二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ポケットモンスターBW *道標の灯火*
日時: 2020/09/15 16:16
名前: 霧火# (ID: HEG2uMET)

初めまして、霧火と申します。

昔からポケモンが好きで、今回小説を書こうと思いました。
舞台はポケットモンスターブラック・ホワイトの世界です…と言っても舞台はゲーム通り
イッシュ地方ですが、時間軸はゲームの【数年前】でオリジナル・捏造の要素が強いです。
そして、別地方のポケモンも登場します。Nとゲーチスは出ないかもしれません(予定)。


!注意事項!
   ↓
1.本作のメインキャラは【最強】ではありません。負ける事も多く悩んだりもします。
2.書く人間がお馬鹿なので、天才キャラは作れません。なんちゃって天才キャラは居ます。
3.バトル描写や台詞が長いので、とんとん拍子にバトルは進みません。バトルの流れは
 ゲーム<アニメ寄りで、地形を利用したり攻撃を「躱せ」で避けたりします。
4.文才がない上にアイデアが浮かぶのも書くペースも遅いため、亀先輩に土下座するくらい
 超鈍足更新です。
 3〜4ヵ月に1話更新出来たら良い方で、その時の状態により6ヵ月〜1年掛かる事があります。
 申し訳ありません。


新しいタイトルが発表されてポケモン世界が広がる中、BWの小説は需要無いかもしれませんが
1人でも多くの人に「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえるよう精進致しますので、
読んでいただけたら有り難いです。

**コメントをくれたお客様**

白黒さん パーセンターさん プツ男さん シエルさん
もろっちさん 火矢 八重さん かのさん さーちゃんさん

有り難うございます。小説を書く励みになります++


登場人物(※ネタバレが多いのでご注意下さい)
>>77

出会い・旅立ち編
>>1 >>4 >>6 >>7 >>8 >>12 >>15
サンヨウシティ
>>20 >>21 >>22 >>23
vsプラズマ団
>>26 >>29 >>30 >>31
シッポウシティ
>>34 >>35 >>39 >>40 >>43 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>55 >>56
ヒウンシティ
>>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72 >>75 >>76 >>78 >>79
ライモンシティ
>>80 >>82 >>83 >>88 >>89 >>90 >>91 >>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>106 >>116 >>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>130 >>131 >>134 >>137 >>138 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>148
>>149 >>150 >>151
修行編
>>152 >>153 >>155 >>156 >>157 >>160 >>163 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>171 >>173 >>174 >>175 >>176 >>177 >>178 >>180 >>182 >>183
>>185 >>187


番外編(敵side)
>>188

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37



Re: 87章 黒いのと白いの ( No.167 )
日時: 2018/05/01 20:17
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

夕飯を食べてお風呂を済ませたリオはバトルの疲れもあり、糸が切れた様にベッドの上に倒れ込んだ。
昔の夢を見る事も無く睡眠もしっかり取れたが、目覚めてみると空は薄明で、修行を始めるにはまだ早かった。
完全に覚醒して二度寝する気も起きなかったので、リオは研究所裏の洞窟に立ち寄る事にした。


(旅立つ前に届けたポケモンフードもそろそろ無くなる頃だし、多くあって困る物でもないからね。今回は多めに持って行こっと)

ベッド下にある小さな収納ダンスの鍵を開けて、隠しておいたポケモンフードの袋を引っ張り出す。
リュックの中身を全て出し、いざ袋を入れようと思った、その矢先。

大きく音を立ててドアが開いた。


「大変よ〜リオ〜」

勢い良く開いたドアとは対照的に間延びした母の声に、リオは咄嗟にベッド下に袋を投げ込んだ。
…封が開いていたら、今頃ベッド下にポケモンフードが無惨に散乱していただろう。


「ビックリした…!どうしたの?お母さん」
「?貴女こそどうしたの、そんなに散らかして」
「この先使わない物は今のうちに置いていこうと思って、中身を整理してたの。…で、お母さん何かあったの?」

我ながら上手い言い訳だと、内心自画自賛するリオ。
リマもそれ以上追究せず「あのね〜」と、のんびり話し始めた。


「言い忘れてたんだけど、修行に入る前に必要な物があったの〜」
「?」
「新しいポケモンよ〜」
「新しいポケモン…」

リマの言葉を呟く様に復唱する。


「ポケモンは多いに越した事はないでしょう?その方が戦略も広がるし今の手持ちだけで挑むには、
 次のジムリーダーは強過ぎるもの〜」
「…そうだね」

リオの脳裏に腕を組んで仁王立ちした人物が浮かぶ。


(…確かにあの人は強い。お母さんの言う様に、仲間は多いに越した事は無いわ)

そんなリオの心を読み取ったのか、リマはボールを手に取った。


「新しいポケモンをゲットするのに行きたい場所があったら言ってね〜?エアームドに乗せて連れて行くから〜」
「じゃあ、」




 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼




ゴーグル越しに見る空は、相変わらず茶色だった。
リオが乗せて行ってほしいと頼んだ場所は、4番道路だった。
あの時は砂嵐が酷かったのと、早く新しい街に着きたかった為に早々に通り過ぎたが、自動販売機が設置された
場所から続く細い道があった事を思い出したからだ。

幸い今日はそこまで砂嵐は酷くないし、探索に集中出来る。
もしかしたら素敵なポケモンとの出会いが待っているかもしれない。
そんな期待を胸に、リオは砂に足を取られながら黙々と細い道を突き進む。


「こんな所に建物…ゲートがあるとは思わなかったわ…」

細い道の先にあったゲートを見上げながら呟く。
しかし一休み出来る場所を探していたリオには好都合だった。


「おはようございます。この先【リゾートデザート】の名所は【古代の城】となっております」

ガイドさんの言葉に相槌を打ち、椅子に座って途中の自販機で買ったミックスオレのプルタブに指をかける。
ミックスオレ独特の甘い香りと味に目を細めていると、電光掲示板に目が行った。


○遺跡目当ての 旅行者が多い 観光スポットです
○砂漠は 広く 過酷です 準備を整えて お越しください
○砂漠全体に 吹き渡る 砂あらしに ご注意ください


右から左に流れて行く字を目で追いながら、最後の一口を口にする。


(へぇ…お城と遺跡があるのね。旅行者が多いなら間違って遭難、行き倒れ…なんて事にはならないだろうし、
これなら時間を掛けて新しい仲間を探せる)

空になったミックスオレをゴミ箱に入れて外へ出ると、柔道着姿の男が話し掛けて来た。
何故か全身ボロボロだ。


「君も【リゾートデザート】へは鍛えに来たのかい?」
「鍛えに、というか新しい仲間を探しに…」
「そうか。【リゾートデザート】は広い上に地面タイプのポケモンが多くて危険だから長居はしない方が良いよ」
「地面タイプですか。分かりました、ご忠告ありがとうございます」

男に頭を下げて【リゾートデザート】へと進む。


「無理はしちゃダメだよ!…いやー、良いアドバイスしたな、俺!」


(…決めた。新しい仲間を探しながら、ここで鍛えよう)


リオを思っての忠告が全くの逆効果だという事を、誇らし気に胸を張る男が気付く事は決して無かった──




 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼



「…地面タイプのポケモンって、メグロコだけじゃない」

【リゾートデザート】を歩き回ったリオが真っ先に思ったのがソレだった。

リオが砂漠を歩いていて遭遇して戦ったポケモンはダルマッカにメグロコ、イシズマイにシンボラーに
マラカッチ…と種類も少ない上、実質地面タイプはメグロコだけだった。
沢山の地面タイプのポケモンと戦えると意気込んでいただけあって、肩透かしに終わった(メグロコの出現率は高いので、種類ではなく数と考えると男の言っていた事も間違いでは無いのだが)。


「それに親切なドクターが居るから回復には困らないし…」

突然バトルを申し込まれたのには驚いたが、勝ったその後は快くヒトモシ達の回復をして、時々リオの怪我も
治療してくれたので探索や鍛えるのには困らなかった。
では何故、柔道着姿の男はあそこまでボロボロだったのか…


「…まぁ、人にはそれぞれ事情があるわよね」

考えるのを放棄し、リオは目の前の物をじっと見つめる。


「ここが遺跡ね。周りにポケモンの像があるけど、守り神なのかしら?」

遺跡の周りには、丸い形をしたポケモンの像が4体ある。
水をかけたら今にも動き出しそうだと思いつつ、リオは遺跡の中へと入って行く。


「え、古代の…城?」

視界の隅に入ったプレートを見て、リオは目を丸くした。
壁に取り付けられた比較的新しいプレートには【古代の城】と彫られていた。


(…そっか、遺跡自体が城と呼ばれているのね)

遺跡と城がそれぞれ存在すると勘違いしていただけに、少々気恥ずかしい。
リオは頬に集まった熱に気付かないフリをして奥へと歩を進める。

流砂を避けながら慎重に歩いていると──階段近くに人が集まっているのが見えた。


「あ、」

声を掛けようとしたが、口を噤んだ。
何故ならウサ耳付きの黒のパーカーを着た少女が人々を縄で縛り、同じくウサ耳付きの白のパーカーを着た少女が屈んでメグロコに何かを話していたからだ。


(怪しい。物凄く怪しい)

リオが呆然とその場に立ち尽くしていると黒のパーカーの少女が振り返った。
リオの姿を確認して首を傾げた──と思ったら、突然リオを指差した。


「あーっ!!お前、標て「お喋り厳禁」…あっ、そうだった」

白のパーカーの少女に言われ、黒のパーカーの少女は慌てて口を手で隠す。


「私、貴女とどこかで会った?」

全く面識は無いが相手は自分の事を知っている感じだった。
しかしリオが問い掛けると、黒のパーカーの少女は思いっきり首を横に振った。
ワケが分からない──そんな思いで少女を見ていると、メグロコに話し掛けていた少女が立ち上がった。
近付いて来る少女に身構えるリオ。


「私はC」
「!わっ、私はA!」
「「2人合わせて最年少・トレジャーハンター!」」

しかし2人は突然自己紹介を始めた。
突拍子も無い行動に、リオはただ「はぁ……?」と呟くしかなかった。





明けまして、ならぬ明け暮れておめでとうございます。
私情なんですが、今年は色々な事があったため暫く小説を書く気になれませんでした…せめて連絡だけでも
しようと思ったんですが、その気も起きず…
更新停止はしないのですが、小説のストックが無くなりスランプ気味のため、今後の更新が本当に不定期になる事になりました。
今回の様に更新が1ヵ月以上遅くなる事もあれば妙に早くなる事もあります。
更新次第、今まで通りタイトルの所に日付を書くので参考にして下さい。

長くなりましたが、今後も宜しく御願いします。
それでは次回もお楽しみに。

Re: 88章 トレジャーバトル開始! ( No.168 )
日時: 2018/05/01 20:24
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

「…トレジャーハンターの割には薄着だけど」

呆気に取られたリオが辛うじて出せた言葉がソレだった。
しかしリオの言う様にトレジャーハンターを名乗る割に2人の服装は黒のパーカーにスカート、白のパーカーにショートパンツと、冗談かと思ってしまう程に軽装だ。


「ふっふっふ!A達はトレジャーハンター界に革命を起こす、オシャレなトレジャーハンターなのだ!」
「だからこのカッコでも問題ないもん」

胸を張って断言されてしまったら、こちらからは何も言えない。
そもそも、今日初めて会った人間にこれ以上何かを言う必要も無いとリオは自分に言い聞かせた──突っ込んだら負けだ、と。


「…貴女達がトレジャーハンターなのは分かったわ。でも、どうしてその人達を縄で縛っているの?」
「だって、こいつ等が邪魔して来たんだもん!」
「邪魔?」

リオが首を傾げると、縛られていた女性が声を荒げた。


「私達は注意しただけよ!子供2人だけで奥に進もうだなんて、危険すぎるわ!!」
「あー、もー!五月蝿い五月蝿い!!A、お前等みたいに子供子供言うヤツ大っ嫌い!トレジャーハンターが
 お宝目指して奥に進む事の何が悪い!」
「Cも、Aを馬鹿にする人間は嫌い。本当は許せないけど、大きな騒ぎを起こせば迷惑かけちゃうもん…だから、
 縛るだけにしてあげたのに」

地団駄を踏むAと、じとりと睨むCに女性は唇を噛む。


「成る程ね。私も子供だし、貴女達の気持ちは分かるわ。でも、その人達は解放してほしいわね」
「解放しろと言われて、はいそうですねって解放するAとCじゃないぞ」
「ええ。だからこういうのはどう?」

リオは不敵に笑ってボールを取り出してAに見せた。


「今から私と貴女がポケモンバトルをする。バトルで勝った方が、この人達を好きに出来るって事にしない?」

リオが出した提案に縛られている大人達が反応する。


「何言って…!?勝手に決めないで!!」
「そうだ!早くこの縄を解きなさい!!」
「いくら子供でも、こんな事をして許されると思っているのか!?」

騒ぐ大人達の事など素知らぬ顔でAはリオに笑いかけた。


「あははっ!金髪、お前おもしろいなっ!」
「金髪って言わないでよ。私にはリオって名前があるんだから」
「そっかそっか!それならリオ!お前にトレジャーバトルを申し込む!」

すっかり上機嫌になったAが口にした名前にリオは首を傾げる。


「トレジャーバトルって何?」
「ふっふっふ!教えてやろう!C、説明よろしく!」


(…って、貴女が説明するワケじゃないのね)


若干呆れるリオ。
そしてAに促されCはバトルの説明をし始めた。


「これからCが宝を埋めに行く。バトルは3分後に開始する。バトルをしながら遺跡に隠された宝を探して、
 先に宝を見付けてCの所に持って来た方が勝ちとなり、宝も見付けた方の物となる。だから使用する子達が
 戦闘不能になっていても、宝を持って来れば勝ち」
「そういうワケだからバトルを避けて宝を探しても良いけど、相手のポケモンに妨害される可能性があるから、
 戦闘不能にしてから探した方が効率は良いぞ!」


(勝敗が宝で決まるなんて変わってるわね…でもトレジャーハンターを名乗る、この2人らしいバトルね)


「OK、受けて立つわ」
「あはっ!そうこなくっちゃね!」
「リオが負けたらこの人間達は好きにさせてもらう」

Cはそう言って大人達を指差した。
先程まで抗議の声をあげていた大人達だが、騒がれると面倒…という理由で全員ガムテープで口を塞がれて
しまった為、唸る事しか出来ない。


「…そうだ、2人に忠告。いつ新しい流砂が出来るか分からないから、無闇にこの中を走り回るのは危険。
 移動する際は駆けずに早歩きでお願い」
「うん!分かった!」
「私にまで教えてくれるなんて親切ね」
「トレジャーバトルは平等、敵味方関係無いもん。じゃあ、隠しに行く前に…」

Cはモンスターボールを投げた。
くるりと一回転して、地面に着地してお辞儀をしたのは左右に髪を分け、リボンを付けた少女の様な容貌の
ポケモン──操りポケモンのゴチミルだ。

そしてCは重そうな、黒光りした球体を地面に置いた。


「2人にはCが宝を隠し終わるまで目、瞑っててもらう。良いよって言うまで目を開けちゃ駄目だからね。
 もし言う前に目を開けたりしたら…」

言った直後、ゴチミルの力で球体が浮き上がり、音を立てて壁にぶつかった。
その場に居る全員が粉々に砕けた球体とゴチミルを交互に見る。


「ゴチミルの痛いお仕置きが待ってるもんね」

Cの言葉に目を細め妖しい笑みを浮かべたゴチミルに、全員沈黙する。
そしてAとリオを入り口前に移動させてから、Cは持っていたストップウォッチをゴチミルに手渡した。


「じゃあ、目、瞑って?」

首を傾けて言ったCにリオとAは慌てて目を閉じる。
どの宝を隠すか迷っているのか、将又お目当ての宝が出て来ないのか、色んな物を掻き集める音がする。

しかし隠す宝が見付かったのか、ギュッと紐をきつく縛る音がした。


「…よし。今から宝を隠しに行くから、ゴチミル、見張りお願い」

砂を踏み締める音の後、階段を下りる足音が微かに聞こえた。
Cが居なくなった事を確認してから、リオは隣に居るであろうAに話し掛ける。


「…気付いたんだけど、このバトルって私が圧倒的に不利よね」
「何で?」
「貴女達はトレジャーハンターで宝探しは得意だろうし、あの子が宝をドコに隠すか、貴女なら見当はつくんじゃ
 ない?双子みたいだし」

サラサラと砂が落ちる音が近くで、遠く(恐らく階段近く)で大人達のくぐもった声が聞こえる。
Aは少し唸ってから長い溜め息を吐いた。


「双子…双子かー」
「違うの?性格はともかく、あんなにそっくりなのに」

リオが言うと、Aは再び唸り始めた。
大人達のくぐもった声は未だに聞こえるが、砂の落ちる音はいつの間にか止んでいた。


(聞かない方が良かったのかしら)


そう思い「答えなくて良い」とリオが言おうとした時、階段を駆け上がる足音が右側からした。
大人は全員縛られて身動きの取れない状態、リオ達はゴチミルに監視されている身。
今、自由に身動きを取れるのはCだけだから、当然足音は彼女の物だろう。


(…でも、いくら何でも戻って来るの早すぎない?)


本当に宝を隠したのかと疑ってしまう程に、Cの帰りは早かった。


「はぁ、はぁ…お待たせ。目、開けて良いよ」

疑問は残っていたが、バトルに集中すべくリオは疑問を頭の片隅に押しやる事にした。
目を開け、互いにボールを手に取る。


「制限時間は無し、使用出来る子は2匹までだよ」
「「了解」」
「じゃあ、バトル始めっ」

Cの合図で2人は持っていたボールを投げた。


「お願い、バルチャイ!」
「遊びの時間だよ!クマシュン!」

リオの1匹目はバルチャイ。
対するAのポケモンは鼻水を垂らした、クマのぬいぐるみの様なポケモン──氷結ポケモンのクマシュンだ。


「凍っちゃえ!冷凍ビーム!」
「砂を巻き上げて!」

クマシュンは勢い良く鼻水をすすると、凍える様なビームをバルチャイ目掛けて発射する。
バルチャイは慌てずに羽撃いて周囲の砂を巻き上げる。
巻き上げられた砂は《冷凍ビーム》で凍りつき、薄い氷の壁となった。


「ふっふっふ!そうやって防御される事は想定内!…って、あれっ?」

砂と泥を含んだ氷の壁は茶色っぽく、バルチャイの姿を完全に隠してしまった。


「むむっ…姿は見えないけど標的は多分、まだ壁の向こうだよっ!確保!」

クマシュンは流砂に注意して早歩きで氷壁へ向かい、裏側を覗き込んだ。
しかしバルチャイの姿はどこにも無い。


「騙し討ち!」
『!?』

頭を翼で叩かれ転けるクマシュン。
クマシュンは何が起こったのか分からず頭を抑える。
しかし入り口前の壁に寄り掛かってバトルを眺めていたCには、状況が読み込めていた。


(リオ、上手い。クマシュンが裏側を覗いた丁度そのタイミングで、バルチャイに目配せして壁をぐるりと回らせてクマシュンの背後を取った)


「今のうちに…行くわよ、バルチャイ!」

リオはクマシュンの横を通り過ぎ、階段を駆け下りる。
バルチャイも飛んでリオの後に続く。


「くそーっ!待て待てー!!」

鼻水を出してボーッとしているクマシュンを抱き上げてAが後を追う。
CはそんなAの背中を目を丸くして見送った。


「いつもなら、じっくり調べてから別の場所に移動するのに…Aらしくない」
『ゴチュ』
「…うん。でも、楽しそう」

ゴチミルに頷いて、Cは緩みそうになる頬を手で隠した。

Re: 89章 飛び込め! ( No.169 )
日時: 2018/05/01 20:28
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)


リオは途方に暮れていた。
クマシュンにダメージを与え一足先に地下1階に来たまでは良かったが、階段を降りた正面は壁、右に道は無く
左奥に流砂があるだけで他に何も無かったからだ。
隠し扉でもあるのかと正面の壁を叩いてみたが何も起こらず、ならば天井に隠し階段があるのかとバルチャイに
調べてもらったが、こちらも何も無かった。


そしてリオに残された最後の選択肢は──流砂に飛び込む事だった。


しかし落ちた先に何があるか分からない上、流砂自体が危険だ。砂から抜け出せず、そのまま…という可能性も
無いとは言い切れない。
ゲームの主人公なら迷わず飛び込むだろう。しかしコレは現実で、ゲームの様に気軽に流砂に飛び込むなど
自殺行為だ。


「まずはリュックを流砂に落として、安全を確認してから行こう」

他に道は無いのでCがこの流砂を通過したのは間違い無いが、念には念をだ。
バルチャイが頷いたのを確認して、リオはリュックを流砂の穴に落とした。


『「……」』

リュックはグルグルと回転しながら砂に呑まれていき、数秒後〝ボスッ〟という音が穴から聞こえて来た。


「…リュックが落ちたにしては音が軽い気もするけど、何かがクッションの役目を果たしたのかも。何にせよ、
 落ちても大丈夫そうね」

バルチャイに声を掛けた時、左側から何かが飛んで来た。
間一髪、飛んで来た物に気付いたリオは地面に伏せた。
リオの頭上を通過して飛んで来たソレは壁に当たり、氷の壁へと変貌させた。


「ココを氷の城に作り替える気なのかしら…」
「ふっふっふ!追い詰めたぞリオ!」

服に付いた砂を落としながら凍った壁を見ていると、Aが降りて来た。
最後の階段を1段飛ばして降りた際、振動でAに抱かれたクマシュンの鼻から新しい鼻水がだらりと垂れた。


「まさかバルチャイじゃなくて私を狙ってくるなんてね」
「ゴメンね!間違えた!」

明るく謝ったAにリオは微妙な顔をする。
間違えで済ますには余りにも危なかったからだ。
そんなリオを見たAは気を取り直す様に咳払いをし、天井を指差す。


「よーし!今度は間違えないぞ。鼻水の一部を上に飛ばして、凍える風!」

クマシュンは地面に降りると命令通りの手順を踏んだ。
すると空中で分解した少量の鼻水は冷気で氷柱へと変わり、バルチャイへと降り注いだ。
背中と翼に氷柱が刺さり、バランスを崩したバルチャイは地面に落ちた。


「バルチャイ!」
「ふっふっふ。見たかクマシュンの疑似《氷柱落とし》!本物はまだ覚えられないけど、今のはグサッと
 効果抜群だね!」

得意気に胸を張るAと鼻水を出してボーッとしているクマシュンを見て、リオはバルチャイの怪我を確認する。


(元になった水分が少量だから翼が貫かれる事は無かったけど、このダメージはまずい。回復したいけど、
この階じゃ無理だわ)


回復技はこちらの素早さが高い時、相手と距離が離れている場合で使うのが1番ベストだ。
何故なら回復に専念すると隙が生まれるし、相手に攻撃するチャンスを与えてしまうからだ。


(バルチャイは今の攻撃で翼を痛めてすぐに動けそうにないし、こんな狭い所で回復してもあっという間に距離を
詰められて……やられる)


リオは流砂を見遣る。
周りの砂を呑み込んでいく穴は不気味な程、真っ暗だった。


「トドメだよ!傷口に染みちゃえ!塩水!」

鼻水をすすり口から塩水を噴出したクマシュン。
全身に傷を負っている今、あんな物を喰らったら痛みが増幅するだけでなく細菌が繁殖し、傷の治りが遅くなる。
そうなったら広い場所で《羽休め》をして回復に専念しても、いつも以上に時間が掛かるだろう。


結局、最後に辿り着く結果は同じになってしまう。


(迷ってる場合じゃない、か)


「バルチャイ!!」

リオはバルチャイを抱き上げると流砂に飛び込んだ。
突然のリオの行動に驚いたAとクマシュンの動きが止まる。


瞬きをして再び目を開いた時には、既にリオ達の姿は残っていなかった。

Re: 90章 クマシュンの弱点 ( No.170 )
日時: 2018/05/01 20:35
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

暗かった場所から明るい場所に出た。
瞼を通して光を感じて目を開けたと同時にリオの体はゆっくりと後ろへ傾く。


「わっ、わゎっ…!」

バランスを保とうと足に力を入れようとしたが、何故か足が動かない。
手でバランスを取りたいが腕にはバルチャイを抱えているし、疲れて動けないバルチャイを手放す事なんて
出来ない。

葛藤するリオ。しかし時間は待ってくれる筈も無く──リオの体は後ろへと倒れた。


「…っ」

次に来る痛みに備えて目を瞑り歯を食いしばったリオだったが、痛みは無く、
耳に届いたのはボスッ…という鈍い音だけだった。


(積もりに積もった砂がクッションの役目をしたみたいね)


髪に付いた砂を見て赤面する。
足が動かなかったのは砂に足を捕られていたからだし、倒れても問題なかったのに、1人慌てていた自分が
恥ずかしくなり無言で砂の中から出る。

冷静になったら急に靴の中に入った砂を感じて、些か気分が下降する。


「靴は後で良いわね。バルチャイ、羽休め」

真上から攻撃されては堪らない。
落ちて来た場所から少し離れた所でバルチャイを降ろす。
バルチャイは翼を畳んで深呼吸すると、回復に専念する為目を閉じる。

バルチャイの傷が少しずつ塞がり、目に活力が戻って来た──そう思った矢先、


「そのままずっと休んでて良いよ!冷凍ビーム!」

そんな叫びと共に先程まで居た場所から冷気が飛んで来た。
《冷凍ビーム》が下方に発射された事に気付き、リオはバルチャイのボールを掲げた。


「戻ってバルチャイ!」

瞬時にバルチャイを戻した事で《冷凍ビーム》は地面に当たり、バルチャイが居た場所を凍らせた。


「むむっ…!人の厚意は素直に受けないとダメなんだぞっ」
「その厚意で脚を氷漬けにされたくないも…のっ!」

不機嫌顔で歩いて来たAとクマシュンにそう返すと、用意していたボールを投げる。
ボールの蓋が開きクマシュンの前に現れたのはヒトモシだ。


「お願い、ヒトモシ!」

頷き返したヒトモシに親指を立てるリオ。
Aは傷が付いたクマシュンの身体を見た後に無傷のヒトモシを見る。


(ただでさえ熱くてクマシュン本来の力を発揮出来ないのに、相性最悪の相手と戦えるワケない!)


「火の用心だよクマシュン!一時退却!」

そう判断したAはパーカーの中からボールを取り出してクマシュンを戻そうとする。
しかしボールの赤い光──正確には赤い光の影がクマシュンの影と重なった、その瞬間。

赤い光は弾かれて、消えてしまった。


「戻せない!?」

初めて見る現象に驚きを隠せないAに、リオが簡単に説明をする。


「私のヒトモシの特性は【影踏み】。残念だけど一部の技や持ち物を持っていないポケモンは交代出来ないわ」
「ぐぬぬ…しまった!ボスの話をすっかり忘れてた!」
「ボス?」

Aが口にした第三者の存在に首を傾げる。
トレジャーハンターの世界の事はリオにはよく分からないが、AとCにはボスが居るのが分かった。
しかし同時に、何故今このタイミングでその名前が出たのか、という疑問が生まれた。


「こうなったらヤケだよ!傷口…は無いけど、染みちゃえ!塩水!」

詳細を聞こうとしたがAが早口に攻撃を指示して、クマシュンも鼻水をすすって塩水を噴射して来たので
リオも思考を切り替える。


「対抗して!目覚めるパワー!」

冷気を帯びた水色の球体が塩水とぶつかり、水は急激に冷やされて氷へと変わり、音を立てて地面へと落ちた。


「一方的に炙られて堪るかー!!染みちゃえ!塩水!」

出て来た鼻水を再度すすり塩水を噴射したクマシュン。
間一髪攻撃を躱したヒトモシを褒めながら、リオの中である可能性が確信へと変わった。


「目覚めるパワー!」

数個の球体全てがクマシュンの顔に当たったが、クマシュンには効果はいまひとつで、鼻水がカチコチに
凍っただけだった。


「ふっふっふ!残念、クマシュンには効果はいまひとつだ!」
「本当にそうかしら?」

意味ありげに笑ったリオにAは口を閉ざす。
リオの言葉にどんな意味が隠されているのかは気になるが、攻撃の手を緩める気は無い──そう結論づけて
Aは勢い良くヒトモシを指差す。


「いい加減決めるよ!染みちゃえ!塩水!」




 。


勢い良く言ったのは良いが、クマシュンは一向に攻撃しない。
自分の気持ちとは裏腹に動かないクマシュンにAは頬を膨らませる。


「もう!クマシュン、攻撃だってば!」
「やっぱりね」
「やっぱり?どういう事だリオ!」

「クマシュンは攻撃する前に必ず鼻水をすすっていて、次に繰り出される攻撃は全て口から出されていた…そこで
 私は鼻水が技の源になっていて、鼻水が喉を通り口の中に出る事で、初めて口から攻撃を出せるんじゃないかと
 思ったの。実際に技を出せないみたいだし、私の読みは当たっていたみたいね」

そう言い終えたリオは凍った鼻水をどうにかしようと奮闘しているクマシュンを見遣る──
少しだけ可哀想な事をしたと思うが、このバトルは普通のバトルと違って大人達の運命が懸かっている。

手加減は無用だと考え直した。


「ひっ、卑怯だぞ!」
「相手の行動を把握して利用するのも戦術の1つよ。弾ける炎!」

ヒトモシは火花を帯びた紫色の炎を放つ。
技を出せない上に凍った鼻水の重みで身体がふらついていたクマシュンは為す術無く全身で炎を浴びた。

バルチャイから既に攻撃を受けていたクマシュンは効果抜群の炎技を受けて、目を回してその場に倒れた。


「クマシュンはもう戦えないみたいね」
「おつかれ!寝てて、クマシュン」

クマシュンを戻したAはボールを手に取るが、別のボールに変えた。


「ここはリフォーム対象外だし、この子で勝負だよ!飛んで行くよ、チルット!」

Aはボールを持った腕を振り回し、その勢いのままボールを高く投げた。
Aの2番手はわたあめの様な、綿雲の様なふわふわした白い羽を持つポケモン──綿鳥ポケモンのチルットだ。


「待ってろー、リオ!このチルットで形勢逆転してやるんだから!」

自信満々に胸を張ったAにリオとヒトモシは警戒する。



一方その頃。



「まさかとは思うけどチルットは出してないよね、A…?この場所はあの子にとって物凄く不利な、最悪の
 ステージなのに」


ゴチミルの身体に付いた砂を払いながら、不安そうにCはそう呟いていた。

Re: 91章 泥と変化 ( No.171 )
日時: 2014/11/04 14:20
名前: 霧火 (ID: ow35RpaO)


「チルットに弾ける炎!」
「躱して木の実よぉーい!」

チルットは飛んで来た炎を躱すと羽の中に嘴を突っ込み、紫色のイボイボが付いた木の実を取り出した。


「何をする気…?」
「失敗は許されない一発勝負!きのみパワーを喰らえ!自然の恵み!」

チルットが木の実を両脚で勢い良く掴むと木の実が光り輝いた。
そして光った状態の木の実を地面に刺すと木の実は弾け飛び、代わりにこの遺跡には場違いな岩が出現して
ヒトモシを突き上げた。


「ヒトモシ!!」
「《自然の力》は持っている木の実の種類でタイプも威力も変わるのだ!ちなみに今使ったウイの実の場合は、
 岩タイプの攻撃になるよ!」


(つまり木の実が無くなれば使えなくなる技なのね。《リサイクル》を覚えていたら話は別だけど、Aは一発勝負と言ったから恐らく覚えていない。…でも空を飛べる向こうが優勢なのは変わらない)


「お返しよ!弾ける炎!」

突き上げられた事により、飛んでいるチルットの真上を取ったヒトモシは効果抜群の技を受けた直後とは思えない速さで炎を放った。


『チィッ!』

運良く攻撃が急所に当たったが、チルットは地面に叩き付けられる前に体勢を立て直す。


「やったな!外さないよ!燕返し!」

Aの命令と同時に地面スレスレに居たチルットの姿が一瞬で消える。
ヒトモシが目の前に姿を確認した時には、小さな嘴が身体に減り込んでいた。


「目覚めるパワー!」

痛みに顔を歪ませながらもヒトモシは攻撃を受けた身体が飛ばされる前に冷気を纏った球体を放つ。
しかしチルットは直ぐさま上昇して攻撃を回避した。


「至近距離からの攻撃だったのに…やっぱり簡単には当てさせてくれないわね」

落ちて来たヒトモシを受け止め、リオはAの頭の上で毛繕いをしているチルットを見る。


(毛繕いなんて随分と余裕ね…どうせバトルで汚れるのに)

そう思いながらリオはヒトモシを降ろし、戦いの邪魔にならない様に後退する。


──ぐちゅり。


「?」

まるでベトベターを踏んだ様な音と感触に足元を見ると、泥の中に片足を突っ込んでいた。


(何でこんな所に泥が?…あぁ、さっきの攻防で飛び散った火の粉とヒトモシの蝋燭の熱で地面に張っていた氷が
溶けて泥になったのね)

視野を広げてみると、他にも泥になっている箇所をいくつか確認出来た。


(でもこの泥をバトルに活かす事は出来ないわね)

相手が接近戦タイプの飛べないポケモンだったら、接近した際に泥をかける・投げる等して怯ませたり
目眩しとして使う事が出来たが、相手は至近距離の攻撃も躱したチルットだ。


「クマシュンみたいに攻撃に癖があれば隙をつく事が出来たのにね」
「残念、チルットにそんな癖は無い!上空ドラゴン注意報!ドラゴンダイブ!!」
「煉獄!」

チルットは青い龍のオーラを纏い、急下降する。
龍のオーラから殺気に似た何かを感じ取ったヒトモシは攻撃も回避する事も出来ず、チルットの体当たりを
諸に受けた。
リオは衝撃で起こった砂埃の中に、小さなヒトモシの姿を確認した。


「大丈夫!?」

飛ばされて来たヒトモシに駆け寄って傷を確認する。
直撃はしたがダメージは大した事無さそうだ。タイプが一致していなかった事と、地面の砂がクッション代わりになったのが救いだったらしい。


「あと1歩分後ろに飛ばされてたら危なかったわね」

傷の浅さに安堵しつつ、リオはヒトモシに再び汚れた靴と泥を見せる。
蝋燭が濡れてしまっていたら炎を灯せないし、蝋燭の炎を種火にして技を出す事も儘ならなかったかもしれない。そうなっていたら、それこそ絶体絶命だった。


「怯みが発生するなんて、ますます不利になって来たわね」
「ふっふっふ。風はA達に向いている!外さないよ!燕返し!」
「…ごめんねヒトモシ。耐えてから、目覚めるパワー!」

ヒトモシに《燕返し》を回避する術は無く、自分にもどうする事も出来ない。そんな歯痒さからリオはヒトモシに謝り、攻撃の準備をする様に指示を出す。
頷き、すぐに攻撃が出来る様に冷気を纏った球体を空中で待機させる。

チルットの姿が消えた──


(また正面から来る!)

身構えるリオとヒトモシ。そして予想通り真正面にチルットが現れた。
しかしチルットは攻撃をせずに上昇して迂回、ヒトモシの後頭部を攻撃した。
リオがAの様子を盗み見ると明らかに動揺しているのが分かった。背後から攻撃したのは作戦では無く、
チルットの独断の様だ。
しかし攻撃は命中したので良しと考えたのか、Aは口許に弧を描いた。


「やったやった!これはもうAの勝ちじゃないかな!?」

ぴょんぴょん跳ねて喜びを表現するA。
一方リオはチルットの動きが変化した原因を推測する。


「まさか、あのチルット…」

リオは自分の推測が当たっているのか確認するため、口を開いた。


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