社会問題小説・評論板

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はりぼて王国の女王様。
日時: 2017/08/16 01:42
名前: 小麦 (ID: Uk0b6ssr)





私立黎明女子学園。——屈指のお嬢様学園。
選りすぐりのお嬢様達が通う、正に白亜の宮殿のような学園。
しかしその中にも、やはり『格差』が有った。

私、——伊集院小瑠璃こそがそのピラミッドの頂点。
容姿端麗、文武両道、大企業伊集院グループ会長の一人娘。

私はこの宮殿の女王様。
下級生は勿論、同級生、上級生も私には敬語を使う。
私の命令は絶対。逆らうなんて絶対に有り得ない。

—こんなに完璧な私も、ストレスは溜まる。
高貴な家柄だから、作法には気をつけなくてはならない。
屋敷内の乱れた言葉はけして許されない。
常に文武ともに学園のトップでなければならない——。

そのストレスを発散するには人間を甚振るのが一番。
逆らう生意気な小娘は、私が自らの手で『制裁』する。—学園の掟。
小娘は私たちの格好の玩具になって、壊れて果てる。

だって私は女王様、周りの小娘はすべて奴隷なんだから。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.60 )
日時: 2015/08/25 16:53
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

始めて見る表情の香澄。
ただただ人を蔑んだような目。下がった口角。
冷たい、あの特有の粘っこさの無い声。

「…!?な、何…ッ」
思わず口調がしどろもどろになる。足がすくみ、うまく立てない。

「あたしは数年前、あんたに酷い扱いを受けた」
「…は、何…」
「覚えてないの?このゴミクズ女。…小学3年生、のころじゃない?うん、それぐらい。そのころ私は…デブだった。太ってたの。今まではそんな事気にしちゃいなかったんだけど、他の子も普通に接してくれてたしね。でもあんたは違った、今もそうだけど、ずっと違うクラスだったしあんたは私の名
前も知らなかったんだろうね」

「…ッ」
思い出した。あの日々のこと。
…しかし、あの太ってて醜かったあの女。…それが、この香澄だって言うのか?
とてもそうとは思えない。香澄はどちらかというと華奢な方だ。太ももまでもが棒きれのように細っこい。

「あんたはある日、私とすれ違ったとたんにそれを始めた。いきなり突き飛ばして、なによこの豚、ってね。それで私を踏んづけて、蹴って、髪を乱暴に掴みかかったと思えば思いっきり引っ張って。皆驚いてた。私は今まで別に、この体系を気にされて避けられるなんてことは無かったから。どちらかというとクラスの中では人気者の方だったもんね。でもその日から私は転落した。あんたのせいで、ね」
覚えてる。私はその日から、その太った女…香澄を虐げ始めた。
なんてたって私はかわいい。もともとかわいいだけでなく、髪もしっかり毎日手入れを欠かさなかったし、洗顔も毎日念入りにやっている。もちろんカロリー管理にも気を配っていた。

そんな私は、なんの努力もしていないだらしない体系の香澄が、本当に気に食わなかった。醜い。醜い醜い醜い。

2ヶ月ぐらい香澄を呼び出して友達と一緒に踏んだり蹴ったりを繰り返す日々が過ぎたのち、香澄は不登校になった。

「私は不登校になった。…でもその後、私は努力した。痩せるため、のね。そうしてこの体を手に入れて、また学校に行き始めた。そして私は復讐のための準備を始めたの」

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.61 )
日時: 2015/08/25 17:06
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

「復讐?」

「おっと。その先はあんたにはあんまり関係ない話にまで食い込んじゃうし、一時間目休みは短いし、やめといた方がいいね」
にっこりと微笑む香澄。その笑顔には果て知れない不気味さが充満している。
「じゃあね、家畜女」
「え、ちょっ…と!?」
香澄は手を振って教室側へ走っていった。

『お前だよ、西条可憐』
そう、また耳元で呟かれたような気がして思わず振り返った。しかし誰も居ない。居るはずが無い。

私は地面にへたりこんだ。
これから私はあの香澄に、囮として使われ、再び玩具へと落とし込まれるのか?
…でも、どうやって?
香澄のかつての扱いを人々に広める?いや、それは投票への誘導方法としてはあまりにも弱い。気に入らない人間をいじめるのなんて、小瑠璃のやり方ほどでなければ上層カーストの人間にはよくある事だ。
そうこう考えている間に、チャイム音がスピーカーから流れる。
生きた心地もしないまま、私はゆっくりと教室へと歩いた。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.62 )
日時: 2015/08/25 17:35
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

二時間目はまたも自習。
テスト直前という事で、授業も進められないため自習時間が近頃多くみられる。しかしこの自習時間の連続は本当に有難かった。香澄の真意、そして私がこれから受けるであろう復讐、そしてそれの対策をじっくりと考えることができる。目を瞑って顔を伏せ、寝たふりを行う。周りとは一切遮断された暗闇の空間で、私はじっくりと思考する。

しかしそれは断ち切られた。

この学園の各教室の黒板左隣には、デスクトップパソコンが必ず一台は設置されている。それも常時つけっ放しだ。生徒はこれを利用する事は殆どない。ネットサーフィンを行うにもフィルタリングが付いていて馬鹿らしい子供だましのサイトやお堅い生真面目な学習関係に関するサイトなど、限られたものしか表示することが出来ない。

そのパソコンの画面が、急に点滅した。周囲の視線は一気にパソコンの電子画面に集中する。
「何!?ウィルス?」
「やだ怖いー。壊れた?このパソコン」
「え、先生呼ぶ?」
「職員会議でしょ?職員室はこっからはかなり遠いし…」
「え、なんか画面切り替わってない?」
「ほんと。え、教室?」
「女の子二人?な、何これ、女の子踏まれてんじゃん」

私は絶句した。体が硬直し動けない。

そこに映し出されたのは、私のあの日課だった。

『あんたね、特待生とか言ったっけ?庶民のくせにこの学園に入るなんて本当気持ち悪い、申し訳ないと思わないの?』
私が女の頬を叩く。小気味良い音と共に、私に憎悪の視線が突き刺さる。
やめて。やめて。止めて。
映像が切り替わる。だけど場所と状況は同じだ。空き教室に私と女が二人きり。
『今日の4時間目の体育、あんた私の足を踏んだよね?あんたは謝ったけどさ、「あ、ごめん」ってちょっと酷くない?あんた何様よ』
切り替わる。
『あんた不細工だよね。あんたが目に入るたびに嫌な気持ちになるんだけど。歩く公害、ってやつ?』
切り替わる。
『ねぇ死んで?あんたバカだし、ブスだし、いいとこないじゃん。この学園の面汚しになってるの気付かない?』

30分ほど経って、やっとその一連の映像は止まった。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.63 )
日時: 2015/08/30 13:42
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

止まったと同時に、視線の焦点は一気に私へと集まる。

足が小刻みに震える。
何だあれは?私のあの『習慣』が—…知らず知らずのうちに、撮影されていたと言うのか?…誰に?

まさかあの、…甘露寺香澄に?
『復讐』とはこの事なのか?
騒ぎ声が隣の2組教室がなかなか止まない。この映像は2組でも放映されたらしい。…この映像が広まったなら、このまま放置すれば私に票が集まることはほぼ100パーセント間違いないだろう。…これが狙い?

嘘だ。

「あれ何?…どーゆー事?西条さんだよね?あれ」
「間違いないでしょ。結構ハッキリ映ってたし」
「なにあれ最低…私、西条に投票する。てかあれ、みっちゃんも映ってなかった?」
「う、うん…やられたの、西条さんに」
「ほんっと酷い、調子のんなよって感じ…西条に投票ね、西条可憐」

西条可憐に制裁を。
西条可憐に制裁を。
悪しき権力者に制裁を。

チャイムが鳴ったと同時に、私は教室を飛び出した。
とにかく走る。取りあえず人の居ない所にどうにか逃げ込みたい。
夢中で走る。

すると体がいきなり大きく後ろに引っ張られたかと思うと、特有の冷たさを持つ廊下の床に叩きつけられる。すると上から髪の短い女がニタリと笑みを浮かべて私を見下げる。
「このゴキブリ女、気分はどう?」

その女は、…甘露寺香澄だった。

Re: はりぼて王国の女王様。 ( No.64 )
日時: 2015/08/30 14:04
名前: 小麦 (ID: lkF9UhzL)

目が覚めると私が『習慣』を行っていた—空き教室だった。
私は埃を被った床に仰向けになっていた。

「人って本当に気絶とかしちゃうんだね」
冷たい声で言い放ち、私を蹴り上げる香澄。私は突き飛ばされ、机に体が衝突し、たちまち机が私に覆いかぶさった。
「投票なんて全部嘘」
香澄が私の前に立ちはだかり、誇らしげにそう言う。
「本当はあんたを貶めるための、私と小瑠璃様のちょっとした作戦だったのよ、このお馬鹿な家畜の可憐ちゃん?」

混乱で頭が真っ白になる。
投票が作戦?私を貶める、ための?嫌だ、何で?

「あんたと美鈴の玩具期間は、まだ終わってなんてなかったってことよ」
香澄は指のピンクダイアモンドを光らせて言い放つ。
「ってゆーか小瑠璃様が真里亜の奴を苛め始めた時点であんた達は、自分の玩具期間が終わったと思ってたのかもしれないけど、誰もそんな事言ってないじゃない」
「…は」
私は視線に気付いて右を向く。
…美鈴だった。手足をガムテープで壁に固定され、貼り付けのように晒された美鈴。顔面には赤い、ついさっきやられたような新鮮な叩かれ傷。

「玩具としての通常の期間はおおよそ一ヶ月間。でもあなた達は玩具として指名されてからまだ2週間よ、おかしいと思えなかったの?」
「な、…香澄、あんたっ」
するといきなり顔面めがけて椅子が飛んできた。
「き、きゃああぁ!」
とっさに避けようとするが、それは無理だった。狙い通り私の顔面に椅子が直撃し、鈍い音を立てた。

「あたしの事は香澄様と呼ぶのよ、この奴隷豚」
「…ひっ…う…っ」
痛みで声が出ない。思わず涙もぼろぼろとだらしなく流れる。

「これから何も知らないあんた達に種明かしをしてあげる、業間休みという事で時間はたっぷりあるしね」
香澄は椅子の埃を手で払ったあと、ゆっくりとそれに腰掛ける。

「全部私が仕組んだのよ、このはりぼて王国を」


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