社会問題小説・評論板
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- はりぼて王国の女王様。
- 日時: 2017/08/16 01:42
- 名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)
私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。
私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。
私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。
—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。
そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。
だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.40 )
- 日時: 2015/08/04 16:40
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
昼食をとり終ると、私は逃げる様に自室に戻ろうとした。が、駄目だった。
婆やに引き止められたのだ。
「お嬢様、お友達がお待ちです、応接間にお待たせしているのですぐに行ってください」
「は?えっと、ちょっと待って婆や、ちょっとやりたいことがあるから少し待っててもらってもいい?」
「駄目ですよ、お嬢様がお眠りになっている時にやっていらっしゃって、今になるまでずっと待っていらっしゃるのです、もうこれ以上待たせるわけにはいきませんよ」
…面倒くさい。
そもそも何よ友達ってどうせあんな学校の連中なんだから下らない奴なんでしょだったらとっとと自室に返してよっていうか私が眠ってるときに来たんなら起きた直後に言えばよかったのに。
…一連のことが頭に浮かんだが婆やにそれをそのまま言葉にして投げつけるのはあまりに酷だろうし心が痛む。使用人とはいえ人間なのだ。多少のタイムロスは我慢して、婆やに従うことにした。
服を外用に着替えて、髪を整える。そしたら目覚ましに顔を洗って、靴下を履き替えて外履きを履いたら外用の私の完成だ。
長い廊下を歩き、応接間の重厚なドアの前で足を停める。そして深呼吸をしてからゆっくりとドアを開ける。
ドアの向こうを見た私は思わず唇を噛んだ。
赤いふかふかのソファに座っているのは複数人の少女だった。見覚えのある制服。見覚えのある4人。
「あらゴミ…ううん、精華さんお久しぶりね。怪我の具合はどうかしら」
「いやいや災難だったわね。でも大分治った様で安心したわ」
「あれれぇ?何だか怖い顔をしているけれども大丈夫ぅ?ねぇ小瑠璃様、あの子の顔怖くないですかぁ?まるで私達がやったみたいな…ねぇ」
「香澄、弱い人間は被害妄想が激しいのよ。大目に見てやりなさい」
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.41 )
- 日時: 2015/08/04 16:39
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
「…っ、あなた達、なんでわざわざここに…っ」
「あら開口一番に小瑠璃様を『あなた達』くくりにするのは失礼じゃないかしら」
「いくら今休養中で学校に来ていないからって調子に乗ってるのかしら、戻ってきてからが大変よ」
「っていうか私達、ここにいちゃいけない感じなのぉ?何でぇ?」
そう、来ていたのはあの女王とその取り巻きとあの女、伊集院小瑠璃、西条可憐、白柳美鈴、甘露寺香澄の4人だった。
「まぁ座りなさいな精華さん」
小瑠璃はまるで自分の家のように振舞う。いつのまにか立場は来客である小瑠璃の方が上になっている。これも頂点の人間に自然と身につく能力のようなものなのだろうか。顔は美しいが内面は腐りきった悪魔の死体のような奴だ。
っていうか、こいつら…事件を起こしたばっかりだっていうのに、なんでこんな所に来れる余裕がある?確かに今は金曜日の夕方、ちょうど学校が終わって帰りがけに寄ったという体だろう。しかし事件を起こしたなら私の時の様に生徒は片っ端から取調べを受けるだろうに、今は学校が終わる時間から僅か30分しか経っていない。さすがにその30分で関係者の取調べをすべて終わらせ、ここまで来るのは不可能だろう。ここは学校から少なくとも徒歩30分はある。…まさか。
「…隠蔽?」
「あら隠蔽なんかじゃないわ、警察も報道関係者も私のお父様の名前を知ったら雲の子を散らすように逃げて行ったわよ。あいつらが勝手に逃げたんであって、私達はなにもやってない。私達はなにもしてない、あの女は事故死、これで御終いよ」
「小瑠璃様、なんの話を…まさか、あのことですか?」
「ちょっと待って、何であいつがあのことを知ってるのよ」
「ニュースで…速報で、やってたわよ。でも詳しい情報はまだって言ってすぐに終わっちゃったけれど」
「あらあら、でももうこれ以上あのことは表に報道されたりはしないわよ、私たちのことが知れ渡ったりもしない。あなたはそれを期待していたのかもしれないけれど残念ね。私達はあなたとは人間としての格が違うからね」
「さすが小瑠璃様、あれ時間が押してますね。そろそろ帰りませんか」
「あら、そうね。じゃあ精華、怪我、お大事にね」
4人はあっという間に去っていった。とんでもない事実を残して。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.42 )
- 日時: 2015/08/04 23:37
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
その後はどのようにして一日を過ごしたかよく覚えていない。
恐らくショックだったのだろう。仮にも人が一人殺された事件が隠蔽されるなんて。金と地位を持っていればそんなことが許されると知ったときの恐怖、それで私の頭は一杯になったのだ。
気がつくと朝で、私はベッドから飛び起きた。
「婆や、新聞とってる?」
婆やが空いた時間にいつも新聞を手にとってコーヒーを飲んでいるのを私は何度も見ていた。新聞はとっているはずだ。
「ええ…とってますが、お読みになられますか」
やっぱり。
「うん、どこに置いてあるかしら」
「リビングの机に置いてあったと思いますがね」
リビングに駆け込む。すぐさま机の上に雑に置きっぱなしにされている新聞紙を手に取り、高速でページをめくる。
—…あった。
目に入る「私立黎明女子学園」「死亡」の2つのキーワード。嫌に小さな記事だったので、私は眼鏡を手にとって目を凝らして読んだ。…内容は、期待はずれかつショッキングなものだった。
『昨日未明、私立黎明女子学園で清閑寺真里亜さん(13)が階段から転落し、そのまま目の前にあった窓ガラスに衝突、死亡した。死因は転落及び衝突で負ったけがでの大量出血によるショック死とみられる』
嘘、だ。
死んだのは、真里亜。
清閑寺真里亜。
何で。
分かってたけど受け入れたくなかったんだ、私は。
嘘だ。
私は思わず絶叫し、号泣した。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.43 )
- 日時: 2015/08/07 15:02
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
私は人殺しだ。
月乃ちゃん達のいた学校から今の黎明女子学園に転入してから、私は一人友達ができた。真里亜っていう子で、綺麗な長い髪が似合う女の子だった。
その子は交友関係も広くて、私はその子のお陰ですぐにクラスに馴染むことができた。友達もたくさんできた。でも一番の友達、その学校に転入してから私のことを一番わかってくれていたのはやっぱり真里亜ちゃんだった。
でもある日、真里亜ちゃんはある女のせいで、いわゆる「いじめ」をするはめになった。
その女は香澄っていって、それはまあ憎たらしい女だった。
真里亜ちゃんのお父さんは、ちょっと問題のある人で。
娘の裸を、好んで写真に撮るような奴だった。
私は少し前からそれを知っていた。
あれは…あの夜、2年前、私たちが小学5年生だったころ。アジサイが咲いて、雨にしっとりと濡れていたからたぶん梅雨だ。そんな頃に、私は真里亜ちゃんと私の家で遊んだあと真里亜ちゃんの忘れ物に気付いて、それを届けるために真里亜ちゃんの家を訪ねた。しかし真里亜ちゃんの家は大きい。なにしろあの学園の中でもトップの財産家だそうだ。あまりに大きかったので、私は家の入り口を見つけられず、周辺をうろうろしていた。
そのときだった。
2階の窓から光が漏れていた。
カーテンは閉まっていたには閉まっていたが、少しだけ開いていたのだ。
そこから見えたのは。
裸になって椅子に座り、目をぎゅっと瞑り、ただただ耐えるようにしている真里亜ちゃんの姿と、それをニコニコしてカメラに収めている真里亜ちゃんのお父さん。真里亜ちゃんの白い肌にフラッシュが焚かれるごとに、真里亜ちゃんはみぞおちを殴られたような表情を見せる。
私は固まった。何もできなかった。
すると一瞬だけ、ただただ呆然とそれを見ている私の目と、真里亜ちゃんの光を失った曇ったガラス球のような目が合わさった。
私は真里亜ちゃんの忘れ物である水玉模様の青い傘を門にもたれかかせ、逃げた。友達があんなことをさせられているというのに、なぜ逃げたかというと、私は多分怖かったのだろう。餌食にされるのでは、と。
私は結局、自分さえよければいいゴミクズ女だ。
でも私は気付かなかったんだ。
真里亜の裸体を撮るフラッシュの中でも、やけに光の強かったフラッシュがあった。
私は気付かなかった。
そのフラッシュはあの女…香澄がすぐ近くで焚いたフラッシュだという事に。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.44 )
- 日時: 2015/08/07 15:01
- 名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)
その翌日、寝不足の私は腹痛という手を使って合法的な遅刻を行った。
実際に登校したのは2時間目の休み時間ぐらい。
校庭に人気は無かった。私は一人未だ呆然としながら教室に足を進めていった。そのとき、二人の少女が眼に入った。
真里亜ちゃんと、香澄だった。
二人は時間帯的にも誰も来ない給食室の前の廊下で、何かを話し合っていた。
…何だろう。もしかしてあの…私が昨日目撃した、あの事か?
並木に隠れるようにして進み、二人のすぐ近くまで行き、息を潜めるようにして倉庫の影に隠れた。
「…証拠もあるんだけどぉ。これ」
香澄は真里亜に真ピンクのデジタルカメラの画面を見せた。そこに写っていたのは—…昨日の真里亜の姿だった。
にやにやとカメラを構える成人男性。苦しみの表情で裸で椅子に座らせられた真里亜。すべてがカメラに収まっていた。
真里亜は足をがくがくと震わせ、カメラを香澄から取り上げようと香澄に飛び掛った。しかし運動神経のいい香澄はすぐにそれを避け、真里亜は床に情けなく倒れこむ。すかさず香澄は真里亜の背中を踏みつける。苦しそうな真里亜の声。
「これをばら撒いたら、どうなるかしら」
「…ッ」
「貴方のお父さんは変態で有名になって会社も倒産し、あなたもあっという間に有名人、学園では父に裸を見せていた変態女、二人合わせて変態親子と貴方達親子は一生後ろ指を指されて生きることになるわね」
「やっやだ…お願い、お金ならいくらでも…っ」
「お金でどうこうする問題じゃないのよね。あなた学校では優しいお姉さんキャラで通ってて、他校の男子からもモテモテなそうじゃない?でもこれを見たらみんな幻滅ね。あなたはどこの学校にいっても忌み嫌われ、笑われるだけよ」
「なんでも…なんでも、する、から!やめて!」
助けなきゃ。
私は瞬時にそう思って、二人の間に駆け込み、カメラを盗ろうとした。今なら飛込みさえすれば、あれを盗れる。
だけど足が動かなかった。また怖がってたんだ、私は。
あの時も何も出来ずに逃げたのに、こんな時にまで私は何も出来ずに隠れている、そんな人間だったんだ、私は。
「ふうん、なんでもする…ね?」
にやりと笑みを浮かべる香澄。
「やってほしいことがあるの」
真里亜は涙で濡れた顔を上げる。
「伊集院小瑠璃を、苛めて欲しいのよ」
私は耳を疑った。
いじめ?っていうか伊集院小瑠璃は世界屈指の大企業の会長の一人娘。学園内でもかなりのカースト上位だ。そんなのをいじめるなんて誰が。私は当惑した。
ああ、居た。
「真里亜ちゃんのお父さん…変態お父さん?ふふっ、その人、伊集院グループの大株主って聞いたよぉ?」
真里亜、たった一人だけ。
頷き続ける真里亜。はい、はい、はい、と言い続ける真里亜。
あの日から、伊集院小瑠璃に対する「いじめ」は始まった。
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