕らはこの前ライセンスを取った訓練場に行った。
アレンさん達が研修している間、僕らはスパークを連れて馬舎の人と話していた。
久しぶりの故郷に、スパークは駆け回っていた。
それからすぐ、アレンさん達がライセンスを持って戻ってきた。
元々馬に乗り慣れてる人達だ、あっさり完了したね。
最後に、一人ひとりがスパークに乗ってみた。
「元々暴れ馬だからね!気をつけて!」
「イクゾ!アレン!」
「よし行け!ハイホー!」
アレンさんは軽々乗りこなして、ロープをぐるぐる回してカウボーイのものまねをした。
「乗りこなします!」
シルヴィアさんも暴れるスパークを操り、その状態で5本の矢をそれぞれ別の的に同時に当てて見せた。
「では私も」
エルネストさんも義首をつけたまま乗りこなし、槍を持って型を美しくやりとげた。

「みんな凄いね!僕なんて丸一日かかったのに!」
「まあ普段から乗ってますからね。慣れたものです」
「でもまあスパークは中々のじゃじゃ馬だな。少し振り回されちまったよ」
「スジハヨカッタゾ!」
僕らは笑い合いながら、拠点に帰った。



その日の夕食は、昨日の反省を活かしてさっぱりしていた。
市場に売っていて懐かしくなったので、みんなでそうめんを食べている。
長ネギや生姜どころか、昆布やカツオの出汁で出来た麺つゆまでもが売っていた事を考えると、オーベロン様とティターニア様はやっぱり日本人だと思う。
僕とバトラー、アレンさん以外は、慣れない箸に苦戦していた。
「こ……こんな棒で食事できるの……?」
「レックス達の住んでた世界はどうなってんダ……!」
「僕らの世界というか…住んでた国かな?」
「ああ。元の世界の外国人にも驚かれるぜ」
「という事は…主様やレックス殿のいた国は、他国と比べても独特の文化を持っている国という事ですね……」
「そうなるかな」
「だな」
「スープに氷を入れて冷やすのですね、興味深いです」
そうめんの夜は賑やかに過ぎ、またシャワーを済ませて眠り、次の朝になった。



「じゃあ俺達、そろそろ帰るよ」
ゲートルーム前の扉でアレンさんは言う。
「とても楽しかったです。ありがとうございました」
元の戦闘装束はカバンに詰め、昨日アレンさんが買った民族衣装を着たシルヴィアさんが言った。
その首には、いつ買ったのか貝殻のネックレス。
よく見ると、ハーミアもお揃いのものを付けていた。
「こんな画期的な物を付けていただけるとは……助かります!」
義首に頭をセットしたまま、エルネストさんは言う。
「折角ダ。そのまま帰って、マウト達を驚かせてやってくレ!」
「ええ!」
二人が笑っていると、アレンさんがカプセルを一つ僕に手渡した。
「元々一つ渡すつもりだったんだ。今回のお礼さ、貰ってくれ」
「良いの?ありがとう、アレンさん」
「ああ、勿論だ!」


その時僕はふと思いついて、屋根裏からある物を取ってきた。
「路銀って程お金持ってないからアレだけど、これお土産!どうか貰って?」
「これは…宝石か?良いのか貰って?」
「ただの宝石じゃないよ。赤い方はソルストーン、ソーラーパネルみたいに日光をエネルギーに変換できるよ。そして黄色いのはルナストーン、エネルギーを貯めておける電池みたいな石さ」
「そうだナ…シルヴィアさん位の魔力があれば問題なく扱えるナ。魔力でこの二つやエネルギーで動く何かに紐つければ、その動力として使えるゼ」
「そうか…!有難く貰っておくよ!」
するとバトラーが何かを持ってきた。
「エルネスト様、約束の茶葉をご用意しましたので、お持ちください」
「ありがとうございます、バトラー殿」
「私の調合や入れ方を纏めたメモを同梱しておきましたのでご利用ください。それと」
バトラーは何か呪文を唱えると、近くにドラゴンの背骨と頭蓋骨のようなものが現れた。
それはオーラを纏っており、バトラーと形が同じだった。
「お仲間にドラゴンキラーの方がいらっしゃるとの事でしたので、こちらの聖骸を差し上げます。これは私の骨を複製したもので、背骨はあらゆるブレスへの耐性を、頭蓋骨はドラゴン種への特効特性を付与します。ご利用ください」
カバンに全てのお土産を詰め、アレンさんは言った。
「色々ありがとな!とても楽しかった!また来るぜ!」
「また、我々の世界にもお越し下さい!」
「……また遊びに来ますね、ハーミア!」
三人は笑顔でゲートを潜って行った。



その夜。
僕は眠れなくて、ふと屋根に登った。
(ドロップ、今頃どうしてるかな……)
何故かわからないけど、彼女の事が忘れられない。
物思いに耽っていると、下で雷鳴が聴こえた。
下を見やると、ボルトが大きな盾と片手剣を持って素振りをしていた。
一昨日の彼の発言は本気だったようで、剣から雷の魔力を発する訓練をしているようだ。
まるでスパナを押し付けるように、剣先に力を込めて突く。
「エレキパイカー!」
その刹那、剣先から雷の錨が現れ、訓練用のマネキンを貫いた。
それをおさめ、今度は突きの構えのまま魔力を束ねる。
そしてそれを弾にして撃った。
「プラズマショット!」
さらにマネキンに駆け寄り、ジャンプして上から切り裂く。
「ドロップサンダー!」
斬った次の瞬間、雷が落ちた。
そして剣そのものに雷を込めると、一気に切り裂いた。
「雷鳴斬!」
一通りを終え、ボルトは汗を拭う。
「ふう…ある程度扱えるようにはなってきたナ」
そこに、水と布を持ったハーミアが現れ、ボルトに甲斐甲斐しく世話を焼いた。
僕はそれを見て、二人に気づかれずに微笑む。

この大陸にあまり季節の変わり目はないけど、ここには間違いなく、もうすぐ春が訪れる。
そんな予感がした。

Re: (自由参加小説)異世界ぐらしはじめます(アレン視点) ( No.66 )
日時: 2020/07/07 23:38
名前: 柔時雨 (ID: lU2b9h8R)

No.14 〜 巨大海洋生物 〜

タドミール・テルミヌス・地下

「ふぅ……無事帰宅っと。」
「充実した異世界旅行でしたね、主様。」
「アレン殿。頂いたお土産はこちらで保管しておけば、宜しいですか?」
「あぁ。いつか使う時のために、それぞれ判るように置いてくれ。」
「承知しました。」

「ん?おぉ、戻って来たのか、お前等。」

地下にある鍵の壊れた牢屋で寝ていたのか、声に気付いたマウトがゆっくりとこちらへ歩いて来た。

「ん?オイオイ……エルネスト、お前……どうしちまったんだ!?首がちゃんとくっついてるとか……デュラハン、辞めたのか?」
「いえ、これはボルト殿の御厚意で作っていただいた代物です。ちゃんと取り外せ……ました。」

そう言いながらエルネストが、作って貰った義首を脇に抱える。

「せっかく作っていただいた物を、鎧防具でもないのに戦場で身に着けて損傷させてしまっては申し訳ない。こちらは、先日皆で町へ出かけた時のように、人通りの多い場所へ行くときに使わせていただきましょう。ところで、マウト殿。ザイン殿は戻られていますか?」
「おう。昨日帰って来てやがったぜェ。今は訓練場の方で血抜きしたドラゴンの処理でもしてんじゃねェかな?」
「わかりました。アレン殿、私はザイン殿に頂いた品を渡してきます。」
「おう。何か遭った時はまた呼ぶだろうけど、それまでは自由に過ごしてくれ。」
「はっ!では、失礼します。」

エルネストが地上へ続く螺旋階段を昇って行った後、マウトが再び口を開いた。

「それで?当初の目的は達成できたのか?」
「あぁ。ほら。」

俺はフォレスティアで作って来たモンスターカプセルをマウトに見せた。

「へェ、こいつが。思ってたより小せェな……こんなんで、本当に大型モンスターが捕獲できんのか?」
「さぁ……こればっかりは試してみねえとな。まぁ、カプセルの作り方はあっちで学んできたからな。資源を無駄にするつもりは無いけど、捕獲に失敗したとしてもフォレスティアに行く前よりかは、気楽にカプセルを作れるようにはなった……はずだ。」
「私達が不在の間、こちらで何か変わったことはありませんでしたか?」
「特に何も。ザインは無事にドラゴンを討伐して報酬の一部を持って戻って来たし、オレも鉄鉱石を集め………あァ、そういや……」
「どうした?」
「いや、ウチには直接関係ねェんだけどな。鉄鉱石の採集が一段落して休憩がてら冥界の川の畔までいったんだけどよォ……最近、水死体っつうのか?海での死者が増えてるって、渡し守が言ってたんだよ。」
「海で……俺はそういうのにあんまり詳しくねえんだけど、海で死んだ人達の魂って、船幽霊ってヤツになるんじゃねえのか?」
「全員が全員、魂だけでこの世に留まるとは限らないのでは?」
「まぁ……確かに。マウト、その人達は海で『どうやって』亡くなったのかは、言ってなかったのか?」
「あァ。確か、モンスターに船を中央から真っ二つに折られた!って、言ってたな。しかも海賊よりも漁業に出ていた漁師の方が多くなくなっているみてェだぜ。」
「マジで!?いや、でも何かの本で読んだことあるな。確か、海のモンスターは陸のモンスターよりも遥かにデカいヤツが多いんだっけ?活動区域が広大な海であることが影響しているとか何とか……それじゃあ、船をへし折るくらい簡単にやってのける奴等が、それなりに居るってことか。」
「そして、その話を今この場でしたということは……そういうことなのですね?マウト。」
「ギャハハハハッ!察しが良いなァ、シルヴィア。大将、気に入る気に入らねェは置いといて、そのカプセルがちゃんと使えるのか、そのモンスターで試してみたらどうだ?」
「う〜ん……マウトの提案に素直に乗りてえんだけど、場所が海じゃなぁ……しかも、そのモンスターがどこに現れるか判らねえし……沖の方に出るっていうなら、そこまで行く手段が無い。」

「そのモンスターかどうかは知らんが、大型の海洋モンスターが生息している場所なら知っているぞ。」

討伐したドラゴンの処理を終え、エルネストにも会ったのであろうザインが、螺旋階段を下りながら会話に加わる。

「御館、シルヴィア。迎えが遅れてしまい、申し訳ない。エルネストから伺ったが、大きな成果があったようで。」
「おう!ただいま、ザイン。それより、大型生物の生息地を知ってるって、本当なのか?」
「身内との会話に何を偽る必要があるというのだ?先日、討伐したドラゴンを納品しに冒険者ギルドへ赴いた時に、他の冒険者が会話していたのだが……このタドミール・テルミヌスから北西へ行った場所にある入り江。霧が立ち込め、海底に鋭利な岩などがあり、数多の船が座礁して身動きが取れなくなった場所。船乗り達から『船の墓場』と呼ばれる処に、大型のモンスターが生息しているのを、船の上から遠巻きに見たそうだ。」
「霧が立ち込める海で、船の上から遠巻きって……その船乗り、酔っ払って船のマストをモンスターと見間違えたのではないですか?」
「そうかもしれん。しかし、本当にモンスターがいるのであれば、御館が新たに得たその道具を試すことができるのだと思うが……?」
「そうだな。残ってくれた2人の得た情報が同じモンスターのものか、別々のモンスターのものかは判らねえけど、せっかく得てくれた情報をこのまま無駄にするのは惜しい。よしっ!その入り江までちょっと行ってくるよ。」
「主様がそう仰るのでしたら、私は御引止めいたしません。しかし、御一人で行くのだけは……そうですね。今回、仮に本当に大型のモンスターが出現した時のことを考えて、最低でも2人は護衛を指名なさってください。」
「わかった。じゃあ……ザイン。大型モンスター相手ならドラゴン討伐で慣れてるだろうし、お願いできるか?」
「承知した。」
「もう1人はシルヴィア。俺はまだその入り江を見たことがないから判らないけど、仮にもし足場が悪そうな場所で、俺もザインも満足に動けないようなら飛び道具が主戦力になると思う。頼めるか?」
「もちろんです!お任せください!」

「おや?アレン殿、まだ地下にいらしたのですか?」

螺旋階段を降り、エルネストが会話に加わる。

「エルネスト。あぁ、けどまたすぐ出かけるんだ。エルネスト、マウトは留守を任せたい。頼めるか?」
「おう!どのみち泳げねェオレは選ばれても辞退するつもりだったからな!この拠点のことは任せとけ!」
「承知しました!今、マウト殿が泳ぐとか言っていましたが……アレン殿、どちらへ行かれるのですか?」
「あぁ、実は……」

〜 アレン、事情説明中 〜

「なるほど!それで、シルヴィア殿とザイン殿が選ばれたのですね。流石、アレン殿!良き采配だと思います。」
「それじゃあ、改めて2人共、留守を頼んだぜ。」
「あっ、そうだ。その入り江に行くなら、シルヴィアが前に建ててもらった図書館の右に開けた穴から道なりに進んでいくと良いぜ。鉄鉱石を集めている最中に貫通しちまってな。ザインが言ってた入り江かどうかは判んねェけど、海に出るのは確かだぜ。」
「マジで!?頑張ってくれたんだな、マウト。わかった。ありがたく使わせてもらうぜ。」

***

マウトが掘ってくれた穴を通り、俺達はそこそこ広い入り江に出た。
草木は生えておらず、剥き出しの灰色の岩には海草が自生し、波が勢い良く打ち寄せる。
深さはどれくらいのものかは判らないけど、海面からは座礁した船の残骸が静かに剥き出しになっている。

「此処が船の墓場か……」
「本日は霧が深くないようですね。少し先の船の残骸まではっきりと見えます。」
「ん?水面が……御館!シルヴィア!何か来るぞ!」

ザインに言われて各々武器を構えると、前方の海面が3ヶ所盛り上がり、前方の2つのうち右からタコの足、左からイカの足が出現し、奥の1ヶ所からタコとイカを合体させたような胴体……本体が姿を現した。

「ヽヽヽヽ(゜з゜)ノノノノ<ガオー」

「こいつは……なるほど、『クラーケン』ってやつか。」
「そのようですね。確かに、このモンスターの足なら、海中から伸ばすだけで船を真ん中から2つ折りにすることなど容易なのでしょうね。」
「それにしてもタコ……タコか……」
「主様?」
「レックスの所でそうめんは食ったけど……なるほど、タコか…………たこ焼き食いてえなぁ。」
「ヽヽヽヽ∑(゜Д゜)ノノノノ<!?」
「御館の言うたこ焼きなる料理は知らんが……このクラーケンはイカの要素も含んでおるようだしな。足を斬ってから衣をつけて油で揚げると、これがまた良い酒のつまみになるのだ。」
「他の魚介類やトマトと一緒に煮込んで、アクアパッツァにするのも良いかもしれませんね。」
「ヽヽヽヽ∑(((((;゜Д゜)))))ノノノノ<!?」

この時の、海面に僅かに見えたクラーケンの目……あれはガチで怯えた目だったと思う。

怯えたクラーケンは海面に出した2本の足のうち、イカの方を振り下ろして来た。

俺は突撃槍を横に構えてクラーケンの攻撃を防御し、横に居たザインが斬馬刀を振り下ろしてイカの足を切断した。

「本日の夕飯、無事確保!」
「ヽヽヽ(´;з;`)ノノノノ」
「クラーケン。お前に選択肢をくれてやろう。1つは此処で戦闘を終えて俺達の仲間として共存の道を歩むこと。もう1つはこのまま戦闘を続けて、俺達の食べ物として美味しく頂かれること。敵前逃亡はオススメしねえぜ。俺の腹心の放つ矢が、お前の胴体に突き刺さるぜ。」

そういう俺の隣でシルヴィアが弓に矢を番えて、クラーケンに狙いを定める。

「さぁ、選べ!共存か……食料か!」
「ヽヽヽ(゜з゜)ノノノノ<……」

しばらくクラーケンの動きが止まり、そして……クラーケンは海面に出していたタコの足をゆっくりと伸ばしてきた。

「これは……握手ってことでいいのかな?」
「主様、油断してはなりません!掴んだ瞬間、絡めとられる恐れもあります!」
「えぇぇ……野郎の触手プレイとか、誰得だよ?まぁ、仮にもしそうなったら……俺の貞操が保たれているうちに、クラーケンを食材にしてくれ。マジで頼むぜ、2人共。」
「了解です!」
「承知!」

俺は伸ばされていたクラーケンのタコの足を握り返した。
そこそこ気持ちの良い弾力を感じる。

「仲間になるってコトで良いんだな?賢明な判断だ。これから、よろしくな。クラーケン。」
「ヽヽヽ(*゜∀゜)ノノノノ<ナカ-マ」

俺はクラーケンと握手したまま、フォレスティアで作って来たモンスターカプセルをタコの足に押し当てた。

カプセルは左右に開くと、勢い良くクラーケンを吸い込み……完全に吸い込んだ後、再び閉じてカチッ!っと短く乾いた機械音を発した。

カプセルにクラーケンが収まった後、俺達の他には、切断されたイカの足が岩場で異質な存在感を放っていた。

「よしっ!無事にクラーケン確保!拠点の整備が終わるまで、ちょっとこの中で待機していてもらおう。」
「やりましたね!主様!」
「無事に機能したようで、良かった。あのクラーケン……言葉は話せないようだが、意思疎通はできるようだし、また拠点が賑やかになるな。」
「あぁ。そうなってくれるといいな。」

その日の夜。

シルヴィアが腕を振るい、持ち帰ったイカの足を使って様々なイカ料理が振舞われた。
メチャクチャ美味かった。

まだクラーケンの全長を見てないけど、たぶんメチャクチャ大きいんだろうな……
イカオンリーなら水中でしか生活できなかったんだろうけど、半分タコが混ざってる分、少しだけなら陸でも動けるのだろうか?
そこら辺のことも含めて、明日……早急にクラーケンの活動場所を確保してやろうと思った。

Re: (自由参加小説)異世界ぐらしはじめます(アレン視点) ( No.67 )
日時: 2020/08/07 00:06
名前: 柔時雨 (ID: lU2b9h8R)

No.15 〜 失楽園 〜

タドミール・テルミヌス・図書館前

「シルヴィア。この図書館を真向かいへ移動させても構わないか?」
「図書館をですか?」
「あぁ。先日通ったマウトが掘ってくれた船の墓場へ続く洞穴……こいつをこのままにしておくんじゃなくて、此処と船の墓場を繋ぐちゃんとした水路にしようと思うんだ。それで、こちら側には池……っていうか、磯みたいな景観を作ろうと考えてる。」
「なるほど。そういうことでしたら。確かにこちらに池を作ってクラーケンの生活環境を整えたところで、クラーケンの巨躯を満足させられるだけの餌の確保となると、話は変わってきますからね。」
「水路を作れば、海の小魚が一緒に紛れ込んでくるかもしれねえけどな。基本的には此処に居てもらうつもりで考えてるけど、飯の時間くらいは自由に海に行けるようにしてやりたいんだ。」
「そうですね。では、水路を作ると同時に水門も作りましょう。船の墓場に居る最中、クラーケンが何者かに襲われる可能性が無いわけではありません。現に私達がそうでしたから……基本的には水門を開いておきますが、もし万が一クラーケンに何かがあった場合、水門を閉じて彼をこちらへ安全に逃がしてあげるためにも、必要かと思われます。」
「そうだな……基本水中に居るとはいえ、魔法やら何やらで攻撃が全く当たらないってわけでもないだろうし、何か遭ってからじゃ遅いもんな。よし!水門も作って、クラーケンにちゃんと説明しよう。」

俺はスキル『拠点改造』を使い、図書館の位置の移動・マウトの掘った穴の拡張と補正・元々図書館があった場所にそこそこ深い水溜りと、何かそれっぽい海草やフジツボの付いた岩や砂浜をレイアウトした後、カプセルを投げてクラーケンを呼び出した。

「ヽヽヽヽ(*゜∀゜)ノノノノ」

カプセルの中から出てきたクラーケンの足……先日、ザインに斬られた足は完全に復元しており、元の8本足に戻っていた。

数日経過すると元に戻るのか……カプセルに入れると回復するのか……この辺も要検証かな。

とりあえず、カプセルから出たクラーケンはすぐに水溜りに入った。
深さは申し分無さそうだが、水溜りの広さは……もうちょっと拡張してやらないと。

「クラーケン。お前はもう俺達の仲間だ。なるべく此処に居て欲しいんだけど、此処にはお前を満足させてやれるだけの餌が無い。だから、腹が減ったら、そこの水路を使うと良い。この先はお前が元々居た海に繋がっているから、腹いっぱい飯を食ったら、また此処に戻って来い。……俺の言ってること、解る?」
「ヽヽヽヽ(*゜∀゜)ゞノノノ」

俺の言葉に対し、クラーケンは器用に1本の足を曲げて敬礼のような仕草をとった。

「理解してくれたようですね。」
「あぁ。賢くて助かるよ。」

◇◇◇

翌日。

俺が図書館での読書の息抜きに外へ出ると、クラーケン用に用意した磯辺で何かキラキラ光っている物があった。

「ん?何だこれ?」
「おや?どうされました?アレン殿。」
「エルネスト。いや……クラーケンのために用意した水辺に、こんな物が落ちていたんだが……」

俺はそう言いながら、エルネストに独特な臭いを放つ琥珀色に輝く物体を手渡した。

「これが此処にあったという事は……なるほど。これはクラーケンの排泄物ですね。」
「排泄物って……つまり、クラーケンのウン……」
「はい。そういうことになりますね。」
「へぇ、それが……そう聞いても、なんか思ったより汚く感じられねえな。そいつを『これは琥珀です』って言われて渡されても、信じてしまいそうだ。」
「アレン殿。このクラーケンの排泄物は見かけたら取っておきましょう。漁村で売れば、買い手が何名か現れるかもしれませんので。」
「漁村で?」
「はい。クラーケンの排泄物には、魚を引き寄せる効果があります。漁師達も海で魚が群がっている所を見つけ、そこで漁をするのですが……」
「あぁ、なるほど。排泄物があるってことは、まだ近くにクラーケンが居る可能性があるかも……ってことか。」
「仰る通りです。クラーケンもその排泄物を利用して集まった魚をさらに餌とすることもあると聞きます。エサを食べるために居座っていたクラーケンと、その餌場に漁のために来た船が出会ってしまったら……」
「そりゃ、魚の獲り合いが勃発した挙句、漁師達の乗っている船はクラーケンの巨大な足によって沈められてしまうと……」
「ですから、この排泄物をクラーケンが住む件の船の墓場付近で使用しなければ、何の争いも無く漁師達は安全に魚を獲ることができるというわけです。」
「なるほどな。わかった。此処で見つけたら可能な限り回収しておくよ。漁師達だけじゃない。他のサーバーに居る友人達にも、必要とあらば分けてやりたいしな。」
「そうですね。私も見つけたら、可能な限り地下の宝物庫へ持って行くようにしておきます。」
「うん。頼むよ、エルネスト。」

「…………ん?なっ!?御館!大変だ!」

エルネストとの話が一段落したとき、城壁に居たザインが俺を呼んだ。

「どうした?ザイン。」
「空から……空から女性が!!」
「何だ?その女の子、飛行石でも首から下げてたのか?」
「アレン殿の言う飛行石なる物は存じ上げませんが……ザイン殿のあの様子、嘘ではないようですね。」
「そうだな。わかった!ザイン!40秒で支度するけど、3分間だけ待ってくれ!」
「承知した!おそらく、あの角度からしてうちの城門前の足場に落ちそうだ!」
「そのまま穴に落ちないだけマシだ。エルネストはシルヴィアを呼んで来てくれ!俺は城門を開けて跳ね橋を下ろす」
「承知しました!」

***

俺が城門を開けて跳ね橋を下ろしたのとほぼ同時に、ザインの報告にあった女性は地面と激突し、轟音を周囲に響かせると共にそこそこ大きなクレーターを地面に作った。

「おい!そこのお前、大丈夫か!?」
「ぅ……うぅ……」
「意識はあるみてえだな。」

とりあえず、俺はその女性に駆け寄って様子を確認してみる。
綺麗な金色の髪を後頭部の位置から1本にして長く結っていて、頭には月桂樹の葉の形を模したアクセサリーを付けており
シースルー……っていうのか?やたらと透けている布で古代ギリシャの人達が着ていたような服と、同じ素材で丈が極端に短いスカートを着用している。

おかげで彼女の豊満な胸や抜群のスタイル、ボディラインから純白の下着が丸見えなのだが……それよりも、俺は彼女の背中に注目した。

彼女の背中から生えている翼。本来ならば純白だったのであろう左右3対・計6枚のそれは、闇のように漆黒に染まっている。

彼女が倒れている近くに大盾と長剣(ロングソード)が落ちている。おそらくこの2つは彼女の武器なのだろう。

「主様!」
「シルヴィア!簡単な治癒術で良い!彼女に施してやってくれ!」
「はいっ!」

「何か騒がしいから来てみたら……おいおい、そいつ!天使じゃねェか!」
「やっぱり、マウトもそう思うか。」
「まったく……せっかく、此処で楽しく暮らしてたってのに……ついにオレにもお迎えが……あァ……浄化されていくんじゃァァァ……」
「しっかりしろ!それはお前の気のせいだ!大体、お前自分で天国にも地獄にも行けないって言ってたじゃねえか。そんなお前を何処へ連れて行くってんだよ。それに……誰かを迎えに来たってわけでもなさそうだ。」
「…………これで良し。主様、彼女の治療、終わりました。しかし、お疲れなのか未だ眠っておられます。」
「そっか。このまま放置は流石に可哀想だ。彼女は俺が客人用の寝室に運ぶが……シルヴィア、彼女の目が覚めるまで、付き添いを頼めるか?さすがに、目覚めてすぐ見知らぬ野郎と対面……ってのは、要らん誤解を生みそうだからな。」
「承知しました。お任せください!」
「マウトはあの盾と剣を地下まで運んでおいてくれ。おそらくは彼女の武器だ。他のくだらねえ連中に取られないようにな。」
「おゥ!任された!」

〜 数時間後 〜

タドミール・テルミヌス・客人用寝室

「ぅ……あれ?私……」
「あっ、お目覚めになられましたか。」
「あなたは……?」
「私の名はシルヴィア。この城の主様にお仕えするダークエルフです。」
「ダークエルフ……」
「貴方も私達に色々訊きたいことはあるでしょうし、私達も貴方に色々お尋ねしたいことはあります。ですが、まずは貴方が目覚めたことを主様に報告して来ます。一応、私が治癒魔法を施しましたが、無理をされず、しばらくこのまま安静でいてくださいね。」
「あなたが私の怪我を……?」

〜 数分後 〜

シルヴィアに呼ばれて、俺はベッドの上で座っていた天使の女性と改めて対面した。

「おぉ!目が覚めて良かった。俺はアレン。このタドミール・テルミヌスで一応城主を勤めている暗黒騎士だ。」
「ダークエルフに暗黒騎士……此処は魔界ですか?」
「いや、集まったのがそういうメンバーってだけで、此処はヴァイナーって名前の国で……たぶん、人間界ってことになるだろうな。」
「そうですか……あっ、申し遅れました。私は『フレデリカ』と申します。種族は【 自然 】、クラスは【 高等騎士(パラディン) 】です。」
「天使で高等騎士か……そりゃスゲェな。」
「正確には『元』・天使です。私は神界を追放された身ですので。」
「フレデリカ……もし良かったら、何が遭ったのか話してくれねえか?まぁ、無理強いをするつもりは無いから、話したくないっていうなら黙り込んでくれていい。」
「…………神界で、他の天使が徒党を組み、最高にして絶対である神様に反逆したのが、事の発端です。」

フレデリカはゆっくりと神界と呼ばれる場所で何が遭ったのかを話し始めてくれた。

彼女の言う『神様』がこのゲームの運営のことを言っているのか、それとも神様という立ち位置でNPCが居るのか……それは判らないけれど

「しかし、神様や天使さんの住むような穏やかな世界で、クーデターが起こるなんてな……」
「はい。私は最高神様を守るため、他の天使と共に反抗勢力の天使達を鎮圧するために戦を開始したのですが……その最中、不覚にも敵の術で洗脳されてしまったようで……」
「その操られていた時の記憶は無いのか?」
「はい……私が正気に戻った時は、最高神様に剣を突き付けていました。おそらく、最高神様の神通力か、他の天使達が私にかけられていた術を解いてくれたのでしょう。」
「そっか……本当なら、『正気に戻って良かったな』で済ますことができるんだろうけど、話はそんなに簡単じゃねえんだよな。」
「アレン様の仰る通りです。それまでの過程はどうあれ、私が最高神様に剣を突き付けたのは事実。最高神様は笑って許してくださりましたし、仲間の天使達も『仕方が無かった。あれは私のせいではない』と言ってくれましたが……正気に戻った私自身が、自分の犯した罪を許せない!最高神様にお仕えする、正義の使徒としての責務を全うできなかった私が……そこで私は最高神様に神界から追放していただくよう、自らお願いしたのです。」

せっかく神様が笑って許してくれたのなら、そのまま神界で暮らせばよかったのに……なんて無粋なことは言わない。

これが彼女なりのケジメのつけ方だったんだろう。最終的にフレデリカに追放を言い渡した神様の心中もお察しする……きっと、フレデリカと同じくらい、あるいはそれ以上に神様もつらい決断をしたんだろう。

「そして、神界を追放されたフレデリカが今、此処に居る……と。」
「私は事の発端となり、敗れた反抗勢力の天使達と同様に神界からの追放後、地獄に幽閉される……と、覚悟していたのですが……っ!」
「どうした?」
「アレン様、申し訳ありません。只今、最高神様から信託が……………はい………はい……ありがとうございます!最高神様の慈悲深い配慮に感謝いたします。」

フレデリカにしか聞こえないようだが、どうやら神界に居る最高神様から何か伝言が届いたらしい。

「最高神様は何て?」
「私が望むので形式的な形として神界から追放したが、今回の件で君が悪くないのは重々承知している。人間界で幾日・幾月・幾年を過ごし、君が自分で自分を許せるようになったとき、いつでも好きな時に神界へ戻って来なさい……と。」
「さすが神様、慈悲の心が凄いな。」
「えぇ、まったくです。…………あの、アレン様。お願いしたいことがあるのですが……」
「おう。何だ?」
「私を……あなた様の陣営に加えていただけないでしょうか?」
「フレデリカが、俺の仲間に?」
「はい。このままこちらを去り、行く宛も無くこの世界を彷徨うくらいでしたら……私は自分を助けてくださった此処の皆様のために尽力したい。もちろん無理強いはしません。断られたら潔く去るつもりです。」
「そんな!断るつもりなんかない!むしろ、俺からもお願いしたかったところだ。フレデリカ。俺達の仲間になってくれないか?」
「はい!これから宜しくお願いしますね。我が第2の主・アレン様。」

これでウチの陣営に5人目……クラーケンを含むと6体目の仲間が加わった。

大広間に全員を集めて1人ずつ紹介した時、堕天使であるフレデリカが陣営に加入する事実を知った皆は喜んで受け入れたが、俺とシルヴィア以外の他のメンバーを見たフレデリカが
『アンデッドにデュラハン……やはり此処は魔界なのでは?』
と、少し怯えていたので、ちゃんと彼女が納得するまで説明をした。

まだ会わせてないけど、クラーケンを見たらどんな反応するかな?それはちょっと楽しみ。

最初の内は種族的にいろいろとトラブルがあるかな……とも思うが、それはその都度何とかしていこう。
まぁ……ウチの皆は見た目はアレだが気の良い奴等だし、そんなことは無いだろうけどな。


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