複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

赤が世界を染める、その時は。
日時: 2016/02/25 00:54
名前: 揶揄菟唖 (ID: /dHAoPqW)

+ + + + + + + + + + + + + + +

『必ず勝利せよ。敗北は死だ』

            scene.6 message.by.raimei 

+ + + + + + + + + + + + + + +


+この小説をオススメできない方+
・荒しが趣味な方
・中二病が嫌いな方
・更新が早くないと嫌な方
・作者のもうひとつのカキコネームを知っている方
・作者に文才を求めている方
・誤字多し。直す気3%。でも教えてくださると嬉しいです。



【2012年冬・小説大会+複ファ金賞】
ありがとうございました!!!!!!!
いやいや、見た時はビックリでした……。
本当にうれしいです!!!今でも信じられないくらいです。
本当にありがとうございました。
まだまだ続くというか、書きたいことがまだあるというか、自分の中で終わりが見えていないので終わりまでお付き合いしていただいたらうれしいです……!!



+目次+
第1章『赤=私=雪羽=バカ』
>>1 2>>2 3>>3 4>>4 5>>5 6>>6 7>>9 8>>12 9>>15 10>>16 11>>19 12>>20>>21 13>>23 14>>27 15>>29 16>>32 17>>34 18>>41 19>>43 20>>44 21>>45 22>>46 23>>47 24>>48 25>>49 26>>50 27>>51 28>>52 29>>53 30>>54 31>>55 32>>56 33>>57 34>>58 35>>59 36>>60(完結)

第2章『人生。』
>>61>>62 3>>63>>64 5>>65 6>>66 7>>67 8>>68 9>>69 10>>70  11>>71  12>>72 13>>73 14>>75 15>>76 16>>77 17>>78 18>>79 19>>80 20>>81(完結)

第3章『現実逃避に失敗しました。』
>>82 2>>83 3>>84 4>>85 5>>86 6>>87 7>>88 8>>89 9>>90 10>>91 11>>95 12>>96 13>>97 14>>98 15>>99 16>>101 17>>102 18>>103 19>>104 20>>105 21>>106 22>>107 23>>108 24>>109 25>>110 26>>111 27>>112 28>>113 29>>114 30>>115 31>>116(完結)

第4章『レッドエイジ』
>>117 2>>118 3>>119 4>>120>>121 6>>122 7>>123 8>>124 9>>125 10>>126 11>>129 12>>130 13>>131 14>>132 15>>133 16>>134 17>>135 18>>136 19>>137 20>>138 21>>139 22>>140 23>>141 24>>142 25>>143 26>>144 27>>145 28>>146 29>>147 30>>148 31>>149 32>>152 33>>153 34>>154 35>>155 36>>156 37>>157 38>>158 39>>159 40>>160 41>>161 42>>162 43>>163 44>>164(完結)

第5章『燕は高く、空を飛ぶ』
>>165 2>>166 3>>167 4>>168 5>>169 6>>170 7>>171 8>>172 9>>173 10>>174 11>>175 12>>176 13>>177 14>>178 15>>179 16>>180 17>>181 18>>184 19>>185 20>>186 21>>187 22>>188 23>>189 24>>190 25>>191 26>>192 27>>193 28>>194 29>>195 30>>196 31>>197 32>>198 33>>199 34>>201 35>>202 36>>203 37>>204 38>>205 39>>206 40>>207 41>>208 42>>209 43>>210 44>>211 45>>212 46>>213 47>>214 48>>215 49>>216 50>>217 51>>218 52>>219 53>>220 54>>221 55>>222 56>>223 57>>224 58>>225 59>>226 60>>227 61>>228 62>>229 63>>230 64>>231 65>>232 66>>233 67>>234 68>>235 69>>236 70>>238 71>>239 72>>240 73>>241 74>>242 75>>243 76>>244 77>>245 78>>246 79>>247 80>>248 81>>249 82>>250 83>>251(完結)

第6章『Your love which binds us』
>>252 2>>253 3>>254 4>>255 5>>256 6>>257 7>>258 8>>259 9>>260 10>>261 11>>262 12>>263 13>>264 14>>265 15>>266 16>>269 17>>270 18>>271 19>>272 20>>273 21>>274 22>>275 23>>276 24>>277 25>>278 26>>279 27>>280 28>>281 29>>282 30>>283 31>>284 32>>285 33>>286 34>>287 35>>288 36>>289 37>>290 38>>291 39>>294 40>>295 41>>296 42>>297 43>>298 44>>299 45>>300 46>>301 47>>302 48>>303 49>>306 50>>307 51>>308 52>>309 53>>310 54>>311 55>>312 56>>313 57>>314 58>>317 59>>318 60>>322 61>>323 62>>324 63>>325 64>>326 65>>327 66>>328 67>>329 68>>330 69>>331 70>>332 71>>333 72>>336 73>>338 74>>340 75>>341 76>>342 77>>343 78>>344 79>>345 80>>346 81>>347 82>>348 83>>349 84>>350 85>>351 86>>352 87>>353 88>>354 89>>355 90>>356 91>>357 92>>358 93>>359 94>>360 95>>361 96>>362 97>>363 98>>364 99>>365 100>>366 101>>367 102>>368 103>>369 104>>370 105>>371 106>>372 107>>373 108>>374 109>>375 110>>376 111>>377 112>>378 113>>379 114>>380 115>>383 116>>384 117>>385 118>>388 119>>395 120>>397 121>>399 122>>400 123>>403 124>>404 125>>405 126>>406 127>>407 128>>408 129>>409 130>>410

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200だから自画像描いた ( No.45 )
日時: 2012/05/11 19:09
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)


21・赤、逃げる。


生暖かい自分の掌からは、いつもより速いペースで血の流れる音が聞こえてきていた。

それすらも怖い。

自分の掌でできる防音なんて、高が知れていたから、まだ彼の声は聞こえる。

ライアーの背中に自分の背中をくっつけると、少し安心できた。

まだ、ライアーはここにいる。

「……なんで」

ライアーが声を出したためか、ライアーの背中が少し震える。

本当に私も聞きたい。

なんで、私が。
どうして知り合いでもない彼に、命を狙われているんだ?
バカな私でも分かる。
彼はきっと私を殺そうとしているんだって。
確かな殺意は私に向いている。

「決まっています。俺の……大切な人の仇」

震えた。

得体の知れない恐怖が、私の体の何処からか沸いて出てきた。

「コイツがお前の大切な人を殺したのか」

違う。
私は生まれてこの方、人の命を奪ったことなんか無い。

信じて、ライアー。

私は両目をぎゅっと瞑った。

ただ、怖い。
彼が怖い。

「そうだ」

「アスラ! 大切なお客様だぞ!」

遂に我慢がきかなくなったのか、おじさんが声を上げた。

それでも目を閉じていても伝わってくる彼の殺意は、消えることは無い。
寧ろ強くなっている気さえする。

声を出すのも億劫になってきた。

怖い。

「おい、逃げろ」

ライアーが私の肩に手を置いたのに驚いて、目を開ける。

私は、ライアーの顔を確認することなんてしないで駆け出した。

怖かったから、一刻でも早く彼から離れたかった。
この間の森で私を攻撃してきたビーストなんて比じゃないくらい、怖くて。
今度こそオワリかと思った。

口の中の唾液を飲み込んで走り出した私は、もう逃げることしか考えていなかった。

ただその中でライアーのことが凄く気がかりだった。


 + + + +


赤女が逃げたことなんて確認している暇はない。
少しでも余所見をしたら来る。
俺の直感はそう告げている。

そういえば俺は今、剣とか、刀とか、ナイフとか、そういう刃物系を持っていないんだった。

不味いな。
銃はあるがこんなところで使ったってダメだ。

とりあえず、赤女の足音が聞こえなくなったところを見計らって口をあけた。

「どうしてアイツを庇う」

先を越されたがまぁいい。

俺は元々喋るのが苦手だから、相手が喋ってくれるのはとても都合がいいし、嬉しい。

「さぁな」

俺の答えはそっけない。

だって理由なんて物は存在しない。
俺が庇っているのは赤女ではなく、赤女の黒髪と黒目だからだ。
仕方ない。
俺にとっては赤女は大切な存在でもなんでもなく、どちらかというと面倒な奴だ。
喋らなければいいのにとさえ思う。
アイツは俺と違ってよく喋る。
しかもくだらないことをべらべらと。
本当に面倒な奴だ。

だけど。

「どうでもいいが俺の敵だな」

アイツが人の命奪う奴には、どうも見えないんだよ。


〜つづく〜


二十一話目です。
今回は少し短めでしょうか。
なんというか最近寒いので文章を打つのが億劫になってきていますね。
皆さんもそうでしょう。
私もそうなのです。
とかどうでもイイことを話したのは何も話すことがなかったからです。

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.46 )
日時: 2012/05/11 19:14
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)


22・赤が走っているとき。


息を軽く吸い込んでから、あたしは走り始めた。
この会社の地図は頭の中に叩き込んである。

めんどくさい方法としては、社内にもぐりこんで隙をついて得物を奪うという手もあるが、どうやらあたしには向いていないようで、昔何度か失敗した。
そりゃあ昔はこの仕事に慣れていなかったし、傷つくのが嫌だったから、安全な方法をとろうとしていたけれど、慣れてくるうちに面倒になっていった。

失敗すれば報酬ももらえない。
いや、報酬はいつもあのバカ上司が全て貰って、あたしはそのバカ上司から決められた分だけ貰うというシステムになっている。
バカ上司のほうが立場は上だから取り分も多い。
あたしが働かなければ、あのバカ上司には一銭も回らないといえば嘘だ。
バカ上司は顔が広いから、あたしが働かなくなっても何も困らないだろう。

あたしはあたしのためにこの仕事をやっているんだ。
この仕事をあたしが手放すことはきっとない。
自分の手を汚しても、あたしはあたしの生活が何より一番大切だから。

今回の得物は、ハラダ・ファン・ゴの生誕2000年を記念されて作られた武器だ。
武器、とあえていうのにはわけがある。
あの武器は剣というのには長く、大剣というのには細く、刀というのにも両側に刃が着いているため適さない。
ここでは面倒なので太刀といおう。
太刀というのにも適さないが。

きっと得物は警備が厳重で、一番奥にある倉庫にあるだろう。
大切な物を隠すのにはそこが一番だ。
あたしだってそう思う。

狙いが絞れたから少し走るスピードを早くする。

バカな会社はあたしにまだ気付いていない。
本当にこんなんでよくやってきたものだ。

だが油断は大敵。
走るのは早くするものの、足音には細心の注意を払っていた。

が。

それは突然現れた。
あたしの進行方向の廊下にふらりと、余裕の足取りで現れたのだ。
驚いたあたしは足を止める。
アイツの顔には見覚えがある。
嫌というほど。
あたしはアイツの名前を知っている。

そう。
あの男の名は。

「やぁやぁ、俺の子猫ちゃんじゃないかぁー」

ジャルド。

こいつは嫌いだ。
心底嫌いだ。

だって話しているだけで体中に悪寒が走り、鳥肌が広がる。
腹の奥の方に、ぐちゃぐちゃした粘液がへばりついている気分になる。

不愉快だ。

やけに丁寧なその手の動きも、少し茶髪混じりの黒髪も、そこのない穴みたいな黒目も。全部全部あたしを不機嫌にする要因にしかならない。

「なんで、あんたがここに」

あたしはなるべく短い言葉でコイツの会話したい。
だってあまり長く喋ると脳みそが腐りそうだから。
コイツに汚染されるのは回避したい。

ジャルドは口元を歪めた。

そうだ、コイツの笑顔もむかつく。
良く笑うコイツの顔を思いっきりぶん殴りたい。

爽快だろうなぁ。

あたしとこの男はどうしてこんなに不仲なのか。
そんなことは忘れた。
あたしとこの男が出会ったのはいつ頃で何処だったか。
きっとコイツと出会ってからあたしの人生はおかしくなっている。

あぁ、なら、そこからやり直したい。
コイツと関わりない人生を送ってみたい。

コイツはあたしの仕事先に現れては、あたしの邪魔をして忽然と消えていく。
邪魔するんだったら、ちょっとはあたしの文句も聞けっての。
一発殴らせろっての。

「いやぁ、俺の子猫ちゃんがここを奇襲するって風の噂で聞いてね」

「誰がアンタの子猫ちゃんだ、コラ」

ジャルドはおちゃらけた風に耳に手を当てて、何かを聴いている仕草をした。

何だ、風の噂って。
というかなんでコイツはあたしの仕事内容をまるで分かっている様に、あたしの仕事先に現れるんだ。

もううんざりなんだけど。
こっちからしたら。

もしかして、あたしのバカ上司とジャルドはグルか!?

「そうだねぇ、俺はお前みたいな小汚い野良猫を懐に入れてやれるような心の広い人間じゃねぇなぁ」

いちいちむかつく言動。

あたし後どれくらいでコイツのこと殴るんだろう。
気が長い人間でもないから、それは近いうちかもしれない。

「俺の懐にいるのは、カンコだけで充分だぁな」

一瞬笑顔を消してジャルドは近くにいた女の子を引き寄せて、抱きしめた。

あたしにはその少女の価値はわからないけど、ジャルドはきっと気に入っているのだろう。
頭に蛆が沸いているこの男に趣味は最早あたしには分からない。
分かりたくもない。

だけどコイツがもしロリコンの趣味に目覚めているのなら、あたしはすぐにこの場から逃げ出して他のルートを探しに出る。
3秒でそうする。

「ジャルド、苦しい」

ジャルドの腕の中の女の子は、薄い青色の目を少し不機嫌そうに揺らしてジャルドを見上げた。

……あれ。
別のルート?
あぁ、そうか。
最初からそうすればよかったんだ。
まったく、あたしはバカか。

「仲が良さそうで結構だわ。じゃ、あたしはコレで」

コレであたしはこの空間から退場するんだ。
そうだ。
自然な退場だった。

あたしはカンコの身体をジャルドが離しているのだけを視界の端に入れてから、元来た方向に身体を向けた。

コレで立ち去ろう。
そう踏んでいたのに。

「っぐっ」

それはあたしの耳に届いた、声とも言えない声だった。

紛れもない、あたしの声なんだけど。

凄い力だった。

あたしの体勢は崩れ、床に倒れこんでしまった。

だがあたしはそこまでバカじゃない。
あたしはすぐに身体を起こし、ジャルドから距離を置いて睨みつけた。

ジャルドは鞘に収めたままの刀をあたしの方に向けて笑っていた。

冷ややかな笑顔だった。

あたしの背中を勢い良くついたのは紛れもない、この男だ。
やはり侮ってはいけなかった。
ギャグのようにスマートに退場することなんて、この男が許すはずなかった。
この男は面白いことは大好きなはずなのだが。

「ったく、野良猫の上に頭まで足りてないとは、最早救いようがねぇな」

ジャルドの低い笑い声に、あたしの皮膚があわ立ったような感覚にとらわれた。


〜つづく〜


二十二話目です。
今回は雪羽ちゃんは登場しませんでした。
あ、文字数の関係でここまでで!

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.47 )
日時: 2012/05/11 19:19
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)


23・赤が走っているとき。2


なんとなく歩いていたらビンゴだったようで、俺が捜していた女と遭遇した。

よっしゃ、ラッキーだな、俺。
今日はちょっとついているかもしれない。
いろんなことに挑戦してみたくなるね。
俺は絶対そんなことはしないけどね。

まぁそんなことはどうでも良くて。
俺が折角面白おかしくお話してやったのに、この女と来たらとっとと帰ろうとしやがった。

全く罰当たりな奴だ。
俺が折角機嫌がいいのだからもう少し付き合え。

逃げようとする女の背中を、鞘に入れたままの刀で勢い良く突いてやった。
結構な痛みのはずだ。
証拠に女はバランスを崩した。
いや、正確にはかけた、だった。
そこは意外にも女は頭がいいようで、もう俺からは逃げられないと判断したようだ。

うん。
正しい。
その判断は正しい。
俺はまったくこれっぽっちもこの女を逃がす気なんてない。
俺がそんな生易しい奴じゃないことくらい、この女は知っているはずだ。

俺にとってこの女はオモチャだ。
話しているとそれなりに楽しい。
俺も結構心を許している。
だから俺のネクタイは緩んでいるし、シャツはだらしなくズボンからはみ出している。
言葉遣いだってかなり荒くなっている。
俺はコイツの何処がそんなに気に入っているのだろうか。
分からないな。
何となくだけどカンコを連れている理由は分かる。
カンコのことが大切だから。
多分。
まぁはっきりしていなくても俺は別にいいんだ。
分からないからってカンコを手放す理由にはならないから。

さて、本題に戻そう。
女はきっと俺を睨みつけていた。
わぁ、怖くない。
思わず口角が上がってしまった。
俺は少しだけ刀を握っている右手に力をこめた。
それが気に入らないようで女の眉間に皺がよる。

なぁ、うぜぇか? 俺。
一度だけカンコにそう聞いたことがある。
さて、カンコはその時なんて答えたっけかな。
もう随分昔だし、忘れた。
特に重要じゃないし。

「あたしの仕事、なんで邪魔するの」

女は酷くイラついているようだった。俺だって分かる。

うぜぇんだ、俺。
それはコイツにとってとてつもなく、メガトンギガント級にうぜぇんだ。
なんだそれ。
超楽しいじゃん。
嫌われ者の俺。淋しい奴な俺。
随分とワクワクゾクゾクする展開じゃん。
それから俺の復讐劇が始まるんだな。
ステージをもぶち壊すほどの復讐劇! 一番の見ものだね。

「なぁんとなぁぁぁくぅっ」

短く息を吐いた。
俺はいつもあまりモーションをかけずに行動するが、今はちょっと場面が違う。
俺の息は荒くなってきている。
興奮してきた。

超楽しい。
やべぇ。

ということで、6歩で間合いを詰めて、再び鞘に入れたままの刀を女の腹目掛けて突き出した。
突き。
俺はその攻撃が好きだ。
今決めたけど。

「ぐぁっ」

女はだが、咄嗟に一歩身を引いたようで直撃を免れたようだ。
スカッと当たらないのは実に不愉快だが、まぁしょうがない。

かなりの痛みのはずだが、女は腹を押さえただけで耐えているようだ。

「あぁぁ、ちょっと楽しくなってきたぁ」

特に意味はないがぷらぷらと刀をゆすってみる。
きっと今カンコは少し不思議そうな顔をしているだろう。
俺の後ろに居るからわからないけど。

そういえば俺はこいつと遊ぶのが仕事ではない。
ま、いっか。
だって楽しいし。
こいつが共犯を連れてくるなんて考えられない。
この女の性格的にそうに違いない。
こいつは他人に頼ることを嫌う。
俺も似たようなことがある。

それはきっと同族嫌悪。

俺はこの女が嫌いだ。
気に入っていると同時に大嫌いだ。
この女も俺のことが嫌いだ。
それでいいじゃないか。
俺とこの女の関係は犬猿の仲って事で。
この世界中全ての人間と仲良くできるなんて事は、できるはずはないのだから。

「そう思うだろぉ? 『薄汚れた子猫(ダーティキティー)』」

この女はかなり、とまではいかないがそれなりと有名人だ。
なんせこの女の上司は、裏の仕事を仕切る会社の社長なのだから。
この女自身は気付いていないが、この女の仕事は他の社員に比べて多い。
多分社長はこの女を気に入っているのだろう。
確かに優秀だ。
それにスタイルは抜群で顔も申し分ない。
その身体を使って仕事をする時だってある。
だからか名は知れ渡っており2つ名まで持っている。

たっぷりの皮肉をこめて『薄汚れた子猫(ダーティキティー)』と。

「あんた意味不明なのよっ!!」

整った顔を歪めて突っ込んでくるその女。

確かに意味不明だよな。
カンコのように俺が満足する答えを、お前なんかが返せるわけがない。
そんなのは知っているんだ。

女は小さな折り畳みナイフを俺に向けて走ってきていた。

確かにコイツは弱くはない。
弱かったらあの社長に雇われたりなんかしていないだろう。
だが俺よりははるかに弱い。
自惚れじゃない。
俺はこいつが嫌いだ。
でもいつも命は奪わない。

勝てないと知っているはずなのに、いつも突っ込んでくるこの女の度胸は、褒めるべきところがあるだろう。
諦めの早い俺には考えられない。

俺は乾いた唇を舌で舐めた。

子猫ちゃんと遊ぶのは嫌いじゃないからな。


〜つづく〜


二十三話目です。
今回はある人の名前が明かされました。
キャラが定まらなくなってきているのは内緒です。


Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.48 )
日時: 2012/05/11 19:26
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)

24・赤が走っているとき。3


俺の今持っているこの刀の作者は、有名でもなんでも無い。
何か長所があるわけでも無いこの刀を、俺が持ち続ける理由はなんだったか。
俺は武器にあまり執着しないから、そんなのはどうでもいい。
ともあれ俺はこの刀を作った奴に会った事がある。
話したこともだ。
そいつの名前は『ファゴー』。
そいつはかの有名なハラダ・ファン・ゴの血を受け継いでいる。
だが能力に恵まれなかったためか、武器はあまり作っていない。
ハラダ・ファン・ゴの名に負けてハラダ・ファン・ゴの名前を捨てたとんだ意気地なしという奴だ。
俺も会う前から名前は知っていたが会ってみると、あぁ、なるほどなって感じだった。

何も背負ってこなかった小さな背中。
ひょろひょろとした身体。
優男。
その言葉が良く似合っていた。

そいつの家を訪ねて、俺は何かしらの武器を貰おうと思っていた。
俺は武器は要らないと思っていたのだが、カンコが武器を使わないのかと聞いてきたのでこれを機に武器でも使うかと思ったのだ。
そいつの機嫌を損ねてはいけないから俺は他人と話す口調で話した。
敬語って奴だ。
俺は敬語を話している俺自身が気持ち悪くて仕方ないが、親しい奴とそうでない奴との関係はしっかりと分別しておきたかったし、俺の性格がそうさせていた。
俺はニコニコしたままそいつの話を聞いてやった。
そいつは最初あまり話さなかったが、俺に害がないと知ると細い声で色んな事を話し始めた。

自分の先祖のこと。
自分にとって武器作りはなんでも無いと言うこと。
自分がプレッシャーを感じていたこと。
心底どうでも良かったが、俺は適当に相槌をして聞いているフリをしておいた。

ファゴーが毛の薄い頭部を撫でながら
「プレッシャーのせいかな」
なんていった時には流石に暴れだしそうになった。

何てつまらない奴なんだ。
さっきのは笑うところなのか。
冗談のつもりなのか。
俺は認めないぞ。
つまらない。つまらなすぎる。
まぁおれはかっこいい紳士だから、はははと声を出して笑っておいた。
けれどもうコイツの話には飽きていたので、本題に入ることにしたのだ。
「武器を寄越せ」
簡潔ではあったが、敬語で優しく丁寧だった俺の口調が豹変したことに、ファゴーはかなりうろたえていた。
「いやだ」
うろたえていたはずなのに、発せられた言葉はやけにしっかりしていた。
それは、まぁ、コイツに度胸があるって事だろ。
この場合は面倒だったから腹を殴って気絶させた。
最初からこうすればよかったのかもしれない。
後悔した。
さっさと帰りたかった俺は、ファゴーの部屋を物色し始めた。
そしてファゴーの名前が小さく刻まれた刀を見つけて持ち去ろうとした。

その時だった。

本気の力を篭めて殴ったはずだった。

それなのにその男はなんでもなかったかのように、喋り始めたのだ。
倒れたまま、俺をじっと見つめて。

君は淋しいのかい。大丈夫かい。私は心配しているのだよ。君は悲しそうな目をしているね。全てを信じきれないで居るね。私だってそうさ。同じだよ。信じてくれよ。君の哀しみは計り知れないね。何があったんだい。心がボロボロだね。傷だらけだね。今でも血が流れているね。そのことに気付いているかい。それは君の物だよ。私にだって見えるけれど君のものだ。君にだって大切な物だろ。大切な物が多いことはいけないことじゃない。だけど失くす物が多いことでもあるよね。リスクが高いね。私はそれが怖いんだ。色んな物を失うのが怖いんだ。君はそうじゃないね。強そうだ。傷だらけであるからこそ強いだろう。そうだろう。全てを理解した上で君は全てを嫌っているね。それは間違いなんかじゃないよ。だってそれは君が思うに間違いじゃないのだから。君の道は暗くて脆い。私の道は既にないのかもしれない。君は必死に道の上でバランスを保とうとしているね。無理だよ。いつか落ちるときが来る。それは今かもしれない。ずっと後かもしれない。それが分からないことを君は恐れているんだね。落ちたくないのかい。君は変わっているね。私はもう落ちたいよ。暗い闇と溶けたいよ。君も早く諦めたらどうだい。全てを捨てたらどうだい。君に力はないと認めたらどうだい。出来ないからこそ言っているんだ。君はもう全てを捨てることはできないね。大切な物ができたかい。小さい物だろう。その両手で包み込めるくらいの小さな物を、しっかり掴もうとして握りつぶしてしまう。それが君だろう。知っているよ。君はそうだね。いつからそうだったのかい。その大切な物を私にも分けてくれよ。触れさせておくれよ。ダメだといってくれよ。私を拒んでくれよ。
なぁ、ジャルド。

気付けば俺はそいつの頭を蹴っとばしていた。
いつそうしたのか忘れた、わからない。
最後に名前を呼ばれたのは覚えている。
本当にファゴーが言っていたことなのかも分からない。

黙れ。五月蝿いんだ。お前は。
俺の中に入ってくるな。
俺の耳がお前の声を聞く度に、焼けるように熱いんだ。
その熱は俺の頭にまで侵蝕してきて、やがて脳みそまで溶かす。
黙れ。
もうお前の事は忘れたい。

「あぁ、気分が悪くなったぁ」

俺は肺の中にたまっていた空気を吐き出した。

そこで漸く、自分の腹にナイフが刺さっていることに気付いた。

俺としたことが、考え事に耽っていて気付かなかったらしい。

「今から本気」

そう宣言してから、大分空けられたキティーとの距離を詰めようと走り出す。

キティーは慌てて2本目のナイフを取り出した。

やっと耳が冷め始めてきたような気がした。


〜つづく〜


二十四話目です。
最近更新がおおめ。そして長め。あとがき短め。

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.49 )
日時: 2012/05/11 19:32
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)

25・赤が走っているとき。4


空気がぴりぴりとしていた。
皮膚にまとわりついて、小さな針を肌に差し込まれているような感覚だった。
無論、空気がそんな風に成るわけないけれど、言葉で表現するならそれが的確だった。
ただ、その小さな針で伴う痛みは大した事はない。
だから私はここに居た。
2人を見届けておきたかった。
私がここに居る理由は全くない。
義理だってない。
さっきウサギの様に逃げていった少女を、私は追うべきなのだろうか。
少なくとも私はそうしたくなかった。
1人は私の部下でもう1人は大切なお客様。
その2人が今、確かにぶつかろうとしているのだ。
私はどう動けばいい? どちらを庇えば?
一番いいのは2人を同時に守ること。
だがそれは叶わない。
私の力では到底無理だ。
私はここで立ちすくむしか方法はない。
2人の殺気が交差するところに飛び込んでいく勇気もない。
哀れな物だ、私は。

大体コイツは少しおかしかった。
何故こんな怪しい奴をこの会社は雇ったのか、分からない。
明らかに信用できない。
奴はまだこの会社に馴染むことすらできていない。
仕事の内容しか口に出さない。
そんな奴だった。
人間かどうかすら怪しいコイツを、周りが受け入れるはずもなく、奴は入社当初から今まで、上司の嫌がらせやらなんやらを受け続けている。
眉1つ動かさなかった。
支給される弁当が同僚の手によって、泥だらけにされても、奴は表情1つ変えずに泥ごとその飯を貪っていた。
見ているこっちのほうが食欲の失せる光景だった。
アイツには常識がないのだろうか。
時には制服をゴミ捨て場に捨てられていたりもしたが、アイツは制服がないと知ると全裸で仕事に望もうとした。
それは流石に危ないというか、お客様からのクレームが心配なので私が止めた。
アイツはそのとき少しだけ表情を変えた。
驚いているようだった。
言葉に詰まっているようだった。
私はあくまで会社の印象を守るために、アイツに衣服を貸したのだがなんだか私も気分が良かった。

今までアイツに干渉したことはなかったが、その服のことが会ってから以来、少しアイツのことが気になるようになった。
上司に正しい仕事をしたはずなのに、いっちゃもんを付けられて上司の残業をかぶせられている時は、私も手伝ってやった。
あいつは大分作業が早かったし、2人係だったから尚更早く終わった。
アイツは最後にした唇を噛み締めて、うろたえたようにして、しばらく黙り込んで、やっと決心したように、搾り出したかのようなか細い声で私の目をみようともせずに呟いた。

ありがとう、ございます。

名前を聞くと彼はまた口の中を何やらもごもごと動かしていた。
ためらっているようだったから、無理に言わなくていいというと首を横に振った。
そいつの人間らしい姿を始めてみた。
心なしか、瞬きの回数が多い。
しばらくすると息をごくりと飲んでソイツは言った。

アスラ、アスラです。

声が震えていたし、目が泳いでいてあまりにもそいつが情けなかったから私は思わず噴出してしまった。
それをちょっと不機嫌そうに見ていたアスラの肩を何回かさすって、

アスラ。そうかアスラか。頑張れよアスラ。

って言ってやると頬を指で掻いて少し照れくさそうにしていた。
その時のコイツは、アスラは、確かに人間だったはずだ。

それなのに今のアスラはどうだ。
まるで何も移していないかのような目。
まるで人間じゃないみたいじゃないか。
違うだろ。
お前は人間だろ。
確かにあの時お前に表情はあったろ。
どこ行ったんだよ。

どうしようもできない私自身に私はあきれ果ててその場にへたり込んでしまった。

私にアスラのしたいことは、やりたいことはわからない。
絶対、一生分からない。

なんだかとてつもなく高く厚い壁がアスラとの間にあるような気がした。


 + + + +


嫌がらせとかは、苦じゃなかった。
全然平気だった。
でもある日1人の年配の、ひょろひょろしたおじさんの上司が俺を助けてくれた。

服を着ろ。無いだって? じゃあしょうがないな。私のを着なさい。みっともないだろう。それで仕事なんて。

その人の服は自分の物と一緒のはずなのに、何故だが俺の物より温かい気がした。
その日からなんだか嫌がらせがちょっと嫌になった。
泥と一緒に飯を咀嚼すると、口の中がわけが判らないことになる。
ごりごりだかじゃりじゃりだか変な食感がして、本音をいえば食えた物じゃなかった。
でも弱音を吐いたら負けだと思っていたから、我慢して食べた。
でもそんな日には必ず、俺のロッカーの中にサンドウィッチとかおにぎりとかの軽い食事が入っていた。
近くの売店で買ってきた物だろうが、俺には嬉しかった。喜んで食べた。
誰が置いてくれているのかも知っていた。
あの人だ。
だってあの人は何かあれば、ちらちら俺のほうを見ている。
それは化け物を見る目でも、さげすむ目でも、軽蔑する目でもなくて、別の種類の目だった。
俺の脳裏にマスターの顔が浮かぶ。

ダメだ。考えるな。マスターはもういない。とっくにいない。
それは知っていて、自分に何度も言い聞かせてきたけれど、あの人の目を見るたびにちりちりと俺の頭の中のマスターが声をかけてきた。
記憶の中のマスターが俺の名前を呼んだ。
やめてくれよ。
マスターが出るのは嬉しかったけれどマスターが出ればアイツも出てくる。

あぁ、許せない。許せない。許してなるものか。

俺の中にあふれ出る怒りは、憎しみは俺の臓物すべてをも支配して俺の身体の外にいつか出てくる。

その前に、アイツを。あの女を。

「あぁっ!!」

自分を奮い立たせるように吼えた。

この男は強い。

だが俺は進まねければいけない。

視界の端に映ったあの人は、未だに俺をマスターと同じ目で見つめていた。


〜つづく〜


二十五話目です。
この小説は章ごとに目的を変えようと思っているのですが、文字数制限という厄介な物があり、さらに私は改行をしすぎるので全然物語が進みません。
困りました。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。