二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ポケットモンスターBW *道標の灯火*
日時: 2020/09/15 16:16
名前: 霧火# (ID: HEG2uMET)

初めまして、霧火と申します。

昔からポケモンが好きで、今回小説を書こうと思いました。
舞台はポケットモンスターブラック・ホワイトの世界です…と言っても舞台はゲーム通り
イッシュ地方ですが、時間軸はゲームの【数年前】でオリジナル・捏造の要素が強いです。
そして、別地方のポケモンも登場します。Nとゲーチスは出ないかもしれません(予定)。


!注意事項!
   ↓
1.本作のメインキャラは【最強】ではありません。負ける事も多く悩んだりもします。
2.書く人間がお馬鹿なので、天才キャラは作れません。なんちゃって天才キャラは居ます。
3.バトル描写や台詞が長いので、とんとん拍子にバトルは進みません。バトルの流れは
 ゲーム<アニメ寄りで、地形を利用したり攻撃を「躱せ」で避けたりします。
4.文才がない上にアイデアが浮かぶのも書くペースも遅いため、亀先輩に土下座するくらい
 超鈍足更新です。
 3〜4ヵ月に1話更新出来たら良い方で、その時の状態により6ヵ月〜1年掛かる事があります。
 申し訳ありません。


新しいタイトルが発表されてポケモン世界が広がる中、BWの小説は需要無いかもしれませんが
1人でも多くの人に「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえるよう精進致しますので、
読んでいただけたら有り難いです。

**コメントをくれたお客様**

白黒さん パーセンターさん プツ男さん シエルさん
もろっちさん 火矢 八重さん かのさん さーちゃんさん

有り難うございます。小説を書く励みになります++


登場人物(※ネタバレが多いのでご注意下さい)
>>77

出会い・旅立ち編
>>1 >>4 >>6 >>7 >>8 >>12 >>15
サンヨウシティ
>>20 >>21 >>22 >>23
vsプラズマ団
>>26 >>29 >>30 >>31
シッポウシティ
>>34 >>35 >>39 >>40 >>43 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>55 >>56
ヒウンシティ
>>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72 >>75 >>76 >>78 >>79
ライモンシティ
>>80 >>82 >>83 >>88 >>89 >>90 >>91 >>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>106 >>116 >>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>130 >>131 >>134 >>137 >>138 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>148
>>149 >>150 >>151
修行編
>>152 >>153 >>155 >>156 >>157 >>160 >>163 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>171 >>173 >>174 >>175 >>176 >>177 >>178 >>180 >>182 >>183
>>185 >>187


番外編(敵side)
>>188

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遅らせ(お知らせ)です。 ( No.172 )
日時: 2015/10/17 12:07
名前: 霧火 (ID: 6fmHesqy)

物凄くお久しぶりです。霧火です。
亀を通り越して微動だにしてないんじゃないかという程の更新停滞すみませんでした(汗)
ほぼ1年更新しないというこの小説を見て下さっている方が今でもいらっしゃるかどうか
不安ですが、ここでお知らせを。

約1年の間に色々あって小説を書く気力も、ここに来る事も無くなっていましたが、
とりあえず落ち着いたので、更新を再開します(…といっても更新は遅いですが)。
今日中に1話更新します。

Re: 92章 黒ウサギの赤い目 ( No.173 )
日時: 2015/10/17 22:37
名前: 霧火 (ID: 6fmHesqy)


「目覚めるパワー!」

ヒトモシは大きく息を吸い込み、冷気を纏った球体を出現させた。
大きさは通常の物より小さくなったが、通常の3倍程多くなった球体をチルットへ放った。
しかしチルットはその数を目の当たりにしても慌てる事なく、最初に飛んで来た4個の球体を軽々と避けた。


「速い!身軽!凄いぞチルットー!」

両腕を挙げてぴょこぴょこ跳ねるAの声に張り切ったのか、チルットのスピードはどんどん増して行き、球体を次々と躱して行く。


「『…っ』」

今まで本気を出していなかったのか──そう思ってしまう程の動きに息を呑むリオとヒトモシ。
怒濤の如く飛んで来た球体がピタリと止み、もう終わりか?と言わんばかりにチルットが得意気な顔でヒトモシを見下ろした。


そこで。

チルットがヒトモシの手の中で揺らめく物を認識したのは。


顔色が変わったAとほぼ同時だった。


「避けろ!!」

Aの大声にハッとして回避しようとしたチルットの左翼に、遅れて発射された1個の球体が命中した。

ピィ、と小さな悲鳴をあげたチルットは落下した。


(当たった!)

引き攣り顔で固まったAとは対照的にリオの口は綻んだ。
たった1個とはいえ飛行タイプのチルットには効果は抜群、しかも翼を凍らされて動きが鈍っている。


「今がチャンス!もう1度目覚めるパワー!」
「かっ、躱せ!」

飛んで来た球体を寸での所で躱したチルットだったが、すぐに数個の球体が飛んで来た。
意図したのか将又偶然か、網の形状をして向かって来る《目覚めるパワー》に、このままだとマズイ──
そう思ったAが視線を彷徨わせると、

右側のある一カ所だけ球体が無い所を発見した。
まるで網にぽっかり穴が空いているかの様なソレに、Aは汗を流しながらもニヤリ、と笑った。


(見付けた、攻撃の欠陥部分──穴を!)

チルットも気付いたのか、凍った左の翼を必死に羽撃かせてその穴へ向かって行く。
身体を捻って穴を抜け、攻撃を回避したチルットとAはほっとした、が。


「掛かったわね!煉獄!」

《目覚めるパワー》の網から脱出したチルットを待っていたのは、神々しくも雄々しい紫色の炎だった。


(《目覚めるパワー》を右側に撃たなかったのはわざとか…!)

罠に掛かり悔しさで下唇を噛むA。
それでも焦らずに指示を出すのは流石と言った所か。


「包み込め!コットンガード!」

チルットが力むと翼の綿が風船の様に大きく膨れ上がった。
倍以上に膨れ上がった綿で身体を包んだ所で炎がチルットに直撃した。
ボロボロと火が付いた綿が降ってきて、その綿が凍った地面に落ちて泥水が増えていく。

ぐるりと辺りを見回すリオの耳に羽撃く音が聞こえた。


「…防御を上げる《コットンガード》じゃ特殊技の《煉獄》のダメージを軽減する事は出来ない。
 でも綿を多くする事で直接肌に伝わる熱を和らげる事は出来る。当然、火傷状態だって回避出来る!!」

Aの言った事が正しいかどうかは分からない。
しかし翼を広げて地面に立っているチルットの身体に火傷は無く、あながち間違いでも無いとリオは思った。


「チルットが右側の、決められた一カ所を通る様にわざと攻撃の穴を作って誘導…仕向けるなんていやらしいな。
 Aの知る変態程じゃないけど」
「へ、変態?」
「上空ドラゴン注意報!ドラゴンダイブ!!」

チルットは己を奮い立てる様に高く鳴くと急上昇、青い龍のオーラを纏って急降下する。


「今度は怯まないでヒトモシ!…上に向かって弾ける炎!」

殺気に負けず放たれた炎はチルットの真横を通り、天井に当たった。
《目覚めるパワー》で凍っていた部分が溶けて、室内だと言うのに雨が降り注いだ。


「残念、ハズレだ!」


ドオォ……ン


大きな音を立ててチルットがヒトモシの上に落ちた。
砂埃と砂利、破片等が飛び散り、Aとリオは咄嗟に腕やフードで顔を守る。
視界が開けていき、目を開けるとうつ伏せに倒れて顔だけ持ち上げているヒトモシの姿が映った。


「…良く耐えたな。でももうおーわり!外さないよ!燕返し!」

Aは高らかに人差し指を挙げた。





 。


「…って!!チルット!何で飛ばないんだ!?」
「飛べないからよ」

訳が分からない──そう言いたげな顔のAにリオは補足する。


「綿は熱に強いと同時に吸水性にも優れている。《コットンガード》で新しい綿を身に纏ったとしても、
 1度濡れた綿は簡単には渇かない。そして、水を吸い取った綿の翼は重くなって飛ぶ事が困難になる」
「…そうか。翼に砂が付いて余計重くなって、それで飛べないんだ!」
「正解。でも、それだけじゃないわ。普通の砂なら叩けば落ちるけど、翼に付いた砂は水を吸い取って泥みたいに
 なっているから簡単に落とせない。この中には泥を落とせる水場も無いから翼はそのまま」

ヒトモシは身体を起こすと、ゆっくり後退してチルットとの距離を取る。
それでも動かないチルットにリオは目を細めた。


「…これ以上汚れたくない。そう思ったからチルットは戦いを早く終わらせたくて、攻撃するのを止めたのよ」
「つ、翼が重くなった理由には納得したけど、汚れたくないから攻撃しないなんて…そんなバカな話あるか!!」
「ありえない話じゃないと思うわよ」

噛み付きそうな勢いで喰ってかかるAにリオは首を横に振った。


「《燕返し》は普通の技と違って躱す事が困難な技だから背後を取って不意をつく必要なんて無い。
 そんな事しても相手に与えなくても良い時間をあげる様な物だからね。それを理解していたからチルットは
 真正面から攻撃して来た…でも2回目の《燕返し》は、何故か迂回して背後から攻撃した」

「そっ、それは反撃を警戒して攻め方を変えたんだ!状況に応じて戦い方を変えるのは基本中の基本だ」
「チルットは至近距離の《目覚めるパワー》をも躱す身軽さを持っている。今更こっちの攻撃を警戒するとは
 思えないわ。チルットのあの動きは貴女にとっても予想外だったんでしょ?思いっきり驚いてたし」

図星をつかれたのか、Aは「ぐぬぬ…」と唸る。


「私はチルットに正面から攻撃出来ない理由があった──そう思ってる。あの時、ヒトモシの背後には
 泥があった。真正面から攻撃してヒトモシが泥の方へ倒れたら、泥がこちらに飛んで来るかもしれない。だから
 チルットは自分に泥が付かない様に背後からヒトモシを攻撃した。少し高めに飛んでいたのも、
 脚に泥が付かない様にする為ね」

喋り疲れたのかリオは大きく息を吐いた。


「…私が色々言った所で全部憶測だから納得出来ないとは思うけど、こうして喋っている間に攻撃するチャンスは
 幾らでもあったのに、チルットにその気が無いのが、全ての答えなんじゃないかしら」

静かに言ったリオとこくこくと頷くヒトモシにAは唇を噛む。


「そんなの間違いだ、妄想だ!」

反論するAとは対照的に翼に付いた砂を落とすのに専念しているチルットからは、もう戦う意志は感じられない。
リオはヒトモシのボールを手に取る。


「…どうしてヒトモシのボールを持ってるんだ?」
「戦う意志が無い相手をこれ以上攻撃する必要は無いからね」
「戦えない?…違う。違うなぁ。大間違いだよリオ」

ぐしゃり、と髪の毛を掴んだAは小さく笑う。しかしその口は裂けそうな程に吊り上がっていた。


「これは戦いじゃない、純粋な遊びだよ。遊びに怪我は付き物なのに何で遠慮するんだ?もっと遊ぼうよ」

満面の笑みを浮かべて両手を広げたAにリオは身震いする。
細められた赤い瞳は、そんなリオの姿をはっきりと映していた…

Re: 93章 遊びの時間は、 ( No.174 )
日時: 2018/05/01 20:44
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

「…子供の遊びに大人も人質もいらないわ」

笑顔のまま近付いてくるAに、リオは後退りしそうになる。
確かにAの言動からは子供らしさを感じた、けれど。
今のAからはそんな物は微塵も感じられない──感じるのは恐怖に似た、もっと別の【何か】だ。

あまりにも雰囲気が変わりすぎて、別人の様だった。
しかしリオは思いきり地面を踏み付ける事で、震えそうになった足と心を抑えた。
それを興味深そうに見つめてからAは口を開いた。


「そう!子供の遊びに大人が口を挟むのは野暮ってもんだ。AもCも、向こうが黙っていれば何もしなかった…
 本当だぞ?でも口煩いし酷い事をしてると知ったから、お仕置きで縛ったんだ」
「酷い事?」
「詳しい事はCか本人達に聞けば良い。それじゃ、遊びの続きしよっか!」

にっこり笑ってリオに背を向けると、Aはスキップ混じりでチルットの元へ向かった。
慌てて小走りで戻ってきたヒトモシを抱き上げると、その身体は震えていた。


「大丈夫よ、ヒトモシ。私が居るから」

ぎゅうっと抱き締めると小さな手が遠慮がちにリオの服を掴んだ。
そのまま暫く抱き締めていると落ち着いたのか、ヒトモシの震えが止まった。
リオはヒトモシの温もりを感じながら、昔の事を思い出していた。

抱き締める代わりに、こちらが望めばいつだって手を繋いでくれた事。
落ち込んだ時や頑張った時には必ず頭を撫でてくれた時の事を。


あの日以来、貰えなくなった優しさだという事も。



「チルット。チルットー?ドラゴンダイブ。ドラゴンダイブだってば」

Aの声でリオは俯いていた顔を挙げた。
視線の先には中腰のAが居て、笑顔でチルットの背中を押していた。
しかし一向に動かないチルットにAは笑顔のまま立ち上がった。


「ねぇ、これじゃあリオと遊べないよ。チルットもヒトモシと遊べないよ?良いの?」

目を逸らして頷いたチルットに、笑顔を崩さず顎に手を当て唸るA。
諦めるのかと思いきや、今度は大きくチルットの身体を揺らし始めた。


「泥なんて後でAが綺麗に落とすからっ!約束するからっ!!だから今は泥だらけの傷だらけになって思いっきり
 遊び尽くそうよっ!!!」
「ちょっと、いい加減に──」

笑顔を消し、目をカッと見開いて大声で叫ぶAにリオが口を開いた、その時。
1匹のメグロコがAの足元に現れ、Aが転んだ。


「ふぎゃあっ!?」

倒れた先に居たチルットが《コットンガード》でAを受け止めていれば問題無かったが、
白状にもチルットはAを避け、その結果Aはその先にあった泥の中に顔面ダイブした。


「……」

両手を使って顔を挙げて、ゆっくり振り返ったAに悲鳴をあげなかった自分とヒトモシ達を褒めたいとリオは思った。
Aの綺麗な髪はフードのお蔭である程度無事だったが、顔は真っ黒で歯も泥だらけ。
目も無事だったが、赤く光る目がこの状況だと不気味さに拍車を掛けていた。

Aは暫くメグロコを睨み付けたが、メグロコが地面を3回引っ掻くと目を逸らした。


「…分かったよ」

Aは唇を尖らせ渋々チルットを戻し、リオに背を向けた。


「すっかり忘れたてけどトレジャーバトルは宝を手にした物が勝者だから長々と遊ぶのは良くないんだった!
 宝が埋もれちゃったら困るし…遊びは終ー了ー!」
「な、」
「じゃあAは先に行っくねー!」

Aは言いたい事だけ言うと階段がある方とは真逆の、奥にある流砂に向かい、そのまま落ちて行った。
メグロコの姿もいつの間にか消えている。


「な、んなの?急に…」

メグロコに転ばされた途端に元に戻ったAにリオは暫し呆気に取られていたが、ずっと気になっていた事を
確認する為、1度上の階に戻る事にした。



 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼



「宝は見付かった?」

そう問い掛けて来たCにリオは首を横に振る。
Cは「そう、」と短く返してリオが来た方向──段差の先にある階段を見る。


「下の階は広いもん。探すのに一苦労でしょ?」
「そうね。下に宝が隠されているなら、確かに探すのは大変だわ」
「喉渇いてる?水、飲む?」
「大丈夫よ。ありがとう」

水を差し出したCにそう断ってから未だ拘束されている人達を見遣る。


「私よりも、あの人達に水を飲ませてよ。もう騒ぐ気は無いみたいだし、それに…これ以上あのままなのは
 可哀想よ」

この遺跡は砂漠に建っている。
建物の中と言っても蒸し暑くて喉が渇くのに、口を塞がれていては大事な水分すら補給出来ない。
これ以上あの状態が続くと命が危うい。

Aとのバトルに集中しすぎて時間を多く使ってしまった事を悔いていたから出た意見だったのだが、
Cはリオの言葉に数回瞬きをして、首を傾げた。


「可哀想?あの人間達が?リオは面白いけど変わった事を言うね」

まるで理解出来ないとばかりに目を瞬かせたCにリオは絶句する。
急に黙ったリオに構わずCは続ける。


「C、知ってるもん。あの人間達が生態系を調査する為と言って、此処に住む子達を捕まえて虐めている事を。
 観光名所だと言って住処をズカズカと踏み荒らすのを黙認しているのを良い事に…皆そっとしておいて
 ほしいのに…そんな連中に同情の余地は無いもん」

無表情で淡々と言うCだが、その目は大人達を嫌悪している様に見える。


(あの人達も限界が近い。一か八か、勝負に出よう。私の考えが間違っていれば、Aの勝利はほぼ確定。
 でも当たっていれば私にも勝機はある!)


リオは天井を見つめ、ゴチミルを見つめ──そしてCを見て、口を開いた。

遊びの時間は、あと少しで終わる。

Re: 94章 答え合わせ ( No.175 )
日時: 2019/04/07 16:49
名前: 霧火 (ID: OQvXdNWS)

「目を瞑っている時、入り口近くで砂が落ちる音がした。…変だと思ったわ。1階はあちこちに流砂が
 発生していたけど入り口に流砂は無かったハズだからね。現に今、ここに流砂は存在しない。
 じゃあ、何で砂が落ちる音がしたのかしら?」

「…Cが階段を駆け下りたから、その振動で天井の砂が落ちた?」

「いいえ。地下への階段は段に砂が積もっていてクッションの役目を果たしていた。
 いくら階段を駆け下りた所で振動で天井の砂が落ちるなんて事は起こらない」

きっぱりと言ってのけたリオにCは表情を変えず頬を膨らませる。


「…結局、何が言いたいのか分からない」
「じゃあストレートに言うわね。貴女は囮で、宝を隠したのはゴチミルなんじゃない?」

表情を変える事なく立っているCにリオの顔が引き攣る。


(肩が跳ねたり息を呑んだり、そういう動揺1つ無いのね…もう少し追及してみようかしら)


「貴女はやけに自分が宝を隠しに行くと強調していた。最初は確認や、目を瞑っている私達が分かる様に
 合図のつもりで言っているんだと思った。でも、そうじゃなかった。宝を隠しに行ったのは貴女だと私達に
 思い込ませるための、演技だったのよ」

リオは粉々に砕かれた鉄球の破片の1つを摘まみ上げる。
破片とはいえ数センチの厚みがあるそれは重量感があり、人差し指と親指だけで持つのが辛くなったリオは
破片をそっと手の平に乗せた。


「こんな重い鉄球を軽々と持ち上げて粉々にした力を見た後に目を開ける気にはなれない。
 貴女はそれを利用して、ゴチミルを見張りではなく宝を隠す役目にした。貴女が宝を隠しに行くフリをして
 地下を走り回っている間に、ゴチミルは《念力》で砂を持ち上げて宝を埋めた。持ち上げた砂は、
 そっくりそのまま戻すとバレちゃうから流砂みたいに時間を掛けて落とす。砂が落ちる音がしている間、
 口を塞がれているのにあの人達が必死に声を出そうとしていたのは、ゴチミルが宝を隠していると
 私達に伝えたかったから…それが理由ね」

全てを話し終えたリオはCの反応を待つ。
彼女もリオの話が終わりだと気付いたのか、小さく口を開いた。


「それが真実かどうか、貴女の目で確かめれば良い」
「ええ。そうするわ」

Cは先程と同様、全く動じていなかった。
しかしリオは自分の考えを信じ、入り口近くに立つゴチミルへと歩み寄る。
そしてゴチミルの前で立ち止まると、ゴチミルは目を閉じて右へ退いた。


「…てっきり邪魔されるかと思った」
「リオの相手はAだもん。Cには戦う気も妨害する気も無い。リオこそ、ゴチミルを攻撃しないの?」
「無抵抗な相手を攻撃しないわよ。悪い事をしたなら考えるけど、そのゴチミルは悪い事してないし」
「…!」

今まで動揺の1つすらしなかったのに、Cはリオの何気ない言葉に目を丸くした。
そんなCに首を傾げつつ、リオは持っていた破片を傍に置いてゴチミルが居た地面を掘り始める。
乾燥した柔らかい砂は掘る事に苦労せず、やがて灰色の塊が出て来た。


(コレが宝?)


持ち上げた灰色の塊は腕の中に納まるくらいに小さかったが、意外と重い。
砂を払って見てみると、甲羅に似た形をしている。
Cが何も言わない為、価値がある物なのかリオにはさっぱり分からない。


(宝と決まったワケじゃないし、念の為に他の階も捜してみよう。でもその前に──)


「気になってたんだけど、何で目隠しはしないで口だけ塞いだの?」
「思い知らせたかったから」
「え?」

「ゴチミルが宝を隠した事を伝えれば自分達は解放される。それなのに口を塞がれているから伝えられない。
 手も足も縛られているから字を書いて教える事も出来ない。真実を知っているのに、ただ待つ事しか出来ない。
 自分達が散々馬鹿にした子供と傷付けたポケモンに運命が左右される…今の状況は自分達が作った物で、
 コレは自業自得なんだって事を思い知らせる為に、わざと目を隠さなかった」

ゴチミルを撫でながらCはリオを見る。


「Aを馬鹿にして、皆を苦しめたんだもん。これくらい苦しんでもらわないと」

同意を求めているのかリオを見つめたまま動かないCに、リオが口を開きかけた…その時。
駆ける音の後に砂を擦る音がしたと思ったら、ベチッと痛そうな音が奥から聞こえた。

音の方に目をやると先程よりは綺麗になったが、相変わらず泥と砂で汚れたAがこちらに向かって歩いて来た。
両膝とおでこは何故か血が滲んでいる。


「ふっふっふ…流砂を落ちに落ち、砂だらけの泥だらけになった末に手に入れたこの宝を見よ!」

痛々しい姿に顔を顰めるリオを余所に自信たっぷりにAが掲げたのは、Aと同じく砂と泥が付いた球体。
しかしその色は砂や泥でくすむ事無く金色に輝いている。
まさにお宝という名に相応しい──神々しささえ感じる輝きにリオは自分の持つ化石を見下ろす。

古ぼけたソレはAの持つ球体の前では一段と霞んで、汚く見えた。


「遺跡の最深部にあったこの宝こそ本物だ!さぁC!勝者発表を!」

持っていた球体をCに渡し、Aは腰に手を当てる。
勝利を確信して興奮しているのか、Aの頬は林檎の様に紅潮している。

Cは頷くと勝者の隣に移動し、その手を持ち上げた。



「勝者は──リオ。今回の宝はポケモンの化石」
「えっ」
「おめでとう」

リオの口から声が漏れた。
Aの物と比べると自分が見付けた物は色も汚くて、明らかに劣って見えたからだ。

そう思ったのは当然Aも同じでCに詰め寄る。


「じゃあ!じゃあAが持って来たのは!?」
「それはCがメグロコに隠す様に渡しておいた、ダミーの【おじさんのきんのたま】だもん」
「「え」」


リオとAの頭にある1つの都市伝説──否、世界伝説と言っても過言では無い人物の名が浮かんだ。



〜 きんのたま おじさん 〜


各地方に現れては1人で旅をする若きトレーナーや大の大人に純金製の玉を渡して(稀に放り投げて)、
去っていく男。

その目的や思考は謎とされていて、男から純金製の玉を渡された者の中には彼の意志を継ぐ様に、
第三者に玉を渡す様になった者も居るという情報も寄せられている。
何故そうなったのか…その答えは解明されておらず、男が幽霊・悪霊の類で玉を通じて
人に呪いを掛けたという説もある。

発言が意味不明で前述の事もあり気味悪がられる一方で、新人トレーナーでこの男から玉を渡された者が
大物になったという記録が何件もあり、彼に会いたいと言う者も少なからず居る。


〜 きんのたま おじさん 紹介終わり 〜



「えーと。あれ?耳に砂でも入ったのかな?嫌な単語が聞こえたぞ…C、もう1度頼んだ」
「おじさんの「はいっ!最初の5文字いらない!!」だも、」

そう叫ぶや否やAはCの手の平で輝く球体を掴むと勢いに任せて外に放り投げた。
プロ顔負けの素晴らしい投擲にリオは、


(良い肩してるわね)


…と現実逃避するのだった。




【一言というか感想】
若干狂気染みて来たAとCのイメージを払拭したいが為に半分冗談、半分本気で
きんのたま話を持って来たら最後の最後で全部持って行かれた感が凄い事に。
でも書いていて1番楽しかったです。…1番くだらない話の筈なんですけどね!←

Re: 95章 トレジャーバトル終了 ( No.176 )
日時: 2018/05/01 21:04
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

「もう!知らない人から物とか貰っちゃダメだって言われたでしょー!?」
「そう思って1度断った。でもムリヤリ渡された」

Cの肩を勢い良く掴んでがくがくと揺らすAと、されるがままのC。
2人の周りをぐるぐる回って止めようとするゴチミル。
リオが少し離れた所で様子見していると、Aが揺さぶるのを止めてCに指を突き付けた。


「そ・も・そ・も!何で下手したら一発で見付けられちゃう1階に宝を隠したのかな!?」
「トレジャーバトルは平等であれ…そう教えてくれたのはA。初心者が辿り着けない所に宝を隠したら、
 その教えを破る事になると思った。だから本物は初心者でも見付けられる1階に隠した」
「あ、うん…そういう事なら仕方ないな……」

Aはバツが悪そうに頬を掻いて外方を向いた。


「話は終わった?もうあの人達を解放しても良いわよね?」

リオはゴチミルの《念力》で階段前から左に数歩分離れた場所に移動された大人達を見る。
全員が俯いていて、気力・体力共に限界な事が窺えた。


(早く拘束を解いて水を飲ませて、休める場所に移動させなきゃ…)


勝者には大人達を好きに出来る──リオが出した提案にAもCも乗った。
しかしこちらを見たAの顔は不満げだった。


「ちょーっと待った!勝者のリオがソイツ等を煮ようが焼こうが助けようが文句言わないけど、
 自由にするのはAとCがこの遺跡から出てからにしてもらおうか!」
「…言ってるじゃない文句。何もせず黙って貴女達が去るのを見送れって?そんなの聞けないわ」


(2人の場に居るのはゴチミルだけ。バルチャイの《風起こし》で目眩ましを…)


思案しながらバルチャイのボールに触れたリオだったが、ヒトモシにフードを引っ張られた事で思考を中断する。


「ごめんヒトモシ、後にして」

小声で窘めてもヒトモシは手を離す所か更にフードを強く引っ張った。
悪戯好きとは言え控えめで物わかりが良いヒトモシらしからぬ行動にリオが後ろを振り返ると、
大人達が沢山のポケモンに囲まれていた。

皆、この遺跡に住むポケモン達だ。


「何で、」

リオの口から疑問の声が漏れる。
Cの言う通り大人達がポケモン達の住処を荒らしたとしたら、ポケモン達が怒るのも当然だ。
しかし今まで牙を剥かなかったポケモン達が何故今頃──


「AとCが出るの、黙って見てて。そうしたらこの子達も攻撃しない」
「…この子達は皆、貴女のポケモン?それとも顔見知り?」

問われたCは間髪入れずに首を振った。


「どっちも違う。ここの子達とは今日初めて会ったから、最初からこうなる様に仕組んでいた訳じゃないもん」
「じゃあさっき戦っている時に現れたメグロコは?貴女と関係があるんじゃないの?」


(あの時のAは、メグロコが何を言っているのか理解していた。まるでずっと一緒に居るパートナーみたいに)


そう思ったからこそAに質問したリオだったが、予想に反してAもC同様に首を振った。


「…Aはあの子が爪で地面を引っ掻いたのを見て、五月蝿くしたから怒ってると思っただけ。全っ然関係ないよ」
「質問は終わり?じゃあ、もう良いよね。A、帰ろ?」


「そうだね。また遊ぼうリオ!」

Aは投げキッスを飛ばして一足先に遺跡を出たが、Cは足を止めてリオを見た。


「リオはポケモンが困っているのを見たら助ける?」
「勿論」
「………そう」

即答したリオにCは嬉しそうに微笑んだ。
目尻は下がり、頬の筋肉も緩んだその顔はカチカチに固まっていたチョコが蕩けたみたいだと、リオは思った。


「…リオ。信じてるから」

背を向けて一言告げるとCも足早に遺跡を出た。
2人が居なくなるとポケモン達もまた次々に姿を消し始めた。
Cの言った事は本当だったらしく、ポケモン達はこちらが攻撃しない限り何もしないらしい。
その証拠に1分も経たないうちにポケモン達はリオの前から居なくなった。


「ヒトモシはこの人達の傍に居て。すぐ戻るから」
『モッシシ!』

ヒトモシが返事をしたのを確認してリオは外へと飛び出した。


(凄い砂嵐…【古代の城】に入る前より酷くなってるわ)


リオはゴーグルを装着して辺りを見渡したが、とても特定の人物を捜せる環境ではなかった。
これ以上外に居ても何の成果も得られないと悟ったリオは大人達の拘束を解く事にした。


解こうと、したのだが…


「何この縄!?硬く縛りすぎよ…!」

結び目を緩めようとしてもAが縛った縄はびくともしなかった。あの細腕のどこにこんな力があったのだろう。
ラチがあかないと思ったリオはリュックの中からハサミを取り出した。


「ヒトモシ。火で焦げ目を「身動きが取れない相手を火炙りしようだなんて、君がそこまで野蛮だとは
 思わなかったよ」!」


(この嫌な物の言い方は…)


ハサミを持ったまま入り口の方を見ると 砂漠だというのに汗1つかかず涼しい顔をしたレイドが立っていた。
リオの視線をどう解釈したのか、レイドは小さく笑う。


「何、僕まで縛るつもり?言っておくけど僕にそういうシュミは無いから、いくら君に懇願されても
 叶えてあげられないな」
「火炙りする気も貴方を捕まえる気も無いし、私にだってそんな趣味無いわよ!」

リオは顔を赤くして感情のままにガムテープを剥がした。


「私をからかう為にこの遺跡に入ったの?」
「まさか。君と違って僕は忙しいから、そんな事の為に入らないよ」
「色々引っ掛かる言い方だけどこの際スルーするわ…それなら何が目的で?」
「目的と言う程、大した事じゃないよ。少し気になる事があってね」
「気になる事?」
「まあ、疑問はもう解決されたけど」


中々教えてくれないレイドに、最初から話す気は無いんだと悟ったリオは別の質問をする事にした。


「ココに来る途中に女の子を見なかった?白髪と黒髪の、顔がそっくりな2人組!」
「2人組は見てないな。君が捜してる人か分からないけど、大きなポケモンに乗って飛んで行く白髪の女の子なら
 見たよ」


(…多分Aね。追われる事を想定して二手に別れたのかしら?この人達の縄を切ったら
バルチャイに捜してもらおうと思ったけど、チルットの他にも飛行タイプを持っていたなら──)


「もう追い付けないわね」

肩を落とすリオを見て、何気なく視線を下に落としたレイドは目を瞬かせた。


「ハサミを持っているけど…その人達の縄、切るの?」
「そのつもりだけど。何か問題でもあるの?」
「問題って…悪人だから縛ったんでしょ?君ってムダに正義感強いから」
「この人達は別に悪い事なんて、」

否定しようとしたがSの言葉を思い出して口を閉じた。


「どうしたの?」
「…何でもない。私にはこの人達が黒か白か分からないわ。でも仮に黒だったとしても、今にも倒れそうな人を
 見捨てる事は出来ない…だから助ける、それだけよ」

リオは真っ直ぐレイドを見た。
無言で見つめ合う両者。
先に目を逸らしたのはレイドだった。


「甘いね。…君がそれで良いなら構わないけど」

レイドはリオの手を持ち上げ、ゆっくりとハサミを引き抜いた。
リオが頭にハテナを浮かべてレイドを見上げると溜め息を吐かれた。


「手伝うよ。君の力じゃ何時間も掛かるだろうしね」


溜め息を吐いた割には、リオを見るレイドの目は優しかった。


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