複雑・ファジー小説
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- ジアース 〜沈んだ大陸〜
- 日時: 2011/10/27 21:16
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
スレ設立日時 2011/09/02 22:01
初めまして。こんにちは。ハネウマと申す者です。
ここでは今年の七月九日ぐらいに完成した小説を一日一回のペースで少しずつ投稿していこうと思っています。
はっきり言って、駄作です。特に序盤なんか手探りな感じで・・・ちょちょっと待った、ブラウザバックしないでください!終盤になると幾分かマシになりますから!いやホントよろしくお願いします!
駄作とわかっているなら修正しろって話ですが、アレです。面倒くさい(殴
それとこの「沈んだ大陸」の続編を今執筆中でそれもいつか投稿する予定だからたとえ駄作でも載せとかないと嫌なのです。
コメントには誠意を持って返信したいと思います(訳:頼む・・・コメントを・・・コメントをくれぇ・・・)
多少のグロはあると思います。いやこれってグロって呼べるのか?ぐらいです。十二歳以上なら全く問題ないと思います。
コメディ・ライトの方では「茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく」という小説を投稿しています。気が向いたら見てやってください。
参照のURL、ブログの方も毎日更新中なのでこれも気が向いたら見てやってください。
では物語へ。
- Re: 沈んだ大陸 ( No.19 )
- 日時: 2011/09/18 14:40
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
▼マジュル売り
僕は絶望した。
「嘘だろ!?」「世襲じゃないだと!?」「あんな名前、聞いたことないぞ!」「レゼラは一体どうなるんだ」
城門近くの騒ぎは中央広場に飛び火し、さらに他の広場や通りに伝わってゆく。
僕は絶望した。早すぎる。いつ起こってもおかしくない事ではあったが、先程の男の話を呑み込みきるのに思いのほか時間がかかり過ぎていたようだ。
皇帝が、その地位を失った。代わりに皇帝の座についた者の名はガラン・ダルクロード。誰もが聞いた事のない名前だ。恐らくは「組織」の手の者だろう。
推測はその域を未だ出ないが、男の話はこうだった。「組織」はマジュルを製造し売り払い、得た金で政府の一部重要人物を傘下に加えていると思われる。それがマジュル中毒者のことを国に訴えても「善処する」と無視されていた理由となる。そして僕の推測を加えると、皇帝をその座から引きずり降ろし、「組織」の手の者が皇帝となるように手引きした者もその「組織」の傘下に収められた政府の人間だ。
「組織」とは何か。それはあの男が知っている内容だけではおぼろげすぎるが、どうやらその構成員は強力な魔人が複数いるようだ。彼らはジアース制服を目論み、そして今それは成就してしまった。僕は、僕たちは絶望した。
「この先レゼラはどうなる?」「不当な手段で皇帝が現れたとするならば、良い方向へ進むことはないだろうね」
僕らは宿に戻り、ベッドに倒れこんだ。うつぶせになった僕は息が苦しくなり、首を傾ける。
「もう少し帝都にいよう」ヘルガが提案する。「政治がどう変わるのか見ていたい」
「どう変わると思う?」「うーん、なんとも。税がぐーんと上がったり?」
ヘルガはベッドの上で思いっきり体を伸ばす。「ジアースのほぼ全てを領土とする帝国はそれだけ有能な者でなければ治められない。お手並み拝見だね」
翌日、僕とヘルガは宿から一番近い広場、勇者広場で触書の書かれた看板を見ていた。伝説として語られる大昔の勇者の彫像が広場の中心にあり、それが広場の名前の由来となっている。
「魔人狩りの増員、か」「見てよ! 帝都の門全てに魔人狩り配置だって。これじゃあ魔人証が無い私たちは帝都から出れないよ」
「魔人証?」「うん。皇帝に忠誠を誓った証。それさえあれば検問を抜けられるんだけど」
「とことん魔人を集めるつもりか。どうしようというんだ」
「税はまだ変わらないね。思ったより普通かも」
ヘルガが首を振る。「いやいや、それでも、魔人狩り増員は死活問題じゃん。どうしたものか」
「いっそのこと、帝都に住んでしまうとか」僕は心にもない事を言う。
「どうしよう……あ、でもまだ配置は終わってないんじゃないかな。急いで行けばなんとかなるかも」
ここから一番近い門は、帝都に来たときにくぐった門、南東門だった。「行こう」
道行く人も多いので、速歩きより速く進む訳にはいかない。焦りが募る。
どん、と人にぶつかってしまった。「痛いな、何だよ」「すいません」その時、僕は視界の端に二人の人物をとらえた。
「ヘルガ」前を行くヘルガに声をかけ、立ち止まらせる。「何?シムン」
「ほら、あれ」僕が指差す方向には暗い路地への入り口があった。そこに座るのは薄汚れた服を着た男、そこに立つのは帯剣し帽子を目深に被った茶髪の男。
マジュル売りだ。
「あいつ……!」ヘルガが腕まくりして近づこうとする。僕はヘルガの右肩を掴んで制止する。「どうしようもない。呼び止めて悪かった」
茶髪の男がこちらを向く。僕らは逃げるようにその場を去ろうとした。
「待て」
高慢ちきな雰囲気を帯びた声が僕らを呼び止める。
「お前たち、何故『組織』の事を知っている?」
背筋が凍りついた。「なんのことでしょうか?」僕は振り向き、微笑みながら言葉を返す。
「とぼけても無駄だ。俺はお前らの考えている事がわかる」茶髪の男は体を揺らしながら近づいてくる。
「なるほど、君たちは魔人か。魔人証を持っていないようだな」
「……!」
男は僕らを指差し、その指を回す。「妙な真似はせずに、ついてきてもらおうか」
「ヘルガ」「おっと、逃げるつもりだね? それはお勧めできないな。今投降するなら、魔人狩りを欺いてきた罪を許そう。どうだ? もう逃げ回らずに済むんだぞ?」
僕らは走り出す。目指すは南東門。
- Re: 沈んだ大陸 ( No.20 )
- 日時: 2011/09/19 19:05
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
▼メノーとアスラ
人の波をくぐりぬけ、僕とヘルガは南東門へたどり着く。「開けてください!」
「お前たち、魔人だな?」銀色の髪をもつ男が近づいてくる。「魔人証は」
この門は駄目か。だとすれば恐らくは他の門でも魔人狩りの体制が整っているだろう。万事休すか。
その時、背後で轟音が響く。振り向く。
ヘルガの巨大化しオレンジ色になった右腕が、門のかんぬきを破壊していた。
「行こう! シムン!」門を開けたヘルガが叫ぶ。僕は走り出す。
だが門を抜け、草の生えた道で、僕らは立ち止まらざるを得なくなった。比喩的表現のそれではなく、見えない、だが確かにそこに存在する壁が行く手を阻んでいた。
「残念だったな」銀髪の男が後ろから声をかけてくる。「俺も魔人なんでね。能力を発動させてもらった。ここは通行止めだ」
マジュル売りの男が追いつく。「はぁ、はぁ……ようアスラ。でかしたぞ」「メノーか。丁度良い。こいつらの捕縛を手伝ってもらう」
僕は剣を抜き、ヘルガは腕を巨大化させ、見えない壁を攻撃する。どちらも弾かれる。「通じない、か……」
「メノー、お前は緑髪の奴をやれ。俺には何の能力かわからないからな。俺は赤髪を倒す」「はいよ」
僕はメノーと呼ばれた茶髪の男と、ヘルガはアスラと呼ばれた銀髪の男と、対峙する。
「俺の能力は、もう感づいてるんじゃないか?」剣を抜いたメノーが言う。
「読心術」「その通り。俺には相手の考えていることが分かるのさ。落ち込んでる人にマジュルを勧めるマジュル売りにはうってつけの能力だろう?」
「僕の剣術をかわすのにもうってつけか」「わかってるじゃないか。剣を収めたまえ。さっきも言っただろう?今なら許すと」
「悪いがそうするわけにはいかない」僕は剣を持つ手が自信に震えるのを感じていた。男はこちらの行動を読むだろう。だが、それを上回るスピードがあれば。
「……とか思ってるだろう?」メノーは僕が心の中で呟いた事を口にする。「帝国騎士団の一員でもある俺の剣術を舐めない方がいいぜ」
「試してみようか」「望む所だ」剣がぶつかりあい、火花を散らす。
私は高揚感で脳が満たされていくのを感じていた。
「まずは自己紹介といこうか」銀髪の男、アスラは言う。「魔人狩りのアスラ・バテリだ」
「ヘルガ・フロウルだよ」私はオレンジ色の右腕を通常の大きさに戻し、身構える。一方のアスラは、余裕の表情で自然体だ。
「さて、では、始めようか」アスラの手の中で何かが光る。
来る!私は横にステップし飛んできた何かをかわす。地面に刺さったそれは、ガラスのようだ。
「ガラスを作り出す能力者……?」「まぁ、そんなところだな。強度は自由自在。君の攻撃も俺には届かない。現に今、破れなかったろう?」
私は見えない壁を攻撃した時のことを思い出す。渾身の力を込めて殴ったが、びくともしなかった。
——オレノ力ヲ使エ——
わかってるよ。私は心の中で呟く。
「じゃあ、これならどうかな?」私は右腕を掲げる。ゾリゾリと鳴る音は、自分で聞いても耳障りだ。その音に伴い、右腕は変形を始める。
アスラが感心する。「ほぅ、そんな変形までできるのか」
右腕は巨大な針に変わった。私は突進し、アスラを目掛けて右腕を突き出す。
鋭い金属音と共にアスラの寸前で針は止まる。
「残念残念」アスラの嘲笑で、私の心は煮え滾る。
「次は本気でいくよ!」私の右腕は更なる変形を重ねる。
僕はメノーを相手に圧倒的な剣術の差を見せ付けていた。
「馬鹿な……」メノーは斬られ血を滴らせる腕を押さえ、剣を取り落とし、膝をついた。「こいつの記憶には剣術に関する情報はほとんど見当たらなかった……なのにっ」
僕は自分で自分の剣術の強さに驚いていた。記憶を失っても体が覚えているようだった。記憶を失う前は騎士として暮らしていたのかもしれない。
「終わりだ」剣の切っ先をメノーに向け、僕は言い放つ。「どうやらあちらも終わった」
メノーは左方向を向き、驚愕した。ヘルガの右腕が、見えない壁とアスラの腹部を貫いていた。
「回転……か……ぐはっ」ヘルガはねじれた右腕の先端をアスラの体から抜く。アスラは倒れ伏す。
「内臓は貫通してないと思うから大丈夫だよ」ヘルガがアスラを見下ろす。「行こう、シムン」
アスラの顔が一層歪む。「舐めやがって……ッ」空気を凝結させ、刃を作り出す。
「死ね!」「させるか」起き上がりざまにヘルガへ突進するアスラを、僕は風で吹き飛ばす。
「アスラ、もういい」メノーがアスラをなだめる。「君たち、これだけは言っておく。俺たち『組織』は、もう君たちを許さない」
「きついね」ヘルガが言う。「こりゃ一生旅人だね」
僕は少し後悔する。しかしヘルガについていくという意志は固かった。ジアースの事をもっと知りたいという意志。
そうして僕らはその場を去った。残されるのは敗北感に打ちひしがれるメノーとアスラ。
僕らの行き先は南、ラフロル地方。
南東門付近。その男は突如出現した。
「鉄壁のアスラを倒したか」
その場で佇んでいた鳥が、男に驚き飛び立つ。
「十分使えるな……そう報告しよう」
しゃがんでいた男は立ち上がり、南へ歩きだした。
- Re: 沈んだ大陸 ( No.21 )
- 日時: 2011/09/20 18:35
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼船出
僕たちは、ラフロル地方へ行くための港村に辿り着いた。
皇帝が変わった事はもう知れ渡っていて、村では噂となっている。
「追っ手は来ないようだけど、早くしたほうが安心だよね」「ああ」
旅客船は出航直前だった。料金を支払い、走ってタラップを渡る。
雲ひとつない青空の下、僕らは船尾でくつろぐ事にした。
僕は話を切り出す。「いつか僕は、気づいたら水中の建物の中にいたんだ」
「何っ!?」「ごめん、いきなりで。僕にはそこからの記憶しかない。そこでシビという魔人に会って、陸へ送り届けてくれた」
「その前に、水中の建物ってなにさ?」「僕にもよくわからない。シビが話してくれた事も、いまいち覚えてないし……」
「まさか……勇者の伝説に出てくるヒラル城!?」「ああ、ヒラル城、そう言っていたかもしれない」
「だったら、凄い発見だよ! 伝説が実在することを裏付ける存在じゃん!」「その伝説って、有名?」
「私が住んでいたガルト島でも伝わっていた伝説だし、帝都にも勇者の像があったし、ジアースに知らない人はいないんじゃないかな」
「それは凄い」「でしょ? でもシムンは知らないんだね」「ああ」
ヘルガは僕に伝説の内容を教えてくれた。
大昔、ジアースにはヒラル大陸という陸が一つだけ存在していた。そこはヒラルという名の国家が大陸全土を支配しており、他に国家は生まれなかったという。その時代のことを「ヒリア時代」と呼んだ。
平和だったヒラルは、しかし、「魔王」と呼ばれる悪しき存在によって支配され、大陸は恐怖に陥れられた。
その時、退魔の聖剣を携えた「勇者」が現れ、ヒラルの失われた平和を取り戻すため立ち上がった。
太古の精霊の力を宿した「勇者」と「魔王」の戦いは熾烈を極め、最後には「勇者」が、同じく太古の精霊をその身に宿した「王女」と共に「魔王」を大陸ごと水で沈め封印した、という伝説だ。
「ありがちな勇者物語なんだけどね」ヘルガが言う。「でも、他の伝説に比べてこれは真実味があるみたいだね」
ヘルガは海を見渡す。「海浸病、って知ってる?」
「聞いたことはあるかもしれない」
「海に長時間浸かっていると発症する病気だよ。体の動きが鈍くなり、最終的には動かなくなる。真水で体を清めれば治るんだけどね」
「……思ったんだけど」僕は浮かんだ疑問を口にする。「海水がそんな病気を引き起こすのなら、水の循環で雨水や真水にも影響が出るんじゃ?」
「おお、それは思いつかなかった」ヘルガが笑う。「わかんないけど、海水の蒸発する時に魔力が消えるんじゃないかな」
「魔力が?」「うん。何故海浸病のようなことが起こるかというと、海水には封印の魔力が含まれているからなんだよ」
「それはさっきの『伝説』の、大陸ごと水に沈めたっていうのが関係している?」「察しがいいね。そうだよ」
「なるほど……」僕は頷く。そして水平線を見つめる。水中の古城を思い出す。
シビ、元気にしてるだろうか。
- Re: 沈んだ大陸 ( No.22 )
- 日時: 2011/09/21 20:18
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼クラーケン
ぽつ、と手に水が降る。見上げると、暗雲が近く。「これは一雨来そう」
「あっ」ヘルガが右舷方向を指差す。「海賊船だ」
またか! 僕はルディア地方からネルア地方へ行く途中にも海賊船に遭遇したことを思い出す。
乗客の混乱を船長が鎮めようと躍起になっている。男たちは大きな盾を持って船端に並んでいる。弓矢の準備も万端だ。
風が強く吹き始め、嵐は海賊船と共にやってきた。ざあざあと降りかかる雨。
「ひゃー、スコールだ! どうしよう、船室に行こうか?」
「そうだなぁ……」僕は濡れた袖を引っ張る。「もう濡れちゃったし、残って一緒に戦おう」
「そうだね、それがいい」ヘルガは同調してくれた。僕らは海賊船を見据える。
その時、何かが海賊船に絡みつき、その船は真っ二つに割れた。
「!?」沈んでいく海賊船。何が起こったんだ!?ざわつく船上。
暗雲の影に大きな渦。その中心で海水が盛り上がる。
閃光が一瞬全てを照らし、轟音が猛獣が唸るかの如く鳴り響く。
盛り上がった海水から姿を現したのは、巨大で沢山の眼球を持つイカのような魔獣だった。
「クラーケンだ」ヘルガが呟く。「嘘だ……最悪だ」
魔獣の巨大さは船を凌駕する。それは長い触手を不気味にくねくねさせている。ここから見えるのは五つ、いや六つか、黄色い巨大な眼球をギョロリと船へ向ける。
僕は錯乱してきた。「何なんだよあれ!?」「私も初めて見た。嵐を呼び起こすという魔獣。これは守人さんの手にも負えないかもしれない。全力で逃げるしかないよ!」
渦に巻き込まれ、船はどんどん魔獣へと引き寄せられてゆく。触手は、もう伸ばせば容易に船に絡みつき海中に引きずり込むだろう。僕の錯乱は絶望へと変わる。「もう終わりなのか……?」
雨がざあざあと僕らに降り注ぎ、混乱する人々はごったがえす船室へ逃げる。そんな中、魔獣を睨む男が一人。
「守人さん?」ヘルガが男に声をかける。「どうにかなりそうなの?」
「どうにかするさ」男は振り返らずに呟く。ずぶ濡れの服を暴風にたなびかせるその姿は実際よりも大きく見えた。
その瞬間、男は僕らの視界から消える。
「消えた!?」「あれだ!」ヘルガが指差す。男が魔獣にしがみつき、巨大な眼球の一つにナイフを突き立てていた。
眼球は光を失い魔獣は絶叫し、触手を男へと伸ばす。だがそれは男を捕らえることかなわず、もう一つの眼球へと瞬間移動した男は更にナイフを突き立てる。
それの繰り返しで、魔獣の十数個の眼には全てナイフが刺さった状態になった。魔獣の悲鳴は耳をつんざくかのようだ。
「ラダー降ろせ!守人を救出しろ!」船長の命令で船員が動く。見ると、あれだけ大きかった大渦は消滅していて、魔獣は海中に逃げてゆく。そして僕は触手から逃れ、泳いでくる男を見る。
嵐は止み、雲の間に光が差す。
「すごい……」ヘルガが感激する。「クラーケンを倒すなんて」
縄梯子で上がってきたその男は青い髪の頭をぶるっとさせ水滴を飛ばす。逃げてゆく魔獣を睨むその切れ長の眼は鷹のように鋭い。
雨は止んでおり、船室から出てきた乗客たちは安堵の笑いに包まれる。
男は乗客からの賞賛や感謝の言葉を面倒そうな面持ちで聞いていた。「そろそろ船室に行かせて貰っていいか?着替えたいんだが」そう言って男は乗客たちとすれ違い船室に入っていった。
「冷静だね」ヘルガは男の後姿に羨望の眼差しを送る。「きっとこうやって、幾多の危険から船を守ってきたんだ」
空は青さを取り戻し、虹が海を渡る。美しく映る虹は、先程までの絶望的な状況からは考えられないほどの希望を表していた。
そして、港が見えてくる。
- Re: 沈んだ大陸 ( No.23 )
- 日時: 2011/09/22 19:00
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
▼レジスタンス
呼び止められ、振り向く。
既に僕らを乗せた旅客船はラフロル地方の港に到着していた。僕らは船を降りてゆく乗客たちにならい、タラップに足をかけていた。そこで低い声に呼び止められる。
「何ですか?」僕らを呼び止めたのは先程この船を危機から救った守人の男だった。
「船室に来てくれ。話がある」
案内された船室には誰もいない。僕とヘルガと守人の男は、立ったままで話を始める。
まずヘルガが口を開く。「ほんとすごいよね!あのクラーケンを倒したんだから!憧れちゃうなー」
「倒したんじゃない、追い払ったんだ」守人は頭を掻く。
「それより話だが、君たちは、騎士と魔人狩りを倒して帝都から逃げてきたそうだな」
僕は驚き、ヘルガは身構える。「私たちを捕らえる気?」
「そんな気はない」守人は臨戦態勢に入ったヘルガに動じずに答える。
ヘルガは腕を下げる。「じゃあ、何で私たちが逃げてきた人だと知ってるの?」
「マクロアース」守人が何もない部屋の隅に声をかける。
「おう」何もないはずのそこから声がして、人間が突如出現する。僕とヘルガは驚き後ずさる。
「僕はマクロアース・ソス。よろしくね」現れた男は笑顔でそう言う。「僕は昔から存在感が薄くてさ、これくらい驚かせないと覚えてくれないんだ」
「自身と自身が触れている物を不可視にさせるのが、こいつの能力だ」守人の男は言う。「こいつが、君たちの戦闘を偶然見ていたんだ。だから君たちが『組織』にとって嫌な存在になったことも知っている」
「なるほど。それで?」「君たちには俺たちの『レジスタンス』に入って欲しい」
「『レジスタンス』?」「そうだ。皇帝が代わったのは知っているな?『レジスタンス』はそれに対抗するための魔人集団だ。そして俺がリーダーのフィロス・ロム」名乗った守人が自分を指差す。
僕とヘルガも名を名乗る。「ヘルガ・フロウルだよ」「シムン」
「僕らに、その魔人集団に入って欲しいのか」「そうだ。悪いがこれは強制だ。『レジスタンス』の存在を知ってしまった限りは、入ってもらうことになる」
「随分無理矢理だね」「仕方が無いさ。時間がないんだ」「どういうこと?」
「現皇帝の『組織』は、ジアースの崩壊を望んでいる」
最初は意味がわからなかった。「何故? 皇帝の座に就いた時点で裕福な暮らしが約束されているはず」「そうだよ、何故崩壊なんか望む必要が?」
「恐らくは『組織』のメンバーにも極一部にしか伝わっていない情報だ」フィロスは壁にもたれかかり、腕を組む。「『組織』のリーダーで現皇帝、ガラン・ダルクロードは、本質的には人間ではない」
「何だって!?」僕とヘルガは同時に驚きの声を上げる。
「この情報は確かだ。うちには『組織』から抜け出た奴がいてな、そいつが掴んできた情報だ。姿は人間だが、その実、中身は精霊に支配されている」
「その精霊が、ジアース崩壊をするために行動しているというのか」「ああ。ジアースは大きく分けて二つの種類の精霊が世界の均衡を保っている。聞いたことはあるか?」
僕は首を振る。「ない」
「光の精霊と闇の精霊の話?」ヘルガには思い当たる節があるようだ。
「それだ。ガラン・ダルクロードに宿っているのはどうやら太古の闇の精霊の一部ということらしい。そしてその精霊を呼び出したのが」
フィロスはヘルガを指差す。「君たち、拝魔の一族だ」
「ヘルガ……?」「なるほどね。やらかしちゃったわけだ」ヘルガは何故か笑って言う。
「何がおかしい?」フィロスが問う。
「いや。故郷の話が出てきて、ちょっと嬉しくてさ」
「ヘルガ、何か知ってるのか?」「現皇帝については何も。ただ、私の右腕の能力は『魔呼びの儀式』っていう、精霊を呼び出す儀式を応用した方法で得た能力なんだ。うちの一族はそういう怪しげな儀式をやってる人たちの集まりだから……やらかしちゃったね」
「やらかしちゃったで済む問題じゃないんだがな」フィロスがたしなめる。「このままでは太古の闇の精霊の力が増大してジアースの精霊同士の均衡が崩れ、混沌に包まれるだろう」
「具体的には、何が起こる?」「それは予測不可能だ。この世から光が失われるとか、天変地異が起きるかもしれない。とにかく、ガランの存在はジアースにとってイレギュラーだ。排除しなければならない」
今まで黙っていたマクロアースが口を開く。「それで、君たちは『レジスタンス』に入ってくれる気になったかい?」
「入るよ。入らないと言っても口封じに何されるかわかんないしね」「僕もヘルガに賛成。ジアースのために働けるなら尚更」
フィロスとマクロアースは満足気に笑う。「俺たちについてきてくれ。『レジスタンス』のアジトへご案内しよう」
隣の船室。
「これはいい話を聞いたな」
俺は濃紺のローブを身に纏っている。名をザードという。
「マカロフの逃亡が、こんなことを引き起こそうとはな」
まぁ、予想できていたことだが。俺は独りごちる。
その時、船室の扉が開く。青髪の男、フィロスと遭遇する。
俺はこの状況に思わずにやつく。こいつは困ったな。
「……聞いたのか?」鋭い目は俺の心の中を見透かすだろうか。
できるだけ、誤魔化しておくか。
「なんのことかな」「今、隣の船室でジアースの今後について会議をしていたんだ」
「何も聞かなかったよ」俺は顔を隠す大きなフードを更に深く被る。
「そうか、ならいい」俺はフィロスとすれ違う。
気づくと俺の胸をナイフが貫いていた。
やはり、こうなるのか。フードの下に余裕の笑みを浮かべながら、俺は倒れ伏した。
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