複雑・ファジー小説
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 赤が世界を染める、その時は。
- 日時: 2016/02/25 00:54
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: /dHAoPqW)
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『必ず勝利せよ。敗北は死だ』
scene.6 message.by.raimei
+ + + + + + + + + + + + + + +
+この小説をオススメできない方+
・荒しが趣味な方
・中二病が嫌いな方
・更新が早くないと嫌な方
・作者のもうひとつのカキコネームを知っている方
・作者に文才を求めている方
・誤字多し。直す気3%。でも教えてくださると嬉しいです。
【2012年冬・小説大会+複ファ金賞】
ありがとうございました!!!!!!!
いやいや、見た時はビックリでした……。
本当にうれしいです!!!今でも信じられないくらいです。
本当にありがとうございました。
まだまだ続くというか、書きたいことがまだあるというか、自分の中で終わりが見えていないので終わりまでお付き合いしていただいたらうれしいです……!!
+目次+
第1章『赤=私=雪羽=バカ』
1>>1 2>>2 3>>3 4>>4 5>>5 6>>6 7>>9 8>>12 9>>15 10>>16 11>>19 12>>20>>21 13>>23 14>>27 15>>29 16>>32 17>>34 18>>41 19>>43 20>>44 21>>45 22>>46 23>>47 24>>48 25>>49 26>>50 27>>51 28>>52 29>>53 30>>54 31>>55 32>>56 33>>57 34>>58 35>>59 36>>60(完結)
第2章『人生。』
1>>61 2>>62 3>>63 4>>64 5>>65 6>>66 7>>67 8>>68 9>>69 10>>70 11>>71 12>>72 13>>73 14>>75 15>>76 16>>77 17>>78 18>>79 19>>80 20>>81(完結)
第3章『現実逃避に失敗しました。』
1>>82 2>>83 3>>84 4>>85 5>>86 6>>87 7>>88 8>>89 9>>90 10>>91 11>>95 12>>96 13>>97 14>>98 15>>99 16>>101 17>>102 18>>103 19>>104 20>>105 21>>106 22>>107 23>>108 24>>109 25>>110 26>>111 27>>112 28>>113 29>>114 30>>115 31>>116(完結)
第4章『レッドエイジ』
1>>117 2>>118 3>>119 4>>120 5>>121 6>>122 7>>123 8>>124 9>>125 10>>126 11>>129 12>>130 13>>131 14>>132 15>>133 16>>134 17>>135 18>>136 19>>137 20>>138 21>>139 22>>140 23>>141 24>>142 25>>143 26>>144 27>>145 28>>146 29>>147 30>>148 31>>149 32>>152 33>>153 34>>154 35>>155 36>>156 37>>157 38>>158 39>>159 40>>160 41>>161 42>>162 43>>163 44>>164(完結)
第5章『燕は高く、空を飛ぶ』
1>>165 2>>166 3>>167 4>>168 5>>169 6>>170 7>>171 8>>172 9>>173 10>>174 11>>175 12>>176 13>>177 14>>178 15>>179 16>>180 17>>181 18>>184 19>>185 20>>186 21>>187 22>>188 23>>189 24>>190 25>>191 26>>192 27>>193 28>>194 29>>195 30>>196 31>>197 32>>198 33>>199 34>>201 35>>202 36>>203 37>>204 38>>205 39>>206 40>>207 41>>208 42>>209 43>>210 44>>211 45>>212 46>>213 47>>214 48>>215 49>>216 50>>217 51>>218 52>>219 53>>220 54>>221 55>>222 56>>223 57>>224 58>>225 59>>226 60>>227 61>>228 62>>229 63>>230 64>>231 65>>232 66>>233 67>>234 68>>235 69>>236 70>>238 71>>239 72>>240 73>>241 74>>242 75>>243 76>>244 77>>245 78>>246 79>>247 80>>248 81>>249 82>>250 83>>251(完結)
第6章『Your love which binds us』
1>>252 2>>253 3>>254 4>>255 5>>256 6>>257 7>>258 8>>259 9>>260 10>>261 11>>262 12>>263 13>>264 14>>265 15>>266 16>>269 17>>270 18>>271 19>>272 20>>273 21>>274 22>>275 23>>276 24>>277 25>>278 26>>279 27>>280 28>>281 29>>282 30>>283 31>>284 32>>285 33>>286 34>>287 35>>288 36>>289 37>>290 38>>291 39>>294 40>>295 41>>296 42>>297 43>>298 44>>299 45>>300 46>>301 47>>302 48>>303 49>>306 50>>307 51>>308 52>>309 53>>310 54>>311 55>>312 56>>313 57>>314 58>>317 59>>318 60>>322 61>>323 62>>324 63>>325 64>>326 65>>327 66>>328 67>>329 68>>330 69>>331 70>>332 71>>333 72>>336 73>>338 74>>340 75>>341 76>>342 77>>343 78>>344 79>>345 80>>346 81>>347 82>>348 83>>349 84>>350 85>>351 86>>352 87>>353 88>>354 89>>355 90>>356 91>>357 92>>358 93>>359 94>>360 95>>361 96>>362 97>>363 98>>364 99>>365 100>>366 101>>367 102>>368 103>>369 104>>370 105>>371 106>>372 107>>373 108>>374 109>>375 110>>376 111>>377 112>>378 113>>379 114>>380 115>>383 116>>384 117>>385 118>>388 119>>395 120>>397 121>>399 122>>400 123>>403 124>>404 125>>405 126>>406 127>>407 128>>408 129>>409 130>>410
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.195 )
- 日時: 2012/10/21 11:07
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
29・王様のような隊長。
「どれくらいだ」
「はい?」
一線で良い。一振りで良い。腕を振るだけで良い。
それだけで毎晩手入れをしている刃は皮膚を切り、筋肉を分け入り、骨を両断し、筋肉を切り、そして再び皮膚を突き破る。
足を踏み出すこともない。自分より低い位置にあるそれを吹き飛ばすのは、容易である。
息を呑む音が聞こえ、悲鳴を上げる奴もいる。うるさいので声を上げた奴は、同じようにしてやった。首から上の人間の部位がゴロゴロと土を汚していく。
私は残った人間をぐるりと見渡して、ため息を吐いた。口角を上げて見せれば、眼下に居る奴らの背筋が張るのが見て取れる。
「だから、どれくらいだ」
今度は誰も口を開かない。刀を傾けて、光を反射させて怯えさせる。
私は仕方なく再び同じような質問を口に出した。
刀で地面を抉ってから、刀を持ち上げて肩に乗せる。
空が綺麗だ。いつも銃声だの人の罵声を聞いていると、こんなにも風の音が心地良い。空が綺麗だな。何時だって天気は人の心を癒すものだ。
「どれくらい死んだ?」
私は空を見上げながら、空気を吸い込む。
落ち付く落ち着く。良いねぇ、私の心も快晴だ。
最近は状況が動いていない。別に早く片付けなければいけないという問題というわけではないし、急いだって失敗の可能性が増えるだけなので、ゆっくり動く。私はせかされるのは嫌いだ。
もっと自分のペースで動きたいから。
急いで資料をかき集める部下たち。
彼らは私に従う駒だ。私の思い通りに動いてもらわなくちゃ困る。私といつも動いている奴らじゃなくて、違う軍隊から派遣されている奴らも居るけれど、大体は私のペースについてくれなくて私の機嫌を損ねて首を撥ねられた。
私の支配力が、彼らの命を握っている。私をイライラさせない方が良い。私の言葉に正しく素早く働いて欲しい。使えない駒なんて、誰も欲しがらない。
「60くらいです」
最近私たちも相手も全く動いていないのにこれだけの人数というわけか。つまり、私はそれだけ殺してしまったわけだ。
私にとって部下は使い捨てる道具だ。
それを承知で私の軍隊に入る奴。そいつらを私は愛している。私と同じ志を持つ者。私たちは同志だ。
だけど、私には逆らってはいけない。それが分からないバカだけが、死んでいく。私は躊躇うことを知らない。
私は何時だって穢れる覚悟がある。
「足りないなぁ、ちょっとなぁ」
もっといっぱい欲しいな。私に向かって跪く人間は、もっと多い方が良い。もっと多く。
立ち上がるものは、多い方が良い。私と一緒に、世界を変えるものは、もっと多い方が。
と言っても、私は嫌われているし、問題行動を起こし続けて来たから、これ以上応援をよこしてくれることは無いだろう。
私はでも、この団の中での支配をやめるつもりは無い。
殺されたくないなら、自分の首筋に迫る私の刃を止めれば良い話だ。それくらい、強くなってみろ。私をこの隊長という地位から落としてみろ。
私は私が正しいと信じているから、私の信じた道を行く。
私は私が信じた行動をとっているだけだ。ただ、それだけ。だから私は恐れない。
「その辺でさー、暇そうな人とか連れてきてよ」
私は、正義だ。
〜つづく〜
二十九話目です。
彼女なんですけど、分かりますか。
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.196 )
- 日時: 2012/10/21 16:06
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
30・警戒のような軽快。
「俺になんか用なのか」
ロムって人は、雷暝に似ている。雷暝はもっと怖い感じがしたけれど、でも、似ている。外側は似ていない。でも、中。中の中。中の中。一番奥の骨は、雷暝に似ているんだ。
私はそこでなんだかこの人が良い人じゃないような気がしてならなかった。まだであって数分の人。決めるのはまだ早すぎる。でも、そう思うのは仕方がないと思う。
雷暝は、怖かった。実際に、あの人の怖さを感じ取った私にとって、ロムは信頼できない人間だった。
しかし、なんだか妙だ。癖なのか、ロムはさっきから自分のズボンのポケット辺りを指で叩いて居る。そのリズムはバラバラで一定では無い。トーンと叩いたり、短くに連続で叩いたり。いったい、何をしているのだろうか。
この中に、このロムのくせに気が付いている人はいるだろうか。私の他に、ロムが雷暝と似ているって感じる人は、居ないのだろうか。同士が欲しい。賛同してくれる人間が欲しい。私は、誰かに頼らなきゃ生きていけないのだろうか。
まさか、そんなんじゃない。ただ、自分の考えていることは『普通』なのかどうか、それが気になるだけだ。
「そうですねー。特に無いんですけどー、あ、サインとか貰えちゃったり?」
「サイン?」
あからさまにライアーが嫌そうな顔をする。
ロムはふざけているのか、分からない。でも、本当に心底ライアーのサインが欲しいわけじゃなさそうだ。
指は止まっていない。忙しそうに歪なリズムを刻み続けている。
私はとりあえず、他の人はどうとしても、それが気になる。おかしいと思う。だから、じっと指を目で追って居る。覚えきれるわけじゃない。
ヒダリは相変わらず虚空を見つめて突っ立っている。まるでロムはヒダリが見えていないかのように、気を配って居ない。
もしかしたら、ヒダリはクスリにやられているのかもしれない。クスリを使った人間をよく知るわけじゃ無いけれど、とりあえず抜け殻のようにはなるだろう。クスリとなると、お姉さんに助けて貰ったあの日を思い出す。
お姉さん、元気かな。最近顔を見ていないけど。
「そうそう。あなたが死んだら、結構な価値になるかもしれないし」
ロムは目を細めて笑う。そこで初めて、ジャルドが半歩身を引いた。何のためにだろう。ジャルドはまさか、何か感じているのだろうか。ジャルドに何か声を掛けたほうが良いだろうか。
でも、私ごときが考えることだし、ジャルドにとっては取るに足らないことだろう。
だから、私は口を閉ざした。
「俺は死なない」
「死なない人間はどこにも居ないわ」
ちょっとムッとした声でライアーが言うと、すぐさまロムが厳しい声を出す。
彼女は何か、怒っているようで、怒っていない。
彼女は、やっぱり雷暝に少し似ている。
雷暝といい、ロムといい、なんでこんな複雑な表情を作ることができるんだ。私の表情は、そんなに発達していない。私の顔は、悲しみをそんなにうまく隠すことはできない。
羨ましいわけ、無いけど。
〜つづく〜
三十話目です。
やったー三十だー。
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.197 )
- 日時: 2012/10/21 17:27
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
31・鎖のような嘘。
「人は、死ぬよ、赤い嘘吐き。あなた、そんなことも分からないような馬鹿なの?」
ロムは唇を手で押さえて笑う。俺の心に、その言葉が突き刺さる。
知ってるっつーの。人は死ぬ。俺を、残して死んでいく。いつか、俺を作ってくれたクオも、ユコトも死んでいく。それは知っている。
いや、でも。俺は思い出した。ずいぶん昔のこと。俺は、クオに心を開きかけて来ていた。
この人なら、俺を支えてくれるって。この人なら、俺を助けてくれるって。そう思い始めてきたとき。
俺は、クオに初めて自分から話しかけた。
+ + + +
「クオ」
クオは俺に、綺麗な服をくれた。そして、おいしい食べやすいご飯もくれた。抱きしめくれるし、俺に名前をくれた。傷も直してくれた。
でも、怖い。クオが怖い。違う。違う。クオは怖くない。
「クオはいつか死ぬ?」
いつか死んでしまうだろう。それが怖い。クオもいつか、死ぬ。俺を残して、死んで行く。きっとそうだ。そうに違いない。人は死ぬから。人はいつか死ぬから死んでしまうのが宿命だから。逆らえないから。それが人だから。
クオは持って居た紙の束を机の上に置いた。
すごい綺麗な部屋。そこで俺はお茶を飲む。クオの髪を捲る音や、クオがペンを走らせる音を聞きながら、お茶を飲む。
それがこの時間にする俺に日課だった。
クオはユコトがクオの肩に掛けて行った上着を外して、俺の肩に掛ける。小柄なクオがかけていた上着でも、俺にはぶかぶかだ。
「死なないよ。僕は、死なないさ。君と……それからユコトを置いて、死ぬことなんかできないよ」
クオは、小さい。ユコトよりも背は低いし、腰は細いし、胸板は薄い。それなのに、クオは強い。俺よりもずっと強い。ユコトも強い。クオには無い強さをユコトは持っている。
クオの言葉は魔法だった。
お茶がおいしくなる。心が温かくなる。
「クオは、死なない」
カップを掌で包みながら言葉を繰り返す。今まで、クオが嘘をついたことは無い。信用して良い。
「——————そう、僕は死ねない」
+ + + +
言葉が足りなかった俺でも、クオとは喋っても良いと思った。俺が今、こんなに普通になれたのは、クオのおかげだ。クオの言葉を、俺は信じている。
俺は、でも、人が死ぬのは嫌だ。俺は分かっている。人はいつか死ぬ。クオは、きっと死ぬ。でも、俺を心配させたくなくて言ったんだ。
俺が唇を噛むのを見て、ロムは得意そうにしている。
俺を言い負かせることができたと思っているのか。そうじゃない。俺は知っている。こんな女より、人が死ぬということを理解している。
「あーあ、サインならもう良いや。ってかさ、こんなバカもう興味ないや」
ふっと、ロムが息を吐く。
これだけバカにされて黙ってはいられないけれど、ここで暴れたってどうにもならない。
しかも、こんな一般人に。
「ヒダリ」
「っ!」
反応したのは、俺じゃなかった。いつも腰に愛刀を下げている、ジャルドだった。
ロムが、ヒダリの名前を呼んだ。
それだけだった。分かったのは。
……一般人?
〜つづく〜
三十一話目です。
がつがつ書きます。
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.198 )
- 日時: 2012/10/22 18:20
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
32・血のような赤。
名前を呼んだ。私がずっとロムの指先を見ていて思ったのはそれだけだった。
一瞬にしてヒダリの姿は消えて、私の目も前まで迫って来ていた。
早い。というか、私か。狙いは私なのか。そんな事を考えるだけの余裕はなかったはずなのに、私の頭はかなり呑気だった。
ばっと目の前につきだされたのは、細い刀。私の近くにいたジャルドが、ヒダリの真っ黒なコートに包まれた腕を狙ったのだ。
その腕から延びる手には、短い刃物が握られていた。
ヒダリはだが、怯まない。少し軌道を変えたのか、ジャルドの刀はコートを引き裂いた。
私も、動かなくては。このままではいけない。
私は身を引かないで、あえてヒダリの懐に飛び込んだ。そこで、ヒダリの少しぎょっとしたような、乾き始めた血のような濃い赤い目が見えた。
私の行動が意外だったのか、ヒダリの足元が崩れそうだ。私は踏ん張って、ヒダリの胸板を方で押す。ジャルドが刀を引いて、私が居るのにヒダリを切ろうとするから仕方なく身をかがめて、横に転がる。
不格好なのは仕方ない。
ジャルドの攻撃をヒダリがぎりぎりでかわす。ところどころ破かれていくコートにヒダリは気を配っていない。
私は咄嗟に、カンコのもとへと走った。
びっくりした。ヒダリが迫ってきた時、心臓が吹っ飛んだかのような感覚だった。だから逆に、頭が冴えていたのだろう。
私に来るとは思ってもみなかった。心臓がバクバク言っている。
私はジャルドに心配そうな視線を向けるカンコを、そっと抱きしめた。
二人なら、大丈夫、そう思ったのだ。
ジャルドの援護にライアーが回る。二人は、強い。流石にヒダリは辛そうにしている。でも、その体はまるで何も入っていないかのように軽く、二人を惑わすように風を切る。
私には、何かできることは無いだろうか。
無い。私が行っても、二人の邪魔になるだけだ。私はなるべく三人から離れようと、背中が柵につくまで後ろに下がった。
カンコは、私と同じように行動してくれる。
これで、邪魔にはならないだろう。
風が、強い。体が、倒されそうだ。
「汝yo我nokoeni答eyo」
何かを、呼ぶような声だった。誰かを、呼ぶような声だった。
それは不思議な事に、離れているはずなのによく聞こえた。すぐ耳元で、囁かれているかのような。
私は声の方に向いた。
「我汝no熱wo欲surumono我no息吹ni罪no業火wo」
カンコの口が歪む、何か叫ぼうとしている。
私は、ただその声に耳を傾けていた。
「『炎魔』————岩花火」
ジャルドの脚の付け根に、ヒダリのナイフが刺さっている。
ライアーが、ヒダリに腹を蹴られている。
私たちの後ろで、何かが爆ぜる音がした。
足元が熱い。何かが、爆発したんだ。
私たちを見て、ロムが笑っている。
ロムの手の中で、何かの液体が垂れていた。魔術を発動させるために必要だったのだろう。
私は、振り返ろうとした。何が起こったのか、確認しようと。
私たちの体を、風が煽る。
「……は、っ」
息を吐いた。呑むべきところなのに。
足の下に、感触がない。体が軽い。空が見える。私たちの背後にあった柵は、何かによって破壊されていた。
手を伸ばす。届くはずないのに。届くかもしれない、なんて。有り得ない。でも、希望が欲しかった。ダメだ。ごめん、カンコ。私のせいだ。
私が手を伸ばした先に、ライアーが現れた。
ダメだよ、駄目。ライアーまで落ちちゃう。
私は、笑って見せた。怖い、怖いよ。落ちていくよ。視界がぼやけていく。涙の粒が、空に舞う。ライアーの声が、聞こえる。
私を呼ぶ、声が。
「雪羽っっ!!」
ライアーが、手を伸ばしてくれている。
行かなくちゃ、手を取ってあげなくちゃ。
私は、大丈夫だって。
〜つづく〜
三十二話目です。
連載前から決まっていたシーンです。どうしても書きたかったシーンなのです。掛けてうれしいです。
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.199 )
- 日時: 2012/10/22 22:43
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
33・言い訳のような後悔。
助けられなかった。
雲の中に落ちて行く赤女は、笑っていた。俺を、心配させないためなのか。俺は、助けられなかった。
体の力が抜ける。足が震えている。鼻で呼吸ができない。俺が、殺した。俺が、もっと警戒をしていれば。もっと、ロムの言葉に丁寧に答えていれば。俺のせいだ。どうしよう。赤女が。赤女が。
汗が止まらない。ヒダリは攻撃をしてこない。もう、駄目だ。なんで攻撃してこないんだ。
どうして。攻撃してくれよ。もうこんな余計な事を考える暇を与えさせないでくれよ。守れなかったんだ、俺は。また、守れなかった。凪の次は、赤女。
俺は、一人だった。まとめて、誰かと一緒に戦うことなんか、無かった。俺は、俺は、駄目だ。弱い、弱すぎる。俺は、誰も守ることができなかった。怖い。
勢いよく座り込んだせいか、ひざが痛い。痛い、痛いんだよ。奥底が痛い。ギシギシする。
ジャルドは、下を見ている。俺とは違う。呼吸も落ち着いている。でも、違うことはある。瞬きをしていない。
カンコも、落ちた。赤女と一緒に。
「よしっ、じゃあ、続きを行こうか」
ロムの声がする。
首を回す。ロムの方を向く。
ヒダリは、ロムの隣にぴったりと張り付いていた。ロムが、魔術を唱えたんだ。女だからって油断をしていた。俺のミスだ。もう、止めてくれ。
もう、俺は十分だから。なんでもするから、今はとりあえず、泣かせてくれ。
立ち上がろう。座り込んでいても仕方ない。ジャルドは、まだ動かない。声も出さない。
ロムが手を払った、その時だった。
電子音が鳴って、ロムが舌打ちをした。ズボンのポケットから携帯電話を取り出して、ボタンを押して耳に当てる。誰かから着信が来たらしい。
俺は柵に手をやって、よろよろと立ち上がる。そして、ジャルドに近寄った。
「ジャルド、」
「そう、で? うん。あー分かった」
ジャルドに反応は無い。ヒダリは相変わらずこっちを見ているけれど、ロムは電話に夢中だ。
俺は、ジャルドの耳にそっと耳打ちをした。ヒダリの視線は痛いが、仕方がない。
ジャルドに反応がないので、とりあえず頬を抓る。初めて、ジャルドが瞬きをした。
俺はもう一度確認として耳打ちをした。
「ヒダリの意識を持ってけ」
ジャルドの目は完全に死んでいる。これは賭けと言っても良い。
俺は頼んだぞ、と呟く。
ジャルドが、柵から離れる。そして、片手にしっかりと握っていた刀を構えて、ヒダリに突っ込んでいく。
よし、これで良い。
ヒダリは一瞬で反応をして、刀から離れようとして身を引く。やっぱり、ロムから離れようと無意識にしているようだ。
ロムに被害が行かないように。
俺は足に力を入れて、走り出す。そして、ロムの足に足払いを掛けた。いきなりの事で、ロムは言葉を失っている様子だ。
俺は歯を食いしばった。
さっきの赤女の顔を思い出す。俺、相当根に持っているようだ。俺はバランスを崩したロムを抱き上げる。
赤女よりも小柄なようだ。
「ちょっ、え、バカ、っ、ソウガ助けて!」
俺はためらいもせず、ロムが開けた柵の隙間からロムを放り投げた。
バランスを崩しかけた俺を、ジャルドが急いで支えに来てくれた。
俺の行動に初めてヒダリが少しだけ口を開いた。開いただけで、声は出さない。
ヒダリが走って来たので体に力を入れたが、ヒダリは俺とジャルドにも目もくれず、ロムを追いかけるように雲に飛び込んでいった。
俺は再び、床に倒れこむように座る。
俺は、ヒダリのようなことはできなかった。手を伸ばしただけだ。ただそれだけで。俺は。
ジャルドの手が、肩に置かれる。
疲れた。ジャルドもきっと疲れている。
あの二人が何者なのかどうか、全く分からない。なんで、ロムは最後、ヒダリではなくソウガという人物に助けを求めたのだろう。
多分ソウガは、電話の相手だろう。
「ライアー、カンコは、生きてるよな?」
俺はジャルドの震える声に、返す言葉を見つけ出すことができなかった。
〜つづく〜
三十三話目です。
さてと、あれですな。
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