複雑・ファジー小説
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- メリーな都市伝説【1000参照突破!】
- 日時: 2013/05/10 23:34
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
- 参照: https://twitter.com/raika861
↑活動用ツイッター始めました。現状報告等を呟いていきます。
オリキャラ募集終了しました。
応募してくださった皆様、ありがとうございました!
あの都市伝説が、俺の所にやってきた。
あの『話』が、俺の所にやってきた。
はじめまして、星の欠片と申します。
この作品は興味本位で都市伝説を調べて後味が悪くなったので、怖くない都市伝説の小説を書こうと思い始めたものです。
ライト板で書いていたものですが移転しました。
・都市伝説に特別な嫌悪感を持っている人はブラウザバックをお願いします。
・読んでくださった方はできれば感想等のレスを下さると嬉しいです。励みになります。
・荒らし目的の方はお帰りください。
・少なからず戦闘描写があります。
・題材が題材なので一部、残虐な描写等があります。
目次
登場人物 人間編 >>1
プロローグ >>2
第一章・人形編
#1 >>3
#2 >>4
#3 >>5
#4 >>6
#5 >>7
第二章・怒れる子狐編
#6 >>8
#7 >>9
#8 >>10
#9 >>11
#10 >>12
第三章・二色の死紙編
#11 >>13
#12 >>14
#13 >>15
#14 >>20
#15 >>21
#16 >>22
#17 >>23
#18 >>24
#19 >>25
#20 >>26
#21 >>28
#22 >>29
第四章・泡沫の煌き、不変の輝き編
#23 >>30
#24 >>34
#25 >>37
#26 >>41
#27 >>45
#28 >>46
#29 >>49
#30 >>50
#31 >>51
#32 >>52
#33 >>53
第五章・結び束ねるもの編
#34 >>54
#35 >>55
#36 >>56
#37 >>57
#38 >>59
#39 >>60
#40 >>61
#41 >>62
#42 >>63
#43 >>64
#44 >>66
#45 >>67
#46 >>68
#47 >>69
#48 >>70
#49 >>71
#50 >>73
#51 >>74
#52 >>75
第六章・鏡の休日編
#53 >>76
#54 >>78
#55 >>79
#56 >>80
番外編『おまけな都市伝説』
参照100記念 >>27
参照200記念 >>42
参照300記念 >>58
参照400記念 >>65
参照500記念 >>72
参照600、700、800記念 >>77
コメントをくださった方々
・saku様
複雑・ファジー板で『神喰い』という作品を書いています。
神様や妖怪が好きな方におすすめです。
・秋桜様
・氷空様
・優勇様
同作者の別作品(良かったら拝見して下さい)
二次創作(映像/アニメ、ゲームなど)板
『未来日記 The Destiny』
未来日記の二次創作。
三周目の世界で行われる新たなサバイバルゲーム!
- #44 ( No.66 )
- 日時: 2012/10/22 21:15
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
神槍の掌が胸に当たる。
一瞬、凄い衝撃が俺を襲った。
何やら熱いものが流れ込んでくるような感覚。
空っぽだった入れ物が満たされていく。
神槍の姿が朧気になっていく。
人の身体に憑依して力を100パーセント引き出す。
それが神槍の能力。
神槍の姿が完全に消えるとズシリと体が重くなる。
「っ……!」
『気をしっかりと保て。主の力量ならば制御できる筈だ』
直接心に響いてくるような神槍の声。
既に神槍は俺に憑依しているらしい。
力が溢れ出てくる。
『心を落ち着けよ。儂が補助する』
その声を聞き、深呼吸をしつつ落ち着く。
重苦しい感覚が消えていく。
『そうだ。それで良い』
少し手を動かしてみる。
どうやらいつも通りに動かせるようだ。
しかし、やはり常と違うのは、身体の内部から湧き出てくるこの力だ。
『簡単に戦いを教えよう。儂の言う通りに動いてみよ』
メリーと栗狐は戦っている。
彼女達が頑張っているうちに、早く戦い方を覚え、立道を倒さなくてはならない。
「分かった。頼む…」
本当はこんな事をしている時間など無いだろう。
いかし、だからこそ確実に。
俺が立道を倒さなければならないと思った。
〜〜〜〜〜〜
「やはり、四対二は辛いですね……」
肩で息をしながら栗狐に言います。
しかし栗狐ももう疲れが出ているようで、相手の攻撃に反撃をするので精一杯。
さすがに分が悪いと感じます。
「この程度か?」
あの点道とかいう男は、一々癇に障るような言葉を…
「ははははは! さぁ、もっと俺を楽しませろぉ!」
暑苦しい、というより鬱陶しい。
「さっきはよくも…せめて残酷にこの世から去ね!」
向こうから吹っ掛けてきた喧嘩の癖に戯言を…
「神すら霞む神楽舞を…共に舞おうではないか…!」
言い回しが良く分からない。
…しかし一つ、良く分かったことがあります。
この連中とは絶対に分かり合えないと。
「メリー……銅貨がそろそろ……」
栗狐も武器とする銅貨が切れてきたようです。
短期決戦と行きたかったところですが、どうしましょう。
案外向こうもしぶといようです。
「栗狐…後銅貨は何枚ですか?」
「……三枚」
もう少し早く言うべきではないでしょうか。
いや、この際それでも構いません。
「…………、出来ますか?」
「……多分、出来ると思う」
「分かりました。頼みますよ」
作戦を報告し、連中の誘導に向かいます。
- #45 ( No.67 )
- 日時: 2012/10/22 21:15
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
銅貨は三枚、それら全ての改竄が成功すること。
そしてそれが巻き起こす「風」が予定通りの効果を発動すること。
この二つが成立しないと、寧ろ勝てない。
まず初めに、連中を一点に集めることからです。
「はっはぁ! どこへ行く!?」
吼えながら追いかけてくる偉丈夫。
彼は単純なようです。
「貴様、逃げるのか!?」
小柄な男も追いかけてくる。
仕返しに執着しすぎて辺りが見えなくなっているようです。
「逃げるも一興……追うもまた一興……!」
こいつは黙ってて欲しい。
一々コメントに困ります。
まぁ、別に構いません。
作戦通り、連中が一箇所に集まった。
しかし、ここからです。
「栗狐!」
「っ……!」
合図を送り、『豊穣人』を上空へと放り投げる。
意外な行動に連中はその短刀に目を向ける。
そこに撃ち込まれる栗狐の銅貨。
風を纏う弾丸が、細身の男を撃ち抜きました。
まず、一人。
二撃目、三撃目は一撃目の風に乗せて。
何度も見た攻撃なら簡単には喰らってはくれないでしょう。
ならばこれまでとは違う使い方。
あの風自体には攻撃力などないと思い込んでいるでしょう。
だから、風に銅貨爆弾を仕込んでいる。
二つの爆発。
小柄な男と、偉丈夫が爆発に飲まれ、消える。
最後に私が上空まで飛躍。
投げていた『豊穣人』を掴み、長身の男に斬り掛かります。
「……ふっ」
しかし斬撃は、男には届きませんでした。
「っ…」
いや、しかし、何故。
手がこれ以上進まない。
何かにがっしりと掴まれているように、動かない。
「全く、小細工を……」
「なっ!?」
それは、撃ち抜き、倒したはずの細身の男の声でした。
周囲を見ても、それらしき人影すら見つかりません。
栗狐も何者かに拘束されているようで、必死に何かから抜け出そうとしています。
「総ては闇——幻——泡沫の夢——」
天の男——立道と言いましたか、が良く分からない言葉を並べ立てています。
闇、幻、夢。
——、
現実じゃ、ない!?
今見えている世界は、現実ではない。
試しに足元にあった小石を蹴ってみると、途中まで普通に転がり、しかし突然に弾かれるように止まりました。
スクウェア、四方、壁。
…部屋。
あのスクウェアのレジェンズの真の力。
都市伝説の通り。
暗闇の中で、正体の分からない何者かによって繰り広げられる異質。
彼らの能力もそれに関連するもの。
即ち、相手の視界を潰した上での奇襲。
栗狐の爆弾も、決まってなどいない。
全て幻だった、と…
私達は連中によって作られた部屋で踊っていたに過ぎない。
……優輝さんは。
優輝さんは連中と戦っていたわけではない。
もしかすると、この幻術の範囲に入っていないかも。
——助けてくれる。
きっと、助けてくれる。
今の私には、信じることしか出来ません。
優輝さんがこの状況を打開してくれる事を——
- #46 ( No.68 )
- 日時: 2012/10/27 21:24
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
〜〜〜〜〜〜
「あいつら……一体何を……」
さっきからメリーと栗狐は一定の範囲を走りつつ、何も無いところに攻撃をしているだけ。
四隅舞踏の四人はそれを傍観していた。
『恐らく幻術の類だろう。数で勝つだけの連中かと思っていたが、存外細かい事が出来るようだな』
幻術…?
要するに、幻覚を見せられている?
「っ、メリーたちが危ない! 助けないと!」
そう言っている間にも、四人が二人を拘束した。
やばい、このままでは……!
『……忘れるな、少年。心を落ち着けよ。それが勝利を招く』
「…!」
『行け。主が良かれと思う行動を取るが良い』
言い終わる前に、俺は駆け出していた。
いつもとは比べ物にならない、異質たる速度。
一瞬で二人を拘束する四隅舞踏達の傍まで走り寄っていた。
『距離を狭めよ!』
「応!」
一歩ずつ、地面に足を強く打ち付けつつ、一人目、先程戦った救道に隣接する。
神槍が補助してくれているとは言え、ほとんど聞いたことと、映画などの見よう見まねにすぎない。
しかし、やるしかない。
「——な」
「覇!」
足を強く打ちつけ、勢いのまま拳を顎に打ち込む。
震脚。
中国武術の基本的な動作。
強い足の打ちつけによる素早い重心移動。
それにより瞬間的に最大の威力の一撃を放つことが出来る。
再び頭と身体が離れ、四隅舞踏の一柱、救道は倒れ、霧散していった。
「救道!?」
「人間、貴様っ!」
拘束を解き、此方に走ってくる小柄な少年、虎道に向かい、一歩、強く踏み込む。
その一歩で虎道の懐まで寄り、
「っ」
肘で胸を打つ。
その一撃で虎道は吹き飛び、後ろの木に激突し、爆ぜる。
次の標的は寸胴の男、線道。
「っ、舐めるな人間!!」
襲ってくる拳を受け止め、掌を胸に当てる。
「がっ!」
そして踏み込み、一撃。
更に一歩、一撃。
そして最後に、顎に一撃。
「……!」
霧散しながら消えていく線道を、反撃の為に拘束を解いた点道に飛ばす。
牽制の為だったが、その巨躯は点道に当たる前に真っ二つに分かれた。
そのまま消えていく線道の奥、長い刀を持った点道が居た。
「ったく、どいつもこいつも……役立たずすぎて敵わん…」
いつの間にか天に居た立道の首を掴み、禍々しい気を放っている。
開放されたメリーと栗狐が走り寄ってくる。
「優輝さん!」
「二人とも、大丈夫か?」
「……問題ない」
二人とも無事なようだ。
まずその事に安堵する。
しかし、状況はより厄介になっていた。
黒く染まり、少しずつ点道と同化していく立道によりそれを確信できた。
「我は立道——。四隅舞踏の祖——」
最後まで意味深な言葉を呟きつつ、立道は完全に消え去った。
「あれは……」
「最終手段、でしょう。恐らく連中の力の大元は今飲まれた男。だから戦うためにそれを飲んだ、と」
「そうだ。もう頼れるのは我のみ……もう蘇らせる必要も無ければ、戦闘力の無い立道のお守りをする必要も無い」
「……」
身体の奥底が沸々と煮え滾るのが分かる。
何というか、うん、そうだ。
「どうしようもねぇクソ野郎が……」
何か久しぶりだ、この感覚。
「ゆ、優輝さん……?」
「……?」
メリーと栗狐が心配しているようだが、今はどうでもいい。
四人一組、否、五人一組の「仲間」。
それが助け合わないという事実が、俺のスイッチを入れた。
駆け出そうとするが、身体が動かない。
「っ、あれ…?」
『落ち着け、少年。怒りを外面に出してはいかん。静かに燃やせ』
神槍の声が掛かり、落ち着きを取り戻す。
「……」
そうだ、忘れてた。
心を落ち着けろ。
一回深呼吸をし、構える。
「さて、後は貴様らと九道を始末して終わりだ」
俺達だけじゃなく、九道さんまで…
絶対に負けられない。
しかし…
「メリー、栗狐。手出しはしないでくれ」
「え、優輝さん……?」
「……」
それだけ言って、点道に向かい歩く。
「いい度胸だ。身の程を存分に知って死ね」
同じく歩み寄ってくる点道。
一対一だ。
「死ぬのはお前だ、点道。仲間を捨てる悪魔め」
「はっ、九道の考えだ。仲間は裏切るものだろう?」
一歩一歩、近づいていく。
「違う。本当は九道さんも知っている筈だ」
「どうでも良いさ。今から死ぬ人間のことなどね」
距離が狭まっていく。
「させるか。絶対に勝ってみせる!」
「やってみるがいいさ。存分に愉しませろ」
その言葉が、決戦の合図となった。
- #47 ( No.69 )
- 日時: 2012/12/20 20:37
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
刀と素手では当然刀に利がある。
此方が攻撃を当てるために刀のリーチ内に入らなければならない。
点道の刀の冴えはかなりのものだ。
刀を防ぐ術を持っていない以上、一撃も喰らわずに懐に攻め寄り、攻撃を当てることが必須となってくる。
正直、無理に等しい。
隙が一切無いと言っても良い斬撃を避ける事が精一杯だった。
「さっきの威勢はどうした?」
挑発的に言ってくるのは此方の隙を作るためだろう。
冷静さを欠かずに状況打破する方法を考える。
メリーたちの力を借りる、論外だ。
ああ言ってしまった以上格好が付かないとかそういう理由ではない。
どうしてもこいつは俺が倒したいという俺自身の意地だ。
とはいえ、このままでは埒が開かない。
時間が経てば経つほど不利になるのは明確だ。
「……ん?」
足に何かが触れる。
黒い金属塊。
昨日九道さんから受け取った銃だ。
おかしい、昨日鞄に仕舞い込んでそれきり出していない筈だが…
いや、今はそんな事どうでも良い。
この状況を打破できる手段が見つかった。
横薙ぎに振られる刀を頭を下げて避け、そのまま銃を取るため飛ぶ。
「っ!」
意外な行動を取った俺に対処が遅れ、隙が生まれた。
銃を手に取り、点道に向ける。
間に合う。
引き金を引——
タンッ
銃声が鳴り響く。
手に持っていたはずの銃が砕け、役目を果たさなくなる。
左手を襲う痺れが一瞬、思考を掻き消す。
『少年!』
身体が動き、点道との距離をとる。
どうやら神槍が動かしてくれたようだ。
左手を押さえつつ、「それ」が飛んできた方向を見る。
とはいっても、この状況で俺に向けて銃を撃ってくる存在など一人しか考えられない。
「……九道さん…!」
壁に凭れかかった九道さんが此方に銃を向けていた。
「分かった……」
俺も、メリーも、栗狐も、点道も。
手を出すとは思っていなかった彼女の行動に目を釘付けになっていた。
「暗示なんかじゃない。私が彼らとずっと居たのは、私自身の意思」
事実を聞かされて、気付いた自分自身の意思。
「彼らとずっと戦い続けるのが私の意志。ならやはり貴方たちを殺すのが今の私がするべき事」
それが、九道さんの答え。
「——」
点道は困惑することもない。
ゆっくりと九道さんに近づいていく。
今の彼ならば、あのまま九道さんを殺すという事も十分に考えられた。
考えられた、のだが。
「答えは、得たか」
「えぇ、「あの時」の問いはこういう意味だったのね」
その会話の意図は、俺達には分からない。
ただ、一つ、
「戦うわよ、四隅舞踏。もう一度、盛大な舞踏会を」
「御衣、「我々」は九道の意のままに」
点道と分かれ、天に再び浮遊する立道。
そして再び四人となる四隅舞踏。
戦うという意思を持つ九道さん。
それらを見て、俺は状況がさらに悪くなったことを悟った。
- #48 ( No.70 )
- 日時: 2012/12/20 20:37
- 名前: 星の欠片 ◆ysaxahauRk (ID: t7vTPcg3)
「さすがにこの状況はまずいですね……、助太刀します」
メリーと栗狐が走ってきた。
もう意思がどうとか言っている場合ではない。
一人で勝てるものではない。
そういえば、栗狐はそろそろ銅貨が少ないのではないか。
「栗狐、これを」
ポケットから何枚か銅貨を取り出し、栗狐に渡す。
「……ありがとう」
銅貨を構え、臨戦態勢をとる。
さて、五対四。
いや、神槍は俺に憑依しているから五対三だと言っても良い。
この狭い場所では数で劣る此方が圧倒的に不利だ。
さらにあの四人はいくら倒しても立道をどうにかしない限り幾らでも蘇るだろう。
やるだけやってみるか、と簡単に言う訳にも行かない。
「優輝さん、私に考えがあります。少し、私から離れてください」
唐突にメリーが言う。
「考えって?」
あくまでも九道さん達には聞こえない程度の声で聞く。
「とりあえずこの状況くらいは打開できます。しかし優輝さんの安全は保障できません」
「メリー、まさか……」
栗狐はメリーが何をしようとしているかが分かっているらしい。
「えぇ、使います」
何を、と問うている時間は無いようだ。
メリーが前に出る。
「メリー……?」
「優輝さん、下がって……」
そう言われ、俺はただ従うしかない。
メリーが何をするか分からないが、今から始まる「何か」は状況を打開出来るらしい。
ただ一人で敵に近づいていくメリーを見ていることしかできない。
心苦しい。
「一人で挑むか、愚かな……」
またも挑発的な口調で言う点道をメリーは大して気にもしない。
俺達との距離より、敵達との距離の方が近くなった頃、メリーは止まる。
「一人で来るなら先に消してあげるわ。包囲」
九道さんの指示で四人がメリーを囲む。
「展開」
四人を柱とする小さな部屋。
今、現在進行形で見えない壁が展開されているだろう。
しかしそれすらも気にしないようにメリーは沈黙していた。
やがて部屋が完成したのか、四人は再び九道さんの元に立つ。
檻に囚われているも同然。
しかしその考えは、次の一瞬で消え去る事になった。
メリーがどこからとも無く取り出したのは一本の傘。
それを開くと、更なる異質は起きた。
いや、それは果たして起きたのか。
終わった、という方が正しいのかもしれない。
「……な…」
九道さんが驚愕に目を見開く。
開いた傘に呼応するように、メリーを囲んでいたはずの部屋が音を立てて砕け散ったからだ。
砕けた破片はまるで雨粒のように丸くなり、傘に付着していく。
ここまでは、脱出。
次は、反撃。
ステップを踏みながらくるくると傘を回すその姿は、見ているだけならば雨の下ではしゃいでいるだけに見える。
その動きに違わず雨粒は傘を離れ、空を舞う。
戦いの最中を思わせないその動きの真意を探っていた九道さんと四隅舞踏は、一瞬の判断が遅れた。
メリーを囲っていた部屋は、鏡のように反転した。
即ち、逆に発動者を囲む部屋として。
「これは……!」
点道が刀を振り、壁を斬る。
九道さんが銃で壁を撃つ。
線道が、虎道が、救道が。
脱出を試みるも、その部屋の主導権は既に彼らのものでは無かった。
部屋の範囲から逃れた立道自体に攻撃する術はなく、ただ何も出来ずに無表情で浮遊を続けるだけだ。
自分にとっての悪しき力を祓い、自身の力として鏡のように転写する。
「あれがメリーの武器の一つ、『宝傘』……」
栗狐が説明してくれる。
敵の能力をそのまま奪うという点からして、相応の代償はあるだろうが。
あまりにも強力と言える武器だった。
しかし、これがメリーの言う打開策の本質ではないという事実が、次の瞬間証明された。
『宝傘』の使用が、彼らを部屋に閉じ込める、時間稼ぎにしか過ぎなかったと。
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