複雑・ファジー小説
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- ジアース 〜沈んだ大陸〜
- 日時: 2011/10/27 21:16
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
スレ設立日時 2011/09/02 22:01
初めまして。こんにちは。ハネウマと申す者です。
ここでは今年の七月九日ぐらいに完成した小説を一日一回のペースで少しずつ投稿していこうと思っています。
はっきり言って、駄作です。特に序盤なんか手探りな感じで・・・ちょちょっと待った、ブラウザバックしないでください!終盤になると幾分かマシになりますから!いやホントよろしくお願いします!
駄作とわかっているなら修正しろって話ですが、アレです。面倒くさい(殴
それとこの「沈んだ大陸」の続編を今執筆中でそれもいつか投稿する予定だからたとえ駄作でも載せとかないと嫌なのです。
コメントには誠意を持って返信したいと思います(訳:頼む・・・コメントを・・・コメントをくれぇ・・・)
多少のグロはあると思います。いやこれってグロって呼べるのか?ぐらいです。十二歳以上なら全く問題ないと思います。
コメディ・ライトの方では「茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく」という小説を投稿しています。気が向いたら見てやってください。
参照のURL、ブログの方も毎日更新中なのでこれも気が向いたら見てやってください。
では物語へ。
- Re: 沈んだ大陸 ( No.59 )
- 日時: 2011/10/27 21:13
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
▼レゼラ城襲撃作戦・城の最上階 5
魔王の持つ邪悪なオーラを纏った聖剣がヘルガの胸を貫くのを僕は見た。
オレンジ色の肌に赤い血が飛び散り、流れ出す。「ヘルガ!」僕は体を起こそうとするが、それを火傷の痛みが邪魔をする。
「動かないで! 治療の途中よ」リルの声が鬱陶しい。
「今ヘルガがどういう状況下に置かれているのか、後ろを見て確かめろ!」床に拳をぶつけ起き上がれない苦痛を吐き出すように声を上げる。
「え? でもヘルガって」「あれはヘルガの能力を全身に使った結果だ! 僕が戦うからヘルガを治療して……ッ」腹の痛みに妨害され立てない僕は無力感に苛まれ再び拳を床にぶつける。
魔獣シキテグロスと化したヘルガの方を見る。魔王の聖剣を持った右腕を掴んでいた。直後に鼓膜を刺激する嫌な音。バキボキと骨が砕けるのがそれから分かった。
「ウルウアアアアアアアアアアア!!」魔獣化したヘルガの咆哮。腕を掴まれた魔王の体は振り回される。投げ飛ばされる魔王の体。
魔王は超人的な運動能力で空中で体勢を立て直し着地する。飛ばされた勢いにより足が滑りようやく止まった時にはヘルガと十数メートル以上離れていた。
「ほぉ」魔王が右腕を押さえて言う。「大した馬鹿力だ。やはりお前は勇者より強い」
ヘルガは自分に刺さった聖剣を抜く。胸から血が溢れ出す。そしてこちらへ歩いてきた。
「後ハ頼ンダ」そう言って、僕が横たわる床のそばに聖剣を突き刺す。金属音が響き床にヒビが入り、石の破片が転がる。
倒れた。ゆっくりに見えた。すうっと、ヘルガの体が力を失い、仰向けに倒れる様を見て僕は叫んだ。「ヘルガぁ!!」
体が元の肌色を取り戻してゆく。胸の服の破れ目からの出血は止まっていた。傷も既に癒えかけているが、ヘルガは意識を取り戻さない。
治療の終わりを待っているわけにはいかない。「僕はもう大丈夫! リル、ヘルガを頼む」「でも火傷が」「これくらい治ればもう十分。ありがとう」
ヘルガに託された聖剣を引き抜く。手の傷は完治している。なのに、持つ手が痛い。思わず取り落とす。「なんだ……これは……」
「拒絶反応だな。俺のように闇の力を持つ者しかそれを振るう事はできない」魔王は遠くにいるが、にやりと笑ったのが見えた。「俺とお前の力の差がどこからくるかわかるか?」
魔王が纏う闇の霊的エネルギーが増幅し、闇がその体を縁取る。「自分が太古の闇の精霊であるか、そうでないかだ」
「闇に堕ちた聖剣、か」僕は聖剣を拾う。「だが、僕にはわかる。本質の『退魔』の力はまだ失われていない。聖剣はまだ屈服していない」
光が差す。「見ていろ! 僕は聖剣の元の所有者として闇から聖剣を救う!」僕の周囲を光が包み込む。
「誤算だな」魔王の呟きが聞こえる。「奴に太古の光の精霊が宿っていたとは……」
黒ずんだ刀身が輝きを取り戻し、僕と聖剣を光の霊的エネルギーが纏う。黄金の眩しい光の中で、感じる。体の内より力が溢れてくるのを感じる。剣は手に馴染み、記憶は甦らない、しかしどこか懐かしい感覚が思い起こされる。
退魔の聖剣、その本来の力が復活した瞬間だった。
迸る光と体内に収まりきらず溢れ出る魔力によってつくり出された風が僕を取り巻き霊的エネルギーをこの最上階にいる面々に視認させる。
魔王が戦慄く。「まさか……これほどまでとは……」
「どうした? この程度で怖気づいていたら」
耳元で囁く。「死ぬぞ」
風でスピードを数段アップさせた僕は瞬間的に間合いを詰め、右手で魔王の首を掴み柱に叩きつける。
「ぐはっ」「さっきのお返しだ。僕の強さもちょっとはましになっただろう?」
魔王を投げ捨てる。倒れた魔王は咳き込む。転がり、僕と距離を取りつつ起き上がる。
「ククク……クハハハハ……! そうだ、そうでなければなぁ。勇者よ、俺は嬉しいぞ。やっと手応えのある戦いができそうだ……そう、俺の本性は、戦闘狂だ」
魔王を取り巻く闇が濃くなったように見えた。
聖剣を取り戻した僕はもうさっきまでの僕とは違う。ここからだ。
- Re: ジアース 〜沈んだ大陸〜 ( No.60 )
- 日時: 2011/10/28 21:49
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
▼レゼラ城襲撃作戦・城の一階ホール 10
ドシン、と音がした。巨大化したハルバートが倒れた時の地響きだ。
魔筒によって打ち出された弾丸は狂いなく脳天を貫き、確実にハルバートを死に追いやった。触手はしばらくビクンビクンとのた打ち回っていたが、それもやがて動きを止める。
「ハルバート……ボクの後輩であり、生涯の友人だった」ボクはうつ伏せに倒れたハルバートを見据える。「科学者としても最高の技術を持っていた。惜しい事です」
「しっかし、グロい奴だよなぁ」とピシェラ。「マッドサイエンティストっていうのか? こいつみたいな奴の考えている事はよくわからん」
ハルバートの横を向いた顔を見ている時。
殺気!
振り向く。
ザードが空中で漆黒の大鎌を振り被っている。
鎌はその使用者の懐に潜り込めば攻撃できないと咄嗟に判断を下したボクはザードに突っ込みタックルで衝撃を与える。
背後で金属音とピシェラの声が聞こえる。「ザード!? てことはフォレストが……」
そうだ。フォレストがやられたのか? いや、それ以前に、ザードが二人だと!?
落ち着きましょう。今は大鎌を振り回している目の前のザード一人を相手に戦闘を行わなければならない。
「はぁっ!」能力を行使しこの戦いを終わらせる。
俺はまだ走り続けていた。
「なんだどうしたフォレスト・リーグル! その程度のスピードじゃ俺を捕獲できないぞ!?」
ザードは四人に分身した後、三人をマカロフとピシェラ、そしてアレンと交戦中のロゼッタに向かわせ、今は一対一で俺と戦っている。 四人以上に分身できないのか?
それとも、こちらにはトガビアーガの種がないと踏んだ……即ちタイマンで十分だと思ったのか? だとすれば、その判断を下した事を後悔させてやる他にない。
が、今の俺は走り続けなければならない自分にとって致命的な傷を負っている。
ザードの戦術は、俺から逃げつつ漆黒の大鎌をこちらに投げ飛ばすというものだ。手元に武器を失うため一見愚かな戦術だが、ザードは何も無い空間に闇を発生させその闇を固体化する能力を持っていた。この能力により大鎌を何挺も作り出し前述の戦術を可能にしている。
そしてその戦術により受けた俺の左脇腹の傷は深く、走る毎に出血量が増える。
頭がぼんやりと集中力を欠く。これでは貧血で倒れるのも時間の問題だと考えた俺は魔力を一気に放出する。
大理石の床が砕け、根ざしていた俺の魔力は植物に変わる。急成長するツタを操りその全てをザードへ絡ませんと向かわせる。
逃げつつツタを切り裂くザード。だがその逃げ足も止まり、ザードに次々と絡みつく。よっしゃあ!
戦慄。
最後のあがきが俺を襲う。
見開いた目が目撃した回転しながら飛んでくる鎌は俺にはとてもゆっくりに見えたが、俺は動かない。動けない。血が足りない! 漆黒の回転物をかわす瞬発力は失われた。このコンマ数秒の中で死を受け入れるには衝撃的すぎた。開いた目が閉じない。絶望する暇もなく、俺は貫かれるのを待つ。
逸れた。
カキィンと音がして、その漆黒は俺を殺傷する軌道を外れ更に遠くの床に落ち金属音を立てながら滑り止まった。
「お、当たりました」マカロフが魔筒を持ってにこやかにとぼける。「大丈夫ですか、フォレスト?」
「弾丸で弾いたのか。助かったぜ」感謝の合図を送る。「『当たりました』の偶然じゃなくて、『当てました』の必然だろ」
完全にツタに捕捉されたザードを横目に俺は脇腹を押さえながらマカロフのもとへ、もとい二人目のザードのもとまで歩く。マカロフの能力で通常の数倍の重力をかけられたザードは這い蹲って能力の及ぶ範囲外に出ようとしている。不毛だな。俺は二人目も捕獲に成功する。
あとはピシェラとロゼッタの方だ。すぐ援護に……ダメだ……力が入らな……
「大丈夫じゃないみたいですね」俺は仰向けに倒れかけたところをマカロフに抱えられる。「すぐに治療士が来ます、安心してください」
「治療士?」「ええ。どうやら人の命を救うのには、『組織』にも『レジスタンス』にも区別はつけないようです」
「良い奴らだ」「もともと城の医師は『組織』の一員でもなんでもない人でしたからね。さて、ボクはあるものを探しに行ってきます」
「あるもの?」「ザードを倒す、アレですよ」
アレか。俺は大理石の床に寝かせられ、ため息をつく。
リレイ、うまくやってっかな。
- Re: ジアース 〜沈んだ大陸〜 ( No.61 )
- 日時: 2011/10/29 22:51
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼レゼラ城襲撃作戦・城の一階ホール 11
鳴り響く金属音は剣の折損とその所有者の敗北を意味していた。
私、ロゼッタは膝をつく。手には折れて半分になった両刃の剣。スタミナも限界。
ここまでか。私は諦め俯く。
アレンと過ごした日々を思い出す。あの時、私達姉弟の関係がこんな結末を迎えるなんて思いもしなかった。
視界がぼやけ、涙がこぼれて大理石の床にぽたぽたと垂れる。弟を止められなかった。私は駄目な姉だ。
死ぬ前にせめて……。「アレン……」弟の顔を見ていたい……。
だがそれは叶わなかった。アレンはこちらを向いていなかった。カチャカチャと鳴る、鉄が擦れる音。
「おいおい何のつもりだアレン? 折角加勢に来てやったというのに」ザードの声がする。
アレンは二本の魔剣で大鎌を受け止めていた。「手を……出すな!」
「ほぉ、そこまで自分の獲物を取られるのが嫌か? それとも」ザードがくくっと笑う。「大事な大事なお姉さんに味方する気か?」
「黙れ!」鎌を弾き飛ばし、ザードを八つ裂きにするアレン。ザードの濃紺のローブは脱げ落ち、ミイラ男の姿になる。
「俺も……俺もよくわかんねぇよ!ただ……」
アレンは振り返らない。「ただ、俺はこんなにも俺のことを想ってくれていた人を殺せるほど悪に染まってないってわかったんだ」
見開く目。涙がすーっと流れる。瞬くと、視界の色が滲み溶け合う。
「ごめんな、姉さん」アレンの声からははにかんだ様子がうかがえる。「今更許してくれなんて言わないけどさ、それでも……俺も、姉さんを、愛していた事に気づいたんだよ」
「アレン……」「ハハ、態度変えすぎだよな……でも俺はいつもどこかで迷っていたんだ。これでいいのか、こんなことをして許されるのか……。姉さんのお陰で気づけたよ、俺は力に溺れて前が見えなくなっていた。俺は誰にも愛されていないと思っていた。でも姉さんの俺への愛……信じてみようと思った」
私は嗚咽を漏らす。私の想いがアレンにやっと通じた瞬間だった。
「愛、愛、愛。よく言うな。だがそんなもので腹は膨れるか? 目の前の敵を倒せるのか?」ザードは鎌を拾い、振り上げ、右手で持って肩に乗せる。
「腹は膨れないし、目の前の敵を倒せるとは限らない。だが愛は……あーやめだ。恥ずかしすぎる。とにかくだ」アレンは魔剣をクロスさせ構える。「俺は今からあんたの……『組織』の敵だ。殺害工作でもなんでもしやがれ。俺は今までの古い俺を捨てて、更に古い俺を呼び覚ます。その『俺』の答えが、『組織』への反逆だ!」
- Re: ジアース 〜沈んだ大陸〜 ( No.62 )
- 日時: 2011/10/30 20:41
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼レゼラ城襲撃作戦・城の最上階 6
聖剣を携えた僕と堂々たる風格の魔王は対峙する。
「思えば、これで千年前と同じ状況になったわけだ」
魔王は両手を伸ばし胸の前までもってきて、手元に闇を発生させる。
「ただ一つ違うのは、『王女』がいないことだよな」そう言って自分で確かめる。今度は封印じゃなく、抹殺しなければならない事を。
「わかってるじゃないか」魔王が胸の前で合わせた両手を広げる。その動きに従って、闇が固体化してゆく。
漆黒の剣ができあがる。その切っ先を僕に向け、魔王は言う。「さて、『王女』という強力な仲間がいないお前が俺に勝てるかな?」
「勝てるさ」僕は退魔の聖剣を構えなおす。「僕には千年前とは違う仲間がいる。死んでいった仲間もいる。僕はそれらの全ての思いを背負って今ここにいる」
魔力を集中させる。「勝負だ、ガラン・ダルクロード。僕は必ず、勝つ!」
「少し調子に乗っているようだから言っておくが」魔王の闇の濃さが増す。「俺はまだ本気を出していない」
「知ってる」
風が吹き荒れ、炎が踊り、レゼラ城の最上階の持つ熱は最高潮のレベルに達する。いや、邪悪の闇と退魔の光を秘めるその熱はどんどん強さを増してゆく。闇と光のぶつかり合いは周囲の人間を吹き飛ばす程のエネルギーを放出する。
「ぐあっ!」「クハハッ」僕と魔王は吹き飛び、間合いが遠くなる。魔王は着地と同時に炎を放射し僕へと向かわせる。その炎が柱に直撃する頃には僕は再び魔王と剣を交えていた。
打ち合いが続く。「魔王! お前は何故ジアースを混沌に陥れる!」「闇の精霊にとって住みやすい環境を作るためだ! 人々を狂気が支配し欲望と負の感情が渦巻くジアースこそ安息の地。マジュルの販売もそのジアースを実現するための一手段。光の精霊は黙って見ていろ!」
「それを許すわけにはいかない!」僕は剣による斬撃の他に鎌風も発生させ畳み掛ける。「僕はお前を倒してジアースを狂気から救う!」
鍔迫り合い。「倒してみろ! 『王女』の封印術なしで俺に勝てると踏んでいるのならその考えを今圧し折ってやる!」
鈍い音。僕は飛び上がって魔王の顔に膝蹴り、魔王はそのままの体勢で飛び上がった僕の腹に膝蹴り。ダメージは双方同じか。魔王の鼻から血が流れ、僕の腹の火傷は更に傷を抉られる痛みをもたらす。
「さあ、貴様はこれに耐えられるか!?」間合いを取った魔王は柱に手をかざす。炎が巻き起こり、それは柱を溶解させる。
見ると、五本全ての柱が溶け出していた。「炎の攻撃は今までの布石でもあったのかっ」屋根を支えていられずに天井が降ってくる。魔王はこの最上階から飛び降り逃亡する。
空を飛んで逃げれば、いや、これでは仲間も犠牲になる! どうすればっ……!
脳を埋め尽くす「死」の一文字。迫り来る天井。圧倒的威圧感に慄然し、このままでは死ぬという受け入れ難い現実の重みが頭を支配する。何か、何かしなければ、だが逃げるわけにはいかない。リルの悲鳴。リル、ヘルガ、シビ、キネルの命が失われようとしている。死ぬ時は仲間と一緒に死にたい、いやそんなこと考えるな、どうにかしろ! 生死の境界で僕は本能的に判断を下す。
受け止めた。
ラフロルは、太古の風の精霊。空気を操るその力は、応用の幅も広い。
見上げた眼前で止まった天井を見て、僕は「ラフロルの風」により仲間達の命が助かった事を知る。
「空気の固体化……そうか、なるほど」
見えない柱と屋根を受け止めた見えない壁。空気を固体にするという発想が無かったにも関わらずその力を行使し得たのは死の恐怖が僕の潜在能力を引き上げたためだろう。
丸い屋根の上に降り立ち、そこで魔王と対峙する。魔王の背には、漆黒の翼。闇の精霊の能力の産物だろう。
「耐えられるかと言ったのは仲間を失う悲しみにという事か? その事なら心配無用。僕はもう仲間を失う辛さを乗り越えた」
そして僕は怒りを込めて言う。「お前は自分の部下すら犠牲にしようとした! お前のような慈愛なき者にジアースは渡せない!」
「ふん、キネルの事か……。奴は優秀だが、勇者を殺すための手段に巻き込まれて死ぬならば本望だろう。それが俺の最高の部下だ」
「わからない! 仲間を犠牲にしてまで何故!」「お前のような情緒過多で考えの甘い者にはわからんだろう。家来は主君のために生き、主君のために死ぬべきだ」
言ってる事が無茶苦茶だ。「もうお前と話しても無駄な気がしてきた」「だろうな。貴様と俺とでは根本的に考え方が違う」
考え方が違う? そんな言葉で片付けられる問題じゃない。魔王は人間として失格……「いや、元々人間じゃなかったか」こいつは闇の精霊。それが人間の形をとっているだけ。
だが、諦めて良いものなのだろうか。精霊と人間が分かり合うために努力すべきなのではないだろうか? 現にラフロルは僕と共存している。
今更だ。僕は魔王と分かり合うために来たんじゃない。勿論そうする事ができるならそうしていた。だが仲間を殺された憎しみは僕の中に根強く残っている。倒さなければならない。そうするために、僕は空を飛ぶ練習もしたし、作戦も練ったのだから。
ドームの上で、僕は再び自分を光に包み込む。
「行くぞ!」
- Re: ジアース 〜沈んだ大陸〜 ( No.63 )
- 日時: 2011/10/31 23:02
- 名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
- 参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/
▼レゼラ城襲撃作戦・城の一階ホール 12
息を切らし、走り続ける。
「ここじゃない……第二魔道具研究室……そこにあれがあるはずだ」
ボクはザードを倒すための道具を探してかつては自分の研究所だった「アーウィン研究所」内を走り続ける。
「おっ、マカロフじゃねえか! 無事か?」「レオン! 丁度いい、魔符がどこにあるか分かりますか? 封印系統の!」
「封印の魔符か? それだったら随分前に処分されたぜ。上の意向だとかで」「そんな……心当たりはそれしかないんですか!?」
「第二魔道具研究室の……その横の、倉庫にまだあったかもしれねえな。ただ、この事は上には言うんじゃねえぞ。早く処分しなかったせいで俺が罪を着せられる」「情報ありがとうございます! では失礼」
ボクは再び走り始める。下でピシェラとロゼッタが待っている。
「いいぜ、さっきまでの化物との戦いは軽い運動代わりだ、本番といこうじゃないか」「ピシェラ、といったな。そう言う割には疲れているようだが?」「気のせいだと思ってくれていい」
まぁ実際疲れてて結構やばいんだけどな。軽くヤケになってきた。だってザードが四人だぜ? フォレストも傷を負って動けないようだし、もうヤケになるしかねぇだろ。
「分かった、お前にはちゃちゃっと死んでもらおう」
「カモーン」ダラケた調子でそう言い、剣を構える。疲れていると相手に思わせる事で油断を誘うと言えば聞こえはいいが、実際疲れて動きにキレが失われているのでいけない。
だが、諦めたわけじゃない。繰り出される斬撃による掠り傷は、化物との戦いの終わりで冷めた俺の感情を再び目覚めさせてゆく。
首を刈らんと振られる大鎌。かわしきれずに俺の首の皮膚が切れ、血が少量垂れる。
「へへ……魔剣がなくても案外持ちこたえられるもんだな」「今、危うく俺に殺されるところだっただろうが」「今、こうして生きてるだろうが」
スタミナ消費を抑えながら戦いたいが、そんな甘い事を許してくれる相手じゃない。ザードの鎌の使い方は本当に歴戦の戦士といった風で、まるで体の一部のように使いこなしている。千年以上も生きてるんだから当然といえば当然か。
そういう訳で、どうやら俺の負けは決定したらしい。剣が弾き飛ばされ遠くの床へ落ちる。どうにか時間稼ぎしておきたいが、そんな急にザードの気を逸らせる台詞を思い浮かべられる訳でもなく。
「あ、後ろにパンツ被った皇帝が」「死ね」
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
悲鳴はザードのものだ。闇の粒子がザードの全身に巻かれた包帯の隙間という隙間から迸り、それはつまり精霊の死を意味していた。
「ふざけるなあああああああああ!! 死にたくないい!! 俺は不死身だ俺は不死身だ俺はうわああああああああああああ!!!!」
ミイラ男は膝をつき、両手を天にかざす。その両手はどんどん朽ちて闇の粒子となり消えてゆく。
「認めない信じないい!!! 俺が死ぬなんてありえない!! あってたまるかあああああああああああああああああああ!!」
振り回される大鎌、その最後のあがきをアレンは二本の魔剣で易々と受け止めた。
「あんたには世話になったな。今更だが言っとくよ。いろいろありがとな」
そのアレンの言葉は恐らく届かなかっただろう。ザードの体は闇の粒子となり完全に消滅した。
「マカロフ!」「ロゼッタ、無事……ではなさそうですが、間に合ってよかった」
私はマカロフがアレンの方を見て怪訝な顔をしているのを見る。
「よ、マッドサイエンティストさん」とアレン。「一度会ってみたかったんだ。あんた、城内じゃ有名だしな」
「これはどういう事ですか? アレンは敵ではなかったのですか?」「心を入れ替えてくれた。アレンはもう私達の仲間」
「それならよかった」と言うマカロフはまだアレンに注意を向けている。無理もない。
「一体どうやってザードを?」アレンが問う。
「これです」マカロフは手に持った数枚の紙を示す。「初期型の『魔符』です。魔符には様々な種類がありますがこれの場合、貼り付けられると人は魔力を失います。ザードは魔力のお陰で人間の体を保っているので、これを貼るだけで昇天しました」
「流石は魔道具職人マカロフ・ニュートン」ピシェラがいきなり現れ、マカロフの肩を叩いた。「俺もさっきマカロフに助けられたんだ」とにんまり笑う。
「流石と言ってくださるのは嬉しいですが、この魔符は、今は名称が変更されていますが城内の『ニュートン研究所』の何人かで製作したものです。ボクだけでは成し得なかった発明なんですよ」「謙遜しちゃってまぁ」
「さぁ、リレイのもとへと急ごう」「リレイ?」「私達『レジスタンス』のリーダーであり伝説の勇者。今はこの城の上で戦っているはず」
「と言っても、姉さんはスタミナが限界だろうし、ピシェラもそうなんじゃないか?」「そうですね。二人にはここで待っていてもらいましょう」
言い返そうにも、実際スタミナは限界。結局私とピシェラはここで待機する事になった。「アレン、お願い。負けないで」「当たり前だよ。必ず帰ってくる」
アレンとマカロフの二人は上の階を目指し走り始める。
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