複雑・ファジー小説

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赤が世界を染める、その時は。
日時: 2016/02/25 00:54
名前: 揶揄菟唖 (ID: /dHAoPqW)

+ + + + + + + + + + + + + + +

『必ず勝利せよ。敗北は死だ』

            scene.6 message.by.raimei 

+ + + + + + + + + + + + + + +


+この小説をオススメできない方+
・荒しが趣味な方
・中二病が嫌いな方
・更新が早くないと嫌な方
・作者のもうひとつのカキコネームを知っている方
・作者に文才を求めている方
・誤字多し。直す気3%。でも教えてくださると嬉しいです。



【2012年冬・小説大会+複ファ金賞】
ありがとうございました!!!!!!!
いやいや、見た時はビックリでした……。
本当にうれしいです!!!今でも信じられないくらいです。
本当にありがとうございました。
まだまだ続くというか、書きたいことがまだあるというか、自分の中で終わりが見えていないので終わりまでお付き合いしていただいたらうれしいです……!!



+目次+
第1章『赤=私=雪羽=バカ』
>>1 2>>2 3>>3 4>>4 5>>5 6>>6 7>>9 8>>12 9>>15 10>>16 11>>19 12>>20>>21 13>>23 14>>27 15>>29 16>>32 17>>34 18>>41 19>>43 20>>44 21>>45 22>>46 23>>47 24>>48 25>>49 26>>50 27>>51 28>>52 29>>53 30>>54 31>>55 32>>56 33>>57 34>>58 35>>59 36>>60(完結)

第2章『人生。』
>>61>>62 3>>63>>64 5>>65 6>>66 7>>67 8>>68 9>>69 10>>70  11>>71  12>>72 13>>73 14>>75 15>>76 16>>77 17>>78 18>>79 19>>80 20>>81(完結)

第3章『現実逃避に失敗しました。』
>>82 2>>83 3>>84 4>>85 5>>86 6>>87 7>>88 8>>89 9>>90 10>>91 11>>95 12>>96 13>>97 14>>98 15>>99 16>>101 17>>102 18>>103 19>>104 20>>105 21>>106 22>>107 23>>108 24>>109 25>>110 26>>111 27>>112 28>>113 29>>114 30>>115 31>>116(完結)

第4章『レッドエイジ』
>>117 2>>118 3>>119 4>>120>>121 6>>122 7>>123 8>>124 9>>125 10>>126 11>>129 12>>130 13>>131 14>>132 15>>133 16>>134 17>>135 18>>136 19>>137 20>>138 21>>139 22>>140 23>>141 24>>142 25>>143 26>>144 27>>145 28>>146 29>>147 30>>148 31>>149 32>>152 33>>153 34>>154 35>>155 36>>156 37>>157 38>>158 39>>159 40>>160 41>>161 42>>162 43>>163 44>>164(完結)

第5章『燕は高く、空を飛ぶ』
>>165 2>>166 3>>167 4>>168 5>>169 6>>170 7>>171 8>>172 9>>173 10>>174 11>>175 12>>176 13>>177 14>>178 15>>179 16>>180 17>>181 18>>184 19>>185 20>>186 21>>187 22>>188 23>>189 24>>190 25>>191 26>>192 27>>193 28>>194 29>>195 30>>196 31>>197 32>>198 33>>199 34>>201 35>>202 36>>203 37>>204 38>>205 39>>206 40>>207 41>>208 42>>209 43>>210 44>>211 45>>212 46>>213 47>>214 48>>215 49>>216 50>>217 51>>218 52>>219 53>>220 54>>221 55>>222 56>>223 57>>224 58>>225 59>>226 60>>227 61>>228 62>>229 63>>230 64>>231 65>>232 66>>233 67>>234 68>>235 69>>236 70>>238 71>>239 72>>240 73>>241 74>>242 75>>243 76>>244 77>>245 78>>246 79>>247 80>>248 81>>249 82>>250 83>>251(完結)

第6章『Your love which binds us』
>>252 2>>253 3>>254 4>>255 5>>256 6>>257 7>>258 8>>259 9>>260 10>>261 11>>262 12>>263 13>>264 14>>265 15>>266 16>>269 17>>270 18>>271 19>>272 20>>273 21>>274 22>>275 23>>276 24>>277 25>>278 26>>279 27>>280 28>>281 29>>282 30>>283 31>>284 32>>285 33>>286 34>>287 35>>288 36>>289 37>>290 38>>291 39>>294 40>>295 41>>296 42>>297 43>>298 44>>299 45>>300 46>>301 47>>302 48>>303 49>>306 50>>307 51>>308 52>>309 53>>310 54>>311 55>>312 56>>313 57>>314 58>>317 59>>318 60>>322 61>>323 62>>324 63>>325 64>>326 65>>327 66>>328 67>>329 68>>330 69>>331 70>>332 71>>333 72>>336 73>>338 74>>340 75>>341 76>>342 77>>343 78>>344 79>>345 80>>346 81>>347 82>>348 83>>349 84>>350 85>>351 86>>352 87>>353 88>>354 89>>355 90>>356 91>>357 92>>358 93>>359 94>>360 95>>361 96>>362 97>>363 98>>364 99>>365 100>>366 101>>367 102>>368 103>>369 104>>370 105>>371 106>>372 107>>373 108>>374 109>>375 110>>376 111>>377 112>>378 113>>379 114>>380 115>>383 116>>384 117>>385 118>>388 119>>395 120>>397 121>>399 122>>400 123>>403 124>>404 125>>405 126>>406 127>>407 128>>408 129>>409 130>>410

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.215 )
日時: 2012/11/09 21:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



48・死にぞこないのようなワシ。


酷い匂いだった。まるで、もう二度と開かないであろう瞳さえ、覚ましてしまうほどの匂い。今まで嗅いだ事の無い匂いで、例えるものも見つからない。
乾きかけの、赤黒い血液。饐えた肉。二年くらい風呂に入っていない体。
その匂いをすべて足したかのような臭いだ。とにかく、臭い。
気持ちが悪くて、急いで体を起こす。
筋肉がぱりぱりと言って、骨までが軋み、立ちづらい。ずっと寝ていた後のように体が重い。頭は冴えない。だが、臭いのおかげか、割と速いスピードで頭は回転を始める。

ワシは、なんでこんな状況に居るんだ。
自分は一切の衣類を纏っていいない。だけど、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
臭いの根源であろうそれは、乾きかけの赤い血液のようなものだった。辺り一面に広がり、白い床を汚している。
その赤黒い物は、ワシの体も覆うようになっている。道理で、すぐ近くからも臭いを感じるわけだ。
血だと、思う。でも、ただの血なわけじゃない。
こんなにキツイ匂いを発するなんて。
ワシは、その赤黒い血のようなものに包まれている物体に、近づいた。
シルエットからして、人だったから。
自分が服を着ていないとか、頭がちょっと痛いだとか、お腹の辺りがスカスカするだとか、そんなのは全て差し引いて、助けなきゃと思ったのだ。
助けないと。もしかしたらこれは血かもしれないし。だったら、怪我をしているのかも。それも、大怪我なのかもしれないし。
ワシは白くて冷たい床を裸足でけり、赤黒い液体が足に跳ねるのも気にせず、そいつに駆け寄った。
肩を掴み、揺さぶるようにして、声を張る。

「おいっ!! いけるか!? どないかしたのか!?」

本当はもっと、優しく声を掛けるべきなのだろう。でも、生憎そんなことを考えていられるほどワシは今冷静じゃない。
ワシの声に驚いたのか、薄い肩が震えて、顔であろう所が動く。その顔は、赤黒い液体とは全く違った、白い肌をしていた。
異様なその肌の色に、思わず肩を離しそうになる。でも、しない。このまま離してしまったら、なんだか嫌だったから。
コイツだけじゃなくて、ワシも壊れてしまうような、そんな感じがして。

「……目を覚ましたか」

白い唇が開くと、ぬるりとした赤黒い液体が、口の中に滑り込んでいく。それに構う様子もない白い人は、ワシの手から逃げるかのように立ち上がった。
背は、結構高い。ヒールで高く見えているのだろうか。
ワシより高い位置に目が来た。
そいつは、胸の膨らみから言って、女。
そして、白い。赤黒い液体に包まれていようが、そいつは凛としていて、そして気高い雰囲気をしていた。
まるで、女王様のような。

「ワシ……どないか、したのか」

なんだか、何か忘れているかのように、胸が軽い。そして、寒い。何か、忘れている。ワシは何か、大事な事を。
ワシは白い女を見上げた。
この圧倒的な白を見ていると、何か思い出しそうだ。
そう、圧倒的な、一色を纏う者。

そうだ、そうだ。

「……ゆき、は、ちゃん。ライアー……」

白い女が唇を噛む。
そして、白い目で、再びワシを見下すように見る。

ワシは、ワシは。そうだ。脳裏に、赤が映る。黒も映る。
そして、赤を思い出すと、同時に。
そう、赤は。赤は。あの日、赤が空を舞った。地面を汚した。雪羽の赤も、ワシの。
ワシの、赤も。

「凪、だったか。お前は、一度、死んだ」

知ってる。知ってる。知ってる。知ってる。知ってるんだよ。ワシは、死んだ。死んだはずなんだ。腹に触手で穴を開けられて、死んだ。死んだんだ。ワシは死んだはずで。だから、もう、目を開かないはずで。肺を動かさないはずで。血を流さないはずで。でも、なんで、なんでワシは今、生きているの。なんで、なんで。ワシは、なんで。

「っ、雪羽ちゃんは? ライアーは?」

コイツが知っているかどうかなんて、知らない。もしかしたら知らないかもしれない。でも、聞いた。聞かないではいられなかった。コイツなら知っていると思ったのだ。
自分のことはどうでも良いんだ。ただ、アイツは、どうなったんだ。ワシがここに居るということはきっとアイツ等は、世界を捻じ曲げた。死んだのを、取り消したんだ。それを望んだ。生きる上で、当然である行為を、取り消した。
そういうことをするなら、一体どんな代償を払ったんだ。まさか、死んでないよな。ワシのために、何かを失っていないよな。まさか。まさか、そんなことは無いよな。
だってアイツ等は、生きるから。生きたいっていう目をしているから。目に光があるから。
いつか見た男は、死んだような目をしていた。そいつの目とは違って、生きたいと言う目をしていたから。だから、そんなはずはない。
でも、なんでそう確信しているはずなのに、ワシは白い女に確認をしているのだろう。
そう。ワシは、証拠が欲しいんだ。生きて、生きて、生きて。ワシのために何かを捨てていないアイツらが居るっていう証拠は、ワシは欲しいんだ。
自分では得られない、証拠が。

「……安心しろ。ちゃんと……前を向いている」


〜つづく〜


四十八話目です。
最近かけてなかったですね。

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.216 )
日時: 2012/11/10 09:59
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



49・神のような遊び。


何が怖かったのだろう。
俺は、何が恐かったのだろうか。俺は何かが恐くて、何から逃げたくて。何かが恐かったはずだ。何かが恐ろしかったはずなんだ。
それで、それから逃れたくて仕方が無くて、俺はクオに頼ったはずなんだ。でも、いつの間にか。それが怖くなくなって居た。恐怖心と痛みは消えていた。
クオには言えない。クオは、俺がもう恐れていたものがなくなったって言えばきっといなくなってしまう。クオは、俺を助けるために、俺を救うために、一緒に居てくれているのだから。だから、俺がもう何も怖くないと言えば、クオは俺の前から姿を消す。それは嫌なんだ。それは嫌で仕方が無い。
あ、ああ、そうか。これだ。俺が怖いのは、クオが居なくなる事だ。何かが怖くて、それから逃げるためにクオに頼ったのだ。それなのに、いつの間にかそれは消えて、クオが俺の怖いものになった。世界で唯一の恐怖を生み出すもの。だから、いなくならないで欲しい。クオは、クオだけは、俺の前から消えないで欲しい。それが怖いから。俺はそれに恐怖を感じるから。
人が一番怖いのは、死ぬ時だ。それは知っている。でも違う。そんなのは俺は怖くない。俺が一番怖いのは、やっぱり、クオが居なくなること。それで、一人で死ぬこと。クオが居なくなって、一人で。
想像しただけで、涙が出そうになってくる。

「そうだ、ユコト。いい報告だよ」

最近はいい報告は無かった。悪い事とか、面倒なこととか。そんなような事ばかりで、クオの顔も晴れてなかったし、気温も下がって来たから、寒そうにして居る。
俺は布団を持ってこようと部屋を出ようとしたところだった。
クオは一枚の写真を指で曲げながら、柔らかい頬に手を添えていた。

クオの仕事は、世界のハンターたちの均衡を保つこと。
ハンターたちが減りすぎないように、増えすぎないように。
弱くなりすぎないように、強くなりすぎないように。
そんな神のような仕事を、クオはしている。
しかも、誰かに頼まれた訳でもなく、単なる趣味として。ただの暇つぶしに、やっているだけだ。
なんせ、クオには時間がある。長い、長い時間が。目を覚ましているうちにやりたいことがあるのだと、クオは笑っていた。
それは、なんだか俺は好きじゃない。俺が居ればいいだろ。俺は、クオを退屈させたくない。
だから、それでいいでしょ。俺がいればいいんだよ、クオには。クオしか俺には要らないように。
でも、クオに俺は要らない。クオは、強いから。俺みたいに弱くないから。
俺は結局、クオに縋っているだけだ。クオの脚にしがみついているだけなんだ。

「アームスだよ、アームス。あの、筋肉頭」

俺は開きかけの扉を閉めて、クオの方に寄る。
その写真には、いつかのハーフの餓鬼の頭を撫でるアームスの姿があった。
まるで、親子のような姿だ。こんな柔らかい表情を、あの男ができるとは思わなかった。
クオはその写真を丸めて、ゴミ箱に捨てる。珍しく、少し不機嫌そうだった。
写真はゴミ箱に綺麗に入った。
俺はゴミを見届けてから、クオに視線を戻す。
頬を膨らませたクオは、自分の指でそれを壊した。

「ずいぶん仲良くなっちゃってさ。まあ、僕にはあんまり関係ないけどね。ちょっと、つまんないかなぁ」

そうか、思い通りにならないと怒って、それで、思い通りにならなくても怒る。
クオは良く分からない。でも、クオに逆らうことはできない。だから、クオの好きなようにやらせてやる。

どうせ、クオのための世界なんだ。
クオのための俺の人生なんだ。


〜つづく〜


四十九話目です。

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.217 )
日時: 2012/11/10 14:42
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



50・恐怖のような強がり。


「っ、なにが言いたいんだよ」

燕が、牙をむくようにして声を張り上げる。
落ち着こうとしているのか、静かな声だった。燕はどうやら、怒っているようだ。
でも、私にはなんで起こるのか分からない。だって、私たちの事情なんて、燕は知らないのだから。そんな燕になんだかんだ言われたって、仕方がないだろう。
私はでも、燕に私たちのことを理解して欲しいとも思わない。ライアーが来るまで、私にできることをしたい。ただそれだけだ。
少しでも、事情を理解しておこう。この人たちがしている抗争の原因。それを理解しよう。そうしてから、この問題を解決していく。
私にそれができるかどうか。それは知らないし、分からない。できないかもしれない。でも、やるしかない。私が決めた事なのだ。やらなくてはきっと後悔をする。後悔はしたくない。後悔だけは。

後悔という言葉とともに、思い出される光景がある。
冷たい空気と、人の目。感情の亡くなった体。
私は今も、友人のことを後悔しているのか。いや、後悔している。
私は、期待に応えることができなかった。この後悔はきっと、私を死ぬまで追い続けるだろう。癒されることは無い。
前を向かなきゃいけない。
そう思い始めたのは、本当につい最近のことだ。
小さな事で立ち止まっている私は、振り返りたくて溜まらない。あの日を振り返って、そして自分が成長をしているかどうか見てみたい。自分が進んできた道を見て、安心したい。
でも、振り返ったところで、待っているのは絶望と自己嫌悪。進んでなんかいないんだ。
足踏みをして、景色を無心で見て、そうして、進んだ気になっているだけ。それに気が付いてしまうだけ。それを分かっているのに、私は振り返った。
今は違う。今は違うと信じたい。
私を待っている人が居る。こっちに向って、手を伸ばしている人が居る。そんな人が、私を見ている。もう私だけの道じゃない。この道に、同じように立って、前方で私を助けようとして居る人ができた。
昔の私と、今の私。背負っているものが違う。周りの景色も、温度も変わった。
私は今、生きている。
自分だけのためじゃない。きっと、そうだ。

「燕、黙れ」

感情を押し殺すような声だ。低くて、聞き取りにくいくらい。
私はそれでも怯まない。
この気持ちのまま、解き放たないと。私が恐怖を感じたら、今までと一緒だから。それは避けないといけない。
こうやって自分を高めないと、やってられないのだ。私は、それだけ弱い。
勢いに乗って、言ってしまえ。
そして、私はただの女じゃないってことを、見せつけないといけない。

「ほぉ、なんでだ?」

燕は相変わらず私への警戒を解いて無い。
それは分かる。でも、分からないのはこの男だ。この男の纏う雰囲気が、全く分からない。
何を考えているのか、どんな感情を抱いているのか、分からないのだ。燕のように分かり易かったら良かったのに。
私は燕には目を向けない。
違う。
大男の目から、目を離すことができない。足が震えそうだ。こんな、初対面の人に喧嘩を売るようなマネをするなんて。
私、今非常識な人間だよな。

「私たちは、レッドライアーの知り合いというか、お供です」

まだ私の立場を表す言葉は見つかって居ない。でも、本当のことを言う必要もないから、適当に嘘をついた。これを信じるも信じないも、私には関係のないことだ。大体、信じているかそうでないかなんて、私には分からない。それを知る術もない。
私の返答が意外だったのか、アームスは首を傾げた。
筋肉が首にもついているのか、その首は太い。傾けるとゴキゴキと音が鳴った。
凄い。それだけで威嚇されたように感じる。

「ライアー? アイツがお供をつけるなんて思わないが」

ライアーの名前が出た途端に、アームスは不機嫌そうにする。もしかして、仲が悪いのだろうか。ライアーはそんな素振り見せていたっけかな。
確かに。そう思った。ライアーは最初、確かに近寄りがたい雰囲気をしていたし、今でも人とはあんまり関わっていない。
でも、どうだろう。ライアーは確かにそれを望んでいるのだろうか。人が嫌いなわけじゃないような気がする。実際、私にも凪にもジャルドにもカンコにも、普通の人のような顔ができるし。
ライアーに聞いたことがない。
結構長い時間、一緒に居るのに。私は、ライアーのことを何も知らない。私のことも、ライアーは全く知らない。
私は、ライアーのことを知りたいとは思ったことは無い。それなのに、こう他人に言われると、なんだか知りたくなっていく。
ライアーは、私に興味はないだろう。

「確かに、そうですね。信じなくても構わないです。でも、だからと言って私は私の意見を曲げません」

本当は、こんなに強い言葉を履けるような立場じゃない。でも、こうしないと駄目のような気がした。

形だけでも、言葉だけでも、強くありたい。


〜つづく〜


五十話目です。
初めての五十話目です。
長くなりました。

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.218 )
日時: 2012/11/11 15:46
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



51・絶望のような冷静。


ダルトファルトは、海に面しているから貿易が盛んだった。街は豊かで、海の匂いのする爽やかな街。
と、表向きではなっている。だが、豊かという言葉には必ず影がある。ダルトファルトも例外ではなく、その実態はどろどろのグズグズに腐った脳みそのように汚い。
薬が廻っているのだ。それは都会にはつきものとなった違法なもの。
もちろん俺はそれに手を出したことは無い。薬売りに声を掛けられたことなら何度かあるが、それは華麗に無視して来た。
興味がない。薬なんかで気持ち良くなったところで、周りが変わる訳でもない。自分を変えることは出来るだろうが、それは逃げているのと同じであり、救済ではない。
それを理解できない人間が、薬に手を出して死んでいく。副作用がすごいらしい。どんな副作用なのかは知らない。だが、少しは予想できた。
そんな物に金を出すなんて、バカだ。しかも、金のない人間に限って。
ダルトファルトは、貿易が盛んだ。さっき言ったことだが、繰り返す。
つまり、ここダルトファルトが麻薬を世界にばら撒いて、そして大量に呑み込んでいると思って良いだろう。

「騎士団も使っているらしいぜ」

ジャルドの顔色が冴えないから、俺はそんなくだらない話題に行こうと思った。
飛行船が着いたのは、ダルトファルトの海岸だった。海岸といっても砂浜ではなく、崖になっているところだ。
そこからしばらく歩いたり、馬車を利用したりして俺たちは今、街を出ようとしている。
ジャルドはちらりと俺に視線を向けて、そしてまた足元を見る。
暗くなってしまったジャルド。ジャルドは何時も自信満々で、厭味ったらしいのに。こうも静かだと、逆に落ち着かない。
ジャルドは俺についてくることにしたらしい。ここで嘆いていてもカンコは帰ってこないと分かっているようだ。
そういうところは冷静なジャルド。

「クスリだよ。騎士団が使っているなんて、救えないねぇよな」

本来街の治安を守る立場にある騎士団が、取り締まるはずの麻薬使用者に成り下がっているのだ。
久しぶりに長く喋る俺。
それでもジャルドは顔を上げない。俺はとうとう困ってしまった。
赤女もそうだったけど、どうにも俺は落ち込んでいる人間にどうやって接してていいか分かって居ないみたいだ。当然だろうけど。
だって、ずっと幼いころ一緒に居たクオとユコトは、決して落ち込んだりなんかしていなかったから。幼いころは、クオとユコトにしか会っていなかった。
だから、人付き合いの仕方が分からないんだ。こんな年になっても。
今からでも遅くないだろうか。そうしたら、クオに教えてもらいに行こう。
人に優しくなれる方法とか。似合わないって笑われそうだけど、仕方がない。

「……ライアー、なんでお前そんなに冷静なんだよ」

「は……?」

ジャルドの涙で濡れたような声に、俺の足が止まる。
ジャルドが歩くのを止めないので、急いで追いかけて歩調を合わせた。ジャルドの足取りは、落ち込んでいるとは思いほどにきびきびとして居る。
カンコに早く会いたいのだろう。ジャルドは、自分に正直なんだ。

そうだ、そうだよ。
俺は。

俺は、落ち込んでいる俺への対応も、分からないんだ。


〜つづく〜


五十一話目です。
まだ終わりは見えていません。

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.219 )
日時: 2012/11/12 16:53
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



52・過保護のような束縛。


認めたくない。俺は何時までこの言葉を吐くつもりなんだろう。
考えた事もなかった。自分にこれだけの醜い感情があって、欲望があって。それでこんなにも自分が大切だなんて、思ったこともなかった。こんな自分は嫌いだ。変えられない自分も。何もかも嫌いで、嫌いで。世界で一番嫌いな人間だ。自分なのに、思い通りにならない。一番我儘で、傲慢で。嫌になる。
それでも俺から逃げない人間が居る。赤女とか、ジャルドとか、クオとか。ユコトはまあ、クオのためだからとかなんとか言っているけど。
俺はたくさんの人の中に居る。
俺は、一人じゃない。これだけ心強いことがあるのか。
俺はきっと、赤女が心配なんだ。心配、だってよ。死んでるに決まって居る。
アイツは死んだ。死んだんだ。それなのに。それだけの言葉だけで切り捨てることができない。それ以上の気持ちが溢れそうだ。
いつまで経っても、何を考えていても、あの時の、飛行船から落ちる瞬間に見せた赤女の表情が、頭から離れてくれない。あのときの棘が、心臓に刺さったままで、痛い。

「ジャルド、急ぐぞ」

いろんな感情が混ざって混ざって。それが体のどこからか溢れ出しそうだから、それを食い止めるためにも前に進む。
早く、早く。この棘を抜かないと。じゃないと、痛みが引いてくれない。赤女を忘れることができない。
俺は、どうしたいのか。
赤女が死んで、一人になる。ジャルドはジャルドでやることがあるのだから。だから、これからは一人。人の熱を知ってしまった俺は、それに耐えられるかどうか。
それも考えていると、やっぱり呼吸が乱れる。
赤女のことを、忘れないと。
ジャルドは走り出した俺についてきてくれる。疑問も不満も漏らさない。
ジャルドはまだ、信じているのだろうか。
カンコが無事だって、信じているのだろうか。


 + + + +


きらきらと光るアスタリスクを眺めていると、頭にちらりと映像が流れ込んだ。
その映像に、思わず腰を浮かせそうになる。でも、座った。
アスタリスクは不思議そうに、光の点滅のスピードを上げる。

世界最強と謳われた人工知能のアスタリスク。それもそろそろ限界のようだ。その証拠は、カーネイジ・マーマンが逃げ出したことにある。
人の血液でしか空腹を解消できなくなったアイツ等は、もはや人間ではない。アイツ等は化け物であり、殺人鬼だ。殺人鬼が四人もこの世に放たれたことで、色々と乱れが生じているらしい。
人を殺しすぎたのだ。奴らの生きるために取った行動は、世界の均衡を乱して居る。
人が減れば、ビーストが増える。ビーストを駆除する生物が減るからだ。そして、増えたビーストは人を襲う。そして、また減る。
それは避けなければならないことだ。
面倒な事になってしまったものだ。この世界も。
クオは大変だろうな。あの女が何をしたいのか、また何者なのか私は知らない。クオがしていることは、まるで神のような行動だ。あの程度をしたくらいで、クオは神にでもなったつもりでいるのか。
いや、違う。クオの目的はそれじゃない。きっとほかにある。
世界を管理する立場にあるあの女は、何かを隠している。
ユコトは、知っているのだろうか。

「春海? どうかしたのか? また娘か?」

アスタリスクの中心にあり、目の役割をしている球体が一回転をした。大正解、とばかりに私は指を鳴らす。テーブルの上に足を乗せる。
コイツの前で格好つける必要なんてないからだ。

「ああ、そうさ。私の可愛いカンコが、死にそうになってそして奇跡的に生還している」

可愛い可愛い私のカンコ。私だけのカンコ。
心配なのは、あの女と一緒の事だ。初めてカンコと赤い女が接触した時に、私は確かに嫌な予感を感じていた。
それなのに、もうその感じはしない。
あれは、私の勘違いだったのだろうか。

それで片付けることができるはずなのに、なぜだか私の胸騒ぎは収まらない。


〜つづく〜


五十二話目です。


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