複雑・ファジー小説

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言霊〜短編集〜(第Ⅱ部 題『天気予報』)
日時: 2013/02/13 17:32
名前: レストラン『Kotodama』 (ID: mwHMOji8)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=6071

 
 ——おっと、いらっしゃいませ。ようこそ、レストラン『Kotodama』へ。

 さあ、お好きな席へどうぞ……ご覧の通り閑古鳥が鳴いておりますが、何も味がまずい訳ではありませんのでご安心を。なに、少しばかり天気が悪いせいですよ!

 では、ご注文を……と言いたい所なのですが、実は当店、メニューは『お任せコース』の一つ切りで御座いまして。ええ、六人のシェフによる、或るテーマに沿ったコースで御座います……え、ごった煮? いえいえ、各々混ぜる訳ではありませんので、ここはコースという事で一つ。今は丁度、第Ⅰ部の『四季』コースから始まり、第Ⅱ部ではシェフを変えてのコースを用意しておりますので、いかがでしょうか?

 ……はい、承りました。では、ご期待に沿えるようシェフ一同砕身致しますので、今暫くお待ちください。

 そうそう、お客様。『言霊』という言葉をご存じでしょうか? はい、当店名でも御座いますが。古来、言の葉には力が宿るとされて来ました……いえ、オカルトの類ではなく現実に、で御座います。もし、今宵のコースの中で気に入られた言の葉がありましたら、是非とも口にしてみると宜しいでしょう。運が良ければ、貴方にも素敵な物語りが訪れるやもしれませんよ?

 ああ、失礼……つい要らぬ語りをする悪い口で御座います。では、直ぐにお持ちいたします故、どうかごゆるりと。
 

○第Ⅰ部執筆者 (紹介>>38)
結城柵、火矢八重、霖音、陽菜、あんず、Lithics(順不同、敬称略)

○第Ⅱ部執筆者 >>67より
ryuka、狒牙、逸見征人、友桃、Lithics(順不同、敬称略)



○御客様
椎奈様>>13 白波様>>36 紫蝶様>>39 黒雪様>>55

○お品書き

第Ⅱ部〜〜『天気予報』〜〜

オープニング >>67

前菜:『夢見る天気予報』(ryuka) >>68
パン:『或る予報士の憂鬱』(Lithics)>>69
スープ:『title:crybaby by nature』(狒牙)>>72

メインディッシュ(肉):『心の天気予報』(狒牙)>>70-71
ソルベ:『■「あーした、天気になーれ!」っていうのも嘘(笑)■』(ryuka)>>73-75
メインディッシュ(魚介):『ウルフマン・スタンディング』(逸見征人)>>76






第Ⅰ部〜〜『春』〜〜

前菜:『春と未来』(Lithics) >>1

   『春といえば』(陽菜) >>2
スープ:『桜の記憶』(あんず)>>3
    『春の色』(霖音)>>4
メイン(魚介):『遅咲きの春花』(火矢八重)>>5
ソルベ:『春色血の色?』(結城柵)>>6
メイン(肉):『西行奇譚』(Lithics) >>7 >>8

デザート(フルーツ):『雪解け』(結城柵)>>9
グラスワイン(赤):『虜と屍と紅の花』(あんず)>>10
デザート(プディング):『花の色は』(あんず)>>11

クロージング:>>12



第Ⅰ部〜〜『夏』〜〜

オープニング:>>15

前菜:『真夏の雪』(結城柵) >>16
スープ:『とある日の事』(陽菜)>>21
パン:『To be continued!!』(Lithics)>>22
サラダ:『アマゴイ』(あんず) >>23

メイン(魚介):『Tanatos Eater』(Lithics)>>24
ソルベ:『オンボロ夏休み』(霖音) >>25
メイン(肉):『螢の約束』(火矢八重)>>26-27

チーズ:『水色カンバス』(霖音)>>28
フルーツセット:『水玉ワンピース』(霖音 >>29-30
デザート(サマー・プディング):『花火』(結城柵)>>31
アイスティー:『タブー』(Lithics) >>32
プチフール(ケーキ):『夏休みの宿題』(火矢八重)>>33
食後酒(シードル):『青林檎』(あんず) >>34

クロージング >>35



第Ⅰ部〜〜『秋』〜〜

オープニング:>>41

前菜:『Autumn Leaves』(Lithics) >>42
スープ:『泥まみれスカート』(霖音)>>43
サラダ:『南瓜』(Lithics) >>44

メイン(魚介):『クレイジー』(あんず)>>45
ソルベ:『コスモス』(結城柵) >>46
メイン(肉):『季節外れ』(Lithics) >>47

フルーツセット:『寂しいと思う時』>>48
チーズ:『夕暮れ』(陽菜)>>49
デザート(モンブラン):『秋風』(霖音)>>50
ミルクティー:『紅葉』(結城柵)>>51
プチフール(ケーキ):『秋雨ノベンバー』(あんず)>>52
食後酒(ワイン・ロゼ):『赤い糸巻き 金字塔』(あんず)>>53

クロージング:>>54


第Ⅰ部〜〜『冬』〜〜

オープニング:>>57


前菜:『白』(結城柵)>>58
スープ:『逃亡者タチ』(あんず)>>59
パン:『白の世界の黒』(陽菜)>>60
メイン(肉)『Straight』(Lithics)>>63 >>64 >>65
紅茶:『六花が咲き乱れる頃は』(火矢八重)>>61
デザート:『鮮血バレンタイン』(霖音)>>62

クロージング:>>66

To be continued!! ( No.22 )
日時: 2012/02/25 18:45
名前: Lithics (ID: w1UoqX1L)

『To be continued !!』

 ——酷く、暑い日だった。響く大歓声、応援歌と拍手の渦。バッターボックスに立った瞬間、弾けるように鳴り出した自分の心臓。無駄だと分かっていながら、その鼓動を抑え込んで。真白な太陽を直視しないよう気を付けつつ、一瞬だけ空に意識を逃がした。

(四面楚歌、というのは不謹慎だろうけどさ。そんな感じだよな……)

 夏の高校野球、しかも県大会決勝。9回裏、スコアボードは2対1。つまる所、俺らは負けていて、最後の攻撃でサヨナラ逆転を目指したが……早、二死・走者二塁。そんなトンでもない状況で、俺に打席が回ってきてしまった。因みに打順は9番。ベンチで監督が苦笑いをしているが、どうも代打を寄こす気は無いようだ。サインは『頑張れ』……くたばれジジイ。

「ああ、もう! 南無三、どうとでも成りやがれ…… !!」

 格好悪いと思うが、叫びでもしないと震えが止まらない。後ろで相手校のキャッチャーが嗤っているのを感じても、振り返りはしなかった。この捕手は知っているのだろう……俺が9番である理由、つまり公式戦でヒットを打った事のない弱打者である事を。

(それでも、打つ……絶対に、打つ!)

 守備に定評はある。足も県下では一番だろう。だけど、どうしてもヒットが打てない。『それは、必要に迫られていないからだ』と、監督のジジイは珂々と笑ったけれど。ならば、俺の青春の全てを賭けて誓おう——今こそ、その必要な時だと。

(見てろよ、俺が『スラッガー』だ!)

 ヘルムを被り直し、バットを長めに構える。不思議に落ち付いた鼓動が頼もしく、なんだか根拠の無い自信に包まれる。不敵に笑えと言われると困るが、マウンドで汗を拭う投手に共感するくらいの余裕はあった。嗚呼、この球場は暑くて眩しい……俺達の夏そのものだ。まだ、このままでは終われない最後の夏——

 ……そして、その時が来た。相手の投球フォームは流麗で、白球は弾丸のようなストレート。俺はと言えば、洗練もされず技巧もないスイングを……唯、無心で振り抜いた。

「らぁああああああ!」

 ——カキンと、鼓膜を打つ甲高い金属音がして。それ以外は、声援もブラスバンドも、アナウンスもコーラーの声も。全ての音が消えたような奇妙な感覚と、ビリビリと痺れる手首。仰いだ空には、太陽を穿つように浮かぶ白球の影が在った。

「え……?」

 そう呟いたのは、俺だけでは無かっただろう。いや、あのジジイならしたり顔で頷いてたりするのかも知れないが。そんな考えは、爆発したような大歓声と。身体が反射的に走り出した事で掻き消されて。

(はは……遂にやった、な)

 ——塁を回りながら、俺は幸せだった。初めてホームランを打った事は勿論、飛跳ねて喜ぶナインがホームベースで待っていてくれる事も然りだが。なによりも、これでまだ『俺達の野球』が終わらずに済むという事——みんなで馬鹿みたいに一つの白球を追い、打った取ったと騒ぎ、自分達は泥だらけ……そんな野球が、大好きだから。

「さぁ皆! 続けようぜ、『野球』をさ!」


(了)Lithics作

Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.23 )
日時: 2012/02/28 18:00
名前: あんず (ID: MW95G3Y6)

『アマゴイ』


「おおおおおお!」

沸き上がる歓声。
逆転ホームランだ、と誰かの叫ぶ声がする。

悔しい。
悔しい。
最後の年だったのに。
俺のせいで。

誰も責めない、いや責めてくれないのだ。
いっそ無茶苦茶に言ってくれた方が楽だったのにな。

頬を伝う涙。
自分には泣く資格なんてない、だから。

よく晴れた夏の日
俺の心に雨が降ることは無くなった



◇◆




「玄、朝だぞ起きろ〜」
「.....ん.........」

布団の中でモゾモゾと体を動かす。
眠い。

「早く起きないとフライパンでぶん殴るぞ!」

カンカンと金属音がする。
妹の朱莉がフライパンでも叩いているのだろうか。

「....悪りィ、もうちょい寝かしてくれ...」

布団をかぶった。
遮断される光。

「.....分かった。今日私はで、デェトだからな!朝食の皿は自分で洗えよ!忙しいんだからな!」
「おぅ」

最近めっきり妹が明るくなった。
デート...彼氏でも出来たのかな

9時をまわる。
言ってきまーすと声がして、家の中は俺一人になった。

瞼が重い。
眠りにつくーー。



◆◇



夏休み。
灼熱の太陽の下で俺はマウンドに立っていた。

開城高校、キャプテンの俺率いる野球部はどんどんと勝ち進んでー
県大会の決勝までたどり着いていたのだ。

小学生の頃から努力を続けてきた俺は県下でも名を轟かせるほどの投手で、しかも高3の夏最後の相手はバッターとしては無名のやつだった。

ーこれは勝てるな。
ヤツは守備は良くできる。有名だ。でもバッターとしての経験はないはず。
公式戦で一回もヒットを打ったことがないという情報はは既に偵察役から入手済だった。

汗を拭う。
青い空が眩しかった。

眩む視界。
眩しいーー

運命の瞬間はあっという間で、

俺の頭上を白いボールが通り過ぎて行く。


誰も責めてくれない。
俺のせいで負けたのに。

「先輩.........そんなに泣かないでください.....」

そうだ
俺に泣く資格なぞ無いのだ。

もう泣かない。
そう決めた。







「痛てェ!」

がちゃーんと大きな音がする。

目を覚ますと、手の中にあったのは白い野球ボールで


「....ッ...こんなもん見たくねーよ.......!」

あの時から野球は捨てたはずだった。
部活にも行っていないし、無論勉強にも手が付かない。

振り返ると部屋においてある花瓶が割れていた。
窓を開けて寝ていたからなのか、どうやらこのボールは外から投げ込まれたものであるようだ。

「嫌がらせかよ....」

一人そう呟き、外にいた者に文句を言おうと二階の窓から身を乗り出す。


「すみませーん!ボールとって下さ〜い!」

聞こえてきたのは予想に反し、小さな子供の舌足らずな声だった。
そういえばと近所には小ざっぱりした空き地があったのを思い出す。

下から俺の顔を覗き込んできたのは小学二年生ほどの少年たちであった。

そいつらは俺をじぃっと見つめて...
キャッキャと声を上げる。

「もしかしてお兄さん開城の小野選手!?」
「あ!よく見てみればそうじゃん」
「すげー!」

何を言っているんだこいつらは。
開城の小野と言ったら県大会で全てを崩した最低の選手じゃないか。
わざわざ思い出させるんじゃねーよ...

ギリと歯を食いしばる。
流石にガキに喧嘩をふっかけることはできない。

「すごい格好良かったよねー!」
「はぁ!?」


ミーンミーンと蝉の声がした。
あの日と同じ晴れた空。

「お前ら...バカにしてんのか?俺のせいで開城は負けたんだぞ!カッコ良くなんか.......」
「なにいってんのお兄さん、かっこ良かったじゃん!」



空気が静まり返る。
一人の子供が突然出した大声が真夏の空気に吸い込まれていく。

「........!何言って...........,」

「勝っても負けても頑張った人はカッコいいんだよ!!」


「え....」

「僕はお兄さんに憧れて野球を始めたのに、あんなに格好良かったのに、なんでだよ!」



喉を壊すくらいの大きな声。
木にとまっていた鳥が慌てて飛び立つのが見えた。

少年は
泣いていた。

俺をまっすぐ見据えながらないていた。


「行くぞ、もう帰る。」

「なんだよ左京、急に.....」
「そうだよボールは...」

「あんなヘタレに取ってもらいたくなんてない!くれてやる!」


遠ざかって行く少年たちの背中を見る。
彼らはきっとこれからも未来へと走って行くのであろう。

自然と目から熱いものがこぼれ落ちた。

これは
涙?

あの日泣かないと決めたのに。



俺はただ
泣きたかっただけなのかもしれないーー。



しばらく触っていなかったボールの感触だった。



カーテンが風に揺れる。

白いボールはマウンドの土埃の匂いがした。





しきりに野球がしたくなる衝動。
すべてを捨てたつもりだったけど、俺と野球はいつだって隣り合わせだったんだよな。


靴紐を結ぶ。
今ならまだ間に合うだろう。
右手にボールを握りしめ、

少年たちのあとを追いかけて俺は走り出した。


「おーい!」




ようやく雨が降りました。


ーfinー
あんず





Tanatos Eater ( No.24 )
日時: 2012/02/25 18:13
名前: Lithics (ID: w1UoqX1L)

『Tanatos Eater』


 夕方から降り出した雨が、宵闇に沈みつつある街を濡らし続ける。ネオンを弾いて煌めくアスファルトは、目を奪う程に綺麗だが……とっくに飽和した夏の空気は、肌に吸いつくように不快で。本来なら昼間よりは暑さの和らぐ時間なはずなのに、今日に限ってはその恩恵すら与えられないらしい。

「ついてねぇな……。これだから、夏の雨は嫌いなんだ」

 知らず、愚痴をこぼしていた。夕立のように一瞬で過ぎるモノならば風情もあろうが、今宵のジトジトと降り続ける様子は滓のように心に溜まる。そんな、どこまでも不満が噴き出しそうな状況で。

「!——見つけた。クク、ついてないのは俺だけじゃ無いらしいな」

 ——真夜中、灯りと人気の絶えた路地裏。その狭い道を、対向から歩いてくる男の人影を見つけて……目深に被ったフードの中で嗤う。もう10年来の、俺の悪い癖だ。標的(ターゲット)を視認すると、いつも震えが来るような高揚感が抑えられない。

(接触まで20秒——どうする? 俺には『手段』が無い)

 善良な一般人諸兄なら、当然だと突っ込むかも知れないが。この国で夜の街を歩くのに、拳銃やナイフなんて要らないし……勿論、俺だって持っていない。第一、そんなモノを使うから、この国の優秀な警察に嗅ぎ付けられるのだ。

(15秒——ま、いつもの事だが。結局、素手かよ)

 だが一目で分かる……向こうは『善良』とは程遠い。不自然に釣り上がった左肩、重心を常に保つ独特の歩法。それは、彼が脇にゴツい拳銃を隠し持ち、それを扱うに値する体術・技術の持ち主である事を示している。

(おっと、あと5秒——)

 もうお分かりか。彼は所謂『殺し屋』で……俺も一応、同業である。そして誰が言ったか、この業界の鉄則として厳然と在る大禁戒——狙われた者には死、狙った者には金を。死にたくなければ、狩人の如く狙い続けるのが常道。


「こんばんは、お兄さん。な、良い事教えてやろうか?」

「む…………!」

 ——すれ違いざま、その耳元に囁き掛ける。ビクっと彼の身体に緊張が走り、その手が素早く懐へ差し入れられたのを見てから……片手で頭を鷲掴むように、両眼を覆って視界を奪った。同時に彼の片手を捻り上げ、動きを封じる。密着した身体から、不愉快な汗の匂いが鼻を突くが……それは良く知っている、過剰な緊張で発せられる死の匂いだ。

「銃ってのは便利だが……視界を塞がれると撃てないだろう? なまじ、その怖さを知っているだけに、な」

「…… !?」

 敵に密着されている状態で、視界が奪われれば銃は使えず。そして……奇襲を想定していなかった時点で、彼の負けは決まっている。全く、もっと駆け引きを楽しめるかと思ったんだが。

「さようなら。貴方は雨のせいで転んで、頸の骨を折ったんだ……南無」

「お前が……!『T.E』———」

 素早く両手を回して頭を固定し、軽く捻る。慣れれば力の要らない、簡単な作業だった。声も無く息絶えた男の脚を払って、そのまま濡れたアスファルトへ倒す。後は持ち物を整理して、拳銃等は回収し……幾つか不自然な所を直してやれば、身元不明の変死体の出来あがり。やはり、こんなのは簡単で飽き飽きするほど。

(……ついてねぇな。こんな早くに仕事が終わったんじゃ、帰っても暇なだけか)

 不完全燃焼ぎみで燻る高揚感が不快で、余計に暑苦しい。少し冷房の効いた場所が恋しくなって。まあ久しく夜の表通りなど歩いていないが……今日は返り血も無いのだし、何処かで食事でもしてから帰ろうかと思っていた。

———
——


 ——そして何故、その店に惹かれたのかは分からない。あの路地裏から程近く、目立たない閑静な通りにある一軒の洋風レストラン。古びた樫の看板には『Ko—o——ma』と銀の象嵌が施してあるが、ほとんどが削れていて読むことが出来なかった。

「……まぁ、良いか。この面構えなら、そこまで不味いって事もないだろうさ」

窓から覗いた店内に、客が居る様子は無い。とにかく一人になれそうだというのは有り難い……そんな自分への言い訳じみた独り言を呟きながら、カラカラとベルの鳴るドアを潜った。

『——おや、いらっしゃいませ。ようこそ、レストラン『Kotodama』へ』


———
——


 さて、『T.E(死神殺し)』と呼ばれるようになったのは、一体いつの頃からだったか。さっきのように同業殺しを続けているせいで、殺し屋稼業からは蛇蠍の如く嫌われている訳だが。基本的に平和なこの国では仕事が足らず、武者修行に海を渡った事もある。

(クク……そうか、その時だ。初めて『死神殺し』をやったのは……中国だったな)

 記憶は曖昧で、油絵のように鮮やかにぼやけている。それでも良いなら、聞いていくと良い……君たちには無関係極まりない、或る男の変貌を。


2008-8-8 中国・北京市

 ——そこは汎国際的で、あるいは拡大し過ぎな印象を受ける巨大都市。並び建つ摩天楼の煌めきの下に、アジア特有の昏い息遣いが渦巻いて……酷く刺激的な街だった。明るい表通りでは希望と発展が売られ、同じように明るい裏通りでは、あらゆる欲望が取引される……オリンピックの開会式当日という熱気に沸く、中国・北京市街。俺はそこに、或る仕事で赴いていたのだった。

「クク……そろそろ、追いかけっこも飽きただろう?」

「貴様……誰に依頼された? 見逃してくれるのなら、その報酬の倍を払おう」

 ——暗がりへ追い詰めたターゲットが喚き散らす、見慣れた光景。全身黒で固めた、明らかに怪しげで悪趣味な男が、妙に落ち着いた声で語る。だが、こんな懐柔やら脅しはいつもの事だったし……そもそも、この時は。

「悪いが、これは『ボランティア』でな。アンタが『鳥の巣』に仕掛けた爆弾も、俺が美味しく頂いたよ……中々凝った仕掛けだったな、楽しめたぜ」

「な……!」

「まさかってか? 別に今起爆しても構わんぜ、不発になるだろうが」

 そう、誰に依頼された訳でもなく。唯、楽しそうだからという理由で彼と彼の計画を狙った。なんだか良く分からない政治思想で以て、今日のオリンピックの開会式を爆破しようとしていたイカレ野郎だ。切り札として考えていただろう爆弾も、彼の影の如く尾行して。設置された傍から解除して、さぞ迷惑だろうが近場の警察署へ放り込んでおいた。

「くっ……何故! 私たちは互いに不干渉と決まっているはずだ……依頼ならまだしも、私個人に恨みでもあるのか !?」

「何故、か。聞いたら怒ると思うがね……なに、最近は仕事がマンネリ気味だから。赤子のような連中の手を捻るより、アンタみたいなプロを相手にした方が退屈しないだろう?」

「は……?」

理解が出来ないと言いたげな爆弾魔。それはそうだろう……彼と俺の思考は随分と異なる。彼は殺人を愉しまず、目的の為の手段として選んだだけ。だが俺は違う。ターゲットを目で捉えて、命を狩るまでの過程の高揚感を楽しむ……そんな殺人鬼。ならば当然、より質の良い得物が欲しくなるのだ。クク、『ヒーロー』と呼ばれる人種は、案外俺のような殺人嗜好なのかも知れない。


「さて……そろそろ、開会式が終わるよな。アンタの爆弾は不発だが……それでも『花火』は上がる」

「……!」

「クク、さようなら。とことん、ついてなかったな」

 ——言葉が終わる、その瞬間。開会式のフィナーレだろう、大きな花火の閃光が北京の街を染め上げ……一拍遅れた轟音と歓声が大気を震わせる。その大袈裟な喧騒の前に、たった一人の断末魔など、容易く呑み込まれて消えた。

———
——


 御客様、口直しのソルベを御持ち致しました。この次はメインディッシュの……おや、御代を? ふふっ、まだ半分も御出しして居りませんのに。はい、ですが当店は御代を頂いていないので御座います。食して頂く事自体が報酬で御座います故……

 ふむ、どうしてもで御座いますか。では……御代として『貴方の御話』を頂きましょう。おや、それは困る? ふふっ、ですがもう遅う御座いますな。貴方の物語は、ほら、既に此処に。

 ——ふふっ、では引き続き御楽しみ下さりますよう。一同、心よりお願い申し上げます。


(了)Lithics作

Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.25 )
日時: 2012/02/26 11:03
名前: 霖音 (ID: 7D2iT0.1)

『オンボロ夏休み』

暑い日だった。

一ヶ月とどれぐらいだっけ。算数は苦手だ。

「なっちゃん!おしぼり持っていきんさいよー!」

どんくさい割烹着を来て、母さんがやってくる。

ぼろっちい家の、靴が散らかる玄関。

せまっくるしいから早く出たかった。

「かばんに入れると濡れるー!」

なるべく大きな声でいい放つ。


夏休み。こんなところじゃ遊ぶとこないし、つまんない。

親は二人揃ってけちんぼで、どこにも連れてってくれない。

ないないだらけのど田舎で、私は色んなつまんないを抱えてる。

つまらない家。つまらない街。つまってない脳みそ。

ちっぽけな頭は、太陽の暑さでぐつぐつ言ってた。

私は、この村に唯一あるコンビニを目指し、自転車をこいだ。

私の家が小さくなる。それが楽しくて、足に力をいれた。

風がないならおこせばいい。

扇風機にあたるより涼しい風が、ほっぺの汗をぬぐっていく。

自転車は私の背丈にぜんぜん合ってないお古。

大きすぎてよく転ぶから。膝からしたは傷だらけ。

可愛くない色してるから、田舎を走るにはあってると思う。

どんな空色よりも青々とした空は、大きな雲をかぶっていた。

この先に宇宙がある。やっぱやめた。考えるの嫌い。

急な坂道を登ったりくだったり。涼しいけど汗はだくだくだ。

田んぼの緑しかなかった風景は、コンクリートのへいとへいで隠れた。

その先を行くと、酒屋やら八百屋やら。商店街になる。

八百屋のじーちゃんが私を見てにこにこしてたから、見えないとこで唾吐いた。

変わる風景が、早く早くと私を急かす。

涼しさ欲しさに車輪が回る。ぐるぐるぐるり。

くっさい魚屋の前を通りすぎて、やっとコンビニが見えてくる。

友達がガリガリ君をかじって待ってるのも見える。私も食べたいな。

「なっちゃんおーそーい!」

「しゃーないじゃん遠いもん!」

私の自転車がなかなかコンビニについてくれないから、大声でやりとり。

周りの人がくすくす笑う。悪かったね。

ぎぎぎとばかな機械みたいな音をさせて急ブレーキする。

友達の顔を見るのは久しぶりだった。

「あついねー!」

汗で風呂上がりみたいになってる髪の毛してたから、少しすまない気分になった。

「今日どこ行く?」

「暑いから川行こう!駄菓子屋で爆竹買って遊ぼうや!」

友達の顔と私の顔。夏の光でてかってて、野暮ったい。

「そだ、土手の家のけんちゃん誘おう。

カエル爆弾教えてもらおう!」


げらげらと笑う私達、可愛くないワンピース来て、自転車こいで。

山も周りも変わらない緑。空も変わんない。

だけど、きもちわるいくらいコロコロ変わる私達の心。

ばかみたいに笑ったり怒ったり、それがたのしい夏休み。

宿題なんかためといて、遊ぼうや。

変わんないオンボロの夏休みの空が、私達を守ってくれますように。


おわり

Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.26 )
日時: 2012/02/25 20:50
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_m/view.html?771365

        ——————私は、螢。
             ねえ、また来年も逢えますか——————……?




『螢の約束』

 俺が彼女と最初に会ったのは、俺が物心をついた頃のお盆休みに、田舎にあるおばあちゃんの家に遊びに行っていた時のことだ。——俺はあの時、「一人で裏山に行ってはならない」という言いつけを早速破り、迷い込んでしまった。
 小さかった俺は、途方に暮れて座り込んで泣いていた。その時、彼女が、声を掛けてくれた。——その時の事を、今でも鮮明に覚えている。

 すらっとした華奢で向日葵のように伸びた背丈(十四、五歳ぐらいに見えた)。夏なのに、雪のように真っ白とした、すべすべの肌。真っ黒なのに、まるで蜂蜜のような鮮やかでなめらかな黒い長いサラサラとした髪。瞳は夏の空のように蒼い。綺麗な顔立ちだったが、儚い(当時の俺はこの言葉を知らないけれど)雰囲気だった。

「どうしたの?」

 鈴を転がしたような声で聞かれ、俺は一瞬戸惑いながらも迷ったと答えた。すると彼女は吹きだして、

「だから泣いていたのね。蛇と会ってビックリして泣いているのだと思った」

 と答えた。

「わ、笑うな!!」
「アハハ、ゴメンゴメン!!!」

 その反応に俺はついムカッ、として反論したが、ケラケラと笑う彼女には勝てなくて、悔しい思いをした。
 彼女は気が済むまで笑った後、俺に手を差し伸べて、裏山の出口まで案内すると言ってくれた。
 その手を取った時、俺はビックリした。——彼女の肌は、あんなにも綺麗なのに、指や手のひらはボロボロになっていたのだ。爪は所々剥がれ、節々がパックリと割れ、手のひらは傷だらけだった。触れてみると、彼女の手はとても冷たくて。

(——なんでこんなにもボロボロなんだろう? なんでこんなにも冷たいんだろう?)

でも俺は、その事を彼女に聞こうとは思わなかった。いや、一瞬思った。でも、彼女の儚い雰囲気と、それに似合わぬ太陽のような笑みを見ると、聞くことをためらった。


 彼女に案内されて数分、あっという間に裏山を出る事が出来た。

「ここから行ける?」
「うん、もう家の前だから、大丈夫!!」
「そ。……あの裏山に、一人で来ちゃダメよ」

 「どうして?」と聞くと、彼女はまた笑って、

「また今日みたいに迷子になるからよ!」

 と答えた(その答えに俺はすぐむきになって反論したけど、彼女には勝てなかった)。

 「ありがとう、じゃあね」と挨拶し、彼女に背中を向けて家へ走ろうと思った時、俺は気づいてまた彼女の方へ振り向いた。

「おねーさん、名前は?」
「え……?」
「俺の名前は北野武。おねーさんの名前は?」

 彼女は戸惑いながらも、笑顔で答えてくれた。

「……螢。魅祁野螢」




 それから、次の日。螢は裏山に居た。
 「一人で来てはならない」といわれた裏山だが、「螢がいるから一人じゃないじゃん」というと、「生意気なガキめ!!」と笑いながらいわれた。(「生意気でもガキでもない!!」と反論したけど、やっぱり勝てなかった)
 その日は二人でクワガタを捕った。蜘蛛や蜂にびっくりして、螢に笑われた。また反論したけど、やっぱり敵わなかった。

 その次の日も、その次の日も。俺が都会に帰るまで、螢は裏山で待ってくれた。
「また来年逢える?」と螢が聞いてきたので、俺はニカッ、と笑って、「絶対来年も来る!!」と約束した。


 ——————そして、その言葉通り、来年も螢と会った。


 来年のお盆休みも、その次のお盆休みも。いくつか年月が流れ、俺は螢に惹かれて行った。
 でも、気づいたんだ。




 ——————螢は、歳を取らなかった。

 俺はだんだん身長が伸びて行き、やがて螢を抜いた。でも螢は、成長もしなければ歳もとらなかった。
 俺はその時——ああ、螢は人間じゃないんだな、と悟った。
螢は何も言っていない。でも、言わなくたって判ったんだ。

 それでも、——俺は螢の事が好きだったんだ。




 俺は、いつの間にか高校三年目を迎えていた。大学受験を控えている為、今回は二泊三日だ。
 裏山に来てみると、やっぱり変わらない笑顔で螢が出向いてくれた。

「今年は来れないのかと思った」

 クス、と螢は笑った。——初めて会った時は、笑顔が見たくて見上げていたのに、今では見下ろすようになっていた。
 けれど、今日は何だか何時もと違う。悲しそうな、そんな笑顔をしていた。
 でも、その時はあまり気にも留めないで、苦笑しながら受け流した。

「まあ、大学受験を控えているからな」
「いいの? 大切な試験なのに、ここで遊び呆けて」
「俺、これでもか!? という程勉強したぜ!? 休んでいる暇すらも無かったんだぞ!!」
「ほー、偉い偉い」

 明らかにわざとっぽい感心を浮かべながら、螢は俺の頭を撫でた。畜生……身長が伸びても、歳をとっても、やっぱり口じゃ螢には勝てない。——でも、それが嬉しいんだ。
 暫く他愛の無い話をしている間、螢が思いついたように言った。

「ね、二人でお祭り行かない? 明日なんだけど……」
「お、いいな。今回は、明日までだし」

 淡々と話は進んで即決定。午後の五時に集合することになった。
 何を着て行こうか、明日が待ち遠しいなあと思っている俺だったが、螢が時々見せる悲しそうな顔が、心に引っ掛かっていた。




    >>27


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