社会問題小説・評論板

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はりぼて王国の女王様。
日時: 2017/08/16 01:42
名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)





私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。

私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。

私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。

—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。

そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。

だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.10 )
日時: 2014/12/20 00:51
名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)

「ええ小瑠璃様ぁ。遅くなって申し訳ありません。というのもぉ、元はといえばこの小娘が悪あがきなんてしたもので…この子酷いんですよぉ?私が手をちょっと掴んだだけで叫び声を上げて、思いっきり手を振り払ったんです。酷いなぁ、私、ばい菌扱い?」
香澄は憔悴しきった清華を小さく嘲り笑う。
「それでそれで、なんとか捕まえたんです、私。私結構体力有るんでぇ、お腹をね、こう、殴ってやったんですよぉ。思い切り。うふ、そしたらこの子蹲って、お腹を押さえ込んで、咳き込み始めちゃって。ま、蹴ったり殴ったりしながら無理やり起き上がらせて歩かせましたけどね。」

「へーぇ…。ま、何はともあれ有り難う。下がっていいわよ」
「…はーい」香澄は笑顔を崩さずに民衆の中に入り込んだ。

可憐と美鈴は、香澄が去ったことで、あからさまに歪んでいた顔を残酷な微笑に戻し、口々に下衆っぽい言葉を言い始めた。

「清華さぁん?遅いわよ。小瑠璃様を待たせるなんて、…どういうつもり?」
「そうよ。まさか貴女…すっぽかそう、だなんて考えてたんじゃないの?」
「はぁあ、酷いわぁ!小瑠璃様のお誘いをすっぽかす?いい度胸ね。小瑠璃様がどんなに不快な思いをされるか分からないの?」

「ちっちが…違います…遅れて、おく、れて、申し訳ございません…」

「あーあ。…どう思われます?小瑠璃様」
可憐が私の方に向き直る。私は上品に微笑み、言う。
「別に私は、清華さんが遅れてきたことには怒ってないわ。でも一つ…一つだけ、とぉっても気になることがあるのよ、清華さん」
「…え?」


「貴女、まさか、あの画鋲を…外してないわよね?」



清華は顔を真っ青にし、慌てふためく。
「そっそんなこと…!して、おりません…小瑠璃様!」
「百聞は一見にしかずだわ。可憐、確認して」
「承知しました、小瑠璃様」
可憐はすかさず清華に掴みかかり、清華の頬を思い切りひっぱたく。清華がふっと隙を見せたところで、清華の体育服をたくし上げた。

—そこに有ったのは、

少女の白い腹部。3つの小さく痛々しく、真っ赤な傷跡。だけどあの、黒い画鋲は…無い。

それを目にした美鈴は、無言のまま清華の方につかつかと歩み寄った。
片手には竹刀がしっかりと握られている。美鈴はそのまま倒れている清華に馬乗りし、憎悪の表情を顔たっぷりに満たして、言い放った。

「死んじゃえ」

清華に振り下ろされる、竹刀。その先にあるのは、清華の顔。


————どご、っ


鈍くて強い音が響き渡る。叫び声をあげる民衆。清華のそばで含み笑いをする可憐。顔を抑え、鼻血を出し、痛みにむせび泣く清華。お構いなしに、今度は清華の脛に竹刀を振り下ろす美鈴。不協和音のような叫び声を上げる清華。——それをただ、私は、他人事のように、…まるで、まるで、


女王様の様に、それを見つめていた。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.11 )
日時: 2014/12/21 15:29
名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)

気が付くと、そこは地獄絵図だった。
未だ飽きずに竹刀を振り回している美鈴。仰け反りかえって笑う可憐。清華は最早叫び抗うのも諦めた様子でただただ終わりを待っている。
何時の間にか民衆も加勢し始め、何処からか持ち出したボールやらラケットやらを清華にひたすらにぶつけている。

「誰が勝手に加勢して良いと言ったの?」
民衆の手がふっと止まる。
「邪魔よあなたたち。さっさとどいて」
固まった民衆たちを手で払いのけ、精華の前に立ち、見下ろす。
「…けほっ…え…と、こる、りさ…?」
「その小汚い口で話さないでくれるかしら、不愉快よ」
「…ぁ…す、みません……えっ、と…?」
「清華さんに特別なお話があって、ね?」
「はな、…し…?」
「えーえ。それはね…」


「貴方のお友達の、綾小路 紫乃さんを…玩具にするのも、いいなって」


「…っ!?!?なんで知って…?」
「ふふ、調べたのよ。貴方の友好関係を、隅から隅まで」
「…う、そ…」
「たいそう仲が宜しかった、と…お聞きしたわ」
「…………」清華はただ沈黙する。
「…でも、貴方が、そう貴方が痛めつけられていた時、彼女は手など差し伸べてくれなかったわよねぇ?」
清華ははっとした表情になる。
「そう考えると腹が立つわよねぇ。大体、彼女、クラス内では結構な権力を持っていたそうだけど…実際、貴方に乗っかっていただけよね?」
「さらに、さらに、もっと掘り下げていくと…初等科5年の頃、貴方、クラスメイトから嫌がらせを受けていたようね?あれの執行者の一員だったようよ、貴方の大切なオトモダチ、紫乃さんはね」
「…え」
「嘘じゃないわよ。例えば貴方の教科書ノート類を片っ端からトイレに投げ入れたり、貴方の歯ブラシに虫の死骸をくっつけたりしてたのも彼女。」
「そ…れは、仕方、なく」
「仕方なくやったことなんじゃないかって?なわけないじゃない。彼女は楽しんでたそうよ。誰よりも。親友面して、裏で貴方を苦しめてたのよ、紫乃さんは。それでもって貴方が中等科に進学して、権力を持ってからは完璧に貴方の親友になって、権力を図々しく獲得したのよ。あぁ酷い。清華さん、あなたは復讐したいと思わないの?私がお手伝いして差し上げるのに」
「嘘…紫乃ちゃんが…?」
清華はわなわなと震え、顔に憎悪の念を滾らせる。
「紫乃さん、こっちに来なさい」
私はさっきから民衆が鋭い視線を突き刺している方向に向かって言う。
民衆から出てきた少女はまごうことなきあの綾小路紫乃。彼女を見る清華の目には最早親しみなどなく、あるのは憎しみと恨みの色だけ。

「…違う…私そんなこと、して、無くて…」
「嘘おっしゃい。梨花さんと果穂さんにしっかり聞きましたわよ?」
「…嘘…えっ…」紫乃はあからさまに慌てる。本当にバレバレだ。呆れる。
「さぁ清華さん、この娘を玩具にするか否か、決めるのは貴方よ」

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.12 )
日時: 2014/12/25 15:19
名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)

「…嘘、止めて、違うの、清華…」
紫乃は顔をあからさまに真っ青にして、がたがたと震えている。
「何が違うというの?この下等生物。嘘をつくのは辞めてよね」
「そッ、そんな…清華、ちがう…」
「何なら証拠映像もあるのよねぇ」美鈴が薄桃色の携帯をポケットからゆっくりとだし、かちゃりと音を立てて開く。ボタンをぽちぽちといじった後、それを清華の面前に突きつけた。

「あなたのシンユウ、紫乃さんはね、こんな事してたのよ」

美鈴のケータイに映し出された映像は——

『あはははははっ!果穂、もっとやっちゃいなよぉ』
清華のものだと思われる体操服を暗い表情で踏みにじる果穂。それを下品に笑いながらはやし立てる紫乃。
『でもそんなんじゃ足りないと思うよぉ?もっと大胆にやらなきゃぁ』
紫乃はおもむろにマジックペンを手にし、清華の体操服の真っ白な面にペン先をゆっくりと滑らせる。
『このぐらいが、アイツにはお似合いだって』
清華の体操服に様々な罵詈雑言が書き込まれる。
『あはは、死ね死ね死ねっ!』
清華の体操服に必死にペンを走らせ続ける紫乃。大笑いしながら、今度は清華のバッグを持ち込み、踏みつけ始める…

映像はそこで終わる。
「これを見るに、貴方が主導者だったように見えるのだけれど」
「や…嘘でしょ…ちが…」
「何が嘘だというの?だったらもう一回お見せしましょうか?」
「梨花と果穂に脅されて…っ、やったことで…ちがう…」
「この、嘘つき屑女。」

私と美鈴は清華に向き直る。清華はただただ紫乃を睨みつけている。
「清華さん、分かったかしら?コイツの本性が」
「さ、どうする?紫乃さんに、玩具の権利を、譲る?」

「…分かり、ました」

「…ん?清華さん?」



「紫乃に、

  玩具の権利を、

      譲ります」

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.13 )
日時: 2014/12/26 12:31
名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)

「そんな…嫌あああぁぁぁ!!」。
顔を覆いながら泣き叫び、崩れ落ちる紫乃
「当然の報いよ、さ、貴女は今日から私達の奴隷よ」
「せいぜい小瑠璃様の良い玩具になりなさいな」
可憐と美鈴は落ち着き払った様子で紫乃に言う。

香澄が民衆をかき分けて近寄ってくる。
「…あのぉ、小瑠璃様ぁ?」
「何、香澄?」
「あの小娘への制裁についてですがぁ…私、面白いものを持ってるんですぅ」
「ふぅん…で、何なの?」
「これなんですよ」
香澄の手には一本の注射器。
「…ッ!?こ、これ…」さすがの私も驚愕する。
「…はい。違法薬物…麻薬ってやつですぅ。もっともこれはヘロインという物で、薬物の中でも強い依存性を示し、一回打とうものならもう後戻りはできなくなり…廃人になりますぅ」
「…中々にえげつない物を持ち込んでいるわね。まあ、麻薬中毒にした方が、ちょっとは面白い反応をするかしらね」私はくすくすと笑う。

「…ッ!?い、嫌だ!や、止めてえぇぇぇぇぇ!!」
「あら、聞いてたのね紫乃さん」
「お願い!止めて!殴っても、何してもいいから…麻薬だけは…止めて!」
「やめるわけないじゃない、こんな面白いものを手に入れたんだから」
「やっやだ…打た、ないで、やめて…ッ」
紫乃はただ得体の知れない物への恐怖に打ち震えている。香澄はにたにたと笑い、注射器をそっと私に手渡す。

「じゃあ…香澄、可憐、美鈴。そいつを押さえといて頂戴」
香澄達は一斉に紫乃に飛びかかり、手足を押さえつけ、口をハンカチで押さえつける。むぐむぐと無様な声を立て、涙を流し、されるがままの紫乃はまったく滑稽だった。

「一回目はあんまり気持ちよくはない…吐き気とかがあるけど、慣れたらとっても気持ち良くなれるから、頑張ってねぇ紫乃ちゃん?」
ただただ首を振り、あくまで抵抗しようとする紫乃。
私はそんな紫乃に近づき、注射器を右手に持ち替え、紫乃の白く細い腕を掴む。紫乃はハンカチ越しに叫んでいるが、知ったこっちゃない。
「あ、小瑠璃様、静脈に刺すんですよぉ。静脈って、青いやつですぅ」
「…分かってるわ、さ、紫乃さん?暴れないでね」
紫乃は首を激しく振る。顔を真っ赤にして、ただ涙を流している。

紫乃の白い手首の、青い線に針を入れる。ちょうど良く入ったぐらいで、親指でゆっくりと押し子を押す。紫乃が失望し、目を潤ませて拒否する。
腕に流れ込んでいくヘロイン。注射器を押し終え、ゆっくりと針を抜く。

紫乃の手足は開放され、口を塞いでいたハンカチも取られる。途端に紫乃は泣き叫び始めた。
「ああぁ…うわあああぁぁん!嫌あああぁぁぁ!あああああ!」
「五月蝿いわねぇ…さ、紫乃さん、初めての麻薬はどう?」
「きっ、気持ち…悪い…や、やだ…うわああぁあん!」
「はぁ…でもまぁ、明日も打ってあげるから。そのうち体が慣れてきて、気持ちよくなれるわよ。ね?じゃあ、また明日、ね。」
「はぁはぁはぁ…やっやだ…」
「欠席なんて許さないわよぉ?貴方の不動産屋、私のお父様が株主なんですもの、私が手を入れればすぐに潰れるわ。路頭に迷うわよ、家族共々」
「…」紫乃はもう喋らない。
「…はぁ。じゃあね紫乃さん」
私達は優雅に手を振り、鳴り始めたチャイムと共に校舎に向かった。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.14 )
日時: 2014/12/26 13:33
名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)

下校のホームルームも終わり、バッグを片手に帰り道を1人で歩く。
生徒達の視線が突き刺さる。初等科生の好奇心に満ちた視線、同級生の恐れと羨望の入り混じった視線、上級生の妬みと羨みの突き刺さるような視線。
それを意にもとめないふりをして、曲がり角を曲がり、高級住宅地に足を踏み入れ、しばらく歩く。さぁ、見えてきた。私の屋敷。
絵に描いたような洋風屋敷。まさしく白亜の宮殿。広大な庭には青々とした柔らかい芝生が生い茂り、数々の美しい花がその美しさを競い合うようにして咲き乱れている。——名高き伊集院家の屋敷。

門を開き、扉をゆっくりと開ける。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

幾人もの使用人が頭を下げる。まったくいい大人が一人の少女に腰を低くする光景は滑稽だ。私はそいつらを一瞥し、帽子とバッグをぶっきらぼうに手渡す。さっさと階段を上り、長い廊下を歩く。—着いた。

白く可愛らしいデザインの扉を開ける。
薄ピンクと白で彩られた、私の部屋。
私は制服のままベッドに倒れこむ。シルクのカーテンが風に揺れ、頬を撫でる。小型ラジカセのスイッチを入れると、ヒーリングピアノの音楽がゆっくりと、私を小馬鹿にするように流れ出す。部屋の隅にうずくまっていたペルシャ猫のマリーが私の膝に乗っかる。

多分これが、いつもお嬢様を演じている私が、唯一ありのままでいる時間だ。
こんこん、とドアがノックされる。
ゆっくりと起き上がり、はぁい、と返事をする。

がちゃり、とドアを開けたのは、黒い地味なワンピースを身にまとった少女。
「あ…お嬢様、お帰りでしたか」
「ええ、ついさっきね。それでなんの用?手短にお願いするわ」
「あ、はい、間食を持ってまいりました」
少女の手にはスコーンとラズベリージャムと紅茶が有る。
この少女は夜船 月乃。使用人の一人娘。何故かこの屋敷に親子そろって居候している、図々しい奴だ。私はほぼ使用人扱いしている。
「ねぇ、月乃…」
「何でしょう、お嬢様」
「貴方って、この屋敷に不釣り合いじゃないかしら」
「…」月乃は押し黙る。
「なんで此処に住んでいるのかは分からないけれど、私は何時でも貴方を追い出せるのよね。とっとと出ていってほしいのよ」
「…好きで、ここにいる訳では、有りませんので。申し訳ないです」
「貴女、本当に申し訳ないと思っているのかしら。本当に申し訳ないのなら、私の靴を舐めてよ」
私は靴を突きつける。この屋敷は洋風なので、室内でもふつうは靴を履いたままだ。

月乃は泣きそうな顔で私の革靴に少しだけ舌を触れさせた。
「やる気あるのかしら…まぁいいわ、下がって」
月乃は文句有りげな顔をして部屋から出た。
入れ替わりでお母様が部屋に入ってくる。
「ただいま、お母様…もう習い事の時間なの?」
「ええそうよ。今日はピアノレッスン。あらやだ小瑠璃、あなたまだ制服なの?早く着替えなさい。準備が終わったら玄関先に車が用意してあるわ。じゃあ、5時には出なさいね」
お母様は早口でまくしたてた後、そそくさと部屋から出る。
私は膝上の猫を払い除け、着替えを始めた。


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