複雑・ファジー小説
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- ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1
- 日時: 2013/05/23 22:08
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
明るくて陽気なミルクレープと、その師匠ノエル。
そして少し馬鹿なプレッツェル君や、シスコンのシフォンさん、マフィンちゃん、不運なことにもマフィンちゃんに恋しちゃったマカロンさん。
そしてある呪いから生まれた過去から今につながる魔法使いの壮大な物語が今ここに!
おとぎ話が現実に?七人の人形遣い。消えた七人目はどこへ?
そして人形遣いが言う『ソール』とは何者か?
戦いへ踏み出す一歩を。
ギャグもあるよ☆
第一魔法 1−11まで
第二魔法 12—23
第三魔法 24−36
第四魔法 37−48
第五魔法 49−50
私は一体誰なのか、
この世界が消されようとしているのなら、私は守るよ。だって皆が大好きだから!!
原作。どるさん。キャラクターデザイン(名前や性格など設定もろもろ)←神。
書く人、だらだら長くてごめんね(泣) 緑ノ 柊
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.33 )
- 日時: 2013/05/07 21:48
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
昔、そうあの日。王子様は、少しすりむいてしまっただけだというのに、大げさに頭に巻いていたバンダナをぐるぐる巻いて。
「これでよしっ!」
満足げに頷いた。
わたしは少し疑いの念を瞳に込めて。
「本当にこれでいいのかな……?」
あの人は少し唸ってから、また大きく頷いて。
「大丈夫だって!絶対!多分!」
どうやらあの人は頭を使うのが苦手らしかった。
それでも自信ありげにどうどうとそう言ってしまうのが、呆れるような、頼もしいような。
「……なんて」
でもあの人も自分の頭の悪さを良く思ってはいなかった。
「駄目だよな。こんな根拠もないこと言っちゃあ。女の子一人救えねぇよな。こんなんじゃ」
あの人はとても辛そうに、悔しそうに手に力を込めた。
微かに肩が震えている。
急に彼が可愛そうに見えてきて、私はぐるぐるに巻かれたバンダナを指差して。
「私は助けてもらったよ!貴方に!」
彼は驚いて様に目をパチクリとさせた後、笑ってくれたが。どうやらわたしの言葉を本気で受け止めてはくれなかったらしい。
それが少し悲しかった。
しばらくの沈黙。
わたし達の間に乾いた風がカラカラと廻った。
「……オレさ」
沈黙を破ったのは彼のほうだった。
「将来兵士になりたいんだ」
「……兵士?」
「うん」
彼は懐かしむように、目を細めて語り出す。
「昔さ、オレを助けてくれた人がいたんだ。その人と出会ったのはオレがまだ小さい時、たまたま出かけた町で、小さな女の子を苛めているやつに出会ってオレはただ許せないっていう気持ちだけで奴らに向かって行って……」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.34 )
- 日時: 2013/05/07 21:49
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
「おい、お前何してんだよ!」
そいつはまだ小さくてか弱い女の子の胸倉を掴んでいた手を乱暴に離して、ひどくゆっくりとこちらを振り返った。
まず始めに眼に入ったのは、彼の眉らへんにある大きな傷跡。
それだけでもまだ小さかったオレの心を震えあがらせた。
そして一目見ただけで今まででも随分と暴れてきたと分かる、その厳つい顔。
「……何だよ」
おまけにハスキーで低い声。
その三点セット。
オレの瞳にはそいつがもはや悪魔に見えていた。
「……あ」
しかし引くにも引けず、勇気を奮い立たせると。
「止めろよ」
オレは震える声を悟られないように、喉に力を込めてそう言った。
相手はそんなオレに気が付き、鼻で笑ってずいと顔を近づけてきた。
「なんだよぉ。小便ガキ。てめぇはすっこんでろ!」
顔面に唾をかけられ、不満そうに眉を顰めると、なんて事だ、相手の機嫌を損ねてしまったようで。
「んだよぉてめぇその面はよぉ」
……しまった。
相手は今度、オレの胸倉を掴んで、鼻先が触れる程に顔を近づいてきた。
背筋にぞっと寒気が走る。
駄目だ、コイツは駄目だ。話なんか聞いちゃいない。これは……やられる。
びゅっと風を切る音がして、上を見上げると、大きな手がオレに襲いかかろうとしていた。
あ……。
オレは殴られる事を覚悟して目をつぶった。
しかし次に聞こえてきたのは。
「いっでぇ!?」
あいつの低くてハスキーな声。そして。
「こんな小さい子に手を上げるなんて感心しないですね」
聞いたこともない男の人の声だった。
一体何が……?
オレは好奇心には勝てず、恐る恐ると瞳を開けた。
……そこに信じられないような光景が待っていたとも知れずに。
「離せよっ!てめぇ!」
え……誰?
さっきまで威張り散らしていた年上の少年が、その人と一緒に居ると、途端に幼児に見えてきた。
そこに居たのは
「すみません。それは出来ないんですよね」
男は朗らかに微笑んではいるが、少年の手首を握りしめる力が、徐々に強まっていった。
それでもまだ、勇敢にというか愚かにというか、はむかう態度をとっていた少年に、オレは内心ほとほと呆れていた。
こんな状況に陥ってもまだ反抗する気になるとは。
まあ死に際に陥っても確実に生き残れるタイプではあるだろうけど。
それにこの人の服装……ワインレッドの……なんだろう、複雑な洋服?
あ!思い出したぞ、この服装!この人は—兵士さんだ。
「離せよぉ!」
それでもまだ抵抗するかよ。
「まぁまぁ、落ち着いて。ね?」
……でもなんだろう。この人、軍人さんなのに……全然、怖くない。
軍人の男は、へらへらとした笑顔を顔に張り付けたまま、もの凄い力で少年をオレから引き離らかせていく。
「イッテ!イッテテテテッテ!痛い痛い痛い!」
少年が金切り声を上げてもお構いなしに、「ごめんね〜」とへらへらしている。
……何だこの人?
オレは思わず眉根を寄せてじっとその人を見つめていると、ふいに目が合って。
「大丈夫ですか?」
今までで一番爽やかな笑顔を見せられた。
多分これ漫画的表現だったら、歯光ってるよ。きっと。
「え……はい」
オレは動揺して、取りあえず頷く事しか出来なかった。
男は被害者の無事を確認すると、満足げに指を立て。少年の手首をやっと離した。
その時少年の手首に、少し赤い跡が残っている事に気が付いて、ぞっとした。
この人、どんだけ馬鹿力……!?
そう思っていると、男の人が近づいて来て、オレと目線が合うように、しゃがんだ。
「怪我はありませんか?」
改めて至近距離で見たその顔は、思ったより勇ましくて優しそうで……。
今までいっぱい、いろんなことで苦労してきたんだろうな。
何故かその時オレは、そんな事をぼんやりと考えていた。
「君?」
ハッと我に返ると、軍人さんが心配そうにオレの顔を覗きこんでいるところで。
「だっ、大丈夫!」
慌ててそう答えると、本当にほっとしたように、大きなため息をして。
「良かったぁ〜」
そして近くで呆然としていた少女に、目を止めると、彼女にも近づいていき。
「大丈夫?」
その一言一言に、彼が本気でオレ等を心配してくれている気持ちが込められていて……。
この人は良い人だ。絶対に。
……でも、いつもへらへらしているところとか。
「うん!大丈夫。お兄ちゃんのお陰で助かったよ!ありがとう」
「えへへ〜、なんかそんなこと言われたらちょっと照れる……」
あれだけで、デレデレしちゃう所とか、ちょっとなぁ……カッコいいとは言えないかも。
なんて馬鹿なことを考えていられる幸せな瞬間も、長くは続かず。
恥をうけたと思ったあの、少年が、少しずつじりじりと背後から近づいて来ていることに、オレ達は誰も気がついてはいなかった。
「なにするんだよ!」
突如オレに大きな影が襲いかかって来て、驚いて後ろを振り向くと、アイツがどこからか持ってきた木の棒でオレを……殴ろうとしていた。
少年の背後にある太陽は相変わらず、眩しすぎるくらいに光っていて、目が眩んだ。
……しまっ!
これこそ不意打ち。こんなこと今誰一人とも予測していなかった。
だが—。
「ぎゃあ!」
悲鳴を上げたのは少年のほうだった。
「いい加減にして下さい。じゃないと……僕だってさすがにキレますよ?」
輝く銀色。
さっきとはまるで別人かのような、低い声。
軍人は剣をしまうと、真っ二つに割れてしまった木の棒を拾い上げ。
「……なんて、悪質な」
そう呟いた。
オレは後ろから見ていたから何が起きたのかは知らない。
でもその軍人さんが顔を上げるのとほぼ同時に、あの少年も顔を真っ青にして、一目散に逃げて行った。
しばらくオレは何も言えずに、ただ少年が走り去って行った方を見つめていた。
頭の中では、今何が起きたのかさえ理解できていない状態だった。
「……大丈夫?怪我はありませんか?」
振り向いたその人は、もう先程のような雰囲気はなく、腰が引けて立ち上がれないオレに手を差し出してくれた。
「えっ?あ……うん。ありがとう」
遠慮なくその手を握って、引き起こしてもらう。
そう、あの少年の手首に痣を作った手。あの一瞬で剣を抜いて、オレを助けてくれたあの手。
大きくて、女の人みたいに滑らかで、温かかった。
「良かった」
そう目の前で笑われたら、なんだか急にさっきの恐怖が襲いかかってきて、涙が出そうになった。
それでもオレは、泣くもんかと涙を一生懸命堪えていたら、頭に温かさを感じて。
見上げると、軍人さんが頭を撫でてくれているのが分かった。
その隣であの少女も、不安げにしている。
「怖かったのかい?」
「……うん」
その質問にオレは正直に答えた。
「だってさ、お兄ちゃんがいなかったらオレ……」
オレ……そうだ。オレ……どうなってた?
大事な事に気が付いて、オレは途端に恥ずかしさと悔しさで胸が一杯になった。
耳まで真っ赤にして、しゃくりあげながらオレは叫ぶ。
「オレ……多分ボコボコにされてたし、女の子も助けられなかった!」
「……そうだね」
軍人は悲哀をこめた口調でそう言った。
それがさらにオレの傷ついた心を抉る。
「オレ……恥ずかしいっ!」
ホント、恥ずかしい。こんな声まで震えちゃって。
でも軍人さんはそんなオレに、こう言って励ましてくれた。
「でも君は、この女の子を助けようと思った。立派な事じゃないですか。僕は尊敬すると思いましたよ?」
「でっ、でも!結局オレは……」
軍人さんはその先の言葉を読み取って、苦笑を浮かべる。
「確かに結果は悲愴なものでしたけど。あんな奴らに君は立ち向かっていこうとしたんです。あんな奴らより、君の方がよっぽど、かっこいいですよ」
「かっこいい……?」
信じられないその言葉に、思わずオウム返しをしてしまうと。
「はい」
それはもう大きく頷かれた。
「でもっ、でもっ」
その先の言葉が見つからずとも、まだ反論したげなオレにその人は頭をポンポンと優しく撫でまわして。
「だったらそれは君に力が足りなかったんですよ。なら足りないのなら足せばいい」
「足す……?」
「はい。つまり、君が強くなれば良いんです」
……オレが強くなれば。
「うん!そうだね!じゃあオレ絶対に強くなる!」
もう涙も退いた。
そうだオレが強くなればいい。誰かを守れるくらいに強く。……なんだ、簡単じゃないか。
軍人は優しく微笑みかけたが、次の言葉にはあっと驚いた表情になった。
「それで貴方みたいな軍人になって。次はオレが貴方を守る!」
「……あ」
軍人さんはあっけにとられ、口をだらしなくポカーンと開けていたが。
オレの自信ありげな態度に何かを感じたらしく。
「では、待っていますね」
と言って微笑んだ。
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.35 )
- 日時: 2013/05/07 21:49
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
「そして、優しくオレを抱きしめて、最後にこう言ったんだ。誰彼かまわずに、困っている人がいたら助けてあげる。優しくて頼れるそんな強い大人になりなさいってね」
彼から話しを聞き終わったわたしは、一番初めに感嘆のため息を漏らした。
「……すごいね。その人」
彼は嬉しそうに瞳を輝かせ。
「だろっ?だろっ?」
わたしに同意を求めた。
「うん。本当にすごいと思うよ」
私が微笑むと、彼も少し自慢げに鼻の下を人差し指で擦りながら「へへっ」と笑った。
しかしその笑顔はすぐに消え変わりに、深刻そうな表情が浮かび上がる。
「でもさー、やっぱり駄目だよなー」
悔しそうに頭をぼりぼりと掻いた。
「何で?」
多分相手の心の中では私は、彼の弱点を見越して夢の事を笑っていると勘違いされているので、彼は不機嫌に唇を尖らせて、渋々といった感じで話してくれた。
「だって……オレ頭悪いから」
「何で?頭悪くたって軍人にはなれるでしょう?」
当然の事を言ったつもりだったが、彼には「はぁ?」と呆れられてしまった。
あれ……違った?
「筆記試験があるんだよ」
「……あぁ」
ようやく意味が分かった。
それで軍人にはなれないかもしれないって思っているのね。確かに軍人となれば本番で作戦とか考えなくちゃいけないし、ただえさへ、魔物(モンスター)が多いこのご時世。魔物のタイプとかそういうのも覚えなくちゃ出し。記憶力も軍人には必須よね。
ん……魔物?
「ねぇ、この気持ち悪いの。どうして急に私を襲ってきたのか分かる?」
そう、私は魔物ならまだしも、普段はおとなしい犬が襲いかかってはこないのではと考えたのだ。
しかし、少年は不思議そうに首をかしげるだけだった。
しかもこんな不可思議な事まで言いだしたのだ。
「犬ってどこ?」
「……え?」
私の脳裏である疑惑が過る。
この人、本当に馬鹿なの?もしかして散歩歩いたら忘れちゃうとり頭とか!?
私はなんだか可愛そうになって来て深いため息を吐き、頭を振る。
「もういいです……ごめんなさい」
だが少年は私の言葉なんかまったく聞いておらず、勝手に話しを進めてしまう。
「あぁ、犬ってこの魔物の事?」
そして地面に伸びている、さっき襲いかかろうとしてきた犬の首根っこを掴む。
「え……?」
私の頭の中は一気に真っ白になっていき、もはやもう全然理解出来ない……。
「犬じゃなかったの?」
少年は「気付いてなかったの?」と目を大きく見開き、くたばっているそれをじっと見つめると、何かを思いついた時の少年らしい、どこか怪しい顔でわたしを手招いた。
何かたくらんでいるなと直感したが、やれやれ仕方ないと、少年に近づく。
「絶対に危険だから触らないでね」
何が危険なのか、じゃあどうして私を招いたとかそうゆう事はもう、あえて聞かない事にしておいて。
私は「分かった」と短く返答した。
少年はもう息はないそれの口を大きく無理やりに開けて。
「ココを見て」
それだけでもそうとう気分が悪くなったが、指差された場所を見て、私は短く悲鳴を上げた。
なんと「それ」の以上に長い犬歯からどくどくと絶え間なくどろりとした紫色の液体が流れ出していたのだ。
しかし「何これ!?」と少年に問いたださなくても、私にはその液体の正体がなんとなく理解できた。
「毒だよ」
……やっぱり。
でもこんな長い犬歯に、毒持ちの魔物に襲われていたと知った今、自分の置かれていた状況下が恐ろしくてしょうがない。
まだ普通の犬なら噛みつかれても、助かる方法はあるが。こんな化け物に噛まれたとなれば即死するじゃないの。
彼の話しによると、これも下級の魔物らしい。特徴は耳元にある小さな角と、以上に長い犬歯と爪。外見は犬とそっくりだが、なるほど、そうゆう目線で見ると確かに犬とはまた違う生き物だ。
「いや……でもおかしいな」
「何が?」
「普通ならこんな下級魔物。こんな場所には現れない筈なのに……」
少年はしばらく考えているようだった。顎に手を当ててしばらく唸っていたが、突然。
「あーもうっ!わっかんねぇ!」
と叫び出したので。なるほど頭が弱いのは嘘ではないらしい。
「……頭使うのは苦手ってていうかもう……終わってる?」
「煩いな……」
少年はほっておけと手をひらひらとさせたが、私はその態度が可笑しくってくすりと笑い。
「じゃあわたしが貴方の部下になってあげましょうか?」
わざと上から目線で言ってやった。
しかし少年はそんな私の考えを完全に無視し、「部下になる」という部分だけで興奮しているようだった。
「本当!?」
そんな目をらんらんと輝かせて。……この人、面白い。
「いいよ。わたし頭は良いから」
「うっ……そうかよ!」
どうやらいた痛いところを突いたようで、最後はぶっきらぼうにそう言い。そっぽを向かれた。
まぁ、そうなる事は分かってたけど。
わたしはずっとクスクスと笑っていたが、急に彼の方も何かを思いついたのか、急に勝ち誇った偉そうな態度をして。
「じゃあオレの下の副幹部にでもしてあげるよ」
にやりと白い歯を見せた。
わたしはよく軍事関係にはあまり詳しくなかったので、この人に付いて行けるのならどんな立場でも良かったのだが。
「じゃあ約束ね」
「あぁ」
「必ずまたいつか会おう」
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.36 )
- 日時: 2013/05/07 21:50
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
*
これがわたしが彼を探す理由。
そして今ここにいる理由。
それはどれも彼と繋がっている。
私という存在は、どこか必ずどこかの根っこで彼と繋がっている。
いわば彼は私の恩人。
彼がいなければ今この世界にも存在していなかった。
ガラスに映る自分を見て、随分と時が経ってしまった事を改めて感じた。
ほら私だってもう、こんなに外見が変わってしまった。彼はわたしのことを分かるだろうか?
自然と大きなため息が出た。
その時、丁度扉らをノックする音が。
まだ部屋着だが、こんな時間に尋ねてくるのはずいぶんと限られているので、多分あの人だろうと予測して。
「入ってもいいですよ」
キィと扉が開いて、顔を出したのはやはり思っていた通りのあの顔だった。
「おはようございます。サフランさん。こんな朝早くにどうしたんですか?」
「実は……」
振り返りサフランさんと向き合って分かった事だが。
心なしかサフランさん、顔色が悪いような……?
この電気もついていない部屋のせいなのか……それとも。
サフランさんは言いにくそうに視線をしばらく泳がせた後、決意を決めたかのように、静かに息を吸い。
「シャルロット。貴方にとってはとても辛い話かもしれないんだけど……実は今日ね」
「え……?」
その真実は私の夢をあっけなく粉々に砕き散らせ、失望させる、憂いなる出来事だった。
……そんなことありえない。と強く信じたかった。
ありえない。必ず会いに来てくれると信じていた。
……そんな。もう叶わないというの?
ねぇ、そんな顔しないで、「嘘だよ」って笑ってくださいよ。サフランさん……。
冗談でしょう?
- Re: ギルドカフェ 〜Dolce Del Canard〜 1 ( No.37 )
- 日時: 2013/05/23 17:44
- 名前: どる&柊 (ID: UgGJOVu5)
第四魔法 (-.-) 嫉妬 嫉妬 嫉妬……失望
「残念だけど今日貴方が憧れていた彼。辞めてしまったのよ」
「嘘だっ!」
声の限りのわたしは叫ぶ。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
思いっきり息を吸うと、まだ起きたばかりの喉で叫んだためか喉がかなり痛んでいる事が分かった。
それでも今は早朝とかそういう事を考えている場合じゃない。
「信じられません!」
とにかく緊急事態だ。
わたしは絶対に信じない。辞めた……あの人が辞めた?そんな訳ないずっと憧れた職業に就けたのよ?やっと会えると思ったのに。どうして?どうして—?
じんわりと目頭が熱くなっていく。
「証拠でもあるんですか?」
自分でも言っていて何を言っているんだと思う。
証拠?それはあるだろう。きっと本人が告げに来たんだ。「辞めます」と言ったんだ。その口で。
ただわたしだけが間違っている。
真実を認めたくないから、否定しているだけ。
……哀れね。わたし。
「嘘ですよね?冗談ですよね?」
違う。本当は分かってる。あの人もそうとうな覚悟を持って辞めたんだ。
冗談なんかじゃない。本気だ。
分かってる。そんな事痛いほど分かってる。
それでも否定の言葉はわたしの口からぼろぼろと零れ出して。
止めたいのに止まらなくて。
「嘘ですよね……?」
頬に自然と涙が零れていく。ボロボロと零れていく。
「シャルロット……」
止めてください。サフランさん。今はその哀れみ視線は、本当辛い。
今日は大雨が降っていればよかったのに。
もし雨が降っていたら、今すぐにでも外に出て大声で泣けたというのに。
きっとその雨がわたしの涙を隠してくれる。その雨音がわたしの嗚咽を掻き消してくれたのに。
残念ながら外は晴天。太陽がまぶしく輝いていた。目が眩むほど。
あぁ……散々だな。今日はもう本当。
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