社会問題小説・評論板
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- はりぼて王国の女王様。
- 日時: 2017/08/16 01:42
- 名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)
私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。
私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。
私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。
—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。
そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。
だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.30 )
- 日時: 2015/01/24 14:12
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
その日の下校時刻には、私の体はもう既に傷だらけになっていて、持ち物は全て残さず何かしらの悪戯が施されていた。国語ノートには溢れんばかりの悪口、通学バッグは蹴られ、傷を付けられた跡が残り、体操服は最早服とは言えないレベルに切り刻まれていた。
泥だらけにされた靴で、校内を足早に去ろうとした。—すると。
後ろ襟が乱暴に引っ張られ、頬を思い切り引っぱたかれた。
「ちょっ…何するのよっ!!」
後ろを振り向くと、そこには見知らぬ少女二人。
一人は黒々としたポニーテールで、いかにも気が強そうだが、整った顔をしていて、名札には『西条可憐』と記されていた。
もう一人は赤茶けたセミロングの童顔の少女で、おっとりとした顔立ちをしていたが、その顔には憎悪の念が染み出していた。名札には『白柳美鈴』と記されていた。
二人は私を睨みつけ、そそくさと去っていった。
私はそれを追う気力も最早無く、今度はゆっくりと帰り道を歩き出した。
周りの人間は、私が横を通り過ぎる度に驚愕した表情を見せ、近くの人間とひそひそと話を始める。中には私に罵声を浴びせる人間もいた。
それに耐え、やっとのことで屋敷にたどり着いた。
扉を開けると、そこには夜船月乃が一人立っていた。
月乃は私の姿を見て驚愕し、瞳孔を開き、口を開いた。
「え…お、お嬢様?」
「喋らないで、私、お風呂に入ってくるから、侍女に着替えを用意してと言っておいて」
私は何か言いたげな月乃を背中に、逃げるように風呂に歩き出した。
背後で、笑い声が微かに聞こえたような気がした。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.31 )
- 日時: 2015/01/28 02:18
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
それからも真理亜率いる小癪な娘どもは、私を飽きることなく虐げ続けた。
ある日は二人の小娘が仲良く交互に私を蹴り続け、
「ねぇねぇ紫乃ちゃん、もっと強く蹴らなきゃ駄目じゃない?」
「そう?じゃあ私と清華ちゃんで、いっせーのーせで蹴ろうよ」
ある日は何処か見覚えのある少女二人組が私の肢体を拘束し、
「みんな注目っ!これからショーをやるよぉー!」
「これから私と美鈴ちゃんがこいつを痛めつけてあげるからさぁ」
「どうしよ…ねぇ、可憐、校庭に鳥の死体が落ちてたからさぁ…ね?新鮮だし、小瑠璃ちゃん鶏肉好きだもんねぇ!ねぇ、食べてよ!」
「じゃあ取ってくるからさぁ…」
ある日は真理亜がやって来て、
「小瑠璃ちゃんその制服似合ってないよ、ちょっとこれに着替えて?」
「やだ真理亜ちゃんっ、それ泥まみれで切り刻んで…でも似合いそう」
…もう、嫌だ。
逃げても逃げても奴らは追いかけてきて、私にまとわりついてくる。
そろそろ自殺のことを考え始めた頃に、あの話は舞い込んできた。
「ええぇ!?真理亜ちゃん、フランスに留学するのぉ!?」
「うん、語学留学っていうのもあるし、今やってるバレエを本場でもっと挑戦してみないかって…だから」
真理亜は、その年の冬に、呆気なくフランスへ留学に旅立った。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.32 )
- 日時: 2015/07/11 12:11
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
その、翌日。
私はいつもの様に俯いて、人の視線を避けながら登校した。
だからその視線が「いつもと違う」のにやっと気付いたのは、−甘露寺香澄に、笑顔で話しかけられたとき。
「あのぉ、小瑠璃様ぁ」
「…は?な、何っ…」
そう、私を意のままに虐げてきたこの香澄が、私に様づけをして腰を低くしているのだ。ーもっとも、その顔面はあのころのまま、嫌らしいにたにた笑いだけれども。珍しく攻撃をしてくる様子もない。
「小瑠璃様、あの真里亜が居なくなったのですよ?何かやりたいことはないんですか?」
「…は?どういう意味よ、何のつもりなの、さっきから敬語で、小瑠璃様なんか呼んだりして、何を考えてるの!?」
「いえいえ当然のコトじゃあありませんかぁ?真里亜無き黎明女子学園、真里亜に代わる学園の次の女王は、あなた小瑠璃様しかおりません。いまや貴方は学園のトップ。誰もが恐れる存在ですよ」
「…ッ…」
確かにそうだ。何といっても私は伊集院グループ。真里亜を除いてしまえば、財力と権力で私に劣るものなんかいやしない。
「そこで小瑠璃様、やりたいこと、なんて御座いませんかぁ?」
「…やり、たい、コト?」
「復讐ですよ、小瑠璃様」
「復讐…」
その瞬間まざまざと今までの「いじめ」が思い出されてきた。一瞬で私の心の中はどす黒い復讐の念で満ちた。殺したい、殺したい、殺したい。どん底に、そう、どん底に落ちてしまえばいいんだ。死ね、死ね死ね死ね死ね。
考える間もなく、私は行動に移していたんだ。
「ちょっと聞きなさい、愚民ども!」
民衆の恐れと驚きの混ざり合ったざわめき。
「今日から私がこの学園の頂点よ。これから私に歯向かったり、無礼な態度を取ったりなんかしたら−殺すことなんて簡単よ。」
民衆は震え上がる。
「だから今日から−私は、復讐を始めてやるのよ。小生意気な娘共は、私が直ぐに制裁を下してあげる。二目とも見れない姿に変えてあげるわ」
こうして私は、女王として君臨した。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.33 )
- 日時: 2015/07/11 12:18
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
だけど。
もう、終わりだ。
私は女王の玉座から蹴り落とされ、
学園の最下層として、
これから、ずっと。
何年も。
奴隷として、虐げられ続けるんだ。
きっと、学園を出る頃には。
体だけでなく心まで壊してしまっている、の、かもしれない。
呆然としている間にホームルームは終わり、私の周りには同級生が続々集まってくる。−終わりだ。さよなら「小瑠璃様」。
「あの小瑠璃様っ!あいつ何ノコノコと帰ってきてるんですかねー?父親の会社が潰れたくせに、こんな学園に来るなんて、どこにそんな金があるんでしょうかね?」
「そーそー!ところで小瑠璃様、ついに復讐の本番が—…たっぷり虐げちゃってくださいよ、私たちもあんな女、悠々と生かしたくありません!」
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.34 )
- 日時: 2015/07/12 13:39
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
「…え」
「?ど、どうしました小瑠璃様?」
「あ、まさかまだ御知りじゃなかったんですかぁ?」
つかつかと物陰が歩み寄ってくる。…香澄だ。
「なっ、何よあんた!他のクラスでしょ!?」
「そうよ、そもそもあんた、あの真里亜と一緒に小瑠璃様をいじめてた主犯格でしょう!?小瑠璃様に近づかないで!」
「えぇ?それはあなた達もじゃない。ところで小瑠璃様、あのアバズレをどんな感じにしちゃいますぅ?」
「…っ、うるさい!小瑠璃様、あんな奴の言うことはほっておいて…」
「…構わないわ、香澄、こっちに来て」
「こっ小瑠璃様!だからあんな奴と!」
「腰ぎんちゃく娘は黙っててよぉ。可憐ちゃんと美鈴ちゃんが奴隷に転落してから貴方達、小瑠璃様のお気に入りになろうと必死ね。気持ち悪い」
「…っ」
私を取り巻いていた娘達はすごすごと退却していった。
「…香澄、これはどういう事なの」
「ええ、ちゃんとお話しますよぉ。あの真里亜の父の企業…ある日不正が発覚して。最初は金の力で押さえ込んで、報道規制までしたらしいんですけどぉ。やっぱり人の口に戸は立てられませんね、みるみる噂が広がって、悪評により大損害、企業はもちろん倒産。大量に所持していた株はすべて手放し、一応父はとある企業のサラリーマンに就職することが出来たらしいけえどぉ…今やあいつは令嬢ではなくただの平民。この学園に編入する金がどこから沸いて出たのか不思議なくらいですよぉ」
「…ふぅ、ん」
私は今までに無いくらい、安堵した。肩の力が抜けた。
しかしそれと同時に、憎悪の念が心の奥底から噴出してきた。
ストレス発散のために人を虐げていたなんて嘘だ。
完全無欠な女王様は、昔は学園の笑い者。
学園の人間を全員刺し殺す、そんな内容の夢を何度も見ていたあの時。
殺したい、死ねばいい。私の心は壊れる寸前だった。
—今、その心を解き放つときが来たんだ。
殺すなんて生ぬるい。…もっと、もっともっと残酷な制裁を。
私は真里亜の元に歩み寄る。
かつてあった真里亜の独特の希薄は無くなっていて、今やただのか弱い少女。可哀想なウサギちゃん。
「真里亜」
私が名前を呼ぶと、真里亜は震えながらもゆっくりと振り向いた。
「ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
真里亜はそう言って発狂したように椅子から転がり落ちた。私は目で合図をする。とっさに香澄が真里亜に馬乗りになり、平手打ちを食らわせる。
顔面が涙でぐちゃぐちゃになった真里亜。それはかつての私だった。
「ねえ真里亜…今日の昼休み、裏庭に来てよ」
私はいつもの高貴で、残虐な、女王様の笑顔で真里亜にそう言い放った。
それはまるで、いつかの真里亜のように。
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