社会問題小説・評論板

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はりぼて王国の女王様。
日時: 2017/08/16 01:42
名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)





私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。

私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。

私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。

—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。

そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。

だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.50 )
日時: 2015/08/10 10:13
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

>>49
みなみさん、コメント感謝致します!
ただでさえコメントが少ないので、
貴重な褒め言葉、本当に感謝しています。
不躾ですが、これからもどうか読んで頂けると嬉しい限りです。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.51 )
日時: 2015/08/10 10:43
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

下校時刻はとっくに過ぎていて、通学路の人はまばらだった。
運動部はみんなとっくに活動時間は終了しているので、殆どが文化部、もしくは帰宅部だろう。
文化部は基本的に活動終了時間が決まっていないので、下校時刻を過ぎるまでだらだらと遊びほうけていた連中が多い。
まあ文化部とか帰宅部と言えば運動もろくに出来ないカースト底辺の集まり。
…おっと、小瑠璃も帰宅部だったな。

「あれぇ?もしかしてぇ、今帰るとこぉ?」
突如背中に刺さってきたわざとらしく作った声。…香澄か。
振り向く気力も起こらず、私は無視するように歩みを続けた。
「私も今帰りなんだよねぇ、一緒に帰ろぉ」
こちらが承諾もしていないのに、香澄は私の横についた。
「3連休明けだからかなぁ?なんかさぁ、可憐ちゃんと久しぶりに会ったみたいってゆーかぁ、なんか可憐ちゃんさぁ、私のこと避けてなかったぁー?」
私は驚愕した。
私の事を「可憐ちゃん」と図々しく呼ぶことにも驚愕したが、何よりも香澄の指にあのピンクダイアモンドの指輪が光っていたことが一番の衝撃だった。
『皆さん、新しい玩具は可憐と美鈴。今回はたくさん痛めつけてくれた人間に、褒美をあげるわ…例えば、これとか』
蘇る小瑠璃の声。
そうだ、あのピンクダイアモンドの指輪は私たちを沢山苛め抜いた人に送る…褒美だ。

小瑠璃様から誰かに、玩具をたくさん痛めつけた褒美として何かを渡すことは良くある事だった。
有名ブランドのバッグ、様々な宝石が贅沢に散りばめられたネックレス、ぴかぴかと輝く高級革の財布。
どれもかなり高級な物だ。ここは有名なお嬢様学校、そりゃあ貰う側もかなりの財産家だが、あくまで娘。何十万、何百万とする物を、1ヶ月に1つぐらいなら購入できるが、いつでもそうホイホイと買えはしない。結局誰も小瑠璃には適わない。

しかし、あのピンクダイアモンドの指輪はかなりの高級品。
今までの褒美の中でもぶっちぎりかもしれない。
よっぽど何かもの凄いことを成し遂げたのだろう。
…でも香澄は、あまり私達には近づかなかったような?
じゃあ何であれを持っているんだ。…何で?

「ちょっと何かなぁ黙っちゃってぇ」
「着いて来ないでくれない、気持ち悪い」
「やだっ怖ぁい。…ってゆーかぁ、これは本当に聞きたかったことなんだけどぉ、…何で今日、こんなに遅い時間に帰ってるのぉ?」
「…っ!?何よ、いつ帰ろうとも他人の自由じゃ…」
「でもでも可憐ちゃん空手部でしょぉ?あそこ部員少ないからいっつも5時ぐらいに終わるじゃん?でも今はそれから1時間も経ってる。私は部活動の後いつも委員会活動があるから最近はいつもこの時間に下校なんだけどぉ、可憐ちゃんはいつもこのぐらいの時間じゃん?今日聞いてみようと思ったんだよね、何があるのぉ?」
私は返す言葉が無かった。
…ひょっとしてコイツ、知っているのか?全部。
まさか小瑠璃が私と美鈴を標的にしたのも、全部コイツの思惑なんじゃ。
「話したくなかったらいいんだけどぉ…あっ私こっちだからぁじゃあねー。」

香澄は嫌な笑いを浮かべて、手を振って去っていった。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.52 )
日時: 2015/08/11 14:15
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

ぼうっとして歩いていると、いつの間にか自宅の前まで着いていた。
目を瞑り、軽く深呼吸をする。何度か繰り返す。
ドアノブを捻り、出来るだけ音を立てないようにゆっくりと重厚感のある玄関扉を開ける。
…幸いな事に、玄関先には誰もいなかった。
そのまま忍び足で自室に帰ろうとする。と、突如背後から服を掴まれ、私の身体はがくんと後ろに下がった。
「…遅かったじゃないのッ!!」
頭部を思い切り殴られる。とっさに歯を食いしばったので、口から血は出なかった。安心した矢先に、今度は頬に平手打ちを喰らう。続いて太ももが蹴られる。私は床に倒れこむ。
「お母さんはねぇ、あんたが帰ってこないから料理の支度が出来なかったんだからッ!」
髪が引っ張られる。さらにまた平手打ちを何発か喰らった。

ようやく腹の虫が収まったらしく、お母さんは私の髪を乱暴に離し、台所へと足音を大きくして戻っていった。

私はそそくさと自室に逃げるように駆け込む。
制服を脱ぎ、いつもの私服であるゆったりとした紫色のワンピースに着替える。制服はしっかりとハンガーに掛ける。固く結んでいたポニーテールも解き、ゆるくウェーブした黒いロングの髪が出現する。

一通り終わって、ベッドに座り込む。羽毛布団の柔らかい感触に、ほんのりとスプリングの反発が感じられて心地よい。

お母さんがあんな風になるのは、出張の多いお父さんの居ない時だけだ。
始まったのは私が小学2年生の時だったか。
もともとお母さんはお父さんに暴力を振るわれていた。
私は見ないふりをしていたけれど、それには昔から気付いていた。

そしたらある日、お母さんから理由も無くお腹を殴られた。
私は軽くえずいた。そして泣いた。するとまたお母さんはひたすら私を殴った。蹴った。
ボロボロになった私に、お母さんは何か言った、けど、私には聞こえなかった。そうだ。聞こえなかった。聞こえなかった。私は聞こえなかったんだ、そう、忘れた。忘れたんだ。

それからお父さんがいない日はいつも私は暴力を振るわれる様になった。
年数を重ねるにつれ、暴力を受けながらも身体をあまり傷つけずにする方法が分かってきた。頭を殴られる前に歯を食いしばったのもそれだ。
また、泣かずにすむようになった。そりゃあ5年も経験すりゃ泣かないだろう、慣れるだろう。

私は手の甲にできた擦り傷に、こっそり買ってきた上等な傷薬を塗りこむ。
けっこう高かった。5万円、だったか。だけどこれを塗れば擦り傷ぐらいなら一晩で治る。昔見つけてから、ずっと愛用している。

私はお母さんに暴力を振るわれることを認め始めたのかもしれない。
初めこそ反発し、後にすごく泣いたものだが、今は後腐れもなく暴力をなんの抵抗もせずに受けている。
多分これは、しつけだ。

お母さんに認められる人間にならなきゃ。
そうしたら暴力は終わるのだから。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.53 )
日時: 2015/08/12 16:50
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

そしてまた朝は来る。

いつもの一時間目前休み。いつもの溜まり場、中等科一年学舎西廊下。
あの日から幾日か日が経って、私と美鈴はまた小瑠璃の側近となっていた。
まるであの日のことなんて無かったように。…私と美鈴が玩具だったあの時、あの瞬間なんてまるで無かったように私と美鈴は振舞っていた。
しかし、何もかも、上っ面だけは元の通りになったという訳では無かった。
私と美鈴と小瑠璃といういつものメンツに、香澄が加わっているのだ。

「そろそろ新しい玩具を調達しようと思うの」
周りの連中の視線が一気に小瑠璃に突き刺さる。
うちの学園はさほど生徒数は多くない。確か中等科一年だけで30人ぐらいだ。クラスは1組と2組しかない。一クラス15人だから…うん、だいたいそのぐらいだ。
何しろここは世界の頂点に立つ者の娘達のみが通うところ。学費もかなり高めと聞いた。これでかなり人数は絞られる。

だから私達のたまり場西廊下は、いつも中等科一年生徒が全員集合しているという有様だ。何しろ校舎はただっ広く、廊下までも広い。30人などゆうに入ってしまう。そしてわざわざ西廊下に溜まる理由はもちろん、小瑠璃についての情報を手に入れ、一刻も早く行動し、自身が小瑠璃の次の玩具になるフラグをへし折るためだろう。
「あらいいですねぇ、目星はもう付いていらっしゃるんですか小瑠璃様ぁ?」
香澄は図々しく目を輝かせる。…この間まで下層カーストだった癖に。
「…まだ、よ。それを探してもらおうと思ってるの」
「可憐と、私と、っ……香澄に、ですか?」
「あら、違うわよ」
連中はざわめく。聞いていないふりをするのも忘れて連中は小瑠璃に目線が釘付けだ。小瑠璃はそれを分かっていて、わざと声を大きくした。

「今回は、投票によって決定したいと思うの」

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.54 )
日時: 2015/08/12 17:30
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

「とっ投票!?ちょっとどういう事それ!?」
「あいつら…小瑠璃様の側近みたいな奴らも投票権があるってこと?」
「そりゃそうでしょ…じゃあ私達にもあるって訳?」
「ええ…嘘、ちょっと怖いんだけど…」
周囲がざわめく。そして呆然とする。
私達も思わず呆然とした。声も出なかった。
投票?

「どうせ皆さんここにいらっしゃるんでしょう?なんならもうルールを説明しておくわ。よく聞きなさい」

廊下は水を打ったように静かになった。
「今回の投票のルールを説明致します」
小瑠璃は廊下にたまたま在ったイスに腰掛ける。
こんなボロ臭いイスに座っているのに、小瑠璃からは王座に鎮座した女王様のような風格が醸し出されている。これはもう一種の才能と言っていいかもしれない。
「今回の投票はいたって単純。紙とペンだけ在ればできるわ」
小瑠璃は懐からクリップでまとめられた小さな手のひらほどの紙束を取り出した。そして銀色に光るクリップを外し、民衆のいる方向にばらまく。
「拾いなさい、大事な投票用紙よ。ただし一人一枚」
私達にもその投票用紙は渡された。ただし哀れな民衆とは違って、私達は小瑠璃の手から、だけれど。

「この投票用紙に、玩具に相応しい人物を表側に赤でフルネームで記入し、裏側に自分の名前を黒でこれもまたフルネームで記入する。それだけよ。ただし違反は厳禁。一人で何枚もの投票を行ったり、投票用紙を偽装したりしたら、玩具とはまた別に制裁を下すわ。あ、そうそう、そういう違反を目撃したらすぐに報告してね。褒美は…ええと、1回100万円、でいいかしら」

場が一気にざわめく。
100万円。
私達はピラミッドの頂点に位置する人間。でも私達はやっぱりただの中学生だ。そんな大金はさすがに親からもらえない。せいぜい10万円が限界だろう。…100万円で何が出来る?あのブランドの新作のクラッチバッグも買えるし、憧れのダイアモンドのネックレスも買えるし、何でも…。

「じゃあ大体は分かったわね。締め切りは今日から一週間後だからよろしく。投票用紙は…そうね、ああ、ここ…西廊下に置いてある目安箱でいいじゃない。使用用途がなくて埃被ってたんだからいいわよね。じゃあ書いた投票用紙はあそこの目安箱によろしく」
小瑠璃が喋り終わったと同時に、帳尻を合わせておいたかのようにちょうど良く一時間目の予鈴が鳴った。


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