複雑・ファジー小説

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ジアース 〜沈んだ大陸〜
日時: 2011/10/27 21:16
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

スレ設立日時 2011/09/02 22:01

初めまして。こんにちは。ハネウマと申す者です。
ここでは今年の七月九日ぐらいに完成した小説を一日一回のペースで少しずつ投稿していこうと思っています。
はっきり言って、駄作です。特に序盤なんか手探りな感じで・・・ちょちょっと待った、ブラウザバックしないでください!終盤になると幾分かマシになりますから!いやホントよろしくお願いします!
駄作とわかっているなら修正しろって話ですが、アレです。面倒くさい(殴
それとこの「沈んだ大陸」の続編を今執筆中でそれもいつか投稿する予定だからたとえ駄作でも載せとかないと嫌なのです。
コメントには誠意を持って返信したいと思います(訳:頼む・・・コメントを・・・コメントをくれぇ・・・)
多少のグロはあると思います。いやこれってグロって呼べるのか?ぐらいです。十二歳以上なら全く問題ないと思います。
コメディ・ライトの方では「茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく」という小説を投稿しています。気が向いたら見てやってください。
参照のURL、ブログの方も毎日更新中なのでこれも気が向いたら見てやってください。
では物語へ。

Re: 沈んだ大陸 ( No.39 )
日時: 2011/10/06 23:31
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

▼襲撃 4

 ジースの右腕の切り口の闇、それはボクを吸い込まんと風を巻き起こす。
 強い吸引力だ。引き寄せられる。
「非常に興味深い能力ですねぇ!」ボクは自分の能力を発動させる。ボクは地面に這い蹲り、吸い込まれずにすむ。
「へーえ、あんた……マカロフっていったか、どうやってそこに留まっているんだい」
「あなたは重力というものを知っていますか?」「知らねぇな」
「物体の重さの原因となっている力の事です。ある日ボクは研究の合間にリンゴの木の下で休んでいました。すると熟れたリンゴが落ちてきます。その時気づいたのです」そう、気づいたのだ。「リンゴは木から落ちる。それは何故か——このジアースには、物体を引き寄せる力があるからだ!」
「へーえ」「そしてボクの能力はその力を操る『重力操作』。能力の及ぶ範囲は言えませんが、そういう事です。あなたの能力はボクには通じません」
「へーえ、そいつはどうかなぁ」ジースは右腕を構えなおす。
 槍! ボクはジースの右腕の闇から飛んできた槍をかわしきれずに肩に傷を負う。白衣が血に染まる。
「俺の能力は物体を吸い込むだけじゃない。吸い込んだ物体をよく覚えていれば、それを吐き出すこともできるのさ」
「説明ありがとうございます。研究の参考にさせていただきます」ボクは立ち上がる。
「へーえ、立ち上がっちゃっていいのかぁ?」右腕の闇が渦巻き、再びボクを吸い込もうとする。
 ボクはそれを利用し、ジースとの間合いを一気に詰める。ジースに能力が及ぶ範囲内に入った。「そこに這い蹲ってもらいましょう!」能力を発動し、ジースに重力の負荷をかける。ジースは地面にうつ伏せになる。「へー……え」
 右腕はあっちを向いている。また槍が飛んでくる心配はない。ボクは魔筒に弾を込める。
「へーえ……この手を使うことになるとはな……!」ジースはこちらを向く。左目の眼帯が破れ弾け飛ぶ。
「ぐっ」呻き声を上げ血を吐いたのはボクの方だ。ジースの左目、その渦巻く闇からは、槍が突き出ていた。それはボクの腹部を貫く。
「とんだ隠し玉だ。ですがあなたは終わりです」ボクはジースに魔筒を向ける。
 弾丸は、ジースの頭に突き刺さる。そしてボクは貫かれた腹を押さえ、地に伏せる。

 嘘だろ……?
 私の左腕は爆発し、肩から先が地面にぼとり、と落ちる。肉が焦げる臭い、噴き出す血。
「ぐ……うぅ……」「ヒャッハー! オイオイもう終わりかぁ? もっと楽しませてくれよ『光弾のコト』さんよぉ!」
 挑発に乗ることすらできない。肩からおびただしい出血の量。生命力の流出。意識が飛びそうになる激痛の中で、絶望という感情のみが脳内に溢れ出る。
 故郷ザッパを思い出す。魔人狩りに会い、船の守人として働く自分を思い出す。海賊に襲われた事を思い出す。一緒に戦ったヘルガのことを思い出す。メヴァにレジスタンスへの加入を勧められたのを思い出す。色々な記憶が流れては消え。体に力が入らない、それでも私は立ち上がろうとする。負けてられるか……!
 不意に聞こえた鈍い音と共にドラギオの耳障りな笑いが途絶える。
 語りかけてくる。誰かが。「コト! コト!」
 呟く。ヘルガ……?「そうだよ、私! ヘルガだよ!」
 ヘルガ……奴の能力は魔力を爆発させる能力だ……。「喋らないで!今治療するから!」
 痛みはもう感じない。別の声が聞こえた。リルの声だ。「コトさん!」
 私は、助かるのか……?「既に出血量が限界を超しています……助かりません……」
 そうか……。私は目を閉じる。
 いい人生だった……。

「さて……」
 アレンは俺の手から離れた魔剣「ペイン」を地面から引き抜く。
 こいつ、血迷ったか!?「何やってるんだ……魔剣はそれぞれの所有者からしか使われることを受け入れない。拒絶反応が起きるぞ」
「ご心配には及ばねぇよ、ピシェラ」アレンは余裕の笑みでペインを眺める。「お前が戦場に派遣された十歳の頃、一つ年下の俺は一年間一族の集落に残された。その間に魔剣の性質についての研究は進んでいたのさ」
 突然アレンは身を翻し、手にしたペインで俺に斬りかかる。俺は反応できずに肩口を切り裂かれる。
「ぐ……うあああっ……」ペインの特殊能力、魔力の毒により傷口から体中へと激痛が走る。
「魔剣は現在の所有者よりも強い素質を持った者が手にすれば、『主人』を乗り換える。即ち、俺は今この瞬間、魔剣『ペイン』の所有者になった。お前に代わってな」
 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。
「そして俺に備わっていた素質……それは『魔剣のもたらす人体への副作用を無効化する』。俺は魔剣をいくら使おうが寿命は縮まない」
 冗談じゃねぇ。痛すぎる。俺はこんなものを使っていたのか。
「辛いだろう? 今終わらせてやるよ。死をもってな」アレンがもう一つの魔剣「エンヴィ」の切っ先を俺に向ける。
 終わらせてくれ。俺にもう抗う術は無い。目を強く瞑る。
 その時、風が吹き荒れた。

 風が吹き荒れ、魔剣「ソロウ」を構えた私、ロゼッタの服がはためく。目の前の大鎌を持つミイラ男、ザードも同じで、包帯がバタバタ揺れている。
 現状確認。アレンが風で宙を舞っていた。木に叩きつけられ、崩れ落ちる。
 風が吹いてきていた方を見ると、三人の魔人がそこにいた。
 シムン、フォレスト、そしてヘルガ。
「ごめん、待たせた」「仲間を殺したこと、万死に値するぜ」「反撃開始だよ!」

Re: 沈んだ大陸 ( No.40 )
日時: 2011/10/07 22:38
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼ザード 1

「……なるほどな」
 俺、ザードはかつて遭遇した、伝説の勇者と酷似した男——確かシムンといったか——を見て状況を把握する。
 いや、恐らくだが、こいつは「シムン」ではなく「リレイ」か。酷似した、ではなく同一人物だろう。奴から感じる魔力が桁外れに大きいということから推察できる。なにより、その魔力の性質が忘れもしないあの伝説の勇者と同じものだ。
 何故千年の時を超えてここに存在するのかという疑問の解決を試みるのは後回しにしておく。
 ルディア地方スヌ村近くの林で見た時、奴は記憶を失っているようだった。追跡調査している時もどうやら自分の桁違いな強さに気づいていないようで、それは恐らく何らかの方法で魔力の封印を受けているためだろう。
 だが今の奴が出した風。人を数十メートルは吹き飛ばす勢いだった。そこで俺は奴にかけられた魔力の封印が解かれたと推測する。とすると、奴らは森の聖域へ行ってきた、ということだろうか。
 俺たちはガランに命じられ、三大聖域の一つである森の聖域を闇に堕とすためにここへ来た。こんなところで「レジスタンス」に遭遇するとは思っていなかったのだ。
 俺の魔力感知能力はずばぬけている、そう自覚している。ここへ来たのはその高い魔力感知能力で、謎の青い岩を感知したからだ。最初は聖域かと思ったが、そこにあるのはただの木造建築物だった。しかし、中には複数の魔人が存在する事を感知し、俺はそれがネルア地方からラフロル地方へ行く船で聞いた「レジスタンス」であると確信した。そこで襲撃をかけた。
「結果、こちらは二人死に、あちらは三人死んだ」呟く。そして現状は、俺たちとやりあえる者だけをピックアップすると、「敵は四人……三対四か……」
「くっ……おいザード! 俺は左腕を折られた! やべぇぞあの女! 腕が巨大化しやがる!」ドラギオの声はいちいちやかましい。
「引くぞ」「あ!? これでリベンジせずにいられっかよ!」「黙れ。アレン! 立てるか!?」「おう、問題ねー」

Re: 沈んだ大陸 ( No.41 )
日時: 2011/10/08 21:58
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼ザード 2

 あれから——僕にかけられた封印術が解かれた時から、僕に宿る太古の風の精霊ラフロルはたまに話しかけてくるようになった。今では、フォレストが言っていた、植物が話しかけてくる時の「頭に直接響いているような感じ」というものが理解できる。
 ただ、頻度は少なかった。恐らく僕に遠慮しているのだろう。なんとなくそう感じる。
 それにしても。
 僕はショックを受けていた。植物とコミュニケーションできるフォレストから既に伝え聞いてはいたが、フィロスとメヴァ、コトが死んだなんて信じたくなかった。
 だがそれは確かな事実として目の前に転がっている。強烈すぎる現実に、絶望しそうになる。
「マカロフとピシェラの治療はリルに任せろ! 俺たちは奴らをぶちのめす!」フォレストが殺意を剥き出しにして周囲に魔草を生やす。
「あのミイラ男は私が抑える。あとの二人は頼んだ」襲撃された仲間の中で唯一無傷なロゼッタが魔剣を構える。
「残念ながら」ミイラ男が包帯に巻かれた手をふらふらさせて言う。「俺たちはもう戦う気はない」
「ふざけるなよ」僕は怒りに声を震わせる。「仲間を殺しておいて何が『戦う気はない』だ!僕たちと戦え、逃げるな!」
「仕方がない」ミイラ男は金髪に赤のメッシュをいれた男と白い髪に魔剣と思われる剣を携えた男の方を向き、こう伝えた。
「お前たちは先に帰っていろ」
 違う。「逃げるなと言った! 全員来い!」
「悪いが俺一人で我慢してくれ」とミイラ男。「さぁ、さっさと帰れ」
「はぁ〜!? だからリベンジだっつーの!」「黙れ。じゃ、お先に」白い髪の男は一つの飛礫を取り出す。
 それを地面に叩きつける。カッと光が目を貫き、白髪の男はかき消えた。何が起こった!?
「魔丸だね」とヘルガ。「閃光と同時に自分を自分のイメージした場所に転移させられるんだ」
 赤メッシュの男も、渋々、といった具合に魔丸を地面に叩きつける。
 これでミイラ男一人になった。恐らく奴も魔丸を持っている、が逃げない、ということは相当な自信を持っているのだろう。
 居残った事を後悔させてやる。僕は剣を抜き放つ。僕は剣を握り締める手に汗がにじむのを感じた。
「しかし、久しぶりだな」ミイラ男は僕とヘルガ、フォレスト、ロゼッタの四人を相手に全く動じる様子がない。
「何がだ!」「およそ千年ぶりだ。伝説の勇者と戦うのはな」
「……!!」こいつ……僕の過去に関係があるのか?
「そうそう、その左目の傷痕。それはこの俺、ザードがつけた傷だ」
「ザード……お前、スヌ村の!」「そう。一人の男を殺した者だ。お前が俺の鎌を避けなければ犠牲にならずに済んだ男をな。惨めな男」
「黙れ……っ」僕は唇を噛み締める。目の奥で繰り返される惨劇の映像。罪悪感と憎悪がこみ上げる。
「ハハハッ、気にすることはない。人間というものは必ず何かの犠牲の上で成り立つものだ」ザードが大鎌をぶんと振り肩に乗せる。
「所詮は死んだ男。巻き添えになって死ぬ程度の価値しか無かった訳だ」「黙れと言ってる!」僕はザードに飛びかかる。
「シムン、気をつけろ! そいつには攻撃は効かない!」ロゼッタの叫びが聞こえる。僕は剣で鎌を弾き、ザードの左胸を貫く。
 にやり、と笑うザード。「仲間の忠告が聞こえなかったのか?」鎌を手放し、両手で僕の首を絞めてくる。
「リレイ!」
 僕はこの前までの、弱い風しか使えない風使いではない。「うおおお!」強い鎌風を発生させ、ザードの体を八つ裂きにする。
「クハハハ」ずたずたにされたザードの体は、闇の粒子となって再生する。その間、約二秒。
「どうしよう、フォレスト……」ヘルガの声が聞こえる。
「俺に考えがある。奴の動きを封じるぞ」フォレストが魔力を集中させる。
 ザードの周辺でツタが急速に成長し、ザードの体に絡み付こうとする。「ほぉ、見たことのない能力だ」ザードはツタから逃れるが、そこでヘルガの巨大なオレンジ色の手に捕捉される。
「お前はあの時の魔人か……また会うとは思わなんだ」とザードは余裕を崩さない。ゴキ、ボキ、と骨が砕ける音がオレンジの巨大な拳の中から聞こえてくる。ザードの体は首から上と下半身だけが見える状態だ。
 そんなザードの目の前に、急激に成長してきた奇妙な形の植物があった。
「くらえ!」フォレストの合図で、ザードの包帯に包まれた眉間に植物の鋭利な葉が突き刺さる。
「セカトピャリカ、死の魔草だ。毒は瞬時に体中に回り激痛をもたらした後死に至らしめる。これならどうだ?」
「おお怖い怖い」とザードは余裕をアピールする。包帯の上からでも笑っているのがわかる。
 八方塞がりだ。僕がかつての強さを取り戻しても、僕らに奴を倒す術はない。
「これでわかったろう。お前たちには俺を倒す事はできない」不敵な面構えで僕らを見下すザード。
「しかしこの状態ではいかんともしがたい。ここらで帰らせてもらおうか」ザードは右手を開く。魔丸があった。
「おい、待て!」しかしザードはこれを無視し、膝に魔丸を叩きつける。閃光とともにミイラ男の姿はかき消えた。
 僕はうなだれる。剣をしまおうか悩んだ挙句、地面にそれを突き刺した。「く……くそっ……」
 血と敗北の臭いがあたりに充満していた。

Re: 沈んだ大陸 ( No.42 )
日時: 2011/10/09 21:34
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼実験体零型

 俺は馬車の中で両手を手錠に束縛され、帝都を移動している。
 荷台の中は暗く、布ごしに差す光は俺の体の輪郭を朧げにしている。木の匂いが鼻にまとわりつくが、不快ではない。
 ここから脱走するのはとうに諦めていた。背中に貼られた「魔符」と呼ばれる魔力を持った紙の効果で俺の魔人としての能力は使えない。
 他愛ない世間話が外から聞こえては馬車の移動に従って遠くなる。周囲の人々はこの馬車の荷台に罪人が乗っているという事は露知らず、帝都の喧騒に熱気を注ぎ込むのに忙しいようだ。
 俺はため息をつき、捕らえられた時の記憶を甦らせる。

 その日は、シムンの居場所について大きなヒントを得た一日だった。ソロドラの村長によると、シムンとその仲間の女はソロドラ山に現れた魔獣を退治した後、帝都に向かったという。
 もう村は暗くなり始めていた所だったので、俺はソロドラで一泊してから帝都へ向かう事に決めた。帝都に行く事は俺にとっては危険な事だったが、俺はどうしてもシムンと会わなければならなかった。
 海中で見つけた退魔の聖剣を、シムンに渡さなければならないからだ。
 俺はシムンが退魔の聖剣を携えた伝説の勇者であると確信しているわけではなかった。だが彼があの聖剣と関係があると思わせる根拠があった。彼が所持していた空の鞘、そしてなにより彼が海の中で神秘的な光に包まれて出現した事だ。彼は只者ではない。何か勇者との関連性があるはずだ。
 だが俺は聖剣を渡すことはできなかった。その日、俺は魔人狩りと出会ってしまった。
「実験体零型、シビだな? 俺は魔人狩り、バチスだ。大人しくついてきてもらおうか」
 実験体零型。レゼラ城内の研究所の科学者たちは俺をそう呼んだ。俺は魔人化人体実験の最初の被験者だった。実験は成功した。もともと魔人ではなかった俺は、水棲動物・水棲魔獣の様々な能力を身につけた。例えば、ハリセンボンのように体中に針を生やしたり、デンキウナギのように放電したりだ。
 だが実験体零型——俺はレゼラ城から逃げ出した。科学者たちは俺を人間扱いしない。実験の中で俺の声は異常になった。俺の生活は暗い地下牢の中で営まれ、一日に二回の食事以外に起こる出来事は非人道的な実験。それも日常的に行われていた。自らが招いた事とはいえ、そんな生活、耐えられない。
「嫌ダね。お前ラに捕まル訳にはいかナいんだ」
 魔人狩りに遭遇した俺は、戦う事を選んだ。

 そして、結果がこのザマだ。聖剣も奪われ——その剣がどんなものなのか気づかれずに済む事を祈る——俺は鎖につながれた。
 だが俺は一筋の希望に縋る事にした。かつて城から逃げ出したように、上手くいけば脱走できるかもしれない。
 可能性が低い事は分かっている。城の警備は一度脱走を許したために厳重になるはずだ。
 荷台は小刻みに揺れる。俺はカチャカチャとわずかに音を立てる手錠を見つめている。俺を改造した数々の科学者の姿が目に浮かぶ。気づけば歯軋りをしていた。
 逃げ出してやる。俺の体は俺の物だ。隙は必ずあるはずだ、探せ!
 弱々しい一筋の希望は俺の中で強く光り始める。

Re: 沈んだ大陸 ( No.43 )
日時: 2011/10/10 21:18
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

▼追悼 1

 僕らはマカロフとピシェラの傷が癒えたのを確認すると、遺体の埋葬を始めた。
 リルは姉であるメヴァの首と胴が離れた遺体を見て、悲痛な慟哭を止めない。
 涙を流していない者はいなかった。誰もが悲しみに暮れていて、でも僕らは手を休めることはない。しかし僕はしゃがんで耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。残酷な現実から逃げたくなる衝動に駆られる。耐える。耐える。
 込み上げる吐き気を我慢する。フィロスの遺体を埋める。低い声が記憶として甦ってくる。あの巨大な魔獣を倒した頼もしい姿はもう永遠に見ることはできない。
 メヴァの遺体を埋める。整った美しい顔は死んでもそのままだった。何事もなかったかのように起き上がってくれよ。あんたの妹はこんなに悲しんでるんだぞ。
 コトの遺体を埋める。海賊との戦いでのコトの勇姿は目に焼きついている。最期までたくましい姿を見せてくれた彼女の事を僕は永久に忘れる事はないだろう。
 三人の埋葬を終え、僕らは死んだ二人の敵に目をやる。「あいつらも埋めてやろう。同じ人間だ」
 僕は、かつて帝都の門で出会った銀髪の魔人狩り、アスラ・バテリの遺体を見る。脇腹に包帯が巻かれていて、白にほんのりと血の赤が浮かび上がっていた。ヘルガが与えた傷も治りきらぬうちにここへ来たという事か。恐らく無理を言って敵のメンバーに加えさせてもらったのだろう。何故か。
 復讐のためだ、と推測できる。あの時、ヘルガに手加減されて勝たれた時のあの表情。自身のプライドをギタギタにされた時のあの表情。恐らく、ヘルガに会って復讐するために門番を辞めたのだ。会える確証もないというのに。
 胸に刺さったフィロスのナイフを抜く。こいつにも人生があったはず。丁寧に弔ってやるのが僕のあるべき姿だ。
 そう思った時、アスラの遺体が蹴られて転がった。
「こんな奴! 放置しとけばいいのよ! フィロスを、こ、殺した奴なんて!」遺体を蹴ったのはリルだった。
「落ち着け、リル!」フォレストがリルの目の前に出てきて制止する。「やめるんだ! こいつも俺達と同じ人間だろう!」
「知らないわよ、そんなの!」リルの目から流れる涙はとどまる所を知らない。「じゃあどうやって……この怒りを……悲しみを静めればいいのよ……」
 リルはその場にしゃがんで顔を手で覆い泣きじゃくる。僕にはそれを見ていることしかできない。僕だって今すぐ悲しみと怒りに身を任せたいさ。でも我慢するしかないんだ、今は。
「そう、今だけは」
「どうしたの、リレイ?」ヘルガが僕に問いかける。
「フィロスは仲間が集まったら、どうするつもりだった?」ヘルガの問いには答えず、僕はロゼッタに訊く。
「レゼラ城に行って、ガランとそれに組する『組織』を壊滅させ、前皇帝を再び国のトップに据える。そう言っていた」
「そうか」僕は頷く。我慢するのは今だけだ。「組織」への報復の時、怒りを爆発させればいい。


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