社会問題小説・評論板
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- はりぼて王国の女王様。
- 日時: 2017/08/16 01:42
- 名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)
私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。
私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。
私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。
—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。
そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。
だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.25 )
- 日時: 2015/01/14 00:44
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
2.伊集院小瑠璃の無様なる転落
朝、ふんわりとしたベッドの中で目覚める。
カーテンからちらつく鬱陶しい太陽の光を振り払うように起き上がり、制服に着替え、髪を適当にセットし、ダイニングに出る。
ダイニングには、誰もいなかった。数人の侍女を除けば。
私はフレンチトーストとミックスジュースを綺麗に平らげ、使用人が用意してきた通学バッグをぶっきらぼうに受け取った。
通学路を歩いていると、ふと昨日の、月乃の奇怪な言葉が思い出される。
—この中庭、死んだ母が私に譲ってくれた物なんですよ。
—そろそろ使いどきだと思うんですけど。
—本当に何もわからないんですね、ヒントもあげたのに。
一体何なのだ、あれは。本当に気味が悪い。月乃のあの意味深な言葉、あの意味ありげな微笑み。何もわからない、とは何事なのか。使いどき、とはいったいどういう意味なのか。
暫く頭を悩ませていると、だんだん苛ついてきた。
ああ、やめにしよう。あいつのことで悩むなんて私らしく—『小瑠璃様』らしくない。
学園に着き、何時ものように誇らしげに廊下を歩く。が、
…私にいつものように送られてきた目線が、ない。
いつもは皆、私が目の前を通るやいなや慌ただしくお辞儀をし、挨拶をしてくる筈なのだ。それが、全く、ない。
あの私にまとわりついて来ていた甘露寺香澄さえも、私に興味を向けず、クラスメイトとの会話に深刻な顔で没頭している。
教室に着く。また昨日のように可憐と美鈴が痛めつけられているだろうと思ったが、そうではなかった。可憐と美鈴は、他の連中と真剣な顔で話をしている。——何事だ。何が起きているんだ。
「ちょっと…何かあったの?」
近くにいた小娘をとっ捕まえ、事情を聴く。
「あ、小瑠璃、様…えっとあの、えっとこのクラスに、あの、転校生が、転校生が来るらしくて…」
私は落胆した。この連中はたかだか転校生などにここまで大騒ぎしていたのか。まったく阿呆だ。
「そんなこと?別に…まぁ、この時期、この学園に編入してくる人間なんてちょっとばかり珍しいけど。そんなに騒ぐことじゃないじゃないの」
「え、えとそれが…転校生、っていうか…あの、2年前、転校していった…」
「もう良いわ」私は片手で小娘を制す。
口下手な小娘には何を聞いても無駄だ。
ここまで噂になっているのも、どうせ下らない理由だろう。
すごく美人だとか、著名人の娘だとか、有名子役だとか…その類だろう。まったく馬鹿げている。
するとスピーカーからチャイムが鳴り響き、一人の少女を連れた担任女教師が歩いてくるのがドアの向こうからちらりと見える。教室は緊張に包まれ、騒いでいた連中はそそくさと席に座った。
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.26 )
- 日時: 2015/01/14 01:07
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
がらりと音を立ててドアが開かれる。老けた女教師が目に飛び込んでくる。
「皆さんもうご存知の様ですが、本日転校生がこのクラスに編入して参りました」
教室が静かにざわつく。ドアの向こうに視線が集中する。
「もう入っていいわよ」
ドアが静かに、滑らかに開く。少女が慣れたような足取りで教壇に立つ。
———あ。
心臓が、どくん、と鳴る。鼓動は次第に加速し、どくんどくんとハイテンポでしきりに音を立てる。
—何故、何故ここにいる。
少女の髪は黒々としていて、真っ直ぐ凛として、腰まで伸びていた。
その目は何もかもを吸い込むような、あの時と同じままの、…夜空色。
何で、何で何で何で。
鼓動は未だに収まらず、激しくなるばかりだ。
心なしか指先がかたかたと震えた。
その右目の下にある、小さな黒子。間違いない。間違いない。
少女の薄桃色の唇が蠢き、透き通った声を発する。
「清閑寺 真理亜です、よろしくお願いします」
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.27 )
- 日時: 2015/01/14 20:23
- 名前: ふらん@腐女子覚醒したお (ID: kBbtVK7w)
期待!!
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.28 )
- 日時: 2015/01/18 22:28
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
「ねぇ小瑠璃ちゃん」
これは、2年前の梅雨の話。
当時の私は、今のような「玩具」は存在しなかったものの、同級生の小娘共を顎で使っていた。
「私、小瑠璃ちゃんのこと、嫌いだな」
私についての悪口は多かったものの、面と向かって文句を言うような人間はまずいなかった。表面上だけ仲良くされているという感じであった。
私に楯突くなどはタブー中のタブー、私はアンタッチャブルな存在として学園に君臨していた。—はずだった。
あいつ…清閑寺真理亜が、全てをぶち壊すまでは。
「…え?」
どこか黴臭い教室で、私は椅子に座り呆気にとられていた。
机の向こう側には、黒髪の少女が立っていた。胸元に縫い付けられた名札には、黒い明朝体で「清閑寺 真理亜」と記されていた。
「私、小瑠璃ちゃんのこと、嫌いなの」
清閑寺真理亜は、その薄桃色の唇から、本日二回目のその言葉を吐き出す。
すると突然、椅子が私を巻き込んで横に倒れた。
どん、という音と同時に、私の体の右半分に痛覚が襲いかかる。
見ると、そこには真理亜だけでなく、同じクラスの—甘露寺香澄が居た。
「小瑠璃ちゃんさぁ、調子に乗ってない?」
「…はぁっ!?」
「ちょっとお金があるからってぇ、…うざったいのよねぇ」
香澄は、床に倒れたままの私を踏みつける。
「ちょっ、何すっ…止めてよ!お父様に言いつけるわよっ!!」
私の叫びを聞いた真理亜は、鼻で笑った。
「小瑠璃ちゃんのお父さんってさ、…伊集院グループの会長さんなんだよね?」
「そうだけど…それが何よ、お父様は大抵の人間は操れるような地位に居るのよ、私にこんな事をしたって言えば…あんたたちは社会復帰なんてできなくなるのよっ!」
「いやいや…私のお父さんさぁ」
「伊集院グループの、大株主なんだよね」
- Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.29 )
- 日時: 2015/01/24 13:50
- 名前: 小麦 (ID: SEcNJIKa)
「…なッ!?」
「あれれ、知らなかったの?」
真理亜は笑顔のまま小首を傾げる。彼女の黒い髪がふわりと揺れた。
「知らなかったんだぁ、だから…あんなに偉そうにできたわけねぇ」
香澄はそう吐き捨て、私の長い髪を乱暴に引っ張る。頭皮を痛みが襲う。
「やっ…止めてっ!痛いっ!やだっ…何をするのっ!」
「今まで散々偉そうにしておいて。この学校の女王様みたいに振舞ってたみたいだけどぉ、実質のナンバー1は真理亜ちゃんなんだからねぇ?」
「…だ、だから何なのよぉっ!!」
私がそう喚くと、真理亜は呆れたような顔で言った。
「だから、わからないかな?小瑠璃ちゃんに、償いをしてもらうんだよ」
「…はぁ!?」
「当然の事じゃない!ナンバー2のくせにぃ、散々威張り散らしてぇ!」
突然右足に衝撃が走る。香澄に蹴られたようだ。鈍い痛みを感じる。
突然周りでただ黙りこくって見物していた小娘どもが立ち上がる。と、私を囲み、次々に暴力を振るい始めた。
体全体に断続する痛み。耳に入ってくるのは、罵詈雑言。
いくら抵抗を見せようとも、チャイムが鳴るまで、それは終わることはなかった。
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