社会問題小説・評論板

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大好きで大嫌い
日時: 2023/05/10 23:57
名前: たなか (ID: 3Mpht8EV)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12904

平和に生きているつもりでも、過去は変わらない。


あの夜の恐怖と不快感は、簡単に思い出すことができる。


少しずつ僕の身を蝕んでいった障害も、今では手をつけられないほどに膨らんでいる。




こいつがそんなことしない。




あいつもその気は無い。




そんなこと思ったって無駄。


何も変わらない。


きっと変えられない。


記憶なんか無くならない。


無くなったらそれは僕じゃない。


でも、こんな記憶を抱えてまともに生きていけるはずがない。


どうしたらいいのか、自分にも分からない。


ただ僕にできるのは、誰にも触れられないようにするだけ。


なるべく相手の印象に残らないように、地味に生きるだけ。


大好きな人も、大切な人も、傷付けないように関係を消滅させていく。


傷付けないように、記憶に残さないように。


僕なんかいない方がましだ。


僕に優しくしてくれる人の期待に応えられないなんて。


いない方がましだよ。


さっさと消えろよ、とっくに穢れた命だ。


得意だろ、人の記憶に残らないことなんて。


大得意だろ、いつもそうやって生きてんだろ。







誰かのせいで、縮こまって生きてんだろ。

Re: 大好きで大嫌い【BL】【虐待】 ( No.13 )
日時: 2020/12/03 23:34
名前: たなか (ID: dRBRhykh)

日曜日。

部活が休みだったから、俺は雫月の家に行くことになった。

よく考えたら雫月と遊ぶのはこれが初めてだ。

学校近くの駅で待ち合わせをして、自転車で向かう。

雫月の家に着いたのは15分後くらいだった。

静かな通りに面した新しめのアパート。

「コンビニとかスーパーとかが近くにあるから、買い物が楽なんだよ」と、駐輪場に自転車を入れながら雫月が言う。

......俺、あんまり1人で買い物行かないな。

雫月に着いていって到着した部屋に入る。

「お邪魔します」

そう言うと、廊下の突き当たりのドアの向こうが開いた。

「おぉ、雫月の友達?」

気さくそうな笑顔で出てきた人が言う。

......これが、雫月の「先生」か。

「田島大和です。こんにちは」

「こんにちは〜。リビングと雫月の部屋は綺麗だから、ゆっくりしてってね」

そう言い残してその人はもう一度部屋に戻った。

「......くっそイケメンじゃん」

ぼそりと呟く。

顔の系統は雫月とよく似ていたが、もう少し男らしさがある感じだった。

元気そうな、明るそうな。

「でしょ?」

にやりと笑って雫月が言う。

さっきあの人が入った部屋の手前、廊下の右側のドアを開ける。

その部屋は大体6畳くらいで、ローテーブルとテレビ、本棚が置いてあった。

「座っていいよー」

雫月に言われ、隣に腰を下ろす。

本棚には難しそうな本から少しくだらなそうな本まで並んでいた。

2人でテレビゲームを始めて少し経った頃、部屋に「先生」が入ってきた。

「なんか楽しそうだねぇ......俺もいい?」

目が輝いている。

「僕はいいですよ......大和は?」

「俺もいいっすよ」

「うお、ありがと」

3つあったコントローラーのひとつを渡した。

雫月の隣に「先生」が座る。

「名前、なんて言うんですか?」

ずっと脳内で「先生」と呼び続けるのは少し嫌だったから、質問する。

「ごめん、言ってなかったね。俺は清原泰輝。安泰の泰に輝くっていう字」

「清原......さん?」

「いや、泰輝さんでいいよ。なんなら呼び捨てでも」

そんな風に話していると、雫月が「ちょっとトイレ」と言って部屋を出た。

部屋にいるのは俺と泰輝さんだけになる。

「この前さぁ......」

泰輝さんの方を向いた。

「高校時代にめっちゃ好きだった女の子が歳上のおっさんと結婚したっていう話聞いて、落ち込んで家帰ってきたことがあったんだけど」

苦笑いしながら泰輝さんが話す。

「そんとき雫月にさ......『僕がいるでしょ?』って言われて」

......なんの話ししてんだろう。

てかなんの話聞かされてんだろう。

オチが見えない。

「まぁ冗談だと思うけど俺はすっげぇ嬉しくて......あいつ良い奴だよな」

泰輝さんが俺に笑いかけた。

雫月とどこか似た、柔らかい笑顔。

「......そっすね。めっちゃ良い奴だと思います」

「だよなぁ......多分あいつ今まで色々我慢してたから、大和みたいな友達できて喜んでると思うよ。これからも仲良くしてくれたら俺も嬉しいわ」

うはは、と照れ隠しのように泰輝さんが笑う。

それにつられて俺も笑った。




「これからも仲良くするつもりです」




笑いながら答える。

雫月。

お前今めっちゃ良い人と一緒に住んでんだな。






......雫月のこの幸せが、ずっと続きますように。

Re: 大好きで大嫌い【BL】【虐待】 ( No.14 )
日時: 2020/04/19 14:50
名前: たなか (ID: DNPUSbcq)

とある日の放課後。

職員会議があるらしく、部活が全部休みになった。

「雫月、一緒に帰ろうぜ」

帰りのHRの後、雫月に声をかける。

「ちょっとすることがあるから、昇降口で待ってて〜」

申し訳なさそうな笑顔でそう言われ、階段を降りた。

何をするんだろう。

......まぁ、俺には関係ないか。

昇降口の前の木の下に立ち、雫月を待つ。

「おぉ、大和じゃん。誰か待ってんのー?」

たまに話すクラスメイトに声をかけられた。

「雫月ー」

返事をすると、クラスメイトは「頑張れー」と適当な返事を返して友達と校門へ向かって行った。

数十分経っても、雫月は現れない。

......ちょっと教室覗いてみようかな。

雫月いるかもしれないし。

学校の中に戻り階段をあがる。

教室に近付いてきた時、部屋の中から声がした。

「あの......俺さ、お前のこと好きなんだよね」

思わず立ち止まった。

これ、俺聞いてよかったやつ?

絶対だめだよな。

戻ろうかな......。

「えと......相手って僕で合ってるんだよね?」

階段へ進みかけていた足を思わず止める。

......雫月?

告白してたのは男だよな?

「雫月で合ってる」

雫月の話し相手が雫月に答える。

本当に俺が聞いちゃだめなやつじゃん。

知らなくていいこと知っちゃったよ。

「そっか......ごめん、僕好きな人いないから......」

「嘘つけ」

そそくさと逃げようとしていた俺の足が、もう一度止まる。

嘘つけって......なかなか酷い事言うな。

とりあえずこれ以上留まると雫月の事も色々知っちゃいそうだからさっさと下に降りよう。

階段を足早に降りて、何事も無かったかのようにさっきまでいたところに立つ。

それから大体15分後、雫月が来た。

「おっせぇよ」

「あは、意外と時間かかっちゃった。ごめんごめん」

呑気そうに笑いながら雫月は言った。

......俺は何も知らない。

何も知らない。

何も見てない。

暗示をかけながら雫月と駐輪場に向かった。

Re: 大好きで大嫌い【BL】【虐待】 ( No.15 )
日時: 2020/04/27 14:19
名前: たなか (ID: RGtt012g)

1週間後、雫月が発熱で学校を休んだ。

当然俺も一人でいることが多くなり、昼休みもぼんやりと時計を見ていた。

......おっせぇな、時間経つの。

「田島」

ふと後ろから名前を呼ばれる。

......振り向いたところには、この前雫月に告白していた奴がいた。

確か名前は山崎......なんだっけ。

まぁいい。

「雫月って今日熱?」

「あぁ、そうらしいよ。38度くらいだって」

山崎が「ほぉん......」と返事をした。

「お前めっちゃぼっちじゃん。笑える」

ははっ、と笑いながら山崎が言う。

......うるせぇな。

雫月いないから仕方ないだろ......。

あいつにここまで依存してるのも情けないけどさ。

「ちょっと悪ぃけど、一緒に図書室行ってくんね?返し方とかよく分かんなくてさ」

確かに、山崎はハードカバーの本を数冊持っていた。

「おう」

短く返事をして椅子から立ち上がる。

2人で図書室に行って本を返すと、山崎はもう1冊本を借りた。

「閲覧室よっていい?軽く読みたいんだけど」

めんどくせ、と思いながら頷く。

俺はその間何してりゃいいんだよ。

図書室の向かいにある閲覧室に足を踏み入れる。

いつも通り利用者は居なかった。

部屋の奥の方に進む山崎に着いていく。

こんな奥まで来る必要あんのかよ、と思った時、山崎が急に振り返った。

胸ぐらを掴まれ壁に押し付けられる。

......こいつ、背高ぇのな。

見下ろされるのがなんかうざい。

少し予想通りだったこともあり、そんな馬鹿なことを考えていた。

「......お前さ」

いつもより低い、小さな声で山崎が言う。

目が怖ぇ。





「雫月と話すのやめてくんない?邪魔なんだよね」





「ぶはッ」

あまりにも予想通りの言葉に、思わず吹き出した。

「なんで笑ってんの?気持ちわりぃな」

「悪ぃ悪ぃ。で、なんで俺がそんなことしないといけねぇの?」

「邪魔だからっつってんだろ」

......美形の真顔ってやっぱ怖い。

てかなんで俺の周りこんな顔面偏差値高いんだよ。

俺めっちゃ悪目立ちするじゃん。

「とりあえずこれ離せよ」

胸ぐらを掴んでいる手を軽く掴む。

「阿呆だろお前、離すわけねぇじゃん」

「あそ、じゃあいいや......あと俺は、雫月と話すのやめる気無いから」

ぐぐぐっと胸ぐらを掴む手に力が入る。

山崎が小さく舌打ちをした。

「へぇ......」

さっきとは違う雰囲気で、山崎は笑った。

胸ぐらを掴んでいた手が離れる。

「じゃ......雫月が帰ってきた日を楽しみにしてろよ」

そう言い残して、山崎は出口へ歩いていった。

......なんか嫌な予感がする。

Re: 大好きで大嫌い【BL】【虐待】 ( No.16 )
日時: 2020/04/28 08:46
名前: たなか (ID: WfT2i/6h)

「ごめん、もう話しかけないで」

雫月が学校に復帰した日の朝、雫月に声をかけるとそう返された。

一瞬思考が止まる。

「……へ?」

「話しかけないでって言ってるでしょ……もう大和と一緒にいたくないから」

普段よりワントーン低い声で鋭く告げられた。

いつも少し笑っているのに、今日は全く笑っていない。

「お、おう……」

話が上手く理解できないまま返事をして、自分の席に戻った。

……山崎か。

ふとそう考えた時、山崎に声をかけられた。

「おはよ、田島」

薄ら笑いをうかべた山崎が、背後に立っている。

「おはよ……お前、雫月になんか吹き込んだろ」

「あっは、大正解、雫月も雫月でコロッと信じちゃってさぁ……もう面白くて面白くて」

結構馬鹿なんだねぇ、と爆笑しながら、山崎が言った。

「何吹き込んだんだよ」

少し疑問に思って聞く。

雫月が信じるような嘘って、なんなんだろう。

「さぁ……?」

にたぁ、と不気味な笑みで、山崎は答えた。

気持ち悪いな。

顔が綺麗な分。

山崎が自分の席に歩いていった。

前の席の雫月が笑顔で話しかける。

……お前、俺と話してる時もそんな笑顔だったのかよ。






そんなつまんなそうに笑ってたのかよ。





信じてるわけ……無い、よな。

……雫月、そんな馬鹿じゃねぇんだよな。

……大丈夫なんだよな。

俺は雫月を信じていいんだよな……?


Re: 大好きで大嫌い【BL】【虐待】 ( No.17 )
日時: 2020/12/03 23:36
名前: たなか (ID: dRBRhykh)

雫月と俺が話さなくなってから2週間たった。

話すことも目を合わせることもしていない。

あとはまぁ、しょっちゅう物が無くなる。

消しゴムは1週間で3つ無くした。

……山崎だな。

あいつ、俺と雫月を離して何がしたいんだろう。

山崎と雫月が話す機会が増えるのはわかる。

でも、俺を離す必要性が感じられない。

……雫月も、山崎のこと信じてんのかな。

あいつが何を吹き込んだかは知らないけど。




「田島ちょい来て」

昼休み、何故か俺は山崎に呼ばれた。

少し警戒しながら着いていく。

到着したのは、閲覧室だった。

今日もやはり利用者は0。

また奥の方まで行った時、山崎が立ち止まった。

こちらへ体を向ける。

「どう?最近雫月と話せてる?」

意地の悪い笑みで山崎が言った。

「話せてねぇよ、お前のお陰でな」

同じように笑って答える。

「はっは……良かったわ」

「お前、なんで俺と雫月をそんなに離したがるんだよ」

笑みを消して尋ねた。

自分で考えるよりは普通に聞いた方がいいだろう。

「田島が邪魔だからだよ」

冷酷な目で山崎が答える。

「なんで俺がっ――」

もう一度聞こうとすると、思い切り首を掴み壁に押し付けられた。

山崎の手がギリギリと俺の首を絞める。

足が、床につかなくなった。

やばい。

苦しい。

「なんで……? ふざけてんの? お前」

「ちょ、苦しっ……やまざ、き……」

山崎の手首を掴み、何とか声を出す。

息ができない。

苦しい。

「なんで? なんでそんなこと聞くんだよ。分かってんだろ、本当は全部わかってんだろ。分かってて俺に言わせようとしてるんだろ」

低い声で山崎が言う。

その声も耳鳴りのせいでうっすらとしか聞こえなかった。

不意に、山崎が手を離す。

どさりと床に落とされた。

咳が出る。

山崎がしゃがみ、俺と目線を合わせた。

1度俺の目を静かに見つめてから、山崎は俺の頬に手を伸ばす。

山崎の少し冷たい手を感じた直後、互いの唇が触れ合った。

数秒後、顔が離れる。

俺は驚きと疲労でされるがままになっていた。

薄ら笑いを浮かべた山崎が口を開く。

「お前これ、初めてだろ」

意味がわからないまま頷いた。

初めてが男だなんて、さっきまでの俺には予想も出来なかっただろう。

「……成功だわ」

立ち上がりながら山崎が言う。

……成功?

疑問に思ったけど口に出す気になれなくて、閲覧室の出口へと向かう山崎の背中をただ見ていた。


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