二次創作小説(紙ほか)

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ろくきせ恋愛手帖 (祝☆完結!)
日時: 2024/07/16 22:34
名前: むう (ID: X4YiGJ8J)
プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode=view&no=18233

 「君に出会えてよかった」

 
 ********


 こんばんにちは、むうです!
 東方、鬼滅、花子くんにハマっている高1女子です。
 知ってるよーって方、いつも応援ありがとうございます。
 誰コイツって方、この機に是非名前を覚えて帰ってください。

 この小説は、六人の軌跡のスピンオフです。
 前作は参照のURLや、「完結小説図書館」にて読むことが出来ますよ。

 タイトルにもある通り、この小説はキャラ恋愛関係を始め、
 キャラの過去や裏話をぎゅっと集めた短編集になっています。


 また、話にはイメージ曲をつけているのもあります。
 私のおすすめの曲なので、聴いてもらえたら嬉しいです。

 あなたの推しの話が載るかも?
 楽しんで読んで頂けたらキャラも私も幸いです。
 では、短編集も完結までどうぞよろしくお願いいたします。



 〈作者からのお願い〉

「脱! 台本書き」目指して現在、セリフ量<場面描写の構成を頑張る日々。
 まだまだ普通の文章にはなかなかできず、台本のようになってしまうことがあります。
 ちょっと読みにくいかもしれません。すみません。
 温かい目で見ていただけると幸いです。


 〈注意〉

 ●スマホだと読みにくいかも
 ●ネタバレ入るかも
 ●オリキャラあり
 ●時々東方キャラ登場


 〈ルール〉

 ●拡散〇
 ●不定期更新
 ●中傷行為や荒らし、作品に対してのネット上での暴言×
 ●キャラの貸し出し〇(その場合コメント)
 ●また、ネット上での自作発言×
 ●リクエストなどはコメントにて
 



 上を読んで、OKな方はゆっくりしていってね!



 ▼むうの雑談掲示板もあるヨ。

「スレタイなんて知らないよ」

「【地縛少年花子くん】好きな人語ろ!」

 良かったらチェックしてみてね。

 
 ▼占いツクールでも執筆してるよ。

 よかったら『紅羽むう』で検索してみてね。
 評価してくれると嬉しいです。


 ▼2020年冬☆小説大会入賞!!

 ほんっとうに感謝です!
 ありがとうございました!
 受験受かりました!

 
  ーーーーーーーーーーーーーー

 【目次】♪→イメージ曲




 ◆◇企画コーナー◇◆

 キャラに○○してみる>>09>>53>>55>>78
 むうのおススメ本紹介>>13
 英語で鬼滅・花子くん!>>27
 ろくきせを知ったら知って欲しいもの>>96
 ろくきせ閲覧数10000突破記念>>118>>120>>121

 
 ◆◇むうの執筆裏話◆◇

 第1回「むうのリスタート」>>36
 第2回「遅くなりましたが受賞の言葉」>>34
 第3回「お知らせ! 必読お願い!」>>38
 第4回「むうと柱とカオ僕と」>>40
 第5回「花子くん考察と2話までの裏話」>>46
 第6回「第1回☆謝罪フェスティバル!!」>>58
 

 ◆◇オリキャラ設定集◇◆

 瀬戸山亜門>>31
 七不思議8番>>43
 

 ◆◇本編◇◆

 一気読み>>01-

☆1.トモダチ☆(by睦彦)

 ♪from Y to Y/初音ミク

 登場キャラクター紹介>>01
 時系列の図>>10
 Prologue>>02
 第1話「出会い」>>03-05
 第2話「嫌い。」>>06-08
 第3話「合同任務」>>11-12 >>14
 第4話「本当の気持ち」>>15-16
 第5話「早すぎる別れ」>>17

★2.踊り場の花子★(by花子隊)

♪春を告げる/Yama

 Prologue>>18
 第壱の怪「となりの怪異くん」>>19-21
 第弐の怪「……嘘でしょ!?」>>22-24
 第参の怪「黒札と白札」>>25-26
 第肆の怪「花子VS花子」>>28>>29>>32
 第伍の怪「月原八雲」>>35>>37>>39>>41-42


 ☆3.快晴☆(by有為)

 ♪快晴/orangestar

 登場キャラクター紹介>>80
 第1話「忌子」>>81>>82
 第2話「生きる意味」>>83>>84>>85
 第3話「懐古」>>86-89
 第4話「夜月家と宵宮家」>>90>>91>>92>>93>>94
 第5話「快晴」>>97

 
あとがき>>125
 
 
 

 
 
 

 
 2020.8.21 スレ立て、執筆開始
 2020.8.30 第1話執筆開始
 2020.9.01 第1話完結
 2020.9.02 第2話執筆開始
 2020.9.22 第2話完結
 2020.10.23 キメツ学園執筆開始
 2020.11.09 受験勉強のため更新停止予定。
 2020.02.13 ろくきせシリーズ一周年!! いえーい!
 2021.09.04 本編完結。
 

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.81 )
日時: 2020/12/30 17:08
名前: むう (ID: mkn9uRs/)


 
 ボクは自分が嫌いだった。
 今もどこかで人と自分を比べ、自分の無力さに打ちひしがれている。
 でも、あのときの自分は今以上に惨めな気持ちで。


 ―ボクは陰陽師の家系だ。

 陰陽師というのは、鬼殺隊と同じく政府非公認の職業で、地方で鬼殺隊に代わり鬼を狩る仕事。
 ボクの家である宵宮家は、陰陽師の御三家と呼ばれ、数ある陰陽師の家系の筆頭に立っていた。

 そんな陰陽師には何かと決まりが多い。
 その中でも特に重視されたのが、『忌子』というものだった。

 普通陰陽師になれるのは男だけであり、陰陽師という職業では男が絶対優位。
 よって、女が一人でも生まれれば忌むべき子供として、すぐに処分されることになっていた。


 しかしボクは生かされた。
 早くに病死してしまった両親の代わりに世話をしてくれた茂吉お兄ちゃん。

『家の決まりより妹が何倍も大事だ』

 と、何十年も守られてきたルールを破り、ボクを活かしておいてくれたのだ。


 でも。
そんなお兄ちゃんたちに、同じ陰陽師の人々はいい印象を抱かなかった。


『なんてことを。あの少女は忌子だというのに』
『これだから宵宮家は』


 と口々に暴言を吐き、石を投げつけ、非難を浴びかけた。
 小さい時のボクも、親戚一同から罵声を投げかけられた。


 ずっと我慢していたけれどとうとう耐えられなくなり、ある日お兄ちゃんにすがりつき言った。


 有為「なんでお兄ちゃんは、ういをころさなかったの?」
 茂吉「……」
 有為「かおもあわせてもらえない。おはようさえ言ってもらえない」
 十郎「有為、人の事を気にしなくてもいいんだよ。俺は有為が生きていることが嬉しいんだ」


 有為「なんで、おんみょうじは女の人を殺すの? 鬼も人間も殺すの?」
 茂吉「なんでだろうね」


 茂吉お兄ちゃんは困ったように笑って、そっとボクの頭をなでてくれた。
 十郎お兄ちゃんはいつも、ボクの両手をそっと握ってくれた。


 十郎「大丈夫、これから何があっても、お兄ちゃんだけは有為の味方だ」
 有為「みんながわたしを嫌いなのに?」
 茂吉「お兄ちゃんは、絶対有為を嫌ったりしないよ」


 その言葉だけが、子供の頃唯一信じられる言葉であり救いだった。

 ボクは忌子だ。
 生きていてはいけない人間だ。

 なんで自分が生かされたんだろう。
 なんでお兄ちゃんたちは、こんな自分を嫌ったりしないんだろう。


 陰陽師というのは、鬼も人間も殺してしまうのか。
 なんで、家のルールが絶対で、人の命なんて、何とも思ってないのか。

 お母さんも、おばあちゃんも、なぜ子供を産んだらすぐに死んでしまうのか。
 忌子ってなに?
 女に生まれたから、陰陽師の家系に嫁いできたからってだけで、死ななきゃいけないの?


 そんなの…どうすればいいの?
 

 有為「わたしはいみご…みんなからきらわれてる……いっそ、死ねたらよかったのに……」


 家族の愛情で生かされたって、自分の立ち位置は変わらなくて。
 声もかけてもらえない、目も合わせてもらえない。
 同い年くらいの陰陽師つながりの子供たちは、揃って自分から逃げていく。



 陰陽師は人を助ける立派なお仕事って聞いたけど。
 そんなの、真っ赤な嘘だったってことなの?


 ―それはきっと間違っている。


 陰陽師だからって、女だからって、そんな理由で人を殺すなら。
 ボクのお兄ちゃんもいつかは、自分を捨ててしまうのだろうか。


 有為「お兄ちゃんたちは、わたしが好き?」
 茂・十「大好きだよ」


 ……本当かなと疑ってしまう毎日だった。
 本当の幸せとか、本当の愛情というものがなんなのか分からなくて。

 ただ、自分がここに生きていられる。
 そのことだけが信じられることだった。

 

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.82 )
日時: 2021/01/02 12:28
名前: むう (ID: mkn9uRs/)


 そんな夏のある日のこと。
 十郎お兄ちゃんは急に遠い場所へ任務に赴くことになった。
 
 なんでも、ご先祖さまが封じたとされる六新鬼月ろくしんきづきという鬼。
 そのの封印が解け始めているらしい。
 茂吉お兄ちゃんはボクの世話のため、家に残ることになった。

 十郎「じゃあ、行ってくるけど戸締りよろしくね」
 茂吉「OK。十兄もケガしないようにね」
 十郎「大丈夫だって。怪我したところにヨモギを添えるくらい早く終わらせてくるから」

 有為「じゅうろうお兄ちゃん…どっか行くの?」
 十郎「うん、ちょっと厄介な任務に行くことになったから。有為は茂吉と待っててな」
 有為「わたしも一緒に行く!」

 十郎「ダメだよ、有為は女の子なんだから。それに、一緒に行ったらまた何か言われちゃうよ」
 有為「でも、でも……」
 茂吉「お兄ちゃんなら大丈夫だ。絶対戻ってくる」

 十郎「んじゃ、二週間くらい戻れないから、後頼むよ」
 有・茂「行ってらっしゃーい!」

 いつかは戻ってくると思っていた。
 本人が絶対戻ってくるって言ったんだから。


 でも、二週間経っても、
 五週間経っても、
 一カ月経っても、


 十郎お兄ちゃんは戻って来なかった。

 


 ***


 有為「……じゅうろうお兄ちゃん、もうずっと戻って来ないね」
 茂吉「……そうだね(米を研ぎながら)」
 有為「いつか、かえってくるよね?」
 茂吉「……うん」


 お兄ちゃんがもう戻って来ないことは、うすうす感づいていた。
 いつも明るい茂吉お兄ちゃんが、ずっと暗い表情をしていたから。

 それでもボクに心配かけまいと笑ってくれる。
 ボクはそんなお兄ちゃんに、何も言えなかった。
 
 生まれた時から、死んだお父さんやお母さんの代わりに世話をしてくれたお兄ちゃん。
 自分の妹を、忌子だとののしられても絶対見捨てたりしなかった。
 
 十郎お兄ちゃんも、茂吉お兄ちゃんもずっと優しかった。
 だからボクも、お兄ちゃんに何かしてあげたいと思った。


 有為「……もきちお兄ちゃん、ういと将棋しよ?」
 茂吉「ルール分かる?」
 有為「うん。わたしね、じゅうろうお兄ちゃんに三回も勝ったの」
 茂吉「そっか。有為は頭いいもんな。やるか」


 本当は茂吉お兄ちゃんは、今すぐにでも十郎お兄ちゃんを助けに行きたかったんだと思う。
 でも小さいボクを置いては行けないから、ずっと家で家事をしてるしかなかった。

 有為「(行きたいなら行けばいいのに)」


 ボクは別に一人でも構わない。
 お兄ちゃんたちがいても、心の中ではずっと独りだったし。
 でもそんな失礼なことを言う勇気は、その時の自分にはなかった。


 有為「……三六銀(パチッ)」
 茂吉「へえ、動かし方もちゃんとできてるな。じゃあ…ほれ、飛車王手」
 有為「いいの? と金で…(飛車ゲット)」
 茂吉「あ」
 有為「ふふふ」


 大丈夫だよ。
 じゅうろうお兄ちゃんは絶対、鬼なんかに負けないから。
 だからこんな遊びも、きっとすぐに終わる。



 そう願ってたけど。


 ****



 ある日、家に鬼殺隊のかくしの人がやってきて、お兄ちゃんとこそこそ玄関で話をした。
 ボクは運悪く、玄関に比較的近い部屋にいたので、バッチリ二人の話を聞いてしまった。


 隠「東京都浅草で…」
 茂吉「……そうですか……」
 隠「……当主様は、立派な最期を遂げられました…」
 茂吉「…………そう、ですか……」


 瞬間、目の前が真っ黒になって、くらりとめまいがした。
 うんと小さい時、十郎お兄ちゃんからもらったお守りの鈴がついた紐を、じっと見つめる。

 その紐が視界の中で揺れて、次第にぼやけた。
 顎を伝う涙を何度も何度も拭って。


 でも。
 これで終わりではなかった。


 当主である十郎お兄ちゃんが例の六新鬼月に取り込まれた。
 それを聞いて、敵討ちのために茂吉お兄ちゃんは家宝の錫杖を掲げて出陣することになった。

 他の御三家の陰陽師たちを従えて、ボクの制止も振り切って、お兄ちゃんは行ってしまった。

 本当に、何度も泣き叫びながら止めたんだ。
 でも、忌子の言葉なんて、誰も聞いてはくれなかった。


 有為『行かないで! このままじゃお兄ちゃんまで死んじゃう!』
 他の陰陽師『このっ、黙れ!(ガツッ)』
 有為『ギャッ』

 茂吉『有為――ッ』

 他の陰陽師『さあ行きましょう茂吉様。こんな忌子の戯言など必要ありません』
 茂吉『でも、』
 有為『お兄ちゃん――!』
 他の陰陽師『この忌々しい忌子め! お前がいるから鬼が寄ってくるのだ! はよ去らんか!』


 分かってたつもりだった。
 なんで…なんでみんな、間違ってるって思わないんだろう。
 
 同情なんてしてくれなくていい。
「分かるよ」「辛かったね」なんて死んでも言われたくない。
 でも、少しはボクのことを、普通の人間だと見てほしかった。


 ただ、それだけなのに。



 ****


 茂吉お兄ちゃんも、十郎お兄ちゃんと同じく、鬼に取り込まれたと知った。
 ボクは心底腹の底が煮えくり返るくらいに怒り、そして悔しさに潰されそうな日々だった。

 鬼殺隊の隠の人が、十郎お兄ちゃんの時のように家を訪ねて来た。
 

 隠「…すみません。茂吉様は、立派な最期を遂げられました」
 有為「………」
 隠「有為様、気持ちを強く持っていてくださいね。色々苦労されてるみたいですが」
 有為「………帰ってください」

 隠「う、有為様―」
 有為「もう帰ってください! 同情するくらいなら、―――ください」
 隠「…?」
 有為「同情なんてするくらいなら、忌子のせいだって責めろよ!」

 有為「全部わたしが悪いんでしょ!? わたしがいるから、茂吉様は死んだって皆言う!」
 隠「落ち着いてくださいませ有為様。わたくしはそのようなことなど……」
 有為「忌子は陰陽師になれないって、女のくせにって、そう言えよ!!」


 陰陽師なんて大嫌いだ。
 その下らない制度で、その下らない階級で、なんの罪のない人を殺し責め、糾弾する。

 自分なんか、結局何の価値もなくて。
 あるのは、「忌子」というレッテルだけで。


 有為「もう、帰ってください!!」
 隠「……」

 怒り任せに引き戸をしめる直前、隠の人の、寂しそうな笑顔を見た。
 同情なんてしてほしくない。
 でもその笑顔は、なぜだか怒る気になれなくて。


 隠の人は扉をしめようとするボクに、着物の懐から一枚の封筒を取り出した。
 当主様からの言伝ですとボクに渡し、それ以上の説明はせずに帰っていった。


 有為「……『遺書』? 裏に差出人の名前が――」


 封筒をひっくり返し、僕は目を見開いた。
 そこに書かれてあったのは。




 有為「『宵宮十郎・茂吉』……」



 


 


 

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.83 )
日時: 2021/01/07 17:58
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 あ、言い忘れていました!
 明けましておめでとうございます!
 ろくきせシリーズは来月で1周年を迎えます。
 これからも作品をどうぞよろしくお願いいたします♪

 ****


 有為「『宵宮有為様へ―』」



 宵宮有為様へ。

 これを読んでいると言うことは、私たちはこの世にいないのでしょうね。

 有為には本当に辛い思いをさせたと思う。

 俺たちは、下手したら有為が自分のことを嫌うのではないかと思っていた。

 あるいは、家を出たり、孤独に押しつぶされて壊れたりしないかと思っていた。

 それほどまでに陰陽師というのはお前にとっては罪でしかなく、

 その家系に生まれたがため、
 
 女という性別に生まれたがために

 この職業は様々なものをお前から奪い取った。

 母親も。

 父親も。

 祖母も、地位も、人権も、笑顔も、何もかもを否定した。

 自分が間違ってるだなんて一つとして考えずに、

 自分の地位を保っていられることに優劣を感じ、

 自分が他より劣っていることが気に食わない連中が、お前から何もかも奪った。




 でも有為は強かった。

 赤ん坊の時はあんなに泣き虫だったのに、もうこんなに大きくなってしまった。

 お前が生まれた時、十郎兄ちゃんはまだ十歳だった。

 ある任務で知り合った炭売りの少年の妹と会って、自分も妹がほしいと思った。

 だからお前が生まれたと知り、

 産後すぐにお前の命を泣きながら奪おうとする母さんが可哀そうでならなかった。

 だから俺と茂吉はお前を生かした。
 
 俺たちのしたことは絶対に間違ってないと、胸を張って言おうと誓った。



 でも、その結果お前を苦しませてしまった。
 
 お前は勘が鋭いから、多分俺たちが陰で暴言を言われていることも分かってたんだろうな。

 俺たちの着物に縋りついて泣き喚いたあの日を、俺は一生忘れない。

 一瞬でも、あのときの選択は間違っていたのかと疑った自分を一生忘れない。

 自分のせいで石を投げられる妹に、忌子だという重りを背負っているお前に

 少しでも笑ってほしかった。



 有為、お前の名前の由来はな。

 生きる理由、つまり『為』、それが『有』るという意味だ。

 たとえ他の陰陽師が俺たちを罵ったとしても、生きているそのことに誇りを感じろ。

 掟なんて知ったことか。

 有為、お前に願うことはただ一つ。




 お前には幸せになってほしい。

 泣かないでほしい。

 生きててほしい。

 笑っててほしい。

 普通の人のように、普通の生活は陰陽師に生まれた時点でできないが、

 それでも好きな服を着て、

 好きな物を食べて、

 好きな人と好きな場所で好きな話をしてほしい。

 



 だから。

 だからどうか、自分には何もないなんて言わないでほしい。

 お前がいるだけで。

 ただ横で笑ってくれるだけで。

 俺たちはとっても、とっても嬉しかったんだから。




 負けないでください。

 諦めないでください。

 俺の妹は強い子です。

 とってもとっても優しい人です。



 忌子なんて関係ないです。

 有為は、俺たちの大切な妹です。

 生きててやれなくて、ごめんな。



 好きです。

 有為が好きです。

 有為の笑った顔が好きです。



 母さん、父さん見てるか。

 有為が言葉を話したよ。

 やっとおしゃべりができるようになった。

 すくすく大きくなる。

 やがて俺たちを追い越すかな。
 
 楽しみだ。




 有為へ。

 俺たちは、いつでもお前の味方だ。

 どこへ行っても、どんな時でも。

 俺たちはお前の兄ちゃんだからな。





 ―――宵宮十郎・茂吉






 ****



 有為「…………っ ひっく ……う゛~~~~~~ッ」



 幻なんかじゃなかった。
 ちゃんと見てくれてた。
 生きてていいんだって、ちゃんと見ててくれてたんだ。


 わたしはわたしでいいんだ。
 ちゃんと、人間やってていいんだ……っ。


 お兄ちゃん。
 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。


 わたしも好き。大好き。ずっと好き。世界一好き。
 好きって言ってくれた兄弟が大好きだった。
 ちゃんとわたしの目を見て話をしてくれるその姿勢が好きだった。
 どんな時も明るいその性格が好きだった。

 わたしだって、お兄ちゃんたちに生きててほしかった。
 死なないでほしかった。
 あの温かい手のぬくもりにまた触れたかった。
 

 いつも隣で笑って、楽しい話をしてくれるお兄ちゃんが大好きだった。
 昔も、今も。そして、何十年後もずっと。



 だから、大事なことを分からせてくれてありがとう。
 わたし、本当に生きてていいんだね。
 しっかり前を向いて歩いていいんだね。


 
 有為「わたし、頑張るよ。絶対にお兄ちゃんたちの仇を討つから。絶対、ここで折れたりなんてしないから」

 
 宵宮家の先祖が代々受け継いできた祓魔術。
 女だからとかそんなくだらない虚言は聞き飽きた。
 
 わたしは絶対、諦めたりしない。
 もう絶対に泣かない。

 わたしだって、好きな人と好きな場所で好きな話をするんだ。
 わたしだって、好きな人と好きな場所で好きな話をしたいんだ。
 みんなと笑って暮らせる未来が欲しいんだ。

 それを今から自分の手で、実現させて見せる。
 そうだ、わたしは人に守ってもらうだけの弱い女じゃない。
 自分でもやれるんだって、そう見せつけなくちゃ。

 忌子だと言い続けて来た陰陽師たちを、見返してやるんだ。
 だから見ててよ、お兄ちゃん。
 自分の妹が地をしっかり踏みしめて歩くところを。

 
 でもやっぱり人は弱いからさ。
 一人で歩けないこともあるからさ。わたしも弱虫だから。
 折れちゃいそうなときは、夢にでも出てきて励ましてよ。



 やってやる。
 絶対に成功させて見せる。
 もう泣かない。諦めない。
 未来を信じて、突き進んでみせる。



 
 だからそれまでは、またね、お兄ちゃん。
 
 




 




 

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.84 )
日時: 2021/01/07 21:15
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 こんばんは、むうです。
 むうは今、病院のベッドでこれを書いてます。
 メンタル疾患が再発しましてね。入院することになりました。
 結構色々辛いんですけど、雑談掲示板で色んな人が声をかけてくださり。
 色んな人が励まして下さり、本当に救われてます。
 むうも昔の有為みたいに生きる意味が分かんなくなったりするんですが、
 皆さんの優しさでその意味が少しだけ見つかったような。
 そんな気がしてます。

 ****


 それからの生活は、思っていた以上に大変だった。
 あの頃のボクはとにかく余裕がなかった。

 一人称を「ボク」に変え、敬語を用いることで強さを見せつけれると勝手に思っていた。
 そんなこと、やる必要なんてないと知ったのはつい最近のこと。

 嫌われたくなくて、少しでも人間と見てほしくて。
 体当たりで性格も変え、口調も変えて、必死に自分を防御していた。
 
 やることはいっぱいある。
 陰陽師の武術である祓魔術を、家の書庫にあった沢山の書記から学んだり。
 十郎お兄ちゃんが一人で切り盛りしていた屋敷を、自分が管理したり。
 もちろん米を研ぐのも、裏の畑の世話も、月一回陰陽師の打ち合わせ会に出かけるのも自分。

 一つやっただけでもふらふらになるのに、お兄ちゃんはそれを毎日一人でやってたのか。
 お兄ちゃんに比べてボクは…。

 出来ないことにコンプレックスを抱くのは毎日だ。
 でもこんなことで悩むのは、良くないと分かっている。

 何をやるにも必死だった。
 何もかもが足りてなかった。

 もちろん世話をしてくれる人なんていないから、全部一人でするしかなかった。
 自分には、もう家族はいないんだから。
 だから自分が何でもできるようにならなくちゃと、そう思っていた。

 宵宮家の当主がいなくなっただけで、周りの連中は忌子の存在をいきなり消したりはしない。
 暴言や石を投げられるのは減った。
 だけど。


『あそこの家はもう使えない』
『忌子しか残っていないような家が我らの頂点? 反吐が出るな』
『宵宮家はもうだめだ』


 宵宮家は御三家としての機能を失った。
 宵宮家が従えてた陰陽師たちは、夜月やつき家という御三家についた。

 つまり、ボクは全てにおいて独りだった。
 

 町へ買い物に行って、路地を走っている子供たちを見た時、友達と言う存在を改めて感じた。
 欲しいと思ったことはなかった。
 自分には関係ない言葉だと思っていた。


 でも。


 結果的に、その言葉はボクの人生を大きく変えた。



 ****


 兄が死去して3年以上の月日が経ち、14歳になったある日のこと。
 祓魔術の一つである転移術を練習するため、ボクは庭で詠唱をしていた。

 一町(約109メートル)先の鳥を手元に呼び寄せる。
 それが基本だと本に書かれてあった。


 有為「これが出来れば戦闘において役に立つはず!」


 詠唱を始めたところまでは難なく事が進んだのだけど、突如異変は起きた。
 急に天気が悪くなり、空が曇り始め、雷が鳴り響いたのだ。


 有為「……え?」



   ゴロゴロゴロ  ドッカァァァァァァァン!


 凄い音がして、思わずボクは両耳をふさぎ目をつぶった。
 何が起こった?
 術はちゃんとうまく言ってたはずなのに……。


 再び目を開けた時、目の前には『珍妙な三人衆』が揃って倒れていた。


 一人は、同い年くらいの女の子。
 腰までの長くうねった髪と、やたらと足が太いのが特徴。

 二人目は金髪碧眼の男の子で、女の子を庇うように上に覆いかぶさっている。
 
 三人目は人というよりは妖怪? 怪異?
 身体の側に人魂を浮かせ、黒い革製の服を着てふわふわ浮いている。

 あと追加で桃色のウサギのような生き物が、三匹。



 ??「ヤシロ!! ヤシロ起きて――――ッ」
 ??「先輩、起きて下さぁぁぁぁい!」
 ??「ねねしんだ」「しんだ?」「しんだのか?」



 ??「おい花子! 起きねえぞ先輩! 先輩大丈夫っすかぁぁ!!」
 ??「ヤシロおおおおおおおお!!」


 有為「…………は?」


 ??「(パチッ)」
 ??「あ、起きた! 良かったぁぁぁぁ……」
 ??「先輩大丈夫っすか!? 痛いところないですか?」


 ??「花子くん光くん。えっと…ここはどこなのかな…」
 ??「うーん、それが俺も分かんなくてさァ。取りあえず通行人に話を聞いた方がいいと思うよ」


 人魂を浮かせた奴がこっちに視線を向けたので、ボクは肩を震わせた。
 え、え、まさか…。
 鳥の代わりにこんなわけわからん輩を召喚しちゃった!?


 寧々「こんにちはっ。私、八尋寧々! 初めまして!」
 有為「あ、え、えっと」
 寧々「貴方のお名前は?」
 有為「え、よ、宵宮…有為です…」
 寧々「そっか。よろしくね、有為ちゃん!」


 急に大根足娘が馴れ馴れしく喋りかけて来たので、ボクは口ごもる。
 人にこんなふうに話しかけられたことって、なくて。
 だからかな。


 有為「……ひっく う゛~~~っ」
 花・光「な、泣いた!?」
 寧々「!? ちょ、大丈夫?? お、落ち着いて……どうどう……」


 なぜか両目から涙がこぼれて、地面を濡らした。
 手で拭ってもとめどなく流れて、嗚咽と一緒に外へ漏れてく。

 
 花子「女の子泣かせるなんてダメだよーヤシロ」
 寧々「わ、私!? ご、ごめんね。怖がらせたいわけじゃないのよ。……ごめんね」
 有為「……ごめんなさい……いきなり、こんな所見せてしまって」

 光「大丈夫っス! あ、オレ源光っす! 『こう』って呼んでください!」
 花子「俺花子ー。よろしくね宵宮―」
 有為「……お守りピアスくん、大根足さんありがとうございます」

 いいわけではないけれど、人の名前とか呼んだこともなくて。
 だからそういう呼び方しかできなかったんだけど。
 結果的に、

 寧々「(ガビーン!)」
 光「あ、あれデジャヴっすかね? なんかアイツの顔が脳裏に」
 花子「少年落ち着いて! どうどう!!」


 軋轢を生んだ。


 有為「改めまして、屋敷の管理をしてます宵宮有為です。
    うちへお越しくださった所まことに申し訳ないのですが……」


 不法侵入者は誰であろうと排除するように、お兄ちゃんに言いつけられていたから。
 ボクは錫杖を掲げ、いつもよりも低い声で言い放つ。


 有為「貴方達には、家の敷居は跨がせないので。水の神・水龍刃風すいりゅうじんぷう!」


 突如、水を含んだ突風が吹き荒れ、三人を空へ吹き飛ばした。
 彼らの悲鳴を聞きながら、ボクはふうとため息をつく。


 初めてだった。
 忌子、とではなく名前で呼ばれたこと。
 でもまだ、人と接するのが怖かったから、追い返したらもう自分に近づかなくなるのではないか。


 そう思ってしまうあたり、ボクはやっぱり弱い。
 彼らがそんなことできる人間じゃないってことに気づかないあたりも。

 
 
 

Re: ろくきせ恋愛手帖 【亀更新です】 ( No.85 )
日時: 2021/01/09 07:44
名前: むう (ID: mkn9uRs/)

 このお話は、ろくきせの『最悪の出会い』と被っています。
 有為目線じゃなくてかまぼこ隊目線がいいなぁと思った方は
 あっちもまた見て見て下さいね。

 ****


 それから三日後。
 なんと、呼び出してしまったおかしな三人衆は、更に人を呼んで戻ってきた。


 家の前にある畑で夕飯に使う野菜を収穫していたら、足音が近づいてきた。
 お客だろうかと振り返りげんなりする。
 ついこの間追い出したはずの人間が、なんと他の厄介そうな客を連れて戻ってきた。

 ??「フヒィー。聞いてないよ、この山に鬼が出るってこと!」
 ??「私もう死にますおやすみ…」
 ??「まだ逝くな胡桃沢!! 起きろ!!」


 ギャースカギャースカ。

 寧々「あの子! 大根足って言ってきた犯人!」
 光「この前は謎の術でぶっ飛ばされたけど、今度はそうはいくか!」
 花子「よし、ここは強行突破ってことで。蹴散らせ白杖代!(ビュンッ)」

 学ランの男の子が、横に浮いていた人魂を投げつける。
 ボフンと煙があがり、ボクはゴホゴホとせき込んだ。


 有為「(何て威力…しょうがない、こちらから少し牽制でもしようか…)」


 それに、彼らが連れて来た人たち。
 あの制服、見たことがある。
 確か鬼殺隊が揃ってきている隊服じゃないっけ?

 鬼殺隊の皆さんがどういう理由で宵宮家を訪ねに来たのか分からない。
 だったら、こっちから聞くまで。


 有為「(スタスタスタスタ)」
 善逸「あ、女の子がこっちに歩いてくる。結構かわいい……アレ?」
 睦彦「おいおいおいおい。なんか丸い球がついた杖もって猛進してくるんだけど!」


 有為「一遍死んでください」
 花子「ぁぁ俺、一遍死んでるから、もう一回死んだりできないので、うん」
 有為「……祓魔術・水の神 水龍刃風!!」


 お約束で、水を含んだ突風が吹き荒れる。
 学ランの男の子が操っていたハクジョーダイ?という人魂がクタクタになって戻ってくる。


 花子「おい宵宮! 俺の白杖代をいじめないでくれる」
 炭治郎「噂に聞いてた通りの毒舌だな」
 仁乃「そうだね大丈夫かしら……」


 有為「なんですか便所虫くん。折角追い出したのにまた来たんですか、懲りないですね。
    貴方はうちの子じゃありませので、これに懲りたらとっととお帰り下さい」


 ボクだって忙しいんだから、勝手に来られても困る。
 まあ自分の失敗のせいだってことは認めるけど、帰る家があるなら帰ればいい。


 炭治郎「君が宵宮有為ちゃん?」
 有為「ええそうです。貴方達は鬼狩り様ですか? 取りあえず中へどうぞ」
 睦彦「…アイツらは」
 有為「ああ、気にしないでもらって結構です」

 
 花子くんキャラ一同「おーい!(# ゚Д゚)」


 本当のことを言えば、心のどこかでは彼らを家に上がらせてあげたいと思っている。
 でも、今までそんなことしたことがないから、どうふるまえばいいのか分からなかった。
 嫌われないようにと決めた敬語と一人称だけ、ちゃんと徹底した。


 善逸「有為ちゃん? いくらなんでもそれは酷いと思うよ。うん」
 睦彦「…アイツらは案内人?で色々頼りになったんだよ。
    泊まる家もないみたいだし止めてやればいいじゃねえか。デカい家なんだし」

 仁乃「そうだよ、いくらなんでもそれは無慈悲……」


 鬼狩り様が必死でお願いするものだから、少しだけ気持ちが揺れた。
 まあちょっとだけ、ちょっとだけならいいかな。


 と思ってボクなりに優しく声をかけたつもりだったけど、


 有為「鬼狩り様がそこまで言うなら考えてみましょう」
 花子くんキャラ一同「ほんとっ?」
 有為「そこの大根足、交通ピアス、便所虫? ボクの家に入って結構ですよ」



 また軋轢が生まれた。


 寧々「だから私は! 大根足じゃない!」
 光「オレの名前は源光! 名前があるんだからそれで呼べ!」
 有為「分かりました。『げんこう』くんですね」
 光「音読みやめろ―――! 『みなもと・こう』!」


 どうやったら皆みたいに人と無理なく会話ができるのか分からなくて。
 自分なりに色々やってみたけれど、便所虫くんはショートするし大根足は泣くし。
 名前をしっかり呼ぼうにも、呼んでいいのかすら分からなくて。



 有為「………(また、失敗した…)」
 仁乃「……(ぽん、と有為の肩に手を当てて)」
 有為「っ? えっと、貴方は…」

 仁乃「私、胡桃沢仁乃! 仁乃って呼んで。よろしくねっ」
 有為「………胡桃沢さん」
 仁乃「名前でもいいよー。同年齢なんだし、ね」

 仁乃さんのことを名前で呼べるようになったのは、それから一週間後。
 ボクが彼らに心を開けるようになったのは、彼女が話してくれたある昔話がきっかけだ。

 みんな、色々なことを思って、苦しみと葛藤しながらも笑って生きている。
 自分だけが苦しんでいるという考えは違う。
 そんな当たり前のことを、ボクはなかなか気づけなかった。

 生まれてから今まで14年間、一日として暴言を言われなかったことはなかったから。
 我慢できないくらい苦しい事が会った時、自分にとって防衛手段は我慢しかなかったから。
 体で覚えた固定概念が壊れることなどないと思った。


 しかし、固定観念を創り上げるのが人なら。
 それを崩してくれるのもまた人だった。


 世の中にはどうしようもないほど馬鹿な人間がいて、いい人は一握りしかいないけど。
 その一握りの人に出会えた奇跡を、とあるある日ボクはやっと知ることができた。


 


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