社会問題小説・評論板
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- はりぼて王国の女王様。
- 日時: 2017/08/16 01:42
- 名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)
私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。
私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。
私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。
—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。
そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。
だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.15 )
- 日時: 2014/12/27 01:15
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
ふんわりと袖口の膨らんだ薄ピンクの絹のワンピースを身にまとい、髪をサイドアップにセットする。靴を薄桃色エナメルのハイヒールに履き替え、アクセントとしてダイヤモンドのネックレスを着ける。姿見に向かってくるんと一回りし、コーディネートを見直す。うん、上出来だ。
部屋から出て、玄関に向かう。使用人から手渡された白いバッグを手に、玄関先に用意された黒いベンツに乗り込む。お抱え運転手の白井は、車を走らせた。
「もっとスピード出ないのかしら」
「承知しました」
車のスピードが若干上がる。
ワンピースの裾がふわりと揺れる。
「到着致しました」
車がききいと音を出し、名の知れたピアノ教室の前に止まる。
「ご苦労様。また何時もの時間に、お願いね」
「承知しました」
白井は相変わらず、屍の様だ。同じような言葉をただ繰り返す死体。
まぁ10年もこんな小娘にぺこぺこしていれば、そうもなるだろう。私は車から出、ピアノ教室のドアをがちゃりと音をたてて開ける。
「あ…伊集院さん!こんにちは!」
40過ぎのおばさん先生が態とらしい笑顔を作る。私は大口顧客とかいうやつなのか、待遇もやけにいい。この教室に通っているのは同い年の人間がほとんどだが、私の時は明らかに先生の態度が豹変する。
けだるく席に着き、レパートリーブックをバッグから取り出す。
課題曲をすらすらと弾いてみせると、先生は大袈裟に褒める。
周りの大人たちは、私を大袈裟に評価し、褒め称える。
最初は喜んでいた。—だけど、次第に嫌になってきて。
そう、私は大手企業のトップの、最愛の一人娘。地位も資産も実質握っている。——これは5年前のこと。そう、初等科2年生の頃だった。
あのころ、いつも私は、昼休み一人で絵を描いていた。
窓際で、一人ぼっちで。まぁ、絵を描くのはなかなかに楽しかったので、ひとりでそれに没頭していた。すると、ある日、
「あんた、一人で絵なんかかいてて、楽しいの?」
声の方向を見ると、性根の悪そうな同級生。
「ひとりぼっちで絵なんかかいて、インキなヤツー」
私は震え上がった。何せ生まれつきのお嬢様な私は、人からぞんざいな扱いなんて、受けたことなかったから。
「インキ、インキ、クライんだよー」
私はとうとう泣き出した。それでもそいつはまくし立てる。
「あはは、泣いた泣いたー。泣けばいいって思ってるんでしょ、むかつくー。これでもくらえ」
私に投げつけられたのは、ゴミ箱。
頭を激しい痛みが襲った後、がごん、という鈍い音がして、頭の中でリフレインする。頭がくらくらとなり、さらに痛みと悲しみと悔しさで、涙がとめどなく流れる。私はただ為すすべもなく、トイレに逃げこみ、昼休みが終わるまでひたすら泣いた。
その日はずっとなんだか周りのみんなが敵みたいに思えた。でもなんとか、涙は家に帰るまで我慢した。
家のドアを開けるとそこにはお父様がいた。私はなんだか安心して、泣いてしまった。わんわん泣く私にお父様は驚愕し、事情を聞いた。
私は全部話した。罵られたこと、物を投げつけられたこと、それから、恨むべきそいつの名前。そいつがいるから学校にもう行きたくない、ってこと。
お父様はうんうんと頷き、最後にこう言った。
「おまえを苦しめる、ばかなやつは、学校から追い出してやる。だから、なあ、おまえ、学校に、行ってくれないか、な。笑ってくれないか、な」
その次の日からそいつは学校に来なくなった。
後から調べた話だけれど、そいつの父はとある大企業の重役だったらしい。
その大企業は、お父様の企業だった。解雇、ってやつだ。…とにかく、それ以来、
私は自分の持っている「ちから」を、知ってしまった。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.16 )
- 日時: 2014/12/27 15:20
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
「もうこれで三日目だけれど…」
放課後の、体育館裏。
私は使い終わった注射器を片手に、手足を飛び縄で拘束された紫乃を見やる。
ヘロインを打ち続けて三日目。以前紫乃は拒否を続けている。
「まぁ、長い目で見ましょうよ小瑠璃様ぁ。そのうち依存性が出てきますよ。幻覚が見えてきたりぃ、おかしな動きをし始めたりぃ…症状は出てきますって、まぁ、明日に期待してみましょう」
香澄が媚びるような目で私にすり寄る。
「っていうか、一日一本、っていうのが甘すぎたかしらねぇ…ねぇ香澄、まだ注射器、持ってるわよね?」
「あら…ええ、勿論。」
香澄はポケットから注射ケースを引っ張り出し、一本の細い注射器を私に勿体ぶるように手渡す。
「嘘、っ…嫌だあああああ!助けて!やめてよおおおお!」
紫乃は必死に手足をばたつかせようとするが、その思いも虚しく、縛られた手首は全くと言っていいほど動かなかった。
いつものように紫乃の白い腕をひっつかみ、注射を打つ。
打ち終わった途端に、紫乃は突然ぐったりとした。
「…紫乃、さん?」
「ああ嫌だあああ!虫…虫、いやああ!」
紫乃は狂ったように喚き出し、何もない方向に手をひたすら払っている。
「虫…そんなもの、いないけれど…」
「たすけて、嫌だ、虫来ないでああああ!!」
「…幻覚、ですねぇ」
香澄がぼそりと呟く。
「来ないで、やだ、あああああ!嫌あああああああっ!!」
今度は、顔をしきりにこすっている。
そして紫乃はそっと自分の手を見やる。そしてまた喚きだす。
「嫌あぁぁぁぁ!溶けてる…あああああ!!」
「…中々に、えげつない幻覚を見ているものだわねぇ」
「もうどうしようも無いですねぇ。手足解いて、もう帰っちゃいましょうか小瑠璃様ぁ?」
「それがいいと私も思うわ。可憐、その基地外の手足を解いて、そこに置いといてちょうだい」
可憐は嫌そうに顔を歪ませながら、紫乃の拘束された手足を解放した。
解放されてもなお、紫乃は苦しみにのたうち回っている。
「気味が悪い…皆さん、さっさと帰りましょ」
私は見向きもせず、近くに置いてあったバッグを持ち、正門に向かう。それを香澄が追いかけ、囁く。
「あの小瑠璃様ぁ、あいつ放っておくと人を殺したり、自殺したりするかもしれませんよぉ。ああなってからは、もう夢か現実かも判断できなくなって、なんの抵抗なしに人をぐっさぐっさ刺すこともありえるんですよぉ」
香澄は心底恐ろしそうな顔をし、狂ったように叫ぶ紫乃をちらりと見やった。
私はくすくすと笑う。
「いいんじゃない?それも面白そうだもの」
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.17 )
- 日時: 2014/12/27 23:27
- 名前: 藍里四季 ◆wcVYJeVNy. (ID: psKj3VnE)
初めまして。
一気読みしました。
ここからどう変わるのか……とても楽しみです!
更新、待ってます(*゜▽゜*)
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.18 )
- 日時: 2015/01/01 11:07
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
藍里四季さんへ!
コメント有り難う御座います!
大変励みになります…!
こんな小説の更新を待ってくださるなんてほんとに有難い事です…!!
ありがとうございますっ!!
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.19 )
- 日時: 2015/01/03 17:56
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
翌朝。
私が校舎に入るや否や、下駄箱で待機していた可憐に手を掴まれた。
「小瑠璃様…大変な事になってるんです!早く来てくださいっ!」
「ちょ…っと、いきなり何よ!気安く手を掴んだりしないでくれるっ!?」
私は手を振り払おうとしたが、掴まれる力は強く、どうにも振りほどけない。
「ごめんなさい小瑠璃様…でっでも大変なんですよ!どうか早く…!」
ぐいと手を引っ張られる。抵抗する間もなく、ただ可憐の行くがままに従って走っていくと、大勢の民衆が集まっているのが見える。そこは紫乃と清華の———1年3組教室。
可憐の手をやっとのことで振りほどき、教室を覗き込んだ。その先には、
生々しい鉄の香り。
血だらけで床を這いずり回る—清華。
教室の隅でかたかたと震え上がり、一方をただ見つめる数人の少女。
その視線の先には—血に濡れたカッターナイフを片手に息を荒げ、ただただ呆然と佇む、紫乃。
「……ッ!?」
思わず後ずさり、口を手で覆い吐き気を堪える。
「なっ…何よ、これ」
するといつの間にか隣に立っていた香澄が、興奮しきったようにこう言う。
「紫乃が…清華を、あの、カッターナイフで、切りつけたんですよ…何度も…」
紫乃がこちらの声に気づき、カッターナイフを手にしたままくるりと振り向く。
民衆は慄きの声を上げ、一気に後ずさった。後ずさらなかった私は、民衆の最前列となる。
紫乃は私とばちりと目を合わせる。カッターを両手に持ちかえる。そして、そのまま、前に—…私の方向に、駆け出す。顔に、憎しみの感情を露わにして。血のこびりついたカッターが銀色に光り、私の顔に突進していく。
——さくり
そう、音がして、赤色の液体が私の頬から吹き出した。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14